「(アーシア・アルジェント……か)俺は……颯真だ」
「は、はい。よろしくお願いします、颯真さん」
何を言うつもりだ? と、少し考えたが、こういう人間は只そう言っただけで終わる感じだったな
「俺は行く所があるんでな。此処で失礼する……」
「あ……えっと……」
俺が動き出すと同時に、アルジェントは悲しそうに俯く。その眼には寂しいとでも言うかのように、目が潤っていた。おそらくだが、自分の聖女という肩書を気にしているのだろう
人間に置いて、地位とはどんな物よりも欲するものの一つだ。その立場に居る事により、自分のしたい事が出来るからだ。だが、それにも例外はある
聖女と言う立場に行ったという事は、相手の怪我を治す、もしくは信仰が深いという事であるから、その立場に居るのだろう。聖女の扱いとは、人として見てもらえな存在である事
聖女は神に対して祈りを捧げ続けるのだ。逆に言えば、周りの知り合いなどほとんどいない作業にもなる。自分を素晴らしい存在だと言ってくれる者はいるだろう。だが、自分の傍に居てくれる者はいない
「(人であり、人としての扱いを受けられない存在……)」
教会において、最も重視されるもの。それは何よりも信仰の深さ。揺らぐことなき神への忠誠、神に祈りを捧げるだけでなく、心身ともに捧げる事が普通な世界だ
「……お前にとって……」
「……颯真、さん……?」
「お前にとってここはどういう場所だ?」
自分を知ってくれる友が欲しいと、それを目で語っている目の前の存在に、俺はそれを聞いてみた。人生をこんな下らない場所で過ごしてなお、なせ神を祈り続けるのか
「………………私にとって、何よりも大切な場所です……何もなかった私には、誰かの傷を癒すこの力だけしか残っていませんでした……そんな私は、誰かの為に動く事が出来る。それが嬉しかったんです……」
予想通り過ぎた。こういう存在は、自分ではなく誰かの為に生きる事を重視している。自分がどれほど傷付けられようと、苦しむ存在を前に、手を伸ばさないなんて事は出来ないのだろう
「……俺には理解できないな」
「えっ?……」
「何故お前らが、知りもしない存在を理由もなく助けるのか……俺にはそれがまったくもってわからない。自分よりも他人が大切なんてのは、偽善だと分かっているはずだ。それでもなお、お前らは何故無意味に誰かを助けようとする。他人を助けることで、優越感にでも浸っているのか……?」
「……綺麗だと、最初に感じたんです」
「何だと……」
「……助けられて、此処に来ました。此処に居る人たちは、誰かの為に動いている人たちばかりです。そんな人たちが、とても素晴らしいだろうって……そう感じたんです……偽善であったとしても、この誰かを助けたいって思いは……偽物ではないはずですから」
固い意志だった。確かに、教会って言うのはある意味英雄の様な物だろう。悪魔を殺し、人々を助けて生きている。表向きはそうだ
裏でやる事は残酷なことこの上ない。悪魔を殺すのは自分の欲望を満たすためだと、そう言う人間もいるくらいだ
「俺はもう行く。お前の事……覚えて置く」
「ま、また会えるでしょうか……!!」
「………………」
会える、か。いいや、会う『運命』かもしれない……死なない限り、必ずアルジェントとは出会うはずだ
何故なら……俺達は……
「……俺達次第だ」
俺とアルジェントは……『対極の存在』であると……俺はそう感じたから……
神を信仰して、誰にでも優しく接することの出来るアルジェント。世界を否定し、何も信じることの無い俺。決して意見が混じり合う事は無いだろう
「だが……お前が言うほど、教会は素晴らしい物じゃ無い……」
そうさ。だから、俺はこの教会に乗り込んだんだ。この『計画』の行っている場所、その理由とやり方を知るためにだ
「……『聖剣計画』……」
聖剣……誰もが一度は聞いた事はあるだろう、その名称。その剣によって、世界に様々な影響を与えた物も多くあるだろう
アーサー王のエクスカリバー。聖ゲオルギウスのアスカロン。ランスロットのアロンダイト。ローランのデュランダル。その他にも、名のある聖剣が存在する
