どうも皆様、この期に及んでまだ作品を増やそうかなどと
馬鹿な事を考えている萃夢想天でございます。ホント自重すべきです。
自重と言えば、そろそろ冬も厳しくなるにつれて、お料理も温かくて美味しい
定番メニューが出始める頃ですよね。つまりそう、太りやすい季節です。
ただでさえ日頃運動不足なのに………頑張って動かなきゃ(使命感
さて、今回は龍騎とゾルダの共闘回となっております。
龍騎本編をご覧の方は、この組み合わせにピンとくるかと思いますが、
そうでない人であっても楽しめるような書き方を心がけますので、
どうかご安心ください。いつも通り明久がバカやるだけです。
それでは、どうぞ!
『クカカカッ‼』
『コカカカッ‼』
空中で前転や側転を織り交ぜながら、視線の遥か先を疾走している二体のミラーモンスター、
ギガゼールとメガゼールを追って、僕と北岡さんの変身するゾルダが住宅街を駆ける。
僕と友香さんが下校途中に出現したこの二体は、どうやら彼女を狙っているらしく、
先ほどから隙あらば現実の世界へ飛び出して行って彼女を襲おうとする動きを見せている。
でもそれを黙って見ているはずはなく、凄まじい速度を誇る二体の後を追いながらも、
何とかその姿だけは見失わないようにと必死に食らいついていった。
「ハァ……ハァ………は、速過ぎる」
「ったく……仕事終わりなのに、汗かかせてくれるなよ」
それでもモンスターの移動速度は素早く、追いつくどころか目で追うことすらも難しい
距離にまで逃げられてしまった。走ってジャンプして回って、なのにどうして僕らよりも
足が速いのか、見当もつかない。やはり人間とモンスターとの種族上の差というやつだろうか。
そんなことを考えていると、隣で同じように膝に手をやって息を整えていたゾルダが立ち上がる。
「ハァ、クソ。いつまでぼさっとしてんの、来るぞ」
「ふーっ………え、来るって、何がですか?」
「決まってんでしょうが。お客さんだよ」
未だ上がる息を煩わしく思いながら尋ねると、既にゾルダは腰のホルスターから銃を抜いていた。
彼が手にしている銃こそ、僕の左手にある篭手型召喚機【ドラグバイザー】と同じ性質のもの、
銃型召喚機【マグナバイザー】だ。武器と一体型であるあの召喚機は、正直かなり質が悪い。
普通の仮面ライダーは、丸腰の状態から鎧をまとう。戦闘方法はもちろん徒手空拳のみだが、
彼のようなタイプは、召喚機が武器として扱えるため、最初から戦う手段が一つ多いのだ。
こちらが近接格闘しか行えないのに対し、彼はその遠距離武器で一方的に相手を攻撃できるし、
仮に遠距離武器を召喚したとしても、その時点で使えるカード、つまり手札を一枚切らせることが
出来る。この時点でゾルダのようなタイプが如何に有利かが分かるだろう。
そんな銃を右手に構えた彼の視線は、二体が逃げた方向_________ではなく左に向いていた。
「そこかッ!」
『コカカッ‼』
すると今度は視線を向けている方へと体を向け、即座に右手人差し指が銃のトリガーを引き絞る。
マグナバイザーの銃口が火を噴いた直後、硬いものを擦り合わせるような鳴き声が微かに響き、
僕ら二人の目の前に降り立って反転した世界にその影を落とした。
「動きだけは速いんだよな~、コイツらは」
「き、北お………ゾルダ、コイツら知ってるんですか?」
「ん? あー、おたくはまだ遭ってないんだ。こーゆータイプのヤツらに」
「ハイ、見たことないです」
龍騎とゾルダの仮面越しの視線が見つめるのは、なんとも細マッチョな体系をしたモンスター。
全体的に紫がかった体色に、四肢や胴部に黒色の外皮らしき装甲をまとっているその怪物は、
両手両脚を大きく広げて威嚇するようなポーズをとったまま、ジリジリと詰め寄ってきている。
見たところ、両腕の半ばから生えている曲刀型のカッターが主だった武器みたいだけど、
今回は僕も流石に油断しない。午前中にあんな大敗を喫したばかりだ、警戒と注意は怠らない。
