「颯真さん……」
「とっととこの場から消えろ白音。俺はお前を生かすつもりだが、守るつもりはない。生きたきゃ自分で生きろ。俺の一番の目的は目の前に居るあいつだからな……」
俺は白音にそう言い、沖田を観察する。その姿からは剣士としての強さがしっかりと感じられる
「……あちがとうございます」
「言ったはずだ。感謝されるようなことはしていない……」
白音はそう言い残し、今度こそこの場から去って行った。静かなこの瞬間が永久に感じられる。森の木々の音が安らぎを感じさせる
「……何故あの者を庇うのですか? 魔狩りは他種族に優しいので?」
「誤解があるな。俺は別に、あいつの事を庇ったりはしない。あいつがどこかで苦しんでいたら助けるとか、死んだら泣いてやるとか、そう言う感情は一切ない。只、あいつをこの場から去るまで生かすと決めた。それだけだ。それに……俺はあいつが俺の前に立ち塞がるのなら、躊躇い無く切り捨てる」
「……まさに鬼のような人よ……」
「人を食い物にしながら種族を存続している悪魔にそう言われる筋合いはない。貴様ら如きに利用され、死んでいく人間はさぞ、無意味な死を遂げるだろうな」
「どちらにせよ、あの子は捕まえなければならない。追っ手を出す、という手もありますが……」
「勝手にするといい。もうアイツはこの場から立ち去った。もう庇う必要もない。それに言っただろ……俺はお前と闘い、そして殺すことが目的だと……」
俺は万華鏡写輪眼と輪廻写輪眼に変えて、相手を見つめる。実力的には俺の方がまだ分が悪い……だが、そのくらいがちょうどいい
「追っ手というのは揺さぶりのつもりでしたが、貴方には効果が薄いようだ」
「生憎、相手を思いやるなんて心は持ち合わせていないんでな。そう言うのは自分の信じてる馬鹿な王にだけ向けておくんだな」
「……いざ、参る」
沖田は剣を抜き去り、そのまま俺を斬り裂きにかかるが、先を読むことの出来る俺はその行動が分かっていたため、ギリギリで躱すことに成功した
「(剣撃速度にはまだついていけているか……だが、化け物ばかりと言われるサーゼクス・ルシファーの眷属。油断はしない方がいいな……)」
「僕の一撃を初見で……しかも、無傷で凌いだ人は久しぶりに見ました」
「なら、悪魔が只々弱かっただけだ。温室で育った奴らと一緒にするな、不愉快だ」
続けて撃ち出してくる剣撃を捌きつつ、相手との間合いを調節する。いくら強くなったとはいえ、俺はまだ経験不足、それに力もまだまともに操りきれていない。慢心はするな
「せいっ!!」
「はぁ!!」
一振りを躱し、懐へ飛び込んで刀を振りかざそうとするが、蹴りによりその場から吹き飛ばされる
「(互いに隠し玉は残したままか……だが、こっちの切り札はまだ出せない……)さて、どうするか……」
「あきらめる、という選択肢はありませんか?」
「無いな。悪魔如きに白幡を上げるなんざ、死んだ方がマシだ」
死ぬ気もないがな……と言っても、斬りだすほうが有利という物もある。仕方ないな……俺はそう思い、自分も刀を握りなおした
「気を付けろよ。此処からはさっきとは違うからな……」
「それは、斬りあってみれば分かる事でしょう」
一歩踏み込んだ沖田の速度は、先程よりも上を行くものだった。俺の後ろに回り込み、斬り裂こうと刀を俺に振り下ろすが……
「っ!!」
「もう避ける必要もない」
俺には『当たらなかった』。いや、体をすり抜けたと言うべきか……沖田の刀は颯真の体を通り抜けていた
「いいのか、この間合いにいて……」
「しまっ!!」
「まぁ、もう手遅れだけどな……!!」
ザシュ、久しぶりに手ごたえるある音が響き、森は先程同様に静かになった。速さで翻弄されることもないんだ。元々、避ける必要もない
「はぁ……はぁ……」
ポタポタと、血が腹から流れ出ている沖田。深くもなく、浅くもない切り口だな。もう少し、斬り込みを深くするべきだった。刀を伝う血を吹き飛ばして、沖田を見つめる
「手札を斬ったのは俺だ。もう少し早めに気づくべきだったな……」
「(刀が通り抜けた……あんなのを見抜く事は出来ない……!!)」
「こんなの反則だとでも思うか?」