今回の聖剣計画には、アーサー王のエクスカリバーが問題となっていると聞いた。聖剣とは元々、特に珍しい物ではない。只、英雄級の聖剣があると言うだけで、聖剣なんていくらでも作り出せる
だが、英雄級の聖剣には意志の様な物がある。持ち主を選ぶという意志
簡単に言えば、聖剣の因子だ。かつての聖剣にはそれが無い限り、操れないと言われるほどに間で有名だったと聞く……
その因子を持つだろう存在である人間を集め、そいつらの中に聖剣が使える者がいるかどうか、それを実験する計画が聖剣計画。だが、通常ならばそんな事はしない
エクスカリバーは現在では存在していない。簡単に言うなら、バラバラになってしまったという事だ。元に戻すにはまだ時間が足りず、その間に変わったのが七つの聖剣になった
それを使いこなす者ならば作れるのではないかと、あるいは居るのではないかという観点にたどり着いたのだろう
「子供を捕え、そのまま実験に使っているのか。そこまでは書いてないにしろ、その実験には興味がある」
人工的な聖剣の創造。天使に使わせるには絶好の物だ。だが、現物がない分、それをどう作り出すかが分からない。完成品であるアスカロンやデュランダルは、天使に使いこなせない。だからと言って、そこらの聖剣を持たせたところで、強さが上がるわけではない
その過程で知ったのが、砕け散り、欠片となった聖剣エクスカリバーの情報。そいつから情報を得られるならば、通常の聖剣よりも強く、因子がいらない聖剣が作り出せるはずだと、俺は考えた
「敵の中に
堕天使の雑魚を一体だけ殺したことがある。堕天使は元々、その総督であるアザゼルが戦争嫌いで有名な存在であり、俺を殺しに来る存在は少ない。だから、殺したのは一回だけ。だが、その一体からある情報が得られた。それは、
異種族にとって、人間の
「まぁいいさ。実験に使われている子供から抜き取るよりも、偽善を振りかざしている奴らから奪えばいい」
そうこうしているうちに、森を抜けて少し開けた所にある研究施設の様な物が見えた。雪が降り積もり、夜の薄暗さが、森の恐ろしさを表現しているようだった
「見張りがいない所を居ると、こんな所には誰も来ないと思ってるのか? 思い込みもいい所だ」
扉を開け、白い廊下をゆっくりと歩いて行く。軽く付けられているセンサーを避けながら、中へと進む。こつんこつん、という自分の靴の音以外、何一つ聞こえない白い廊下は、不気味さを感じるには十分すぎる
「……実験をやっているにしては、静かすぎるな。悲鳴を上げるほどの実験には至っていないのか、それとも実験の部屋が防音なのか……」
少しばかり歩くと、ある部屋の扉の近くに止まる。微かだが、何者かの声がする。何人いるかなんてわからないが、少なくとも20人以上入るだろう声の数
その声に怯えは感じるものの、痛みや怒りなどの感情は感じられない。つまり、誰かが収容されているのだろう。此処で、実験を待っていると言う状況だろうか
俺は何のためらいもなく、そのまま扉を開けた
「………………ほとんどが、俺と歳の変わらない存在ばかり。それに……全員に聖剣の因子があるが、その因子の量が少なすぎる。まず、操りきる事は出来ないだろう」
牢屋、そう言っても過言ではない場所に監禁されている少年少女。誰もかれもが疲れ切った表情をして、此方を見ている。その顔に、希望を言う文字は一つもない
最低限の衣食住はあるだろうが、そこまで栄養のある物を食っているわけではないのだろう。痩せ細っているのがいい証拠だ。全員とは言わないが、痩せている者もいる
「………………」
辺りを見渡すが、此処にも見張りは一人もいない。防衛システムにすべて任せている辺り、相手はかなりの馬鹿なのだろう。顔を見なくてもその位は分かる
カキンッと言う音が聞こえ、横にある牢屋を見れば、金髪の女の子がこちらを見ていた
「あ、貴方は誰……なんですか……」
「……颯真。この場の責任者は何処に居る」
「……今はこの場には……」
だとしても、この様子はおかしい。いくらなんでも、この馬鹿みたいに静かなのは怪しすぎる……
