皆様、お待たせいたしました。
この作品も話数が少ないながらも人気が出てきたように思えます。
それも、読者の皆様あっての事です。
改めて感謝を述べるとともに、気持ちを強く持っていきたいです‼
それでは、どうぞ!
「……………ん、んぅ……………」
口からと言うよりも喉の奥の方から漏れ出た感じの小さな呻き。
眠りについていた自分自身を淀んだ意識の底から引きずりあげて目を開ける。
視覚が受け取った情報を脳に伝達して、弾き出された答えは大きな『違和感』だった。
「あ…………れ………?」
ゆっくりと体を起こして未だに覚醒しきっていない頭のままで周囲を観察する。
そうして徐々にクリアになって行く思考を活動させて改めて違和感の正体を探る。
時間をそれほど取ることはなく、彼女の一般的な平均より優秀な頭脳が答えを出す。
「………あ、そっか。ここ私の部屋じゃないんだっけ」
結論を自分の口に出してから彼女はようやく状況を把握した。
自分がどうして自分の部屋では無い場所で一夜を過ごすことになったのか。
そして、この部屋の本来の住人が誰であるのかも。
「………そうだ、吉井君___________じゃなかった。
あ、あ、明久、君はどうしてるんだろ。もう起きたかしら」
体を起こしてベッドから歩み出た彼女___________友香は自分の代わりに
リビングで寝ることになってしまったこの部屋の住人の事を気に掛ける。
そしてつい昨日、たった数時間前に呼び方を変えたことを思い返して顔を真っ赤に染めた。
誰にでも分け隔て無く呼ばれる苗字ではなく、親しい者と接する時に呼ばれる名前を呼ぶ。
同じ女子ならともかく、男子では一度も経験が無いという部分に着目してしまって顔が熱くなる。
朝早くから体温を上げ始めた彼女は冷静になるために頭をふるって、部屋から飛び出した。
「あ、起きたんだ。おはよう、昨日はよく眠れ……………る訳ないか」
「あ、お、おはよう」
扉を開けて数歩歩くと、窓から朝日が差し込んで春先の少し底冷えする寒さを交えた
リビングで既に朝食を作り終えて配膳していた明久と対面した。
自分の心境を察して笑顔で接してくれる彼を見て、友香も自然と笑みが浮き出る。
「そうだ、悪いんだけど家にはお茶しか無いから朝もそれで我慢してくれるかな?」
「え、別にいいけど…………?」
「良かった。また前みたいに『朝は牛乳じゃなきゃイヤ!』みたいになったらって」
「あ、あれはその、色々あったから! 別に普段からわがままなわけじゃなくて‼」
「うん、分かってるよ。昨日もあんなことがあった後なのに僕を気遣ってくれたしね」
「それは………………もういいわ、とにかく食べましょ」
彼との会話を無理やり中断させて食卓に着き置かれた皿を眺める。
おそらくさっき彼が言っていたのは、昨日助けられてこの家に来た時に無理に気丈に
振る舞おうとしてココアを催促した事について茶化したのだろう。
優しい彼からすれば少し不安だったからつい漏らしてしまった不満だったのだろうが、
先日とは違って彼と言う人間の温かさを知った今では、その事実がただただ恥ずかしい。
だから冷静さを取り戻そうとした頭が沸騰し、顔もベッドにいた時と同様に赤くなっている。
そんな自分を切り捨てるようにして友香は目の前の朝食だけに意識を注ごうとした。
「それもそうだね。それじゃ、いただきます!」
「ええ、いただきま____________ちょっと待って、それは何?」
「え? 何って、見ての通りだけど?」
「そうよね。私が幻覚を見てるわけじゃないのよね。
私はいたって正気だわ、むしろ正気じゃ無いのは貴方の方なのよね?」
「えっと、どういう事?」
「どうもこうも____________朝食に乾パン食べる人なんていないわよ‼」
意識を注ごうとした結果、食卓に並ぶにはいささかおかしい物体が目に入った。
自分の前にはコンビニでも売っているような普通のパンと焼かれたベーコンがそれぞれ
二つずつ皿の上に乗せられて並んでいるのに、彼の前には砂糖と塩が一山ずつと乾パンのみ。
明らかにおかしい。一般的な男子高校生のとる朝食にしては不自然かつ不可解極まりない。
考えるよりも先にそう感じた友香は声を荒げるが、当の彼はキョトンとしている。
