僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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どうも皆様、またしても一か月も更新と滞らせてしまった萃夢想天です。
悪気はないんです。ただ、夏風邪ひいたりPCが不機嫌だったりPCが(略
とにかくこれ以上の停滞は無いです。無いと思いたいです。
ですので皆様もどうか、これからも応援よろしくお願いいたします。

実は謝罪文含め、この回書くのも五回目です。TAKE5なんです。
このクソスペックPCめ、またしても反抗期なんて起こしやがって!


最大級の謝罪と共に、どうぞ!





問19「僕と心配と頂点への挑戦」

 

 

 

 

 

僕がバイトをしに行った日曜日から数えて実に三日目、つまり水曜日の朝。

学生なら学校へ登校する時間帯というわけで、僕もこうして通学路を歩いていた。

 

たった一週間も経たないうちに見慣れてしまった、僕の隣にいる彼女と共に。

 

 

「今日も下校は一緒だからね、明久君」

 

「りょーかい。アレ? でも友香さん今日部活は?」

 

「今日は休みよ。もし仮にあったとしても、明久君は待っててくれるわよね?」

 

「えぇ………ぼ、僕には帰って勉強をするという大事な使命が」

 

「どうせしないくせに何強がってんのよ」

 

わずかに紫がかった黒いショートヘアを揺らしながら強気で語るのは、友香さんだ。

ほんの数日前から紆余曲折を経て、こうしてそろって登下校する仲になったんだけど、

最近どうも様子がおかしい。おかしいというと語弊があるけど、何より距離が近い。

ここの歩道は整備されたばかりで広いのに、何故か僕の身体に密着しようとしてくる。

Fクラスのモテない皆が見れば殺しにかかってきそうな状況だけど、僕には分かる。

 

 

(友香さんがやたら近付いてくるのはやっぱり、心配してくれてるからだよなぁ)

 

 

内心で呟きながら、まだ僕についてぼやいている友香さんを横目で盗み見る。

まさしくクールビューティーという言葉を体現しているかのような大人びた雰囲気の

彼女が、僕なんかを心配するわけがないと思いながらも、一昨日の記憶がそれを否定する。

日曜日の朝、充電するのを忘れていたケータイを充電器にさして家を出た僕は、帰ってから

異様なほどの量のメールが来ていたことに腰を抜かすほど驚いた。しかも送り主は一人だけ。

あの日の朝から友香さんからメールが送られてきていたのだ。それも30件数以上も。

そして次の日の朝、つまり月曜日の朝に玄関前で待ち伏せしていた彼女に捕まってしまい、

連絡がつかなくなった日曜日に何をしていたのかを洗いざらい吐くように強制された。

最初こそ答えをはぐらかしていたものの、結局最後には折れて彼女に全てを話した。

北岡さんの所へバイトをしに行った事。そして、新たに現れた【仮面ライダー王蛇】の事。

 

全てを話し終えた時の彼女の表情は、一言では語りつくせないほど複雑なものだった。

当初は弁護士の世界やニュース等で話題に上がる人物である北岡 秀一と、僕が知り合いだった

事実にただ驚いていただけだったけど、その後に僕が口にした話を聞いた途端、豹変したのだ。

単純な高校生の日常から一転、人外の怪物と血で血を洗う闘争の非日常の話を聞かされた彼女は

瞳を大きく見開き、その目尻に小さな水滴を浮かばせながら、僕に縋り付いてこう言った。

 

 

『明久君…………お願いだから無茶はしないで! あの日、私、すごく心配したんだから‼』

 

 

周囲にいた人たちの視線を集めてしまうほどには大きな声を上げた友香さんは、その後すごく

恥ずかしそうに顔を伏せてから、もう一度同じ言葉を口にして、一緒に行こうと告げた。

あの時の彼女の、心の底から絞り出したような声と表情を、僕は決して忘れない。

 

