どうも皆様、のどを傷めて一か月経過した萃夢想天です。
一か月近くも更新を滞らせてしまったことをここにお詫び申し上げます。
忙しいというのもありますが、偏に私の力不足ですハイ。
しかし昨日から長期休暇に入りましたので、これから少しは早く投稿を
出来るのではないかと思っています。ええ、あくまで可能性です。
それでは、どうぞ!
「ハァッ‼」
北岡さんの援護に向かおうと近道のつもりで入った
僕は全く予期せぬ相手と遭遇してしまった。
全身を紫色の装甲で覆っている謎のライダーがそれまで見下げるように立っていたのだが、
唐突に声を張り上げながら僕のいる一階部分に飛び降りて来て__________って危なッ‼
「うおぉ! いきなり何するんだ‼」
「ハッ! 避けるなァ、イライラするだろ」
出会って数秒で攻撃を仕掛けてきたライダーに向けて僕はその意思を問う。
まぁ戦い合うことが僕らの本来の姿だから間違ってはいないんだけど、それでもいきなり
攻撃を加えられて怒らない奴なんていない。だから僕は眼前のライダーに問いかけた。
しかし当の相手は心底身勝手な言い分と共に再び僕に攻撃を加えようと接近してくる。
「アァ‼」
「うわっ!」
地面を転がりつつも相手の放ってきた攻撃の始終を見ていた僕は確信する。
このライダー、こと戦闘という分野に関していえば明らかに素人なのだろうと。
普通倒れている相手に対しては拳を用いたりはせず、脚を使った蹴りを使うのが定石。
確かにこのライダーも蹴りをしてきたんだけど、どう見ても回避されることを読んでいない
フォームでの蹴りで、空振りしてしまったために体幹がブレて大きくよろめいている。
両手でバランスを取りつつ避けた僕の方を向いてしっかりと仮面の奥の双眸で捉えて、
そこからさらに距離を取った僕の動向をうかがうようにしてその場で立ち止まった。
「………いきなり、何をするんだよ」
僕はゆっくり立ち上がりながら再度同じ質問を繰り返す。
相手は確実に願いを叶えるためにモンスターと契約したライダーだということは分かって
いたけれど、それでも突然奇襲のような形で攻撃してきた目の前の相手の意図を知りたかった。
眼前で僕の方へと独特な体の揺らし方で向き直るライダーは、僕の問いを軽くあしらった。
「ハッ、何をするかだと? 闘うんだよ」
「だから、どうして闘うんだって聞いてるんだ‼」
「どうして? どうしてだと? お前バカか」
「何だと⁉」
「コレはこういう事のために使うモンなんだろ…………違うのか?」
ぶっきらぼうに答えたライダーの言葉に対して、僕は何も言えなくなる。
声の感じからして男なんだろうけど、実際彼の言う通りとしか言えない。
このライダーの力はそれぞれの持つ願いを叶えるためのものだ、理由はそれだけでいい。
そしてその願いを叶えるためには、力を持つ者同士が戦い合って最後の一人になるしかない。
だからこそ、この力を持つ僕らが戦い合うことのは何も間違ってはいないのだ。
でも、だからって、本当にそんな簡単に人と戦えるのかな。
数日前に現れたシザースと対峙した時は、現場にいた友香さんの身に危険が及んだからで、
さらにそこから乱入してきたベルデと闘ったのも、あの場にいたナイトを助けるためだった。
結局のところ、僕は自分自身の意思だけで人と戦ったことは一度もない。
そんな僕は本当に願いを叶えられるのだろうか。願いを叶えて、いいのだろうか。
「おォ………何をボーっとしてるんだ? ァア‼」
「ぐっ、がッ‼」
自分自身への矛盾に気付いて考えていた隙を、紫のライダーに狙われて攻撃を受けた。
中腰になっていた僕はボディーブローを浴びせられ、二撃目に右足で蹴り飛ばされてしまう。
