ただ……考えているうちに結婚生活じゃなくて普通の家族生活になってしまいました。すいません。
それでもいいよ、という方はどうぞ。
眠りから徐々に意識が浮上する。うっすらと目を開けると、まだ部屋は暗いままであった。
部屋に掛けられている時計を確認すると、時刻は午前4時。長年の習慣により、いつもこの時間に起きていた。
隣を向くと、二人の子供と一人の女性。俺と女性が子供を挟んでいる形だ。
起こさないようにベッドを脱け出し、そっと部屋から出る。寝室を出て、自室へ。寝間着から仕事服──と言ってもただの
ふと、部屋にあった姿見に目を向ける。そこに写っているのは身長178
目を姿見から机の方に向ける。様々な物が整頓されて乗せられている中から、1つの小物を手に取る。
それを己の左手の薬指に嵌める。
それはシンプルなデザインの指輪だ。買ってから5年の月日が経ってはいるが、その輝きは未だ衰えていない。
ふと笑みがこぼれる。これは
俺はトキ・オーティクス、24歳。美人の妻と、二人の子供を授かった冒険者である。
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いつものように鍛練をし、シャワーで汗を流す。その後、今日の会議のための資料に目を通す。
……うん、まあまあだな。ここの部分おかしいが。あ、ここ間違ってる。おい、大丈夫か?これ。
資料を手直しし、時計を見ると午前6時半。部屋を出れば、廊下までいい匂いが漂っている。
リビングに移動すると、山吹色の髪をしたエルフが料理をしていた。
「おはよう、レフィーヤ」
その後ろ姿に声をかける。レフィーヤは料理する手を止めて振り返った。
「おはよう、トキ」
レフィーヤの笑顔に自然と顔が綻ぶ。すっと近づき、唇を触れ合わせる。
レフィーヤ・オーティクス。今の彼女の名前だ。
彼女との結婚はいろいろとあった。……まあ言ってしまえばできちゃった婚である。しかも双子。
責任を取る形で結婚。しかし、その後がさらに揉めた。
俺とレフィーヤは別々の派閥に所属している。別々の派閥に所属したもの同士の結婚は、このオラリオでも前代未聞であった。
そこでどちらが移籍するかという話になった。……その争いをしていたのは主神だけだったが。
その頃のレフィーヤは【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者で、【ファミリア】の幹部。俺は【ヘルメス・ファミリア】の団長を勤めていたため、どちらも移籍するわけにはいかなかった。
長い話し合い──と言っても主神同士の口論──の末、出た結果が現状維持。これまでも問題なかったから、これからもそれで良くね? という発想である。
こうして、俺とレフィーヤは無事に結ばれた。
ちなみに今、彼女は冒険者業をやっていない。まだ子供が大きくないため、育児休業というやつだ。後2、3年で復帰すると言っていたが。
「ぅー、パパ、ママ。おはよぅ」
後ろから声をかけられた。振り向くと、長い山吹色の髪をした女の子が、茶色の髪の男の子の手を引いていた。二人は眠そうに目を擦っている。
「おはよう、アンジュ、ウィリアム」
アンジュとウィリアム。俺とレフィーヤが授かった子供達だ。二人ともレフィーヤに似て端整な顔立ちをしている。うん、本当に俺に似なくてよかった。
「二人とも、顔を洗ってきなさい」
「はーぃ。ウィリアム、いくよ」
こくりとウィリアムは頷いた。
アンジュは人見知りするけど、活発で元気な女の子だ。ただし、少し暴走しがち。その辺はレフィーヤに似たのだろう。
ウィリアムはおとなしめな性格……というよりアンジュがぐいぐい引っ張って行くので、どちらかというと苦労人気質である。……ゴメン、ウィリアム。お父さん今からお前の将来が心配になってきた。
ちなみに二人とも種族はハーフエルフである。まあ、
二人が戻ってきたところで、みんなで朝食を食べ始める。
「パパ、きょうはおしごと?」
朝食を食べていると、ウィリアムが俺の格好を見て聞いてきた。
「ああ、ちょっと5日後の合同遠征についての打ち合わせにな」
「えーっ!」
今日の予定を言うと、アンジュが椅子から立ち上がって大声を上げた。
「きょうは南のメインストリートの
「アン、座りなさい」
「でもママっ!」
「いいから座りなさい」
レフィーヤが優しく言うとアンジュはしぶしぶ椅子に座る。
「アン、パパは【ファミリア】の団長だから忙しいの」
「……でも~」
「大丈夫だ、アンジュ」
泣きそうになるアンジュに優しく声をかける。
「
「……ほんと?」
「ああ、約束だ。パパが約束を破ったことあったかい?」
「……ない」
「なら大丈夫だろ? 午後からは一緒に出掛けるから、ママやウィリアムと一緒に出掛ける支度をしておいてくれ。な?」
「……わかった」
涙ぐむアンジュの頭を撫でる。
朝食を食べ終え、自室から漆黒のマントを取りだし、纏う。
玄関に向かうと、3人が見送りに来ていた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「ちゃんとかえってきてね?」
「アン、大丈夫。パパはやくそくはぜったいにやぶらない、ってヘルメスさまが言ってた」
「まあ、その通りなんだが。なんだか不安だな……。いい子で待っていてくれ」
もう一度アンジュとウィリアムの頭を撫で、レフィーヤの頬にキスし、家を出る。扉を閉めたところで……全力ダッシュ。
今日の資料、作ったのは俺の手伝いであるLv.3の子だった気がする。つまりこの資料は俺達、【ヘルメス・ファミリア】が作ったものだ。こんな間違いだらけの資料を、合同遠征をする【ロキ・ファミリア】の人達に見せられない。
会議が始まるまで後3時間。それまでに終わらせなければ。
