どうも皆様、ウーロン茶中毒の萃夢想天です。
いくら二週で一話投稿とはいえ、一年かけてたった20話とは(絶句
これからも度々更新が遅くなることもあるとは思いますが、それでも私は
この作品を一度書き始めた以上、完結まで書き続けさせていただく所存です。
決意新たに、それでは、どうぞ!
_______________打倒Aクラス
それはこの学園において、神への挑戦に等しい意味を持つ。学園最高峰の頭脳を誇る神に。
しかし彼らは決して神そのものなどではなく、僕たちと同じ人間なのだ。
負ける理由がいくらでもあることは分かっているが、それでも勝てない理由はどこにもない。
だからこそ、僕たちが証明しなければならない。最底辺たる僕らが、最高峰たる彼らを討つ
という、誰にも予想できない結末を僕ら自身の手で作り上げて、初めてFクラスは認められる。
勉学だけが全てではない。優秀な頭脳を持つだけで、
無茶とも無謀とも言われ続けてきた僕らの抵抗は、とうとうここに至るまでとなった。
2ランクも上のDクラスを初陣で軽く蹴散らし、神の1つ下にいるBクラスとの死闘を乗り越えて、
圧倒的弱者であるはずの僕らはついに、神への挑戦権を得ることが出来たというわけだ。
当初は夢だ妄想だと鼻で笑っていた上位クラスの生徒はもちろん、同じFクラスの仲間たちでさえ
実現不可能な空想だと決めつけていたというのに、今では歴戦を生き抜いた修羅の顔をしている。
最弱として、苦渋と辛酸を舐め続けてきた僕らが最強を打ち砕き頂点に座する夢を果たすのだ。
決意と戦意に満ち満ちた面構えの猛者たちを教室に残し、我らが大将は目的地へ歩を進める。
そして僕ら数名が教室を出てから数分後、ようやくAクラスの教室の前にたどり着いた。
「……………行くぞ」
総大将の雄二が緊張した面持ちで、後ろにいる僕ら全員に聞こえるほどの声で低く呟く。
誰からも声が発せられることはなかったが、その沈黙を受けて雄二は眼前の扉を開いた。
「失礼する! 俺たちはFクラスだ! ここに、Aクラスとへの宣戦布告を告げる‼」
「一騎打ちだって?」
「ああ、そうだ。俺たちは試召戦争として、Aクラスに一騎打ちを申し込む」
雄二の堂々たる入室からしばらくして、Aクラス内に入った僕らは戦争について話し合った。
今回は代表である雄二を筆頭に、僕、姫路さん、秀吉、そしてムッツリーニの五名で来た。
え? なんで島田さんがいないかだって? だってあの人まだ日本語にあまり慣れてないし、
そのくせやたらと一本筋が通ってる性格だから、こういった交渉事には向かないんだよね。
「…………それで、何が狙いなのかしら?」
「聞かせてはもらえないかな。と言っても、素直に答えてはくれないか」
対してAクラス側からは、我がクラスの清涼剤こと秀吉のお姉さんの木下 優子さんと、
頭脳明晰にして紳士的な振る舞いと端正な顔立ちが人気の久保 利光君が交渉の席に着く。
それにしても、流石はAクラスと言うべきか。交渉以前にもう腹の探り合いを始めている。
いくら最強とはいっても破竹の勢いで勝ち上がった僕らを警戒するのは、当然だけどね
そう思っていると、入室してからやけに態度が固くなっている雄二が厳かに語った。
「無論、俺たちFクラスの勝利が狙いだ。それ以外に何がある」
「ま、妥当な回答よね。実力差がハッキリしてるから、戦争をしてもすぐに決着する。
だとしてもわざわざこっちから無理にリスクを冒す必要性も感じないかなー」
「まぁ、賢明な判断だな」
とても最底辺の代表が取るとは思えないほどふてぶてしい態度で雄二が息を漏らす。
何やら提案を呑んでもらえなさそうな雰囲気になってきたけど、あの男ならば問題はない。
こういった他人との駆け引きに関しては随一の才能を持つ男だ。きっと想定済みだろう。
同じ交渉の席に着きながら少々無責任過ぎるかな、と考えた直後に雄二が再び口を開いた。
「ところで話は変わるが、Cクラスとの試召戦争の方はどうだった?」
彼の言葉に、僕は耳を疑った。
