トカゲの護衛はドラゴン   作:ボンサイ

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クルシュとゼンベルはこの小説では重要な人物ではありません。そのため、出会いはかなり端折ります。
十話と十一話は両陣営の戦前状況説明みたいな感じになります。


第十話 戦争準備・戦前の乙女達

 オクト達が村を旅立って半日が経過した。

 

 泥まみれになりながら、ようやく目的地へたどり着いたらしい。そこは一見すると、”緑爪(グリーン・クロー)”族の村と同じような集落に見える。しかし、集落に掲げられた旗を見れば全く違う村だと理解できるはずだ。

 目的地は蜥蜴人(リザードマン)部族――”朱の瞳(レッド・アイ)”族の村である。

 オクトとザリュースは蜥蜴人(リザードマン)五部族による大連合を作るため、使者として”朱の瞳(レッド・アイ)”族、”竜牙(ドラゴン・タスク)”族の村へ向かっているのだ。

 

 これは昨晩の会議によって決まったことである。

 会議で”偉大なる御方”――アインズの軍勢に対抗するには”緑爪(グリーン・クロー)”族だけでは不可能だ、としてザリュースが他部族との同盟を提案した。これは先触れの発言した”二番目”という言葉から、他の部族にも使者が行っている可能性が高い、と判断したためである。

 しかし、”緑爪(グリーン・クロー)”族は”朱の瞳(レッド・アイ)”族、”竜牙(ドラゴン・タスク)”族との交流が殆ど無い。そのため、難色を示す意見も当然出てきた。その時、オクトが一言発したのである。

 

「ザリュースの案で良いじゃねぇか。メンドクセェ。」

 

 その一声で反対意見は消え去った。その後の使者の選抜に関しても同じだ。ザリュースが使者になると挙手したため、その護衛に付く、とオクトが発言すれば満場一致で可決された。

 蜥蜴人(リザードマン)達はオクトの化物じみた強さを痛感したため、一切、歯向かうことを止めてしまったのだ。オクトがYESと言えば蜥蜴人(リザードマン)もYESしか言えないほど恐怖している。これはザリュースも同じであり、しばらくの間は敬語とも取れる口調で話していたほどだ。

 

 オクトとしてはその口調が気持ち悪くて仕方が無かった。ほんの少し前までタメ口だった者が、突如として豹変すれば仕方が無い感情だろう。上に見られるのは悪くないが、せめて”英雄”という肩書きを貰ってからにして欲しい。

 そのため、今までどおりに話さないと切れるぞ?と脅迫し、口調を元に戻させた。初めは話し難そうにしていたが、なんとか目的地に付くまでに元に戻ったので良しとしておこう。

 

 

「これが”朱の瞳(レッド・アイ)”族の村ね・・・・・・あんまり変らねぇな。真っ赤な家しかねぇのかと思ったぜ。」

 

「オクト・・・・・・我等の住居は緑だったか?」

 

 牙をむき出してにやけるオクトの発言に、呆れながらザリュースが突っ込みを入れる。完全に元の口調に戻ったようだ。それに満足したのか、オクトはこれからの行動について意見を求める。

 

「冗談だってザリュース。緊張をほぐしてやろうと思ってな。――で、これからどうすりゃ良い?オレはお前の護衛だから村まで付いていきたいんだが・・・・・・・マズイか?」

 

「本来ならここでロロロと待っていて欲しいところだな。だが、そんなことをしたらロロロが怯えてどんな行動に出るか分からない。――不本意だが付いてきてくれ。交渉は俺がやるから静かにしていてくれよ?オクトが話すと面倒ごとが増えるからな・・・・・・」

 

「おうよ。交渉はお前に任せるぜ。ってかオレは護衛と殲滅(・・)以外やる気はねぇよ。」

 

「ああ、護衛と殲滅(・・)は任せたぞ・・・・・・」

 

 先ほどとは違う意味合いでオクトは牙をむき出しにする。

 オクトは基本的にザリュースの護衛以外をやるつもりは無い。だが、交渉が決裂した場合には・・・・・・その部族を壊滅させることをザリュースに依頼されている。これは同盟を組む事の”裏の狙い”に関係している。

 

 

 ザリュースはこの戦争勝つことよりも、負けた場合を想定して同盟を組もうとしてる。

 蜥蜴人(リザードマン)が敗北すれば、トブの大森林に逃げ込むしかない。その場合、食糧難という危機に直面するだろう。そんな時に複数部族がいがみ合う関係になっては大惨事になる。そのため、今の内に同盟を組んで共に戦えば、多少は食料を巡っての争いも少なくなるだろう、と予想しているのだ。

 

 しかし、同盟を組まない部族があればどうだろうか?

