『隻眼の竜』。『古代』の時代よりダンジョンを飛び出し、世界に現れた『災厄』。29年前、当時のオラリオ最大派閥である、【ゼウス・ファミリア】及び【ヘラ・ファミリア】が挑み、返り討ちにあった、正真正銘の、怪物。
その存在が今、目の前にいる。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼」
距離が離れているにもかかわらず、その
その名前にもなった隻眼がこちらを捉え、その口から炎がちらつく。
「っ!? ブレスが来る!? 総員退避ッ‼」
俺の号令に、後方に逃げる団員達。さらに俺は『ケリュケイオン』を詠唱し、思い付く限りの補助魔法、防御魔法を団員に付与し、目の前に展開する。
これならば少しは防ぐことができるだろう──
俺のそんな驕りは、放たれた一撃によって木っ端微塵に打ち砕かれた。
「────────────ッ‼」
放たれた火炎は、俺が展開した防御魔法を容易く焼き尽くし、その勢いを以て全ての人間を包んだ。
声にならない絶叫が響く。体が焼ける音が聞こえる。
永遠にも等しいその感覚から解放されると、目の前に絶望が広がっていた。
かろうじて立っているのは、俺とベル、少数の第一級冒険者のみ。他の団員、第二級以下の冒険者達は、全員が地に伏していた。
全身が焼けているが、幸いと言っていいのか、息はまだあるようだ。しかし悠長なことは言っていられない。Lv.3の団員はほとんど死体も同然で、Lv.4の人達も虫の息だ。
たった一撃。たった一回のブレスで壊滅させられた。
『サラマンダー・ウール』も焼け石に水にしかならない。そう思えるような攻撃だった。
そして、『災厄』が降り立った。
改めて見るとデカい。体長は目測100M以上。目の前にいるだけで、そこに存在しているだけで、体が恐怖で震える。
これは無理だ。どう足掻こうとも、俺の、俺達の手には負えない。戦いを挑んだところで犬死にするだけだ。
「アスフィさん、他の団員を連れてオラリオまで後退してください!」
しかし、それでも俺は短刀を、己の武器を構える。
「あ、貴方は、どうする、つもり、ですか……?」
「……こいつをここで足止めします」
後ろで息を飲むのがわかった。
「だ、駄目ですッ‼ あんなもの、私達の手には負えないッ‼」
「そんなことわかってます‼ でも、こいつをオラリオに近づけさせる訳にはいかない‼ だったら、誰かがここで足止めをする必要がある‼」
恐怖で震える体を必死に鼓舞し、目の前の『災厄』を睨む。
「早く行ってください‼ ここで言い争っている1秒が、他のやつらを死に至らしめるかもしれないんです‼ 早く‼」
半ばヤケクソ気味に叫ぶ。体の震えは止まらない。
「……必ず、援軍を連れてきますッ。それまで持ちこたえなさい‼ ……動けるものは動けないものを背負ってオラリオまで後退しなさい‼」
アスフィさんの掛け声とともに、後ろの団員達が動き出す。逃がすまいと、再び口から炎をちらつかせる『黒竜』に対し、
「【燃え尽きろ、外法の業──ウィル・オ・ウィスプ】!」
ヴェルフの
『ケリュケイオン』の行使回数を使い切る。再び詠唱。さらに影から
ブレスを中断させられたからか、『黒竜』の目が俺を睨む。ただ視線を合わせただけなのに、決死の覚悟が折られそうになる。
「【ファイアボルト】!」
俺の横から炎の雷が走る。詠唱がないにも関わらず、そこそこの威力があるそれは、『黒竜』の目に当たり、その視界を一時的に塞ぐ。
バッと振り返ると、体中を火傷しながらベルが立っていた。
「お前、何で……」
「君一人で、足止めできるわけないでしょ。できれば僕にも
「あ、ああ」
影から
「……あいつらは?」
「……もう、駄目な人達だって」
「……そうか」
二人並んで『黒竜』を見上げる。
「こうして、二人だけで冒険するのって、いったい何年ぶりだろうな」
