トカゲの護衛はドラゴン   作:ボンサイ

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今回もザリュース視点がメインです。
登場人物の性格に関しては主観で捏造しています。



第五話 トカゲの決意とドラゴンの食事

「ザリュース、話を聞かせてもらうぞ。」

 

 

正門に到着したザリュースを出迎えたのは怒気を感じる声だった。

 

その声を突きつけてきたのは、二メートルほどのグレートソードを担いだ蜥蜴人(リザードマン)。オクトより小さいとはいえ、巨漢と呼ぶべき体躯をしている。黒い鱗には白い古傷が走り体に雷光を宿しているかのようだ。もともと鋭い眼光はザリュースへの怒りからか猛獣のような凶暴さを宿している。

 

この蜥蜴人(リザードマン)こそ”緑爪(グリーン・クロー)”族の族長、そしてザリュースの兄、シャースーリュー・シャシャだ。

平時はザリュースのことを「弟」や「お前」と呼ぶのだが、今は「ザリュース」と呼んでいる。おそらく兄として接する気は一切なく、族長として身勝手な行動を取った旅人に接するという事なのだろう。

 

だが、これは半分本気で半分演技である。

 

この兄弟はお互いを信頼し合っている。兄は弟の起こした暴挙にさえ”何か意味がある”と確信しているし、弟は兄が必ず”暴挙に意味があると察してくれる”と確信していた。しかし、兄は族長という立場からそれを公にすることは出来ない。

だからこそ、”族長”としては厳しい態度を取ることに専念し、”弟を信頼する兄”としては交渉の場を整えることに専念していたのだ。

 

シャースーリューの周りには長老会、戦士頭、狩猟頭、司祭頭と各部門のトップが揃っている。

これは他の蜥蜴人(リザードマン)から見れば、身勝手な旅人に制裁を加えるためのトップの集まり。しかし、ザリュースから見れば交渉をする上で話をしておきたかった人物の集まりだ。つまり、シャースーリューは制裁の体で交渉の場を設けていたのだ。よく見れば他の蜥蜴人(リザードマン)はその集まりから離れたところにおり、人払いまで済んでいるようだ。

 

 

(流石、兄者だ。ここまで準備をしてくれるとは・・・生簀の摘み食いはしばらく大目に見ておくとするか。)

 

ザリュースはシャースーリューの配慮に感謝するとともに、摘み食いの一件を思い出し緊張感が少しだけ和らいだ。しかし、シャースーリューから溢れ出る怒気は本物であり、ザリュースは緊張感を緩めることまではしなかった。

 

シャースーリューはザリュースを信頼していたとはいえ、許しがたいものが有るのだ。

「危険だったのかもしれない。だが、俺が来るまで待てなかったのか。なぜ自ら安全や立場の危うさを考えないのか。」おそらくこれ以上の言葉が頭の中にあるのだろう。ザリュースを心配しているからこその怒りだ。

 

 

「族長、まずは勝手な行動を取ったことを謝りたい。すまなかった。」

 

重りのような剣によって体を折り曲げることが出来ないため、頭のみを下げ謝罪を述べる。ザリュースは頭を上げ、シャースーリューの眼光に屈することなく言葉を続ける。

 

「だが、あの時は交渉に行くしかなかった。もし、交渉に行かなければ俺を含め多くの蜥蜴人(リザードマン)が殺されていただろう。あの怪物・・・ドラゴニュートのオクト・パスはそのぐらい強い。」

 

「愚かな旅人が!怪物に怖気けたか!?貴様には”緑爪(グリー・ンクロー)”族としての誇りが・・・」

 

ドチャッ

 

「騒がしい」

 

シャースーリューの尻尾が地面を叩くと共に、長老会の発言を叩き潰した。相変わらず凄まじい怒気を発しているが、今は対象は違うようだ。

 

「余計な口を挟むな。」

 

「し、しかし、族長。此奴のやった事は・・・」

 

「騒がしいと言ったはずだ。」

 

「ぐむぅ・・・」

 

シャースーリューは長老会の面々を一瞥し、釘を刺した。ザリュースの行動の早さからあまり時間が無いことも察している。そのため、余計な会話をなるべく廃し、早急に話を纏めたいのだ。

 

 

「ザリュースよ。あの怪物・・・ドラゴニュートのオクト・パスと言ったか。アレの事は少し聞いた。物々交換の取引を求めていると。しばらく村に滞在したいと。そして、狩猟班の投石を受けても微動だにしないほど強いと。・・・しかし、我等がアレを受け入れてまで取引をする利点があるのか?アレがお前より強い根拠はなんだ?身勝手な行動を取るほどとは思えないが?」

