トカゲの護衛はドラゴン   作:ボンサイ

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二話は一話の2倍以上の文字数にしました。
リザードマンが出てくるまでは更新を早めで頑張る予定です。
そこからは週1ペースだと思います。


第二話 青空の下、たこ焼きはステーキを食べた

(ああ・・・オレ寝てる・・・)

 

 

暗闇の中、オレは自身が寝ていることに気が付いた。

体の体勢だとか周囲の明るさだとか、そんな感覚は機能していない。昨日のデーモンオンラインでのレベル上げだの机下のペットボトルを使用しただの、そんな記憶もまだ覚醒していない。ただ真っ暗だということを認識している状態。

しかし、真っ暗だと認識しているのはもう少しで目が覚めるサインだ。

 

暗闇を認識してから数秒後、徐々に感覚が機能し始める。

 

 

(仰向けで寝てる。)

(明るい・・・日差し?照明?)

(地面が冷たい。水ではない・・・が、水分を含んだ何かがある?)

(何の香りだ・・・?土?子供のころ屋内農場施設の見学で嗅いだ覚えがあるような・・・)

(風が吹いている・・・外なのか?なぜ外に・・・?)

 

 

様々な感覚をいっぺんに感じたオレは、多数の疑問から眉をひそめる。そして、ゆっくりと瞼を開いた。

 

 

「太陽・・・?」

 

目の前に映ったは薄く雲の掛かった青空と太陽だった。

美しいスカイブルーを保つ儚い天空。薄いヴェールのような白い雲がを慎ましやかにその身を着飾り、中心には数千以上もの繊細なカットを施したダイアモンド・・・太陽が輝いている。

 

 

(綺麗だ・・・)

 

見たことの無い美しさに目を奪われていた。こんなに綺麗な空を見たことが無い。ゲームや画像で綺麗な空を見たことはあるが、目を奪われるほどではない。直に美しい空を見るというのはこれほど違うものか。

 

目を開けてから十秒ほどは何も考えることが出来ず、目を見開いて空を眺めていた。草が風に揺れる心地よい音の中、とても良い気分だった。だが、瞬く間に疑問によって塗りつぶされる。

 

「いや・・・なんで空?ってか外?どこだよ?」

 

のそりと起き上がると、首を上下左右にゆっくりと動かしながら周囲を見回す。

 

「木と草・・・?森の中の開けた草原・・・いや原っぱか?」

 

オレが寝ていたところを中心に直径50メートルほどの原っぱが広がっていた。その周りは360度、全てを木々に覆われ森林が広がっている。先ほど感じた地面の冷たさは、原っぱを覆い尽くしている新緑の草のようだ。

 

そして、原っぱと木々に散乱したある異物をオレは発見する。とても見慣れたソレを見てオレの記憶は覚醒する。少し(・・)の驚きと共に・・・

 

「『ラミア』・・・?ってことはデーモンオンラインかよ!」

 

美しい緑の雑草に覆われた原っぱには、赤黒い肉塊が散らばっている。

周りの木々には肉塊ではなく綺麗に原型を・・・いや、醜悪な肉体を保った死体が木を背もたれに、2メートル前後の大きな下半身を前に投げ出して座っている。その正体はロスト・メリュジーヌ・・・デーモンオンライン(・・・・・・・・・)では通称『ラミア』と呼ばれるモンスターだ。

昨晩、狩りをしていた『森』でウジャウジャと存在するモンスターの一種だ。見た目は一般的にイメージされるラミア・・・妖艶な女性の上半身に太い蛇の下半身を持つ怪物。そんな怪物の皮膚と鱗を引っぺがし、鋭い爪を生やしたグロテスクなもの。それがロスト・メリュジーヌだ。おそらく、昨晩の最後に狩ったモンスター達だろう。

 

自身の姿も軽く確認してみるが、予想通り『卍たこ焼き丸卍』の姿のままだ。

装備品もそのまま。何一つとして変っていない。

 

 