吹っ飛んで基礎工事中の建物の中を転がる僕を、彼はとても愉快そうに眺めていた。
蹴りを受けた腹部を押さえながら立ち上がる僕を見て、相手もまたこちらに近付いてくる。
(このままじゃ本当にやられる…………相手は本気なんだ‼)
受けた一撃一撃がモンスターと同じく殺気を帯びていることを察した僕はすぐに相手が
僕を本気で殺しにきていることを悟り、どうにかしようとベルトのバックルに手を伸ばす。
バックルの右側のカードを取り出すための溝に手を置き、そこから一枚のカードを取り出し、
右手でつかんだカードを左手のドラグバイザーへと装填してその情報を読み取り発動させる。
【SWORD VENT】
「止めてくれ! 僕は今あなたの相手をしてる暇なんてないんだ!」
僕の契約している赤い龍、ドラグレッダーの尻尾の部分を模した青龍刀に似た専用武器の
ドラグセイバーを召喚した僕は、その切先を相手に向けながらどうにか説得を試みる。
そうだ、僕はこんなところでライダーバトルをしている暇なんてなかったんだ。
そもそも僕は北岡さんが援護を要請したからそこへ向かう途中だっただけであって、
わざわざその道中でライダーと戦って消耗する必要は無い。これは無意味な戦いなんだ。
いや、コレは逆にチャンスなのかもしれない。
相手と自分と一対一で、今のところモンスターが乱入してくる気配は無い。
だったら今この場でライダーを一人倒しておけば、残るライダーは十一人になる。
その内の二人はナイトと北岡さんのゾルダだから、実質残りは九人になるはずだ。
九人、果てしなく長い道のりだけど、そのための一歩が今目の前にいる。
やるしか、ない。
『何を甘っちょろいこと言ってんの。どうせ自分以外は殺すんだぜ?』
僕が自分自身に闘うべきだと言い聞かせた直後、北岡さんの言葉が脳裏に浮かんできた。
彼は昼間この言葉を何でもないように言っていたけど、よく考えれば正気じゃない発言だ。
自分以外の人間を十二人も、殺す。自分が叶えたい願いのために、今を生きる十二人の命を。
「確か、こーするんだったなァ………」
【SWORD VENT】
またしても僕は、先程犯したのと同じミスを繰り返してしまった。
自分の中で激しく葛藤しているうちに紫のライダーはコブラの頭部を模した杖上の召喚機に
カードを装填し、その効果を発動して不思議な形状の刃の無い曲剣を右手に掴んでいた。
「ハッハァ‼」
「ぐあぁ‼」
例えるならば神話上の生物の角のような形をしたその曲剣は異常なまでの剣速で僕へと
向かってきて、連撃などの計算を考えられていない一撃の一振りを浴びせられた。
龍騎の鎧がバチバチと火花を撒き散らして受けたダメージの深刻さを物語る。
この世界でのダメージは自分自身がこの世界にいられる時間の短縮に文字通り直結するため、
なるべくなら被弾は避けねばならなかったはずなのに………完全に僕の油断が招いた失態だ。
「あァ…………やっぱりコレはいい、スッキリする。イライラがもう治まってきた」
「ぐぅ………それは良かったね。だったらもう、戦いは止めにしない?」
「はァ、でもまだだ。今度は足りなくなってきた。暴れ足りなくなってきたなァ!」
手にした剣の腹をジロジロと見つめながら訳の分からない言葉を連呼するライダーに、
僕は痛みを堪えつつ停戦を呼びかけるも失敗に終わり、再び相手が襲い掛かってきた。
猛進してくる相手を見据え、僕は右手のドラグセイバーをタイミングよく横薙ぎに振るう。
しかし、相手はその攻撃を回転しながらの反撃でいなしてから空いた左手で拳を繰り出す。
「がッ‼」
「ォアぁ‼」
「うああっ‼」
左拳を仮面に直撃させられた僕は怯み、相手に更なる追撃のチャンスを与えてしまう。
そしてそのチャンスを相手は逃さず、もう一回転して正面を向き、右手の曲剣で切り上げた。
