僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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更新が大幅に遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
言い訳するつもりは毛頭ございませんが、強いて言わせてもらうならば

低スペックのPCが反抗期になった、くらいでしょうか。


お待たせしてしまって大変遺憾に思っておりましたので
それでは、どうぞ!


問8「僕と決着と初めての顔」

 

住宅が重なって見えなくなった地平線に、煌々と輝く夕日が沈んでいく。

鏡合わせとなっているこのミラーワールドの中にも、外の風景が反映されていた。

もはや薄っすらとではなく確実に暗くなっていく空の下、荒廃した工場の中で僕はひたすら

一緒にこの地に赴いた仲間である人物の名を呼び続けていた。

 

 

「ナイト! ナイト‼」

 

 

一度目の呼びかけに、彼からの返事は返ってこなかった。

舌打ちしそうになる気持ちを抑えながら、工場内を走りつつ再び声を張り上げる。

先程よりも大きく、先程よりも祈りを込めて。

 

 

「ナイトォ‼」

 

 

二度目の呼びかけにも、返事は返ってくることは無い。

その事実が、僕の脳内に最悪の事態を想像させた。

僕は頭を大きく振るってそれを振り払い、もう一度声を引き絞って呼びかける。

 

 

「ナイトォ‼」

 

「_________________龍騎‼」

 

 

三度目の呼びかけでようやく待ち望んだ結果が訪れた。

僕の中には喜びと安心からか、急激な脱力感と早く会いたいという活力が湧いてきた。

それに従って、声の聞こえてきた方角に向かって走り続ける。

大した距離じゃなかったようで、僕は声をかけていた人物に出会うことが出来た。

 

 

「蓮さん‼」

 

「来るな龍騎、邪魔になる‼」

 

「え…………?」

 

 

だが僕の目に飛び込んできたのは、疲弊して片膝をついているナイトの姿だった。

彼が苦戦するほどの相手だったらしい、僕一人ではシザースに負けていたかも………。

そう思いながら彼に駆け寄ると、ヨロヨロと情けなく立ち上がって僕を睨みつけてきた。

いや、正確には僕をではなく、僕の斜め後ろで余裕の態度を見せている人物を、だった。

 

 

「へぇ、ソイツが龍騎ねぇ。お前ら手を組んでるのか、異常だな」

 

「何だお前は‼」

 

「龍騎、コイツはベルデだ! 【仮面ライダーベルデ】、四人目の契約者だ‼」

 

「え⁉」

 

 

僕がナイトの言葉で慌てて振り向くと、ソイツ___________ベルデは芝居がかったような

立ち振る舞いのまま僕らの正面まで歩いてきて、上から目線で見下すように話し始めた。

 

 

「そう、俺は四人目だ。お前らよりも先輩だ、分かったかヒヨっ子共が」

 

「何が先輩だ、僕らライダーに年功序列なんかあるもんか‼」

 

「はっ! 年上に算段無く盾突こうってか? これだからケツの青いガキは………」

 

 

やれやれだ、とでも言いたげに肩をすくめつつ両手を肘のあたりで曲げて広げたベルデの

態度と言葉に僕の怒りは一気に燃え上がるが、ナイトが片手でそれを制してきた。

 

 

(安い挑発だ……………乗るな)

 

(分かってますけど、でも…………でも!)

 

 

距離を置いて離れているベルデには聞こえない声量で会話する僕とナイト。

その行動を見てどう思ったか、向こうは余裕の態度を払って戦闘態勢に入った。

僕はそれに続いて臨戦態勢を取ろうとして止め、ナイトに肩を貸す。

 

 

「…………何の真似だ?」

 

まるで戦う事を放棄したように見える僕の対応を見て、ベルデが言及してくる。

それを観越していた僕は腰のカードデッキから一枚カードを取り出し、ナイトに貸した

肩の先にあるドラグバイザーにゆっくりと装填し、読み込んで反映させた。

 

 

【STRIKE VENT】

 

「何の真似だろうね……………」

 

「調子に乗るなよこのガキが‼」

 

 

僕の仕掛けた安い挑発に踊らされてベルデが僕らめがけて駆け出してきた。

ナイトを連れ立っている以上、スピードでは勝てないし逃げられもしないだろう。

でも、そもそも逃げるなんて選択肢は僕にはない。

願いを叶えるために、僕は全てのライダーと戦ってそれを倒さなきゃいけない。

だったら、戦うっきゃないだろ‼

 