「周回中に寝オチしてたのか・・・ってことはここは『森』か?」

 

(いや・・・違う・・・)

 

自ら口にした言葉を頭の中で即座に否定する。

ここは確かに森のようだが、オレの居た『森』はあの『フェアリー・ウッドの森』だ。青空なんて天候は存在しない。周囲の木々も多少曲がってはいるものの、醜悪に捻じ曲がっているわけではない。

さらに周囲に徘徊するモンスターも見当たらない・・・『森』ではありえない光景だ。

 

そして、『ラミア』の死体がある。

『ラミア』を見る限り完全に死んでいるようだが、まずそれがおかしい。デーモンオンラインでモンスターを倒した場合、そのモンスターは消滅する・・・死体として残ることはありえない。

 

 

「・・・ログイン中に新パッチが当たったのか?サービス終了も延期になった?」

 

そんな風に考えると辻褄が合う。

サービス終了が延期になり、強制ログアウトされることなくログイン状態が維持された。さらに新パッチも同時に導入されてマップの仕様が変更、モンスター討伐の際のギミックも変った。

無告知でやったということは・・・サプライズ?イベント中にたまにあった事なのだが、リアルタイムアップデートを無告知で行い、ギミックやアイテムを追加するというサプライズがあった。今回もその類なのだろうか?だが・・・

 

「なんだ・・・?一ヶ月前の告知は冗談ってことか?・・・ざけんなよ。ちょっとやり過ぎじゃねぇか?」

 

そう、やり過ぎだ。

サービス終了を見たことによって、廃人プレイヤー達の廃装備バラ撒き、カンストプレイヤーのキャラデリ・・・そんな取り返しの付かないことが行われていた。オレもLv99で無ければバラ撒きぐらいはやったかもしれない。

普段なら激怒・・・ブチ切れする内容なのだが、不思議と少し(・・)苛立つ程度の怒りしか感じなかった。それはこの時は全く疑問に思わなかった。

 

「とりあえず、運営に苦情いれるか・・・は?」

 

運営へ苦情を送るべくコンソールを操作しようとしたオレは、動作を停止させる。今、目の前で起きていることが理解できなかった。

 

コンソールが浮かび上がらない。

 

「・・・時間の確認は?」

 

ゆっくり左手を上げ時間の確認をするが、これも時間が浮かび上がらない。

立て続けに他の機能を呼び出そうとする。

コンフィグ表示、チャット機能、システム強制アクセス、強制終了・・・全てダメ。

 

どれも反応しない。

ユーザー側で操作できるシステムが完璧に無くなってしまったかのようだ。

 

「どうなってんだ?」

 

オレは目を閉じて腕を組み、慌てることなく冷静に頭の中の情報を整理していた。目が覚めてからの出来事を順番に思い出していき・・・素朴な疑問を抱いてしまった。

今の状況と関係があるのか分からない・・・しかし、深く考えるほどに不自然で・・・そして恐ろしい疑問・・・

 

 

「なんでオレは冷静(・・)なんだ・・・?」

 

 

本当に素朴な疑問だった。

オレは目が覚めてからほとんど感情の起伏が無く、冷静でいられた。

 

 

未だデーモンオンラインの中に居たことに対して少し(・・)驚いた。

サービス延期というサプライズに対して少し(・・)苛立った。

感情が出たところといえばその程度だが、普通なら少し(・・)ではなくとても(・・・)ではないか?

 

 

目が覚めて見知らぬ森に寝ていたという状況に驚愕する。

『ラミア』の死体というグロテスクな物に恐怖する。

コンソールが効かないといった操作不能の事態に焦燥を覚える。

一般人ならこんな感情を抱いていたはずではないか?

