西暦二一三九年某所
一人の男がパソコンの前に座り、取り憑かれたようにオンラインゲームをしていた。
DMMO-RPG
十年前にサービスが開始されたオンラインゲームであり、今日がそのサービス終了日だ。
サービス開始の三年前に名作『ユグドラシル』が稼動していたこともあり、人気の高いゲームではなかった。
それどころかインターフェースや操作方法、職業や種族の多様性など、ユグドラシルに酷似した点も多くの「パクリ」という烙印を押されたゲームである。
だが、所詮はパクリ。
ユグドラシルほどの自由度は実現できず、旧時代的なオンラインゲームからの脱却に失敗したゲームの一つでもある。
現在では通貨、装備、ステータス、レベルなど全ての要素が高騰したインフレゲーと化していた。
(今日という日を迎えるのは当然の結果だろうな・・・)
そんなことを思いながらもオレ、『
別にゲーム内でギルメンやフレンドと最後の別れをしたいとかじゃない。単純にサービス終了までにレベルを上げたかっただけだ。
このゲームには『キャラクターレベル』、『アイテムレベル』、『職業レベル』と3種類のレベルが存在する。
『キャラクターレベル』は操作しているキャラクターのレベルでカンストはLv1000。だがすでにカンストしているのでどうでも良い。
『アイテムレベル』は装備品自体のレベルでレベルアップごとに性能が上昇する。カンストはLv100だが、一部の装備はLv90以上でレベルアップに失敗するとアイテム自体が消失する。
こんな時に高レベル装備の消失なんでたまったもんじゃないからな・・・よってコレもどうでも良い。
そして、『職業レベル』・・・上げたいのはコレだ。
カンストはLv100・・・だが、下位職、中位職、上位職、禁断職といったランク付けがあり、当然ながら上位職、禁断職のレベルアップには時間が掛かる。
禁断職の1つである職業『ドラゴン』・・・このレベルが一ヶ月前にLv99になった。そして、時同じくして一ヵ月後にサービス終了との告知が公式サイトに掲示されたのだ。
禁断職の中でもトップクラスの性能を誇る職業『ドラゴン』。
レベルアップに非常に多くの経験値を必要とし、Lv99からLv100に上げるには廃人と呼ばれる人でも一ヶ月は時間が必要になるほどだ。
廃人ではなく社会人となると・・・一ヶ月ではまず不可能だ。しかし、娯楽費を全てデーモンオンラインに捧げた重課金者であるオレなら可能性はある。
オレはサービス終了の告知後から、経験値アップやステータスアップの課金アイテムを買いあさり、ひたすらにレベル上げに勤しんだ。
職業レベルはキャラクターレベルと同じでモンスターを倒して得た経験値でレベルアップする。
サービス終了の告知直後は同じような目的のプレイヤーとPTを組んでいた・・・が、徐々に人数は減っていき、ここ一週間はひたすらソロ狩りの日々を送っている。
「<サンダーブレスⅥ>!!」
スキルの発動と共に無数の雷撃と雷鳴がモンスターの群れを蹂躙する。
二十体ほどのモンスターは即座に消滅したが、数体のモンスターは依然として標的に攻撃を仕掛けようと襲い掛かる。
「チッ・・・うぜぇな・・・奥義発動<
大きく振り上げられ、そして打ち下ろされた大剣は、凄まじい切れ味と破壊力をもった斬撃と激しい衝撃波を生み出す。
一体のみを標的とした攻撃だが、発生した衝撃波によってまばらに点在するモンスター達もまとめて掃討した。
「あー・・・間に合うか微妙だな・・・」
そんなことを呟きながら、夕日のように紅い鱗のドラゴニュートは大剣を担ぎ森林を疾走する。
ドラゴニュート。
一言で外見を表現するなら人間とドラゴンを掛け合わせたような姿だ。
頭部は完全にドラゴンのそれで、体は紅く硬質な鱗に覆われている。
人間で言うところの胸部から腹部、さらに尾の底面や翼の翼膜は薄く濁ったような黄色に染まっているが、強度は紅い鱗と遜色なさそうだ。
身長は少し長い首がかさ増ししているが、二百三十センチくらいだろうか。
肩に担いだグレートソードは片刃。その刃には数本の突起が付き、一見すると蛇腹剣のように見える。
防具は傷の目立つ帯鉄の鎧や鉄のすね当てを装備し、歴戦の傭兵といった印象を抱かせる。
このドラゴニュートこそ『中津哲平』のデーモンオンラインでのアバター。
ハンドルネーム『卍たこ焼き丸卍』だ。
名前の由来はたこ焼き。名前が思いつかず、好きな食べ物の名前を付けてしまったパターンだ。
そして卍は・・・黒歴史になるが命名した当時はカッコいいと思っていたからだ。本当は†にしようと思っていたが変換が分からずに卍になった・・・今となっては変換が分からなかったことに感謝している。
「あと一時間チョイ・・・かな・・・?」
<サンダーブレスⅥ>でモンスターを狩りつつ、左手を持ち上げ時間を確認する。
22:55:48
残り時間は約1時間。予想通りギリギリ間に合うかどうかといった瀬戸際だ。
立て続けにマイキャラクター画面を開き、現在の経験値を確認する。
『ドラゴン』Lv99 Exp99.95%
デーモンオンラインでは経験値は数値ではなく、レベルアップに必要な経験値に対する%で表示される。そのため、どのモンスターがいくつの経験値を持っているかを調べることは出来ない。
おおよそ、このモンスター何匹で0.01%といった計算でプレイヤーは経験値を憶測するしかない状態だ。
経験値を見たオレは溜息を吐き、そそくさと次の狩ポイントに移動する。
「はぁ、PT組めてりゃなー・・・」
経験値アップアイテムを使い込みつつ、PTを組んでいれば1時間で0.05%は非常に現実的だ。最上位のマップでフルPTを組んでいればおそらく30分もあれば終わるのではないだろうか?