 

 アインズとの戦いから早々に逃げ出し、兵力を温存した部族が敗走先に居る、というのは厄介極まりない。敗北した蜥蜴人(リザードマン)に生きる望みが無いのだ。

 そのため、同盟を組まずに逃げ出す部族はアインズよりも先に打倒する必要がある。オクトなら村の一つや二つの壊滅は朝飯前だ。しかも、戦争の兵力を消耗することも無い・・・・・・これほど都合の良い殺し屋は居ないだろう。

 

 オクトとしてもこの案には賛成している。無闇な殺戮はオクトの望むところではないが、今回はしっかりとした理由があるうえに、成功すれば賞賛される手はずになっている。偉大なる御方に寝返った蜥蜴人(リザードマン)――裏切り者を屠った英雄として。

 

 

「でもよザリュース。オレが居れば負けることはねぇんだから、コイツ等を生かしてても良いんじゃねぇか?逃げ出したとしてもよ。」

 

「確かに、オクトが裏切らなければ殲滅する必要は無いかもしれないな。だが、お前は偉大なる御方を倒した後で、我等に敵対するかもしれない。・・・・・・お前を完全に信用することは出来ないんだ。理解してくれ。」

 

「ハハハッ流石ザリュース。まぁ、信用は戦争で稼がせてもらうとするさ。賞賛もだけどな。」

 

「それを期待しているぞオクト。――では交渉に向かう。時間は有るようで無いんだ。」

 

 ザリュースは毅然とした表情を作ると、村へ向かって歩を進めた。それとは対照的に、不敵な笑みを浮かべたオクトが従者として付き従う。明らかに不自然な光景だが、これがザリュースにとっての最善である。

 

 ジャバジャバと水音を立てながら村へ近づいていくと、複数の蜥蜴人(リザードマン)が集まってくる。オクトにとっては二度目の光景だ。明らかに敵意を向けられ、警戒されている。ザリュースが先頭に居るおかげか、今すぐ攻撃してくる気配はなさそうだ。

 そのまま正門の前までたどり着くとザリュースが声を張り上げる。

 

「俺は”緑爪(グリーン・クロー)”族のザリュース・シャシャ。この部族の族長と話がしたい!」

 

 その発言を受けて蜥蜴人(リザードマン)達が慌しく動き出す。しばらくの時間が経過して年配の蜥蜴人(リザードマン)一名と屈強な戦士十名が姿を現した。年配の蜥蜴人(リザードマン)は全身に白の染料で模様を描いているため、司祭頭だと思われる。

 司祭頭はザリュースを軽く一瞥すると、オクトに視線を移しじっくりと観察する。蜥蜴人(リザードマン)ではないため警戒してるのだろう。その司祭頭の動きを察知し、ザリュースが口を開いた。

 

「“緑爪(グリーン・クロー)”族のザリュース・シャシャ。ある話を持ってきた。」

 

 ギョロリと司祭頭の目がザリュースを捉え、数秒の沈黙の後、返答した。

 

「・・・・・・よく来たとは言わんが、部族を纏め上げる者が会うそうだ。ついて来い。――だが、その怪物は何ぞや?」

 

 一瞬だけ疑問の顔を浮かべたザリュースは即座に表情を戻す。そして、オクトの紹介を始めた。

 

「この男は――」

 

「オレはドラゴニュートのオクト・パスだ。」

 

 ザリュースの発言を遮るようにオクトが話し出す。ザリュースは険しい表情に追い込まれてしまったが、オクトが話し出したので止める術は無い。そのままオクトに喋らせ続けた。

 

「訳あって”緑爪(グリーン・クロー)”族の傭兵をやってんだ。よろしくな。ちなみに、今はザリュースの護衛をやってる。・・・・・・ザリュースに何もしなけりゃ、オレからお前等を殺すことはねぇから安心しろって。」

 

「・・・・・・この怪物には戦士階級を監視に付けさせて貰うぞ。良いな?」

 

「ああ、構わない。オクトもそれで良いな?」

 