またしても剣での攻撃を受けて火花を撒き散らしていく龍騎の鎧は、深手を負い過ぎていた。
既に僕の見える範囲内で鎧のあちこちに小さなヒビが入り始めているのが見て取れる。
このまま勝負を下手に長引かせれば不利になるのはどちらなのか、言うまでもないだろう。
「やるしか、ないのか!」
「おォ…………ようやく戦う気になったのかァ」
「クッソォ‼」
「ハッハァ‼」
龍騎の鎧へのダメージと相手から感じられる殺気、そして僕自身の覚悟の甘さ。
現状における全ての要因を再認識させられた僕は、今度こそライダーとして戦う決意を固めた。
自分自身の情けなさからくる怒りの感情をそのまま口にし、眼前の相手を敵と認識する。
曲剣を振り上げながら向かってくる紫のライダーを直視して、僕もドラグセイバーを構える。
「たあっ‼」
「ハァッ‼」
見よう見真似の剣術もどきの太刀筋でドラグセイバーを届く範囲内にいる相手に振るうも、
相手は先程と同じようにくるりとその場で一回転しながら曲剣の腹で僕の攻撃を捌き弾いた。
僕は剣戟を弾かれて体勢を崩し、そこに回転のエネルギーを込めた蹴りを叩き込まれた。
「がはッ‼」
「オぉ………どうしたァ、もう終わりか? ァああ‼」
しかし今度は蹴り飛ばすだけでは終わらず、空いている左手でふらつく僕の腕を引き寄せて
曲剣の柄頭で四回ほど連続で仮面へ、頭部へ向けて殴打してきた。
当然ダメージを受けて唸り声を上げてしまうが、相手はお構いなしに膝蹴りまで織り交ぜる。
「ぐっ! あぐっ‼」
「ぁア…………イイ、やっぱりライダーってのはイイなァ!」
僕が同じ人間であっても知ったことではないと言うように、情け容赦ない攻撃を浴びせられる。
いくら戦法が素人だとは言っても相手は僕を殺すことに罪悪感も抵抗も感じてはいない、
つまり人を殺すことに躊躇もためらいもしていない。こんな人がライダーだなんて!
ふと、ここで僕は理解した。
相手が人だと分かっていながら、それでも殺そうと戦うことが出来るのがライダーではないか。
僕のように、願いがあるのに人を殺すことを躊躇っている方が、おかしいのではないか。
「ハァッ‼」
「あぁッ! ぐ、がぁ…………」
紫のライダーの猛攻が、曲剣を正面から上段振り下ろしての一太刀で幕を閉じた。
その一閃によって僕の龍騎の鎧から凄まじいほどの火花が噴出し、巨大なヒビを生み出す。
意識を回避や防御に専念させなきゃいけなかったのに、何故僕は考える事を止めなかったのか。
それとも、人の命の生殺与奪について考える事を、止められなかったのだろうか。
あるいはそのどちらもなのか。でも、今の状態に陥った僕からすれば些細な問題だった。
今、僕は死の瀬戸際に立たされている。
「ハァァ……………つまらん」
「ぐっ、ふぅぅ!」
「おァ‼」
「がはッ‼」
倒れ伏す僕を見ながら「つまらない」と吐き捨てたライダーを見上げ、ただ痛みに耐える。
立ち上がろうと力を籠めれば即座に力強く足で背を踏まれて地面に叩きつけられてしまう。
他者を踏みつけるという行為もこのライダーからすれば、何のことも無いのだろうか。
違う。そんなことは間違ってる‼
他人を無意味に傷つけて、他人の命を簡単に奪おうとして、それが正しいわけがない!
例え自分が殺されそうになったとしても、僕は他人の命を奪おうだなんて考えない!
だってそれが、正しいこととは思えないから!
「こんな、ところで………!」
「あァ? まだベラベラとしゃべるつもりか?」
「こんな、ところで!」
「ォお………?」
「死んで、たまるか‼」
とにかく今、僕にはすべきことがあって、出来ることがある。
だったらするべきことをして、出来ることを出来る限りやるしかない!
