(腕を広げたタイミングで<能力超向上>。木を蹴り飛ばしたタイミングで<剛腕剛撃>と<魔爪斬撃>・・・この一瞬で3つの武技を重ねられるのか・・・)
オレはまだ観察を続けていた。
先ほどまでの肉眼による観察ではなく、<竜眼>による観察だ。
スキル<竜眼>は常時発動型のスキル・・・パッシブスキルである。その効果は対象が使用した魔法、武技、スキルの全てを看破するというものだ。PvPでは非常に重宝したスキルの1つだが、異世界では対モンスターとしても役にたちそうだ。
(でも・・・まだ武技しか使ってねぇな。まぁ、突進のことも考慮に入れりゃあ強いほうか・・・?)
ゲーム内では単純に武技<斬撃>を使用するのも、助走を付けて突進するように<斬撃>を使用するのも威力は変らない。ただの<斬撃>として等しく扱われる。
しかし、現実となったのなら違うだろう。<能力超向上>によって強化された肉体。そこから生み出された強力な推進力は、凶暴な破壊力として機能するはずだ。
「武技<要塞>」
オレは最下位の防御用武技<要塞>を発動させる。最上位の<神域要塞>でも良いのだが、なるべく互角の勝負をしたいと思ったからだ。
ロスト・メリュジーヌは何の装備も持たないモンスター。それに対してオレは廃装備と分類される防具を装備したプレイヤー。武技を使用しなくても問題なさそうだが、現実という未知を考慮して<要塞>を発動している。
すでにロスト・メリュジーヌの<魔爪斬撃>を纏った爪がオレの長い首に触れ、両サイドから切断しようとしていた。オレは一歩後ろに下がると腕当てを装備した両腕を持ち上げた。そして、腕当てをロスト・メリュジーヌの鋭利な爪に押し当てるようにして防御した。
ガキィィイッ
高速で金属がぶつかり合う様なけたたましい音と共に、オレは土を抉りながら1mほど後ろへスライドした。爪撃を防ぐことは出来たのだが、突進の威力をその場で留めることが出来なかったのだ。結果、ロスト・メリュジーヌに押されるようにして移動してしまった。
(予想以上に威力があるな・・・生身で受けるのは危険か。<要塞>無しなら防具で受けないとダメージが入りそうだな。)
手四つのような体勢で冷静に戦力の分析をしていると、ロスト・メリュジーヌは次の攻撃に移る。
未だ<能力超向上>で強化された肉体を使い、大きな下半身を武器として横なぎに振り回してきた。もちろん、新な武技のオマケつきだ。
(次は<超強打>のみ・・・ただ吹っ飛ばすだけのゴミ攻撃だな。ちょうどオレも移動したかったし当たりに行くか。)
自身の右前方から迫る大きな肉塊に、タイミングを見計らい当たりに行く。そのまま待機していればむき出しの横っ腹に直撃することになるので、腰を落とし体を捻って胸部を覆う鎧をぶつけに行った。
ドゥッ
そんな鈍い音が響き、オレは中を舞った。高さにして10m、距離にして20mほど吹き飛ばされて、オレは目的地にスッと降り立つ。強打の軌道を観察し、目的地に吹き飛ばされるであろうタイミングで当たりに行ったためだ。
「武器は基本的に持ってた方がいいな。座り難いからって置くんじゃなかったぜ。」
やれやれと頭を振り、地面に転がっている大剣を右手で拾い上げる。
普段は背中に背負っているのだが、どうにも座りにくかったので食事中は地面に置いていたのだ。そして、手ぶらのままロスト・メリュジーヌを蘇生し襲われたという流れだ。
なんともマヌケな話だが、これは良い経験になった。
オレはいつ異世界の住人に襲われても良いように、武器は常に手の届く範囲に置くことにしようと心に書き留める。警戒心の薄さを早い段階で確認できたのは大きいメリットだ。
(ん・・・?来ねぇな?)
