冒険者に憧れる少年の夢   作:ユースティティア

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複数の方々からリクエストをいただいたトキとレフィーヤの出会いの話。


出会い

 レフィーヤside

 

 それは、私が【ロキ・ファミリア】に入団して数ヵ月経った頃だった。

 入団した時には既にLv.2だった私は、しかしその性格からその能力を発揮出来ずにいた。モンスターを前にすれば取り乱し、まともに詠唱することができない。詠唱ができない魔導士なんてただのお荷物でしかなかった。

 

 そしてその日、私は消沈した面持ちで街を歩いていた。その前日の探索で『怪物の宴(モンスター・パーティー)』に遭遇した私は案の定パニックを起こし、それが原因でパーティが壊滅しかけた。

 幸い死者は出なかった。しかし、私を除いた全ての人が大怪我を負い、バベルの治療院で寝かされていた。

 

 パーティを組んでいた皆さんの寝顔を見ていると、申し訳なくて、情けなくて、気づけばふらふらと外に出ていた。

 

「はぁ」

 

 意識せずため息が溢れる。その度に自分が惨めに見えてくる。脳裏に映るのは昨日の光景。あの時、もしも取り乱さなかったら、もしもあそこを通らなかったら……思い浮かぶのは、そんなもしもの想像ばかり。

 

 わかっていた筈だ。ダンジョンは危険なところで、死と隣合わせだってことは。それでも、今まで周りに頼りってばかりで、それが当たり前になってきて、そのせいか段々自分が強くなったと錯覚していた。

 

「はぁ」

 

 こんな体たらくで【ロキ・ファミリア】の一員だなんて言えるわけがない。……やっぱり私は──

 

 ドンッ!

 

「きゃっ!?」

「わっ!?」

 

 思考を巡らせていた私は、当然周りなんて見ておらず、結果、前から来た人にぶつかってしまった。

 

 ぶつかった拍子に尻餅をつく。最初はなんともなかったが、徐々に鈍い痛みが襲ってくる。

 

「大丈夫ですか?」

 

 お尻を擦る私に手が差し出される。顔を上げると、同年代と思われる人族(ヒューマン)の男の子がこちらを見ていた。あっ、と男の子が声を漏らす。

 

 彼の視線は私の顔の横、耳の辺りを見ていた。彼の眉が困ったように垂れる。

 

 どうしたのだろう? と思ったがとりあえず差し出された手を取ろうとし……瞬間、その手が真っ黒に染まった。

 

「えっ!?」

 

 驚きのあまり声が裏返った。もう一度彼の顔を見てみる。当の本人は困ったように笑いながら口を開いた。

 

「えっと、直には触れないのでこれで大丈夫ですか?」

 

 その言葉でエルフの風習を思い出した。多くのエルフは己の認めた者にしか肌の接触を許さない。男の子はその事を知っていて、こんな手品みたいなことをしたのだろう。

 

「は、はい」

 

 そういうことではないのだが、私は気にしないので、黒く染まった手を取り、立ち上がる。

 

「すいません、ちょっとよそ見をしていました」

「い、いえ、こっちこそ考え事をしていて……」

 

 互いに頭を下げる。握られた手は未だ離されていなかった。

 

「……何か悩み事、ですか?」

 

 ドキリと心臓が大きく鼓動をした。

 

「ど、どうして──」

「視線が下がっていますし、暗い顔をしてます。それで考え事ってなると、何か悩み事かなって」

 

 会って数分もしていないのに、私の様子に気づく少年の洞察力に思わず舌を巻く。

 

「よろしければ相談に乗りましょうか?」

「えっ?」

「全くの他人だからこそ、相談できることだってあるでしょう?」

 

 冷静に考えてみればあまりにも怪しい申し出。けれどもこの時の私は、この少年なら何かいいアドバイスをしてくれるかもしれない、と思い、少年の申し出に甘えてしまった。

 

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 立ち話では何だから、ということで少年に連れられて入ったのは、近くにあった普通の喫茶店だった。彼が知っている店かと思っていたが、後日聞いたところ、初めて入った店だったらしい。

 

「なるほどね」

 

 私の話を聞いた後、彼はそう言ってテーブルのカップに手をつけた。口に運んで一口啜る。その動作は、どこか気品を感じさせた。

 

「とりあえず、反省をしてみたらどうですか?」

 

 そして、唐突にそう切り出した。

 

「反省? 反省ならずっと──」

「いえ、貴方がやっているのは反省ではなく後悔です。あれが駄目だった、これがいけなかった、という風に。そこから何をすればよかったか、どうしたらそうならなかったか、それが反省です」

 

 ……確かに。今まで自分を責めるばかりで、そんな事考えてもみなかった。

 

「失敗しない人間なんていない、重要なのはそこから何を学ぶか。……俺の恩人の言葉です」

 

 何を、学ぶか……。

 

「ありがとうございます。なんだかスッキリしました」

「いえいえ。……あ、反省をするときは複数人で、できれば第三者を入れた方がいいですよ」

「第三者?」

「反省をするとき、主観的ではなく客観的に物事を見つめることが大切です。ですが、自分を客観的に見つめるのにはある程度の馴れが必要です。なので、他の人がいた方が自分のためになると思います」

 

 なるほど……。

 

「後は実践するだけです。頑張ってください」

 

 彼の手が伝票に伸びる。ちらりと見た後それを持って席を立った。……じゃない!

 

「ま、待ってください! 会計なら私がっ!」

「女性に払わせるほど、俺は甲斐性なしではないので」

 

 そ、それじゃあ私の立場がなくなる。相談に乗ってもらった上に支払いまでなんて。

 

「せ、せめて何かお礼をさせてください!」

「見返りを求めた訳じゃないんですが……」

「それだと私の気が治まりません!」

 

 捲し立てる私に彼は困り顔で笑う。しばらく悩んだ後、あっ、と声を漏らした。

 

「じゃあ、今度貴女の冒険の話を聞かせてください」

「私の、話?」

「最近、何でも屋を始めまして。そこでは依頼を受ける対価として、その人の話をしてもらっているんです」

 

 ですから、と今度は屈託のない笑顔を浮かべ、彼は言う。

 

「いつの日か貴女の冒険を、貴女だけの冒険を、俺に話してください。それが、俺が提示する貴女への対価です」

 

 ポカンと呆ける私に彼は背を向け……再びあっ、と言って振り返った。

 

「そう言えば自己紹介がまだでしたね」

 

 どこか優雅さを感じさせる礼をした彼は、己の名を口にした。

 

「【ヘルメス・ファミリア】見習いのトキ・オーティクスです。以後お見知りおきを」

 

 

 

 

 

 

 これが私とトキの出会い。その後、私は彼のところに通い続け、様々な面で成長していく。大変なことにも巻き込まれたりするけど……それはまた別の話です。




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