『あんた名前も聞いてなかったの?あいつよ、「お花屋さん」よ』
にこちゃんが何を言っているのか、凛にはわからなかった。
…嘘だよね?だってあのマサキ君は凛のこと…男みたいって言ったんだよ!?
お花屋さんは、「可愛い」って言ってくれて…
絶対、別人だよ!……お願い、別人だって言ってよ。
『…凛?どうかした?』
「ううん…なんでもない。じゃあね、にこちゃん」
『あっ、ちょっと凛!』
にこちゃんとの通話を切り、ふと時計を見ると…ちょうど19時をまわったところ。
「お花屋さん…ギリギリ空いてるかな」
こんな時間に尋ねるなんて迷惑に決まってる。
でも、確かめたい。
「……お母さん、ちょっと出掛けてくる!!」
『凛!?こんな時間にどこ行く気?』
「すぐ戻るから!」
凛はお花屋さんを目指して暗い夜道を走り出した。
行って何になるのか、わからない。
何を確かめるのかも、わからない。
ただ———
『明日じゃもう手遅れ』
そんな気がしたから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ったく、凛ったら…あんな一方的に切ることないじゃない」
…あれ?
何かとんでもない事をしでかしてる気が…
『僕の言葉が、凛ちゃんを傷つけた』
『柾って、誰…?』
………あぁ、なるほど!
凛は自分を傷つけたのが柾だって事、知らなかった訳ね!
……やばい。
「どうしよう……!どうするにこ、どーすんの矢澤にこ!!」
「LI○E CARD」
続いてる場合じゃないわよ!!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『全てを話した上で、凛ちゃんに告白する』
「って言ってもなぁ〜。一体どうすればいいんだろうな…」
木曜日、午後7時18分。
僕は凛ちゃんに告白するためのシナリオを考えていた。謝罪そっちのけでこんな事考えてる辺り、僕はやっぱり卑怯なんだろうな。
でもそれも今日で終わりだ。
明日、凛ちゃんにハンカチを返そう。そして全てを話し、告白する。覚悟はとっくにできてるんだ。あとはテンパらないように予行練習を…したい所なんだけど。
全くもってフレーズが思い浮かばない。こんな時は検索だ。
「さぁ、検索を始めよう」
どうでもいい独り言の後、僕は告白の仕方について調べ始めた。すると興味深い記事がヒットした。
「『μ'sのメンバー告白したいランキング』?」
読んで字のごとく、μ'sのメンバーの中で誰に告白したいかを競うランキングのようだ。
「1位が絢瀬絵里さん、2位が西木野真姫さんか。凛ちゃんは…3位!?意外と高いんだな、競争率…」
これはアレだな、ボーイッシュだから競争率低いと思って結構狙ってる奴多いパターンだわ。そして「星空の可愛い所わかってんのは俺だけ」って思ってるのがクラスに15人はいるやつだな……ただの僕じゃねぇか。
ん?そういや絵里って、憐の好きな人と同じ名前だけど…まさかね。
「……ん…………あれ」
疲れてんのかな?壮絶に眠くなってきた。けど…
「あぁ、眠い…でも今日中に考えないと……凛ちゃん…告白……絵里………真姫…………えり………まき…………」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「うぅ…あれ、ここは…」
気がつくとベッドの上にいた。
おかしいな、さっきまで机で告白シナリオを考えてたはず…
「あ、起きた?あんた結構重いわね…」
不意に真横から声がした。
「……ん。あ、姉さん。わざわざベッドまで運んでくれたんだ、ありがと。今日バイトじゃなかったっけ?」
「木曜は休みになった。今週からシフトが変わったからね。ってそんなことはどうでもいいの!あんたに会いたいって子が来てるよ?いつの間に作ったのよ、あんな可愛い彼女」
「僕彼女いないし………誰だよこんな時間に。で?その子はどこに?」
「下で待ってもらってる」
「了解」
…一体誰なんだ?
不思議に思いながら階段を降り、一階の店に向かう。
「いらっしゃいま…っ!?」
店先で待っていたのは———星空凛。
「星空さん!?…どうしてこんな時間に」
「…」
凛ちゃんは何も答えない。少しの沈黙の後、凛ちゃんは静かに口を開く。
そこから発せられた言葉は、僕の心臓を一瞬で凍りつかせた。
「星空がスカート履いてる。いつも男みたいな格好してるのにな」
「っ!?」
「覚えてる?5年前貴方が凛に言った言葉」
…忘れるわけがない。
「……勿論覚えてますよ。この5年間、一度も忘れた事はないです」
「やっぱり、貴方だったんだ」
凛ちゃんは寂しげに微笑む。そしてこう言った。
「久しぶりだね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「一つだけ聞いてもいい?」
「…何ですか?」
凛ちゃんは淡々と話し続ける。
「凛のこと可愛いって言ってくれたよね。あれ、本心?」
「…!決まってるじゃないですか!!」
そうだ、凛ちゃんは可愛い。これは紛れもない本心だ。
「じゃあ…」
「凛にあんなこと言ったから、気を遣ってる…って事はある?」
「それは…」
無いとは言えない。ある種の使命感もあるかもしれない。けど、決してお世辞じゃない。気なんて使ってないって、はっきり言おう!
