トカゲの護衛はドラゴン   作:ボンサイ

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料理の話が長くなりすぎて、話があまり進んでません。
脱線しないように今後は気を付けたいものです。


第六話 行列の出来るドラゴン食堂

「よし・・・これで準備完了!」

 

オクトはパンパンと手を叩きながら、満足げに自らの成した偉業を眺める。

目の前には鉄板を置いたバーベキューコンロ、まな板や包丁が置かれたキャンピングテーブル。キャンピングテーブルの上には少量の塩、胡椒、小麦粉、バターを入れた数枚の皿、そして一メートル五十センチはあろうかという魚も置かれている。

 

「さぁて、やるか・・・!」

 

「・・・一体何を始める気だオクト?」

 

ザリュースは不思議なものを見るかの様に、上機嫌なオクトに問いかけた。

 

「料理に決まってんじゃねぇかザリュース。オレには魚をそのまま食うなんてことはできねーよ・・・こんなナリだがな。」

 

オクトはやや呆れ気味に首を振り、ザリュースに答える。

 

蜥蜴人(リザードマン)の村に入り、既に三十分ほど経過している。

正門でシャースーリューと分かれたオクトとザリュースは、村人達の突き刺さるような視線を一身に浴びつつ、ザリュースの家へ向かった。そして、約束どおりオクトは食料を手にした・・・生の魚を丸ごと一匹。

ザリュースの話で覚悟していたとはいえ、その状況にオクトはドン引きした。そのため、オクトはザリュースから受け取った魚を肩に担ぐとそそくさと外に移動し、料理の準備に取り掛かったという訳だ。

 

当然ながらザリュースの家の周りには、沢山の村人が集まっている。十メートルほどの距離を開け、オクトを中心にドーナツ状にたむろしている。事故現場の野次馬のようだ。最初はオクトの見物に来たようだが、今では設置した道具を見物しているらしい。

 

 

設置したキャンプ用品は、デーモンオンラインの家具である。原っぱで地面に突き刺した鏡と同じようなものだ。

ギルドの拠点や個人宅に設置するためのアイテム・・・いわゆる生活系コンテンツの一つ。オクトは個人宅を持っているわけではないが、ギルド拠点でたまにギルメンと集まることがあった。その時のために購入していた物を、所持品ボックスに入れていたのだ。

調理器具に関しては、調理師見習いの装備に使用していたものを処分せずに取っていたものだ。

 

デーモンオンラインでは所持品ボックスに収納できるアイテム数が非常に多く、プレイヤーのほとんどが入手したアイテムを入れっぱなしにしている。オクトがルビー原石やその他のアイテムを多数持っているのもこのためだ。食料を持っていなかったのは本当に偶然であり、非常に運が悪かったと言えるだろう。一般的なプレイヤーなら食料も二百近く入っていたはずだ。

 

 

「これが料理をするための道具か・・・初めて見るものばかりだな。しかし、道具にも驚かされたが、オクトが魔法まで使えるとは思わなかったぞ。さっき使ったのは生産魔法というものだろう?」

 

「ああ、オレが使ったのは生産魔法であってるぜ。低位魔法(・・・・)のやつだけどな。それから、オレの居た世界じゃ戦士でも魔法を使えるのが普通だぜ?まぁ、戦闘じゃ使い物にならないのばっかりだけどな。」

 

道具や調味料を興味津々に眺めるザリュースに、オクトは魔法の簡単な説明をした。

 

ザリュースの発言から、この世界でも生産魔法は存在するらしい。デーモンオンラインでは生産魔法によって、食材や装備の素材が作成可能だ。製作系職業のレベルを上げることで、その職に適したものを習得していくことが出来る。オクトはちょっとした暇つぶしで調理師見習いのレベルを上げていたため、食材・・・調味料レベルなら二十種類程度は作成可能だ。

 

ちなみに、オクトが作り出した調味料の中に小麦粉がある。

わざわざ村に行かなくても、それで料理を作れば食事の心配は無いように感じるが、そうできない理由があった。

デーモンオンラインの生産魔法は生産系職業への配慮として、一日の使用回数がそれぞれの魔法に設定されている。

そして、その仕様は異世界に来てからも同じようで、小麦粉の生産魔法<一掴みの小麦粉(ハンドフル・フラワー)>の上限は一日六回。上限いっぱいまで小麦粉を生産しても、標準的なサイズのパンケーキ二つ分ぐらいにしかならないのだ。とてもではないが空腹を満たすことは出来ない量だ。