人として反応すべき所でオレの心は反応していないなかったのだ。

 

そして、その事実を知ったにも関わらずオレは冷静に次の行動を開始していた。

 

「『ラミア』の死体・・・」

 

オレは木を背もたれに座っている『ラミア』の死体に近づき、しげしげと『ラミア』の上半身を見た。

はっきりといって『ラミア』の上半身は皮膚を剥ぎ取られた人間の女性といって差し支えは無い。そんな死体を直視・・・じっくりと観察する。この時点で異常だ。

本来なら即座に嘔吐しているだろう。恐れおののき腰を抜かしているだろう。絶叫を上げ騒ぎ立てるだろう。チビる自信だってある。それほどまでに恐怖するはずだ。

だが、今オレが抱いている感情は全く違う。最も近いものを挙げると・・・

 

 

酔っ払いの吐しゃ物を見て気持ちが悪い

 

 

この程度の感情しか『ラミア』の死体に抱いていないのだ。

そして、あろうことかツンツンと『ラミア』の顔をつつきながら呟き、笑った。

 

「やっぱりだ・・・全然、怖くない。ハハッ気持ち悪りぃだけだなコリャ。」

 

子供が虫の死骸をつついて遊んでいる光景がかさなる。そのときの子供の表情・・・いたずらっ子の笑顔。オレはそんな笑みを浮かべていた。

 

(さてさて、どういうことだ?キャラクター操作以外は出来なくて、感情が無い・・・っていうより図太い神経になったのか?とすると・・・)

 

「アレか!ゲームが現実になったってお話か!しかもドラゴニュートだからな!心が人間捨てちゃってるんだな!」

 

冗談めいたトーンで声を張り上げてみる。誰も返してくれないので少し寂しくなった。

軽い気持ちで言い放った冗談だったが、その冗談を冷静に考えると意外なほどしっくりとこの状況に合ってしまう。

 

ドラゴニュート。人外になったのだから人間の死骸(・・)にそっくりな『ラミア』の死骸に恐怖は抱かない。ただ気持ち悪いだけ。最上位種族であるドラゴニュートは全てにおいて下位種族である人間のはるか上に居るはず・・・それは精神面においても同じだろう。なので少々の事で感情は揺らがない。

ゲームではなくこれは現実。現実ならコンソールなんてものが、何の機器も装着せずにポンと出るわけがない。

 

(・・・なんとなく辻褄があってるぞ。)

 

「いや、待て・・・ここは『フェアリー・ウッドの森』じゃねぇぞ・・・?ってことは、ゲームが現実になっただけじゃない?・・・異世界!?」

 

 

そこまで言ってからオレは冷静に考える。ゲームの姿が現実となりさらに異世界に転移するなんてことが起こりえるだろうか・・・と。

 

 

ない

 

 

そんなメルヘンチックな?ぶっ飛んだ?どっちでもいい。そんなことは無いと断言できる。

だが、この状況はなんだ?

 

 

しばらくの間、頭の中で自問自答を繰り返しつづけ、結局、結論が出ないという結論にいたった。結論を出すにはまだ情報が足りないのだ。何か決定的な情報を掴むことが出来ればこの状況を理解できるはずだ。

 

「さて、情報か・・・どうすればいいかな・・・あ!」

 

顎に手を当てながらそんなことを呟き、気がつく。

 

「口動いてんじゃん!」

 

口をパクパクと動かし、歯・・・牙をカチカチと鳴らしてみる。

デーモンオンラインにおいて、口は動かない仕様だ。動かせるのはごく一部のNPCのみとなっている。これで少なくても従来のデーモンオンラインでは無いことが証明された。

思い返してみれば、寝起きから口はずっと動いていたように感じ・・・

 

「ってニオイ!」

 

叫ぶと共に顔面を地面に叩きつけた。そして鼻から空気を吸うと土の香りが口の中まで入り込んできた。寝起きで思い出したが、オレはその時にも土の香りを感じていたような気がする。

嗅覚というのは当然ながらデーモンオンラインでは実装されていない。というより実装しているDMMO-RPGなんて聞いたことも無い。

嗅覚の実装には色々な問題があるようで、今の技術では実装が難しいとどこかのサイトで見た覚えがある。四六時中、一定の強さの特定の香りを感じるようには出来るらしいが、実験段階で気分が悪くなる人が続出したとか何とか書いていた気がする。