「そうだね……。あれ? リリと会ってから何だかんだで他の人とダンジョンに行ってたから、本当に駆け出しのころ以来じゃない?」
「マジか……。あの頃はいつもトラブル続きだったからな……。そういえば、俺もお前も、すぐに団長になっちまったな……」
「あはは。懐かしいね」
「まったくだ。お前なんざ、ダンジョンに出会いを求めてる、なんて。内心、はあ? とか思ったぞ」
「……改めて言われると恥ずかしいな。トキはあの頃からしっかりしてたよね」
「いや、まだまだ未熟だったさ」
何だか懐かしい思い出ばかり甦ってくる。口元に笑みを浮かべながら、短刀と『ケリュケイオン』を構える。
こいつが一緒なら、どんな敵でも負けはしない。何の根拠も無しに、そう思えた。
「行くぜ、親友」
「行こう、親友」
どちらともなく拳をぶつける。次の瞬間、二人そろって、『黒竜』に向けて駆け出した。
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【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは走っていた。その息は、第一級冒険者にとっては大した距離を走っていないにも関わらず、乱れていた。
突如として勃発した、『第7次オラリオ侵攻』。前回の戦いに参加していたアイズは、今回も大したことにはならない、と思っていた。
しかし予想に反し、今回の侵攻は何もかもが違った。
外から迫る、様々な国の兵士達。そして、開戦と同時に暴れ始めた密偵。今回の侵攻は外側からだけでなく、内側からも攻められていた。
幸い力は大したことなく、オラリオ内部にいた冒険者によって撃退された。しかし、内側に敵がいたことにより、オラリオの冒険者達は少なからず動揺した。
そして、さらなる凶報が、アイズの耳に飛び込んできた。
北の『ベオル山地』の麓にて、『隻眼の竜』が出現。その場にいた【ヘルメス・ファミリア】は壊滅。現在、【ヘルメス・ファミリア】団長、トキ・オーティクスと、【ヘスティア・ファミリア】団長、ベル・クラネルが迎撃している、とのこと。
それを聞いたアイズは、団長のフィンやリヴェリアの静止の声も聞かず、テントを飛び出した。
『隻眼の竜』。それはアイズにとって、冒険者となったきっかけであり、仇であった。
父はあの『竜』と戦って死んだ。母はあの『竜』に連れ去られた。幼い頃の思い出が思い出せなくなってくる歳になったが、その記憶だけははっきりと覚えていた。
そして、ベル・クラネル。アイズが少なからず関わってきた青年。自分を上回る速度で成長し、時にその手を取りあった青年。
アイズの脳裏に、兎のような彼の笑顔が浮かぶ。
(──たまるか)
前方を睨みながら、アイズは必死に走る。
(もう二度と、奪われてたまるかっ‼)
報告を受けたのは、オラリオ南部に広がる平原に設置されたテントの中。そこからオラリオを横断し、一気に『ベオル山地』を目指す。
第一級冒険者のアイズからしてみれば、5分ほどしかかからない距離。それでも、報告が届いた時には、既に『隻眼の竜』が現れてから15分が経過していた。
最悪の光景を必死に振り払い、足を前へ前へ。
そして、そこにたどり着き、それらを見た。
倒れ伏す二人の人影。二人とも体のあちこちを火傷しているが、何とか原型を保っている。
急いで駆け寄る。二人は……わずかながら呼吸をしていた。
辺りに『隻眼の竜』の姿はない。しかしアイズにとって、そんなことは今はどうでもよかった。
二人をすぐさま抱える。ダラリと脱力した成人男性の体重がかかってくるが、第一級冒険者であるアイズにとっては気にするほどでもない。
そのままアイズはオラリオに引き返していく。その目には涙がたまっていた。
……やはりオリジナルになると途端にクオリティが下がる。原作ありの部分よりもさらに酷くなる。リクエストをくれた方々に申し訳ないのですが、これが作者の精一杯です。
ご意見、ご感想お待ちしております。