きっと友香さんはあの時、僕に二度と戦わないように言うつもりだったんだろう。

けど、彼女は知っている。他人と自分の命を賭けてまで、僕が何を得ようとしているのかを。

だからこそ彼女は、強く否定できなかったんだろう。あの言葉は、それを僕に伝えてくれた。

結局のところ、あの戦いを経ても何も変わらなかった。自分以外の12人の命を奪って願いを叶える

ライダーバトルに、本当の意味で参加しているのかどうかすら、怪しくなってきてしまった。

僕が妹の、明奈の命を求めていることは変わらないのに、何が変わってしまったんだろうか。

それとも僕は今までの、命を奪う行為を認められない昔の僕と、全く変わってないんだろうか。

 

何もかも分からなくなってしまっている。僕は、この戦いで何を、何の為に戦っているのか。

 

 

「ちょっと、聞いてるの?」

 

「ふぇ? あ、えっと、ゴメン」

 

一人で自問自答を繰り広げていたところに、友香さんの問いかけが大きく響いてきた。

慌てて話を聞いていた素振りをしようにもバレているので、大人しく先に謝っておく。

怒られるんだろうなぁと気を揉んでいると、予想に反して彼女は気遣うような声で尋ねてきた。

 

 

「………大丈夫? もしかしてこの前の戦いで受けた傷が、まだ痛むの?」

 

「えっ? いや、うん。まぁほんのちょっとだけ」

 

 

友香さんの気遣いの方が胸に沁みると言えなくもないけど、とりあえず有耶無耶にする。

彼女が言った通り、僕はあの日曜日の戦いでかなりの傷を受け、月曜火曜の二日は痛みが

あまり引かずFクラスの何人かにどうかしたのかと心配をかけてしまっていたのだ。

当然目の前にいる友香さんも(Fクラスじゃないけど)その一人で、受けた傷の痕を見せた時は

彼女の顔から血の気が一瞬で引いていくほどに酷いものだったらしい。今はほぼ良くなっている。

特に酷かったのは胸部と腹部の裂傷と打撲痕で、赤黒く腫れ上がってしまっていたんだけど、

仮面ライダーとしてミラーモンスターと契約したおかげか、傷の治りが数倍早くなっていて、

一週間安静程度の傷であれば、ほんの二日か三日でほぼ全快してしまうようだった。

思わぬ効果に感動しつつもまだ完治ではないので、激しく動けばまだ痛みが感じられる。

そのことを彼女は心配してくれたようで、若干不安げな表情になって言葉を紡いだ。

 

 

「それならいいけど、あまり痛むようなら病院に行きましょ? 私もついていくから」

 

「いやいやいや、ダイジョブだって! しばらくはモンスターも大人しくしてるし」

 

「本当に? 絶対無茶はしないでよ?」

 

「大丈夫だって」

 

 

まだ不安そうな顔で見つめてくる友香さんに、心配無用とばかりに笑顔を向けてみせる。

その表情を見て少し安心したのか、彼女はとりあえずは引き下がってくれたようだ。

そう思って安心していたら、彼女がいきなり僕の目の前に歩み出て立ち止まった。

何事かと思って僕も立ち止まると、彼女はゆっくりと僕に近付き、身体に触れてきた。

 

 

「……………ねぇ、明久君」

 

「え、えと、友香さん?」

「お願い。もう無茶なことはしないで、お願いだから…………」

 

「友香さん…………」

 

 

僕が傷を受けた場所を知っている彼女は、その痕を優しく撫でるように服の上から触り、

そしてそのまま顔を上げて、上目遣いのような体勢になって僕の瞳を真っ直ぐ見つめる。

その瞳はまるで、何かを待ち望んでいるかのようにひたすら僕だけを見つめ続けていた。

少しずつ細くなっていく彼女の瞳に吸い寄せられるように、両手が勝手に彼女の両頬へと

伸びていき、二秒も経たずに彼女の頬に手のひらが触れ、柔らかな感触を脳に伝えてくる。

 