つまり、地面に近い位置に鼻があると香りがして、地面から鼻が遠ざかると香りが消える・・・なんてことはゲームでは不可能なのだ。

 

「じゃあやっぱ・・・これはゲームじゃない・・・のか・・・」

 

認めたくは無いが嗅覚という事実がそんな結論を導き出す。

 

さらに追い討ちを掛けるように思い出してしまったが、原っぱに寝ているときに冷たさを感じていた。冷たい、熱い、なんて感覚は嗅覚と同じくDMMO-RPGには実装不可能だ。厳密には実装禁止。バグや不具合で想定以上の温度を感じてしまうと、大変なことになる可能性があるからだ。ゲームの温泉に入ったら溶岩並みの熱さだったとか洒落にならないからな。

 

(これは現実。残念ながらゲームじゃない・・・か。・・・残念(・・)か?現実・・・『中津哲平』の世界になにか未練があったか?)

 

両親は居る・・・が、今は兄夫婦と同居し何不自由ない生活を送っているはずだ。兄の会社はそれなり大きいし、オレ一人居なくなったところで路頭に迷うことは無いだろう。そもそも兄や両親とはソリが合わない。

親友と呼べるものは居たが・・・それも学生の頃の話。年を重ねるごとに合わなくなり、今では思い出の一部。合えなくなって寂しいということは無い。

会社に在籍している。だが働くのは生きるため。別に命を掛けるほどのやりがいを感じたことは無い。人付き合いにしてもデーモンオンラインと一緒で、ドライな関係を築いている。仕事は仕事の関係と割り切って、部下だろうが後輩だろうが同僚だろうが敬語で話してる。飲み会やプライベートの席であっても敬語だ。友なんて思ってる人は居ない。

 

思い返してみれば未練は全く無い。強いて言えばデーモンオンラインが出来なくなるのが未練だ。

 

「これは・・・新しい人生のスタートって考えてもいいんじゃねぇか?いや、(じん)じゃねーけど・・・」

 

(うん・・・これは新しいスタートだ!ドラゴニュートなんて強い生物に生まれ変わって異世界で生活する・・・自由度MAXの神ゲー(・・・)じゃねーか!)

 

元の世界に未練が無いことを確認すると、一気に吹っ切れてしまった。もう元の世界なんてどうでも良くなってしまったのだ。そんな事よりも、この世界の事を知りたいという気持ちがマグマのようにふつふつと沸き上がってきた。

 

ここまでの言動と心の有り様は人間としては異常という部類に入るだろう。事実、心の奥底に居る人間『中津哲平』は自らに嫌悪、恐怖を抱き元の世界に戻ることを願っている。

こんな見ず知らずの所に突然飛ばされ、怪物として生活をするなど馬鹿げていると。人間として元の世界で平凡にくらいしたいと。

 

しかし、ドラゴニュート『卍たこ焼き丸卍』の世界を知りたいという好奇心、何のしがらみの無い自由にを得たことによる開放感、強靭な肉体と精神を手に入れたことに対する愉悦、そしてそれら全てを内包した歓喜は圧倒的狂喜へと昇華し『中津哲平』を一瞬にして葬った。

 

 

「ハァーッハハハハハハハハハッ・・・っと、まずはここが異世界なのかゲームの世界なのかしっかり確認しねぇとな。」

 

ドラゴニュートの精神をして漏れ出した笑い声を、この世界への好奇心で押し殺す。今だ牙をむき出しに笑みを浮かべている・・・傍目には邪悪な笑みと形容される表情だ。

 

「単純にここが『森』の進入不可地域(・・・・・・)って線も捨てがたいしなぁ。」

 

デーモンオンラインのマップは広いが、ほとんどのマップで進入できない地域がある。見ることは出来るが入ることは出来ない・・・マップをより広く見せるための工夫といったところか。