「だって、僕は一人暮らしだからあんまりお金を贅沢に使えないしさ。
一食一食ちゃんと自炊するのって、案外お金とか電気代も掛かるんだよ」
「そ、それはそうとしてもなんで乾パンなのよ!」
「小山さんの分のパンで家のまともな食料は出し切ったから」
「え……………そうなの?」
「ああ、気にしないで。小山さんはお客さんなんだし、当然だよこんなの。
逆にお客さんに乾パン食べさせて自分がパン食べるなんて僕には出来ないし」
「それは、まぁ確かに」
「でしょ? だからほら、気にしないでどんどん食べて」
「う、うん」
彼の言葉に頷いて食事を始める友香だが、どうも違和感が拭えない。
自分はパンを千切って食べる。だが彼は乾パンをかじって食べている。
しっかりと火が通っていて熟成された油がテカテカと光るベーコンを噛みしめる自分と、
塩と砂糖をそれぞれ別々にまぶして乾パンに微かな風味をつけようと奮闘している彼。
お互い無言には違いないが、何故だか友香は妙に満ち足りた気分になっていった。
(家でも黙って食べるのに、どうしてなんだろ………)
自宅での食事は、ハッキリ言えば今自分が取っている物より遥かに豪勢だ。
しかしどうしてか、少し物足りないと思えるこの食事が今の自分には嬉しく思えた。
お茶を嚥下して一息ついてから自分なりにこの幸福感について考えてみた。
だがどう考えても、彼と一緒だからという結論にしか至らなかった。
もし本当に結論通りだとすれば、もう少し普段は感じないこの感覚を味わいたい。
友香はまた少し顔を赤く染めながら、彼が焼いてくれた幸せ味のベーコンをほおばった。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
数分後、二人して朝食を取り終えて食器を流し台に置く。
昨日の夕食では彼の調理スキルの高さに驚いて何も出来なかったが、今日こそはと友香が
奮起して食器洗いを手伝ったおかげで早く片付けられた。
そのまま二人は学校に行くために着替え、身支度を整えた。
無論、友香は明久の部屋で、明久はリビングでと別々にだが。
そうして明久が登校する時間帯になり、友香は玄関へと足を運ぶ。
だが肝心の彼がどこかへ行ってしまい、待っていても玄関にやって来ない。
「どうしたのかしら……………」
探しに行くべきかと迷っていると、彼が奥の部屋から出てきた。
「ゴメンゴメン、待たせちゃったね」
「別にいいけど、どうかしたの? もしかして忘れ物とか?」
「ううん、明奈の部屋に仏壇があるから、行ってきますって」
「……………そう」
「えと、朝からしんみりさせちゃってゴメン」
「もう、別にいいって言ったでしょ。ほら行くわよ!」
「あ、ちょっと! 鍵、鍵閉めさせてってば‼」
顔を俯かせる明久の腕を取って玄関を開け放つ友香。
そんな彼女の行動をいさめようとする明久の声が聞き入れられるのは数分後だった。
家に鍵を閉めるのにわざわざ戻ったから、いつもより数分遅れて通学路を歩く。
別に僕一人だったら何ら問題は無かったんだけど、今は僕の隣に彼女がいる。
「………………何?」
「い、いえ、別に何も!」
「そう、ならいいわ」
「……………………………」
首は動かさず目線だけで隣の彼女を見ようとすると、先に彼女から声をかけられた。
身長的な面で仕方ないとはいえ、下からの上目遣いの構図になると何も言えなくなる。
しかも隣にいる小山さんは文月学園の女子陣の中でもトップクラスの人気者なのだ。
クールビューティーともてはやされる彼女の上目遣いだなんて、ギャップで死にそうになる。
もしもこんなところFクラスの持てない男子連中に見つかりでもしたら厄介だなぁ。
そんなことを考えながら二人して通学路を歩いて十数分後、軽快なメロディが鳴り響いた。
すぐに音の正体が着信音だと分かったが、僕はこんな感じの着信音は設定していない。
………………となると必然的に答えは絞られてくるわけで。
「_______________うわっ、何コレ」
「どうしたの?」
「う、ううん! 何でも無いわ、気にしないで!」
答え合わせのつもりで隣の小山さんを見つめると、彼女の整った端正な顔が少し歪んだ。