僕が伸ばした両手を上から優しく包むように、友香さんの両手が重ねられた。

より増した彼女の温もりを感じ取り、彼女もまた僕の手の温もりを手と頬の二つで感じ取り、

互いの体温を循環させるように手と手で触れ合った僕らは、ただただお互いを見つめていた。

 

 

「明久君…………」

 

「友香さん………」

 

 

普段の気の強そうな彼女であれば、僕の両手なんて跳ね飛ばして罵声を浴びせているだろう。

しかし現状はまるで異なり、僕が触れている彼女の頬は焼けるように熱くなってき始めて、

それを包むように重ねられた彼女の両手も段々と温度を上げて熱を帯びてきている。

いつもなら僕を小馬鹿にするような発言を吐き出す彼女の口も、今は固く閉ざされていた。

輝く瞳は少し不自然に感じるほどに潤み、それでもなおひたすらに僕だけを見つめ続けている。

あと少し、ほんの少しだけ僕が顔を下げれば、互いの肌が触れ合うだろう距離。

 

 

「「…………………」」

 

 

無言のまましばし見つめ合い、どちらからともなく、少しずつ距離を詰めていく。

このまま近付けていけば間違いなく、互いの唇が重なり合うであろう、それほどの近さ。

やがて意を決したように僕ら二人は、見つめ合っていた瞳を閉じて最後の数センチを詰める。

 

そしてあと一秒もあったら、僕らの唇は重なり合って熱を伝え合っていただろう。

 

 

『『『もう我慢ならねぇ‼ 死にさらせ吉井ィィ‼‼』』』

 

 

眼を紅蓮に燃やしながら特攻を仕掛けてきた、Fクラスの男子たちさえこなえれば。

 

 

「クラウチングダッシュ‼」

 

『逃がすかァ‼』

 

『殺す‼ 今度こそ殺す‼』

 

『追え‼ ヤツを捕らえて処刑するんだ‼ サーチアンドデェェェス‼‼』

 

 

目の前の美少女の温もりをかなぐり捨てて僕の両手はそのままの形でアスファルトを掴み、

コンマの秒数で腰を落として体勢を整え、迫り来る殺意から逃れるための逃走を始める。

僕がいた場所へ二秒後に武器を持ってやってきた彼らは、口々に危ない言葉を叫びながら

次々に追いかけてくる。クソ、せっかく良い雰囲気になりかけていたというのに!

 

僕は背後から感じる殺気から遠ざかる為、速度を上げて通学路を駆け抜ける。

次の信号を右に曲がれば、後は文月学園まで一直線のひたすらに長い坂道のみ。

そこさえ乗り切れば勝利は確実。さぁ、デッドヒートレースの始まりだ!

 

いつのまにかお馴染みの黒装束に身を包んだ嫉妬狂い(チェイサー)たちとの命がけの鬼ごっこが始まり、

仮面ライダーとなって得た身体能力を武器に、通学路を全力で走破する。

 

 

「アレ? 何か忘れてるような…………?」

 

 

全力疾走を続けながら、ふと頭の片隅に何かがよぎるが、それどころじゃないと片付けた。

 

「………………んもう! 明久君のバーカ!」

 

 

一方その頃、一人取り残された友香は彼方へと走り去っていく明久を罵倒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ"ぁ~~、酷い目にあった…………」

 

 

両肩と首元からゴキゴキと定番の音を鳴らしながら、僕はFクラスの木製の扉に手をかける。

全く、とんだ連中だったよ。まさか校舎内に逃げてもまだ追いかけてくるだなんてさ。

仕方ないからわざと逃げ場のない空き教室に入って、突入して来た勇者を一人ずつ落としてきた。

教室に入って来た一人目をレッグラリアートで落とし、驚いた二人目の鳩尾にナイルパワーボムを

飛び掛かりざまに食らわせて落として、最後の一人を軽めのキャメルクラッチで完璧に落とした。

全部致死級のプロレス技だって? ()りに来てるんだから()られる覚悟だってあるよね!