 

「・・・まずはオクトの強さについて話そう。」

 

矢継ぎ早に質問を浴びせるシャースーリューに対して、一呼吸置いて返答する。視線を戦士頭に移すと担いだ剣を見せるように話しかけた。

 

「この剣はオクトに敵意がないことの証明として預かってきたものだ。戦士頭。これを持ってみてくれ。オクトはこの剣を武器として使っている。」

 

戦士頭は少し訝しげな顔をしつつも、ザリュースに近づき剣を手にした。

 

「むっ!・・・ぐっ!」

 

戦士頭は少し顔を歪めるも、両手で剣を支えきった。戦士頭の体躯もシャースーリューに匹敵するほどだ。両手で支えるくらいなら十分に出来るのだ。支えるくらいなら・・・

 

「戦士頭。その剣を武器として使用できるか?オクトは片手で軽々と持ち上げていたぞ?戦士階級の蜥蜴人(リザードマン)一人に匹敵するだろう重さの剣をな。」

 

「・・・俺が使いこなすには十年は掛かる。」

 

「オクトはその武器を使い、傭兵として戦場を駆けていたようだ。蜥蜴人(リザードマン)を片手で振り回せるような歴戦の戦士と、真正面から敵対するのは愚かだと思わないか?」

 

ザリュースの言葉と戦士頭の険しい表情を見て、集まった面々はオクトの力が本物なのだと理解させられた。

確かにそんな戦士と真正面から戦ったなら、負けないにしても少なくない犠牲が出る。ましてや突発的に戦いが起こったとすれば負けたも同然の惨状になっただろう。ザリュースの暴挙によってそれが回避されたのだと考えると一定の理解はできる。

 

 

「オクトは俺が出て来なければ、無理やりにでも村に入るつもりだったろう。取引が決裂したとしても同じだと思う。その場合は大勢が犠牲になる・・・オクトが素手であってもな。だからこそ戦いだけは避けるべきだ。」

 

「なるほど・・・まさに怪物だな。ザリュースの行動が間違っていないと思えてくるよ。俺もあの怪物には違和感があったからね。」

 

口を開いたのはひょろっとした蜥蜴人(リザードマン)。狩猟頭だ。顎に手をあて、オクトを見ながら言葉を続ける。

 

「気配の消し方が異常だね。完全に気配を周りと同化させている。超一流の戦士が野伏(レンジャー)としても超一流の腕を持っているなんて厄介極まりない。あの状態で村に入られたら狩猟班でも見失うだろうね。」

 

「姿が見えているにもかかわらず・・・か?」

 

「残念ながらそうなるだろうね戦士頭。ここが戦場になるのなら幾らでも隠れられるからね。もしかしたらその剣だって無傷で奪われかねない。」

 

狩猟頭はおどけるように戦士頭の問いに答えた。狩猟頭もオクトの強さの片鱗には元から気が付いていたようで、真正面から戦うことには反対なのだろう。ザリュースを援護するかのように言葉を続けた。

 

「族長。俺も怪物・・・オクトと”今”戦うのには反対だ。戦うのなら弱点を見つけてからしかないだろう。そういった意味でも取引の内容次第では応じた方が良い。剣を預けたことから見ても、向こうから仕掛けてくることは無いだろうからね。」

 

「むぅ・・・戦士頭、司祭頭。お前たちはどう思う?」

 

シャースーリューは狩猟頭の発言にうなり声を漏らすと、戦士頭と司祭頭に問いかけた。最初に答えたのは戦士頭だ。

 

「本音を言うなら今すぐに戦うべきだ。だが、ザリュースや狩猟頭の言も一理ある。取引の間に対策を立てる他ないだろう。それほどの強敵だ。」

 

戦士頭は取引に応じるべきとの意見をしぶしぶ述べた。自らの手の中に怪物の強さの一端を感じていることや、狩猟頭の警戒がその決断を下したらしい。

 

 

「わしは戦う事には反対じゃ。」

 

年老いたメスの蜥蜴人(リザードマン)も意見を述べる。司祭頭だ。

 