 

 

「低位魔法・・・?第0位階魔法(・・・・・・)のことか?」

 

説明を聞いたザリュースは、オクトの魔法を不思議に思ったのか疑問を投げかけた。どうやら”低位魔法”という言葉が聞き慣れないものだったらしい。そして、オクトにとっては”第0位階魔法”という言葉こそ聞き慣れないものだった。

 

「ん?なんだ第0位階魔法って?・・・この世界の魔法か?」

 

「ああ、この世界の魔法だ。低位魔法とはオクトの世界の魔法なのか・・・?」

 

「まぁ、その一つだな。低位魔法、中位魔法、高位魔法、禁断魔法の4種類があるぜ。」

 

「この世界の魔法とは全く違うものだな。・・・魔法に関しては司祭頭の所に行ったときにでも、お互いに詳しく話すとしよう。・・・取引としてな。」

 

「ケッ、少しぐらいタダで情報寄越せっての。オレだって話したじゃねぇか・・・まぁ、いいや。メシ食ったら司祭頭の所に行くぜザリュース。その第0位階魔法ってのがどーにも引っかかる・・・」

 

ザリュースの家に向かうまでの間に、この村の幹部のような人物達の説明を一通り受けた。戦士頭、狩猟頭、司祭頭、長老会という幹部が居るらしく、そのメンバーだけがまともに交渉の内容を知っているらしい。そして、司祭頭とは司祭と呼ばれる魔法使い達のまとめ役で、この村で最も魔法に詳しい人物のようだ。

 

そのため、先ほどの話からこの世界の魔法を知りたいと思い、司祭頭に会いに行くと言ったのだ。しかし、オクトが今、抱いているのはこの世界の魔法に対する興味関心などではない。どちらかといえば既視感のようなものだ。

オクトはこの世界の魔法”第0位階魔法”という響きに何か引っかかるものがあった。どこかで聞いたことがあるような気がしたのだ。

 

(デーモンオンラインじゃない・・・何かで聞いたような見たような・・・第0位階魔法。ん・・・?第”0”位階魔法?)

 

第0位階魔法について記憶を探っていると、”0”という言葉に疑問を抱いた。0があるということは一や二もあるのではないだろうか?そんな疑問から思わず口が開いた。

 

「ザリュース。細かい話は後で司祭頭から聞くとして、少しだけ聞きたいことがある。もしかして、第一位階魔法や第二位階魔法ってのも・・・」

 

 

 

グゥ~・・・

 

 

 

「・・・先に料理とやらを食べてからにした方が良いんじゃないかオクト?」

 

「・・・だな。」

 

オクトとザリュースはお互いにおどける様にして言葉を交わした。

 

実際、ザリュースの言うことが正しい。オクトは人間を超えるの食慾になったのだ。空腹のまま何かを考えても上手く行かないだろう。それよりも欲求を満たした方がずっと良い考えが浮かぶはずだ。

 

 

(ま、後で聞けばいいしな。とりあえず、メシだ。)

 

オクトはすぐに頭を切り替え、バーベキューコンロに近づいた。

まずは火を着けるところからだ。流石に炭までは所持品ボックスに入れていなかったので、ザリュースからある程度の薪を貰っている。薪というよりは木の棒というべきものだが。オクトは大きめの薪を手に取り、頭上に掲げスキルを発動した。

 

「<ファイアブレスⅠ>」

 

まるで火炎放射器のようにオクトの口から炎が噴き出してきた。高さにして十メートルほどはあろうかという炎は、薪に火をつけるには十分すぎる。炎が当たった部分は綺麗に灰となり、当たらなかった部分は赤々とした炭になっている。

 

「なっ・・・!」

 

「まぁ、気にすんなザリュース。ドラゴニュートだから炎ぐらい吐けるってことよ。しっかし、今回は大成功だぜ。こんだけ威力落とせば十分に使えるな。」

 