見たくないものを見たとか、嫌いな物を目の前に突き付けられたと言うか、そんな感じに。
僕が何事か尋ねると、彼女はすぐに取り出したケータイをしまって笑顔を繕った。
その反応を見て、僕は何となく今の着信音の相手が誰なのかを察した。
(多分だけど、根本君だろうな。モンスターに襲われた彼女を見捨てたらしいけど)
彼女から大まかな話を聞いてから、正直彼への評価はガタ落ちした。
元々良い噂よりかは悪い噂の絶えない男ではあったが、今回の件でハッキリした。
自分を見捨てた男が都合よく電話なりメールなり図々しくしてくれば、流石に嫌がるだろう。
だから昨日も彼女は家に帰ろうとせずに僕の家に泊まるなんて言い出したんだから。
そこまで考えてから、僕は彼女の言葉通りに気にするのを止めた。
あまり詮索されたくないことだろうし、こっちも正直聞きたい話では無い。
「……………うん、分かった」
「ありがとう。それじゃ行きましょ」
「うん。でもさ、その、えっと」
「何? どうかしたの?」
「いや、その、なんて言うか………………距離が近くない?」
「………………そうかしら?」
「近いよ! わざわざそんなにくっつかなくっても‼」
そんな事よりも彼女に聞きたかったのは、僕との距離感の無さだ。
傍から見れば付き合っているのだろうと勘繰られるほどに僕らの距離は近い。
しかも女子だからなのか、普段嗅ぎ慣れない爽やかないい匂いが………………って‼
「だだ、ダメだって! 何と言うか、ダメでしょ⁉」
「え、そ、そうかしら?」
「そうだよ、あんまりこういうのは……………」
「そう…………あ、明久君が嫌なら止めるわ」
「え? いやいや、僕じゃなくて小山さんが」
「わ、私は別に……………それよりも、呼び方!」
「え?」
「だから呼び方よ! き、昨日ちゃんと言ったじゃない」
「……………あー、アレはその、恥ずかしいと言うか」
少し顔が熱くなっているのを自覚しながら彼女の方から目線を逸らす。
僕の顔を見たのか、それとも察してくれたのか友香さんはそれ以上何も言わなかった。
二人してさっきと同じように通学路を歩き始めても、距離が少し開いてしまう。
彼女も僕の言葉で意識し始めたのかまでは分からないけど、無言がやけに心に響く。
「________________いた! おい、友香‼」
「ん?」
「…………うわ」
通学路の途中の信号機で立ち止まっていると、背後から小山さんを呼ぶ声が聞こえた。
あまりに大きな声だから、周囲の同じ文月学園の生徒や近所の人達も振り返っている。
僕と小山さんも振り返って声の主を視界に収め、そして二人同時に落胆した。
「友香、オイ友香! お前どうして電話もメールも無視すんだよ‼」
「………………………………………」
「オイ、何だよ! お前どうしたんだよ⁉」
「………………………………………」
「今日だって、どうして勝手に登校してんだよ、なあ‼」
僕の横にいる小山さんの方へ詰め寄って大声で喚き散らす彼____________根本君。
彼女のことしか頭にないのか、それとも彼女以外のすべてが眼中にないのか。
だが、そう思えるほど苛烈な勢いで攻め立てる彼の事を小山さんは見てすらいない。
それどころか、離れていた僕らの距離を半ば抱き着くようにして再び縮めてきた。
「あ、青になったわ。行きましょ」
「え、あの、ちょ、小やm「あ、き、ひ、さ、君?」…………友香さん」
「さぁほら、早くしないと遅刻するわよ?」
「痛たたた! わ、脇腹つねらないで‼」
信号の色が変わったことで小山__________友香さんが僕を連れ立って歩き出す。
その動きに少しでも逆らおうとすれば、彼女が掴んでいる僕の脇腹が地味にねじれて痛む。
どうにか彼女について行こうとすると、自然と密着するような体勢になってしまうわけで。
後ろで呆然としているだろう根本君を置き去りにしながら、僕らは登校を足早に急いだ。
『___________諸君、今のを見たかね?』
『ええ、バッチリクッキリハッキリと』
『自分も見ました。吉井のクソ野郎ぶっ殺してやる‼』
『須川……………いや、裁判長。もう我々も我慢の限界です‼』
『そうだな…………諸君らの怒り、確かに伝わった!