……それじゃあダメなんだ。
決めただろ、嘘はつかないって。
どれだけ傷つこうが、どれだけ傷つけようが、全てを伝えるって。
誤魔化しちゃダメだ。例え嫌われようとも…
全てを話すべきなんだ。
「……僕が言ったくだらない一言を、ずっと後悔してきました。これが原因で、星空さんの未来を奪ってしまったんじゃないかって。でも可愛いって言ったのはお世辞じゃありません。ありませんけど…」
「…けど?」
「僕の中でそれが『罪滅ぼし』になっている部分がありました。星空さんは可愛い。それを伝えることで、何かが変わるんじゃないかって、期待していたこともあった」
「…」
「その意識が、僕の本心になることもあったんだ」
「……!!!」
「僕が言えたことじゃないのはわかってるけど…星空さんに立ち直ってほしい。そんな都合のいい思いが、僕の中にあったんです」
「本当に今更だけど…僕の自己満足にしかならないけど……言わせてください」
「星空さん……ごめんなさい。スカート履いてるのをばかにして……ごめんなさい。本当に、本当に…ごめんなさい……!!!」
言い切った。凛ちゃんは意外なほど静かだった。
「…そっか。ありがとね!」
凛ちゃんは明るい声で言う。
「ずっと気にしてくれてたんだ。ありがと!でももういいよ。凛は大丈夫だから!!」
どう見ても大丈夫ではない事は、僕にだってわかる。溢れる涙を目の渕で押しとどめている女の子が、大丈夫なはずがない。
「ごめんなさい…僕のせいで」
ただ一言、そう言った。
偉そうに駆け寄る真似はしたくなかった。なんてただの言い訳。拒絶されるのが怖かっただけだ。こんな時にまで自分を優先する卑怯者。それが僕なんだ。
「…もういいよ。あなたは悪くないよ……大丈夫だから。
っ…ぐすっ…りんは、だいじょうぶだから…!!」
凛ちゃんはそう言って、来た道を走って戻る。
「っ!待って…!!」
呼び止めなきゃ。ここで終わるなんて絶対にダメだ。大好きな人がこんなに苦しんでいるのに、謝って終わりなんて許される訳がない。
自己満足かもしれない。
お節介かもしれない。
けど僕はこのまま終わりたくない。
傷つけた責任を取りたい。
凛ちゃんが本当の自分を取り戻すまで。
僕は絶対に逃げない。
「待ってくれ!…
「っ!」
凛ちゃんは立ち止まる。
「明日!…もう一度だけ、ここに来てください!!僕はまだ伝えてないことがたくさんあるんです!僕は…最後に会った凛ちゃんが泣いてるなんて嫌なんだ!凛ちゃんには……
「…」
凛ちゃんは何も答えなかった。そして…そのまま立ち去ってしまった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…ただいま」
「おかえり。どこ行ってたの?」
「ちょっと散歩してきただけだよ。今日はもう寝る。晩ご飯いらない」
「…凛?」
お母さんには何も聞かない。涙の跡を見られなくてよかった。その事に感謝しつつ、自分の部屋に向かう。
「……寝よう」
着替えた後すぐ布団に入り、静かに目を閉じた。掛け布団を頭までかぶる。もう何も見たくなかった。布団の中に閉じこもっていたかった。
彼やμ'sのみんなに言われた言葉が、凛の頭の中に響く。でも凛には、それらが全てたちの悪い嘘に聞こえた。
『いきなり言われて戸惑うのはわかる。けど、みんな凛が適任だと考えてるのよ。その言葉、ちょっとだけでも信じてみない?』
絵里ちゃんの嘘つき。
『本当に向いてると思ったから…凛を推薦したの』
真姫ちゃんの嘘つき。
『凛ちゃんの方が可愛いよ!』
かよちんの嘘つき。
『星空さんは可愛い!!』
柾くんの嘘つき。
……なんて。
凛、最低だよね。
凛は可愛くない、ただそれだけの事なのに。
周りのせいにして誤魔化してる。
認めなきゃいけないのに。
「凛は可愛くない」って。
でもね。
柾くんの言ってくれた「可愛い」だけは、信じてた。
すっごく嬉しかった。
自分が可愛いって思える気がしてた。
———ずっと、気にしてくれてたんだ。
優しいから気づかってくれたんだよね。
凛がいつか、女の子らしくなれるように。
そのための手助けをしてくれてたんだよね?