そんなわけで彼らの意識はしばらく戻らないだろう。ざまぁみろ。

朝のHRに遅れてきて鉄人に鉄拳制裁されるであろう未来を容易に想像しつつ扉を開けると、

もはや見飽きてしまった面子と見るも無残な畳と卓袱台だけの貧相な教室が姿を現した。

慣れたくもない埃臭さに鼻を曲げていると、少し離れた卓袱台で二人の友達が何か話し合って

いるのが見えた。あまり珍しくもないんだけど、何故か妙にそれが気になった。

自分の卓袱台にカバンを置き、そのまま二人の友達、秀吉とムッツリーニの元へ向かう。

 

「む、おはようじゃ明久」

 

「………おはよう」

 

「うん、おはよう二人とも。今何を話してたの?」

 

 

朝の挨拶を簡単に済ませ、早速二人が何を話していたのかと尋ねてみると、意外なことに

二人ともやけに渋い顔をして話題を避けようとし始めた。何かあったんだろうか。

さっきよりもさらに気になって来た僕は、二人に何とか話してもらえるよう食い下がる。

そうしているとようやく折れたのか、秀吉が分かったとうなずいて僕にも話を聞かせてくれた。

 

 

「いや、実はじゃな。この前のBクラス戦が終わった後の話なんじゃが」

 

「………Bクラス代表、根本が入院したらしい」

 

「え⁉ 根本君が入院したって⁉」

 

 

驚きのあまり声が思いがけず大きくなってしまったが、それも当然だ。

根本恭二という男は、Bクラスという文月学園生徒の中で二番目に優秀なクラスの代表で、

その上さらにこの前僕らFクラスとの試召戦争に負けて、酷い拷問を受けた受けたのだった。

僕としては拷問を受けたことに関しては日頃の行いの報いだと思っている。そりゃそうだ。

我らがFクラスに二人しかいない美少女、目の前の秀吉と対をなす姫路さんのラブレターを

強奪し、それをネタに強請(ゆす)って僕らを罠に嵌めようとした張本人なんだから。

それでも顔見知りである彼が入院とは、一体何があったんだろうか。

 

彼の身に起きたことを考えようとした時、木製の建付けの悪い扉が乱暴に開かれた。

 

 

「おーっす。ん? どーしたお前ら、そんな隅っこで集まって」

 

「あ、雄二」

 

「おはようじゃ雄二」

 

「………ちょっとした戦後の話」

 

 

開かれた扉の向こうから顔をのぞかせたのは、このFクラスの代表の雄二だった。

逆立った赤い短髪を見せびらかすようにのしのしと大股で歩き、僕の横に座った彼は

そのまま僕らの話題の輪の中に入って、話の続きを聞かせろと上から要求してきた。

 

 

「ほー、戦後のね。興味あるな、俺にも聞かせてくれや」

 

「うむ。まぁ今更ワシらの内で隠そうが、もう知れ渡っている頃じゃろうて。

のうムッツリーニよ、明久と雄二にも話して構わんじゃろう」

 

「………俺は最初から話すつもりだった」

 

「で、結局何の話なんだ?」

 

「根本君が入院しちゃったんだって」

 

「あ? 根本が? 戦争終結から6日しか経ってねぇぞ?」

 

「詳しくはこれから聞くところだったんだ」

 

「そういうことか。おい秀吉、ムッツリーニ、さっさと話してくれよ」

 

 

僕のみならず雄二からも話の続きを強要され、二人は渋々といった体で話す。

 

 

「仕方あるまい。ワシも今しがたムッツリーニから話を聞いたばかりなのじゃが、

どうやら根本は何者かに襲撃され、重度の打撲や骨折で入院させられたらしいのじゃ」

 

「襲撃? 誰に?」

 

「………現状は不明。ただ、この件に関してある噂が広まっている」

 

「噂ね、そりゃ一体なんだ?」

 

「それがその、なんというか」

 

「………根本を襲撃した犯人は、酔っ払いか強姦魔ではないかと推測されている」

 

「「は??」」

 

 

事情を全く知らない僕と雄二はそろって間抜けな声を上げてしまう。

だっておかしいじゃないか、酔っぱらいは分かるけど強姦魔って、根本君は男だよ?