 オクトを見たザリュースの顔からは”頼むから言うことを聞いてくれ”という言葉が発せられていた。一瞬、吹き出しそうになるものの、何とか堪えてオクトは了解する。

 

「別に構わねぇよ。相変わらずアウェイだな・・・・・・」

 

 

 オクトの左右に二人の戦士階級が付き、そのまま村へ入っていく。

 そして、立派な小屋へ案内された。そこはシャースーリューの家よりも一回り大きい家だ。明らかに族長クラスが住んでいる家だろう。

 ”朱の瞳(レッド・アイ)”の族長はザリュースと二人で話す事を望んでいるらしく、オクトは少し離れたところで戦士階級と待機している。

 

(まぁ、面倒な話は御免だからな・・・・・・その辺はザリュースに任せてのんびりしておこう。)

 

 

 小屋に入っていくザリュースを見送るとオクトは物思いにふける。今回の戦争に関してのことだ。すでに大きな失敗をしているのでこの行動は仕方が無いだろう。

 

(何でキレちゃったかなぁ・・・・・・正体不明の敵との戦争とか、全力で回避すべきだろうに・・・・・・)

 

 オクトはアインズに対して激怒した。その所為で蜥蜴人(リザードマン)の傭兵になる、と宣言してしまったのだ。これは非常に不味い行動だ。

 なぜなら、アインズの情報が無いのだ。もしかすると全世界の八割程度を治める、帝王である可能性だってあり得る。そんな人物と敵対すれば、この戦争で勝利したとしても一生狙われ続けるだろう。すでに撮影されているため、逃げたとしても手配されることは確実だ。

 

 それらを回避するために思いついたのは、蜥蜴人(リザードマン)を売るという方法だ。戦争の直前になってアインズに寝返り、蜥蜴人(リザードマン)の兵力や強者の情報を売る。そして、自らの安全を保障してもらう、というものである。下衆の極みとも言える考えだが、これ以上に良い方法を思いつかなかったのだ。

 

 しかし、オクトはこの考えを実行することは絶対に出来ない。その理由は非常に単純な事だ。

 

 

(やっぱアインズを殺したいって気持ちだけは無くならないんだよなぁ。一回、ブチギレするとこうなるのか、ドラゴニュートってのは・・・・・・)

 

 激怒してからのオクトは、アインズを想像すると殺すことばかり考えてしまう。どれほどの苦痛を与えてやるのか、どれほどの恥辱を与えて殺すのか――そんな事しか考えられないのだ。そんな相手の軍門に下るなど天地がひっくり返っても在り得ない。そんな事をするくらいなら一生かけてでも殺してやる、と思っている。

 どれほど寛大に考えてやっても「アインズが泣いて土下座をすれば、命を助けるか考えるくらいの事はしてやっても良いか」と思うのが限界である。

 

 早い話、許す気など無い・・・・・・敵対する以外に選択肢は無いのだ。

 

(リザードマン相手に一回、キレときゃ良かったなぁ。怒りをコントロール出来ないとこれから先もヤバイぞ・・・・・・気をつけないと。)

 

 おそらく、激怒さえしていなければ蜥蜴人(リザードマン)を売ることも出来たはずだ。激怒することで、余計な争いをこの世界の強者と起こしてしまった。――これは大いに反省すべき事だ。怒らないように普段から心構えをしておく必要があるだろう。

 

 

(怒りは何とかして我慢しよう。この戦争を計画通り進めなきゃならないし、余計なことでこれ以上キレるのは御免だ。・・・・・・場合によっちゃ逃げる必要がある訳だしな。)

 

 

 アインズの軍勢が第六位階魔法を使える、ということは分かっているが、その力は未知数だ。そんな相手に真正面から戦うのはオクトでも遠慮したい。もしかしたら第十位階魔法だって使えるかもしれないのだから。

 

 そこでオクトが考えたのは、蜥蜴人(リザードマン)達を捨て駒にするという計画だ。

 ザリュースが五部族連合を作ると提案したとき、オクトは内心では絶賛していた。アインズの戦力を測る駒が出来る、と思ったのだ。

 蜥蜴人(リザードマン)がアインズ達と戦っている間に戦力を分析し、勝てそうなら戦う、負けそうなら逃げる・・・・・・そんな馬鹿げた計画を立てている。蜥蜴人(リザードマン)の事などお構いなしである。

 

 そんな理由からオクトは戦争の序盤に参戦する気はない。しばらくの間は傍観し、勝てそうだと判断したら、蜥蜴人(リザードマン)が窮地に立たされている場面で参戦するつもりだ。これならば蜥蜴人(リザードマン)から見たときに、より英雄らしく映る事も可能だ。この辺りはザリュースと相談しておこう。

 

 

「ま、どーにかなるだろ。脅せば何とでもなるしな。」

 

 自らの計画を再確認し、オクトはポツリと呟いた。時折、バシンバシンッと音を立てる小屋を疑問に思いながら・・・・・・

 

(・・・・・・ザリュースのヤツ、小屋の中で何やってんだ?)