「どういう事だよ雄二‼ Cクラスとの試召戦争って何の話⁉」
もはや条件反射に等しい速度で雄二へと聞き返すが、当人は不満げな顔で返してきた。
「今はAクラスとの交渉の席だ。私的は発言は控えろ、明久」
「だ、だって!」
「秀吉」
「うむ」
食い下がろうとする僕から目を逸らし、雄二は秀吉へ言外に僕への対処を任せた。
この対応に余計沸点を刺激された僕は怒鳴ろうとするが、横にいる秀吉に止められ、
仕方なくこの場は引き下がることにした。すると、秀吉が小声で話しかけてきた。
「その事に関しては、ワシが説明しよう」
「え? 秀吉が?」
「うむ。こうなるだろうと予測しておったんじゃろう、雄二に頼まれての」
「止めるようにって?」
「説明と説得をするようにじゃ」
そう言った秀吉は、何故か着ている男子制服のズボンのポケットから一枚のメモを
取り出して、Aクラス側からは見えないようにしながら僕に見せてくれた。
そこに書かれていた文字は、またしても僕を驚愕させることとなった。
『一昨日の月曜日、CクラスがAクラスに宣戦布告して開戦。
Cクラス代表の小山の提案により、Aクラス教室内という限られたフィールドで
戦争が行われ、約一時間四十分ほど経過した後、Aクラスの勝利で終結した』
「な、何だよコレ」
「結果じゃ。雄二の言っておった、CクラスとAクラスの戦争のな」
「そんな! なんで、なんで友香さんがこんなことを…………」
そう、僕が疑問に思ったところはそこなのだ。なんで彼女がこんなことをしたのか。
僕なんかとは違って頭のいい彼女が何を考えたのか、まさかAクラスと戦うだなんて。
どう考えても得策どころか失策、戦犯として責められることは確定だというのに何故?
そんな風に考えあぐねているうちにも、向こうでは話し合いが進められていた。
「なるほどな。んで、あんたらはBクラスとやりあう気はあるのか?」
「Bクラス? あ、あぁ…………先週の木曜日辺りに来た、"アレ"のこと?」
「ああ、"アレ"が代表をやってたクラスだ。今は、その、入院中らしいが。
それでどうなんだ? 幸い宣戦布告まではされてないらしいが、どうなるだろうな?」
「だけど坂本君、Bクラスは君たちと戦争して負けてしまったじゃあないか。
驚きの結果ではあるけど、三か月の準備期間を空けない限り戦争は行えないはずだ」
久保君がそう言い、木下さんも同意したその言葉、『三か月の準備期間』。
文月学園の戦争にはいくつもの細やかなルールが定められていて、先程二人が主張した
その言葉も定められたルールのうちの一つである。ここで簡単に説明しておこう。
戦争に敗北したクラスは三か月の準備期間を経ない限り、自ら戦争を申し込めない。
これは負けたクラスがすぐ再戦を申し込んで、戦争自体が泥沼化するのを避ける為だとか。
確かにその通りだ、と自ら認めた雄二は、その後すぐに否定の言葉を言い放つ。
「おやおや、知ってるだろ? 実情はどうあれ、あの戦争は対外的に『和平交渉』という形で
決着がついているんだぜ。その規約には何の問題も無い。それこそ、Dクラスも同じでな」
ダメ押しとばかりにDクラスの名前を出してきたことで、僕らにも彼の考えが読めた。
僕らFクラスは戦争に勝利した下位クラスの権限である、『クラス設備の交換』を行使せず、
そのままの状態であることを条件に様々な要求をしてきた。それはつまり、どちらのクラス
とも和平という形で収まっているということに他ならない。そして優位なのは、僕らだ。
僕らがそこまで理解するよりも早く考えを読んだのだろう。久保君が冷静に尋ねた。
「…………それは、脅迫なのかな?」
「人聞きが悪いな久保。これは、単なるお願いだよ」
悪びれもせずにそう言い放ち、邪な笑みを浮かべた雄二。ダメだ、悪役にしか見えない。
我らが大将の言葉にたじろぐ久保君をよそに、意外にも木下さんが答えを返してきた。
「うーん………分かった。何を企んでいるにしろ、代表が負けるはずがないものね」
「いいのかい? 木下さん」
「別に私はいいと思うけど、久保君はどう?」