「あの怪物にいくつかの感知系魔法を使っておったのじゃが・・・全て無効化しおった。ザリュースが戻ってくるまでの間、睨み付けられたわ。おそらく、わしが魔法を使ったことにも気が付いておるのじゃろうて。戦うには危険すぎる相手じゃわい。わしとしては”今”どころか今後も戦うことには反対じゃな。戦士頭を超える戦士であり、狩猟頭に勝る野伏(レンジャー)の腕を持ち、そして一部とはいえわしの魔法を無効化する・・・無理に敵対するのは愚かでしかなかろう。今のところは怪物にも戦う意思が無いようじゃしのぅ。」

 

ザリュースは司祭頭がオクトに対して魔法を使っていたことにゾクリとしたが、未だに自分が生きているため、許容してくれたのだと胸を撫で下ろした。

どうやら、司祭頭も独自にオクトに関しては調べを進めていたらしい。そして、その全てが失敗に終わったことや、戦士頭、狩猟班の反応を見て手に負える相手ではないと判断したようだ。

 

「何を言う司祭頭!あの怪物に怖気づいたか!いかな強敵とはいえ必ず勝機はある!」

 

「貴様の頭の中には筋肉しかないのか戦士頭よ!戦いとなればわし等で怪物の足止めをし、他の者を逃がすのが限界じゃろ!」

 

 

ドチャッ

 

 

「騒がしい」

 

再びシャースーリューの尻尾が地面を叩き、戦士頭と司祭頭の言い争いを叩き潰す。両者とも弾かれたようにシャースーリューに視線を向け謝罪した。

 

「皆の意見は分かった。アレが強いという事もな。よって、今は取引に応じアレを村に入れ、その間に監視し、必要があれば叩く。・・・だが、対等な取引でなければ今すぐ戦うほか無い。一方的な略奪を許容することなどはできん。」

 

シャースーリューは低く唸るような声で自らの意見を述べる。いかにオクトが強いとしても不公平な取引ならば戦うつもりなのだ。それに関しては皆、同じようでシャースーリューに同意するように頷いている。その目には覚悟が感じられ、戦いを避けたいはずの司祭頭も同じ目をしている。

 

 

「皆、取引に関しては対等どころかこちらに有利だと思うぞ。」

 

そんな空気を払拭するかのようにザリュースは取引に関して話を始める。左手に持つ原石を前に出すと話を続けた。

 

「これはオクトからの贈り物だ。おそらくルビーという宝石の原石だと思う。外の世界ならかなりの価値がある物だ。これ以外にも魔法武器や魔法防具、さらに蜥蜴人(リザードマン)の持たない道具を持っているようだ。水や食料、寝床の提供で貰うにしては破格の内容だろうな。」

 

「魔法武器だと・・・!」

 

ザリュースの言葉に思わず声を上げてしまったのはシャースーリューだ。

魔法武器など蜥蜴人(リザードマン)全体で見ても、数えるほどしか存在しない。それぐらい希少なものだ。

緑爪(グリーン・クロー)”族ならフロスト・ペインと族長の証であるグレートソードの二つのみである。魔法防具なら知る限り”鋭き尻尾(レイザー・テール)”族が一つ持っている程度だ。それほどの物を寝食の世話程度と物々交換など正気の沙汰ではない。あまりに常識外れな取引なのだ。

 

「ああ、魔法武器もあると言っていたぞ族長。もっとも、蜥蜴人(リザードマン)に扱える物があるか分からないが。」

 

そう言って戦士頭が肩に担いだ大剣に目をやる。それを見て戦士頭や狩猟頭が確かにと頷く。

 

 

「じゃがザリュースよ。見たところ怪物は防具しか持っておらぬように見えるが?」

 

「確かに見た目は手ぶらだな司祭頭。だが、それは魔法アイテムによるものだ。多数のアイテムを収納できる魔法アイテムを持っているようでな。この原石もそこから取り出していた。こう・・・空中に手を入れるようにしてな。」

 

「ほぅ・・・なんとも不思議な。」

 

司祭頭の質問に身振り手振りで説明する。上手く伝わったのか分からないが司祭頭の興味を随分と刺激したようだ。先ほどまでの警戒心が好奇心によって塗りつぶされようとしていた。

 

「他の魔法アイテムも見てみたいものじゃの。武器防具以外には何か言っておらんかったのか?指輪やネックレスといった装飾品はどうなのじゃ?便利な魔法が付与してある物を持っておるなら、ここでも作れぬか試してみたいものじゃのぅ・・・ぜひ、細かい話を」

 

「無駄話はそのくらいにしておこうか司祭頭?それよりザリュース。その話が美味し過ぎる様に感じるのだが・・・罠の可能性は無いのかな?」

 

