心を閉ざす
何でだよ……俺が何かしたって言うのかよ……
何故お前らは笑うんだよ……何が楽しいんだよ……
何一つ……おかしい事なんて無い……
なのに何故……お前らは笑っていられる……
何度も何度も、俺は心の中で考えた。けれど、答えは出ずにただループするだけ
周りの連中は、幼稚園のころから俺の事をいじめている同学年
そいつらは、俺の顔を……腹を……腕を……脚を……殴る……蹴る……叩く……
そうやって、俺の体を壊していく
そんな俺の様子を見ながら笑い合う、腐りきった同学年達。そんな彼を、怒りもしないで見守る教師
三歳から続いているこの状況。どのくらいの怪我をしたのだろうか
もう……抵抗する気など、既に失せていた
助けを求めても……泣き叫んでも……怪我をしても……誰も俺を見てくれなかった
親だって、俺の事を助けてはくれない
それどころか、母親は教える事を教えて、浮気をして家から消えた。その後、俺は父親に引き取られた
けど、仕事と母親が原因で、俺の父親はいつも俺を殴るようになった
ストレスの発散、その程度にしか俺の事を見ないコイツ等を、俺はどう思っていたのか
もうそれすらも、俺は思い出せないでいた
もう誰も信用できなくなっていたのかもしれない。誰も、俺を思ってくれていないのだろう
いや、一人だけいたんだ。俺の事を思ってくれている者が……
俺の幼馴染の真奈。いつも虐められている俺の事を、毎日庇ってくれた
誰からも好かれる奴で、俺から見たら眩しい位の存在だった
でも、もう彼女もいないのだ。そう……俺が……俺が殺したんだ
あいつも腐りきった同学年と一緒につるんで、楽しんでいたんだ
俺が苦しみから解放される瞬間の、あの時の顔を見て楽しんでいたんだ
何も見えない空間に現れた光が、その時に一瞬で消えたんだ
もう考えることを、俺はやめた
それと同時に、俺の中をドス黒い感情が支配したんだ
眼の色が赤く染まり、勾玉模様が三つになった眼が現れた
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「た、助けてよぉぉぉぉぉ……!!」
段々と、教室……いや、学校中を悲鳴と断末魔で満たしていった
鎖の外された獣のように、俺は俺を解放した。何も感じなかった
でも、何者にも縛られることなく、自由に動いて居る事に不思議と納得していた
ああ、これが俺なんだと……
「このっ!!」
上級生の打撃が、俺の頬に命中した。上級生は笑みを浮かべ、勝ったと確信した
けど、そんなことで倒れるほど、彼は軟ではなかった
痛みだ……でも、クソ親父に殴られた時とは違う……
今の俺にとっては、感じている痛みさえも、火に油を注ぐような感じになっていた
「ひっ!!」
上級生は震え上がる。殴られてなお、無表情に自分の顔を見つめてくる彼に恐怖を感じた
「ガハッ!!」
彼は上級生の顔を殴り、一撃で沈めた。そんな上級生の苦しんでいる顔を見ていた
何も感じず、只、相手の息の根を止めるだけの行動
今までに感じることのなかったものを感じ、人の命を断つ行動で自分を証明していた
「……苦しいか? それが痛みだ。感じた事は無いだろ? お前らは只、後ろに隠れて、誰かと一緒じゃないと何もできない存在だもんな」
小学生の発する言葉とは思えない事を、何度もいう少年
