冒険者に憧れる少年の夢   作:ユースティティア

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お久し振りです。お待たせしました。番外編更新します。


決戦準備

【ヘルメス・ファミリア】のホームは10年前の脱税発覚以来、少々その姿を変えた。具体的には縦長になった。主神のヘルメス自身、元々そこまで大きくする予定もなかったため、土地はあまり大きくなかったのだ。

 

「それがこんなになるとはな~」

 

 ホームの自室で主神(ヘルメス)は優雅にコーヒーを飲む。しかし扉の向こうからは団員達がバタバタと走る音が聞こえる。

 

 バンッ!

 

「失礼します、ヘルメス様この書類にサインをお願いします!!」

 

 ノックの無しにドアが開かれ、一人のエルフが入って来る。高潔なエルフにしては珍しく、実際普段の彼はどんなことがあっても部屋の主の許可を得ずに入室するようなことはないのだが、今の彼はそれを気にする余力すらなかった。

 

「はいはーい」

 

 事態を理解しているヘルメスは書類を受け取り、目を通す。普段ならいつもと様子が違う彼をからかったりするのだが、スルーされそうなのでやめた。というか彼の前に何人かやってみたが見事に無視された。

 

「はい」

「ありがとうございます!! 失礼します!!」

 

 サインをすると羊皮紙をひったくるようにして彼は出ていった。その様子に微笑を浮かべながらヘルメスは再びカップに口をつける。

 

(それにしても……)

 

 思考するのは先程の内容。人がギリギリ読めるか読めないかという程の乱雑な文字の羅列。これを書いた団員(こども)もかなり大変なのだろう、と思考の隅で考える。

 

(【ディアケヒント・ファミリア】の万能薬(エリクサー)1()0()0()本購入か……)

 

【ディアケヒント・ファミリア】の万能薬(エリクサー)は1本が50万ヴァリスする。それが100本だから総額5000万ヴァリス、第1級冒険者の武器、数本と同じくらいの金額だ。

 先程の書類だけではない。その前にも【ヘファイストス・ファミリア】への武器発注、各商隊への物資購入など、持ち込まれた羊皮紙にはどれも普段目にしないような数字が並んでいた。総額はヘルメスも数えていない。

 

 しかしこれを指示している団長(トキ)はこれでも足りない、というだろう。相手は伝説の怪物(モンスター)。どれだけ準備しても、足りない。

 

 これだけ準備して結局来なかった、ということはあり得ない。

 それはヘルメスの、いやオラリオにいる全ての神の勘が告げていた。新な伝説が生まれる、と。

 

 ------------------------

 

「ちょっと休憩~」

 

 ルルネがそういうと彼女に付いていた団員達が一斉に息を吐き座り込む。無理もないだろう。ずっとオラリオを駆け回ったていたのだ。ルルネよりもレベルが低い彼らにはきついだろう。

 その様子に彼女は苦笑する。

 

「いやーそれにしてもこうしてると10年前を思い出すな~」

 

 ポツリと呟くとそれに近くにいた猫人(キャットピープル)の少女が聞き返した。

 

「10年前って【ヘルメス・ファミリア】が大きくなったっていうあの事件のことですか?」

 

 その少女は4年前に入団したので当時のことは断片的な話しか知らなかった。

 

「うん、あの時はこれを毎日してたからなー」

「こ、これを毎日ですか!?」

「お蔭で『敏捷』のアビリティがすごく上がったね。ギルドの冒険者依頼状(クエスト)も総なめしたね」

「そ、総なめ……」

「今ファルガー達がやってるみたいにダンジョンでひたすら素材集めとかみんなでローテーションでやったよ。睡眠時間なんて三時間寝れればよかったかな」

「さっ……」

 

 ルルネの口から出る内容に少女は言葉を失う。二人の話を聞いていた周りの団員も口を開けたまま固まっていた。

 

「でも一番頑張ってたのはやっぱりトキだったよ」

 

 その言葉に少女は目を輝かせる。少女はトキに憧れ、【ヘルメス・ファミリア】に入団したのだった。一方口にしたルルネは少し寂しそうに笑った。

 

「1ヶ月、あの莫大な負債をトキは1ヶ月で全部返して逆に盛り返したんだ。ほとんど休むことなく、机にかじりついて、走り回って、武器を振って。」

 

 今もそれは変わらない。昨日目覚めたトキは既にホームの自室でペンを取り、団員に指示を出している。

 ルルネにとって、【ヘルメス・ファミリア】の古参メンバーにとってトキはそれまで弟のようなものだった。

 今でも思い出す。トキが来た当初のこと、珍しくヘルメスが団員を集めて主命を下した。

 

『この子を愛してあげて欲しい』

 

 詳しいことはわからない。だけどあの主神が珍しく真剣な目付きでの一言。全員黙って頷いた。

 本当に手がかかる子だった。常識というものを知らず、純粋とも違う影を操る少年。それが今では自分達の頭をやっている。

 

「さ、休憩終わり。行くよー」

「「「はい!!」」」

 

 だが彼女にとって、きっと他のメンバーにとってトキは大切な弟分だ。無茶をするというならとことん付き合ってやる、そう意気込んでルルネは団員を引き連れ走る。

 

 ------------------------

 

 日が落ち込んだオラリオの街でトキは一人とある建物の前に立っていた。【ヘスティア・ファミリア】ホーム『竈火(かまど)の館』。

 

 息を1つ吐き、その門をくぐる。アポなしで来てしまったが、見張りの団員に用件を伝えるとすぐに案内してくれた。

 リビングで少し待っていると【ヘスティア・ファミリア】の団長、ベル・クラネルが姿を現す。その隣にはリリルカ・アーデ、ヴェルフ・クロッゾ、主神ヘスティアもいた。

 