目の前の怪物の胴体は、首から肩にかけての金色の装甲のせいで、巨大な顔がそこにあるように
見えてしまうけれど、本物の顔はちゃんと首の上に乗っかっている。ただしこちらも癖があって、
ドリル状になった二本の角が真っ直ぐ上に向かって伸びていて、あたかもガゼルを連想させる。
異常な脚力と俊敏性を誇るモンスター、【ギガゼール】はただこちらを睨みつけるのみ。
『…………』
それに対して僕はひとまず剣を持っておこうかと、バックルへと手を伸ばした瞬間だった。
『カコココッ‼』
「え________うわっ⁉」
突如上から嘶きのような声とともに、先程いなくなったモンスターの片方が降ってきて、
背後を取られて瞬く間に三発ほど蹴りを入れられてしまった。クソ、背中がすごく痛い。
いきなりのことで動揺する僕に追撃を仕掛けようとするも、隣にいたゾルダからの牽制射撃が
路上にばらまかれ、奇襲をかけてきたもう一体の方はバック転をしつつ後退していった。
背中をさすりながら立ち上がり、狭い路上で退路を断つように挟撃してきた二体を見やる。
「おーおー、コイツら随分と頭がキレるじゃない。お前より成績いいかもよ?」
「何ふざけてるんですか! モンスターがテスト受けれるわけないでしょ!」
「………そーゆー意味じゃない、って言ってやるのも可哀想に思えてきたよ、おたく」
「え?」
「何でもない。さて、ギガゼールとメガゼールの挟み撃ちか。困ったもんだ」
そう言いながら道の両端を押さえた二体のモンスターのもう片方を二人で見据えた。
東側を塞き止めるギガゼールと、全体的な印象が似ている奇襲を仕掛けたモンスターは、
全体的に金色に近い体色で、四肢や胴部に蒼色の外皮らしき装甲を身にまとっている。
こちらの両腕にもカッターのような刃物が備わっていて、鈍いきらめきを放ちながら、
反対側にいるギガゼールと同じようなポーズをとりつつ、徐々ににじり寄ってきている。
異常な脚力と俊敏性を誇るモンスター、【メガゼール】はただこちらを睨みつけるのみ。
完全に挟まれた僕らは、少しずつ近寄ってくる二体に迂闊に攻め入ることができない。
ヤツらの恐ろしさはその速さにある。もしも安易に動いてどちらかを攻撃しようとすれば、
間違いなくもう片方が隙だらけの背中に蹴りを入れてくるに違いない。
攻めることに躊躇していると、なんと向こうの方からこちらに攻めかかってきた。
『クコココッ‼』
『カコココッ‼』
「うぐっ!」
「うおっ!」
ノーモーションでの跳躍に驚き、さらにそこから体をひねって放たれた蹴りが鎧にかすって
決して少なくはないダメージを受ける。早くも肩部の装甲にひび割れが生じ始めているし、
このモンスターたちも弱い部類ではないのだろう。なるべく攻撃を受けずに戦う方法を
考えなければならない。しかし、今の
【SWORD VENT】
「よし!」
「まー、普通そう考えるよな」
そこで僕は、奇襲を受けて断念していた行動を再開し、バックルからカードを抜き取って
左手のドラグバイザーへと装填。機構を動かしてカードの情報を読み込ませて召喚する。
電子音声が一本道の通路にこだました直後、薄暗い空の彼方からドラグセイバーが舞い降りた。
コレがあれば少なくとも、今みたいに何の抵抗もできないままに攻撃を喰らい続けることは
なくなるだろうと考えたからの行動だったが、次の瞬間、それが悪手だと悟らされた。
『クココッ‼』
『カココッ‼』
「えっ⁉」
「まさか向こうも武器を出してくるなんて、思ってなかったか?」
「そんな……」
ドラグセイバーの切っ先を向けようと目線を上にした直後、目の前にいるメガゼールが
いきなり体をブルブルと震わせたかと思うと、右手を天高く掲げて剣を召喚してみせた。
しかも、どうやら普通の直剣でも曲刀でもない、ハサミに柄をくっつけたような形状の
巨大な剣だった。どうやって使うのかまるで想像できないけど、手に獲物を持つ以上は、
両者のアドバンテージが等しくなったと思っていいだろう。クソ、また僕は油断を!