だから…凛みたいな子にも、可愛いって言ってくれたんだよ。
凛はそんな優しさにも気づかないで、自分が「可愛い」なんて思っちゃった。
凛、ばかみたいだよね?
「可愛くない」
「男みたい」
そんなこと、分かりきってたのに。
分かってた…はずなのに…………
「……ぅ」
……ねぇ
……….どうして?
「うぅ……!!うあぁぁぁ……!!!」
なみだが、とまらないんだろう。
りんってほんとにばかだよね?
あのときだってそう。
まさきくんをすきになって、
まさきくんにきずつけられて、
かってにきょりをおいて、かってにわすれちゃって…
また、まさきくんをすきになって。
……ばかみたい。
でも、これがりんなんだよ。
…でも、やっぱりつらいかな。
もしおとこのこにうまれたら、こんなおもいしなかったのかな?
りんなんか……
おとこにうまれればよかったんだ。
『大好きな貴方には、笑顔でいてほしい!世界で一番可愛い女の子でいてほしいんです!!』
もう……しんじられないよ。
でも、こころのどこかでおもってる。
まさきくんのことばを、しんじていたい。
だって———
「凛も…大好きだから」
つづく
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
フクジュソウ
科・属名: キンポウゲ科フクジュソウ属(アドニス属)
和名: 福寿草(フクジュソウ)
別名: 元日草(ガンジツソウ)、朔日草(ツイタチソウ)
英名: Amur adonis
花言葉は 「幸せを招く」「永遠の幸福」 「悲しき思い出」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
おまけ①
今更感に溢れたキャラ紹介です。本当はもっと早くやりたかったんですが、主人公の名前が終盤まで明かされない構成の為このタイミングでの紹介となりました。キャラの見た目、声のイメージも載せていますので、読むときに少しでも参考になればと思います。
・支倉 柾 (はせくら まさき) 性別:男
16歳 高校一年生(家の事情で休みがち)
この物語の主人公。
小学5年の時に凛ちゃんのスカート姿をからかった張本人であり、その事を今でも後悔している。
実家は花屋であり、父、母、高校二年生の姉と四人暮らし。
放課後は基本的に店番を任されている。父母共に体が弱く入院中は学校を休んで店を切り盛りする場合もしばしば。
一人称は「僕」。生真面目な性格だが、凛ちゃんの可愛い姿を見て鼻血を出す、凛ちゃんの画像をネットで検索するなどの一面もある。凛ちゃん大好き。
見た目、声のイメージは
「仮面ライダー龍騎」の「城戸真司」
・姉のビジュアルについて
支倉……スクフェス……うっ頭が…
・佐伯 憐 (さえき れん) 性別:男
柾のクラスメイトであり親友。隣の部屋に住む「絵里」という女性に好意を持っているようだが…?
ネットスラングや下ネタに詳しいが、初対面の女性には絶対に下ネタを振らない紳士である。
中性的な顔立ちで背が低く、本人もその事を気にしている。なお声は妙に高い。
本編の出番があれだけなのにわざわざ紹介する理由とは…?
見た目、声のイメージは
「チャラい雪穂」
おまけ②
時系列整理
(日付が変わった部分が分かりやすくなるように本編を少し修正しました)。
5年前…第1話、第2話
〜〜〜〜〜〜〜〜
現在…
月曜日の朝…第3話冒頭
↓
2期5話 『新しいわたし』前半
「凛がリーダー!?」→その日の練習終了まで
↓
月曜日…第3話、第4話前半
↓
火曜日…第4話
↓
火曜日の夜…特別編②(夢オチ)
↓
水曜日…第4話後半、第5話前半
↓
木曜日…第5話後半、第6話
↓
木曜日の夜…第6話終盤、特別編③
↓
そして金曜日。
ライブ本番まであと…1日。
次回予告
第7話「涙(前編)」
まとめきれませんでした。
四話分のシナリオを一話に圧縮とか流石に無理でした…ごめんなさい。この前後編で本編は終了となります。
あと二話だけ、お付き合い頂けたら嬉しいです。
気づいてるか?今回「にゃ」を一度も使っていない事に…