妹の命を求める戦いをする前に、僕が死んだら元も子もないじゃないか!
「う、おおおお‼」
「ォお!」
ゆっくり力を込めていてはさっきと同じように踏みつけられてまた振り出しだ。
だったら一気に力を込めて立ち上がれば、きっと相手が踏むよりも先に立てる!
そう考えた僕は即座に実行に移し、それを見事に成功させた。
瞬時に立ち上がった僕によろめかされた紫のライダーは片足で後ろへ後退していく。
でも、そこを逃がすほど僕は甘くはない!
「ぜりゃああぁ‼」
「ォあ⁉」
立ち上がったのと同時に右手のドラグセイバーを振り抜き、ライダーの鎧を切り裂く。
もちろん不意の一撃であった上に僕自身も体勢が整っていなかったため、攻撃と呼ぶには
少し弱かったものの、それでも相手を怯ませることには成功した。
そのまま完全に立ち上がった僕は、ドラグセイバーを構えつつ左手を仮面の前に持ってくる。
「ッしゃあ‼」
いつもミラーワールドへ入る時、自らを鼓舞するためにかける掛け声を力強く言い放つ。
その勢いそのままに、両手でしっかりと柄を握ったドラグセイバーで相手を斬りつける。
右斜め上から袈裟斬りに振り下ろし、返す刀で左側から腹部を真横へ薙ぐように一閃する。
相手の装甲から噴き出る火花を散らすように再び刀を振るい、更なる連撃を刻み込む。
上から下へ、下から横へ、横から上へ、そして再び上から下へ。
縦横無尽に剣を振るい、その度に紫色の鎧からは金属がぶつかる音と火花が弾ける。
ほんの数秒程度の攻撃だったはずなのに、僕にはそれが数分以上のものに感じられた。
「ぐォ、おァ!」
「はああぁ‼」
連続して攻撃を繰り出すたびに前進するため、気付けば建物の端の方まで辿り着いていた。
このままいくと相手が壁を背にすることになり、背面の死角を得られなくなってしまうと
戦いの中で磨いた勘が僕に囁きかけ、この辺りで攻撃を終わらせようと手に力を籠めさせる。
下から逆袈裟気味に斬り上げた剣の切先をそのままに、僕はその場で小さく跳躍した。
そして両膝を素早く畳み込み、よろめいている相手の胸部の装甲めがけて同時に突き出す。
「だりゃあ‼」
「おゥ………はン?」
ちょうど相手の胸部を踏み台にする形でそこからさらに上へと跳躍していった僕を、
蹴り飛ばされたことで先程以上に大きくよろめいた紫のライダーが見上げている。
僕が次に何をするのかを読んだのだろう、相手は手にした曲剣を顔の前に横向きに構えた。
(アレで防いでからカウンターで一太刀入れる気か! でも…………甘い‼)
空中で後ろ向きに回転しつつ相手の意図を読み取った僕は、咄嗟に行動を切り替える。
本来ならばこのまま落下する勢いを剣に乗せて両手で握ったドラグセイバーを振り下ろす
算段でいたんだけど、このままだと待ち構えている相手の思う壺になってしまう。
そこで僕は少しだけ体の位置を調整し、つい先程跳躍しながら見つけたある物へと近付く。
その時タイミングよく僕の体が半回転し、頭が下に、足が上へと向いた。
「今だッ‼」
「ァあ⁉」
次の瞬間、僕の両足は
それを足場にするようにして空中から地上へ向けて逆さまに跳躍し、その勢いを剣に乗せた。
僕のとった行動に驚きを隠せずに動揺する紫のライダーだったが、防御の構えは解いていない。
このまま反撃される可能性も捨てきれない。でも、だとしても!