「来るぞ!」
「ッ! うおおりゃああぁぁッ‼」
『クカカカッ‼』
『コカカカッ‼』
ゾルダの緊迫した声に反射的に顔を上げた僕は、目の前まで迫った鋭い剣先を見つめて
数瞬身体が硬直し、ソレが避けなければならない攻撃であると理解した頃にはもう何度も
斬撃を浴びてしまっていた。あんな見た目なのに、剣としての切れ味はそこそこあるな。
そんなことを思いながら慌てて体勢を立て直すと、後ろではいつの間にか、自身の頭部から
生える角と同じ形状のドリルが先端にある槍を手にしたギガゼールが、距離を開けようとする
ゾルダと一進一退の攻防を繰り広げていた。流石はゾルダ、体裁きが尋常じゃない。
幾度も死線を越えてきただろうことを軽く匂わせた戦い方で、突き込まれる槍の先端部分を
危なげもなく余裕をもって回避してる。ダメだ、僕もアレくらいできるようにならなきゃ!
「よし、来い!」
『カココッ‼』
再度気合を入れなおし、雄叫びを上げて剣を振りかざす僕は、眼前のメガゼールへ切り込む。
対するメガゼールも同じように嘶き、右手に持ったハサミ状の剣を軽々と振るって駆けだす。
互いに距離を詰めて間合いに入ったと同時に一閃、ややリーチの長い相手の剣先がこちらに
向かってくるが、それを右手に持ったドラグセイバーの腹で受け止め、無理やり押し返した。
たたらを踏んだメガゼールは一瞬よろけ、その隙を見逃さなかった僕は、下段に構えた剣を
力任せに自身の左肩口へと振るい、続けざまに左脚を踏み込んでから横薙ぎの斬撃を放つ。
ライダーである僕の方が装備面では優秀らしく、メガゼールの外皮のような装甲の一部は
剣の軌跡どおりに傷痕となり、そこからはいやに粘ついた朱色の血液が噴きこぼれている。
受けた傷に手をやってふらついている敵を目にして、ここは好機だと踏んでたたみかけた。
「ぜぇぇりゃああぁぁああ‼」
右上段から左下段へ大振りの袈裟斬りを喰らわせ、怯んだところへ踏み込んで振り上げる。
まんまと敵の懐へ潜り込み、そこからは空いた左手を拳に変えて二回連続で殴打を加えて、
体勢を整えようと後方へと下がろうとするメガゼールに、ドラグセイバーを投げつけた。
『コカッ、コカカカッ‼』
風切り音を上げて回転しつつ前進するドラグセイバーを、その右手にあるハサミ状の剣を
振り上げることでどうにか弾き飛ばして、メガゼールはダメージを回避した。
当然僕は手持ちの武器を投げ飛ばしたから、今は素手だ。何も持っていない。
でも、だからこそ、それでいい。
「たあッ!」
『カコッ⁉』
手の空いている僕は近くの民家の塀によじ登り、そこから弾き飛ばされた剣の落ちていく
場所を目算して目星を付け、空中でそれをキャッチできるタイミングを見計らって跳ぶ。
クルクルと回転するドラグセイバーの柄を見事に掴んだ僕は、そのまま落下していく力を
右手に持った剣に乗せて、着地する寸前に伸ばしていた右手を素早く前方へ振り下ろした。
「だりゃああぁぁああ‼」
『ゴガアアァァ‼』
「ぃよいしょおッ‼」
『ガゴッ⁉』
重力に引っ張られる力と腕を振るった速度を相乗させた一太刀は、メガゼールの蒼い外皮と
金色の肉体を容易く引き裂き、より粘度の増した朱色の体液を四方八方へぶちまけさせる。
ヨロヨロと身体を揺するヤツに向けて、着地してすぐに腰を落としたまま突き出した左脚の
蹴りをお見舞いしてやると、ロクにガードも回避もしようとせずに後方へと吹き飛んだ。
メガゼールの胴部もギガゼールと同じように、巨大な顔に見える構造になっていたのだが、
今では真っ直ぐ縦に引かれた生々しい線によって、作り物の仮面に見えなくもなかった。
溢れ出る体液を剣を持たない左手で押さえる敵へ、今度はこちらから距離を詰めていく。
ところが、弱っている敵に追撃を与えようとした瞬間、ドラグセイバーが砕け散った。
「しまった! 召喚時間が切れたのか!」
『ガ、ゴ………コカカカッ‼』
「がッ__________⁉」
右手にあった感触が消えていき、何もなくなったそこへ視線を向けたわずかな一瞬の間に、
再び攻める姿勢を取り戻したメガゼールが剣を突き出し、それが龍騎の胴部に直撃した。
途端に迸る激痛が、鎧に守られているはずの僕を襲う。
なんだ、何が起きた。まだ時間切れにもなってないし、ダメージもそれほどじゃない。
なのにどうしてこんなに激しい痛みを感じるんだ。ただの突きが、胸に当たっただけなのに。
そこでふと、今日の午前に起こった出来事を思い返した。
(そうか………あのデッドリマーとかいう奴の散弾銃で受けた傷か!)