武器を拾っている間に攻撃を仕掛けてくると読んでいたのだが、ロスト・メリュジーヌはその場に留まりオレを観察するように睨んでいた。
初めは疑問を抱いたが、この光景を見て頭にピンと来るものがあった。ロスト・メリュジーヌは様子を伺っているのだ。時代劇や小説などで見たことのある光景。
相手の力量が分からないときは距離を取って様子を見る
一見すると知性と言うものを感じない怪物ではあるが、戦闘においては
(意外と賢いな・・・まぁ、様子見しても勝てる相手じゃねーけどな。それに、向かってきて欲しいんだよな・・・もうチョイ戦い方を観察したいし。)
オレは戦闘においては素人だ。
元の世界では中、高の部活で剣道、柔道はやったことがある。大学のサークルでは中国武術研究会なんてものに所属もしていたが、殺し合いなんてもちろんやったことは無い。だからこそ目の前の怪物の動きを観察し、実戦を学ぼうと思っている。そんな時に相手が様子見をしてくるのは少々困るのだ。
(効果があるか分からんけど・・・挑発しとくか。)
オレは利き腕の右手にある大剣を左手に持つと、クルっと刃を返し逆刃のまま肩に担ぐ。そして空いた右手の人差し指を立て、クイクイと動かし挑発した。
「これで攻めやすくなっただろ?早く来いよゲテモノ。」
言葉に反応したのか、それともオレの行動に反応したのかは定かでは無いが、ロスト・メリュジーヌは蛇行しながら凄まじい速度で迫ってきた。
(よしよし・・・それでいいぞ。やっぱ本能は怪物だな。)
オレがほくそ笑んでいる間にロスト・メリュジーヌは武技を流れるように発動する。
まずは肉体強化。<能力超開放>で脳のリミッターを開放し肉体能力は限界を突破する。次に<能力超向上>でさらなる極地へ肉体能力を押し上げる。
肉体強化の次は武技の強化。<剛腕剛打>で両腕から放たれる武技の威力を向上させ、さらに<流水加速>で攻撃速度を神速にまで引き上げる。
そして、この世界においては究極と呼んで差し支えの無い武技を発動させる
武技<十二光連斬>
武技<二光連斬>の最上位武技である。
二、四、六、八、十、十二という段階が存在し、段階に応じた数だけ同時に斬撃を放てるという単純な武技だ。
しかし、<十光連斬>からは非常に強力な武技へと変貌する。<十光連斬>からは<八光連斬>以前よりも強力な斬撃を発生させ、さらにそれを遠距離攻撃としても使用可能になるのだ。全斬撃を命中させるにはステータスとして高い命中力を要求されるが、ロスト・メリュジーヌは非常に高い命中力を持っているため全斬撃を命中させてくる。
『フェアリー・ウッドの森』が最上位のマップだった頃に猛威を振るった”二大攻撃”の一つだ。
(懐かしいな・・・今じゃ使ってくる前に死んじゃってるからなぁ・・・)
懐かしい武技を前に懐古に浸っていると、両腕の爪から放たれた十二の斬撃が前方150度を埋めるように迫ってきた。まるで地面を泳ぐ十二匹の鮫が、巨大な背びれを見せ付けながら迫り来るかのような光景だ。軌道を終点まで読むと、ちょうど俺の立っている位置で全斬撃が交わるように飛んできているらしい。
流石にこれほどまでに武技を重ねた<十二光連斬>の直撃を<要塞>で防ぐことは不可能だろう。<神域要塞>なら楽に防げるが、どうせなら別系統の武技もテストしようとオレは考えた。
「オレが<十二光連斬>を軽く回避したなら、ロスト・メリュジーヌはどんな表情をするだろうか?」そんな悪魔じみた考えが背中を押したこともあり、オレは回避系の武技を選択した。
<回避>、<超回避>を同時に発動し回避能力を一気に強化させる。その場で避けるのもつまらないので、<疾風走破>で自ら斬撃に向かって急速接近する。斬撃と接触する直前に<流水加速>を発動・・・より鮮やかな回避を演出する。
強化された速度によって間延びした時間の中、ゆっくりと進む斬撃の隣を軽やかにすり抜ける。そのまま二、三歩ほど進み、目前に迫るであろうロスト・メリュジーヌへ勝ち誇った笑みを浮かべ・・・
(なんでヤツが笑ってる・・・?)
ロスト・メリュジーヌは本来なら、オレが浮かべている筈だった勝ち誇った笑みを見せ付けてきたのだ。
「この馬鹿が」
「全て計画通りだ」
そんな言葉を感じ取れる笑み。
その意味する所は背中を突き刺す殺気によって理解させられた。殺気に反応して即座に振り返ると、そこには唖然する光景が広がっていた。
(あり得ねぇ~・・・)
鮮やかに回避し後ろでぶつかり合い消滅しているはずだった斬撃は、踵を返しオレの後方から襲い掛かってきたのだ。
(軌道が変った・・・まさか<十二光連斬>って自動追尾になったのか?)