別の方向にやや興奮していた司祭頭を止めるようにして狩猟頭が警鐘を鳴らす。あまりに破格な取引に、オクトが別の狙いを持っているのではと警戒しているのだ。

 

 

「甘い取引を囮として村に潜入。十分な食事や休息を取った後、我等の隙をみて取引した品物を盗み出して逃走・・・なんて事も十分に有り得るんじゃないか?あの気配なら我々、狩猟班も察知できないからね。戦意が感じられないのもその為ではないのかな?」

 

「むぅ・・・確かに。我等を謀るための撒き餌の可能性は十分にある。」

 

狩猟頭の意見にシャースーリューも頷く。野伏(レンジャー)としての能力が高いなら泥棒のような真似は楽に出来ると予想されるし、村からの逃走も容易いはずだ。あえて戦いを避けるのは”穏便”に欲しい物を盗む為ではないかと危惧しているのだ。

 

「その可能性は確かにあるが、当面は心配する必要がないと思うぞ。オクトが本当に欲しい物は別にあるんだ。」

 

「どういうことだ・・・?」

 

「オクトの本当の狙いは水や食料を得ることではなく、”情報”を得ることなんだ。だからこそ戦いではなく、時間をかけて友好的に接しようとしている。破格な取引もその為の撒き餌だ。それほどまでにオクトは情報を欲しがっている。少なくとも、情報収集の間は何か盗まれる心配はないだろう。」

 

「欲しいのはこの周辺の地理に関する情報か?遭難者ならば確かに欲しい物だが・・・」

 

「違う・・・オクトが欲しいのは”この世界の情報”だ。ここからは俺も全てを信じているわけではないのだが・・・オクトは”異世界からの遭難者”らしい。」

 

ザリュースの突拍子の無い暴露に、質問をしていたシャースーリューでさえ唖然としている。この場に居る全員が「何を言っているんだコイツは?」と言いたげな表情を見せている。

 

 

「そんな戯言を信じろというのか旅人が!それこそあの怪物が吐いた虚言!我等を謀る気でおるのじゃ!もはや取引などする価値もないわ!」

 

やはり、いち早く反応したのは長老会だった。しかしながら、今回ばかりは長老会の発言が正論。シャースーリュー達もその意見に同意するように頷いている。

 

「待ってほしい。最後まで聞いてくれ。確かに”異世界からの遭難者”など信じられる話ではないが、もし真実だとするとオクトの行動には説明が付くんだ。」

 

それからザリュースは自らの考えを述べた。

本当に異世界に来てしまったのなら情報が何より優先される。力に任せに得る情報よりも友好的に接して得る情報の方が物が良い。その為なら自らの財を投げ打つぐらいは安いものだ。もしくは異世界とこの世界の価値観の違いのせいで破格な取引になっている。など自らが感じたことを話した。

もちろん、全員の賛同が得られたわけではないが狩猟頭や司祭頭には多少の理解のが浮かんでいる。

 

 

 

「また、最も欲しい”情報”を最初に要求しなかったのは警戒されないためだろう。初めから”情報をくれ”なんて言ったら即座に戦いになっただろうからな。」

 

「なるほど、そう考えれば確かに説明は付くね。異世界の話(・・・・・)が虚言だとしても、情報を欲しがっているならしばらくの間は安心だね。だが、得られるだけの情報を得てしまった後はどうなるかな?やはり俺の危惧するとおりになるのではないか?」

 

「それについては考えがある。」

 

狩猟頭は一定の理解は示していたものの警戒心は解けていないないようで、自らの意見を再度、主張した。そして、それに答えるようにしてザリュースは自らの覚悟を述べる。

 

「俺はオクトが村に滞在する間は監視役として行動を共にする。怪しい動きをするようならすぐに皆に知らせる。そして、オクトがここで得られるだけの情報を全て得た後は・・・オクトと共に旅へ出るつもりだ。」

 

「なに・・・!?」

 

シャースーリューは驚いた表情でザリュースを見つめる。その目にはまたしても怒りが感じられる。その目に感謝しつつザリュースは計画を話した。

 

「オクトと話して感じたが・・・オクトは情報のためならかなりのことを許容できる。自らの剣を他人に預けることもな。異世界の話を抜きにしても、それほどまでに情報を欲しているんだ。そうなると旅人としての俺の知識はオクトにとっても魅力的な撒き餌になるだろう。そして、俺が旅先で得た知識も欲しいはずだ。もし、かつての旅先へ案内すると言えば目の色を変えて飛びつくだろうな。そうなれば取引を反故にする事はない。」