午前中に現れたモンスターとの戦闘で大きなダメージを受けて、胸板辺りに酷い内出血を
起こしていたのを忘れていた僕は、そのことを思い出し、今なお続く激痛の正体を知った。
立て続けにモンスターが現れるのも無かったわけではないが、ここまで苦戦続きだったことは
記憶にない。単に僕がバカだからというわけじゃなく、大怪我を負わされるほどの強敵が
一日に二度も三度も現れることなんか、今まではなかった。そのせいで、油断していたんだ。
(クソ! クソ! クソクソクソッ‼)
ズキズキと痛覚が悲鳴を上げる中で、僕に起死回生の一撃を与えたメガゼールはと言うと、
受けた傷が想像以上に深いのか、おぼつかない足取りでヨタヨタとこちらに近付いてきた。
とどめを刺されるのかと一瞬警戒したけれど、メガゼールは僕を無視して歩き去っていく。
助かった、と内心で安堵したのも束の間、僕は自分の頭の悪さを心底憎く思うこととなる。
僕の後ろでまだ、あの人が戦ってたじゃないか。
『ゴガガッ‼』
「ぐあぁッ⁉」
『クカカッ‼』
「うっ、ガハッ! ぐおおぉぉッ‼」
「き……ぎだおが、ざん……!」
倒れ伏した今の僕からは見えないが、二体のモンスターの嘶くうなり声と金属の衝突音が
けたたましく鳴り響くのと同時に、聞き覚えのある男性の、聞いたことない絶叫が聞こえた。
痛む身体を無理やり動かして上体を起こし、両腕を踏ん張らせてどうにか身体の向きを変え、
メガゼールが向かった方へと向き直る。その先に見えた光景は、やはり想像した通りだった。
『ゴガガガッ‼』
「くぁ………ぐふっ」
『クカカカッ‼』
頑丈そうだった上半身の重装甲のあちこちにヒビが入り、既に何か所か破損も見受けられる。
その時点で彼の受けたダメージの深刻さがうかがえたが、さらにそこから視線をずらすと、
僕の考えがまだまだ甘かったのだということを、現実の非情さを再認識させられた。
彼の、銃を持っていた右腕が、ドリル状の槍とハサミ状の剣で挟撃を受けていたのだ。
緑色のパワードスーツがあるからこそまだあの程度で済んでいるが、もしもこれが単なる
一般人だったとすれば、きっと目も当てられない。穿ち、貫かれ、斬られ、裂かれていた。
文字通りの肉塊に成り果てたであろう結末を想像してしまうほど、今の彼が受けている攻撃の
壮絶さが遠目から見ている僕にも伝わってくる。しかも、まだ武器は下ろされていない。
あのままの状態が続いたら、そこでもし、鎧の制限時間を超過してしまったら。
「うあああぁぁああああッ‼」
最悪の未来が脳裏をよぎった瞬間、僕の身体は痛覚信号を無視して勝手に動き出していた。
何の武器も無い状態で攻め込んでも、あの俊敏性の前では何の意味もないことは百も承知。
だとしても僕は、それでも僕は、ゾルダのために全速力で駆けだしていた。
あれだけの大声で叫べば当然、背後からでも僕の気配を察知することが出来たようで、
反対側から僕を見ていたギガゼールも、メガゼールでさえも大きく跳躍してその場を離れる。
二体の武器によってぶら下げられていたゾルダの右手も当然、重力に従って落ちていく。
僕はそれを崩れ落ちる彼の身体ごと掬い上げて、これ以上の負担を掛けさせまいとする。
傷だらけの僕らは、仮面越しに二体のモンスターを、開戦前以上の眼力で睨みつけると、
それを察したのかそうでないかは定かではないけど、二体は同時に背中を見せて去った。
「北岡さん! 北岡さん! 聞こえますか、北岡さん⁉」
小さくなっていく背中を黙って睨みつけ、完全に消えたと確認してから彼の名を呼ぶ。
もしや意識が無いのではと思ったが故の行動だったけど、すぐにそれは中断させられた。
「あーもー、うるさいって! おたくさぁ、もう少し静かにできないの?」
「き、北岡さん! 良かった、無事だったんですね‼」
僕が声を掛けてから五秒も経たないうちに、声を掛けていた本人から止めるように言われ、