ゲームが現実になったのなら、そこにも入れるようになっているかもしれない。そして、オレの居るこの場所が進入不可地域なら見たこと無くて当然だ。進入不可地域なんてほとんど眺めたことが無いのだから。

 

「周囲を確認するなら高い所からだよな・・・なら飛んでみるか!」

 

もちろん空の飛び方なんて知らない。翼の大きさだって空を飛ぶには小さいように感じる。しかし、ドラゴニュートの設定として、魔法やアイテムを使用しなくても空を飛べるように設定されているのだ。きっと何とかなるだろうと気楽に考えていた。

 

予想通り、空を飛ぶことは出来たが・・・現実は予想を遥かに超えた。

 

飛びたいと頭の中で考えると全てが分かるのだ。

どんな風に翼を動かすのか。風向きによってどのように羽ばたきを変えれば良いのか。最も飛びやすい姿勢はどんなものなのか。速度を出すにはどうするのか。

 

頭の中で歯車がかみ合うような感覚。

 

そんな爽快感が全身を包んだ。

 

オレは顔を真上に向けると、深く屈みこみ勢い良く跳躍する。

 

昨晩の狩りのときとは違い、翼はより高く飛ぶように、より速く進むように動き出す。

 

 

それから僅か数秒後・・・オレは雲を突き破った。

 

 

「おっと、高く飛びすぎたか・・・ハハハッ。足元が雲じゃねーか。もうチョイ下に行かねぇとな・・・」

 

足元に穴の開いた雲がある。雲といっても薄い雲なので地上の様子は透けて見える。だが少し見づらいので高度を下げ雲の真下へ移動した。空を飛べたことに対する喜びもあったのだが、強靭な精神になってしまったせいか軽い笑いが漏れる程度に収まってしまった。

 

(恐怖が鈍るのは良いんだが・・・喜びまで鈍るのはなぁ・・・)

 

喜びをダイレクトに感じることが出来ない事を恨めしく思いつつ、目的である地上の観察を行うことにした。

 

(んー・・・『森』じゃない。んでもってデーモンオンラインじゃ見たこと無いマップだな。)

 

広がった光景は広い森林だ。特徴的な地形もいくつか見える。

少し焦げた枯れ木地帯。森の中の円形の砂漠と焦げた大地。雪の積もる2つの長い山脈。ひっくりかえした瓢箪型の湖。目が留まったのはそのくらいだ。

ゲーム内のマップでは合致する地理は思い浮かばない。どうやらゲームが現実になったのではなく、ゲームの姿のまま異世界に来てしまったようだ。

 

「ちょいと移動してあの二箇所見に行くか・・・いや、スキルが使えれば・・・」

 

オレは空を飛べた。ならば魔法、武技、スキルも使えるのでは・・・?ふとそんな考えが頭をよぎった。

考える。使用できる魔法、武技、スキルの全てを。

分かる。分かってしまう。空を飛ぶときと同じで全てが理解できている。

どうやって発動するのか。

どれだけのMPやTPを消費するのか。

その効果はどんなものなのか。

 

 

「よ~し・・・ならスキル<鷹の目(ホークアイ)>」

 

スキル<鷹の目(ホークアイ)>。名前から予想できると思うが、遠くを見ることが出来るスキルだ。ゲーム内ではあまり使い道が無いスキル・・・ゴミと分類される。デーモンオンラインではスキル間での性能差が激しく、覚えているだけというゴミスキルは多数存在する。魔法や武技も同じだ。

しかし、異世界ではその価値観を変える必要があるらしい。ゴミスキルである<鷹の目(ホークアイ)>が最初に役立つのだから。

 

<鷹の目(ホークアイ)>を発動させたまま真下を観察してみる。先ほどまで居た原っぱだ。そこに散らばる『ラミア』の死骸も良く見える。望遠鏡のように拡大して見えるわけではなく、はっきり見えるのだ。遠くにあるものでもぼやけずにはっきり見える・・・視力が20.0といった非常識な値になった感じだ。ゲーム内では望遠鏡を覗いたような視界になるのだが、異世界では効果が異なっているらしい。