沖田の心の中で少なくともそう思っているだろうと、そう考えた俺はそう話しかける
「また何か勘違いしているみたいだな……俺は確かにお前と闘いに来た。けど、それはお前を殺す為だ。殺す事が出来るなら、俺は使える手はいくらでも使う。真っ正面から闘うなんて、俺は一言も言ってないだろ」
「……ズルい御仁だ……」
「何とでも言えばいいさ。死体になるのはお前なんだから……」
俺はそう言って刀を沖田に向ける。ダメージのある体で俺を殺すことは不可能、逃げる事なんてさせはしない。此処で、お前は終わりだ……
「そこまで!!」
………………どこまでも邪魔をしてくれる。それにしても、今日は何かある日なのか……? 大物によく会うじゃないか
「こんなところまでやって来るとはな……魔王と言うのは随分と暇なんだな……」
「これでも結構忙しいんだよ?」
赤い髪をなびかせながらこちらにやって来る長身の男。見た目は優しいと言えるほどの見た目。だが、その体からは魔王と言えるほどの実力がうかがえる
「初めまして、僕の名前はサーゼクス・ルシファー」
「魔狩り……それが意外に言う事は無い」
俺は沖田を見つめて、そう言い放つ。情報源が消えた、などとは思っていない。殺し切れなかった、とも思っていない
「……なるほど……『時間稼ぎ』か……魔王であるサーゼクスがこちらに近づいているのを感知したお前は、そのまま主が来るのを待つために、俺と闘い時間を稼いだ。攻撃を受けたのは、俺の隙を出させるためだったか……俺も甘くなった。魔王の眷属だ。最上級悪魔と同等の力がこの程度と思い込んだのは間違いだったようだ」
「理解が早いね。本当ならもう少し早めに来るつもりだっただけど、君が猫又を逃がすのが早かったからね。こちらも急ぐのが遅れた」
「貴様ら悪魔は何でも遅いんだな。いや……今回は俺も遅かったか……」
実力がまだ追いつけていないのは分かった。もう少し修行を増やした方がいいな……
「まぁ、彼女に逃げられたのは仕方ない。それ以上に、君に会えたのは良かったよ」
「……どういう意味だ」
「君の真意が知りたいだけさ。君が我々悪魔を攻撃、殺害していることは我々の中では承知の上。だが、君がそうする理由が我々には分からない。だから、知ろうとして居た所へ、君の出現があった訳さ」
「……言いたい事は分かった。だが、知ってどうするつもりだ? 貴様には何も出来やしない」
「中身を知って和解をしようと思っている。君の要求を、此方側は出来る限りのむ……それでどうかな……?」
「悪いが、嫌いな存在から与えられたものに、俺は価値を見い出せないんでな。だが……貴様が自分の家族、および眷属の首を俺の前に並べるなら、してやらない事もない」
「………………それはできない」
「だろうな。だから条件に出した。元々、俺は貴様らとの和解などと望まない。俺の目的だけなら教えておいてやる……俺の目的は貴様ら悪魔の殲滅だ……この世から貴様らを消し去る事……」
「……なら、僕は悪魔の王として、君を殺さなければならない。民を守るためだ……」
「物は言いようだな。貴様はそのつもりだろうが、貴様にとって人間なんざどうでもいいんだろう? いや、人間だけじゃない。他の種族もそうだ。貴様ら悪魔が創り出した悪魔への転生道具……あれの所為で何人もの被害が出たにもかかわらず、それへの対策法すら出せない愚か者が、堂々と王を語るな。汚れるだろうが……」
「それは……」
「不可抗力とでも言うのか? それを言ってしまえば終わりだ。貴様に悪魔の王を名乗る資格はなく、悪魔を導く事すらできなかった塵でしかない。そのレッテルが張られるだけだ」
悪魔を守るためなら何でもする。それは確かにいいことを言ったと『悪魔』は思うだろう。だが、それは他の種族を犠牲にしてでも悪魔を生き残らせるという事だ。王は民を支えるだけでなく、民を導かなくてはならない存在。そんな奴が、悪魔を従えられない時点で王失格だ
「言って置くが、俺は悪魔の誰かに家族を殺されたから、お前らに復讐すると言うわけじゃない。元々、これは俺の単なる自己満足だ。復讐とはそう言うもんだ」
俺は
「っ!!