<十二光連斬>に対して思案を巡らせようとしたが、そこまでの時間は無かった。ならばとオレは斬撃を迎撃すべく、新たな武技を発動させる。逆刃の大剣を両手で握り締め力任せに振り上げた。
「<能力超向上>!からの<十二光連斬>!!」
<十二光連斬>に対して同じく<十二光連斬>を発動し迎撃を試みた。その際に<十二光連斬>の仕様を把握する。<十二光連斬>はゲームの時のように対象に目掛けて飛んでいくだけの武技ではない。十二の斬撃が発動時にイメージしたとおりの軌道を描き飛翔する武技となったのだ。
ロスト・メリュジーヌは初めからオレが避けることを読み、さらには回避した後の位置まで正確に読みきり、<十二光連斬>の軌道をイメージして発動していたのだ。オレの強者としての驕りを見事に突いて・・・
そして、その読みはまだ終わっていない。
背後から迫る<十二光連斬>を迎撃するために、オレはロスト・メリュジーヌに対して隙だらけ背中を晒している。その状況までがロスト・メリュジーヌの読みだったのだ。
”二大攻撃”と呼ばれた1つを使用してまで作りだされた好機。その好機を託すのは同じく”二大攻撃”と銘打たれたスキル<
それは負の効果を付与する爆流のような魔力を両腕に纏っての爪撃だ。ゲームでは使用率が非常に低くあまり見ない攻撃だが効果は絶大。
単体に対して大ダメージを与え、生存したとしても生命力を貪り続ける負の魔力を対象に付与し徐々に殺傷するというもの。廃装備を纏った俺でさえ<神域要塞>を使用しなければノーダメージとはいかない強スキルだ。
(これまた懐かしいモンを・・・だが所詮は
背後から迫りくるロスト・メリュジーヌの本命を背にしてもオレは冷静だった。<ゲヘナ=クロウ>が強いのは分かるのだが理不尽な強さではないからだ。
高位魔法を数十回連続で必中させる攻撃系禁断魔法<インプロージョン・ビッグバン>
<十二光連斬>の斬撃を二百五十六に増やした奥義<二百五十六光連斬>通称『ニゴロ』
全防御系バフ、全装備品効果を貫通する最凶のブレス系スキル<ゴッドブレス>
上記ようなバグやチートと呼ばれるものと比較するなら<
(チートも試しておくか・・・)
「奥義発動<
<
3分というリキャストタイムはあるが、発動から10秒の間一切の攻撃を受けつけないというよくある無敵化だ。
しかし、この無敵化の対象はギミックにも及ぶえげつないものだ。ゲーム内にはレイドボスを10分以内に討伐しなければ無条件にHPを0にするというギミックが一部存在する。そんなギミックさえ<
ガガギィインッ
二十四の斬撃と二つの爪撃が、複数の金属が連続で衝突したような音を上げる。それから数瞬の間が空き、甲高い悲鳴が轟いた。
「キィィイアアアァァッ」
オレのがら空きの背中に攻撃を仕掛けたロスト・メリュジーヌは悲鳴を上げながら後ずさる。両手に生えていた鋭利な爪は根元からへし折れ、地面へ突き刺さっている。<
それに対してオレは、ダメージどころか触れられた感触すら感じていない。何事も無かったかのようにくるりと振り返り、ロスト・メリュジーヌを正面に捕らえた。
「無敵というより
自らの切り札を軽く打ち砕かれ、爪という武器をも失ったロスト・メリュジーヌには戦意を感じられない。<能力超開放>の反動なのか肩で息を切るほどに疲弊し、体力面でも戦闘は不可能なのだろう。
相変わらず憎悪の表情は崩さずに、こちらを注意深く観察している。逃げるための隙も伺っているらしく、チラチラと周辺に視線が泳いでいる。その瞳の中には僅かな恐怖・・・
「そう怖がるなって・・・お前にはまだまだチェックに付き合ってもらうんだからよぉ。ほら、来いよ。回復してやる。さっきはあんまり攻撃できなかった分、次は攻撃多めでいくから5、6回は死ぬと思うけどよろしくな。」
オレはあっさりとそんな言葉を口にし、一直線にロスト・メリュジーヌに向かって歩き出した。そんなオレを見てロスト・メリュジーヌの表情がようやく変った。その顔面は戦慄に染まっている。悲惨なことに言葉が理解できていたようだ。