 

「これでも喰らえ‼」

 

 

ナイトに貸しているのとは逆の腕の先に装着された龍の頭_________ドラグクローから

燃え盛る紅蓮の砲弾が三発連続で発射され、ベルデの行く手を着弾の炎で遮る。

突然の攻撃に驚いたのか、はたまた炎で道をふさがれるとは思ってなかったのか、

ベルデが慌てふためくような声を上げてバック転や跳躍を駆使して後退した。

 

 

「チッ! クソガキが味なマネを‼」

 

 

炎の壁の向こう側から、ベルデが僕を毒づく声が聞こえてきた。

でもこれは単なる時間稼ぎであって、逃げるための策ではない。

少し先まで歩いて、崩れかかっているアスファルトの柱の陰にナイトを降ろして

この場で安静にして動かないようにとキツく言い聞かせた。

無論ナイトが僕の言う事を聞くはずも無いため、彼を置いたらすぐにベルデの元へ駆けた。

 

「さぁて、ここからが……………ん?」

 

 

ベルデを足止めした辺りまで戻って来たのに、肝心のベルデの姿が無い。

逃げたのだろうかと考えていると、もう少し先の場所から何かがぶつかる音が聞こえてきた。

 

 

(まさか、別のライダーも来て戦ってるのか⁉)

 

 

明らかに自然なものではない音を聞いた僕はそう考えて急行する。

するとそこには予想通りの戦闘が、そして予想外の戦闘が行われていた。

 

 

『ギッ! ギギィギ‼』

 

「なんっだ、コイツは! くそ、鬱陶しい‼」

 

「アレは………ボルキャンサーか」

 

 

僕の眼前で繰り広げられていたのは、ベルデとボルキャンサーの一騎打ちだった。

とうに暗くなった廃工場の中であっても目立つメタリックオレンジに輝くハサミを振り上げ

若草色を基調とした鎧とスーツを纏ったライダーを上半身が膨張した怪物が追い立てる。

ハサミを回避したベルデは足払いでボルキャンサーのバランスを崩そうとする。

しかし口から吐き出された無数の泡の爆裂によってそれは断念され、互いに距離を取った。

金属を擦り合わせるような不快な音を立てて威嚇するボルキャンサーを前に、余裕の態度で

ふざけた体勢を取り続けてベルデは相手から攻撃を仕掛けさせようとしている。

咄嗟に近くの柱の陰に隠れた僕は冷静に状況を確認した。

 

 

(多分、契約モンスターにとって一番手近にあった餌を盗られたボルキャンサーが

ベルデを物陰から襲って、今それがもつれているって感じかな)

 

 

コッソリと顔を柱の陰から覗かせつつ、客観的に現場を捉える。

するとしばらくの攻防があった後に、二人はちょうど僕のいる柱と直線状の位置で硬直した。

上段から振り下ろされたハサミを両腕で押さえ、両足で押し負けないように支えている。

お互い完全に無防備な状態。コレを見逃す機は無い‼‼

 

 

「もらった‼」

 

 

柱の陰から躍り出た僕は右手を大きく後ろにやって、力を溜めてから一気に押し出した。

右手のドラグクローからは周囲を包み始めた暗闇を照らす紅蓮の炎が弾け飛んでいく。

一直線に突き進む灼熱の砲弾の先にいるのは、ボルキャンサーとベルデの二人のみ。

 

「なっ⁉ くっそが‼」

 

『ギ、ギギィ⁉』

 

 

二人は周囲の闇を照らす明るさに気付き、迫り来る攻撃を直前で認識する。

ベルデはボルキャンサーの胴体を蹴って宙に浮き、身体をひねってわずかに滞空する。

蹴られた反動でボルキャンサーの身体は一歩分僕の放った火球に近付いたが、

両腕のハサミを大きく振り上げたと同時にそのメタリックオレンジの巨体が掻き消えた。

 

 

「鏡を作ってワープしたか! でも‼」

 

 

出来れば同時に仕留めたかったが、上手くいかないのは仕方が無い。

それでも一番の目的であるライダーの方は未だに火球の進む先で着地して間もない。

今から回避しようにも火球の大きさもあるし、直撃は避けられても多少のダメージは確実。

しかもここは廃工場の中心部に続く通路だった場所らしく、周りには窓以外に壁しかない。

僕が攻撃の成功を確信した時、ベルデのわずかな動きを仮面越しの視界で捉えた。

 

