「アーシアっ!!! アーシアっ!!!」
魔像の一撃にてこの世から姿を消した『聖女』アーシア・アルジェント。その最後を一番間近で見た兵藤一誠は、発狂する勢いで……潰された場所へと急ごうとしていた
だが、それは仲間が許してはくれなかった。グレモリー眷属は全員、その場へと向かいたいのを唇を噛み締めながら我慢し、俺を睨み付けている
兵藤一誠の事に関しては、アザゼルが強制的に動きを封じている。暴走しそうになる赤龍帝の力を、ヴァーリがギリギリで抑え込んで……
「魔帝……!!! 貴様っ!!!!!」
ゼノヴィアが俺に向けてデュランダルを振るう。俺もそれを自分の手にしている聖剣で受け止め、それぞれで聖剣を押し合う
先程よりも冷静さを失っている所為か、剣が震え、力みすぎている。自分を失った者が振るう剣に、何の脅威も意思もない
「うるさいぞ……っ!!」
「うわぁ!!!??」
俺はゼノヴィアを吹き飛ばして、敵の所まで飛んでいく。吹き飛ばされ、立ち上がるゼノヴィアの表情には、悲しみと怒り……そして無力さが浮かんでいた
「……何も変わってないじゃないか……!! 私は魔帝に勝てない……!! アーシアを守る事すら……出来ていないじゃないか……!!」
シャルバと同じことをされた。違うのは、本当の意味でこの世から消えたという事。次元の狭間にもいない……この世から去った者を取り戻すことなどできはしない
それが世界だ……人とは……悪魔とは……自分のやった愚かさを知って初めて……何が駄目だったのか……どれほどまでに愚かだったのかを知る
失って初めて、その者の大切さを知る……一度失った者を、また失うのは悲しいだろうさ……その果てに……俺はいるんだからな
「さぁ、どうする赤龍帝。アルジェントは殺した……お前は俺を殺すか? 先程まで、俺の事を止めるとしか言えなかった男は……自分の大切な女を殺されたとしても、その存在を消せずに居られるのか?」
「……まれよ……」
「俺を殺せば少しは報われるかもしれないぞ……まぁ、あの聖女がそんな事を望むとは思えないがな……個人的に俺を殺そうとするなら来い……いくらでも相手をしてやる」
「黙れって言ってんだよっ!!!!!」
ゴァっ!!!!! 赤龍帝の体中を赤いオーラが包み込む。抑え込むことの出来ない怒りと龍の力を……その場で介抱しているようにも感じる
それは他の者も同じだ。特にリアス・グレモリーは、体から滅びのオーラを放っている……まぁ、『計画通りで何より』だな
「許さないわ……!! 絶対に許してなる物ですかっ!!!!!」
ああ、それでいい。その俺に向ける憎悪の眼……この世から消してやろうとする勢い……お前らは本当に……俺の予想通りに動いてくれる
後は…………予想通りの展開を迎えればいいんだがな……
「隙ありだぜいッ!!」
「そう言うのを口に出した時点で、隙とは言わないんだよ」
真後ろからの如意棒を避け、空中へと昇る。それを追いかけて昇ってくる一つの影……そいつは口から炎を吹き出し、俺に攻撃してくる
俺はそれを餓鬼道で吸収する
「自分の弟子の怒りに共感しているのか? タンニーン」
「語る言葉はないと言ったっ!!!!!」
「そうの通りだ。今から殺されるお前らに、何を語ろうと関係のない事だ。これから起こる事を……只命が尽きる最後の瞬間まで、見届けていればいい」
「ガハッ!!?」
俺は天道で引き寄せたタンニーンを聖剣で斬り裂いた。只、普通の聖剣ではない。兵藤一誠が所持しているアスカロン……いや、ゼノヴィアが使用しているのか?
