紅魔館で夕食を摂った、というところまで話しただろうか。あたし達はその後、魔理沙に誘われ、霧雨邸で一泊することになっていた。
嬉しいことにあたしとばけちゃんにベッドを譲ってくれた。その時は暗くて見えなかったが、魔理沙はソファなどで寝たのだろうか。悪いことをした。
「ふぁあ。ばけちゃん、起きなよ」
そろそろ起きるか、とのっそりあたしはベッドから身を起こす。そして隣で寝ているばけちゃんに声をかけた。
あたしの腹時計では9時をまわっている。
「んん...あと53分...」
「駄目だよばけちゃん。起きて」
53分て。微妙だし長過ぎだろう。
やっとのことで起こしたばけちゃんは、まだ寝ぼけているらしく、こんなことを言う。
「あれ、ベッド?ここ、鏡源郷?」
「ちがうよ。魔理沙の家だよ」
「ああ、そっか。魔理沙の家ってこんなに散らかってるんだね」
散らかっている?何を寝ぼけたことを...ワオ。
部屋を観察すると、床には足の踏み場が無く、ところどころガラクタで出来た丘が盛り上がっており、近くの実験道具が置いてある場所の天井には焦げ跡がついていた。
「ウワオ」
「やばいね」
「うん」
「あ、お前らやっと起きたか。私はもう朝食食べたから早く食べろよ」
魔理沙が入室してきた。朝食を作ってくれたらしい。なんて有難いことだ、遠慮せず召し上がろう。
あたし達はリビングと思われる(というのも、散らかり過ぎて判別できなかった)部屋のテーブルには和食が。
魔理沙だったら洋食かも、と期待していたのは言うまでもないだろう。
まあ、とりあえず。
「いただきます」
「いただきますわ」
「おう、召し上がれ」
ふむ。ご飯の炊け具合も、煮物の具の大きさも、漬物の漬かり具合もどれも大変良い。と、次に味噌汁を口に運ぼうとした時であった。
「辛い!」
ばけちゃんが味噌汁を飲みながらそう言った。だが、あたしは味噌汁を飲むことをやめることは出来なかった。気付くのが遅すぎたのだ。
「辛っ!」
ばけちゃんに引き続き、あたしも被害を受けた。なんなんだこれは。魔理沙は腹を抱えて笑っている。
「魔理沙!?」
「ふ、ふふふ。いや、それな、味噌の濃度が20倍くらいで...はは、あははは」
「に、20倍!?」
どおりで、しょっぱくないわけだ。辛い、そして体に悪そうだ、とても。
「どうしてこんな...」
言いかけてやめた。理由は明白だ。
魔理沙の眼を見ればわかる。ただ、好奇心だったこと。彼女の眼は、子供の純粋さを帯び、明るくオレンジに輝いていた。
輝いているのは、笑いすぎて涙が出ている事もあるだろうが。
まあとにかく、今日は魔理沙にしてやられたのだ。それは潔く認めよう。
そして、いつか仕返しをしてやろう。
そんな感じで朝食を食べ終えたあたし達は、速やかに博麗神社へと帰った。今日も仕事があるからだ。
「霊夢、ただいまー」
「ただいま」
「......」
「......」
返事なし。寝ているのだろうか?とも考えたが裏から話し声が聞こえる。何だろうか。
神社の周りを半周して、声の元に行ってみた。
「ねぇ、霊夢。弾幕ごっこやりましょうよ」
「しつこいわね。今度幽々子とやるからそのためのお札を作るのに大変なのよ」
「いいじゃない。絶対、あなたでも避けられないような完璧な弾幕をやってみせるわよ」
「でも、逃げ道はあるんでしょ?」
「う、まあ、そうじゃないと弾幕ごっこにならないから。でも、初見だったら絶対無理よ。八雲の集大成を見せつけてやるわよ」
「お生憎様。また今度やりましょう」
「うう〜」
霊夢の話し相手で、駄々をこねている人は誰だろう。金髪で、どこか胡散臭そうな雰囲気を浮かべている―――
「あら、ばけとろく、帰ってきてたのね、おかえり」
ただいま、ただいまとあたし達が返事をする。
「おかえり? ああ、神社に居候しているっていうのは貴方達の事だったのね。
初対面だったかしら、八雲紫よ、よろしく」
手を出し、握手を求めてきた。当然、断るわけにもいかないので握り返す。
ここでふと気づいた。彼女は今、柔らかく微笑んでいるように見えるが、目が全く笑っていない。魔理沙のように無邪気の眼を輝かせるわけでもなく、その目は愚鈍に、重く暗く、
多分この目は、しばらく忘れられないだろう、と心のどこかで予感がした。
15日目、終了。
はい、やっとクライマックスのストーリーにのっかり始めました。一応旅の中でやらせたいことと、矛盾をつくらないためにやらなければいけないことが幾つかあるので収められるか不安です。
蟲と鳥と⑨と大妖精が鏡源郷のほうぼうでいたずらしてまわった、そんな感じの15日目でした。