 

「………………ハッハハ」

 

 

薄ら笑いを浮かべているだろうベルデはしゃがみつつ、デッキからカードを取り出していた。

そして左足の太もも辺りに巻き付いている小さな何かから、細い糸のようなものを引っ張って

カードに付けて手を放し、顔を上げて迫り来る火球を睨みつけた。

 

 

【ADVENT】

 

 

どうやらベルデの太ももにあるのは、カードを読み込むバイザーだったようだ。

僕は自分の左手にある篭手型のドラグバイザーを横目で見てから、相手を再び見つめる。

 

「……………どこだ⁉」

 

だがそこには既に、若草色の影も形も見当たらなかった。

初めからそこには何もいなかったかのように、僕の放った火球も直進して壁にぶつかる。

着弾の衝撃で炎上した壁が廃工場を一瞬だが明るく彩り、暗闇を晴らした。

そのおかげか、消えたベルデの若草色が僕の視界の隅で炎に反射して煌めいた。

 

 

「天井⁉ い、いつの間に‼」

 

 

僕は声を上げながら勢いよく上を向いて驚く。

視線の先には何やら赤いロープのようなものを腰に巻き付けて宙吊りにされていた。

僕が驚いたのは何故一瞬のうちにそこまで移動しているのか。

それとどうしてそんな間抜けな格好で僕を上から見下ろしているのかって事だ。

つい思った事が口を吐いて出てきてしまう。

 

 

「何で宙吊り…………失敗したのか?」

 

「失敗だと⁉ クソガキがナメた事言うなよ‼」

 

「どう見ても失敗にしか思えないんだよアンタの今の状況は‼」

 

 

ブラブラと揺られながら僕に罵声を浴びせるベルデ。

でも現状を加味するとどうしてもバカみたいに見えてくるんだよなぁ。

そんな事を思っていると、ベルデが怒鳴るような口調で上を見上げた。

 

 

「オイ何してる『バイオグリーザ』、早く上げろ‼」

 

 

ベルデの視線を追うようにして天井を見上げると、そこに影が一つ(うごめ)いた。

 

 

鋭角的な頭部に、ギョロリと飛び出たカメレオンによく似た形状の両眼球。

しかし首から下は人間のような体格をしており、腕も足も太く筋肉質にも見える。

遠目からでハッキリとは見えないが脚は膝から逆関節になっているらしく、

その部分には人体にはあるまじき長大なバネのような部品が付けられていた。

そして何より腰の辺りから脚と触角をもいだムカデの如き形状の尻尾をまるでカタツムリの

背負う殻のように丸めて揺らしていた。

 

仮面ライダーベルデの契約モンスター、名をバイオグリーザという。

 

 

バイオグリーザは古びた工場の屋根の上に空いた穴から舌を伸ばしてベルデを吊るしていた。

恐らく僕の火球が直撃する瞬間に発動したアドベントでヤツを呼び出して回避したんだ。

契約者の命令に従って、ラーメンをすするかのようにして徐々に上へと引き上げていく。

でもそれをただ傍観するほど、僕はお人好しじゃない‼

 

 

「逃がすか‼」

 

 

右手のドラグクローを構えてベルデに狙いを定めるが、突然横からの衝撃に襲われる。

大きく吹き飛ばされた僕はすぐさま立ち上がって何が起きたのかを確認した。

 

「ボルキャンサー……………邪魔をするな‼」

 

『ギギッギ、ギィィ‼』

 

「ハッハッハ、お前随分好かれてるみたいだなぁ?」

 

 

僕がボルキャンサーと対峙している隙に屋根の上に登り切ったベルデからの余裕の一言。

どこまで行っても挑発してくるらしいベルデの言葉を聞いて、僕は仮面の下で顔をしかめる。

そのまま目の前でいきり立っているボルキャンサーにドラグクローの砲口を向ける。

 

 

「仕方ない、お前が先だ。時間が無いからかかってこい!」

 

『ギュカカ‼ ギギィギ‼』

 

ベルデとバイオグリーザの事は一先ず無視してボルキャンサーに狙いを変える。

ボルキャンサーも僕の言葉に応えるように鳴いてからハサミを振り上げる。

すると上から興味を失くしたように抑揚の無い声でベルデが話しかけてきた。

 

「何だ、もうライダーバトルは終了か?