 

「つまりお前が・・・アレの餌となり、頃合を見て村から遠く離れた地へ誘導する。村へ危害を加えないことを条件として・・・」

 

「ああ、そういうことだ族長。旅先に押し付ける様で悪いが、村を危険に晒すことは出来ないからな。」

 

 

これがザリュースの最終的な計画だった。

 

オクトとの交渉で”情報”に関しての強い執着を感じたのだ。これは唯一の弱みとも考えられる。蜥蜴人(リザードマン)という狭い世界の情報を呼び水に、ザリュースの旅した外の世界の情報へ興味を沸かせるには十分な弱みだ。

 

ザリュースが監視役として接している間に外の世界の話をすれば、そちらの方が価値が有るとオクトは判断するだろう。そうなれば村では必要最低限の情報だけを仕入れる事にし、早々に旅立つことを決断する可能性が高い。

そんな状況下でザリュースが案内役を買って出れば間違いなく乗ってくる。その際に村に手を出さないことを条件にして、共に旅へ出るのは十分に可能だと考えたのだ。

 

 

しかし、この計画には大きな問題がある。

それはザリュースが無事に帰還できない(・・・・・・・・・)ということだ。

 

旅は危険なものであり、途中で野垂れ死ぬ可能性もある。だが、それ以上にオクトに殺される可能性がある。かつてザリュースが訪れた地に案内した場合、ある程度の期間はオクトと住人の間に入りオクトを紹介することになるだろう。しかし、紹介とそこでの情報収集が終われば両者とも用済み。その結果、殺される危険性があるのだ。

 

さらに、二度も旅に出るなど蜥蜴人(リザードマン)としては異例中の異例だ。果たして無事に旅から帰ったとしても村に受け入れられるだろうか?長老会は烈火のごとく反対するだろうし、その他のトップ達も事情を知っているとはいえ、”緑爪(グリーン・クロー)”族としては反対の立場を取らざるを得ない可能性が高い。族長の一存であってもそれらを覆すのは難しい。

 

 

シャースーリューがザリュースを心配して怒っているのはその為だ。「なぜお前だけが犠牲になる。他の手があるのではないか。」そんな怒りだ。

そして、それが”犠牲を最小にする選択だ”と少しでも認めてしまった自分への怒りも含まれている。

 

シャースーリューの怒りやザリュースの言葉から真意を察したであろう他の面々も、先ほどまでの懐疑的な表情から驚きの表情に変った。そして、最後にはザリュースに対する哀れみや尊敬等、その他複数の感情から険しい表情を形作った。

 

 

「ザリュース・・・お前はここには戻って来れぬぞ。」

 

「覚悟はしている族長。だが、これ以上に犠牲を出さない手段は無い。俺一人で犠牲が収まるなら十分だ。」

 

ザリュースはシャースーリューに決死の覚悟を込めた瞳を向けた。シャースーリューの視線にも屈しない力強い瞳だった。

 

 

シャースーリューは諦めたように視線を逸らし、他の者に意見を求める。

 

「・・・長老どう思う?」

 

「わし等としては取引には反対じゃ。じゃが、此奴がそこまで言うのなら後は族長が決めればよかろう。どうなろうとも此奴は村から追放されるのじゃからな。」

 

「・・・戦士頭。」

 

「フロスト・ペインの所有者がそこまでの覚悟をしているのだ。取引を認める他あるまい。だが、戦うことも考慮しておくべきだ。」

 

「・・・狩猟頭。」

 

「心配は残るが概ねザリュースに賛同しよう。残念な結末だがその作戦なら村に被害は無いだろう。監視に関しては狩猟班も行いたいがね。」

 

「・・・司祭頭。」

 

「取引を認めるとも。十分な利があり、心配事も一先ずは杞憂に終わりそうじゃしの。だいたい勝手に魔法で自分を調べておったわしに何もして来んのじゃ。わし等に危害を加える気は怪物には元々無かろうて。」

 

皆の意見を聞くとシャースーリューは数秒ほど目を閉じ考えをめぐらせる。そして、族長としての決定を口にした。

 

 