 

 

 

 

――翌日早朝

 

 

 

 

「眠そうだなザリュース。睡眠は大切だぜ?」

 

 オクト達は”朱の瞳(レッド・アイ)”族の村で一夜を明かした。今は正門で出発の最終準備をしてる。

 

 昨日、族長代理であるクルシュ・ルールーとザリュースが交渉し、”朱の瞳(レッド・アイ)”族と同盟を組む事に決まった。細かい話は深夜まで行われた会議で決まったらしいが、オクトは会議に参加していないので知らない。

 メンドクサイ、と思った事が参加しなかった理由だ。オクトは屋根の上でひたすら寝そべっていただけである。念のため監視を警戒している、と嘘を付いておいたが、ザリュースにはバレバレのようだ。

 

 

「寝そべっていただけのオクトに言われると信憑性があるな・・・・・・お言葉に甘えて、移動中はロロロの上で眠るとしよう。」

 

「それ、オレが暇なんだが・・・・・・?」

 

「睡眠は大切なんだろう?」

 

 いつも通りの談笑をしていると、オクト達に向かって誰かが近づいてくる。その人物は短冊状の布や糸を多数縫いつけて垂らした服に、雑草がところどころから生えている。・・・・・・草の塊と表現して差し支えない。

 しかし、その草の塊から足や尻尾が見えるため、蜥蜴人(リザードマン)が雑草を被っているという事だろう。足や尻尾が白いことからクルシュ・ルールーだと思われる。オクトは話でしかクルシュの事を聞いていないが、全身真っ白なメスの蜥蜴人(リザードマン)だと聞いている。

 これが初対面となるが、あまりに印象的な出会いにオクトは本心を呟く。

 

「“朱の瞳(レッド・アイ)”族の族長代理ってのは、こんな服装をしなきゃならないのか?随分とハイセンスな一族だな。」

 

「私がお洒落でこんな服を着ていると思うの?護衛のオクト・パスさん。」

 

 オクトの感想に対して皮肉めいた声が帰ってきた。どうやら、ザリュースと同じく冗談は分かるらしい。堅苦しい蜥蜴人(リザードマン)でなかったのは嬉しい誤算だ。

 

「本気でお洒落と思ってるなら感性疑うぜ・・・・・・族長代理のクルシュさんよ。オレはドラゴニュートのオクト・パスだ。はじめましてだが、クルシュで良いな?オレはオクトで良いからよ。」

 

「はじめまして、オクト。私は”朱の瞳(レッド・アイ)”族、族長代理クルシュ・ルールー。クルシュで良いわ。私には太陽の光が辛いの。だから外に出るときは大抵これを着ているのよ。」

 

 バサバサと草の塊が動きながら返答してきた。ここだけ見ると植物系モンスターに見えなくも無い。

 

「ザリュースから色々と聞いているわ。随分な問題児なんですってね。」

 

「別に問題起こした覚えはねぇんだがなぁ・・・・・・ザリュース、悪口を言いふらすのは良くないぜ?」

 

「お前に関する事実を話すとそうなるんだ、オクト。これに懲りたら行動を自重しろ。――おはようクルシュ。問題なく部族は纏め上げられたようだな。」

 

 オクトの問いかけをバッサリと切り捨て、ザリュースはクルシュと話し始めた。

 

「おはよう、ザリュース。特に問題も無く動いてるわ。本日中に”鋭き尻尾(レイザー・テール)”族の村まで出立できるはずよ。それと避難する者達も。」

 

 ”緑爪(グリーン・クロー)”族の司祭達からの魔法によって、”鋭き尻尾(レイザー・テール)”族が一番目の村になっている、と情報が入ってきている。そのため、全ての部族が”鋭き尻尾(レイザー・テール)”族の村に集まる手はずとなっているのだ。