だったら俺は帰らせてもらうぜ、こう見えても多忙な身なんでね」

 

【CLEAR VENT】

 

 

ベルデは僕にそう言い残して、その姿を掻き消した。

まるで最初からそこにいなかったかのように、どこにも姿が見えなくなった。

ボルキャンサーの動きに警戒しながら上を見上げるとバイオグリーザも消えていた。

クリアーベント、とか聞こえたけど……………まさか姿を消すカードもあるのか。

 

 

「……………ま、今はそれよりも、コッチの方が大事だよな?」

 

『ギギギッ、ギッギィ‼』

 

 

恐らく逃げたであろうライダーの事は頭の片隅に追いやって目の前の敵に集中する。

メタリックオレンジの武器を振り上げたまま突撃してくるボルキャンサーに向けて

ドラグクローを構えるが、まだ思っていたよりも炎が溜まっていなかったために

射出出来ずに攻撃を受け止めるだけに終わる。

 

 

「くっ、ぐうぅ………………くっそ!」

 

『ギュカカッ、ギッギ‼』

 

 

左のハサミでの攻撃をドラグクローで受け止めるが、右のハサミが追撃してくる。

追撃を回避するために屈んで、その姿勢のままボルキャンサーの脚に蹴りをかます。

僕の攻撃にビクともしないボルキャンサーは体勢の崩れた僕を押し切ろうと身体を前に

倒してくるが、それを左手で受け止める。

しかし人間よりもわずかに大きな身体を受け止めるには、僕はまだ弱かった。

重量に耐えきれずに押し切られ、堅いアスファルトの地面に背中から叩き付けられる。

 

「ぐっ‼」

 

『ギュイィ‼ ギッギッギ‼』

 

 

倒れた僕の上に追い打ちとばかりにボルキャンサーが馬乗りになって歓声を上げる。

耳障りな遠吠えの後で、その黒く小さな瞳で捉えて両腕のハサミを開き切る。

どうやらコレで僕を切り裂いてやるとでも言いたげなアピールをしてるな。

でも、やっぱりモンスターか。

 

 

「惜しかったな」

 

『ギ、ギ?』

 

 

うんうん、本当に惜しかったよ。

僕の言葉を聞いてボルキャンサーは首が無いために胴体ごと斜めにかしげる。

何を言ってるのか分からないようだから、もう一度分かりやすく言ってやるかな。

 

 

「惜しかったなって言ってるんだよ。

もう少し慎重に行動してれば、僕に勝てたかもしれないのにさ」

 

『ギッギ、ギギィ‼‼』

 

「まだ分からないの? これ以上教えるくらいなら実践してやるさ」

 

『ギ、ギギ⁉』

 

 

不敵に笑う僕とボルキャンサーの間にあるわずかな隙間が明るく輝きだす。

どうやら気づけたようだね、まあもう遅過ぎるんだけど。

まるで炎が互いの間で燃え盛っているかのような輝きにボルキャンサーが慌てる。

 

『ギッ、ギッギ‼』

 

「おっと待ちなよ。そんなに慌てなくてもいいじゃないか」

 

 

立ち上がって逃げ出そうとするボルキャンサーに寝たままの姿勢で蹴りを浴びせる。

ちょうど強制的に座らされたような感じで僕の上に戻って来たヤツに語りかけた。

 

 

「今更どうにかなんてなると思うなよ。今まで何人喰ってきたか自覚してるんだろ?」

 

『ギッ……………ギギギィ‼‼』

 

「コレで、終わりだぁぁあ‼‼」

 

 

灼熱の炎が溢れ出たことを確認し、素早くドラグクローをボルキャンサーに突き出す。

僕の上で悲鳴を上げるボルキャンサーを飲み込むほどの爆炎が廃工場を照らし、消えた。

 

 

『ギギギィィィィイイィィィッッ‼‼』

 

 

僕の仮面の頬を熱風が撫で、眼前の怪物を獄炎が包み込んで焼き焦がす。

爆発にも近いその爆炎はまるで怪物の断末魔すらこの世に残さないと言いたげに燃え盛る。

遠くから当てても意味が無く、背後から当てても甲殻で弾かれる。

だったらゼロ距離で一番ガードの甘そうな腹部に直撃させてやればいい。

そう考えた僕なりの奇策であり、捨て身覚悟の自爆特攻だった。

ゆっくりと立ち上がりながら至近距離での無茶を今更ながら後悔する。

 