「ならば先に述べたとおりだ。アレ・・・オクトと取引をし、村に滞在することを認める。監視役としてザリュースが行動を共にし、狩猟班も離れた位置から行動を監視する。そこで怪しい動きがあれば叩く。戦士頭はいつでも戦えるように戦士階級に戦の準備をさせよ。司祭も戦士階級や狩猟班への協力は惜しむな。」

 

シャースーリューの決定を聞いた一同は頷いた。これで”緑爪(グリーン・クロー)”族としてオクトと取引することに決まったのだ。

 

 

「さっそくオクトへ決定を伝えに行く。ザリュース。付いて来い。他の者は下がってこれからの準備を急げ。」

 

各々が頷き、行動を開始した。

ザリュースは戦士頭から剣を受け取り、シャースーリューと共に正門に立った。そして、ポツリと呟いた。

 

「すまないな兄者。」

 

シャースーリューは表情を変えずに言葉を受け止めた。毅然とした表情を崩し、それをオクトに見られないようにするためだ。

 

「謝るのは俺の方だ弟よ。結局、お前一人に全てを押し付けているのだ。族長である俺の力不足で。」

 

「兄者は蜥蜴人(リザードマン)最高の族長だ。そんな兄者であっても勝てないほどの強者が現れた。そして、俺が勝手に最善を考えた。それだけの事だ。」

 

ザリュースはシャースーリューの言葉を否定した。シャースーリューの準備があったからこそ交渉が早く纏まり、取引を行うところまで漕ぎ着けたのだ。蜥蜴人(リザードマン)としては異例な決定を下すに至ったのは、シャースーリューが族長だったからこそだ。

 

 

「・・・弟よ。オクトの力は司祭頭の言うように我等で足止めできるものなのか?その程度ならお前がこんな行動を取るとは思えん。」

 

シャースーリューは最も聞いておきたかった疑問をぶつけた。

もし、司祭頭の言う程度の力の差しかないのなら、ザリュースの知略に一族の力を合わせればで乗り越えられると信じている。だが、ザリュースがそうしないのなら力の差は圧倒的ではないのかと思っていたのだ。

 

「正直に言おう・・・オクトは俺と兄者の二人を一度に相手にしても、一秒と掛からずに殺せるだろう。そのくらいの実力差がある。逃げ出したくなるくらいのな・・・。兄者以外には言えない内容だ。」

 

「・・・そうか。お前が言うのなら事実なのだろうな。」

 

シャースーリューはザリュースの発言を信じ、決意を新たにする。決して失敗できないのだと。そして、ザリュースと共に一歩ずつオクトへ向かって歩き出した。

 

 

「・・・兄者。他の者はオクトの力をかなり低く認識している。だからこそ、この取引には疑問を抱くものが多いはずだ。このままでは俺の計画の前に戦いになってしまうかもしれない。一つ仕掛けを打とうと思っている。」

 

「仕掛けだと?」

 

「ああ、皆にオクトの力を全てとはいかないだろうが見せ付ける。不用意に戦う相手ではないと知らしめる。」

 

「・・・何をする?」

 

数歩進んだ辺りでザリュースはシャースーリューに一つの考えを告げる。不用意な戦いを避けるための一手だ。

 

「オクトと一対一で戦うつもりだ。」

 

「死ぬつもりか?一秒で殺されるのではないのか?」

 

「殺されはしないさ。俺を殺せば取引に支障が出るのは、オクトもよく分かっているはずだ。案内役が出来る程度に痛めつけられるだろうな。」

 

「だが、どうやって戦うつもりだ?わざわざ実力を見せるために戦ってくれとオクトに伝える訳でもあるまい。」

 

「好都合なことに戦士頭がオクトを強く敵視しているからな。オクトを近いうちに戦士階級のところに連れて行く。おそらく、口論になるだろう。そこで俺と戦うところまで誘導する。」

 

「なるほど。戦士階級の者こそ、最も実力を知らせておきたい者達だからな。」

 

相変わらず無表情でザリュースとシャースーリューは今後の話を続けていた。しかし、ふと面倒なことを思い出したザリュースは表情を曇らせる。横目でそれを確認したシャースーリューが疑問の視線を向ける。

 

「・・・兄者。オクトは話し方がかなり悪い。と言うより態度が大きい。どうか堪えてくれ。ここで口論になれば最悪な形で実力を示すことになりそうだ。」

 

「むぅ・・・努力はしよう。」

 