「押し、通るッ‼」
この一撃に自分の全てをかけるように力を籠め、満身の力を以てドラグセイバーを振り下ろす。
「だああぁああ‼」
ほんの一瞬、ドラグセイバーと曲剣とがぶつかり合った感触が手に伝わったが。
「ぐォォおおおおッ⁉」
僕の覚悟を乗せた一撃が、曲剣を真っ二つに切り裂きながら相手の鎧に到達した。
激痛を感じているであろう悲鳴を聞きながら地面へ着地し、そのまま僕は猛然と駆け出す。
この一撃には僕の全てを賭けた。だからこそ、これ以上の戦闘は不可能だと分かっていた。
あのまま戦いを続けていればおそらく、人を殺す覚悟ができていない僕が負けていただろう。
だから勝負をお預けにして、願いの達成を先延ばしにしてでも、今は生き延びなきゃならない。
コレは決して敵前逃亡じゃない。あくまで生き残るための撤退だ。
自分にそう言い聞かせながら、僕は後ろを振り返らずに脱兎の如く駆けだした。
「ォお…………おお…………」
龍騎こと明久が重い一撃を繰り出して即座に撤退していったその後、建物内では。
思いがけない発想から繰り出された攻撃をまともに受けた紫のライダーは仰向けに倒れていた。
しきりに「ォお……」だの「あァ……」だの吐息に近しい言葉を口からこぼれ落としながらも
その仮面の下の双眸は、確かにギラギラと血走り、閉じられてはいなかった。
紫のライダーが受けたダメージは、実は龍騎が受けたダメージほどではない。
龍騎の攻撃は一撃一撃が軽く、また人を傷つけることへの抵抗もあってか浅かったのだ。
しかし最後のあの一撃、あの一太刀だけは紫のライダーの心と体に深々と刻まれた。
「ァ、あァ…………イライラ、するなァ………!」
戦っている間だけは普段から感じる理不尽なイラつきも抑えられて感じていなかったのに、
何故か今になって治まったはずのイライラが再び彼の肉体を支配しかけていた。
一度スッキリしてしまえば、しばらくは大丈夫だったはずなのに、一体なぜなのか。
紫のライダーは自身が感じ始めたイライラの原因を、本能で察していた。
「そうだ………あの赤い奴、アイツだァ! アイツが、俺を、イライラさせる!」
たった今自分を切り捨て、即座にどこかへと立ち去っていった赤いライダー。
最後の一太刀といい烈火の如き連撃といい、思い返せばさらに苛立ちを募らせることばかり。
もはや思い返すというより蒸し返すといった勢いで怒りを再発させ始めた紫色のライダーは、
受けたダメージなど気にも留めずに体を起こし、左腕を膝頭に置いて気怠そうに呟く。
「北岡を潰してもスッキリするだろうが、アレを潰してもスッキリするだろうなァ!」
仮面の下に邪悪な笑みを受けべながらその男、浅倉は人知れずそう呟いた。
「……………………」
そしてそんな状態の紫のライダー、浅倉のことを密かに観察する者がいた。
ミラーワールド内の太陽の影響で逆光の中に姿を隠している者は、先程まで龍騎と浅倉が
変身していた紫のライダーとの戦いを、その一部始終を全てここで観察していたのだ。
それまで無言で戦闘を見つめていたソレは、静かに呟く。
「脱獄犯の浅倉 威がまさか【仮面ライダー王蛇】になっていたとは…………驚きでした。
ですがそれ以上に興味を惹かれるのはやはり彼、仮面ライダー龍騎、吉井 明久君ですね」
龍騎と紫のライダーこと王蛇の正体を知るソレは、誰にも知られずにその場から立ち去った。
あの紫のライダーと一戦交えた後、僕はすぐに北岡さんの事務所へと引き返した。
理由は単純。あのライダーとの戦いでダメージを受け過ぎた結果、龍騎の鎧の崩壊が
いつもより早まってしまい、仕方なくドラグレッダーを喚び出してから元の世界に帰ったのだ。
おそらく僕からの救援を待っているだろう北岡さんに申し訳ないと思いつつ事務所に掛けられた
鏡の中から飛び出し、不意に顔を見上げたその先に、驚くべき光景が広がっていた。
「よぉ、お疲れ。随分待たせてくれるじゃない?」
「え、あれ⁉ 北岡さん⁉」
そう、僕が喚び出したドラグレッダーが援護するはずの北岡さんが何故か目の前にいるのだ。
僕はすぐに後ろに目を向け、そして周囲を見渡す。よし、ここはもう現実の世界だ。
ミラーワールドから確かに出てきたことを確認してから、再度北岡さんがいることを確認する。
「なんでいるんですか‼」
「なんでって、ここは俺の事務所なんだから俺がいるのは当たり前でしょ」
「いや、そうじゃなくて!」
「何が違うんだよ、おかしな奴だなーおたくも」
「おかしいのは北岡さんでしょ⁉」
間違いなく目の前にいるのは北岡さんだ。ここまで口が悪い人がそう何人もいるもんじゃない。
ということは、僕がさっき援護に向かわせたドラグレッダーはいったいどこへいったんだろう。
そう思っているとすぐ後ろにある鏡の向こう側から、小さく聞き覚えのある遠吠えが聞こえた。
この声は間違いなくドラグレッダーの声だ。てことは、北岡さんを捜してここまで来たって事?