「……俺の信じた唯一の友は……俺の夢見た正義は……何だったんだ……?」
信頼していた唯一の友、夢見た世界での正義
それは、彼が覚醒したと共に、ガラスのように砕け散った
彼の後ろで怯えて立っている幼馴染の真奈
「……そうか」
「っ!!?」
彼は彼女の方に振り向きながら、そう言った
「……信じるから裏切られるんだ……仲間なんて……友達なんて言う偽りの繋がりを持つから……俺みたいな奴やこんな世界が生まれるんだ」
「……こ、来ないで!!」
「……正義を掲げる虫けらも……友情を語る偽善者も……俺はそれをすべて否定してやる……」
「あ、ああ……!!!」
「……俺が全部潰してやる。何もかも……全部……!!!」
ガラスの破片で、唯一の理解者だと思っていた幼馴染の首を斬り裂く
赤黒い鮮血が飛び散り、彼の体を赤色に染め上げていく
彼女の体を地面へと捨て、その場を後にする彼の目は
勾玉の模様が変わり、特殊な物へと変わっていた
その後、彼は自分の家へと帰り、父親を殺すことにした
家へと入り、父親の様子をうかがう
「ああ、あのガキなら今頃、学校でいじめられてるぜ。俺が殺してもいいんだが、それだと俺が疑われる可能性が増えちまう。だから、死んだ方がマシだと思わせて、自殺してくれるのを待ってる」
そんな話声が聞こえた。自分の父親は、誰かに俺を死なせろと言われたのだ
たぶん、金の為に……
「にしても、あんたのような『悪魔』があんな俺の糞ガキになんでこんなことを?」
悪魔……? 何のことだろう……まさか、本当に存在しているのか……?
彼は普通の小学生よりも大人びている為。虐められていない時は、難しい本を何回も読んでいる
そんな中に、彼は悪魔と言う単語を知った
「危険? あんなガキがですか?」
俺が危険……? それは何故だ? たとえ、俺が危険だとしても、何が危険なのか分かりはしない
「まぁ、良いですがね。俺は金さえもらえれば……うひひひひ!!」
そう言いながら、電話を切るクソ親父。俺はそれが終わった瞬間に、父親の首に飛びかかり
「なっ!!? お前……!!」
持っていた血まみれのガラスの破片を、父親の首に刺した
「がっ!!? ふざけてんじゃねェぞ!! 糞ガキが!!!」
俺の服を掴み、地面へと投げつける
ドガッ!!
……痛いな……ああ、痛い……だけど……それだけだ……それ以外に、何も感じない……
「このガキが!!! 学校に行ってたはずだろうが!! ふざけた真似しやがって!!」
「……黙れ……お前みたいな糞野郎に……俺の事をどうこう言われる筋合いはない!!」
「死ね!! 糞ガキ!!」
「朽ち果てて死ね!! 外道!!」
チッ……ガラスを刺しただけじゃ、直ぐには死なないか……でも、いいさ。今此処で殺せばいい
「なんだよ……その眼は何だ!! そんな目は見たことがないぞ!!」
「これが俺の『写輪眼』だ。いや……今の状態だと『万華鏡写輪眼』と言うらしいな。片方の名前は知らない。俺が唯一、母さんから教えてもらった眼だ。ただし……左目は万華鏡じゃないがな……」
右眼が万華鏡……左眼は紫色で、勾玉がいくつかある眼になっているが、今は良い。まずは殺してからだ
「死ね!!」
「死ぬのはお前だ!!」
俺はクソ親父の打撃を躱していく
はは……なんだよこれ……あの屑の行動が、細かく見える……!! 遅い、遅いぞ!!