(会話できるともっと良いな・・・あんま面と向かって話したくねーけど・・・)
◆
森の中の小さな原っぱ。そこには2日前には存在しなかった高さ4mほどの長円形の鏡が突き刺さっている。これはデーモンオンラインの家具の一つで、所持品ボックスに入っていた物だ。白大理石によって作られた額縁には繊細な細工が施されており、気品と高級感を感じさせる佇まいだ。しかし、鏡の1/4を地面に突き刺すという愚行により、その身からは哀愁を漂わせている。
そんな鏡に写るのはあっけらかんとした態度のドラゴニュートだ。自らの肉体をナルシストがチェックするかのように様々なポーズを決めて眺めている。
鼻の先端に向かってシャープに引き絞られたドラゴンの顔。人間なら耳があるであろう場所にはエラのようなものが付き、頭頂部から突き出した後ろに流れるような突起とも呼べる角と共に、横顔を鋭角の三角形のようなフォルムに見せている。
眼光は鋭く、濃い黄色の虹彩と縦に割れるかのような細い瞳孔が、より凶暴さを強調している。
頭の後ろからは首が伸びているが、しっかりとした肉付きから細いという印象は決して抱かせない。体から前方に傾くようにして伸びているためか、やや前傾姿勢のように見えてしまっている。
上半身は人間に似たバランスだ。しかし、ただの一般人ではなく筋肉を過剰に搭載したボディービルダーのような逆三角形を維持している。両腕は体に比べやや長く、その先端にある両手には5本の指と爪が生えている。
背中には翼竜のような大きな翼も見受けられる。普段は折り畳まれているが、最大まで広げたなら翼長は4mほどになりそうだ。
対して下半身は人間のそれとは大きく異なり、獣脚類の太い脚が生え人間らしさは全く感じられない。背中から繋がる様にして伸びる尻尾は約2m。先端には二対の突起が存在し武器としても使えそうだ。
全身に紅く硬質な鱗がびっしりと生えている。蜥蜴や蛇というよりはワニの鱗に近い。爬虫類における腹のような部分もあり、黄ばんだアイヴォリーのような鱗が下あごから首前面、胸部、腹部と広がり、尻尾の裏まで繋がっている。
纏った防具に共通しているのは綺麗ではないという所だ。黒鉄色の地肌は無数の傷や凹みが見受けられ、所々錆びも点在している。だがそれは古びているのではなく使い込まれているという印象を与える代物だ。
胸部には前に突き出るように曲げられたアイアンの肉厚な胸当てがあり、皮製のベルトが背中を這うように伸びてそれを固定している。皮製のベルトは左肩と胸当ての左胸部にも伸びており、左肩にアイアンの肩当てを固定している。
前腕部と脛をしっかりと覆うのは、デザインの同じアイアンの腕当てと脛当て。分厚い鉄板をへの字に折り曲げただけの簡素なものがベルトで固定されている。
ただし、これらの防具は全て
地面に突き刺された片刃の大剣”ホラディラ”。シルエットはグラディウスの柄に、中華包丁の刃を長くした物を取り付け、その刃に7つの突起を付け足したようなものだ。剣身には切れ込みのような溝があり、突起の生えた7枚の刃を積み重ねた蛇腹剣をイメージさせる出で立ちをしている。
「うむ・・・見惚れる程にカッコイイじゃねぇか・・・。奴等に見た目も似てるし、ファーストコンタクトは成功間違いなしだな。」
オレは自らの肉体に惚れ惚れとしながら、これからの作戦の成功を確信する。
異世界に来てからのこの二日間。オレは原っぱに引きこもり様々な実験を行った。主に行ったのは蘇生実験と戦闘実験。
蘇生実験に関してはそこら中に様々な状態の死骸が転がっていたので、興味関心から行ってしまったというのが実情だ。
興味関心の結果から、オレの<リザレクション>はゲームより微妙であることが確定した。瀕死で蘇生することは理解していたが、そのまま放置すると1分と経たず対象は死亡してしまう。どうやら、蘇生と回復はセットで使用しなければならないらしい。