 

「痛っ…………ってか熱ッ‼」

 

 

主に背中側に残った鈍い痛みと前方に奔る焼け付く痛みのデュエットに悶え苦しむ。

ってかホントに痛いよコレ! 痛い痛い痛い痛い‼

全く、ライダーになってしばらく経つけどこんなに痛いのは久々だよ…………………。

 

 

「あ、そうだ。蓮さんは大丈夫かな?」

 

 

ここから少し離れた場所に蓮さん___________ナイトを置いてきたことを思い出した。

あの人はかなり強いはずだから、多分シザースと戦って消耗した後でベルデに襲われたから

本来の強さを出し切れずに翻弄されたんだろうと思う。

……………何だかんだであの人も、挑発に乗りやすいタイプの人間だし。

 

「アレ? いない」

 

 

蓮さんの事を考えながら置いてきた場所まで戻ってくると、そこに彼の姿は無かった。

一人で逃げるような人では無いと思っていたし、付近にモンスターの気配も無い。

とくれば、僕にはもう彼がいなくなった理由は一つしか思い当たらなかった。

そして僕の身体に変化が現れ、その予想が的中していた事を確信する。

 

 

「………………時間か」

 

 

この鏡合わせの世界、ミラーワールドは言わば『深海』のようならしい。

ミラーワールドには現実の世界からの干渉は一切受け付けないのだという。

それは空気も、風も、物質も、無機物も、そして『時間』でさえも。

共通しているのは重力くらいなものなんだろう、実際普段と変わらない重力は感じる。

ただその異様な環境に人間は適応出来ない。だからこそライダーの鎧が重要になってくる。

これはダイバーで言う酸素ボンベと潜水服が兼ね備わっているものに近い。

だから酸素にも潜水服にも限界が来る、一度に潜れる時間にも制限があるのだ。

ライダーの鎧もまた同様、ダメージを受ければ壊れ、ミラーワールドに居られる時間も減る。

蓮さんは僕よりも早くミラーワールドに入ったから、その分の差が出たんだろう。

この世界に居られる時間が終わりを迎え始めると、鎧は徐々に崩れて塵になり始める。

今まさに僕の纏っている龍騎の鎧に起こっている現象がそうだ_____________って結構ヤバい‼

早くここから出ないと鎧が無くなって僕死んじゃう‼

 

 

「いぃよぉいしょおぉぉおっ‼‼」

 

 

崩れゆく鎧を纏った戦士が、奇声を上げながら入って来た鏡に猛然と飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールドから元の世界に戻るとき、最初に感じるのは風だ。

無風状態かつ鎧を着込んだ僕の身体に時に優しく、時に激しく当たるのは風なんだ。

戦い終わった僕を労い、気を引き締めさせるかのような彼らには随分助けられた。

いつものように風を感じつつ、すっかり暗くなってしまった工場前の道路に出る。

するとそこには、僕の予想していなかった人物が僕を待っていた。

 

 

「あ……………吉井君」

 

「小山さん⁉ 何でまだここに居るの‼」

 

 

暗がりの中で春先の寒さに凍えながら立っていたのは、小山さんだった。

彼女は僕の顔を観た瞬間、さっきまでの死にそうな顔が嘘のように晴れて穏やかになった。

歩み寄ってくる小山さんに対して僕は、ただ冷静に、冷徹に事実を告げた。

 

 

「何でここにいたんだよ! 帰ってないと危ないって言ったろ‼」

 

 

普段の僕とは違う怒声に驚いたのか、小山さんは今にも泣きそうな表情になる。

例え泣いたとしても、僕は彼女に言わなくちゃいけないことがある。

だから彼女の言葉も聞かずに僕は一方的に告げた。

 

 

「それとも、Cクラスの君はFクラスの僕の言葉なんか聞く訳ないのかな‼」

 

「ち、ちが…………」

 

 

俯いたまま小さく肩を震わせ始めた彼女を、暗がりの中ただ見つめる。

付近はもう夜の帳が下り切っていて、高校生の男女が二人きりというのはマズい時間だ。

僕はため息を吐いて少し考えて、傷だらけの身体に鞭打って彼女を送り届けることにした。

 