驚きの声を上げ唖然とするザリュースとは対照的に、オクトは何事も無かったかのように話しかけ、威力についての調整まで口にしている。さらに赤々と熱せられた炭を素手で持っているのだ。

 

この光景にはザリュースのみならず、周りで見ていた他の蜥蜴人(リザードマン)達も驚愕の顔をした。

怪物だと思っていたが、炎まで吐ける化物とは思って居なかったのだろう。おそらくザリュースもだ。あまつさえ、あの炎で威力を落としているとは・・・全力ならどんなものだというのか。そして、なぜ真っ赤な炭を平然と持っているのか・・・全員の表情に恐怖の色が濃く現れている。

 

唯一、恐怖の顔をしていなのは子供の蜥蜴人(リザードマン)くらいだ。大人とは逆に面白いものを見たかのように目をキラキラと輝かせている。

 

 

(もう少し弱く出来れば一気に火をつけれるんだがなぁ・・・武技やスキルの手加減を練習しないとな。)

 

オクトは蜥蜴人(リザードマン)達の様子には気が付かず、練習の必要性を実感する。

もちろんだが、デーモンオンラインでは魔法や武技、スキルの威力を手加減するということは出来ない。発動すれば一律で同じ効果だ。しかし、現実ではある程度の武技やスキルは手加減して威力の調整が可能となっている。ブレス系のスキルに関しては全て手加減が可能だ。そのため、調節次第では低レベルなスキルでも役に立つと考えたのだ。

 

今回のように<ファイアブレスⅠ>で火をつける、他にも<アイスブレスⅠ>で氷を作る等、生活的な分野に応用できるのではないかと思ったのだ。

ちなみに魔法は手加減することが出来ない。オクトの習得している魔法の数が少ないため、絶対に手加減できないとは言えないが。

 

 

(ま、追々やっていこう。リザードマンと試合するとかその辺がちょうど良い練習かもな。)

 

気楽に練習方法を考えつつ、熱せられた炭を薪と一緒にバーベキューコンロに投げ込んだ。もっと威力が落とせたならバーベキューコンロに沢山の薪を入れて、一気に火をつけれたのだろう。このあたりの手間が少し煩わしい。面倒なことに火が他の薪に移るように手で位置調整をしなければならないのだ。

 

熱い炭を素手で触れても大丈夫なのは、おそらく職業『ドラゴン』の特性だ。全ての属性攻撃に対して高い耐性を持っているためか、炎に触れても温かい程度の温度しか感じないのだ。実験した限りでは未強化の<ファイアブレスⅣ>までは温かい程度で済んだ。それ以上に関しては防御系のスキルを使用することで同じ結果となる。

 

 

すすけた手をタオルで拭くと、魚をまな板の上にのせ調理を開始した。

空を飛べることや原っぱでの実験から予想していたことだが、料理のことを考えるとその全てが分かってしまう。元の世界では魚なんて捌いたこともないが、目の前では慣れた手つきで両手が魚を解体している。おそらく三枚おろしという方法で魚の切り身が出来上がっていた。

 

 

(すげぇ・・・改めて見せられると気持ち悪りぃな。なんで当たり前のように出来るんだか・・・)

 

オクトは自らの完璧な動作に気持ち悪さを覚えつつも、テキパキと料理作り続ける。

 

まずは魚を適当な大きさに切り、皮に縮み防止の切れ込みを入れる。その後、切り身に塩、胡椒を振りかけ、うっすらと小麦粉を纏わせる。

熱せられた鉄板の上にバターをおき、しっかりと全体にバターを塗りつけていく。

満遍なくバターを行き渡らせたら魚を皮から投入し焼いていく。この際の火加減は弱火だ。こうすることで皮がパリパリの食感になるのだ。バターも焦げ付かず綺麗な仕上がりとなる。

そのまま皮を下に7、8割ほど火を通してひっくり返す。両面にこんがりと焼き色が付いたら完成だ。

完成した料理をトングで真っ白な皿に盛り付けると、美味しそうなムニエルが姿を現した。

 

 

「おぉ・・・我ながら美味そうだぜ・・・」

 