オレははっきりと見える『ラミア』を眺めこれならばと微笑み、気になった二ヶ所をそのまま観察してみる。

 

(あの枯れ木地帯は何だ?中心になんか・・・隕石が落ちた?カンジに見えるな。それにあの砂漠は・・・不自然だな。周辺の大地も焦げてるし。)

 

まずは枯れ木地帯。森なんだから枯れ木ぐらいあるだろうが、規模が大きい。さらに中央部分は黒く焦げ、地面に浅いながらもクレーターが出来ている。見たことは無いが隕石が落ちた現場そのものだ。枯れ木もその影響で出来上がった代物だろう。珍しい自然現象(・・・・)の一つだ。

 

次にポツンと見える砂漠だが・・・極めて異質だ。驚くほど綺麗な円形をした砂漠。不気味なことに木の一部だけが砂と化し、それが原因で枯れたかのような木もある。

そして黒焦げになり、一部がガラス化した大地が砂漠に隣接するように存在していた。地面にクレーターは見当たらないため隕石が落ちた痕とは違う。火災と思えなくも無いが、それで地面がガラス化するだろうか?どうにも自然現象(・・・・)と呼ぶには無理がある。

 

つまり、誰か(・・)意図的(・・・)何らかの理由(・・・・・・)で「円形の砂漠」と「焦げてガラス化した大地」を作った(・・・)のだ。理由までは分からないがほんの少し警戒する。

 

「意図的にあんなことが出来るのか・・・この世界にかなり強い住人がいる?自然じゃないならそうなるよな。」

 

ゲームのままの姿で異世界に来たのだから、オレは強いだろう。あのくらいの面積ならオレだって黒焦げに出来るし、ガラス化するほどの炎を出す自信もある。

だが、砂漠化なんてことは出来ない。そんな魔法やスキルなんて持ち合わせていないし、そもそもデーモンオンラインには存在しない。

もしかするとこの世界には、オレをあっさりと殺せるような魔法だってあるのかもしれない。そして、それを使いこなす住人も居るのではないだろうか?そうなるとこの世界の基準でオレは強いのだろうか・・・?

 

(異世界の魔法やスキルか・・・その辺の情報を住人に接触して仕入れないとな。あとはオレ自身の強さのチェックも必要だ・・・)

 

自らの考えを確認した直後、オレはすぐに辺りを見回した。

 

(・・・空を飛んでいるのは俺だけ。あとは鳥か。)

 

背中をゾワリとしたものが少し伝ったのを感じ、オレは急降下して『ラミア』の死骸のある原っぱに降り立った。

空を飛ぶ生物が鳥以外に確認できなかったため、空を飛ぶのはこの世界では異常なのではないかと思っての行動だ。

また、ここはドラゴニュートが存在しない世界だと仮定すると、そんなヤツが空を飛んでいるのは不味い。見たことの無い生物が空を飛んでいたらどうだろう?好戦的な住人なら真っ先に攻撃を仕掛けるだろうし、そうでなくてもやっかいごとに巻き込まれそうな予感がした。

 

「空を飛ぶのはなるべく控えたほうがいいな・・・砂漠を作れるようなやつに見つかって不意打ちとか想像したくねぇぞ。」

 

砂漠を作った住人が好戦的である確証は無いが、好戦的だと仮定した。ここは異世界・・・未知の世界だ。想像はなるべく悪い方に考えるのが安全だ。しかし、恐怖感があまり強くないので、どこまで意識できるのかが心配なところだ。

 

(恐怖を抱きにくいのも問題だな・・・ヤバい事を問題ないと認識しちゃうと取り返しが付かないぞ。それにこの世界の住人には会いたいが、強い住人と接触するのは今は避けたい。幸いここは深い森の中の原っぱ。無闇に飛ばなきゃ見つかりゃしないだろう。強さのチェックもここでやれば大丈夫か。だがどうやってチェックする?そうだ『ラミア』の死骸相手に攻撃して・・・)

 

グゥ~・・・

 

真剣に今後のことを考えようとした矢先、緊張感の無い音が響いた。随分と大きい音だ。まるで自分の中から音がしたような・・・

 

「・・・腹減った。」

 

正体はオレの胃袋だった。

どうやらドラゴニュートは人間と同じく、食事が必要らしい。

 

(こういう時はゲームのほうが良かったな・・・食べ物は少ししか持って無いぞ・・・って所持品はどうなったんだ?)