Fクラス男子各員に通達、間もなく、異端者狩りを始めるとな‼』
『『『ウオオォォォオオォォッ‼‼‼』』』
「_______________で、こうなった訳だ」
「皆、目を覚ましてよ! 僕の身の潔白は明らかだ‼」
僕を教卓という遥か高みから見下ろしている雄二の言葉に反論し、身をよじる。
通学路で根本君と出くわしてから数分後に学校に到着した僕らの、と言うより僕個人の
前に現れたのは中世ローマの薬師を思わせるカルティックな衣装に身を包んだFクラス生徒達。
彼らの人類という種を超越するほどの連携力の前に手も足も出せずに意識を刈り取られてしまい、
気が付いて目を開いたらいつも通りの
『下らん戯言は見苦しいぞ、吉井 明久』
「だから! 僕はたまたま通学路で一緒になっただけなんだって‼」
『貴様がそのように弁明することも予測していた。横溝二級裁判官、ここに』
『ハイ、今朝吉井と登校していたのは皆もよく知るCクラス代表の、小山 友香氏だ』
裁判長と呼ばれている須川君の呼びかけに応じて、カルト集団の中から一人が歩み出て
僕と一緒に登校してきた友香さんの名前を皆の前で言い放つ。
途端に周囲から驚愕と、同時にかなり濃密な怒りの感情の混じった舌打ちが聞こえてくる。
「何じゃ明久、お主も中々際どい人物に目を付けたものじゃな」
「………………でも確か、小山はBクラス代表の根本 恭二と彼氏彼女の関係のはず」
雄二の隣で僕が縛られて転がされているのをさも当然であるように見つめている
秀吉とムッツリーニこと康太の言葉を聞いて、僕の背筋に冷や汗が浮き出た。
そんな状態の僕に見向きもせず、横溝君が再び話を続ける。
『無論、同志諸君らも
しかし、今回の事で新たに発覚した事実があることが明らかになった』
『……………どういう事だ、横溝二級裁判官‼』
『静粛に‼ 横溝二級裁判官、続けてくれ』
『ハイ、実は今回の件で小山 友香氏と腐れキノコとの関係の破綻を確認することが出来た』
『『『何ッ⁉』』』
根本君に個人的な恨みでもあるのかと疑うほど口汚く罵る横溝君の言葉に周囲がどよめく。
そう、僕は知っているが彼女は僕らライダーとモンスターとの戦いに巻き込まれて、
それこそ本当に死の瀬戸際に二度も追い込まれて恐ろしい目に合ってきたんだ。
恐怖に屈するにしても自分と恋仲になった彼女を見捨てるのは、同じ男として容認出来ない。
「そ、それは何かの間違いなんじゃないかな~なんて」
『黙ってろよクズ………………そしてもう一つ重要な事態が発覚した。
それは、今ここで異端審問会に掛けられている容疑者との熱愛関係だ‼』
『『『何ィィッ‼‼⁉』』』
どうでもいいけど正直うるさい。
なんて冷静に愚痴ってる場合じゃない。
このままだと彼らは間違いなく暴走する。
良くて全身粉砕骨折、悪ければ瀕死の重傷から蘇生させられてまた瀕死の重傷のループ。
彼らのモテない非リア事情になんて毛ほども興味無いけど、ライダーとして戦うことが
出来なくなるとなるとかなりマズイ。戦闘不能と契約破棄、つまり死亡はイコールだ。
やっぱりどうにかしてこの拘束を解かないとヤバい。とにかくまずは状況の最良化が先決だ。
「熱愛なんて馬鹿馬鹿しいよ、僕らFクラスの人間がCクラスの女子となんて
付き合えるわけが無いじゃないか‼ 君たちも充分分かってるだろう⁉」
『やかましいぞ吉井‼ そんな事実は認められない、認めたくない‼』