ゴクリと唾を飲み込むと思わず自画自賛してしまった。

調理師見習いで作れる料理は基本的なものばかりだ。オムレツやパンケーキ等、誰でも一度は聞いたことのある料理を作ることが出来る。その代わり、食事としての効果は低く実用性はあまり無い代物である。

 

調理師や料理長になれば”舌平目のムニエル”や”牛ヒレとフォアグラのロッシーニ風”といった高級料理も作れる。アイアン・シェフ以上ともなればゲーム特有の素材を使った、リアルでは聞いたことの無い料理を作成可能だ。効果も非常に高く戦闘職のみならず、すべての職において必要な場面が出てくる代物だろう。

 

 

だが、それもゲームでの話。現実では普通のムニエルでも胃袋を満たしてくれるという最高の効果を発揮する。

香ばしい香りも辺りに広がり、食慾を刺激する。先ほどまで恐怖していたはずの野次馬やザリュースでさえ、食慾が恐怖を打ち破ったようだ。

ザリュースは魚の生臭い匂いに食慾をそそられるらしいが、ムニエルの香ばしい匂いにも食慾をそそられるらしい。スンスンと鼻を鳴らしながらザリュースが感想を述べる。

 

「・・・それが、料理というものか。不思議な香りだがなんとも食慾をそそられるな。」

 

「少しぐらいならやるぜ?元はザリュースの魚だからなぁ・・・」

 

「い、いや、これはオクトの食事だ。俺に分けずにオクトが食べるべきだ。」

 

オクトはニヤリと笑いながらザリュースにおすそ分けを提案する。ザリュースも食べたいのだろうが、意地や体面・・・この場合は”かっこつけ”というものがそれを拒否したようだ。それを証明するかのように尻尾がバチャバチャと地面を叩き続けている。

少しザリュースをからかいたくなったオクトは、周囲に目をやり獲物を探した。そして、キラキラと目を輝かせる子供の蜥蜴人(リザードマン)達を標的に定める。

 

 

「おい、そこのガキ共。少し食うか?うめぇぞ?」

 

子供達にそんな誘惑を呟くと、美味しそうにムニエルを一切れ口の中に放り込む。じっくりと味わうように口を動かし、誘惑の言葉を続けた。といっても半分近くは本音だ。

 

「美味い・・・にじみ出る脂が最高だな。バターの甘みに胡椒の風味、そして素材の味が分かる程度の塩気。それぞれが交じり合って絶妙な味付けだ。香ばしい香りも口から鼻に抜けて良い。しかも外はパリパリ中はふっくらとして歯ごたえまで楽しめるじゃねぇか・・・。」

 

生魚と干物しか食べたことの無い蜥蜴人(リザードマン)達に、この言葉がどのように解釈されたのかは不明だが、子供達の好奇心を振り切るのは容易だった。

大人の制止を振り切って数名の子供達がオクトの前まで駆けてきた。その子供達の前に皿をズイと出すと一斉に手が伸びてくる。伸びてきた手はそのまま口へ直行し、即座に子供たち明るい歓喜の声が辺りに広がった。そして、その歓声に惹かれるようにして次々と子供達が集まってくる。

 

 

「ザリュース・・・本当に要らねぇのか?」

 

「そ、そこまで言うなら一切れだけもらお」

 

「あ~・・・でもやっぱ子供が先だよな~。他の子供達に配った後に余ってればやるか~。でも沢山いるから余るかな~。」

 

「む、むぅ・・・」

 

オクトの言葉にザリュースの尻尾は力なく地面に垂れ下がり、シャースーリューのような唸り声を上げた。唸り声を聞いてやはり兄弟だと思いつつ、オクトは笑顔で子供達にムニエルを配り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで料理を作って余生を過ごすってのも悪くないなぁ・・・どうよザリュース?」

 

オクトは自信満々の顔を浮かべるとザリュースに問いかける。

 

「オクトが蜥蜴人(リザードマン)なら俺も歓迎するだろうな。だが、招かれざる客である以上、ここで余生を過ごすのは止めてもらいたいところだ。」

 

「冗談に決まってんじゃねぇか。怖い顔で答えるなよ。・・・まだ怒ってるのか?」

 

しかめっ面でザリュースはオクトの冗談に答えた。

 

 

