どうも皆様、先週は投稿が出来なくて申し訳ありませんでした!
実は先週の五月八日に東京で行われた超大規模同人誌即売会に参加
していたために、投稿が出来なかったんですハイ。
ええ、その、完全なる趣味です。
どんな罵詈雑言も受け入れる所存ではありますが、
この作品だけは見捨てないでいただきたいです‼ (0M0)<ゴカベンヲォ‼
それでは、どうぞ!
「さぁ~て! そんじゃ嬉し恥ずかし戦後対談といくか! なぁ、負け組代表さん?」
「………………」
Bクラスとの試験召喚戦争が終結してから三分後、補習室送りになった全戦死者もそろって
ようやく二つのクラスのこれからを決める大事な戦後対談が始まろうとしているところだ。
今回の戦争では流石に色々とありすぎて僕自身もかなりヘトヘトになっちゃったから、
Bクラス生徒が使っている椅子を一つ借りて対談を行うこの教室にどっかりと腰を下ろした。
立って話を聞こうとしているFクラスのみんなよりも数段低い位置の目線になったおかげで、
この教室の様子がより鮮明に見えるような気がしてきた。人が多いのもあるんだろうけど。
大小様々に砕けて床に散らばった窓ガラス(大き目の破片は流石に片付けたらしい)に、
普段授業を受けている時とはまるで違う、乱雑に教室の隅の方に敷き詰められた机や椅子。
戦争の名残はまだあちこちに残ってはいるけれども、中でも一番目を引いたのがアレだ。
「…………それにしても明久よ、まさか教室の壁を粉砕するとは驚いたぞ」
「………驚天動地」
「え、えっと、まぁその、ハハハ」
いつの間にか僕の横に来ていた秀吉とムッツリーニの二人の言葉に乾いた笑いを浮かべつつ
彼らの目線が向いているのと同じ場所へと僕も視線を移し、その先にある光景を見てみる。
そこにあったのは、一言でいえば『大惨事』ともいえる光景だった。
本来そこには背面黒板か、あるいは壁があったはずであろう場所には巨大な穴がポッカリと
開いており、まるで何か巨大な力で無理やり人一人分の穴をこじ開けたかのように空虚で
殺伐とした元壁だった瓦礫の破片たちが乱雑と散り散りになってしまっていた。
「一体何をどうしたらここまで派手にやれたんじゃ? 明久よ」
「………気になるところ」
「え⁉ それは、えーっと…………き、企業秘密?」
「秘密が付けば何でも構わんというわけではないぞ」
「えっ、そうなの?」
「………やっぱりいつもの明久」
「そうじゃのう。何をしたかは知らぬが、こんなことをしでかせるのはお主だけじゃて」
そう言って秀吉もムッツリーニを苦笑いを向けてきた。
何だよその言い方は、まるでこんな馬鹿げた事できるのは僕以外にいないって確信してる
みたいじゃないか。失礼な、この学園になら探せば三人くらいはいるはずさ!(多分)
そんな取り留めのない会話を横に置いて、各代表の戦後対談はつつがなく進行していた。
「本来なら設備を明け渡してもらい、お前ら負け組にはお似合いの素敵な卓袱台を
くれてやるところだが、今回に限っては特別にそのルールを免除してやらんことも無い」
『『『えっ‼⁉』』』
勝ち組代表、もとい僕らが大将の雄二の発言に周囲の皆がざわつき始める。
そりゃ負けたんだから彼らは相応のペナルティーを覚悟してたんだろうから、
雄二の言葉に驚くのは当然ってものだろう。無論、それはFクラス生徒とて同じだけど。
Bクラスの優秀な設備を交換しないと案に語る大将の言葉に反感を抱いた皆が口々に
声を張り上げて『訂正しろ』だとか『くたばれゴリラ』だとか『姫路さん好きだ』とか。
なんか後半がおかしかったような気がしないでもないけど、とにかく雄二が話を続ける。
「落ち着けカス共。あとサラッとゴリラ呼ばわりした奴は後でミンチにしてやるからな。
んで、前にも言ったが、俺たちが目指している場所はAクラスであってここじゃない」
「だと思ったよ」
「そういう訳だ。もし俺の言葉にまだ異を唱えるつもりなら直接相手になってやる、
ただし手加減無しでな。五秒で挽き肉になる覚悟があるんならいつでもかかってこい」
大将の混じりっ気のないマジの口調が教室に響き、雑音がピタリと止んだ。
相手どころか味方すらも恐怖と暴力で黙らせる。とんだ圧政だと嘆きたいところだけど、
今度ばかりはそれが役に立ったらしく、一呼吸おいてから再び雄二が語り始めた。
「文句が消えたから続けるぞ。ここは俺たちにとって、いわば通過点でしかない。
だから、もしそちらさんがこちらの提示する条件を呑めば解放してやろうと思う」
「………その、条件ってのは何なんだ」
「随分と覇気と威勢と人望が薄れちまったじゃねえか根本よ。人望は元々か?