 

「小山さん、もう時間も時間だし…………送るよ」

 

「……………………………うん」

 

 

僕の言葉に従って少しだけ顔を上げた小山さんと、街頭だけが頼りの夜道を並んで歩く。

ただ、下校途中のような会話は二人の間には無く、沈黙のみが風と共に漂っていた。

しばらく道に沿って歩いていくと、車通りの少なくなった交差点に行き着いた。

星の明かりよりも眩しい車のヘッドライトが、今の僕らにとっては騒がしいほどに思える。

信号の色が変わるのを待っていると、ようやく隣の小山さんが僕を見て話しかけてきた。

 

 

「吉井君、その…………ごめんなさい」

 

「…………………………ううん、僕こそ」

 

 

小山さんからの覇気の無い声での謝罪に、僕もまた同様に平坦な口調で謝る。

僕の言葉を聞いてどう解釈したのか、先程よりは若干明るい表情で言葉を紡いだ。

 

「あの、吉井君。あなたの言葉を聞かなかったわけじゃないの、信じて。

私もあの後すぐに帰ろうとしたんだけど、何て言うか……………すごく怖かったの」

 

「……………怖かった?」

 

 

僕の反応を良しとしたのか、小山さんはさらに話を続ける。

最初は聞き流そうかと思ったけど、彼女の言葉を聞いていたら信号がまた変わっていたため

もう一度変わるまで待つ間に聞こうとくらいには思い直した。

小山さんはさっきよりも強めに肩を震わせて僕から目を背けて話を続ける。

 

 

「あの化け物がもし追って来たらって、別の化け物が私のところに来たらって、

そう考えたら怖くて動けなくて、でも吉井君の近くに居れば何とかなるかもって」

 

「それであの場に居たの? ずっと、僕を待ってたの?」

 

「うん…………でも素直に忠告を聞いておくべきだったわね」

「…………………………………」

 

 

僕は小山さんの話を聞いてから、ようやく自分が馬鹿だって事に気付いた。

よく考えなくても、彼女からしてみればどこから来るか分からない化物に独りで怯える

よりも、その化物と戦える僕の近くにいる方が安全だって考えるのも当然じゃないか。

なのに僕はミラーモンスターの脅威を軽んじて、彼女にキツく当たって。

倒さなきゃいけないライダーに逃げられたのは僕自身の未熟さが原因で、彼女に非は無い。

こんなのただの八つ当たり…………………僕は最低だ。

 

 

「本当にごめんなさい。勝手に頼られて、迷惑だったよね」

 

「………………………………違うよ」

 

「今日も私が勝手に吉井君から離れたから、だから襲われたからって文句は言えないの。

今まで何で気付かなかったんだろ、吉井君は悪くないのにね…………………私って最低よね」

 

「違うッ‼‼」

 

 

車通りが少ないとは言っても人の通りが全く無いわけじゃない。

僕らの周囲に居た人達が唐突な僕の大声に驚いて注目するが、そんなのに構ってられない。

周りの人達と同様に驚いて僕を見つめていた小山さんの顔を正面から見つめて、息をのむ。

彼女に抱いた最初の印象は、気丈で自己主張の激しい人、だった。

でも僕の目の前に居る彼女の顔にそんな印象は見受けられず、ただただ儚く可憐だった。

目元は薄っすらと赤色に腫れて、頬には流れた涙の後が付いており、普段の方が綺麗だ。

それでも今の彼女の表情に、何故か僕は釘付けになってしまった。

 

 

「よ、吉井君?」

 

「………………あっ、いや、その」

 

小山さんに声をかけられなかったら、多分ずっと見つめていたかもしれない。

一体どれほど時間が経ったのだろうかと思って周囲を見回すと、誰もいなくなっていた。

信号がどれほど変わったのだろうか、それすらも覚えていないほど彼女を見つめていた。

戦いの後だから汗も多少掻いてるし、まだ冬の名残があるから夜は冷えるはずなんだけど。

そう考えているとまた少し時間が経ったのか、小山さんが怪訝そうな顔で見つめてくる。

 

 

「ねえ吉井君? 何が違うの?」

 

「えっ……………な、何だったっけ?」

 

「何それ………ふふっ」

 

 