オクトが子供達にムニエルを配り始めてからはや一時間。オクトとザリュースは司祭頭の家に向かって歩みを進めていた。

 

あれから沢山の子供達に料理を配っていたのだが、途中から大人の蜥蜴人(リザードマン)まで近寄ってきたのだ。同じように「食うか?」と一声掛けて渡していくと、次々に蜥蜴人(リザードマン)が現れ長蛇の列となってしまった。

その光景を見てオクトは調子に乗った。調味料が尽きるまで料理を振舞い続け、一時間近くレストランを開業していたというわけだ。もちろん、からかう予定だったザリュースには何も食べさせていない。それどころか追加の魚を要求し続けたのだ。このザリュースの態度も致し方ないだろう。

 

 

(・・・ちょっとやりすぎたかな。)

 

自らの調子に乗った態度を少し反省していると、ザリュースから呆れたような声が返ってきた。

 

「オクト。別に料理を貰えなかったことはもう(・・)怒っていないぞ?俺が心配しているのはオクトが目立ち過ぎたことだ。」

 

「ん?なんか問題あるのか?普通にリザードマン達と仲良くなったじゃねぇか。食料の取引だってもう心配要らねぇし、どっちにとっても美味しい話だったろ?」

 

ザリュースの言った意味が分からなかったので疑問を投げかける。

 

 

オクトが発言したように、あの場にいた蜥蜴人(リザードマン)達とはかなり友好的に接することができた。おまけに取引まで行っている。

 

それは料理を始めて三十分ほど経ってからの事だ。

オクトが料理を振舞っていると、数名の蜥蜴人(リザードマン)から料理を教えて欲しいと言われたのだ。そのため「教える代わりにここに滞在する間の食料を貰いたい」と取引を持ちかけたところ快く了承された。

調理器具がこの村に無いのでザリュースの提案により、オクトの調理器具も村を去るときにそのまま置いていく約束となっている。

 

以上のことから、オクトは非常に望ましい形で蜥蜴人(リザードマン)と仲良くなれたはずだ。確かに目立ってはいるが、むしろ良い目立ち方ではないだろうか?

「”緑爪(グリーン・クロー)”族にとって良い訪問者だった」として噂が広まる可能性が高く、他の蜥蜴人(リザードマン)達の警戒心も薄まるはずだ。

 

 

ザリュースは溜息を漏らし、心配の意味を説明した。

 

「家を出る前に話したと思うが、あそこに集まっていた者達は一般階級の蜥蜴人(リザードマン)だ。突然やってきたよそ者が一般階級の蜥蜴人(リザードマン)とすぐに打ち解けた・・・戦士頭や長老会は面白く無いに決まっている。今回のことでより強く敵視されるだろう。敵対心を持たれ過ぎるというのも危険なんだ。」

 

「・・・戦士頭や長老会がオレに喧嘩売ってくるってことか?」

 

「そういうことだ。適度な敵視は程よい緊張を生むが、過剰な敵視は暴走を生む。もともと今のオクトの待遇は綱渡り状態なんだぞ?予想外のことが起こったら簡単に戦いになる。」

 

ザリュースから話は聞いていたが、戦士頭や長老会はオクトの事を”敵”として見ているらしい。敵が自分達の知らない内に下の者と仲良くなっているのは、言うまでも無く面白くないはずだ。それは余計な問題を生じる可能性が高い。

ザリュースとしては「程よい緊張感」で、オクトの待遇を維持していくつもりだったのだろう。先ほどから今後の事について色々と考えているようだ。

 

 

「ん~・・・オレとしてはお前らとやる気は無いんだぜ?傭兵をやってると言ったが、殺しが好きってわけじゃねぇ・・・金を稼ぐのに手っ取り早い方法だっただけだ。ザリュースを脅したのだって仕方がねぇからやっただけだぜ。蹂躙するとか殺せるとか言ったがマジではやらねぇぞ?」

 

オクトの本心としては蜥蜴人(リザードマン)に危害を加える気はない。ザリュースを脅すことに失敗していたら、潔く手を引くつもりだったのだから。

 