どちらでも構わないが、それを解析して、その龍殺しのオーラを纏わせた剣だ。言うなれば、ヴァーリと兵藤一誠の対抗装備だ
以前よりも強化された一撃を腹に受け、そのまま地面へと落下し激突。タンニーンは生きてはいるものの重傷を負っている
そこへ魔像の一撃……ミサイルかと思わせる程の打撃が襲いかかるが……それをアザゼルとオーディンで魔像の腕を吹き飛ばす事により、回避することに成功
「仲間を庇いながら闘うのは辛いだろう。さっさと捨てて、此方を殺すこと集中すればいい物を……」
「お前に俺達の行動をとやかく言われる筋合いはないぜ。これが俺達の……闘い方だ」
「ならば、お前らに俺に勝つと言う道はないな。そのまま仲間と共に散れ」
「そうはいかないぞっ!!」
ふと、腕に何かが絡みつく感触を感じた。それも、前に一度経験している感触。俺は視線をそこへと向ける……そこには、ヴリトラの小僧が居た
よこにはシトリーが居る。足元を見れば、少しだが水がたまっている。時間稼ぎにしては上々……だが、この程度の威力じゃ無意味だ
「はぁ!!!」
足元から水の刃が生え、そのまま俺に突き刺さる。殺せるとはいかずとも、俺に少しはダメージが入ったかと思う二人だが……
俺の体は斬り裂かれてはいなかった。斬り裂かれたのは服のみ……肌には傷一つとしてありはしない
「うぐっ!!?」
「匙っ!!」
「貴様の
俺はヴリトラの
「鳴神颯真っ!!」
その一瞬を逃すまいと、俺の頬を魔力の弾丸が通過する。斬れた頬からは赤い血がツゥーっと流れ、俺は視線を白い龍へと向ける
『今度こそ、我らを侮辱したことを後悔させてくれる!!!!』
「無駄だと言うのがまだ解らないのか……お前の能力は、俺に触れられなければ無意味だと言ったはずだ……触れることの出来ない状態へとなれる俺に、お前が勝てるわけがないだろう」
「ガハッ!?」
『ヴァーリッ!!?』
「今まで手加減していて悪かったな……お前が望んだ戦いだ……存分に味わって帰ってくれ……あの世へとな」
俺の眼は既に輪廻写輪眼へとなり、禍津日を発動。ヴァーリの腕の骨を砕き、その体を地面へと投げ捨てた。もう既に戦意も消え失せ始めているな……
グレモリーからの滅びの魔法が来るが、それは魔像の腕によって阻まれる。届きもしない攻撃ばかり……何時までこのような事を続けようか……
「……何時もお前らが選ぶのは……己が滅ぶ道なんだな……」
俺は魔像に指示をだし、そのまま全員を殺し切ろうとした……世界が否定した存在が作り上げた一撃は、どんな物よりも固く強い
赤龍帝たちも分かっていた。颯真に勝つことなど、ほぼ不可能だと……それでも、折れるわけにはいかなかったんだ
もう終わりだと、そう感じた……だが、それこそが原因だった
「っ!!…………ゴハッ!!!??」
それは兵藤一誠からの物ではない……だからといって、他の者達でもない……そのダメージを負った存在は……奴らの目の前に居た……
口から血を吐き、そのまま腹を押さえている…………『颯真』が……
「ガフッ……!! そうか……そう言う事か…………あの時、聞こえてきたのは……『お前の声』だったんだな……!!」
「……ええ、そうです。私があなたに語りかけました……少しでも心が変わるかもしれないと言う……そんな幻想を持って……」
颯真が今までにないほどの殺気を纏った視線で見つめる者……それは、現在の赤龍帝達にとっては……信じられない光景だった
その身は一度砕かれ、その身は一度焼かれ、その身は一度この世から去った…………そんな存在である者。背中に天輪を持ち、頭の上には天使の輪っか
天照大御神をほうふつとさせるその容姿は……見間違えることの無い……『アーシア・アルジェント』だった
「すぅ……生きている……って、訳じゃ無さそうだ」
「ええ、一度死んだこの身を……『私』が再生させ、代わりに少し憑依させてもらいました」
神聖なオーラはオーディンの比ではない。圧倒されるようなその輝かしい姿からは、アルジェントの面影が一切見えない