まあとにかくだ、俺らがBクラスに課す条件ってのは__________お前だよ根本」
「は?」
「ああ。戦争中、お前には散々好き勝手な事を言われてきたからなぁ。
それによ、正直俺は…………てか大概の奴らはお前の事気に食わないんだよ」
傍若無人な言い草で根本君の怒りのボルテージを一瞬で最高潮に引き上げた雄二。
でも、実際その通りなんだよね。現にBクラスの誰も根本君にフォローをしないし。
本人もそれくらいは分かっているのか、雄二の頭にくる言葉も聞き流している。
「そこでだ、Bクラスの諸君。お前らにチャンスをくれてやろうじゃないか」
パンッ! と手を打って音を響かせた雄二に教室中の視線が一瞬で集まる。
そこからグルリと教室にいる全員の顔を見るようにしながら雄二が間を溜め、
教室の誰もが続く言葉を待ちきれなくなる寸前で軽く息を吸って内容を明かした。
そう、これこそが僕と雄二との間に取り交わされた、取引の中心。
「俺がお前らのクラスの代ひょ…………負け組代表様に課す条件は三つ。
一つ目は、今日の放課後にAクラスに行って試召戦争の用意があると伝える事だ。
ただし、宣戦布告だけはしなくていい。あくまでも準備と意思がある事だけを
Aクラスに伝えてくればそれでいい。それが一つ目の条件だ」
「…………なるほどな。それで、二つ目は?」
雄二の遠くまでよく通る声で教室中に条件の内容が行き渡り、Bクラスの生徒が
またしてもザワザワと騒がしくなり始める。まあでも、気持ちは分かるけどね。
クラス設備の交換を免除するのに、こちらはただおつかいに行くだけでいいなんて
破格の条件過ぎて自分の耳を疑うレベルだと僕でも思うさ。でも、まだ終わらないよ。
条件を履行する側の根本君も意図を汲み取ったからか、それとも条件の内容が案外
拍子抜けするほどに簡単なものだったからか、さっきよりも表情が和らいでいたけど、
まさか自分がこの程度で許されるような人間だと本気で思ってはいないだろうね?