「現実を見てよ! 頼むから向こう側から帰ってきてよ‼」
『ええいうるさい! 黙れ、もういい! 死刑だ死刑‼ 有罪判決死刑執行‼』
「落ち着けこのバカァァァアァァァ‼」
あと一分で一時限目が始まるというのにこの体たらく。
流石学力最底辺の落ちこぼれ集団だと褒めるべきか呆れるべきか。
そんな風に思いながら縛られたままでカルト集団からの猛攻を凌いでいると、
不意にFクラスのボロっちい木製の扉が勢いよく開け放たれた。
誰もが突然の出来事に驚く中、教室内に入ってきた人物を見てさらに驚愕が増した。
「お前…………何の用だ、根本」
「坂本…………ちょうどいい、お前に話があって来たんだ」
「あ? 用があるならさっさと言えってんだ」
「チッ、これだからクズ共は……………まあいい、よく聞け。
俺達Bクラスは今日の二時限目からお前らFクラスに対して
__________________________試召戦争を申し込む‼‼」
「何⁉」
「何じゃと⁉」
突然現れた根本君から告げられた宣戦布告。
かつて『神童』と謳われた雄二ですら予想だにしてなかった現状に驚きを隠せない。
普段は冷静沈着であまり驚いた表情を見せない秀吉ですら、驚愕で顔が引きつっている。
そんな周囲の緊迫感を知ってか知らずか、根本君が更なる爆弾発言をかましてきた。
「テメェらFクラスとの戦争なんか、まるでメリットなんてありゃしない!
けどな、このままじゃ俺の苛立ちが治まらないんだよ、なあ吉井よぉ‼」
「……………僕がなんだって言うのさ」
「とぼけるな‼ お前だろ、友香をおかしくしたのは‼」
「誤解だ。僕と友香さんは別に特別な関係じゃない」
「ハッ、言ってろ。もう宣戦布告はしちまったんだ、後には引けねえぞ。
それにお前らが俺たちに勝つことは不可能だ。だから戦争に条件を加える」
「条件だって?」
「ああ、そうだ。俺らが勝ってもお前ら最底辺クラスの設備が下がるだけ。
そんなの面白くも無い、ならば、俺らが勝ったら吉井。お前はここから出ていけ」
「………………どういう事?」
「理解力に劣る馬鹿だな。そういう奴は大嫌いなんだよ、俺も友香もな‼
お前のせいで友香は変になっちまった。だからその原因のお前が消えればいい。
今回の戦争の条件はそれだ、いいな」
血走った彼の目が僕だけを見つめて逃さない。
怒りからか息も荒くなっていて、肩が激しく上下しているのが分かる。
だとしてもコレは完全にクラス代表としての職権乱用以外の何物でもない。
だって、Bクラスに所属するほどの人たちがこんな馬鹿気た理由で僕らと戦争なんて
するはずが無いし、したがるわけがない。
その事を口にしようとすると、それよりも早く状況を把握した雄二が口を開いた。
「ちょっと待てよ根本。そっちがその気なら、俺もそれで構わんさ。
けどな、お前らだけが好き勝手にルール決めるなんざ不公平じゃねえか?」
「は? お前何言ってんだ?」
「それは正直コッチのセリフなんだけど、まあそれはいいとしてだ。
とにかく、戦争に条件を付けるんならコッチもそれに見合う条件をつけさせてもらうぞ」
「ふざけるな。なんで俺がFクラス如きの提案に乗らなきゃいけないんだ?」
「いいや、どうしても乗らなきゃいけなくなるぜ根本よぉ。
お前今の話の流れから察するに、このバカと何かしらあったんだろ、女絡みで」
「………………それが何だ」
