花と猫と引っ掻き傷   作: 凛キチ

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お待たせしました。


第5話 「これって純情?」

...いや、出来心だったんです。

 

よくあるじゃないですか、人名で検索したりとか。

 

それでつい、好きな人の名前で検索したら...

 

スクールアイドルのページが出たんです。

 

いやぁ、まさか初恋の相手がこんなに有名人だとは思いませんでした。

 

スクールアイドル 「μ's」

 

どうやら、そこそこ有名なユニットらしい。でも僕自身アイドルにはあまり興味が無かったため、彼女たちのことは全く知らなかった。あれ、このセンターの人何処かで見たような....高坂...

 

......ハッ!まさか【百人斬りの高坂】!?

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

第5話 「これって純情?」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

まぁ、アイドルである以上スリーサイズも公開されているわけで。

ここをクリックすればそれが見られるんだよな。

 

いや、見ないよ?流石にそんな覗きみたいな真似は...おい右手、何勝手に動いてる!やめろ...やめてくれぇ...!!!

 

カチッ 

 

「75-59-80.....よし覚えた」

 

何やってんだろ、僕。

 

 

 

 

 

ホントに悪気はなかったんです。

 

それでいてアイドルですから、その.....水着姿の写真とかもあるわけで...

 

いや、見ないよ?ホントは凄く見たいけど。流石に水着は...ねぇ?...やめろ右手!頼む!!やめてください!!!

 

 

【星空凛 水着】 〔検索〕⇦

カチッ 

 

画面の向こう側で、女神がイルカに跨っていた。

 

「っ......!!///」

 

僕の部屋に血だまりができた。

 

「うぐっ....!イルカ死なねぇかな....って何だ浮き輪か。......イルカ死なねぇかな」

 

何やってんだろ、僕。

 

 

 

 

 

ほら、アイドルですから...コスプレ的なものもするみたい。

 

こういうの着てないかなぁ〜とか、考えちゃって。

 

あぁぁ...右手が勝手に....

 

【星空凛 コスプレ】 〔検索〕⇦

 

カチッ

ここが、天国か。

 

 

「...っ!....ぐぅっ.......鼻血が....あれ、ティッシュ...ない」

 

何やってんだろ、僕...これって純情?

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

僕は今、ティッシュを買いに行く所...だったんですけど。

 

なんかこう、タイミングが凄い。

 

よりによってこんな時に!

 

 

 

 

「あの、お久しぶりです...にゃ」

 

 

凛ちゃんが店に来た。やべぇ罪悪感ハンパねぇ...

 

 

 

「い、いらっしゃいませ...久しぶりというか、一昨日来たばっかりじゃないですか」

 

「...そ、そういえばそうだね...嫌だった?」

嫌なわけない!…はずなのに。

 

やっぱり、素直に喜べない。あんな事言わなけりゃ...

 

 

「!お花屋さん、鼻血!」

 

「えっ?....あ」

 

 

.........忘れてた。

 

すると、信じられない事が起こった。

 

「ほら、このハンカチ使って!」

 

凛ちゃんが、ハンカチを貸してくれた。

 

これはご褒美?それとも拷問?

 

…どっちでもいいや。

 

「あ、ありがとうございます...」

 

ただ一つ言えるのは、ひたすら情けないって事だけだ。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「珍しい花がいっぱい…綺麗だにゃ〜」

 

凛ちゃんはそういいながら店内をウロウロする。

 

その仕草が…ね?猫っぽいっていうか。うまく言えないけどホラ、うろうろじゃなくて「ウロウロ」してるって感じの動き!わかる人にはわかる。まじえんじぇー...!

 

「…癒されるにゃ〜」

 

僕も癒されるにゃ〜…何考えてんだ僕は。あ!あの花凛ちゃんに触られやがった!後で捨ててやる…!!…ん?

 

僕が花に嫉妬している間に、凛ちゃんはサボテンに挑んでいた。

 

 

 

「サボテンにゃ!ホントに痛いのかな....痛っ!」

 

サボテンの棘が、凛ちゃんの指に刺さる。サボテン、お前は後でおやつにしてやる。ってそんなこと言ってらんない!

 

「ちょっ…!大丈夫ですか、星空さん!」

 

「いてて...トゲが刺さっただけだよ。これくらい取ればなんとも...」

 

凛ちゃんは強引に引っ張ろうとする。

 

「待って!」

 

「にゃっ!?」

 

「無理矢理取らないで、危ないから!ちょっと待って、確かその辺に...あった!」

 

手を使う仕事だから、救急箱はすぐ取れる場所に置いてある。ウチだけかな?