 

ゲームなら右手を自身の前に突き出すと、その空間に手が入っていきアイテムを取り出すことが出来る仕様になっている。果たしてここでは機能するのだろうか?コンソール等の機能が無くなってしまったというのに・・・

 

「まぁ、やってみっか・・・お!いける!」

 

何も無い空間に手を突き出したはずなのだが、手が空間にめり込んでいく。どうやら所持品を意識して手を突き出すと、ゲームと同じように所持品ボックスに繋がるようだ。

無理やりだがこの世界的には、「所持品ボックス」という魔法アイテムを使っている扱いなのだろうか?

 

(え~と・・・食べ物は・・・)

 

所持品ボックスをガサゴソと漁り、目当ての物を取り出す。

 

「ジューシービーフステーキ!!」

 

熱く熱された鉄板の上に、厚切りのステーキが乗せられたものを取り出した。

ゲームでは取得経験値が増えるという効果が付いている料理だ。料理によっては大幅にステータスを上昇させるものもあるが、ジューシービーフステーキのステータス上昇効果は微量だ。経験値目的以外で使用することは無い料理だろう。レベル上げの関係上、所持品ボックスに20個ほど突っ込んだ記憶がある。

 

「ヘヘヘ・・・寝起きでステーキとは贅沢だな。ウホッ!レアだ!たまんねぇ!!そしてウメェ!!」

 

舌鼓をならしつつ、厚切りのレアステーキを二口で食べ終わった。一枚で500gは在りそうな大きさだがまるで腹の足しになっていない。ドラゴニュートは食費が随分と掛かるようだ。結局、8枚ほど食べたあたりで満腹感を覚えて食事を終えた。

 

「あ~喰った喰った。ゲフゥ・・しっかし、食料の調達も考えないとなぁ。さて・・・とっ。」

 

オレは立ち上がると『ラミア』の死体に向かって歩き出す。食事中は行儀よくしゃがんで食べていたのだ。そして、木を背もたれに座っている『ラミア』の死骸の前に到着する。

食事中に強さを確かめるのにちょうど良い方法を思い付いたのだ。それも数種類の魔法や武技、スキルを使用できる方法だ。オレの強さも全力とは行かないが、半分くらいなら試すことが出来そうな妙案だ。

 

 

それは・・・

 

 

「蘇生魔法で『ラミア』が蘇るといいんだがなぁ・・・」

 

『ラミア』の蘇生だ

 

オレは戦士兼モンスター系の「高火力タンク」と「武技、スキル系アタッカー」としてロールを育成してきた。そのため、使える魔法の数は少ない。しかし、職業取得の関係上、蘇生魔法と中位までの回復魔法を使うことは可能だ。

つまり、『ラミア』を蘇生して回復し戦闘する。これが思いついた妙案だ。

 

だが、問題が2つ。

 

まずはモンスター相手に蘇生魔法が使用できるのか不明であるという点。

ゲームでは蘇生魔法はプレイヤーを対象に発動する魔法だ。そのため、現実においてモンスターが対象と見なされるのか分からないのだ。モンスターを対象とした蘇生魔法があればと思ったが、自動でPOPするモンスターを対象にする蘇生魔法、そんなものがあったら意味不明だ。

 

次に蘇生魔法の効果が微妙という点だ。

デーモンオンラインでは蘇生魔法は一種類<リザレクション>のみである。これは取得職業や職業レベルに応じて効果が上昇していく仕様になっているためだ。なので同じ<リザレクション>でも育成方法によって効果が異なる。