僕と同じことを思ったのか、雄二も不思議そうな顔をして話の続きを待っていた。

 

「ちょっと待て。なんだ、強姦魔って」

 

「いや、じゃからワシも聞いた話じゃから詳しくは分からんのじゃ」

 

「ムッツリーニ、どういう事なの?」

 

「………根本が襲撃されたのは先週の木曜の午後7時から8時の間らしい」

 

「ふむふむ」

 

「なるほど。で? それと強姦魔の何が関係があるんだ?」

 

「………根本が病院へ搬送される時の状態が、明らかな女装だったと聞いた」

 

「「……………女装?」」

 

 

ムッツリーニの話を聞き、何故か気になっていた予感が確信に変わってしまった。

根本君が襲撃された時に女装していたというのは、多分戦犯である彼への拷問のアレだ。

Bクラス戦が終わった後の戦後対談で、雄二が彼に課したクラス設備交換に目をつぶる

三つの条件の一つとして提示した物の一つに、『女装してAクラスに行く』とあったのだ。

そこまではいい。いや良くはないんだけど、そこで話が終われば何の問題もなかった。

しかし、この件には少し心当たりがある。主に、彼の着替えに関して(・・・・・・・・・)

 

 

(そうだ! あの時の僕は姫路さんのことでまだ若干頭に血が昇ってて、根本君の元々の

男子制服をゴミ箱に叩き込んだんだっけ! それで着替えられなくなって……………アレ?)

 

 

先週の自分がしたことを思い起こし、そこで重大な事実に気が付いた。

 

 

(それってつまり、僕が悪いってことになるよね⁉)

 

 

根本君が襲撃され、入院した背景には、僕のした暴挙が密接に関係していた。

よく考えなくても、自分の着替えがなくなれば恥を忍んで着替えさせられた女子の制服で

帰ろうとするのは当たり前じゃないか。そして犯行時刻は既に辺りが暗くなった夜だという。

おそらく犯人は暗がりを歩く根本君(女子スタイル)を女子と勘違いしてしまったんだろう、

襲い掛かった結果実はブサイクな男だと分かって腹が立ち、それで暴行を加えたに違いない!

 

自分の頭の冴えに恐ろしさすら感じながらも、自分のしでかしたことの重大さに悲嘆する。

 

 

(いくら姫路さんの件で怒っていたとはいえ、あそこまでする必要は無かったんだ!

それを僕は個人の感情をこじらせて、とんだ悲劇を……………ゴメンよ、根本君!)

 

 

心の中で病院のベッドの上にいるであろう被害者に、誠心誠意の謝罪を念じる。

秀吉たちがいる手前で土下座なんてするわけにもいかないから、これくらいに留めておこうと

考えて顔を上げると、僕の真横にいた雄二も何故か険しい表情で何かを呟いていた。

 

それにしても、なんで雄二が「やっちまった」みたいな表情をしてるんだろうか。

 

明らかに悪いのは僕なのに。雄二が責任を感じる要素はどこにもないはずだけど。

頭の上に疑問符を浮かべていると、ようやく戻って来た雄二が顔を上げた。

 

 

「ん、おお。どうした明久、お前なんか『やっちまった』って顔してんぞ」

「うぇ⁉ そそそそんなことないよ! 雄二こそどうしたの、やけに汗ばんでるけど」

 