「二つ目か? 簡単さ。一つ目の条件を達成する時に、この服を着ていけ。
たったそれだけでいい。どうだ? 一つ目の条件よりも簡単な内容だろう?」
そう言いつつ雄二がどこからともなく取り出したのは、この文月学園の女子の制服。
なんで雄二がそんなものを持ってるのかと気になりだした直後に、横にいた秀吉が
周囲に聞かれないように配慮しながら小声で話しかけて真相を語ってくれた。
(実は、アレは儂が所属しておる演劇部の衣装なのじゃ)
(へー、そうなんだ。てっきり雄二の私物なのかと思ったよ)
(お主でもあるまいし、女子の制服を雄二が持っとるわけなかろうて)
(なんで僕が中学時代の女子の制服持ってたこと知ってるの⁉)
(本当に持っておったのか⁉ す、済まぬ。ほんの冗談のつもりだったのじゃが)
(なんだ冗談か。あんまり驚かせないでよ秀吉~)
(う、うむ。しかしなんじゃ、何故儂が責められておるのか、腑に落ちんのぅ)
全く秀吉も人が悪いなぁ、僕はたまたま男子と女子の制服を買い間違えちゃっただけで
本当にそういう格好を自分からしたがるような変態さんじゃないのに、酷いもんだよ。
そうやって二人でコソコソと小話をしていると、急に慌てふためいた声が聞こえた。
「ば、馬鹿なこと言うな! この俺がそんなふざけたマネ出来るか‼」
もちろん声の出どころは根本君だった。まあそりゃそうだろうね。
だけど、本人が嫌がらなきゃ嫌がらせになんてならないじゃないか。
『Bクラス一同、ここにFクラス代表の提案を呑むと誓おう‼』
『それを着せたら設備の交換は無しなのね⁉ だったら絶対にしてみせるわ!』
『この程度の犠牲でクラスを守れるんなら、一人くらいの人権なんざ知るか‼』
それにご覧よ根本君、君の背後でやる気を燃え上がらせる元同胞の彼らの姿を。
いかに自分がこれまで尊敬はおろか仲間としてすら見られていなかったかが一目瞭然だ。
戦いのためなら何でもするというのは分からなくもないけど、こうはなりたくない。
「よし、決定だな。そんじゃこのまま最後の条件も」
「ふ、ふざけんな‼ 誰がそんなことするかっての! お前r____________」
『やかましいんで黙らせました!』
「ご苦労。規律と調和を守ろうとするお前のような男は将来デカくなる、精進しろ」
『サー、イエッサー‼』
雄二が残る最後の条件を告げようとした時に根本君が往生際の悪さを見せつけたけど、
一瞬で自分たちの代表だった彼を見限って鳩尾にブローを叩き込んだBクラス男子。
そんな彼は雄二のそれらしい言葉に乗じて敬礼してるけど、さっきまで敵だったよね?
この男は本当にどうやって人の心を掌握しているのかまるで見当もつかないから怖い。
「んじゃ、そいつの新世界への第一歩の手助けは明久たちに任せる。
俺は俺でまだやるべきことが残ってるから、また後でな」
「ん、了解っ!」
意識を刈り取られて轟沈した根本君を近くにいたBクラスの人たちと力を合わせて
とりあえず他の空き教室に運び込んでから、雄二の指示通りの作業工程に移った。
男子の制服のネクタイを緩めて解き、ワイシャツのボタンを外して……………と。
なんで僕が野郎の服を丁寧に脱がしていかなきゃならないんだと愚痴りたいけども、
今回だけは状況が状況だから、我慢の一言に尽きるよなぁ。
「う、んむぅ……………」
「おらっ!」
「ごっ⁉」
嫌々作業をしているせいか、根本君が意識を取り戻しかけたので念には念をの
精神で追加攻撃を腹部に叩き込んでおく。これでまたしばらくは大丈夫だろう。
慣れた手順で男子の制服を脱がし、代わりに用意された女子の制服を着せようとする。
「あ、あれ? 女子の制服ってどうやって着せればいいんだろ?」
『それなら私がやるわ。任せて』
「そう? じゃあお願いするね。出来る限り可愛くしてやってよ」
『それは無理。土台が腐ってるもの』
「……………じゃ、じゃあよろしくね!」
僕が不慣れな女子の制服の着用に奮闘していると近くにいたBクラスの女子が
作業を代わってくれた。折角なので根本君の新たな一歩を成功させてあげられる
ようにしてやろうと注文してみたものの、中々に酷い答えが返ってきて焦った。
女子生徒にこの場を任せて僕は脱がせた根本君の制服をこっそりと拝借して誰にも
見られない場所まで持っていき、中身を改める。
やってることはかなりアブナイことのようにみえるかもしれないけど、今回だけは
こちらに大義があるからノーカンだよノーカン。そうであると願いたい。
「お、あったあった! これだよね、姫路さんの手紙!」
そのまま根本君の制服をまさぐっていると何かが指先に触れ、それを掴んで外に
引っ張り出してみると、そこにはやはりというべきか、見覚えのある可愛らしい
便箋があった。コイツめ、君のせいで僕らはかなり苦労させられたんだぞ?