「どうして………?」
ほんのわずかな疑問だったが、改めて一から整理することにした。
まず初めに北岡さんが僕へ援護の要請をしてきた。だから変身してミラーワールドへ行ったんだ。
そして次に僕は現場へ向かう途中で紫色のライダーと遭遇し、ライダーバトルをさせられた。
思った以上に苦戦してしまい、余計なダメージを受け過ぎたせいで龍騎の鎧が時間切れを起こし、
止む無くミラーワールドから出てきた。そして目の前には北岡さんがいる。ハイここがおかしい。
けれどその時、僕の天才的頭脳がある仮説を立てた。
(待てよ? もしかしたら北岡さんは僕が来るのを待たずにモンスターを倒したんじゃないか?
それか、本当はピンピンしてたけど僕を誘き出してライダーバトルで勝とうとしたとか?)
瞬時に僕の優秀な頭脳が立てた二つの仮説。そのどちらも、ある意味説得力があった。
最初の仮説は、北岡さんの変身する【仮面ライダーゾルダ】の強さを鑑みての事だが、
実際ゾルダはかなり強く、そう簡単に窮地に陥りっこないことは実体験を以て語ることが出来る。
でも北岡さんはたまに胸を押さえて苦しそうにすることもあるし、それがあったのかもしれない。
だとしても、あの北岡さんが僕に助けを求めるだろうか。そう考えると可能性は低い。
となると最も有力な仮説は二つ目の僕を誘き出して戦い、ライダーバトルに勝利することになる。
正直な話、こういう性格の人だからやりかねない。というか、おそらくするつもりだったはずだ。
危ない危ない。策略に引っかかって僕の願いを台無しにされるところだったよ。
でも流石僕だな、北岡さんの仕掛けた罠すら見破ってこうして無事でいるんだから。
自分の優秀過ぎる頭脳を後で誉めてやろうと思考を切り替えた矢先、北岡さんが口を開く。
そしてその言葉を聞いた僕は、頭が真っ白になった。
「どうしても何も、おたくが来たからに決まってるだろ?」
「____________え?」
僕が、来た? 北岡さんが呼び出した場所に、僕が?