蜥蜴人(リザードマン)とオクトの力の差は、少なくとも蟻と人間ほどはあるだろう。しかし、だからといってわざわざ踏み殺しに行くなんて事はしない。

そもそも、オクトはこの世界の蜥蜴人(リザードマン)を蟻ではなく”人”として認識している。そのため、蜥蜴人(リザードマン)を殺すつもりはこれっぽちも無い。せいぜい最上位種族として下位種族を「子分やパシリにしたい」ぐらいの悪意しか持ち合わせていないのだ。

 

それに殺した場合のデメリットが大きすぎるという理由もある。

元の世界で蟻を人知れず踏み殺したとしても悪評は立たないし、バレたとしても極端に嫌われる程ではないだろう。だが、人間を人知れず殺したとしたらどうだろうか?バレなくても問題が発生するだろうし、バレたとすれば悪評どころか刑務所送りだ。その後の人生も大きく変ってしまうだろう。

 

つまり、現実で人のような生物を殺すのは危険だ。正当な理由が無ければ悪人として扱われ、一生この世界の敵と認識されてしまう可能性がある。

圧倒的な実力差があれば世界征服でもして、全世界を屈服させれば良いのかもしれない。蜥蜴人(リザードマン)がこの世界の標準的な強さだとするなら、容易に出来るだろう。しかし、力での統治なんて無謀だということぐらい、オクトの頭でも想像できる。最終的には力で自由に生きるつもりではあるが「腕の立つ流れの傭兵」ぐらいの地位に収まれば十分である。

 

オクトはそんな思惑から蜥蜴人(リザードマン)、引いてはこの世界の住人を無闇に殺すどころか、揉め事も起こしたくは無いのだ。

 

 

「オクトの本心が争いを望まないとしても、信じられない者は居る。戦士頭や長老会はお前が友好的に蜥蜴人(リザードマン)と接するなど信じていない。いつか裏切るだろうと考えているんだ。俺だっていつお前の逆鱗に触れて殺されるか、内心では恐怖しているんだぞ?」

 

「・・・じゃあ、どうすりゃいい?戦士頭や長老会にプレゼントでもするか?」

 

「それは逆効果だ。贈り物を目の前で捨てるか、罵声を吐いて受け取らないだろうな。そしてそうなった場合、お前は戦士頭や長老会を絶対に殺さないと言い切れるか?」

 

「・・・絶対は言えねぇな。」

 

ザリュースの言葉を想像してみるが、絶対に怒らないとは思えなかった。ドラゴニュートとなり、図太い神経になっているが感情の起伏が全く無いわけではない。些細なことで激怒する可能は十分にある。未だドラゴニュートとしての自らの性格を、完全には把握し切れていないのだ。

 

う~んと唸り声を上げるオクトを見て、ザリュースは苦虫を噛み潰したかのような表情で提案を告げた。

 

 

「・・・本当ならオクトに伝えずに行いたいことだったのだが、一つ良い方法があるぞ。」

 

「なんか良い方法があんのか?教えろよ。可能な限り協力するぜ。」

 

「俺と一対一で戦ってもらう。」

 

(・・・なに言ってんだコイツ?)

 

ザリュースの提案はオクトには意味不明だった。はっきりとした実力差があり、オクトには戦う気が無いと言っているのになぜ戦おうとするのか?もしかすると、見た目以上に恐怖を覚えており、頭のネジが吹っ飛んでしまったのだろうか?

オクトは呆れと心配の表情を浮かべザリュースを見るが、その顔は至って冷静だった。

 

 

「オクト。お前の本当の強さは兄者にしか話していない。お前の強さをそのまま伝えるのは逆に不味い・・・皆が抱く恐怖が大きすぎるからな。だが、その結果、俺と兄者以外はお前の強さを”ある程度の犠牲を出せば倒せる”としか認識していないんだ。だからお前と戦おうと思う者が居る。」

 

「なるほどな・・・いや、だから何でオレとザリュースが戦うんだよ?」

 

蜥蜴人(リザードマン)には戦士階級という戦いを専門とする者達がいる。その者達の前で俺と戦い力を示すんだ。俺が相手なら本気を出せないだろうが、その位の力でちょうど良いはずだ。十分に戦士階級の認識を変えられるだろう。”戦えば村が滅びるかもしれない”という程度にはな。戦士階級の者が戦意を喪失すれば、戦士頭や長老会も表面上はお前と争うことを止めるはずだ。付いて来る者が居ないからな。」