「…………異論は無いよ。分かった、その提案、受けようじゃないか」
「本当ですか⁉」
Aクラスの二人が提案を受け入れたことを、雄二の隣にいる姫路さんが素直に喜ぶ。
そりゃそうだ、こっちの思惑通りに事が運んでるんだから喜ばない奴はいないだろう。
僕や秀吉、ムッツリーニも無言で喜び合っていると、木下さんが「ただし」と口を挟んだ。
「こちらからも提案。代表同士の一騎打ちではなく、三……いえ、五対五の組み合わせで
一騎打ちを五回行ったうえで三回勝った方が勝ち。これが呑めないなら交渉は決裂かな」
「…………なるほど、そうきたか」
雄二が木下さんからの提案を聞いて顔をわずかにしかめている。でも、気持ちは分かる。
こちらはまともに戦っても勝てる策が無いから、雄二自らの提案で一騎打ちをすることで
勝率を少しでも引き上げる作戦だったのに、それを五回に増やされるなんて厄介極まりない。
この状況をどうすればいいのかと不安になるが、それでも雄二は毅然としていた。
「なるほどな。代表同士と一騎打ちと言ったが、俺ではなく姫路が出てくることを警戒しての
発言か。仮にも学力最高峰のAクラスの人間が考えるとは思えんほどに万全な策だな」
「まぁね。もし姫路さんが来てたとしても代表なら負けないとは思うけど、それはそれで
あなたたちの作戦を分かってて止められなかったって勘違いされるのも嫌だなーって」
「言ってくれるなAクラスさんよ。だが安心しろ、一騎打ちは俺が応じる」
「安心も信用も出来ないわ。だってコレ、クラスの威信をかけた戦争だもの」
「威信を賭けているからこそ、だ。俺らは姑息な手段で勝っても、そこに誇りは無い」
「言ってることはかっこいいんだけどね。それで、どうするの?」
「…………分かった。仕方ねぇ、その条件を呑ませてもらう」
木下さんとの舌戦を繰り広げた雄二は、意外にも相手の提案を受け入れてしまった。
これには流石に彼以外のFクラスメンバー全員が驚く。ただでさえ勝ち目は薄いのに!
「だが、勝負する科目はこちらが決める。まさかダメだとは言わないよな、Aクラス様?」
「えっ、それは…………だって………」
ところが雄二の口から続いて飛び出した言葉を聞き、僕ら全員は納得する。
なるほど、確かに勝負する科目さえ決めておけばある程度の下準備と心構えが出来るし、
何より相手側からしたら何の科目かを予測でしか絞れない。プレッシャーには充分だ。
交渉の主導権を奪い返した雄二がニヤつく中、木下さんは頭を抱えている。
それもそうだ。彼女の判断一つで、もしかしたらということが起こりうるのだから。
ところが、そんな状態の彼女の背後に音もないままにある人物が近づいて代弁した。
「………受けてもいい」
「え?」
「………雄二の提案、受けてもいい」
驚きで肩を震わせる木下さんの背後に現れたのは、静かでいて凜とした声の持ち主。
いつの間にそこまで移動したのかという疑問は残るけど、その人物を僕らは知ってる。
というより、この学園内で、しかも同学年である僕らが知らないはずが無い。
艶やかな黒髪を腰のあたりまで伸ばした、麗純にして可憐な大和撫子、霧島さんだった。
このAクラスの代表を務める、2学年最高峰の頭脳の持ち主である彼女は冷静に、
そして淡々とした口調で雄二の口にした提案を受け入れると小さな声で宣言した。
ん? でも今彼女、雄二の事を名前で呼んでなかった?
「ケッ! 強者の余裕ってヤツか? 翔子」
すると名を呼ばれた雄二も霧島さんを名前で呼んで毒を吐くように皮肉を漏らす。
って、ちょっと待って。一体何がどうなってるんだ? なんでそんなに親しげなの?
訳が分からずに混乱する僕らにようやく気付いたのか、雄二が嫌そうに呟いた。
「あー、言い忘れてたが、コイツとは幼馴染でな」
「「「「「お、幼馴染⁉」」」」」
雄二の遅過ぎる衝撃告白にFクラスメンバー一同は驚愕のあまり叫んでしまう。
学年最底辺クラスの代表と最高峰の代表が幼馴染? 一体どこのライトノベルだよ!