さらに発動条件が厳しい。死骸の一部、腕が欠けているだけで<リザレクション>の発動自体が出来なくなってしまうのだ。内臓や目玉等を意図的に取ってみたりもしたが、結果は同じく発動不可。どうやら何一つ欠けていない死骸でなければ対象として受け付けないらしい。しかし、パズルのようにしっかりと全身を揃えればバラバラの死骸でも蘇生は可能である。大量の肉塊から正解の肉塊を見つけるのは非常に面倒な作業ではあるのだが。
戦闘実験の方は非常に有益なものが多かった。
ロスト・メリュジーヌ相手に様々な戦略、戦術を試せたのはもちろんだが、戦闘用の魔法、武技、スキルの効果をほとんど把握することができたのだ。基本的にはゲームと同じ効果なのだが、所々細かい仕様が変更または追加されており、柔軟性が増したような物に変っていた。<十二光連斬>が良い例だ。
また、魔法を使用した際にはMPが、武技を使用した際にはTPが消費されるのだが、現実においてはそれらが枯渇した後が異なる。
魔法や武技を使用し続けるとMPやTPが底を突き、ゲームであれば使用できなくなってしまう。現実でも同じなのだが、そこから無理に使おうとすると発動できてしまうのだ・・・頭痛と疲労感を引き換えに。これはMPやTPの代わりにHP・・・体力を削って使用しているということなのだろうか?真相は不明だが、自らのMPとTPを意識した戦闘が必要だと意識出来たので良しとした。流石に限界まで武技を使用して死ぬなんて御免だ。
その他にも所持品の効果の確認を行っていたのだが、そんな実験も2日で終えなければならなくなった。実験の合間に1つの問題が発生したのだ・・・それは水と食料。
唯一の食料であるステーキはすぐに底を付いた。水は持ち合わせていないのでポーションを飲んで渇きを潤すという始末だった。
職業の関係上、食材製作用の低位魔法を使用することも出来るのだが、作れるのは塩、砂糖、胡椒etc...調味料程度しか作ることが出来ないレベル。そのため、まともな食材と水の確保は最大の死活問題となったのだ。
そんな切羽詰った事情から危険を承知で空を飛行し、2日前に発見した”引っくり返した瓢箪型の湖”を観察した・・・水もあり、水辺には生物(食料)が集まるだろうという考えからだ。
しかし、そこである生物を発見した。その生物は湖の近くに集落のようなものを形成し生活しているようなのだ。焚き火が上げたと思われる煙や家のような木製の建物も見受けられ、多少の文明がある事を確認できた。これはまともな食材と水がそこにあるということも示唆しているのだ。
生活していた生物は
(まぁ、デーモンオンラインのリザードマンよりはオレの姿に近いし好都合だけど・・・。あんまり見た目のかけ離れたヤツだと警戒するだろうしな・・・強さの分からない今は友好的に近づいて行きたいんだよ。情報も欲しいからなぁ。)
異世界のリザードマンを思い浮かべながら思いにふける。
言葉の問題はあるが、友好的な関係を築くことができれば食料や水、そして情報まで仕入れられる可能性がある。それに目の前の鏡をはじめ、多数の家具や武器、防具といったアイテムを持っている・・・おそらくリザードマンにとっては物珍しい物ばかりだろう。友好的とは行かなくても、ギブアンドテイクの関係ぐらいはどうにかなるハズだ。仮に失敗したとしてもリザードマン達を観察すれば、どこの水が飲めて何が食べらるのかぐらいは分かる。最悪でも餓死は免れるはずなのだ。
「さぁて・・・しっかり身支度も整えたし行くとするか!」
オレは元気良く声を上げ大剣を背中に担ぐと巨大な鏡を掴み、空間に押し入れていく。これでオレがここに居た痕跡はほぼ無くなった。
ロスト・メリュジーヌの死骸は全部で十三体と尻尾の切れ端が一つあったが、それらは全て焼き尽くした後に地面に埋めている。その上から雑草や木の葉等をばら撒いているので、すぐに気づかれることは無いだろう。