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【ヘルメス・ファミリア】は、6年前にオラリオを代表する強豪派閥になっていた。というのも……脱税がバレたのだ。
多額の罰金と重い
その時、既に団長をしていた俺は、団員に頭を下げてなんとか脱退を押し留めてもらい……1ヶ月で【ファミリア】を立て直した。
いや、本当に苦労した。人脈をフル活用して
そのかいあってか、今や【ガネーシャ・ファミリア】や、かつての【イシュタル・ファミリア】に並ぶくらいの【ファミリア】に成長した。ただ、ヘルメス様のスタンスが取りづらくなった。本神は気にしてなかったが。
そんな訳で、レフィーヤとの結婚もあり、現在は【ロキ・ファミリア】と合同遠征までするような派閥になった。
「では物資の方は予定通りに。人員も資料に書いてある通りになります」
「わかったっす。当日はよろしく頼むっす」
「こちらこそ」
【ロキ・ファミリア】のラウルさんと握手する。彼は【ファミリア】の代表としてよく顔を合わせる。……まあ、首脳陣があまりこういうことに向いていないからだと思うが。
ちなみに団長のフィンさんは別件でいろいろと忙しいらしい。
「ではこれで。この後予定があるので失礼します」
ラウルさんに別れを告げ、会議場を後にする。時間は11時23分。まだ間に合うな。
後のことを、付いてきた団員に指示して、丸投げし、自宅へ全力ダッシュ。13分で、無事に家に辿り着いた。
「ただいまー」
「あ、おかえり!」
バタバタと、アンジュが奥から駆け寄ってくる。その格好は、いつもとは違う気合いが入った服だった。
「お、可愛い妖精さんだな」
「えへへ」
満面の笑みを浮かべるアンジュ。
「パパ、おかえり」
アンジュの頭を撫でていると、ウィリアムが寄って来る。その後ろにはレフィーヤも一緒だった。
「おかえり。お昼ご飯は?」
「まだ食べてないけど……」
「じゃあ向かいながら食べよっか」
「そうだな。急いで着替えてくるよ」
「パパ、早くしてねっ!」
娘に言われ、急いで私服に着替え、玄関に戻る。この間2分。
「じゃあ行こうか」
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「あーおもしろかった!」
アンジュが歓声を上げる。ウィリアムもとても嬉しそうだ。その笑顔だけでも、今日連れて来た甲斐があるというものだ。
「あれ? トキ?」
そこに声をかけられた。その人物は【ヘスティア・ファミリア】の団長、ベルだった。隣にはリリもいる。
「よ、デートか?」
「まあ、そんなとこ」
「ベ、ベル様!?」
「冗談だよ、リリ」
……成長したなー。昔なら顔を真っ赤にしてあたふたしたであろう少年が、今ではすっかり立派な青年である。
「アンジュちゃんもウィリアムくんもこんにちは」
「こんにちは、ベルさん」
ベルが二人の目線に合わせて挨拶すると、ウィリアムは素直に挨拶し……アンジュは俺の後ろに隠れた。
「ほらアンジュ、ベルはパパのお友だちなんだからちゃんと挨拶しなさい」
「……こんにちは」
本当に人見知りするな、この子は。
──この時、トキからはアンジュの顔が見えなかった。そしてベルからは見えていた。少女は幼くも端整な顔を、まるで仇を睨むような表情に歪ませていた。ベルは出会ったばかりの頃のレフィーヤを思い出していた。
「あはは、アンジュちゃんはパパのことが大好きなんだね」
「……しょうらいの夢はパパのおよめさんになることだから」
その言葉に、隣から黒いオーラが飛んできた。
「アン、パパのお嫁さんはママだけよ?」
「ヘルメスさまがはーれむはおとこのまろんだって言ってたもん!」
「アン、まろんじゃなくてロマン」
……ヘルメス様、あんたうちの子に何教えてんだよっ!
「何だか大変そうだね」
「まあな。これはこれで幸せなんだけどな」
邪魔をしても悪いから、ベルに別れを告げて、自宅に戻った。
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夕飯を食べながら、今日の
「あ、そうだ。パパ、こんど
突然アンジュがそんなことを言い出した。
「……アンジュ、どうしてだい?」
「ロキにね、まほうのこととか教えてもらって、そのことをヘルメスさまに教えたら、
レフィーヤに目を向けてみる。彼女は首を横に振った。……あんたら、本当にうちの子に何教えてんだよ!
今度顔を合わせた時に1発ずつ殴るという決意をし、アンジュの提案を考えてみる。
しかし、父親として娘の願いは叶えてやりたい。ちらりとレフィーヤに目を向ける。今度は、仕方がないなあ、という風に肩をすくめられた。
「わかった。遠征が終わってまとまった休みが取れたら
「ほんと!? ありがとう、パパ!」
食卓には楽しそうな声が響いていた。
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すぅ、すぅ、と隣から静かな寝息が聞こえる。二人の子供がぐっすりと眠っていた。
「今日はいっぱいはしゃいだからな」
「うん、そうだね」
この時間がすごく幸せだ。今まで生きてきた人生は、ずっと怒涛の日々の連続だった。だから、このような穏やかな日はとても心地いい。
「レフィーヤ」
「うん?」
「愛してる」
「うん、私も」
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かつて漆黒と透明だった少年の魂。その透明な部分には、時を経て、新たな色がついていた。
その色は豊かな碧。大木の葉のような、穏やかな森林のような、人々を包む優しい色に染まっていた。
……いい最終回でした。…………冗談です。
クオリティについてはご勘弁を。まあいつもと変わらないと思いますが。
リクエストは寄せられれば可能なかぎりお応えします。
ご意見、ご感想お待ちしております。