「いくら代表だっつっても、クラスの総意無しでの宣戦布告は明らかにマズいだろ。
それすら見落とすほどにキレてるってんなら、正常な思考での布告とは見なさないが?」
「………………何が言いたい?」
「やっと落ち着いたか。話を戻すが、コイツに女取られたなんて恥ずかしい理由で
戦争吹っかけてきた上に、馬鹿からも馬鹿にされるほど馬鹿気た条件のオマケ付きときた。
そんなふざけた宣戦布告にも布告された側は付き合わなくちゃいけねえが、
お前らのクラスの連中はまず納得しないだろうし、戦争にも協力はしないだろうさ」
「だから何が言いたい‼」
「理解力に劣る馬鹿だな、そういう奴はこのクラスにしかいないと思ってたぜ。
まあとにかくだ、場合によっては今のこの状況を逆転させてやるってんだ、どうする?」
根本君が握っていた主導権をいつの間にかひったくった雄二が笑みを浮かべる。
アイツがあんな表情をする時は決まってこう考えてる、『かかった』と。
事実、僕も雄二の巧みな話術の展開速度には舌を巻いているし、手口が鮮やか過ぎる。
いくら冷静さを失っているとはいえ、根本君クラスを手玉に取れるのはそうそう無い。
心の中で改めて悪友の犯罪方面でのスキルの高さに驚いていると、話が再び始まった。
「……………どうするってんだ坂本」
「簡単さ。お前単独での宣戦布告を"無かったこと"としてFクラス内で揉み消す。
そうして一時限目が終了し次第、俺らFクラスが改めてお前らに宣戦布告するのさ」
「…………ちょっと待つのじゃ雄二。それでは何も変わらんぞ?」
「………言葉の真意が読めない」
「まあお前らには後で説明してやるから、今は大人しく傍観しててくれ。
とにかくだ、これで俺の言いたいこととやりたいことが分かったろ、根本」
「……………………いいぜ、待っててやるよ。
それで、さっき言ってた条件ってのは何なんだ?」
「お前の言ってた条件を飲むことを前提にコッチも条件を付与させるぞ。
………………とは言ったが、今はまだ明確には出せないな。終戦時公開でいいか?」
「ああ、分かった。それじゃあな吉井、最後の学園生活をせいぜい楽しみな‼」
雄二とよく分からない難しい話をし終えた根本君は僕を睨んでから教室を後にした。
扉が閉まってすぐ入れ違いで一時限目の教師が入ってきて、何とか事なきを得た。
だが、僕の死刑執行が取り消しになった訳じゃないし、試召戦争の事もある。
それに………………今の僕にはそれよりも厳しい問題が迫ってきている。
「食費が、今朝の友香さんのパンで尽きかけだよ………………」
そう、実は昨日の夜に朝食が出せない事に気付いて夜中に近くのコンビニで
コッソリとなけなしの生活費を削ってパンを二きれほど買ってきたんだ。
友香さんのためだったとは言え、流石に四月初頭で生活費の底が見えてるのはマズイ。
でもさっきも挙げた二つの問題があるし、加えて僕にはライダーとしての戦いがある。
「………………これだけはしたくなかったんだけど、止む無し、かな」
「ん? 何か言ったかの、明久?」
小さく漏らした僕の呟きが前の席で授業を聞いていた秀吉に聞こえたらしく、
首を動かして僕に問いかけてくる。ああ秀吉、やっぱり今日も美少女だ。
でもそんな秀吉からの問いかけにも、僕は愛想笑いを浮かべるだけで済ませる。
これは僕自身の問題だから秀吉には関係の無い話だ。
それに、例え友香さんに問い詰められたとしてもこの事は決して言えない。