「ホントなの? 代表?」
「…………コイツなんて呼ばないで」
「あ、あぁ。そりゃ悪かっ「………おまえって呼んで、あなた」…………たな」
僕らが混乱している間にも雄二と霧島さんとの不釣り合いな会話が続いている。
なんて羨ましい野郎なんだ。僕よりもこういった奴を処刑した方が世の為人の為だろう。
ムッツリーニがやたらとカメラを手入れし始めたけど、どこに使う場面があるのか。
「ま、まぁとにかくだ。本当にいいんだな、翔子?」
「………問題無い。雄二の提案、全てを受け入れる」
「後で吠え面かくなよ?」
「………大型犬用の首輪、用意して待ってる」
物静かではあっても決して弱くは無い断固とした意志を感じさせる声で応じた
霧島さんに、雄二が何やらおぞましいものを見るような視線を投げかけていた。
それにしても、何で今の会話の流れで大型犬用の首輪なんて言葉が出てきたんだろう。
やっぱり犬を飼ってるから? でもここでわざわざ口にする必要は無いし、あれ?
訳が分からなくなってる間に二人で話し合いが進められていたようで、戦争開始時刻は
本日の二限目から開始ということになった。
僕らの
「では、両名共に準備は良いですね?」
ここ数日の間で何度も引き起こされている戦争のせいで実に多忙極まっているであろう、
Aクラス担任かつ学年主任であらせられる高橋先生がこの戦争の立会人を務めている。
それでも疲れなどの私的な部分を一切見せない態度でかけられた先生の声に、
両サイドに分かれたクラスの代表五名が同時に頷く。
「では、一人目の方は前へ」
「アタシから行くわ!」
「ワシが行こう」
続く高橋先生からの言葉に、代表五名の中から初戦を戦う者のみが返事をして前に出た。
僕らFクラスからは完璧美少女の秀吉が、Aクラスからはその秀吉の姉である木下さんが
同時に歩み出る。どうやら期せずして
しかしコレといって弱点らしい弱点が見当たらない彼女を、秀吉はどう攻略するのだろうか。
きっと僕らは知らないような、それこそ姉弟だからこそ知っている秘孔を突き崩すのかも。
やってくれるかもしれないという期待を抱かせている秀吉は、そのまま姉と対面した。
「さてと。お相手いたすぞ、姉上!」
「どーでもいいからかかってきなさい。アタシはあんたなんかにかまってる時間も
惜しいんだから。早くこの戦争終わらせて、今日こそは………今日こそは!」
しかしこれから一騎打ちだという割には、やけに互いの雰囲気が噛み合ってないような。
秀吉はやる気を見せているのに対して、木下さんはこの勝負自体に興味が無いように見える。
これはクラスの威信を賭けているって自分で言っていたのに、どうしたことだろうか。
そう不思議に思っていると、目の前で対面している秀吉が辟易したようにうなだれて呟いた。
「なんじゃ、また姉上は噂の【赤い騎士】を探すつもりなのかの?」
え? 噂の赤い騎士って、それってもしかしなくても龍騎のこと、だよね?
それを木下さんが探している? どういう事なんだ? まるで意味が分からないよ⁉
「う、うるさいわね! アタシが別にどこで何しようがアタシの勝手でしょ⁉」
「それはそうじゃが、いくら何でも都市伝説を夜に探し回るなど…………」
「いーじゃない! 私は助けてもらったんだから! 赤い騎士様に‼」
「またその話かの………姉上は寝ぼけておったのじゃろう。流石に夢物語じゃて、
『夜道を歩いていたら怪物に襲われて、赤い騎士が助けてくれた』なんての」
えっと、つまり二人の話を総合してみると、こういうことになるのか。
木下さんは赤い騎士とやらに助けてもらって、夜に探しに出かけている。
ふんふん、なるほどなるほど。それは要するに僕を探してるってことじゃない⁉
あ、そう言えば進級試験の三日前にミラーモンスターに襲われた人を助けた時、
同じくらいの身長の女の子を助けたようなそうでないような。記憶があいまいだ。
もしかしたらその時助けたのが木下さんだったのかもしれない。違うかもだけど。
龍騎になってからは契約したモンスターの空腹を満たすために結構モンスターを
狩ってきたし、その最中で襲われている人を何人も助けたからあまり覚えてない。
でも、もし彼女の言葉が本当なら、僕は知らないうちに秀吉のお姉さんを助けた事になる。
恩を売るつもりも無いし正体を明かすつもりも無いけれど、無事で何よりだと思う。