 

ピンセット、消毒液、絆創膏、ガーゼetc...

 

それらを持って凛ちゃんのところに戻る。

 

「トゲは無理矢理取ったらダメです。それに傷口をこのままにしておくと化膿しますよ。でもこうやって早めに対処すれば...」

 

トゲを全て抜き、消毒、そして絆創膏を貼る。軽傷だから化膿することはないだろう。

 

「これで大丈夫です」

 

「ありがとう..ございます...///」

 

うぉぉぉ...!照れる凛ちゃん可愛すぎか。

 

「…そういえば、なんで凛の名前を?」

 

凛ちゃんが不思議そうに尋ねてくる。そういえば行ってなかったけど、僕と凛ちゃん、結構身長差あるんですよ。ですからどう足掻いても上目遣いになるわけで。何が言いたいかっていうと理性が持たねぇんだよ畜生!!

 

「み…【μ's】で検索すれば一発でしたよ」

 

「なるほど」

 

「…納得しないでくださいよ。その、嫌じゃないんですか?自分のプロフィールが書かれてるってのは」

 

「まぁ嘘じゃなきゃ大丈夫にゃ」

 

「危機感持ちましょうよ…スリーサイズだって筒抜けなんだから...あっ!」

 

…失言。

 

「お花屋さん...見たの?」

 

「ごめんなさい」

 

「謝らないでよ...恥ずかしいにゃ」

 

「…」

 

会話が途切れる。もうこの話は一生振らないと決意した時、僕は気になっていた事を聞いてみた。

 

「あのさ、リーダーの高坂さんについて聞きたいんだけど…いいかな?」

 

「穂乃果ちゃん…?スリーサイズならネットで調べろにゃ」

 

うわぁ…凛ちゃん完全に不機嫌モードだわ。正直もう心折れそうだけど…頑張ろ。

 

「そういうのじゃなくて…高坂さん、剣道とかやってたりしない?」

 

「中学校の時はすごい強かったらしいけど、それが何?」

 

 

「やっぱり、他人の空似じゃなかったんだ…」

 

僕の通っていた、音乃木坂中学の伝説。

 

 

「百人斬りの高坂…」

 

 

「百人斬り!?穂乃果ちゃんが?」

 

当然のことながら凛ちゃんが驚く。

 

僕はその伝説を話した。

 

「ほら、先輩ってさ…誰にでも分け隔てなく接するし、色々グイグイくるし、顔立ちも整ってるからさ...その...勘違い野郎を大量生産したわけですよ」

 

「しかも先輩は『こんなにいい子なら彼氏いるんだろうなぁ』オーラ全開でさ、気の弱い男共は確かめもせずに諦めちゃって」

 

「百人近くの男を無自覚に惚れさせ、その全員を無自覚に振るという離れ業をやってのけた。音中の伝説だよ」

 

「流石穂乃果ちゃんだにゃ…お花屋さんも、その百人の内の一人?」

 

「…確かに綺麗な人だとは思ってましたけど、そういうのじゃないです。そういえば一回男子全員で着替えをすいませんなんでもないです」

 

「…覗いたの?」

 

凛ちゃんがゴミを見る眼で僕を見てくる。もっと見て!じゃなくて誤解を解かなきゃ…誤解じゃないんだよなぁ…

 

「覗いてない」

 

「ホント?」

 

「本当です」

 

「ホントにホント?」

 

「...本当です」

 

「ホントにホントにホント?」

 

「.....鎖骨がエロかった」

 

…白状するよ。

 

「やっぱり見てるじゃん!変態さんにゃ!」

 

「いや、アレはノリで仕方なくっていうか!僕はこんなことしたくなかったしどうせなら星空さんの着替えを見たいって何言ってんだ僕はぁ!!」

 

「…変態さんだにゃ。ねぇ、どんな凛が見たい?」

 

「…え?」

 

不意に凛ちゃんが聞いてくる。

 

「…お花屋さんの一番見たい凛を、教えて欲しいな///」

 

 

 

「どんな凛ちゃんが見たいか」

 

そんなの決まってる。

 

それを奪った僕が、言えることじゃないけど。

 

世界で一番、女の子らしい服。

 

僕が見たいのは、凛ちゃんの—————

 

 

 

 

 

 

「鎖骨」

 

違う違う違う違う!!!スカートだろバカ!僕のバカ!

