昨日の魔理沙だけど、この前の味噌汁の恨みを晴らしたと思ったらどうでも良くなった。
「あだぁっ」
なんていう罰当たりな事を考えてたらこれだよ。つまずいて頭からすっ転んだよ。
「ろくちゃん?大丈夫!?」
仰向けにされ、ゆさゆさと揺らされる。ああ、ばけちゃん。最後に『へぁー』が見たかったよ....。
「ろくちゃん。ろくちゃん!」
泣かないで、そう言おうとしても口が動かない。思った通りに肺が空気を送ってくれない。ただただ、舌が空回るだけ。
「お願い...生きて....」
ああ、瞼の裏が、白いのか黒いのかもわからなくなってきた。もうそろそろ、お別れみたいだね。さようなら、ばけちゃ――
「ばけ、ご飯を早く運びなさい」
「あ、はい」
折角、面白いところだったのに。空気読めないなぁ、霊夢は。
「よくそんな茶番が出来るわね」
「いっつも演ってたからね」
「二人で?」
「二人で」
「.....呆れたわ」
そんなひどいかなぁ。
朝食を運び終えて、あたしは言う。
「ちょっと霊夢、額に擦り傷が出来たから消毒液とかとって」
「演技なんだから転ぶのくらい手加減しなさいよ」
「え?あれはガチ転びだよ?」
本当にバチが当たったのかと思った。
「.....呆れ果てたわ。ああ、救急道具だったわね。えーと」
霊夢が、がさごそと箪笥を漁っている。
「あった、これよ。早く手当てしちゃってご飯を食べましょう」
「わかったわ」
えーと、包帯、はそこまで大怪我じゃないから駄目。あ、消毒液あった。うーん、絆創膏?まあ絆創膏でいいか。えーと絆創膏はどこだーっと...。
「あれ霊夢、絆創膏どこ?」
「え?入ってないの?.....ああ、この前魔理沙に全部掻っ攫われたのを忘れてたわ」
なんでも盗むなあ。時間を超えて報復してくるとは恐るべし。
「しょうがないわね。あんた達、永遠亭に行くわよ」
「えいえんてい?」
「そう、医者よ」
「そこまで大した怪我じゃ...」
「いいから行くわよ」
というわけで、強制連行された。
「ん、博麗の。どうしたんだ?」
「けが人よ」
「けが?どこか怪我してるようには見えんが...」
「おでこ」
「ああ、お大事に」
やけに鬱蒼とした竹林で、髪が真っ白な少女と出会った。名前を聞きそびれちゃったけど、まあいいか。
「急患?」
「ええ、こいつよ」
立派な和風屋敷、永遠亭を案内してくれたのはうさ耳のついた女の子、鈴仙・優曇華院・イナバさんだ。
「...そこまで急ぐ必要はあるの?」
「ただの怪我だと侮っていたら酷い目に合うわよ」
「ふふ、やけにこの子たちに親切なのね」
「合わせるわよ、とくにわたしが」
「さて、永琳先生の居場所だけど――」
何やら霊夢が照れ隠ししてたみたいだけど、あたしは知らない。知らないんだってば。
「うん、普通に擦り傷ね。簡単な治療道具は出しとくから、なにかあったときに使いなさい」
「わかりました」
おでこにガーゼというものを貼られて、あたしは永琳さんと向かい合って座っていた。
「最近、霊夢の様子がおかしいっていうか、可笑しいって言われてるのよ」
「?」
「ああ、悪い意味じゃなくてね、最近『優しくなった』ってね」
「前は優しくなかったんですか」
「それがそうでも無くて、ええと説明しづらいわね。
前は、誰にも辛く当たらず、少し優しいってだけだったの。今は、あとすこし優しくなったっていうかね。いい言葉が思い浮かばないわ」
そんなものなんだろうか。どっちにしたって霊夢は霊夢だ。あたしが干渉できる域には居ない。
そんな感じで、少しの世間話で永琳さんの診療は終わった。
「ばけちゃん、大丈夫だった?」
「うん、すぐに治るって」
小説とかでこの台詞を言うと大概の場合は不治の病なんだけど、そうじゃなくてすぐ治る。
あたし達の会話を見ていた霊夢も、どこかほっとした様子だった。
17日目、終了。
ミスティアやリグルは、現在鏡源郷に居るので登場はありません。
いたずら軍団が八岐大蛇に無理矢理酒を飲まされ、目を回させられた、そんな感じの17日目でした。