ちなみに尻尾の切れ端は十四体目の一部だと思われる。
それは十三体の死体は蘇生実験の関係で五体満足の状態で揃っているためだ。このことから”一体のロスト・メリュジーヌが森の中を彷徨っている”とオレは推測している。おそらく、異世界に転移した際に<
チラリと埋め痕を確認し、問題ないことを確認すると翼を大きく広げ飛び立った。空を飛ぶのは危険だと判断していたのだが、歩いていくにはリザードマンの集落は遠いのだ。なるべく鬱蒼と茂る木々の上スレスレを静かに飛んでいくことを心がけ、リザードマンの集落に近づいていった。
念のためスキル<
実験の結果、殺気や威圧感等も感知されない・・・もしくは弱まるのをロスト・メリュジーヌで確認しているので、リザードマンと接触する時も役にたつだろうと期待している。オレは意外と強い殺気や威圧感があるらしく、武器を構えるだけでロスト・メリュジーヌが恐怖の表情を見せていたのだ。もしもリザードマン相手にそんなものを感じさせてしまったら、友好的もクソもない。
(この辺で降りとくか。流石に集落のど真ん中に降り立つのはヤバ過ぎだしな・・・。)
原っぱから飛び立って約15分。集落から程近い森の中にドチャっという音を立てて降り立った。どうやら地面は沼地のようになっており、土ではなく泥が地面に広がっていた。
「うえ、マジか・・・せっかく綺麗に全身拭いたってのに・・・」
足の裏と尻尾に冷たく気持ちの悪い感覚が広がる。防具の形状をフルプレートに戻したくなるが、グっと堪え集落に向かってジャバジャバと歩を進めた。
(なんていうか完全にアウェイだな・・・やっぱ翼があるのってキツイ?)
泥沼の中、集落の正門らしきところに向かって歩いていたのだが、オレが集落に近づくと共に続々と沢山のリザードマンが集まってきていた。旅人の来訪を歓迎するような和気藹々とした雰囲気とは程遠く、喧騒が鳴り響きまさに一触即発の殺伐とした雰囲気だ。
オレは傍目にはリザードマンに翼が付いただけの外見だろう。だが、この雰囲気を見る限り異形の生物にでも見えているのだろうか・・・?
見える限りのリザードマンは敵意を露にし、その手には武器が握られている。先端に削った骨を取り付けた槍、石で作られた鈍器、投石に使用すると見られる紐、なんとも原始的な武器だ。
服装に関しても鎧を纏うものは無く、布を一部に纏っている程度に留まっている。装備の質は圧倒的に低い。
リザードマン自体の強さに関しても大したことが無いと看破した。数十名の敵意や殺気を向けられているはずなのだが、ロスト・メリュジーヌ一体を前にしたときの方が遥かに威圧感があるのだ。”油断していても決して殺されないほどの差がある”ということをはっきり感じさせる。
そんなリザードマンの歓迎を見物しつつ、正門の前に到着した。といっても20mほど離れている。これ以上の接近は攻撃されそうだと感じたからだ。そして大きく息を吸い込むとやや棒読みの大声で自らの要求を訴えた。
「オレは遭難者だ!助けてくれねぇかー!?」
さらにもう一度大きく息を吸い込み発言する。
「水と食料を恵んでほしい!んでもって数日ここで休ませてくれー!それなりの礼はするからよー!」
元から下手に出るつもりが無かったので、普段どおりの言葉遣いで要求を述べた。失敗してもそれはそれで良しと思っていたのもあるが、下位種族を相手に下手に出るのがなんとなく不愉快だったのだ。この辺りは最上位種族としてのプライドのようなものが作用したのだろう。
(見た目は違うけどリザーマンだからな・・・デーモンオンラインじゃ転生もしてない下位種族だししょうがねーか・・・)
自らの無意味なプライドの高さを慰めつつ、リザードマンの様子を伺う。
オレの言葉を理解していたのかは不明だが、喧騒とした音に驚きや疑念の声が混じりだしたように感じる。オレが話せる生物だと思っていなかったのだろうか?それともオレの要求をどうしようかと相談しているのだろうか?
