すぐに悪夢とわかる夢を見た。
目の前にいるのは、星空凛。
僕の初恋の人。
僕は彼女の笑顔が大好きだった。
目の前の凛ちゃんも笑っている。
ただ、目に光がなかったんだ。
「凛ちゃん」
「僕は、貴方のことが好きです」
夢に台本があるのか知らないけど、恐ろしくスムーズに告白してしまった。
夢だとわかっていても、返事を期待してしまう。
「...ふーん、そうなんだ」
凛ちゃんは顔色ひとつ変えず答える。
「凛ね、一つだけあなたに言いたい事があるんだけど」
「嘘つき」
「....っ!!」
ガバッ!!
「はぁ...!はぁ...!!...夢か」
夢であるように。
そう思っている自分がいれば
夢でよかった。
そう思う自分もいる。
結局僕は、何ひとつ変わっていない。
治す覚悟も、壊す勇気もない。
———ただの卑怯者だよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
月曜日、ライブ本番まであと…5日。
いつもの帰り道。3人で一緒の、特に変わりのない風景。凛のテンションの低さを除けば。
「はぁ〜疲れるにゃ〜やっぱり凛にリーダーは無理だよぉ....」
「そんなことないよ…きっとだんだん慣れていくよ!」
「そうよ、まだ初日でしょ?」
二人共そんなこと言って...
「二人とも自分がリーダーになりたくないから凛に押し付けたんでしょ?」
「「え!?」」
.....ハモったにゃ。
「何言ってるの?本当に向いてると思ったから凛を推薦したの!」
「そうだよ…私穂乃果ちゃん達が別の人推薦しても凛ちゃんがいいって言ってたと思うよ?」
「えぇ...嘘だぁ…だって凛なんて全然リーダーに向いてないよ?」
「どうして?」
「だって…ほら凛、中心にいるようなタイプじゃないし…」
ビシッ!
「痛いにゃ!」
いきなり何?...真姫ちゃんが呆れた顔でこっちを見てるにゃ。仲間にしますか?
いいえ ←
いいえ
いいえ
冗談にゃ。
「いてててて....真姫ちゃん?」
「あなた、自分の事そんな風に思ってたの?」
「そうだよ!μ'sに脇役も中心もないの!グループにいる限り、みんな一緒!みんながセンターだよ!」
『みんな一緒でみんながセンター』穂乃果ちゃんが言ってたっけ...
「それはそうだけど…でも…凛は別だよ…ほら…全然アイドルっぽくないし…」
「そんなこと言ったら!私の方がアイドルっぽくないよ!」
謙遜するかよちんは、あんまり好きじゃないにゃ。
「気を使わなくていいよ...かよちんは可愛いし…女の子っぽいし…」
「えぇ!?り、凛ちゃんの方が可愛いよぉ!」
「そんなことないの!絶対!!かよちんの方が可愛いもん!」
「凛ちゃん!」
「かよちん!」
「り・ん・ちゃ・ん!!」
「か・よ・ち・ん!!」
「なんで喧嘩になってるのよ...大体、よほどの自惚れやでもない限り、自分より他人の方が可愛いって思ってるものでしょ?」
「凛はもっと自分に自信を持ってもいいんじゃない?」
「『女の子らしさ』と『可愛さ』は別でしょ?」
「それは!そうかもしれないけど....」
でもね。
凛知ってるよ。誰かに「可愛い」って言うのは、全部お世辞だって。
みんな心の中では、きっと————
《星空がスカート履いてる!》
《いつも「男みたい」な格好してるのにな!》
だから————
「凛は....違うから!!」
「凛…?」
「凛ちゃん...」
「引き受けちゃったし、穂乃果ちゃんが帰ってくるまではリーダーはやるよ!でも…向いてるなんてことは絶対....絶対ない!」
「ちょっと、凛!」
「凛ちゃん!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「凛、どうしちゃったのよ...」
「もしかしたら、まだあの時の事… 」
「あの時?」
「うん。凛ちゃん、小学校の頃ずっと男の子みたいって言われてて....スカートとか履いてくとからかわれたりしてたんだ。もう気にしてないのかなって思ってたんだけど…」
「そういえば、私服でスカート履いてるとこ見たことないわね。」
でも.....本当にそれだけ?
凛の気持ちはわかる。誰だってからかわれた服は、なかなか着れないもの。
でも、どうもしっくりこない。
要は、無神経な子にからかわれただけでしょ?
それだけで、スカートが履けなくなるかしら?
私の知ってる星空凛は、そんなに脆い子だったの?
そんなはずはない。
きっと、何か大きな理由があるはず。
「.....ねぇ、花陽」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はぁ〜.....」
こんなに元気の出ない帰り道は初めてかも。
逃げ出してきちゃった。
凛がリーダーなんて無理だよ。
かよちんも、真姫ちゃんも、凛ならできるって言ってくれたけど。
凛は、違うから。
凛が、もっと可愛かったらなぁ.....ん?
「....お花屋さん?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今朝は、嫌な夢を見た。一日中気分が重い。
けど、それぐらいで店番はサボれない。
ん?....お客さんかな?