「(まだ下級程度の天使だが、足止めくらいにはなるだろう)悪いが、此処で帰らせてもらうぞ」
俺は神威を使い、戦線を離脱。自分の拠点へと戻ってきた
魔王に最上級悪魔。今の俺に超えられる壁ではないか……
「だが、まぁいいさ。相手がどれほどの人物かは知れた。それだけでも十分な収穫だ……天使のランクも中級にはあげられるだろう。現在のストックは天使が2000、聖獣が1000と言った辺りか……」
滅びの魔法まで再現できるなら、それに越した事は無いが、今の状況では無理だな。相手の血でもあればいいが、それが研究できるまでにはかなりの時間とリスクがある
「……さて……」
聖獣の創造に入ろう。
「………………っ」
思い浮かべるはキメラ……獅子の見た目をした獣の合成獣……
そのすぐ後、颯真の横から光が溢れ出し、そこからキメラと思われる存在が姿を現した
「こんなもんか……」
俺はキメラを撫でつつ、そう言葉を漏らした。気持ち良さそうにするキメラを見ても、何一つ感じることの無い冷たい眼差しは、暗い夜空に向けられた
空には、監視の為に放っている中級天使の
その中には、俺が初めて創り出した上級天使である
悪魔よりも悪に生きている男が、天使を作り出して戦うとは、世界も終わっているな
「………………今日は此処までだ」
歩き続けている。拠点を天使に任せ、俺はある場所へと向かっていた。悪魔の次に愚かで醜い行動をしている存在である教会だ
サーゼクスに出会ってから1年。俺はその時よりも大幅に力を付けた。その力の確認と、教会にあると言われている情報を手に入れる為、その場所へと向かっている
雪の降るその地域には、行きしに殺したと思われる人間の血が色濃く残っている。血の匂いに誘われて、狼などが近くによろうとするが、直ぐにその場から立ち去り、静かさが辺りを支配している
「俺ももう13か……早いようで遅いな」
だが、立ち止まっても居られない。俺には俺の目的が存在しているのだ。休んでいる暇はない
「貴様止まれ……此処から先へは、関係者以外は通さな……」
「悪いが、お前と問答をしに来たわけじゃないんだ。そこを退け」
ザシュ、ドサッ。ただそれだけの音で、先程の男の声は聞こえなくなり、殺され倒れ込んだ。雪の純白の道を、赤黒い血が染めていく
「まともな世界だけを知れば、お前も生きていたかもしれないな。今更、何もかも遅いが……」
門を潜り抜け、そのまま教会の中へと入って行く。外の監視は交代をしているはずだ。先程、監視が変わったのは見た。次の監視交代までまだ時間はある。ゆっくりと、情報を集めさせてもらおう
中を見てみると、何人かのシスター……世間で言う聖女が集まり、話し合っている風景だけがある
「(この教会の地下に、その情報がある筈だ)」
俺は気づかれないように体にローブをまとい、地下へ続く道までたどり着いた。だが、そこには当然監視が居る
「ん? どうした。まだ、監視交代の時間ではないはずだが……」
「いいや……なんでもないさ」
「何……? ぐっ!?」
俺は写輪眼を使い、監視に幻術をかけてこの場を去る。此処で殺せば、出てきたときに怪しいと言う結果だけが残ることになる
「……此処だな……」
地下に置かれていた書物をあさっていく。そこには……
「やはりな……これでいい……」
俺は『ある書物』を持って、その場を出て行く。監視の幻術を解き、そのまま監視を続けさせる
「きゃっ!!」
「……なんだ」
俺はいきなり背後からきた衝撃に身構えるが、声を聴いて俺の考えている事とは違うと気づいた
「お前は……誰だ」
「す、すみません……私はアーシア・アルジェントといいます……」
教会で、もっとも聖女と言う言葉が合う女性。アーシア・アルジェントが、そこには居た