「これは後でバレないように姫路さんに返すとして、この制服どうしよう?」
目的の物を手に入れた以上、こんな野郎の制服なんて持っていてもしょうがない。
一体どう処分したらいいものか……………そうだ、困るくらいなら捨てちゃおうか。
ゴミみたいな男が着てた服なんだし、ゴミと間違えて捨てられても気にしないよね。
どうせなら根本君も滅多に体験できない女子の制服を家に帰るまで存分に楽しんで
もらった方が本人も周りも気分がいいよね!(見てる分には不愉快だろうけど)
「それじゃ、落し物は持ち主の下へ帰りなさい、ってね」
戦争直後ということも相まって賑やかさが絶えないBクラスを尻目にして、
僕は一路昇降口の下駄箱へと足を運んだ。
「よし! これで任務完了っと!」
悪の魔の手から救い出した姫君を本来あるべき持ち主の下へと丁重に送り返す。
下駄箱の中にあったものなんだし、彼女の下駄箱に返すのは不自然じゃないよね?
女子の、しかも昔好きだった相手の靴箱を無断で開けるなんて気持ちのいいことじゃ
ないにしても、やらなきゃいけないんだからしょうがないよね。うん、しょうがない。
姫路さんの靴箱の中に便箋を折れないように気を付けながらしまい直して閉じ、
あらぬ疑いをかけられないために周囲に気を配りながらその場を即座に離れる。
すると僕が下駄箱から離れてから一分も経たないうちに一人の女子生徒がやってきた。
流れるような桃色の長髪を揺らしながらやってきたのは、もちろん彼女だった。
「………………良かったね、姫路さん」
息を切らしてやってきた彼女はそのまま迷うことなく下駄箱へと向かい、
少し迷うような仕草を見せた後に中を覗いて、そして驚きに目を見張っていた。
まあ根本君に奪われた大切なラブレターがいつの間にか戻ってきてたらそりゃ驚くか。
そのまましばらく硬直したまま動かなかったけど、五時間目終了のチャイムが校内に
鳴り響いたのを聞いて正気に戻ったのか慌てたようにして手紙を靴箱にしまい込んだ。
これ以上見るのは流石に覗きと一緒になっちゃうから、ここまでにしよう。
それに、最後の最後でこれだけの無茶をした甲斐があったって分かっただけでも
充分に満足できたし、後は教室に戻ってBクラスとの対談がどうなったのかを聞こうかな。
人知れず帰ってきた自分の想いを確認した彼女を背に、僕はFクラスに足を進める。
歩き出す直前に見た姫路さんの顔は、晴れやかな笑顔に染まっていた。
「あ、明久くーん! こっちよ!」
「友香さん、またなの?」
「当り前じゃない」
時刻は18時を大きく回った頃、僕は昇降口である人物に待ち伏せを食らっていた。
その人物とは、言うまでもなくCクラスの代表こと、友香さんその人だ。
普通なら用事の無い生徒はとっくに下校しているはずの時間帯に彼女が昇降口で
僕を待っていた理由は、正直一つしか考えられない。
「それじゃあ明久君、今日も護衛よろしくね?」
「ハイハイ、かしこまりましたー…………」
やはりというべきか、友香さんの一歩後ろに追従する形で昇降口から歩き出して
自宅への帰路に着く。でもそれは最初の内で、次第に僕らの足並みをそろっていき、
学園前にある無駄に勾配の急な長い坂道を下り終える頃には僕らの歩幅はほとんど
同じペースで動くようになっているのだった。
それにしても、春先だっていうのに18時をこれだけ過ぎれば暗くもなるか。
周囲の景色の移り変わりや空の色の変わり具合を気にしながら通学路を朝とは逆の
方向へと向かっていく僕らの間には、自然と今日の話題が広がっていった。
「ねえ、今度の戦争はどうだったの? 勝ったんでしょ?」
「まあね。雄二やみんなの協力のおかげではあるけど、ちゃんと勝てたよ」
「凄いじゃない! BクラスにFクラスが勝つなんて下剋上もいいところよ!」
「ハハハ、確かに。でもまだ下剋上は果たせてないかも」
「どうして?」
「だって下剋上ってのはさ、最弱が最強を倒して入れ替わることでしょ?