オクトの口調について伝え損ねていた。ザリュースはゾクリと再び心が震えたのだが、シャースーリューの聞きなれた唸り声を聞いて不思議と心は安心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オクトは正門から出てくる二人の蜥蜴人(リザードマン)を確認する。大剣”ホラディラ”を担いだザリュースとグレートソードを担いだ黒い蜥蜴人(リザードマン)だ。おそらく交渉が終わったということだろう。

 

 

「ようやく終わったか・・・『ルビー原石』じゃなくて『高品質ルビー』でも渡しときゃ良かったか?さっさとメシ食いたいんだよなぁ・・・」

 

オクトはプレゼントの内容が間違いだったのではと少し後悔していた。頭の中ではもっと早く話し合いが終わり、すぐに食事にありつけると思っていたからだ。

既に丸一日は何も食べていないので食事のことばかり考えてしまうのだ。ドラゴニュートは食慾に関しても人間を凌いでいるようで、ステーキを温存できなかったのはこのためだ。どうにも空腹が我慢出来ない。

 

「いや・・・リザードマン(あいつら)って一世紀前の”なんたら族”みたいなもんだし、宝石じゃなくて塩とか砂糖の方が良かったか・・・?ってかここのメシってゲテモノじゃねぇのか!?」

 

元の世界で得た信憑性の無い知識を思い出す。密林の部族を取材した一世紀前のテレビ番組を動画サイトで見た記憶があるのだ。

 

(確か動画で見たのは・・・蝙蝠を味付け無しで焼いたやつとかじゃなかったか?腹減ってるけど食いたくねぇな・・・)

 

一人で勝手に凹んでいると二人のリザードマンが目の前に到着した。

 

 

「俺は”緑爪(グリーン・クロー)”族、族長シャースーリュー・シャシャだ。弟・・・ザリュースから話しは聞いた。お前を受け入れ、取引に応じよう。だが、村に危害を加えるつもりなら・・・」

 

「へぇ、ザリュースの兄貴か・・・安心してくれ族長さんよ。ちゃんと水と食料に寝床。んでもって”この世界の情報”さえ貰えりゃ何もしないぜ。」

 

オクトはシャースーリューの発言を遮るように発言した。

それと同時にシャースーリューの眉間にシワができ、ザリュースの顔が見る見るうちに青くなっていった。どうにもシャースーリューの癇に障るものがあったようだ。そして、ザリュースはそれを見て非常に焦っている。

 

 

(・・・あ、怒らせたら取引がやばくなるってことか。とりあえず、自己紹介と謝罪か?)

 

「ん・・・と、オレはドラゴニュートのオクト・パスだ。悪いな族長さん。ザリュースから聞いてるか知らないがオレは職業が傭兵でな。あんまり畏まった話し方はできねぇんだ。なるべく気をつけるから許してくれ。」

 

頭を下げることまではしないが、謝罪をしておく。

職業が傭兵というのは当然、嘘である。最上位種族として下位種族に敬語で話すのが、想像するだけで我慢できなかった。そのため、適当な言い訳として考えたものが、職業が傭兵だという嘘を付くことだ。傭兵のことを細かく知っているわけではないが、雇われの荒くれ者というイメージを勝手に抱いているため傭兵を選んだ。これなら偉そうでも問題ないと踏んだのだ。

ちなみに、中位職の『ランツクネヒト』という傭兵の職業レベルが100になっているので、職業が傭兵というのは完全に嘘とも言えない。

 

「なるほど、弟から聞いていた通りだな。お前の強さについても聞いている・・・なのである程度は許容しよう。だが、他の者達まで許容できるか分からん・・・発言や態度には注意しろ。我等も戦いたくは無いのだ。」

 

「ああ、分かったぜ族長さん。なるべく無駄な争いが起きないように努力する。」

 

オクトは肩を竦めながらシャースーリューに返答した。分かっているのかと呟きつつシャースーリューは言葉を続けた。

 

「さて、オクト・・・で良いな?お前はどのくらいの期間この村に滞在するつもりなのだ?食料は豊富にあるが、長い期間の滞在は遠慮してもらいたい。お前を受け入れるのは異例なのだ。決して歓迎されているわけではないと理解して欲しい。」

 

「ああ、オクトで構わねぇ。歓迎されてないのは流石にオレでも分かるさ。まぁ・・・滞在は七日ぐらいか?持ってる情報次第だが一先ずその位で考えてるぜ。その後は出来れば他の村・・・蜥蜴人(リザードマン)以外の連中のところに案内して欲しいんだが無理か?無理なら勝手に行くが。」

 