いや、それ以前の話だ……奴は人を傷つける事が出来ない……なのに、目の前に居るこいつは俺を攻撃した……それも、普通ならば死ぬ一撃を……
先程の憑依した……その言葉から思わせられるのは、アルジェントに憑依したオーディン以上の神…………ともなれば、答えは一つ……
「原初の神……パンテラ……」
「私の事を知っているのですか……世界の誰も、私の事を知らないと思っていたんですが……」
「オーディンを超えるその力……答えは一つだけだろうさ。この星が生まれるよりもはるか昔……宇宙が出来た時から存在するであろう神……星核が教えてくれた……」
全ての星を作り、今もなお宇宙空間でこの世を見守っている存在……まさか、こんな場所で会ってしまうとはな……全く持って『予想外』だ
星を作る時に姿をギリギリで見た星核から、名前以外は聞けなかった。つまり、未知の生物だと言える存在でもあるパンテラ
それを知り、俺は表情に出るほどの笑みが出てしまっていた。それを見たパンテラは首を傾げ、そのまま俺に質問する
「何がおかしいのですか……?」
「いや、なに…………俺にとっての予想外が起こるとはね……」
「盲点……あなたは殺したと安心し、この者を見る事すらしなかった。それが、貴方の敗北へとつながります……この子の体では精々……」
フッと、俺の目の前からパンテラが消える……動く前に……俺の肩から血が噴き出ていた……
「30パーセントが限度ですね……」
「ぐっ!!?」
見えなかった……あのレベルの速さは、世界最強と言っても過言じゃないスピード……!! 手から光の刃を出須しているパンテラを見ながら、俺はそう考える
アルジェント程の信仰の深い者はいない。おそらく、パンテラに適合できるのが、アルジェント只一人だった。だからこそ、俺の目の前に立っている
「天照!!」
「無駄です」
俺は目に魔力を集中し、天照を発動するが……光によってそれが阻まれ、俺の天照は不発に終わる。その光を浴びたアザゼル達は、自分の傷が治って行くのを感じた
治癒のオーラ……神の威光とでも言うべきそれに当たった俺は、すぐさまその場を離れる。入れ替わるように、魔像が殴りにかかるが……
「その程度のスピードでは、私に傷一つ付けられませんよ」
その伸ばした腕が粉々に砕けちり、首も吹き飛んでいた……炎が溢れ出ているがが、光の影響で回復が上手く進んでいない……!!
俺はすぐさま斬りかかるが、神殺しの一撃など持っていない。つまり、俺が不利であることに代わりはない……
「貴方を此処までさせたのは、私達の所為です……時を遡れるのならば、それを治すところですが……あなたは先に行き過ぎた……もう手の届かないところまで……」
「須佐能乎!!!」
完成形態の須佐能乎で斬りかかるが、それも無効化される。アルジェントとパンテラの周りをかこっている光のオーラ。それを突破するには威力が足りなかった
パンテラは俺に指を向け、そのままこう言い放つ
「せめて…………私の手で殺します」
周囲の光がすべて集まりだす。それも……ゼノヴィアのデュランダルから放たれている光すらも、その手指の先に集まりだす
それの光は目の前の悪を……滅殺する為に集まった……
「
その言葉と共に、俺は光に包まれた……極光とでも言うべき光のに……
負けるのか……?
語りかける者……お前が負けると言うのかと、そう言う声が響いてくる……
その程度の存在か……?
お前の実力はあれを殺す事すらできないのかと、そう言い聞かせてくる存在……
先に進む事は諦めた。だが、今貴様が足を止める事に、何の意味がある……
うるさい……実にうるさいな……
俺はそう思った。自分達の意見を俺に押し付ける屑共の声……俺は俺だけが望んだ戦争で……闘ったんだ……
負けただと……? お前らは何を言っている……
俺が予想外だったのは……『パンテラ』の出現だけだ……
俺が何時……負けるなどという戯言を言った……?