そう考えていると、少し目の前の空気の色が変わってきた。段々と空気中の色が紫へと変わっていき、その原点を見れば、紫の煙が出て来ていた
「毒霧……こいつらを殺す気か……」
居なかった理由は大体把握した。殺す理由は分からないが、このままここにいれば、俺も被害を被るか……
「これはいったい……ケホケホッ」
「毒だ。お前らを殺すつもりなんだろうさ」
「そんな……なんで……」
「用済みになったからとしか言いようがないな。今の情報では全部は分からないが、貴様らを殺せばあちら側に利益があるんだろう」
俺はそう言い、その場から立ち去ろうとする
「逃げるなら……僕たちも……」
「悪いが、俺はお前らを助けに来たわけじゃない。此処にある目的で来た。だが、目的の物がないなら、此処にとどまる理由もない。逃げたきゃ、自分たちで何とかしろ」
「そんな……」
絶望。目の前には助けられる力を持つものが居る。だが、その者は自分たちを助ける気は無いと言う。もう駄目なのだろうかと、そう考えるのは必然だった
「どうしても逃げたいなら……」
そう言って、俺は自分の腰に付けている刀を牢屋の中へと入れた。その行動に驚き、少女はこちらを見てくる
「『自分の手で逃げろ』。誰かに頼ってばかりの奴に、この世界を生きていく権利はない」
「っ!!………………」
「刀を取るか、取らないか。お前が決めろ……誰でもない、お前がな」
「…………生きぬくんだ。この世界を……」
少女は刀を取り、牢屋を斬り裂こうとする。牢屋は簡単には斬れないが、何回も斬っているうちに、牢屋を斬れた
「……外へ出る」
牢屋が破られたことで、全少年少女は逃げ出した。入口を抜け、そのまま外へと脱出。ガスを吸い込んだ者はいるが、命に別状はないだろう
そこへ、男たちがやって来る。多分だが、あれが死体を回収する部隊だろう
「っ!! 貴様ら!! どうやって牢屋を脱出した!!」
思ったよりもガスを出すのが早かったからか、回収する者が遅れたのだろう
「ど、どうしよう……このままじゃ……!!」
コイツ等がどうなろうと知った事ではないが、今此処でこいつらを殺そうと、俺には何のメリットも……
と思っていたが、奴らの中には、俺の目的の物を持っている奴らが居る。聖剣と……神器使い
「探す手間が省けたな。おい、お前ら。この場からさっさと消えろ」
「えっ? でも、あの人数じゃ……」
「お前らが居ると邪魔なだけだ」
俺はそれでも突き放す。元々、コイツ等には用はなかった。あるのは敵の持っている物のみ
「……死なないでください」
「冗談抜かせ。雑魚にやられるわけがないだろう」
あいつらはそのまま去って行くが、それを見て簡単に許すほど、こいつらは単純でもないだろう。さて、一年間で得た新たな力、此処で試させてもらおうか。左眼の能力……天照に加えて、手に入れた力
「禍津日」
「ぐっ!? うおっ!! がぁぁぁぁ……!!」
「おい!! どうした!!」
「輪廻眼……俺の場合は輪廻写輪眼だが、その眼には特有の能力が存在する。俺の場合は、左目のもう一つの能力、天照と共に得た力だ。この能力は……」
敵はずっと苦しむ。体がキシキシと言い始め、体の骨が砕け散りそうになっている。周りは何が起きているのか、その判断すらできてはいない
「禍津日は、俺が目視したものの引力、もしくは重力を操ることの出来る能力。ただ、生物に対しての場合……自分と圧倒的な差がなければ効果はない。だが……生き物でない物ならば……」
俺は相手を目視しつつ、周りに存在している雪を見つめ、その重力支配権を、自分の物にする
「まさに禍。貴様らを殺すには十分すぎる棺桶だ」
「ま、待って……!!」
「安心しろ。貴様は殺さない。貴様はどうやら、俺の求める
俺は吹雪を舞い起すことにより、相手の体温と命を減らし、そのまま雪崩を起こして敵を雪に沈めた。聖剣と敵の一人を担ぎ、そのままその場を去る
「すぅ~……禍津日はかなり疲れるな。輪廻写輪眼も解除された。一日二回が限度……今日はコイツを幻術にかけて休むとするか……」