「んなわけあるか、おお俺がそんな、汗ばんでなんかいるわけがねぇじゃねぇか」

 

「ムッツリーニよ、お主はどう思う?」

 

「………ひどいデジャヴを見た」

 

 

こうして僕と雄二の言い争いが始まり、担任である福原先生がHRにやって来るまで

二人の不毛な論争は終わる事は無く、秀吉とムッツリーニは終始呆れ顔のままだった。

 

 

そう言えば僕らは、何で言い争いになったんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝のHRが終わった直後、教卓に手を置いた雄二はFクラス全員に声をかけた。

 

 

「聞いてくれ皆。前回の戦争終結から今日で6日、そろそろ頃合いだろう」

 

 

毎度の手練手管で教室内の全員の視線を一手に集め、注目が向いた瞬間に言葉を紡ぐ。

 

 

「昨日一昨日と点数補充のテストを受けたお前たちに、まずは労いの言葉を贈ろう。

そして、戦力的にも戦局的にも厳しかったBクラス戦も、見事な健闘ぶりだった!」

 

 

普段の傍若無人さは鳴りを潜め、ただただ歴戦を勝ち抜いた兵士に謝辞を送る国王の

如き言葉と仰々しい動きで演説を行う雄二を、教室内の誰もが沈黙のまま見つめる。

 

「学力最底辺のクズと嘲笑された俺たちが、よくもこの高みまでこれたものだと思う。

偶然や運だとかぬかす連中も居るだろうが、ソイツらは俺たちの真価を知らんだけだ!」

 

胸を焼き焦がさんばかりに熱弁を語る大将の姿を、一同は固唾を飲んで見守る。

 

 

「だが、ここまで来た以上は頂を目指したい。最底辺(Fクラス)として、頂点(Aクラス)の上に立ちたい!

勉学最強の奴らを下し、世の中は勉強だけが全てじゃないと思い知らせてやろう‼‼」

 

『『『うおおぉぉおおぉおぉぉぉお‼‼』』』

 

 

先程までの演説で心の中にくすぶっていた火種に火を灯した戦士たちが、咆哮を上げる。

窓ガラスですらも音響で叩き割らんばかりの大合唱は、しばらく止むことは無かった。

「皆、ありがとう。諸君らの気持ち、痛いほどにこの身に響いた」

 

 

大統領が演説する際によくするような仕草で手を振るい、大咆哮がピタリと止んだ。

しかし魂の叫びを止めさせてもなお、彼らの瞳には戦意が炎となって煌々と輝いている。

戦争後の倦怠感や不燃焼感はまるで手品のように取り払われてしまっている現状を見ると、

あの教卓に手を置く男はこの状況を意図して作り上げたのではないかと思えてきてしまう。

絶対的忠誠を誓う騎士団か、あるいは狂信的忠義を謳う独裁国家にすら思えるやり口に、

逆立つ赤髪の男が敵でないことを、改めて幸運に感じた。

 

戦場を駆る兵士たちを五線譜上の音符の如く操る彼は、再び口を開いて語り出す。

 

 

「__________残るAクラス戦についてだが、俺は一騎打ちによる決着を望んでいる」

 

 

この学園で最弱の兵を指揮するその大将は、最も無謀な策略を真摯に告げた。

 

 







いかがだったでしょうか?
久々に手早く投稿できたと思ったらあまり長くないですねぇ。

そう言えば、私がこの作品を手掛けてから一年が経過していました。
一周年です。びっくりです。時の流れってのは早いもんです。
他の先品でも一周年だと思うと、全然進んでない現状に涙が………。
その上でまだ新作のSSを書こうとしてるなんて、バカですよねホント。
ですがもし私の他のSSを見かけたら、読んでやってください。


ご意見ご感想、並びに批評も一切合切受け付けておりますです!


それでは、戦わなければ生き残れない次回をお楽しみに!
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