僕らが倒したのは最強の一つ手前。まだ、僕らは頂上に辿り着いてない」
「……………大丈夫。きっと明久君たちならAクラスにだって勝てるわ」
「本当? 冗談でも嬉しいなぁ」
「ここまでやれたんだもの、冗談にも思えなくなってきたわ」
「そうかな?」
「そうよ。だから頑張ってね」
二人並んで薄暗くなった通学路を歩きながら、その日学校であったことを語らう。
傍から見たら彼氏彼女のように見えるのだろうか、なんて柄にもなく考える。
そんな事を考えながら黙々と歩いていると、友香さんから不満げな視線を浴びせられた。
「え、えっと、どうしたの?」
「どうしたの、じゃないわよ。折角待ってあげてたんだからさ」
「あー、そっか。待っててくれてありがとうね、友香さん」
「……………そ、それもそうなんだけど」
「え? まだ何かあったっけ?」
頬を空気で膨らませてわざとらしく「不機嫌です」って表情をアピールし始める
友香さんを横目で見て、不覚にも可愛いと感じながら他に何かないかを考えてみる。
僕を待っていてくれたことへの感謝なら今した、あとは何かまだあっただろうか?
「ご、ゴメン友香さん。分かんないや」
「だと思った。まあ明久君だものね、仕方が無いか」
「な、なんかガッカリされてる?」
「分かってたからそこまでは。でも、本当に分からないの?」
「あぅ、面目ない」
「…………遅れた理由よ。他のFクラスの人はどんどん帰っていってるのに
どうして君だけこんなに帰りが遅くなっちゃったのかが気になるの」
「ああ、そのこと?」
「そうよ。さあ、教えてくれるわよね」
顔を覗き込むようにして僕の方を見てくる友香さんだけど、
送られる視線から目を背けるように僕は真逆の方を向いて逃れる。
実は僕が他のメンバーよりも下校が遅れたのには理由があった。
それは言うまでもなく、DクラスとBクラスとの間の壁を粉砕した事について
学園側からのキツーイお叱りとお説教、並びに反省文三十枚の重罰を言い渡され、
解放された頃には辺りは既に薄暗く、時間もこんなに過ぎ去ってしまっていたのだ。
でも、こんなかっこ悪い理由を友香さんに言えるはずがない。
しきりに顔を覗いて僕が話すのを待ちわびている彼女になんて言えばいいのだろうか。
悩みに悩んで数分、結局先に折れたのは友香さんの方だった。
「もういいわ。明久君が何をしようと君の勝手だものね」
「え、あの、友香さん? もしかしてその、怒ってる?」
「……………多少はね」
「うーーん、理由はあるんだけどかっこ悪いし、あんまり他人には話せない
内容だからさ。出来れば詮索しないでくれると嬉しいかな~、なんて」
「…………いいわ、譲歩してあげる。ただし条件があるわ!」
「条件?」
不満そうな膨れ顔を引っ込めた友香さんは今度は逆に意地の悪い笑みを
浮かべながら僕の持っているカバンにその視線を向ける…………なんだろうか。
「明久君のアドレスを教えてくれない? 今までいろいろあったけど、
なんだかんだで連絡先の方はお互い知らないでしょ? だから、ね?」
「う、うん。それくらいなら別にいいけど…………」
一体何をやらされるのかと内心ビクビクしていると、提案された条件は思ったより
簡単な内容どころか何のデメリットもないもので一安心した。
僕が提案を承諾すると悪戯っ子のような笑みは即座に掻き消えて、代わりに彼女の
顔には照れくささと喜びが混在したかのような表情になってケータイを取り出した。
「い、いいわね?」
「そこまで緊張しなくっても」
「う、うるさいわね! 少し黙ってなさい!」
「ハイゴメンナサイ!」
「…………もう、恥ずかしいじゃない、バカ」
「ほぇ? 何か言った?」
「何でもない! ほら、これでおしまい!」
お互いに立ち止まってケータイを取り出してアドレスを交換し合う。
ほぼ同時に交換を終えた僕らはそのまま目線を手元から相手の目へと移していき、
そこでバッチリ目があってしまい、飲まれるように数秒間見つめ合った。
「「…………………」」
澄んだ彼女の瞳はとても鮮やかな色で、こんな夜も近い時間帯だというのに
関係なくひかりを宿しているから、正直言ってどれだけ見てても飽きがこない。
無言のまま吸い寄せられるように互いに見つめ合って十秒以上が経過し、
車のヘッドライトが僕らの横をかすめていったことでようやく正気に戻った。
慌てて目を背ける僕らだったけど、それでも心臓の鼓動は早鐘のようになっている。
せめて、せめて何か一言でも言わないと!