俺は父親の攻撃を避け、手に持ったガラスの破片で腹を斬り裂く。鮮血が巻き散り、リビングの床を汚す。ポタポタと、父親の腹から出る血は止まらない
「く、糞が……!! こんな事して……只で済むと思うなよ……糞ガキ……!! ガハッ……!!」
「もう喋らなくていいよ……どうせ死ぬんだから……」
「俺はお前の父親だぞ……!! 親を殺す気か……!!」
「俺の事を子供どころか、人としてすら見なかったお前が……そんなことを言うとはな……滑稽にもほどがある……」
さぁ、もう終わりにしよう。お前の顔なんか、もう二度と見たくねぇ……
俺はガラスの破片を持ち上げ、そのまま方へと振り下ろす。血が噴き出し、俺の顔を塗りつぶしていく
「がぁぁぁぁぁぁ!!! いてぇぇぇぇぇ!!!!」
「それが痛みだ。苦しいだろ? 助けてほしいだろ?……でも、助けなんか来ない……お前を助ける存在なんか、誰一人居ないんだから……」
そう言い終わり、俺は今度こそ糞野郎の首を斬り裂いた。リビングはもう既に血の海と化して、俺の体は全身血だらけの状態。ガラスの破片は欠けて、もう尖ってすらいない
「……これで……もう苦しむ必要もない……いや……まだ残っているか……」
無表情に血を拭きながら、壊れてもう使い物にすらならない糞親父の携帯を見る。あいつは、最後の方で悪魔とかいう言葉を口にしていた。つまり、俺のような特異の力を持った存在が居るという事だ
「……俺を殺そうとした存在……アイツも消しておく必要がある……」
まだ終わらない。まだ……殺す対象が居る……!!
悪魔……か。血をぬぐいながら、自分の服を脱いでいく。家は初めて静かになり、周りからすれば不気味にもほどがあるだろう。毎日俺を蹴る、殴る音と、糞親父の声が聞こえてたのだから
「俺と同じ特異な存在……なら、簡単には殺せないだろうな……」
万華鏡写輪眼……もう片方は確か、輪廻眼とか言うのか……
この力を俺はまだ、使いこなせてすらいないんだ。なら、その存在に勝つのはまだ無理か……
「……時間はある。何年、いや……何十年かけてでも、俺はその存在を殺す……」
家族も、友も、夢も、何もかも消えた。もう俺には失う物なんてない……
服を全て脱ぎ終わり、この家最後のシャワーを浴びる。体にこびり付いた赤い血、黒く変色している部分さえもある。それを丁寧に落としていく。シャンプーを泡立てて、体の汚れを隅々まで落とし、体をすっかり綺麗になった
何処へ行こうと休むことの出来なかった俺からすれば、初めてシャワーが気持ちいいと感じた
よく見て見れば、外が少しだけ明るい。多分だが、周りの民家の奴らが俺の家の周り……いや、もう俺の家ですらないか……とりあえず、不気味に感じて様子を見ているんだろう
と、考えていれば、丁度良くインターホンが鳴る。最後だ、顔ぐらい見せてやろう。お前らが見て見ぬふりをした、糞野郎の血を引いた人間の姿を……
俺は自分の服を着て、扉を開ける。外には数人の人。俺が出てきたことを確認すれば、それに驚き、気まずいと感じて顔を俯かせる存在が後ろに何人かいる
「だ、大丈夫なのか……?」
インターホンを鳴らしたと思われる男が、俺に向かってそう聞く。それは何に対してだろうか……?
俺が殴られたりしていたことに関してだろうか? それとも、先程の殺し合いの叫び声が聞こえたからだろうか? それとも……
いつもの日常的な暴力がない事についてだろうか……?