 

「つまり・・・適度な恐怖(・・・・・)で暴走を抑止するってことか?」

 

「そういうことだ。適度な強さを見せ付けて黙らせろ。司祭頭の次はすぐに戦士階級のところに行くぞ。ちなみに俺を殺すのはオクトにとってデメリットしかない・・・殺すなよ?」

 

「分かってるって殺しゃしねーよ。別に話を聞いてなくても戦いでお前を殺す気なんて・・・ザリュース。お前、元からそこまで考えて戦う気だったのか?」

 

「言っただろう?オクトには伝えずにやるつもりだったと。状況が変ったので話しただけさ。早急に行動しないといけないからな。」

 

(頭はオレより断然上だな・・・)

 

 

オクトがザリュースの頭の良さに関心したのと同時に司祭頭の家に着いた。

ザリュースの家と比べると大きく、見たことの無い模様が描かれている。流石にこの村の幹部といったところだろう。明らかにザリュースの家より立派だ。

 

どやら家主もこちらの訪問を見ていたらしく、扉の前で出迎えている。

年老いたメスの蜥蜴人(リザードマン)。オクトがザリュースと最初の交渉をしている間に、いくつかの魔法を使ってきた人物。司祭頭だ。

感知系魔法はスキル<UMAの気配>によって自動的に無効化してしまうため、あまり気にならなかったが、念のため脅しの意味を込めて睨み付けた人物でもある。

 

 

「さっそく来おったか怪物よ。魔法を使ったわしへの報復かの?」

 

「安心しろババァ。あんな程度で怒りゃしねーよ。攻撃魔法だったら別だけどな。」

 

「それは命拾いしたのぅ・・・さぁ、早く入るのじゃ。外で話されると目立っていかんわい。」

 

司祭頭に言われるがまま、オクトとザリュースは家の中に入る。

中はいかにも魔法使いと言った物が多数存在していた。動物の頭蓋骨や水晶と思われる石、宝石や骨で作った装飾品など様々だ。漂う匂いも独特であり、薬草や毒草といった植物をイメージさせられる。

 

広間につくと床に置かれた座布団のようなものに司祭頭が腰を下ろす。司祭頭から座布団を指し示され、オクトとザリュースは司祭頭に向かい合うようにして腰を下ろした。

司祭頭の隣にはオクトの渡した『ルビー原石』も鎮座している。オクトが渡したときと比べると大きさが小さい・・・どうやら砕いて何かしていたようだ。

 

 

「へぇ・・・ルビーはババァが貰ったのか。若いお嬢さんに譲ってやった方が良いんじゃねぇか?まぁ、いくつになっても女は美しさを求めると聞いてるけどよ。」

 

少し皮肉を込めて司祭頭に話しかけてみた。誰がルビーを貰っていようと構わないのだが、老婆よりは妙齢の女性の方が似合うだろうと感じたからだ。

 

「宝石は魔法を込めやすい素材での。わしが魔法アイテムを作るということで譲り受けたのじゃ。わしはもともと装飾品を作るのを趣味にしておった。そのうち魔法を込めた装飾品を作りたくなり、司祭に教えを請い始め、気が付けば・・・司祭頭になるほど魔法に詳しくなっておったと言うわけじゃ。」

 

「そういうことなら納得だ。まぁ、それはもうお前らのモンだし好きにしな。」

 

どうやら自らの美しさなどよりも、趣味を優先しているようだ。周りの調度品を見ればそれも頷ける。

 

「フフフ、ありがたく使わせてもらうとしようかのぅ・・・さて、ここには何用で来たのじゃ?怪物の報復でないなら、ザリュースがわしに用事でもあるのかの?」

 

「いや、用事があるのはオクトの方だ。司祭頭、オクトはこの世界の魔法について質問があるらしい。分かる範囲で教えてやってくれ。対価は魔法アイテムでどうだろう?」

 

ザリュースの返答を聞くや否や、目を見開き即答した。明らかに嬉しそうな表情だ。

 

「ああ、教えるとも!魔法効果付きのアクセサリーがあればそれが欲しいのぅ!出来ればいくつかの種類のアイテムを先に見せて欲しい!その中からわしが選びたい!」

 