そう思って友香さんの方を向き、言葉を紡ごうとした直後に彼女が先に口を開いた。
「そ、そそ、そうだ! もうここまでくれば大丈夫だから!
ああ、ありがとう明久君! そ、それじゃあ今日はこの辺で!」
「え、あ、ちょっと! 友香さん!」
急に落ち着きが無くなった友香さんの口早な言葉が途切れるのが先か否か、
彼女はそのまま持っていたカバンを抱きしめながら脱兎の如く駆けていってしまった。
ここから彼女の家までは確かに遠くないはずだけど、女子高生がたった一人でこんな
時間帯に下校するなんてあんまり良くはない。加えてミラーモンスターが出る可能性も
ないわけじゃないし、一応彼女が無事に帰れるまで送っていってあげようかな。
『prrrrr!』
「ん? 着信だ。誰からだろ?」
友香さんの後を追いかけようとケータイをしまおうとした瞬間に着信音が鳴り出し、
僕の意識をそちらに向けさせる。一体誰なんだ、こんなピンポイントなタイミングで
連絡してくるだなんて……………あ、友香さんからだった。
『明久君、今日は試召戦争お疲れ様!
でも浮かれちゃダメよ? 目標は打倒Aクラスだもんね!
それじゃあ明日も迎えに行くからよろしくね! お休み!』
送られてきたメールを開いて内容を読んでみるとそう書いてあった。
本当に友香さんは面と向かっては素直になれない人なんだなって事が分かる。
でも、こうやって誰かに心配というか、労わられるのなんて久しぶりかもしれない。
女の子とのメールでのやりとりなんて初めてだし、だから余計に嬉しいのかな。
送られてきたメールに返信すべく、僕も足を止めて文字を打ち込んで
文章を書き、二分ほどで出来た簡素なメールを目的の人物に送信した。
『心配してくれてありがとう、友香さん。
ちゃんと勉強して、絶対にAクラスに勝ってみせるよ!
それとやっぱり明日の朝も一緒じゃなくちゃダメかな? とにかくお休み!』
無事に作成したメールが相手に届いたというメッセージを確認してから
今度こそケータイをカバンにしまい込んで止めていた足を動かしながら
自分の家のある場所へと移動する。
「友香さんを待たせないようにしなきゃなぁ…………」
独りでポツンと呟いた言葉は一層暗くなり始めた空に飲まれて消えていき、
誰の耳にも届くことはなかったけど、ちょうどそれで良かったかもしれない。
僕は久々に心からの笑みを浮かべながら、真っ直ぐ自宅への帰路に着いた。
いかがだったでしょうか?
本当ならば今回で根本のこの作品オリジナルの刑罰を加えてやる予定
だったのですが、執筆上の都合でそれは延期と相成りました。
どうかご了承ください。(単純に時間不足と眠いだけです)
ですがちゃんと野郎への天罰は下しますのでどうかご安心召されよ!
それにしてもアレですね、ヒロインの心情を描くのは難しいですな。
しかも正規ヒロインではないのだからより大変ですよ。
おそらくキャラ崩壊につながる可能性もあるので、一応注意をしておいてください。
それでは、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに‼