 

「あー!やっぱり穂乃果ちゃんのこと考えてる!」

 

「いや、違う!クリボーが勝手に!」

 

「ふん!もう知らないにゃ!」

 

僕失言しかしてないな…でもここは譲れない。ちゃんと伝えよう。ホントの気持ち。

 

「僕が一番見たいのは、星空さんの…」

 

「あーあー聞こえな〜いにゃ〜!!」

 

耳を両手で塞ぎ、わざとらしく大声で言う。僕の言葉を拒むかのように。…やべぇ可愛い。ちょっと拗ねてる所とかちょっとだけ左右に揺れてる辺りもうめちゃくちゃ可愛い。…いやそうじゃなくて!

 

「僕は、星空さんの…!」

 

「聞こえな〜い!」

 

「星空さんの…!!」

 

「きーこーえーなーいー!」

 

「…っ!!」

 

僕は凛ちゃんの両手首を掴み、耳から引き離す。そして言うんだ、本当の気持ちを。

 

 

僕が見たいのは凛ちゃんの…

 

 

「星空さんの鎖骨が見たい!!!」

 

そっちじゃねぇよ!!いや見たいけど!

 

「.....凛の...鎖骨....?/////」

 

凛ちゃんは身体中真っ赤だ。当たり前だよな…

 

「.....やっぱり変態さんだにゃ。でも、お世辞でも嬉しいな」

 

「お世辞?」

 

「凛知ってるよ、貴方は優しい人だって。凛が傷つかないように、言葉を選んでくれてる。貴方と話しているときだけは、凛は可愛い女の子でいられる。男の人みたいな自分を忘れられる」

 

「ありがとね、お花屋さん!優しい嘘をついてくれて」

 

「…嘘じゃない」

 

「…お花屋さん?」

 

「僕はもう、嘘なんかつかない…!!」

 

「…凛は、可愛くないもん。お世辞だもん…っ、全部嘘だもん!!」

 

その瞬間、僕は凛ちゃんの両肩を掴み、叫んでいた。

 

「嘘じゃない!!星空さんは可愛い!!!」

 

「大体星空さんは、自分を過小評価しすぎだよ!確かに世の中にはさ、髪が長かったり、お淑やかだったり、そういうのに惹かれる人もいる。彼らからすれば、星空さんはちょっとだけ、女の子らしくないのかもしれない」

 

「でもさ、ショートカットにときめく男もいるんだよ。元気ガールにキュンキュンする男もいるし、にゃんにゃんうるさい子を見て悶絶する男もいるし…」

 

「それに僕は、星空さんみたいな女性がタイプなんです。めちゃくちゃ可愛いです。正直今も理性がやばいです!こんな可愛い子に告白されたら出血多量で死ぬしあぁもうまじえんじぇ————————!!!!」

 

 

…終わったよ、色々。

 

どっかの漫画であったな…

 

「一時のテンションに身をまかせるやつは身を滅ぼす」

 

体現してるよ…ハハハ…

 

…凛ちゃんやけに静かだな。そりゃそうだよな、ドン引きして声も出な…?

 

「……にゃ……にゃ……///////」

 

凛ちゃんの顔が真っ赤になる。そして———

 

「……にゃあああああ————!!!」

 

「星空さん!?」

 

凛ちゃんは逃げるように帰ってしまった。当たり前だ。…足はえぇなぁ…

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

その頃、生徒会室では…

 

 

 

 

 

ウチは今、溜まっている仕事を手伝っている...はずなんやけど。

 

仕事が一向に進まないんよ。

 

どうやら絵里ちも捗らないみたい。

 

「ホントにこれでいいのかしら」

 

不意に、絵里ちがつぶやく。

 

「結局凛のことは花陽と真姫に任せっぱなしで...穂乃果たちは仕方ないにしても、私達が見てるだけでいいのかしら?」

 

「......それでええんやない?」

 

「え?」

 

「にこっちが言っとったよ。『見てることしかできないなら、目をそらさずに見なさい』って」

 

「そうすることで、見えてくるものもある。ウチはそう思うんよ」

 

「......そうかもしれないわね....にこは?」

 

「『女の戦い』とか言っとったけど」

 

「.....そう」

 

二人はそれ以上の言葉を交わすことは無かった。

 

『見ていることしかできない』

 

『だから、最後まで目をそらさない』

 

その言葉を胸に、二人は仕事を続けた。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

こんなつもりじゃなかったのに。

 

「......うぅ〜///」

 

おかしいな、恋じゃないもん。

 

恋なんかじゃない。

 

恋なんかじゃないにゃ!