その発言に二人の蜥蜴人(リザードマン)は驚いた表情を見せた。それと同時に若干安心したような顔も見え隠れしている。

オクトとしてはこんな所で得られる情報はほんの少しの常識くらいだと考えていた。魔法や武技といった情報を仕入れてしまえば早々に他の村へ・・・可能なら人間の都市にでも行って本格的な情報収集をしたかったのだ。

そして、それは蜥蜴人(リザードマン)側の思惑と被るところがあるのだろう。嬉々としてザリュースが答える。

 

「七日なら大丈夫だオクト。そのくらいの滞在なら何の問題もないさ。そして、他の村に関しては俺が案内しよう。俺は旅人として蜥蜴人(リザードマン)以外の村にも行った事があるんだ。そこでお前を住人達に紹介する・・・悪くない話だろう?」

 

「そりゃ助かる!しばらくの間は情報収集に徹したいんでな。そん時ゃ頼むぜザリュース。その分の礼も用意するからよ。」

 

オクトにとってこの申し出はありがたい事この上ない。毎回、蜥蜴人(リザードマン)の様に交渉していたのでは、何処かで激怒してしまう気がしたのだ。ザリュースが付いてきてくれるなら、少なくとも次回の村ではこんな面倒なことは無いだろう。

 

 

「礼まで貰えるとはありがたいな。ところでオクト。この村の中での行動に関して話がある。お前がこの村にいる間、俺がお前の案内役として・・・いや、監視役として行動を共にする。そして、遠くからお前を監視する者も用意している。構わないな?これも取引を受け入れる条件だ。」

 

ザリュースは鋭い視線を送ってくる。これが飲めなければ玉砕覚悟でも戦うと言いたげな視線だ。

 

はっきりと言って今回の取引はオクトにとって大成功だ。寝食の心配も無ければ情報も手に入れられる。さらに他の村へのガイドまで付いているなど至れり尽くせりだ。

蜥蜴人(リザードマン)に四六時中一緒に居られるのは少し気持ち悪いが、その位は耐える価値がある。他の監視達は遠くに居るとの事なので、それも大した問題ではないだろう。

 

「もちろん構わねぇよザリュース。ちょっと気持ち悪いけどな。」

 

「なら取引は成立だ。食料や情報を得たいときはその都度、俺に話してくれ。こちらの用意する品物やお前の礼に関する調整は俺が行おう。」

 

「ああ、それで良い。ってかそれで頼む。お前らの価値観とか何を欲しがってるかなんて分かりゃしねぇからな。」

 

「任せてくれ。お互いに損が無いよう取り計らうさ。では約束どおり剣を返却しよう。」

 

取引の成立と同時に、預けた”ホラディラ”を受け取る。泥一つ付いていないのでオクトは満足げに”ホラディラ”を眺めている。そして・・・

 

 

 

グゥ~・・・

 

 

 

腹の虫が鳴った。

 

 

「・・・ザリュース。メシの準備は出来てるか?」

 

「ああ、大丈夫だオクト。俺の家に魚がある。それで大丈夫だろう?」

 

「おぅ、問題ない!さっそく行こうぜ。」

 

(蝙蝠じゃなくて良かったぜ・・・)

 

「むぅ」

 

全く緊張感のない会話に、やや不満気味のシャースーリューは唸り声を一つ上げた。

そんなシャースーリューを尻目に、見知った食料が出てくることにオクトはホッとしていた。そして、オクトがザリュースと並び、シャースーリューに付いていくようにして正門へ向かった。

 

 

その道中でも緊張感の無い会話は続く。

 

「・・・なぁ、ザリュース。魚って言ったけどどうやって食うんだ?塩焼きか?素焼きか?それとも郷土料理みたいなもんがあるのか?」

 

「ん・・・?ああ、料理というものか?蜥蜴人(リザードマン)は魚をそのまま食べる。保存食に干物もあるが料理はしないな。」

 

グルンと音が鳴りそうなほどの勢いでザリュースに顔を向けると真顔で聞いた。

 

「マジか・・・?」

 

「ああ、本当だが・・・それがどうかしたか?」

 

目の前にはキョトンとしたザリュースの顔が見える。

 

 

 

 

(調理師見習いをLv100まで上げてて良かった・・・こんな所で役立つとはな・・・)

 

オクトは青空を眺め、自らの幸運に感謝した。




登場人物が多くなると何書いてるか分からなくなってきます。
次回からようやく情報収集がはじまり、沢山の捏造設定が出てくる予定です。
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