 これは最初の村で軍勢を迎え撃つべきだ、との考えからだ。最後の村に集まるとそれ以前の村を全て焼き払われる可能性がある・・・・・・戦後の事を考えるなら、最初の村で軍勢を迎え撃つしか無い。

 

 

「それでクルシュがこちらに来た理由は?」

 

「簡単よ、ザリュース。でもその前に聞かせて頂戴。あなたはこれからどするつもりなの?」

 

 ザリュースとクルシュはオクトを無視して話し続ける。

 

「俺はこれから”竜牙(ドラゴン・タスク)”族の元に向かうつもりだ。」

 

「強さこそ全てという部族よね?全部族で最大の武力を持っているとされている。」

 

「ああ、そうだ。交流のない部族である以上、覚悟を――」

 

 

(あれ・・・・・・?なんか二人の世界に入ってね?)

 

 二人はオクトの存在を認識出来ていない気がする。むしろ、この世界に二人しか居ないかのような空気さえ漂っているではないか。

 オクトは・・・・・・いや、中津哲平は多少、男女の事が分かる。付き合った人数も二人ほど居る。僅か二、三ヶ月程度の事ではあるが男女の関係というものを知っているのだ。だからこそ、この空気は理解できる。

 

(この二人・・・・・・デキてね?)

 

 ザリュースは普段の警戒心が無く、朗らかな表情で楽しそうに話している。クルシュもオクトに対する声と比べるなら、明るく楽しそうだ。

 話している内容は次の目的地である”竜牙(ドラゴン・タスク)”族に関することから徐々に脱線して行き、ザリュースの眠気に関する所にまで辿り着いた。

 

ザリュースの眠気を心配するクルシュ。

 

クルシュの渡した眠気覚ましの実を食べるザリュース。

 

 微笑ましくも憎たらしい光景が目の前に広がっていた。気が付けば、ロロロの上に二人で跨っているではないか。オクトの事など完全に眼中に無い。

 前に座っているザリュースの腰にクルシュの手が回り、それに反応するザリュース。その反応を楽しげに笑うクルシュ。

 

 

――そして、それをただ見ているだけのオクト

 

 

(リア充ってトカゲとか関係ないな・・・・・・マジでウゼェ。)

 

 

 ロロロが前進する直前だろうか・・・・・・ようやくザリュースがオクトに気が付いたらしい。一言、声をかけてきた。

 

「オクト、出発するぞ?」

 

 普段の声とは明らかに違う。あの冷めた声ではなく、明るく温かい声だ。全く以って憎たらしい。

 その憎悪から、オクトは皮肉タップリに返答した。

 

「あー・・・・・・いや、ちょっと後ろから付いてくわ。流石にデキてるお二人さんの邪魔はしたくねぇんでな!」

 

「「な!」」

 

 ザリュースとクルシュ、二人の声が重なり合い、二人の間になんとも言えない空気が漂う。明らかに状況は悪化した。・・・・・・言葉の選択を誤ったらしい。

 

 

(・・・・・・コイツ等、アインズの次にぶっ殺してぇッ!!!!)

 

 結局、オクトはこの空気に半日以上耐えなければならなかった。一日ぶりにアインズを忘れる事が出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ナザリック地下大墳墓九階層ロイヤルスイート

 

 そこはナザリックにおいて特殊な階層である。大浴場やバーといった娯楽施設。そして、ギルドメンバーのリビングスペース等、生活感に溢れるものが存在しているからだ。

 そんな九階層のある一室で、アルベドが<伝言(メッセージ)>を使って会話を行っていた。

 

 

「――ええ、先ほど送った映像で全てよ。細かい情報に関しては、調査を行っていたアウラに聞いて頂戴。」

 

 アルベドは無表情で会話を切り上げ、<伝言(メッセージ)>を終了する。その表情には僅かの怒りと喜びが混じっているように感じられる。

 

「次はアインズ様に報告ね。」

 

 アインズとの会話を想像し、にやけるアルベド。先ほど感じた僅かの苛立ちなど消え去っている。アインズと話せる、という歓喜の前には些細なものだ。それどころか、アインズと話す口実を作ってくれたのだから感謝しても良い――などと思う始末である。

 アルベドはにやけた顔を微笑まで建て直し、<伝言(メッセージ)>を発動させる。そして、<伝言(メッセージ)>がアインズと繋がり、待ちわびた一声を聞く。

 