「やあ」

「よっ」

 

 軽い挨拶の後、さっそく本題に入った。

 

「これが今日1日で決まった『隻眼の竜』討伐の参加派閥と提供物資、その他もろもろの内容だ」

 

 トキが差し出した羊皮紙をベルは受け取り目を通す。横からヘスティアが内容を覗くとな、なんだこれっ!? と驚いていた。

 全て見終わったベルは羊皮紙をリリに渡す。それを見たリリはヘスティアと同じく驚愕した。

 

 書かれている参加派閥の中には【ヘルメス・ファミリア】を始め、【ロキ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】さらには【フレイヤ・ファミリア】の名前があった。提供物資の方も武器の種類からその数まで膨大な量だった。『ファミリア』の経理を担当しているリリが無意識に総額を計算しようとして意識的に止めるレベルで。

 

「足りないと思う」

「同感だ」

 

 しかしベルとトキはそれでも不十分だと告げる。戦った本人達だからこそこの結論が出た。

 

「出来る限り集めているが時間がない。何せ襲撃の1回目と2回目の間が4日しかない。同じペースでやられたら後2、3回でオラリオは終わりだ」

「だから次で決めるってことだね」

「ああ、だからお前にも参加して欲しい」

 

 これが1つ目。頭を下げるトキにベルは頷く。

 

「もちろん参加--」

「駄目だっ!!」

 

 しかしそれは主神ヘスティアによって遮られた。

 

「駄目だっ、ベル君は参加させない!!」

「か、神様っ」

「ベル君はまだ完全に治った訳じゃない。そんな怪物(モンスター)と戦える状態じゃないんだ!! こんなに強い子供達がいるんだ、ベル君がいなくたって……」

「駄目なんです、神様」

 

 憤るヘスティアを宥めたのは他でもないベルだった。

 

「あいつには、『隻眼の竜』にはそこに書いてある人達でも倒し切れません」

「第1級冒険者の『魔法』なんて比じゃないほどのブレス、第1級特殊武装(スペリオルズ)すら弾く鱗、かつての『黒いゴライアス』をも超える速度の再生能力。挙げていったらキリがありません」

 

 トキの言葉にベルを除く三人が絶句する。確認するようにベルの方を向くと静かに頷いた。

 

「でも僕なら、僕の『英雄願望(アルゴノゥト)』ならできるかもしれないんです」

 

 1回目の戦いの時、ベルは『英雄願望(アルゴノゥト)』を『隻眼の竜』に放っていた。チャージ時間は5分ほどだったが、それは確かに『黒竜』の鱗を貫いていた。

 

「正直なことを言いましょう。そこに書いてあるものは全て時間稼ぎと万が一の保険です。本命はベルの最大チャージ時間、30分で『黒竜』を倒します」

 

 ベルの現在のレベルは6。かつて推定Lv.5のゴライアスをLv.2のチャージ時間3分で打ち破っている。これが現在『隻眼の竜』を倒しうる唯一の策であった。

 

「……保険っていうのはどういうことだ?」

「『黒竜』を倒しきれなかった時にトドメを差すって意味だよ」

 

 ヴェルフの疑問に淡々とトキは答えた。

 

「随分と杜撰(ずさん)な作戦ですね」

「自覚はあるよ」

 

 この作戦はベルの攻撃が回避される、ということを考慮していない。というのも失敗すれば2発目は恐らく撃てない。

 外れれば負け、当たっても倒せる保証はない。

 

「やるよ」

 

 それでもベルは決意する。

 

「ベル君……」

「あの『黒竜』がここに来たら全部壊される。人もたくさん傷つく。……みんなもどうなるかわからない。だから--」

 

 

 

「戦います。僕の『家族』は僕が守ります」

 

 

 

「……わかった」

 

 ベルの覚悟をヘスティアは認めた。

 

「君が行くことは認める。だけどこれだけは約束して欲しい。…………必ず、必ず帰って来てくれ」

「はい、神様」

 

 ヘスティアの許可も出て1つ目にして最大の案件をクリアしたトキは息を吐く。続けてヴェルフへと向き合った。

 

「それからヴェルフ、依頼したいことがある」

「……一応聞いてやる」

「『魔剣』を打って欲しい」

 

 2つ目の用件、『クロッゾの魔剣』の製作依頼。

 羊皮紙にも『魔剣』の本数は大量に書いてある。だが用意した『魔剣』では『隻眼の竜』を傷つけることはできない。もっと強力なもの、かつて海を焼いた『クロッゾの魔剣』が必要だった。

 

 しかしトキはこれに関してはあまり期待していない。ヴェルフが『魔剣』を嫌っているのは彼も知っていたから。だから仁辺にもなく断られると思っていた。

 

「1つ聞かせてくれ」

 

 だから疑問がかけられたのは予想外だった。

 

「俺が『魔剣』を打てばベルの役に立てるのか?」

「……少なくとも成功確率は格段に上がる」

「そうか……」

 

 ヴェルフは一瞬目を閉じるとベル同様に覚悟を決めた。

 

「その依頼、受けるぜ。ただ本数は期待しないでくれ」

「……十分だ。ありがとう」

 

 その後、短い打ち合わせをしてトキは『竈火の館』を後にした。

 

 ------------------------

 

 着々と期限は迫る。それぞれの思いを胸に冒険者達は『冒険』への準備を続ける。

 そして--

 

「さぁ、舞台を始めましょう」

 

 咆哮が轟いた。




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