さっきからずっとそこに居るみたいだけど....
「いらっしゃませ。何がお探しでっ....!?」
心臓が止まりかけた。てか一瞬止まった。
そりゃあそうだろう、だって———
「...にゃ?」
目の前に、初恋の人がいるんだから。
「....あの〜」
「...っ!」
「どこかで会ったことありました?」
会ったなんてものじゃない。
一生消えない引っ掻き傷をつけた、張本人だよ。
早く謝るんだ。早く———
「.....会ったこと、ないと思いますよ。」
————最低だ、僕。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「わぁ〜!この花可愛いにゃ〜>ω<」
いや、凛ちゃんの方が6那由他倍くらい可愛い。
あ、「那由他」って単位ホントにあるからググれ。
何考えてるんだ僕。謝罪を忘れて、嘘までついて、ホント、最低だ。
「この花たち、みんな育ててるんですか?」
「....まぁ、手伝いですけど。」
話す言葉が見つからない。いや、話す資格すらない。
でも、話したい。
自分の身勝手さに呆れていると、凛ちゃんが驚くべき言葉を口にした。
「凛もこの花みたいに、可愛く産まれてくればなぁ〜」
「...凛、女の子らしくないから、こういうの憧れちゃう...」
何言ってるんだ凛ちゃん。そんな花より凛ちゃんの方が絶対可愛いのに。
僕が言えたことじゃないけど。
そこまで卑屈になる必要はないよ。
「馬鹿なこと言わないで下さい。あなたの方がずっと可愛いですよ。.....あっ」
口が滑った。やばい、やばすぎる。
これはドン引きされる....。
「......っ!///お、お世辞がお上手でございますわ、お花屋さん///」
めっちゃ照れてる!可愛すぎ!!
何その丁寧口調。まじえんじぇー。
「えっ、いや、あの...僕は、とても可愛いと思いますよ。お世辞とかじゃなく。...大丈夫ですか?」
凛ちゃんは、顔を真っ赤にしながら答える。
「えっ!?あっ、はい....///男の人に可愛いって言われるの初めてで...は、恥ずかしい....にゃ///」
「本当に可愛いですって。だから、女の子らしくないとか言わないでくださいよ」
「で、でも凛、髪短いし...」
「僕はショートカット大好きです」
いきなり何を言ってるんだ僕は。変態か?
いや確かにショートカット好きだけど、いや正確には凛ちゃんが好きなんだけど。
「にゃっ!?///そ、それに!落ち着きもないし、全然お淑やかじゃないし!可愛くなんかないにゃ!」
猫語で照れる女の子が可愛くない訳がないにゃ。やばい、鼻血出そう。
「っ....元気ハツラツぐらいが丁度いいですよ」
ギリギリ抑え切った、やったぜ。
「にゃっ....///いやでも凛はラーメン大好きだし....女の子っぽい店とか全然入れないし...ス○バで注文できないし....」
「大丈夫です。僕もできませんから」
何が大丈夫なんだよ。
大体初見で注文できない店がなんで流行るんだろう?
それよりス○バでテンパる凛ちゃん想像したら精神がもたない。どうしよう...可愛すぎる...!!!
とりあえず、餅つくんだ。間違えた、落ち着くんだ。
「気取らない女の子って、キュンキュンします」
無心になればいける!ドンウォーリー、ドンウォーリー....
「っ....///それに....む、胸も小さいし....///」
今から挑戦者ァ!?
なんだこの猫は。僕を殺す気か.....?
「うくっ........そういうのが好みの人もいますよ」
.....マジで何を言っているんだ僕は。てか鼻血垂れてきたんですけど。ティッシュが....都合よくポケットにあるわけないじゃん。あと島根にパソコンなんてあるわけないじゃん。もういいや、絵里で、いや襟で拭こう。
「ねぇ....それ褒めてるの?」
.....やべぇ、地雷踏んだ。いやでも嘘は言ってないし...
「....まあ、一応」
どうしよう、折角いい雰囲気だったのに。
...いや、これでいいんだ。そもそも僕は凛ちゃんと話す資格すらないんだ。ここできっぱり別れればいい。そうだ、これでいいんだ。
「....お兄さんは、大きい胸と小さい胸、どっちが好き?///」
「.....え?.....ヴェェェェェェェ!?」
変な声出ちゃったよ。てか凛ちゃん止めよう!男の子にそういうの聞くの止めよう!これはどう答えても破滅ルートしかない悪魔の質問なんだよ!
....どうせ破滅するなら、正直に自分の性癖を暴露しよう。凛ちゃんを散々傷つけた罰だこれぐらいいくらでもやってやる。
「巨乳は邪道です。僕は控えめな胸が大好きです」
死にたい。いやもう、恥ずかしいとかそういうレベルじゃなくて、なんかもう死にたい。
「流石に凛もドン引きだにゃ」
ですよねー(笑) 死のう。
「お兄さん.....ロリコン?」
まぁ、そうなるよね...てゆうか...