「あ、ああ。分かった司祭頭。オクト。先にいくつか見せてやってくれ。」

 

「お、おう・・・」

 

(このババァ実は変人じゃねぇか・・・)

 

嬉しさを通り越し狂喜じみて見えるが、喜んでいるのは間違いない。少し引いているザリュースから判断すると、この司祭頭はめったに見れるものではないようだ。同じくドン引きしているオクトは所持品ボックスに手を入れアイテムを漁った。その光景を舐め回すように司祭頭が見つめる。若干の恐怖を覚えたものの、無視してアイテムを選んだ。

 

オクトは5種類のアクセサリーを適当に取り出した。それぞれに対して簡単な説明を行い、司祭頭はそれを真剣に聞いていた。そして、アクセサリーを穴が開くほど眺めた司祭頭は・・・どれか一つに決めきれなかった。そのため、話の後でじっくり決めたいと申し出てきたのだ。

 

 

「やれやれ・・・めんどくせぇババァだ。んじゃ先に質問するぜ。」

 

「すまんのぅ。久しぶりに興奮してしまったのじゃ・・・いやしかし、このアクセサリーはどれも」

 

「司祭頭、そろそろ元に戻ってくれ。」

 

ザリュースが司祭頭をなだめ、ようやく質問が開始された。

 

「まず聞きてぇのはこの世界の魔法の名前だ。ザリュースから聞いたが”第0位階魔法”って言うんだろ?ちなみ第一位階魔法や第二位階魔法ってヤツもあんのか?どーにも聞いたことがある気がするんだよなぁ・・・」

 

オクトは最も知りたい事から質問する。

魔法の名前がデーモンオンラインと違うということはもちろんだが、やはり聞いたことがあるような名前なのだ。だからこそ、魔法の名前を聞いて思い出せればと思っている。

 

「そうじゃな・・・わし等の知る魔法は階位魔法と呼ばれ、第一位階魔法から第十位階魔法まで存在すると言われておる。第0位階魔法は魔法と呼ぶには疑問符が付くものじゃ。使えたからといって特別扱いはされぬ。第一位階を使用できるようになって、ようやく魔法詠唱者(マジック・キャスター)と呼ばれるのじゃ。」

 

「一から十か・・・随分と多いな。ちなみにババァはどこまで使えるんだ?ってかそれぞれどのくらい強いんだ?」

 

「わしは第二位階までしか扱えん。凡人としての最高位じゃな。第三位階を使えるともなれば才のある者。第四位階ならば稀代の魔法詠唱者(マジック・キャスター)。第五位階は生物としての限界じゃろうな。第六位階以上は伝説や神話の領域じゃ。」

 

「なんだ・・・第六位階以上は名前だけってことかよ。じゃあ、強いヤツってのは第三位階とか第四位階を・・・」

 

 

オクトはそこで口が止まってしまった。ある魔法を思い出してしまったのだ。今はまだその魔法の名前を思い出しただけである。したがって、どんな効果なのか、どこで聞いたものなのかは思い出していない。だからこそ自然にその魔法を呟いてしまった。

 

 

「第三位階魔法<火球(ファイヤーボール)>・・・」

 

「なんじゃ知っておるのか?確かに第三位階に<火球(ファイヤーボール)>という魔法がある。わしも使えん魔法じゃ。異世界とやらでも存在しておるのか?」

 

司祭頭の言葉はオクトの耳を通り抜けている。他人の言葉など聞こえない。

頭の中でパズルのピースが揃ってしまったのだ。<火球(ファイヤーボール)>をどこで聞いて、どこで使ったのかを思い出したのだ。

 

 

 

 

 

<火球(ファイヤーボール)>を使用したのは元の世界のゲーム。

 

 

 

 

 

数年前、二週間の無料期間でやったゲーム。

 

 

 

 

 

DMMO-RPGの代名詞であり、一年前にサービス終了したゲーム。

 

 

 

 

 

 

 

「ここはユグドラシルか!?」

 

 

 

オクトは驚愕の声を上げた。




司祭頭は魔法アイテム馬鹿という設定に捏造しています。
次回でもう少し壊れてもらいます。
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