オレは僧侶だのプリーストだのと回復や蘇生に関する職業なんてほとんどレベルを上げていない。よって非戦闘中のみ使用可能で、HP1で蘇生させるという微妙な効果しかない。

このHP1という効果が現実ではどの程度の状態になるのか予想できないのだ。瀕死で動けません、回復も上位じゃないと間に合いませんなんて状態では困る。

 

(だが、やってみる価値はあるか。戦闘が出来なくても蘇生魔法や回復魔法の仕様は理解できるだろうしな。)

 

どちらに転んでもメリットはあるんだ。単純に大きいか小さいかの違いだけだ。

自分にそう言い聞かせるとオレは魔法を使用する。数秒の詠唱時間の後、その魔法は発動した。

 

「<リザレクション>」

 

『ラミア』の肉体を青白い光を放つ霧のようなものが包む。その霧が『ラミア』の肉体をグルグルと周りはじめた。

蘇生魔法はモンスターでも対象になる。この状況がそれを支持している。そして霧が霧散する。

 

「ヒュー・・・ヒュー・・・」

 

「蘇った・・・!」

 

目は閉じたまま、一切の動作はしていないが、細く途絶えそうな呼吸音だけは聞こえる。どうやらHP1での蘇生は「瀕死で動けません」という状態になるようだ。このまま放っておいたら死んでしまうのだろうか?

 

(実験目的での蘇生も今度やってみるか・・・このまま放置して死ぬのかどうか・・・っといけね。早く回復っと。)

 

立て続けに回復魔法を使用する。中位魔法<メジャーヒーリング>を発動する。<リザレクション>と比較すると遥かに短い詠唱時間が経過し、『ラミア』は緑の光を纏った。そして、閉じていた目を大きく見開いた。

 

「よしよし成功!あとはこれで全快させてやれば良いサンドバッグになるんじゃ・・・」

 

オレの言葉はここでかき消された。今までに聞いたことが無いほどの甲高い絶叫に。

 

 

 

「キィィィィィィィィィィィイィィィィィィィィィィイイイイィイィィィアァアァァァァァァァッ!!」

 

 

 

声の主は『ラミア』だ。耳を突き刺す奇声を上げ終わると、酷く充血した目玉をオレにむける。その表情は激しい憎悪に染まっている。

 

オレはその『ラミア』の表情から感じたことのない感覚を感じた。

 

全身を針で突き刺されるような、手で心臓を掴まれたような・・・そんな冷たい感覚。

 

 

 

オレはこの時、生まれて初めて殺気を感じ取ったのだ。

 

 

 

この感覚が現実(・・)の殺気なのだとオレの頭は冷静に受け入れていた。そして『ラミア』・・・ロスト・メリュジーヌの行動をじっくりと観察した。じっくりといっても一秒にも満たない短い時間だ。

 

ロスト・メリュジーヌは憎悪に染まった顔を向けたままゆっくりと両腕を広げた。

助けてくれた恩人を抱きしめるような優しい広げ方ではない。猛獣が獲物に襲い掛かるような凶暴な広げ方だ。

木にもたれ掛かっていた上半身はすでに木から離れ、オレに向かってきている。木を背中で蹴って向かった来たようだ。

下半身はこの一連の動作の間に、上半身を支えていた木へ接触する。巨大な筋肉の塊である下半身を使い、木を踏み台として更なる加速を得るつもりらしい。

強力な突進の推進力を両腕の鋭利な爪に乗せて攻撃をしてくるのだろう。

 

走馬灯のようにゆっくりと全ての動作が見えた。

昨晩の最後の一撃もこんな風に見えたことを思い出し、新たな事実に気がついた。

 

 

(そうか・・・あの時から異世界(ここ)に居たんだ。)

 

 

 

 

 

ロスト・メリュジーヌの魔爪がオレの体に触れた




二箇所のナザリックの爪痕をさっそく見つけました。
リザードマンはまだ見つけてません。
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