「まあまあ姉上、その夢物語はこの際おいておくとしてじゃ。今は戦争の時間。
どうでもいい与太話に花なぞ咲かせておる前に、互いのクラスの為に戦うのじゃ!」
「…………夢物語? どうでもいい与太話?」
誰かの命を救ったのだという実感から意識を再び二人の方へと戻すと、
何やら木下さんからただならぬ気配がじわじわとにじみ出てき始めた。何だろうか、アレ。
未知の気配に身構えていると、木下さんは笑顔で秀吉の肩を掴んで朗らかに言った。
「ねぇ秀吉? ちょっとお姉ちゃんとオハナシシヨウカ?」
「む? なんじゃ姉上、これから一騎打ちをするのではないのかの?」
「イイカラチョットコイ」
笑顔の後ろに何やら人の目には見えざるモノを隠しつつ、木下さんは秀吉を引きずって
教室の扉を勢いよく開けて廊下へと飛び出し、すぐさま開けた扉をまたすぐに閉めた。
何だろう、今の木下さんの邪魔をしていたら、例え味方であっても死んでたかもしれない。
そんな恐怖を抱かせる状態の姉が弟と共に廊下へ向かったが、若干その会話が漏れてきた。
『姉上、一体どうしたのじゃ___________む? 何故ワシの腕を掴むのじゃ?』
『アンタ、一か月くらい前のアタシの事、何も覚えてないのかしら?』
『一か月前? そう言えば、やたらと何かに怯えておったようじゃったが』
『それよ! アンタ気付いてたくせに何も言わなかったの⁉』
『どこで何をしようがアタシの勝手と申したのは姉上ではないか!』
『減らず口を叩くのはこの腕かしらぁ?』
『あ、姉上ちがっ! その場合は口であって腕では! 腕ではないのじゃ!』
『無駄な抵抗は止めて大人しく両腕をよこしなさい』
『それも違うのじゃ! 正しくは両腕を上げるのであって!』
『ふんっ‼』
『う、腕の関節はそんな方向には曲がらぬように出来ておるのじ_________ゃ』
両クラスの生徒と立会人の高橋先生が見守る中で、ゴキリという不可解な音が聞こえた
数秒後に扉がゆっくりと開かれ、その奥からはすっきりした表情の木下さん一人しか
やってこなかった。一体秀吉の身に何が起こったのだろうか、想像出来るがしたくない。
やたらと軽い足取りでの入室を無言で見つめる皆に、木下さんはさらっと告げた。
「なんか秀吉の奴、お腹が痛くなったから早退するらしいわ!」
恐らく痛くなったのは腹ではなかろう。
「代わりの人、どうぞ?」
「い、いや。こっちの不戦敗で構わん」
「そ。それは仕方ないわね」
不自然なほどの笑顔を振りまく彼女の言葉に、流石の雄二も何も言えなくなったらしい。
理不尽な結果に終わってしまったが、Aクラス先鋒戦の勝敗は、僕らの黒星となった。
生真面目な高橋先生がPCに勝敗の結果を打ち込み、それが巨大スクリーンに投影される。
『Aクラス 木下 優子___________生命活動 ALIVE』
VS
『Fクラス 木下 秀吉___________生命活動 DEAD』
死んではいないと言い切れないのが、無性に不安感を煽り立てる。
なんて震えてる場合じゃない。雄二の作戦では、次の次鋒戦には僕が出るのだから。
ただ怖いのが相手が誰で来るのかが分からないこと。ま、誰が来ても結果は同じさ。
Aクラスの生徒は誰もが勉学の化け物ぞろいだ、正攻法で行けば勝ち目は無い。
だからこそ今回のテストでは僕は秘策を講じさせてもらった。誰しもが驚く策をね。
そうしているうちに入力が終わった高橋先生から、次鋒の選出を求められた。
「頼んだぜ、明久」
「うん。任せてよ雄二」
「ああ、頼りにしてるからな!」
「おう!」
我らが総大将からの期待を一身に寄せられ、それに応えるように声を大にする。
その気迫に怖気づいたのか、僕に遅れて出てきた女子生徒が警戒心を強めた。
でも、今更警戒しても遅いんだよね。勝負はもう、とっくについてるんだからさ。
「仕方ない。さ、早く始めちゃおうよ。後がつかえてるんだ」
「な、何ですかあなたのその自信は…………一体、何がそんなに」
「不思議かい? Fクラスの僕がどうしてこんなにも自信満々か、分からない?」
「へっ、もったいぶるなよ明久」
「やれやれ、雄二もせっかちだね。いいよ、僕の本気を見せてあげよう」
時間をかけて相手を威圧している途中で、雄二から横槍を入れられてしまった。
まったく短気な男だなぁ、せっかくこの僕が必勝の策を披露しようっていうのに。