「それに関しては、今の状況を見て貴方が判断すればいいのでは……?」
「そ、そうだな……すまない」
「何に対して、謝っているのか分かりませんが、そんな顔をしないでくれませんか? 正直、不愉快ですから」
この感じから見て、暴力を振るわれていることに関しての大丈夫だったのか。まぁ、今となってはどうでもいことだが……
「何だその言い方は!!! 俺達は心配して此処に居るんだぞ!!! 礼の一つくらい言ったらどうだ!!!」
目の前に居る男の声ではない。その後ろに居る巨漢の男の声だろう
「礼……? 貴方方に感謝しろと? 何故?」
「お前が暴力を振るわれているのは知っている!! それを心配してだな……!!」
「心配……? は、ははははは……!!」
「っ!? 何がおかしいこのガキ!!」
「お前ら如きが俺の心配をした? だから、様子を見に来たと……? 笑わせるな。反吐が出る」
「なんだとっ!!」
男は俺の前にまで来て、俺の胸ぐらをつかんで引き寄せる。俺は抵抗すらせず、それを受け入れる。周りは騒ぎ放題だ
「俺が暴力を振るわれているのを知って無視していた連中が、今更心配だから様子を見に来た? 冗談もほどほどにしたらどうだ。自分に火の粉が飛んでくるのを恐れて、何一つしなかった屑共が……今更、良い子ぶってんじゃねぇって言ってんだよ」
「っ!!」
「心配してるって割にはお前、さっきまで酒飲んでたみたいじゃねぇか。臭いんだよ、息が。俺が暴力を振るわれている横で、テレビを見ながら笑い転げていた塵が、何良い大人演じてんだ……」
俺は冷酷な眼をして巨漢の男を睨み付ける。俺の只者じゃない雰囲気を感じ取った男は、俺を掴んでいた腕を離して後ずさる
「どいつもこいつも、何一つ行動をしないくせに、誰かの前に立てば良い子ぶろうとする。誰もがそうさ。自分に危険が及ぶことになると、他のものを犠牲にしてでも、自分と言う存在を守ろうとする。そして、問い詰められれば自分は悪くないと、そう言い訳して逃げる。本当のことを言われれば、何も言い返せなくなる」
俺は目の前に居る者たち全員を見ながら、最後に一言言い切る
「もう二度と会う事もない……安心して、自分の身『だけ』を守ると良い」
俺はそう言って、扉を閉める。その場に居る者達は誰一人として、怒り狂いはしなかった。だって、俺の言っていることは正しいのだから
数日後、俺のいた地域……いや、もしかしたら全世界が驚愕しただろう
俺がやった事……自分の通っていた小学校の学生、先生、用務員その他全員の死亡。そして、俺の死体だけ見つからず、俺の家では父親の無様な死体が見つかった事件
俺は既に、その場所にはおらず。殺したのは俺だという判断が下されそうになるが、当然それはあり得ないと考えられている
たかが、10歳の小学四年生にそんな残酷な事が出来るのか? 出来る訳がない。そう思われ、この事件は謎を残したままとなった。当然、この結果に俺が殺した学生の親達は怒り狂う。こんな事があってたまるかと、犯人を見つけ出せと、調査をやめるなと、そうずっと訴え続けている。中には、俺を探し出して殺そうとしている親もいるらしい。だからと言って、俺には関係のない話だ。殺しに来るなら来るといい……只、その親が息子、もしくは娘と同じ運命を辿るだけだ
そんな俺は、裏の世界で生きている
悪魔なんて言う空想上の生物の名前を言っていた糞親父がおかしいと最初は考えたが、事実存在しているらしい。なんでも、地域によってはその土地を管理している悪魔も居り、対価を払う代わりに願いを叶えるらしい
だが、話を聞くところによれば、人間を悪魔に変えて種族の存続をしているらしい。その所為か、無理矢理悪魔に転生させられる人間、その他の種族が多いそうだ
その情報もやはり、裏世界で手に入れた。暗い路地裏。闇市場。色々な場所を回り、そして生きている。あの忌々しい場所よりも、生きていることが実感できているのは、それほどまでにあの場所が嫌いだったからだろう
「だが、悪魔を探すと言っても、悪魔と言う種族は増え続けている。特定の誰かを探すのは難しいが……相手は、俺の事を危険だと言っていた。なら、俺が生きている事を知れば、あちら側からこちらに接触してくるはずだ」
只気になるのは、その悪魔が危険だと言っていたのは俺が開眼したこの眼か、それとも、この間手に入れた
「目的の存在に関しては、今はどうでもいい。まずは力だ、力を付けないといけない……」
そうだ。力だ……誰にも負けない、そんな力を手に入れなければならない……
歪んだ心を持ってしまった存在、それがどう生きていくのかは……まだ、分からない
彼の落とした新聞には、その事件の死亡者と、唯一の失踪者の名前が書かれていた
『失踪者、鳴神颯真』