『――アルベドか。お前から連絡してくるとは・・・・・・例の件か?』

 

「はい、アインズ様。コキュートスからドラゴンと蜥蜴人(リザードマン)に関する情報提供を求められました。撮影した映像は全て送っております。蜥蜴人(リザードマン)の情報に関しては、アウラに求めるよう指示致しました。」

 

『ほぅ・・・・・・!そうか!』

 

 頭の中に響くアインズの声は、目に見えて明るくなった。思惑どおりにコキュートスが動いたことを喜んでいるのだ。

 その声を聞いたアルベドは表情を曇らせる。本来ならば愛しい御方の楽しげな様子に、自らも歓喜したい。――だが、それは出来ない。アインズを落胆させる一言を言わなければならないのだ。

 

 

『アルベドよ。増援の要請もあったのか?』

 

「・・・・・・増援の要請まではありませんでした。情報提供のみです。」

 

『・・・・・・ドラゴンの映像をコキュートスは確認していないのか?』

 

「いえ、ドラゴンの映像を最初に確認しております。それを踏まえて、情報提供を求てきました。」

 

『ふむ・・・・・・』

 

 予想通り、アインズの声は少しづつ暗いものになって行く。期待はずれだ、そんな失望を告げる言葉が今にも聞こえてきそうである。アルベドは内心、それに恐怖していた。

 

『コキュートスの敗北は確実になったか。イグヴァの条件緩和や死の騎士(デス・ナイト)の増援程度では勝てない、と分かっていながら・・・・・・いや、情報収集を始めただけでも良しとしておくべきか?しかし――』

 

 アインズはブツブツと独り言を呟き始めた。それから十数秒の沈黙の後、アインズはアルベドへ指示を出した。

 

『アルベド、今後コキュートスから増援の要請があれば、私に連絡するように伝えろ。――無ければそのままで構わない。コキュートスが何を考えているのか、見せてもらおうじゃないか。』

 

「――畏まりました、アインズ様。」

 

 ホッと一息ついてアルベドは返答した。抱いていた恐怖は杞憂に終わったのだ。

 

 

『守護者達が自ら思考するのは大切な事だからな・・・・・・そういえば、シャルティアとアウラの様子はどうだ?』

 

「シャルティアとアウラですか?」

 

 予想外の名前にアルベドは問い直してしまう。そんなアルベドを察し、アインズが説明する。

 

『いや、二人とも落ち込んでいるように見えたのでな・・・・・・何か変ったことは無いかと思ったのだ。』

 

「・・・・・・両者とも精神的な面で少々、不安がございます。」

 

『どういうことだ?』

 

「シャルティアはアインズ様に敵対し、戦闘したという事が、アウラは軽率な行動をとり、守護者でありながら敗北したという事が・・・・・・それぞれ、彼女達の中で許しがたい大罪となっているようです。」

 

『・・・・・・』

 

 アインズからの返答は無い。アルベドの言葉を聞いて絶句しているようだ。

 慈悲深い至高の御方。その御方に、彼女達へ罰を与えることを提案するのは心苦しい。だが、彼女達を罪悪感から救うことこそがアインズの望みでもあるはずだ。

 

「アインズ様へ進言する無礼を御許しください。――彼女達へ罰を与えるべきかと思います。アインズ様から罰を与えられれば、彼女達の罪悪感も解消されましょう。逆にそれが無いために、自分の中で罪が昇華できないのです。」

 

『・・・・・・分かった、二人には何らかの罰を与えよう。』

 

「はい。そうなさるほうがよろしいかと。出過ぎた真似をどうぞお許しください。」

 

『何を言う。今のような提案こそ私が求めているものだ。――アルベド、ナザリック地下大墳墓守護者統括にふさわしい働きだぞ。』

 

「ありがとうございます。」

 

 アインズが目の前に居るわけではないが、アルベドは頬を赤らめ頭を下げた。

 

 

『さて、二人に与える罰か・・・・・・アルベド。そういえば、二人は今、何処に居るんだ?今日は二人ともフリーのハズだが、それぞれ自室にでも篭っているのか?』

 

「い、今でございますか・・・・・・」

 

 その言葉にアルベドはピクリと反応する。もちろん、二人が何処に居るのかは知っている。だが、伝えるべきか迷う内容である。これを知ったアインズがどのような反応を見せるのか、予想も付かないのだ。

 