小山さんの顔を真っ直ぐに見られず、顔を背けて質問も曖昧に答える。

すると彼女は僕の不自然さがツボに入ったのか、泣き腫らした顔のまま破顔した。

二人して夜の交差点の信号の下で小さく慎まやかで笑い合い、わずかな時を過ごす。

たったそれだけのはずなのに、何故だか僕の中にはとてつもない満足感が生まれた。

しばらくするとお互い笑いが治まり、やっと冷静に話せるくらいに戻った。

その頃にはもう、先程までのわだかまりも距離感も消え去っていた。

 

「小山さん、そろそろ帰らないと」

 

「え、もう少し…………ううん、そうね」

 

 

このままずっと話していたくなるのを堪えて、小山さんに帰宅を促す。

彼女は僕の言葉に一瞬抵抗するも、今度は素直に聞き入れてくれた。

多分廃工場の時の事が負い目になっているのだろう。

二人でそろって青信号の歩道を歩きだした_____________直後に小山さんが振り向いた。

僕を盾にするように後ろに隠れて動かなくなってしまった彼女に理由を尋ねた。

 

「小山さん、どうしたの?」

 

「え、えっと…………吉井君、もう少しお話しましょう」

 

「え? でもさっき」

 

「お願い。後ホントに少しだけでいいから…………前見て、前」

 

「ん?」

 

 

ゆっくりと後退して信号機の真下まで戻った僕ら二人はそろって前方を見つめる。

僕らの視線の先に居たのは、息を切らして汗を流す見たことのある制服を着た男子。

アレって確か僕らと同じ学年…………………そうだ! Bクラスの代表、根本(ねもと)恭二(きょうじ)じゃないか‼

んん? でも待てよ? 確か根本君は小山さんと昨日何かがあってそれから…………?

 

 

(このままやり過ごして、吉井君!)

 

(え? う、うん)

 

 

直立不動の姿勢になって背後に居る小山さんの存在を悟られないようにする。

しばらくそのままでいると、根本君は周囲を忙しなく見回した後で駆け出して行った。

根本君がいなくなったことを確認すると、背後から疲れた様な表情の小山さんが出てきた。

 

「はぁ…………やっと行ったわね」

 

「えっと、小山さん?」

 

「……………何も聞かないで」

 

疲れ切った彼女の表情を見て、思わず無言で首を縦に振ってしまった。

すると向こうも僕と同じ心境なのか、小さくか細い声でありがと、と呟いた。

結局帰るタイミングを掴み損ねただけで、また同じ信号を待つ作業に入る。

また無言に戻った僕らだが、そこには決して不和も沈黙も無かった。

ただ、僕の隣で小山さんが真剣に何かをブツブツ呟いているから邪魔しないように静かに

しているだけだった。

 

「ん…………ね、ねぇ吉井君?」

 

しばらくすると何かを決心したように小山さんが話しかけてきた。

僕は首だけを動かして彼女の話を聞く姿勢になり、彼女の言葉の続きを待った。

小山さんは僕に一歩詰め寄り、上目遣いの姿勢であるお願い事をしてきた。

 

 

「今日は、吉井君の家に泊めてくれない?」

 

「えっ、えっ⁉」

 

 

彼女の口から飛び出してきた言葉を理解するのに手間取る僕を差し置いて、

小山さんは有無を言わさぬ勢いでさらに話を続けた。

 

 

「吉井君の事、もっとよく知らないといけないって思って……………。

それにその、ライダーとかあの化物の事とかも、出来れば教えてほしいの」

 

「ぼ、僕の事を?」

 

 

無言で首を縦に振る彼女を見て、僕は拒むに拒めなくなってしまった。

それに彼女は口にしなかったが、多分根本君と遭遇したくないのも理由の一つだろう。

そこまで考えた僕はため息をついて、彼女と一緒に信号に背を向けて帰り道を急いだ。

 

 

 

 

 

 










何とか投稿することが出来ました。
前に消えた時よりも時間をかけて長く書けましたが、皆様をお待たせしてしまった事に
関しては完全に完璧に私個人の問題ですので、謝罪のしようもありません。


それでも今年最後の投稿が出来て良かったです。
来年はもしかしたら今年よりも投稿ペースが落ちるかもしれませんが
何卒よろしくお願いいたします。


ご意見ご感想、お待ちしております‼
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