目の前に居るのは、いつもの偽善を語るだけの屑だ……
ならば、やる事は一つだろう……
パンテラの出現こそ予想外だったが……これで……俺はこの戦争の勝者になれる……!!!
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
突如、神の一撃の中から黒い……ドス黒い闇が溢れ出てくる……それは悍ましく、恐ろしく、そして綺麗な漆黒の黒色だった
その黒は…………段々と、神の光を侵食していく……白いキャンパスの上に一つ落ちた黒い絵の具……その黒こそが、鳴神颯真……という存在だった
「魔像ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「グオォォォォォォォォォ!!!!」
その黒から叫ばれた一言……その言葉により、顔と腕一本を失っていた魔像は応えた……顔を一瞬で再生させ、腕を一瞬で再生させた
その新しくなった状態で、魔像は黒色に向かって咆哮……まるで、忠誠心を持った狼のように……
魔像はその言葉に答えた瞬間、もう一つの黒い塊と成りて、神の光の中にある黒色に向かって飛んでいく。その光景を、パンテラですら……見て居る事しかできなかった
それほどまでに、異質で邪悪な何か…………颯真であることは間違いなのに、それが何かを完全に言い切る事は出来ない……それほどの存在
二つの黒は合わさり、そのままさらに神の光を侵食、拡大していく……それは数分経ってようやく止まり……その新たな黒から……声が聞こえてきた
「—————我が身に宿りし闇の波動よ—————」
(もう信じない……)(もう頼らない……)
その黒色は、ある一点に集中し始めた。渦を巻くように段々と、その一点に集まりだす
「—————常闇を生きし魂よ—————」
(一体誰が信じてくれた……?)(一体誰が助けてくれた……?)
まるで生きているかのように、少しずつ……少しずつ集まって行くそれは……不気味さを越え……生き物とは言えない異質さがある……
「—————我が身に集い、我に従いて、力を解放せよ—————」
(誰も居なかった……)(誰も見なかった……)
世界に否定され、この世界を死にそうになるまで孤独に生き続けてきた者達の……声が聞こえてくる。絶望し、憎悪し、嫉妬し、復讐しようとした
そんな者達の……呪いの歌の様に……それは聞こえてくる……
「—————絶望も、憎悪も、我は受け入れよう—————」
(人間は何時だってそうだ)(そうね、人間は何時だってそう)
この世の理不尽さに耐えきれず、その身をこの世界へと投げ捨てた者達もいる……俺が全て、彼らが努力しなかった所為なのだろうか
否……そのようなことは決してない。それは、彼らによる差別から来るものだ……
「—————運命という鎖を断ち切って、己が道を進む—————」
(滅びの道を進む)(自己満足に生きる)
『これが世界に刻まれた……黒い記憶だ』
その黒い何かは……一点に集中を終えて……その場に姿を現した……ゆっくり……ゆっくりと地上へと降り……そのままゆっくりとパンテラに向き直る
黒い炎の翼、漆黒に塗られ光沢のように輝いている肌、耳の上から白い角が生え、後ろには尻尾すら見える。黒く染まった顔には、赤と紫の眼が光っている
「……
魔を超えた帝王である人間の果てにある姿……悪魔全員が見ても、自分達よりも悪魔に近い存在だと言えるその容姿と、体から溢れ出ているドス黒いオーラ
それは目の前にるパンテラと同等の力の証であり……この世界がため込んできた負の感情の結集体である
「…………お前のおかげだ」
「……どういう意味ですか?」
「お前のおかげで……俺の計画は……完全な物となった……」
赤と紫の視線で……パンテラを見つめるた……颯真の言った言葉の意味とは……どう言う物なのだろうか……