「ロリコンじゃないですし....あとお兄さんって呼び方は一体...?」
「...?」
「僕、高校一年生なんですけど」
「えっ...?ヴェェェェェェェ!?嘘ぉ!?凛と同い年!?」
......オールバックって、そんなに老けて見える?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いや〜まさかお花屋さんが同い年だとは思わなかったにゃ〜」
「そんなに老けて見えますか?」
「だって背は高いし、髪型はオールバックだし、仏頂面だし...25歳くらいだと思ってたにゃ」
えらいストレートだな...でもそんな凛ちゃんも好き。
いやむしろどんな凛ちゃんも好き。
まさに皆凛好きー(みなりんすきー)。
「凛ね、今日あなたと話せてよかった。少しだけ、元気になれたよ。ありがとう、お花屋さん!」
凛ちゃんはそう言って、僕に最高の笑顔を見せる。
その笑顔はとても可愛くて、眩しくて...遠かった。
「感謝されるようなこと、してないんですけどね...僕も楽しかったです。ありがとうございました」
「えへへっ.......どういたしましてだにゃ!>ω<」
「ばいばーい!」
「またのご来店を」
.....凛ちゃん僕のこと覚えてなかったな.....嬉しいような、悲しいような。
「調子いいんだよ、お前!!」
あぁどうせ僕は調子のいい....ん?
見ると、向こうで2人の男子がケンカをしている。何やら言い争っているようだ。
「俺の方が先にマユちゃんのこと好きだったんだぞ!」
「いーや!お前より俺の方が先だ!」
「いや俺だ!」 「俺だ!」 「「俺だ!!」」
微笑ましいケンカだなぁ....よし、そろそろ閉店の準備を...
「なんだよ!お前マユのこと泣かせたくせに!」
.......する気分じゃなくなった。
「いや、それは!ただちょっかい出しただけで、本当は...」
「言い訳してんじゃねぇよ!!」
「大体そんな事しといて告白だぁ!?調子乗んな!お前にそんな資格あるわけねぇだろ!!」
「この卑怯者!!」
「.....っ!」
卑怯者、か....
自分に向けられたわけじゃないのに。
その言葉は、僕の心に深く突き刺さった。
そうだよ、その通りだよ。
僕は卑怯者だ。
本当はすぐにでも謝らなきゃいけなかったのに。
凛ちゃんが忘れてるのを利用して
全部誤魔化した。
「会ったことない」なんて嘘までついて。
でも。
僕は今日、凄く楽しかったんだ。
......ねぇ、神様。
願い事ひとつだけ、叶えてくれるなら。
自分勝手な愛が、始まらないように。
そう願っていたけど————もう、止められない。
許される訳ないと、分かっているのに。
「好き」って気持ちが、抑えられない。
もっと、凛ちゃんと話したい。
もっと、凛ちゃんの笑顔が見たい。
もっと、凛ちゃんと一緒にいたい。
氷の上に立つように、
危なげな事もしてみたい。
思い描いていた夢も、
少しくらいは、形にしてみたいから。
こんな自分勝手な恋、実らなくていい。
地獄に落ちたって構わない。
もう何も望まない。
だけど、ひとつだけ。
「好き」って想い続けること。
それだけは、許してほしいな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ちいさなシグナル リンリンリンガベ〜♪」
「.....おかしいな、恋じゃないもん///」
そうだよ。
これが恋な訳ない。
でも、お花屋さんに「可愛い」って言われた時、すっごく嬉しかった。すっごくドキドキした。
かよちんに言われたり、真姫ちゃんに言われたりするのとも違う。
一番褒めて欲しい人に褒めてもらえた。そんな気持ち。
凛、お花屋さんに恋してるのかな...?
「....そんなわけないよね」
そんなわけがない。
ドキドキしたのは....アレだよ、吊り橋効果!
男の人に言われたの初めてだから、体が勘違いしちゃったんだよ!
きっとそうだよ。いや、そうに違いない。
だって———凛は、恋なんてしないもん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
凛ちゃん、逃げる様に帰っちゃった....今は真姫ちゃんと2人だけ。
「....ねぇ、花陽」
「何?真姫ちゃん」
「あなた、何か隠してるでしょ」
「......っ!...どうしてそう思うの?」
「私の知ってる星空凛は、馬鹿にされたくらいでスカート履けなくなる子だとは思えない。それだけよ」
「...ねぇ、本当は何があったの?」
「...」
「お願い、話して」
「真姫ちゃん...」
「私は花陽と比べれば、凛との付き合いは浅いかもしれない。けど、『親友』だって胸張って言えるぐらいには、一緒にいたつもりよ。」
「私は、親友に何が起きたのかを知りたいの。それを知った上で、凛の力になりたい。」
「...わかった。これから話すことは、凛ちゃんには内緒にしてね」
「えぇ、約束するわ。」
「......じゃあ、話すね。あの日に何が起こったのか」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シオン
科・属名: キク科シオン属(アスター属)
和名: 紫苑(シオン)
別名: 鬼の醜草(オニノシコグサ)、十五夜草(ジュウゴヤソウ)
英名: Tatarian aster, Aster tataricus
花言葉は「追憶」
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