 

恋なんかじゃ———

 

「私」…気づいちゃうよ。

 

この気持ちが、恋だって。

 

…恋

 

『星空がスカート履いてる!』

 

「.....っ!!」

 

一瞬、彼と「あの人」の姿が重なった。...そんなわけないよね。

 

「.....寝よ」

 

私のお気に入り、シロクマの抱き枕。

 

それを抱えて、ベッドにダイブする。

 

そして私は、考えるのをやめた。

 

少し考えれば、聞くまでもなく答えなんてわかってたはずなのに。

 

でも、答えを出したくなかったの。

 

その答えが、凄く残酷な気がしたから。

 

だからもう、考えるのはやめた。

 

今はただ—————

 

「.....お花屋さん///」

 

彼の優しさに、浸っていよう。

 

 

『嘘じゃない!』

 

 

『星空さんは可愛い!!』

 

 

『こんな可愛い子に告白されたら、僕出血多量で死にます!』

 

 

『あぁもう...まじえんじぇ———!!!』

 

 

彼の言葉が、頭の中で繰り返される。不器用で、わけわかんなくて、ちょっぴりエッチで、でも真っ直ぐな言葉。

 

私を、心から可愛いって言ってくれた。

 

それが凄く嬉しかったんだ。

 

その喜びを受け止めて、シロクマを抱きしめる。

 

そして気がつくと————

 

私はシロクマの口に、自分の唇を押し当てていた。

 

彼の顔を、思い浮かべて。

 

「私...どうしちゃったんだろ...///」

 

もう、語尾に「にゃ」を付けることすら忘れていた。

 

お花屋さん…

 

あなたへの想いが、強すぎて。

 

私の中の「猫」が消えちゃうよ。

 

明日起きたら、どうなるかな?

 

どうしよっかな.....

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

木曜日、ライブ本番まであと…2日。

スクールアイドルとして、体調管理は大切なんだけど…

 

「.....ふぁ」

 

結局一睡もできなかった。

 

今日の授業、ほとんど覚えてない…特に英語。

しかも何?進路希望調査?面倒くさいよ…まだ何も決まってないし、適当に書いて出せばいっか。

とりあえず第三志望まで書き込み、提出。眠すぎて何書いたか覚えてないんだけど…大丈夫だよね?

その結果どうなったかというと、放課後先生に呼び出しをくらう羽目になったの。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

午後4時、職員室。

 

私の、というか一年生の担任、深山 聡子先生。趣味は麻雀、苦手なものは職員会議だって自己紹介で言ってた。月に一度合コンに参加してるって噂だけど…ホントかな?

 

その深山先生に、これからこってり叱られるんだよね…私何がマズイこと書いたかな?

 

「…え〜っと、まぁアレだ。今日の進路希望調査についてなんだがな?」

 

「はい...」

 

「なぁ星空...夢があるのはいいが、少し抽象的すぎないか?」

 

「夢?」

 

「ホラ、ここ」

 

先生はそう言ってプリントを指差す。そこには———

 

第一志望 【お花屋さん】とはっきり書かれていた。

 

…ナニコレ?…何書いてるノォ!?私寝ぼけすぎだよ!

 

あれ?先生怒ってない…何で?

 

どうやら本題はここじゃないらしい。

 

「まぁそれはいい...問題はここだ!!」

 

先生は乱暴に第二志望の部分を指差す。そこに書いてある文字を見て、私は心の中で絶叫した。

 

第二志望 【さこつ】

 

…うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

 

「なんだこれは....なんだこれはぁ!!」

 

私に聞かれても…何これ…え…え…?

 

「なんで...意味わかんない」

 

「こっちの台詞だっての!」

 

先生はすごい勢いでまくし立てる。

 

「大体『さこつ』ってなんだ!鎖骨のことか?お前アレか、鎖骨になりたいのか!鎖骨フェチかお前はぁ!」

 

「...まぁ好きな(やつ)の鎖骨に顔をうずめたいって欲望は女として評価してやらんでもないが、こういうアダルティなものを進路として示すのは....星空?」

 

 

「書き…直します」

 

私、寝ぼけすぎだよ...今は取り敢えずこれを直さなきゃ。【さこつ】の上に線を引いて消し、第一志望は...東大でいいや。

 

 

 

第一志望 【お花屋さんどうだい】

 

「勧誘してる場合かぁ!あと東大ぐらい漢字で書け!」

 

悪化した!何で!?