『どうした、アルベド?言葉を濁されると、私とて不安になるぞ?』

 

「これは失礼いたしました!シャルティアとアウラ、両名は今・・・・・・副料理長が管理するバーに居ります。」

 

『・・・・・・は?』

 

「副料理長から聞いたところ、最近、よく二人で入り浸っていると・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・はぁ!?』

 

 

 

――副料理長経営のバー

 

 ショットバーをイメージした部屋は、落ち着いた照明が室内を静かに照らし出している。酒を並べた棚にカウンター。そして、椅子のみのシンプルなつくりだ。如何にも”大人の店”という雰囲気を醸し出している。

 そこには二人の小さい客が居る。お世辞にも”大人”とは言い難い二人だ。一人はスピリタスを煽り、もう一人はコーラを煽っている。

 

ゴッゴッゴッ、げふー。

 

「チビすけはまだマシでありんすぇ・・・・・・私なんか、私なんか・・・・・・」

 

ゴッゴッゴッ、げふー。

 

「アンタと似たようなモンよぉ・・・・・・勝てないのあたしだけじゃない・・・・・・」

 

 カウンターに突っ伏しながら弱音を吐きあう少女達。両者とも酔っ払うことは無いのだが、完全に酔っ払って見える。おそらく、雰囲気に酔っているのだ。

 

「デミウルゴスまで勝ったのよ・・・・・・?マーレなんか余裕で・・・・・・ぐすっ」

 

「その二人は相性が良いだけでありんす。相性の悪いチビすけが気に病むことではありんせんぇ・・・・・・私は裏切り者・・・・・・ぐすっ」

 

「アンタだって世界級(ワールド)アイテムが相手じゃ仕方が無いじゃない・・・・・・」

 

 両者共に慰め合っている。普段は何かにつけて衝突する二人なのだが、今回ばかりは一時休戦となったらしい。

 再びドリンクを煽ろうとジョッキに手を伸ばす少女達。そこでジョッキが空になっていることに気が付いた。ゴツンッと二つのジョッキがカウンターに叩きつけられ、副料理長に催促が飛ぶ。

 

 

「「次ぃ!!」」

 

 

 こうして九階層のバーには新しい常連が追加された。管理者である副料理長はその二人を見ながら、今日も血管を浮き上がらせる。

 

(とっとと帰れよコイツ等ッ!!!!)




あとがき
こんなカンジでのんびりとした話が次回までつづきます。
リザードマンVSアンデッドは内容を色々と考えています。結果は同じですが、内容は少し変ったものになりそうです。




以下捏造設定※長いので興味が無い方は戻るをクリックしてください。


デーモンオンラインのステータスについて
1.ユグドラシルとの比較
 デーモンオンラインはインフレゲーと言ってますが、一部を除いて絶望的な差はありません。どうにかすれば勝てるんじゃないかな?という程度の差になっています。ここではユグドラシルの最大値を100と仮定して、小説に関係がありそうなステータスの差を書いています。あくまでもイメージと割り切って書いています。
1.1物理攻撃、魔法攻撃
 デーモンオンラインの最大値は300です。最大値なので、300になってる人は少ないです。オクトの攻撃を完全な無防備で受けない限りは、ナザリック勢も即死はしないと思います。防御魔法や装備を駆使すれば1、2発は十分に耐えられると考えています。
1.2物理防御、魔法防御
 デーモンオンラインの最大値は150です。そのため、アインズさんたちでもオクトにダメージを与えることは可能です。これはデーモンオンラインがダメージを受けることを前提にしているからです。いわゆるPOTがぶ飲みゲーですね。
 ロストメリュジーヌまでは攻撃力が大したことが無いのですが、それ以降の狩場になると攻撃力が急増します。もし、そのモンスターが転移していたらオクトも危険です。
1.3HP
 デーモンオンラインの最大値は3,000です。持久戦に持ち込んだらオクトの勝利は揺らぎませんね。超位魔法も百発以上耐える事が可能です。


2.オクトのステータス
HP 2300
物理攻撃 240
物理防御135
魔法攻撃 80
魔法防御 135
 おおよそこんなカンジです。最大値から程遠いように感じますが、そもそも最大値にするのが難しい設定です。亜人種ではなく異形種ならピーキーなステータスなので、一点特化で最大値にできます。オクトのHPや防御力なんかは、亜人種の中ではトップクラスになっています。

今回は以上です。
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