だが、今はソロだ。
一応は最上位のマップではあるが、あくまで
『フェアリー・ウッドの森』、通称『森』。
『フェアリー・ウッド』と言う名前から、とてもメルヘンチックな森を想像すると思うが現実は魔逆だ。
不気味に捻じ曲がった木々がいたるところに生えて視界を遮り、天候は常に曇りか雷雨。
徘徊するモンスターもラミアを剥き身にしたような醜悪な怪物、やっかいなバフをばら撒くサキュバス、数種類の怪物をごちゃ混ぜにしたようなキメラetc...とても不気味な雰囲気を持つマップだ。
数年前は上位、最上位の狩場として
「森PT募集@タンク1、キャス1 ○○までよろ^^」
こんな具合にチャット欄を埋めていた人気マップだった。
しかし、今ではインフレゲー様様。
準廃装備以上で身を包み最上位職に転職していれば、ソロでサクサクと狩りコースを周回できるソロ専用マップと化した。
狩りの方法は単純だ。
まずは可能な限りモンスターを集める。
次に武技<能力超向上><竜血覚醒><竜息活性><超帯電>でステータスとスキル効果を上昇。
最後は超広範囲スキル<サンダーブレスⅥ>でまとめて壊滅。
全滅していなければ適当な武技や奥義を叩き込んで次の狩りポイントへダッシュ。
それを延々と繰り返す。いや、繰り返してきた。
「今日で最後と思うとここも急に懐かしく感じてくるな。地蔵を通って東の窪み、北森抜けてラミアの巣・・・」
ブツブツと呪文のように狩りコースの覚え方を思わず呟いてしまった。
これはとある攻略サイトに掲載された文章の一部だが、非常に覚えやすいと評判になり動画サイトに歌として投稿までされた代物である。
オレもこの歌でコースを覚えたクチだ。不慣れなころはPTメンバーと歌いながら進んだこともあった。
「一世紀前の幼稚園の遠足w」
「引率の先生はどこですか?」
「悲しいけど、これって皆園児なのよね...」
「みてみて!いいきのぼうをみつけたよ!」
(こんな風にバカみたいなチャットをして笑ったっけなぁ。)
「けっこうドライにプレイしてきたつもりだけど・・・スゲー楽しんでたんだなオレ・・・」
オレは他プレイヤーと深い繋がりを築くことはしてこなかった。
だが、何百、何千周としたこの狩りコースに色々な思い出がある。
(以前所属していたギルドのギルマスと出合ったのはこの森PTだったなぁ。)
(この石像の上で休憩中に毎回誰か寝オチしちゃう人が居たんだよなぁ。)
(あ、この狩りポイントで激レア素材がドロップしたっけな・・・そのあと分配で揉めてガチの喧嘩が始まったこともあったっけ。)
狩りコースを回りながらその場その場の記憶を思い出した。小さな繋がりばかりだったが、それでもオレにとっては大切な思い出になっていることを実感していた。
「次のゲームでもこんだけ楽しめんのかな・・・?いや、次はもう少し深く絡んでみるか・・・うん、そういうのも試してみよう。」
次のゲームの事も少し考えつつ、経験値を確認する。
『ドラゴン』Lv99 99.99%
「よし・・・あと少しあと少し!時間は・・・あ!!」
経験値の確認とほぼ同時に時間を確認し、驚愕した。
23:59:40
あと20秒だ。
思い出に浸りすぎたようだ。あっという間に一時間が経過したらしい。
今まとめているモンスターを狩ったら終わりだろう。恐らくレベルアップしても習得したスキルを見ることも試すことも出来ないだろう。
だが、レベルアップの効果音は聞けるはずだ。
「もうそれだけでいい・・・必ず聞く!」
モンスターは十数体。本来なら<サンダーブレスⅥ>が適切だが、武技で強化していないと倒す前に時間切れだ。
オレは後ろを振り返ると同時に襲いかかって来るモンスターの群れに突進する。
群れと激突する直前にタイミングを合わせ、垂直に跳躍。翼を使って高さを調整する。
適切なタイミング、位置を取るなら群れはほぼ一点に鮨詰め状態となる。
これは前列のモンスターは真上を向き動きを止めるが、後列のモンスターは反応が遅れ前のモンスターに追突する。これが連鎖的に起こることによってこの状況は成立する。
そう、強力な単体攻撃で一掃できる状態・・・
「コレで最後!奥義発動<
振り下ろされた大剣は一直線にモンスター達にゆっくりと向かっていく。なぜか走馬灯のようにゆっくりと動いて見えた。
やがて一体のモンスターの脳天にめり込み、縦に一刀両断。そして強烈な衝撃波が放たれて・・・
そこでオレのデーモンオンラインでの記憶は途絶えた。
ゲーム設定がチョット多すぎたかなぁ・・・
もう少し文字数抑えてサラサラと流し読みできるような小説を目指したいところです。