人数が多く距離もあるため言葉ではなく音で聞こえてしまうのだ。そのため、オレと同じ言語を話しているのかさえ分からない。なんとなく日本語に聞こえなくも無いが・・・
少しイラついてきたオレはさらに声を上げてしまった。
「おーい!どうだー!?助けてくれんのかー!?返事してくれー!」
どうやらこの一言が余計だったのだろう。返事と言わんばかりにソフトボールの様な大きさの石が飛んできた。スリングを使用した投石はかなりの速度が出るはずだ。しかし、リザードマンから放たれた石は、武技を使用する必要が無いほどに遅く弱々しく感じた。
(投げたのは右前のチョット小さい・・・いや引き締まったヤツか。)
石の軌道が顔面に向かっている事を知っているが、直撃するまでの間リザードマンを観察することにした。多少なりとも強いヤツが居れば、そいつを表に引っ張り出して取引したいと思ったのだ。少なくとも圧倒的な実力差を理解しているリザードマン。それなら楽に交渉ができるハズだ・・・言葉さえ通じれば。
失敗しても構わないと思ってはいるが、可能なら友好的な関係を作りたいのだ。たとえ脅しによって支えられた”友好的”であっても。
(右側は・・・全員雑魚か。俺の目が動いてるのにまるで気が付いちゃいねぇし怯えもしてねぇ・・・。左側も雑魚か・・・いや。一人だけ気が付いてるな。しかも・・・チョットだけ怖がってるっぽいな。
目当ての獲物を見つけたオレは、視線を獲物に合わせ投石の直撃を受ける。
コッ
気の抜けるような乾いた音が響くと、リザードマンからざわめきが上がった。スリングからの一撃を受けてまるで動じない・・・いや、投石など無かったと言わんばかりのオレの態度に驚いたのだろう。ようやく他のリザードマンにも若干の恐怖も混じり始めたようだ。
「なぁ・・・返事してくれよぉ!」
オレはそんな雰囲気をも無視して言葉を続けた。しかし、今回の言葉はリザードマンの集団に向けての言葉ではない。たった一人のリザードマンに向けての言葉・・・
そのリザードマンは一瞬、戦慄の表情を浮かべたが、即座に毅然とした表情を作り意を決したかのように正門から飛び出してきた。
黒い鱗のリザードマン。胸には何らかの印・・・焼印が刻まれており、他のリザードマンと比べ浮いている。
手には武器が握られている。ブーメランと見紛うほどに曲がったシミター。材質もただの石ではなくクリスタルや氷を思わせる。これも他のリザードマンから浮いている要因の一つだ。
(出てきてくれたか・・・武器もマシだから村長か?)
黒いリザードマンはオレの1mほど前に立つと、シミターを突きつけ声を張り上げた。まるで自らの怯えを吹き飛ばすかのように。
「俺は”
驚くことに日本語だ。口の動きはまるで日本語とは思えないが、蜥蜴顔なのでこんな動きなのだろうと無理に納得した。なぜ日本語なのかという疑問もあるのだが、まずは交渉を優先することにした。
正門付近に居るリザードマン達からは、先ほど以上に喧騒が響いている。オレではなく黒いリザードマン・・・ザリュースに対する怒りや驚き、困惑のようなものが感じられる。どうやらザリュースがオレと話をするのは異例の対応のようだ。
「とりあえず、出て来てくれてありがとよ。オレの要求はさっきのとおり・・・」
「その前に名を教えてほしいのだが?」
「そりゃごもっとも。」
コントのようなやり取りを終えると、オレは一息付いてザリュースを正面から見据えた。
オレの名前を告げる。
日本語を話しているが流石に『卍たこ焼き丸卍』や『中津哲平』なんて言えない。この集落に行こうと思った時から新しい名前を考えていた。だがオレにネーミングセンスが無いのは『卍たこ焼き丸卍』で分かっているので、捻った名前は無理だと思っていた。そこで『卍たこ焼き丸卍』から一文字もらって付けることにしたのだ。
この名前ならオレと同じようにデーモンオンラインから来たプレイヤーと出合った場合、違和感を感じてもらえるはずだ。
ドラゴニュートのオレが名乗るには不自然な名前。しかし、堂々と自信を持ってその名前を告げる。
「オレはドラゴニュートのオクト・パスだ。オクトと呼んでくれや。」
(自分のことをオクト・パス。蛸なんて名乗るドラゴニュートは居ないよなぁ・・・なんか恥ずかしくなってきた。)
堂々と発言したのだが、一気に羞恥が押し寄せてきた。異世界の住人とのファーストコンタクトは少し恥ずかしいものとなってしまった。
これからザリュースの苦難がはじまる予定です。
頑張って文章を考えます。