おかしいな...へんだ...へんだよぅ...///

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「はぁ…」

 

やっと終わったよ。早く練習行かなきゃ…

 

かよちんと顔合わせるの、気まずい…

 

「....凛ちゃん」

 

「!?」

 

振り向くと、かよちんがいた。…なんで、こんな所にいるの?練習は?結局ドレスは誰が?えぇ…と

 

「凛ちゃん」

 

「真姫ちゃんが音楽室で待ってるよ。行ってあげて」

 

真姫ちゃんが...?

 

「.....うん、わかった」

 

「…それだけだから」

 

かよちんは冷たくそう言って、私の前から消えた。

 

「っ!かよちん!」

 

「…音楽室、行こ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛ちゃん」

 

「私、信じてるからね」

 

その声は、誰も聞くことはない。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

午後4時30分。

 

「…遅いわよ、凛」

 

「ごめん真姫ちゃん…それで、話って?」

 

「…あなた、変じゃない?」

 

「っ!…何が?」

 

「知ってるわよ、進路希望調査。あんなこと書く人が、普通な訳ないじゃない」

 

「…ぼーっとしてただけだよ」

 

「…」

 

「…」

 

「ねぇ…凛。もしかして…好きな人、できた?」

 

単刀直入に聞いてみる。すると…

 

「!?そ、そんな事…ある…わけ…///」

 

…なんかもう確信したわ。

 

「いるのね、好きな人」

 

「…」

 

凛は無言で頷いた。

 

「それで、凛はどうするつもり?」

 

「…」

 

「…私には、わからないよ」

 

長い沈黙を破り、凛が話し始める。

 

 

「昨日の夜、気づいたの。私はあの人が好きだって」

 

「私ね、そういうの経験した事なくて…いや、しないようにしてたんだ」

 

「私だって本当は…恋をしてみたいよ。でも、無理だって諦めてた。私みたいな可愛くない子と一緒にいたら、相手にも悪いし…それに、こんな『男みたいな』女の子、みんな嫌がるからって。ずっと、そう決めつけてきた」

 

「でもね、彼はそんな私を可愛いって言ってくれた。…不器用でちょっとエッチだったけど、お世辞じゃなく、可愛いって」

 

「私、それがすっごく嬉しかった。私のことを認めてくれた気がしたの。私は誰かに可愛いって思われてるんだ!って思うと、すごく嬉しくて…楽しくて…幸せすぎるくらい」

 

「私、怖いの。今のままでいい、って思うときもある。でも、もっと先に行きたいって思いが、止められないの」

 

「好きでいいのかな?伝えても、いいのかな?私には何が正解で何が間違いなのか、わからないよ…!!」

 

 

「…」

 

「…凛。あなたに聴いてもらいたい曲があるの」

 

「…曲?」

 

「聴いてくれる?」

 

「…うん」

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

Dear Friends

作詞/小泉花陽

作曲/西木野真姫

歌/西木野真姫

 

「私なんか可愛くない」

君は決まってそう言うけれど

 

その言葉が嘘であることは

だれの目にも明らかだよね

 

「百」の痛みが怖くて

「十」の涙を受け入れてる

 

それがとっくに「千」を超えてるの

君はまだ気づいていなくて

 

僕の紡いだ言葉が

君の未来を断ち切ってしまう

 

それを償うための何かを

星空の下で探している

 

時を巻き戻せたなら

あの時の君に伝えたい

 

どんな都合のいい言葉も

凛とした姿勢で

 

もう、泣かないで…!

 

信じることを、止めないで!

 

悲しみを写す鏡なんて

 

僕は認めないから…!

 

 

 

 

もう一度、花を咲かそう!

 

君ならできる、素敵な君なら!