「何でもないよ秀吉。ほら、ちゃんと前向いてないと指されるよ?」
「む、それもそうじゃな」
僕の話題の転換に違和感を抱くことなく秀吉は前に向きなおってくれた。
その素直さに感謝しつつ、僕は卓袱台の下でコッソリとケータイを使用する。
仕方ない、しょうがないと、自分の胸に言い聞かせながら、『彼』にメールを送った。
ちなみに一連の動作を横溝君に見られ、友香さんとのやり取りだと誤解されてしまい、
クラス内の男子九割との命の殺り奪りが授業終了とともに開始されたのはまた別の話。
「____________ん、あらら?」
「どうかなさいましたか、『先生』?」
「んー、ちょっとね。しかし、もう二度と無いかと思ってたけど」
「…………………何がです?」
「なーに、ちょっとしたバイトの申し込みのメールだよ」
「バイト、ですか……………もしかして俺、クビですか⁉」
「おいおい、そう早まらないでよ。
何でも命令通り完璧にこなす最高の秘書を、クビになんて出来ないよ」
「………それは言いすぎですよ、先生」
「本当の事じゃない。照れなくていいよ、『五郎ちゃん』」
「…………先生がそうおっしゃるなら、ありがたく受け取ります」
「そーそー、素直が一番だって____________あん?」
「先生? どうかなさいましたか?」
「あー、全く。これから大事な仕事が入ってるってのにさー。
ホンット空気の読めない奴らだよね…………五郎ちゃん、先方に連絡しといて」
「ハイ、どのように?」
「急用で遅れるって。理由はまあ、五郎ちゃんが適当に考えといてよ」
「分かりました。『向こうの』お仕事なんですね?」
「そーゆーこと。ま、今回も出会えないとは思うけどね」
「…………早く会えるといいですね。先生のためにも」
「そーだねー、早いに越したことは無いよね。
それじゃ、取りあえず行ってくるよ。言い訳の方はヨロシク」
「分かってますって。先生こそ、お気を付けて」
「五郎ちゃんこそ、俺を誰だと思ってるわけ?
黒を白にだって出来るスーパー弁護士よ、俺」
「ええ。でも、万が一ってこともありますから」
「…………ま、五郎ちゃんの忠告だから聞いといてあげますか」
「……………行ってらっしゃいませ」
「ハイハイ、五郎ちゃんもそっちは任せたよ」
「ハイ、失礼します」
「__________さーて、この俺に仕事ケラせて呼び出すなんて
どんだけ高く付くと思ってんのよ。まあ分かる訳が無いか」
『ブオォォ! ブオッ、ブオオォォッ‼』
「ハイハイ、そう急かすなって。
一度受けた仕事は最後までやり通すのが俺のモットーだからさ。
本職の方をケラせてまで俺を呼びつけて、今更逃げるとかは無しよ?」
『ブオオォォォオォォッ‼‼』
「面倒事はちゃっちゃと済ませるに限るね___________変身‼」
いかがだったでしょうか?
それとこれからはまとまった時間が取れそうなので
しばらくは更新が滞るようなことは無くなりそうです。
それにしてもアレですわ、恋愛感情の描写は苦手ですわ。
何とかしようと思ってるんですけど、どうにもなりませんね。
ちなみに最後に出てきた会話のみのシーン、誰か分かりましたか?
アレが分からない人はおそらく龍騎を知らない人のみだと思われます。
それほどの有名人ですからね、彼と五郎ちゃんはw
それでは次回もお楽しみに。
ご意見ご感想の方も、随時お待ちしております。
戦わなければ生き残れない‼