どうやら相手は完全に場の空気に飲まれているようで、僕を怯えた目で見つめている。
「ま、まさか吉井君。あなた本当は!」
「ふふ、ご名答、かな? 今までの僕は本当の僕じゃあなかったのさ」
「………うかつ、でしたかね。たかがFクラスかと思いきや」
「今更後悔しても遅いよ。さ、始めようよ。実力差の拮抗した戦いってヤツをさ!」
目を細めて悔しがる相手に、見せつけるように僕は大ぶりな仕草で言葉を語る。
もういい頃合いだろう。この会場の誰もがそろそろ僕の策に気付いた頃だろうし。
二人同時に決まり文句である「試験召喚」を唱え、互いの召喚獣がその姿を見せた。
「さて、答え合わせといこうか? 教えてあげよう、実はこの吉井 明久は!」
そして点数の表示が見える前に、僕はこの場にいる誰もに己の策を公言する。
「___________左利きなんだ」
『Aクラス 佐藤 美穂___________物理 398点』
VS
『Fクラス 吉井 明久___________物理 46点』
おかしい。本気を出したのに負けるなんて。
「吉井のバカ! テストに利き腕なんて関係ないでしょ‼」
「え? でも雄二が『利き腕なら普段の二割増しの点が取れんじゃね?』って!」
島田さんがもっともなことを言い始めたけど、それについてはこちらにも言い分がある。
その事を伝えてから僕の後ろで腕を組んでいたはずの男を見ると、即座に反論してきた。
「馬鹿かお前は。んなもんで点数が取れるわけないだろうが」
「何だと⁉ 貴様謀ったな雄二‼」
「…………テスト勉強の息抜きにと、冗談で言ったんだがな」
おのれ、なんて男だ! この僕を騙してこんな赤っ恥をかかせるなんて!
「頼りにしてるからって、あの言葉は何だったのさ!」
「たより? なんだそりゃ、手紙のことか?」
許すまじ、坂本 雄二。
「いくら何でもこんな大事な場面で___________ぐっ‼」
「ん? どーした明久」
僕を裏切った総大将の首をどう討ち取ろうかと考え始めた僕の鼓膜に、というより
脳内に直接響くようにして、もはやお馴染みとなってしまった嫌な耳鳴りが響く。
耳障りなこの音が聞こえてくる時は、自分の近く範囲内にモンスターが現れた時だ。
「う、ぎっ______________アッチか」
「は?」
呆気にとられるFクラスの皆をよそに、僕は音の発生源を正確に捉えて走り出す。
いきなり教室を出ていこうとする僕を皆が引き留めようとするけど、努めて無視する。
学園の新校舎の三階の隅で反応を感じ取れたってことは、ここからは遠くない。
つまり最悪の場合は校内に出現しているかもしれないと考えて、足に力を籠めて駆ける。
そしてしばらく発生源の方へと向かっていくと、下の階にいることが判明した。
(最悪だ!)
もしかしたら職員が、生徒が襲われるかもしれない。それだけは阻止しないと!
モンスターの気配を感じるのと同じ方法でライダーの存在も知覚できるんだけど、
今回はその反応は無かった。まぁこんな学園にライダーがいられても困るけどさ。
とにかく今は想定しうる最悪の回避に専念しよう。どうにかしなければ。
そして一階に辿り着き、反応がものすごく近くなっていることを確認した僕は、
手近にあった職員用トイレに入って、そこにある置き鏡にカードデッキをかざした。
「とにかく急がなきゃ! 変身ッ‼」
あの嫌な音と同じく手慣れた工程を経て、僕の全身が鏡世界の鎧に包まれる。
赤き龍と契約した仮面の戦士、龍騎となった僕は目前の鏡面に視線を向けて、
契約モンスターの頭部を模した篭手を装着した左手を仮面に寄せ、意気込む。
「っしゃあ‼」
またもいつもと同じセリフを吐いてから、僕は鏡の世界へ飛び込んだ。
いかがだったでしょうか?
優子ちゃん初期の頃ってなんかギャルっぽいとこあったのね。
原作読み返して驚いちゃいました。後半? ただのショタコンですわ。
ついに戦いの幕が上がったAクラスとの決戦。
果たして勝利を手にするのは明久たちか、それとも翔子たちか。
そして鏡の世界で暗躍するライダーたち。
龍騎と、明久の運命は!
戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに!
ご意見ご感想、並びに批評もバンバン受け付けております!
また質問などに関しても送っていただければお答えします!