 

大丈夫!どんなときもずっと…だから

 

「ホントの自分」を捨てないで

 

「恋の合図」はすぐそこに…

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「どうだった?」

 

「…優しい曲」

 

「当然よ。この曲、花陽が作ったんだから」

 

「!? かよちんが?」

 

「ええ。『凛のためにできる事』。これが、花陽が出した答えよ」

 

「…」

 

かよちんが、私の為に…

 

「私達だけじゃないわよ?絵里も希もあなたを心配して、ろくに仕事ができないって」

 

絵里ちゃん…希ちゃん…

 

「今はいないけど、穂乃果も海未もことりもにこちゃんも、みんなあなたの事を考えてる。あなたを見てくれている。あなたが今よりもずっと、ずーっと可愛くなれるようにって、そう思ってる」

 

みんなが、私のことを…

 

「…真姫ちゃんは?」

 

「私は慰めたりしないわよ?励ますつもりもない。自分の伝えたい想いは自分で伝えなさい!…そしたら私はいくらでも支えてあげる。ずっと側にいてあげる」

 

「…ちょっと暑苦しくない?」

 

「お生憎様。μ'sのメンバーは全員暑苦しいのよ」

 

「えへへ…そうだよね」

 

私を変える為に。

 

いや、私が変わる為に。

 

みんなが、側にいてくれる。

 

みんなが、支えてくれる。

 

…それなら無敵だよ。

 

「凛」は、もう————

 

 

 

 

 

「真姫ちゃん!今日は練習休むって伝えといて、ごめん!」

 

「わかったわ。.....全力でぶつかって来なさい!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

凛はもう迷わない。

 

後も先も、先も先も考えない!

 

今、この瞬間。

 

伝えたい言葉があるから!

 

「…よーし!全速力にゃ〜!!!」

 

 

 

凛は鞄をつかみ、音楽室を飛び出した。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

どうやら吹っ切れたみたいね、良かった。

 

...ねぇ、凛。

 

もしもあなたが、一人きりで戦っているなら。

 

私たちは、あなたの力になりたい。

 

代わってあげることはできないけど。

 

だからせめて、声援(エール)だけは送らせて。

 

どんなに遠く離れていても

 

「心」は繋がってる。

 

だから、これだけは忘れないで。

 

あなたなら大丈夫。

 

絶対、ひとりなんかじゃないから。

 

もっと強くなれる。

 

もっと可愛くなれる。

 

もっと女の子らしくなれる!

 

「GO TO THE NEXT PHASE!」

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「はぁっ...!はぁっ...!!」

 

一心不乱に走り続ける。

 

凛には、まだわからない。

 

どうすればいいか、何が正しいかなんてわからないよ!

 

でもそれでいい!

 

だって凛は、これだけはハッキリ言えるもん!

 

「あなたが大好き」だって!!!

 

だから.....!

 

「待ってて.....お花屋さん!」

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

午後5時。

 

にっこにっこにー!あなたのハートににこにこにー!笑顔届ける矢澤にこにこ!にこにーって覚えてラブにこー♪

 

え?ちょっと寒い?そっか〜もう11月だものね!でも大丈夫!にこの笑顔であなたのハートを暖めて......え?話進めろって?なんのことだかわからないにこ〜♪.....そういうのいらない?...わかったわよ、始めるわ。これはね、にこが福引き(女の戦い)を終えて、家に帰る途中....

 

 

「はぁ〜...」

 

私、矢澤にこは困っていた。いや、悩んでいた。

 

悩みの種は、こいつ。.....ティッシュじゃないわよ!?

 

いや確かに昨日はティッシュ地獄だったけど....

 

【展覧会 「世界の花たち」 招待券 2名様】

 

「どうすんのよ、これ...」

 

3等の食器洗い機が欲しかったのに...しかも2名様って。

 

2人っきりで花を見に行く、そんな都合のいい人いないかしら....そんなことを考えながら帰路につく。てか花くらいその辺の花屋で見れば十分じゃない。ほら、凛だってそこの花屋で.....凛?

 

「......!?」

 

.....思わず隠れちゃった。なんで凛が花屋に?

 

いや、別に珍しいことじゃないけど...誰かと話してる?

 

身長は180cm、歳は27ってところかしら。凛に男の知り合いがいたなんてね...2人とも楽しそう。そして2人共顔がどんどん近づいて....まさか、キス?

 

「なにやってんのよあいつら.....!!」

 

という訳で、2人を観察することにした。

 

あれ...にこのパート少なくない?

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

カーネーション

 

科・属名: ナデシコ科ナデシコ属

和名: 和蘭石竹(オランダセキチク)

別名: 麝香撫子(ジャコウナデシコ)

英名: Carnation, Clove pink

 

花言葉は「あらゆる試練に耐えた誠実」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

次回予告

第6話 「スキのちからで、ユメのけしきを」




だが、信用できないのは凛キチだ。
あいつは凛ちゃんの痴態を愉しんでいる。
僕の出番が少ないのも、真姫ちゃんの出番が少ないのも、チェイスの宝物が買えなかったのも凛キチってやつのせいなんだ。
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