北岡さんの言っている言葉の意味が分からず、しばらくの間思考をフリーズさせてしまう。
そんな僕に気付いていないようで、北岡さんはさらに僕の思考をかき乱す発言を続けた。
「おかしいのはおたくだろ? こっちがびっくりするぐらい早く援護しに来といて、
モンスターを全滅させちまったら何も言わずにどっか行っちゃうしさ。しかもおたく、
なんで俺よりも早く帰っておいてここに来るのが俺より遅いわけ?」
続けて北岡さんの口から出てきた言葉を聞いた僕は、脳内回路が焼き切れる音を聞いた。
「何の、話ですか? 僕は北岡さんの援護にいけなかったじゃ、ないですか………」
「はぁ? おたくどうしちゃったの? 何いきなり訳の分からんことを________あ」
まるで理解不能な事を言い出した北岡さんが、僕の上手く思考が働いていない中で紡いだ
言葉を聞き終えてから何かを思い出したような顔つきになり、そして声高に語った。
「はは~ん、なるほどねー。おたくも中々食えない性格してるね」
「え? へ? あの、だから」
「戦った分の報酬金が少な過ぎる、って言いたいんだろ? ホントいい性格してるよ。
吾郎ちゃーん、コイツに支払う予定だった給金にもう5%上乗せしておいてー」
「ハイ、先生」
何やら僕のことを油断ならない視線で見つめてくる北岡さん__________って違う!
僕は別にお金のことなんてどうでもいい(訳じゃない)けど、それよりも大事な話が!
一人で納得している北岡さんにもう一度今の話の内容を詳しく聞こうと身を乗り出した
直後、僕の背後から吾郎さんが音も無くやって来て、目の前の机に何かを置いた。
見てみるとそれは、何てことはない普通の茶封筒だった。もしかしてこれ、バイト代?
「ほら、これで貸し借りは無しだ。大人の契約ってものが少しは分かったか?」
「え、その、だから!」
「おいおい、これ以上せびろうっての? いくら俺がスーパー弁護士で金持ちでも、
無駄遣いするべき場合とそうでない場合ってのは分かるぜ? というわけで、お疲れさん」
「は? え、ちょっと!」
「ほら帰った帰った。いつまでもいられて高校生のガキを働かせてるなんて知られたら、
俺の弁護士としての好感度だだ下がりよ? でしょ、吾郎ちゃん!」
「ハイ」
「だからさ、ほら! もらうモンもらったんだから早く帰れって、じゃあな」
訳が分からな過ぎて頭がどうにかなりそうになっていると、北岡さんがバイト代の入って
いるであろう茶封筒を僕にしっかりと握らせてから肩を掴んで向きを変え、背中を突っぱねた。
後ろにいる北岡さんの方に顔を向けると、椅子に座ろうとしながら僕に「シッシッ」と手を
プラプラ揺らしてあからさまな帰れアピールをしてきた。大人げなさ過ぎでしょ、北岡さん。
とにかくこれ以上ここにいても意味が無いし、逆に良くないことが起こるかもしれない。
特に北岡さん。あの人は僕を罠に嵌めようとしたかもしれない人だし、もっと警戒しないと。
さらに言えばあの紫のライダーも要注意だ。何の躊躇いも無く攻撃してくる辺り、かなり危険だ。
「そ、それじゃあさよなら」
「おーう。またヤバくなったら金出すから雇われてよ」
「もう二度としません!」
「………青いねぇ。ま、いいけどさ」
一応バイト代もくれたし、形式上雇用主だったため礼儀はある程度尽くさなきゃいけないと考え、
扉を開けて事務所を出ていく前に帰りのあいさつとお礼を言っておこうと振り返った。
でも北岡さんの口からは相変わらず利己的な印象の言葉しか出てこないため、僕は呆れてしまう。
こんなに神経が図太い人が倒すべきライダーの内の一人だなんて、気が滅入るよ。
あまりここと北岡さんには近寄らないでおこうと密かに決め、事務所を後にする。
それにしても北岡さんの言ってた言葉、まるで意味が分からなかったな…………ま、いいか!
ちなみに夜に家に帰って茶封筒の中を見て、5万2700円も入っていて感激したのは秘密だ。
いかがだったでしょうか?
一番閲覧数が多いこの作品も、ようやく更新ができました!
さぁ、ここからさらにライダーバトルが加速します!
皆さんが好きなライダーも、なるべく早めに出演させるように
努力いたしますので、皆さん応援よろしくお願いします!
それにしても、北岡さんの元に来た龍騎とは一体…………?
ご意見ご感想、並びに批評につきましても大歓迎です!
それでは皆様、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに‼