とりあえずの無事を確認できたために行為を中断する。それにしても、本当に良かった。
「無事でよかった、ね。あのさぁ、おたくそれ本気で言ってるわけ?」
「え?」
「………まぁいいけど。おたくがそーゆー奴だってのは、今更なわけだし」
「え? え?」
「もういいよ。さて、それじゃあ行きますか」
僕の言葉に妙な態度を見せる北岡さんを訝しんでいると、その当人が急に立ち上がって、
地面に落としたマグナバイザーを左手で掴んで腰にマウントし、快活に語った。
いきなり何を言い出すのかと気になった僕がそう尋ねると、彼は当然のように応える。
「何って、決まってんでしょ。アイツらと勝負つけに行くのよ」
「えっ⁉ だ、だって北岡さん、さっきアイツらにやられたばっかりじゃ」
「オイオイ冗談だろ? せっかくの契約モンスターのエサを、逃すわけにいかないでしょ」
「いくら契約モンスターのためって言ったって、わざわざあんなのを……」
彼の体を気遣って止めるようなニュアンスを伝えるけど、彼は一向に聞く耳持たない。
それもそうだろう、相手はあの北岡秀一だ。自分大好き人間のこの人が言い出したら、
まずよほどのことがない限りは前言撤回しないと思う。違う意味で面倒な人だ。
彼の頑固さに辟易としていると、ヤツらが去った方を向いてポツリとゾルダが呟く。
「それにさ、俺って、嫌いなのよね」
「…………何がですか?」
「………………やられっぱなし、ってのは」
仮面の奥底に秘めた感情を、珍しく表に出したような言葉に、僕は少し面食らう。
そうしている内に彼は右足を前に出し、そこからゆっくりと前に歩き出していく。
「ほら、何してんの。置いてくよ?」
「………あーもー! 分かりましたよ!」
「おたくのそういうクソ真面目なとこ、俺、割と好きよ?」
「全然嬉しくないですから!」
二人ともボロボロな状態のままで、傷だらけの身体を引きずって、歩みを進める。
目的地は、ヤツらの逃げていった方向にある、この街のショッピングモール。
目的は、ただ一つ。
「今度こそ、やってやる!」
「スーパー弁護士の利き腕………慰謝料はアイツらの命、ってところかな?」
男の意地と、やけくそだ。
その後、僕らは契約モンスターとの感覚共有による反響を頼りに、場所を絞り込んだ。
やはりと言うべきか、場所は最初に睨んでいた通りに、ショッピングモールの内部で、
近付いてもそこまで反響が大きくならないということから、ヤツらはきっと上の階へと
侵入していったのだろうとゾルダが教えてくれた。なんだかんだ、この人も頭いいんだな。
「なんか言った?」
「い、いえ」
「あっそ」
失礼な事を考えていたことがバレたかと一瞬焦ったものの、言及されずに幕は下ろされた。
って、いかんいかん。これは油断だ、こうした一瞬の隙が、致命的な被害を受ける要因に
なるんだって、さっきの戦闘で文字通り身体に刻み込まれたばかりじゃないか。
今一度集中することを自分に命じていると、上の階から微かに音が聞こえてきた。
いや、もしかしたら気のせいかもしれない。そう思ってしまうほどの音量だったけれど、
流石の僕もこれ以上油断はしない。どんな小さなことにも警戒は怠らないようにするんだ。
自分たちの周囲、特に頭上への警戒を強めていると、ふいに横合いから声を掛けられる。
「なぁ、おたくにコレやっとくよ」
「え、何ですか急に」
「いいから、ホレ」
「あ、ハイ_________ってコレ、ガードベントのカード!」
隣にいるゾルダからの言葉とともに渡されたのは、見覚えのある感じの一枚のカード。
そこにはなんと、彼の契約モンスターの身体の一部を盾として召喚するベントカード、
【ガードベント】の文字が書かれていた。つまりコレは、僕に盾をくれたのと同義だ。
何故こんな事をするのか聞こうとした瞬間、耳障りな反響が一気に膨れ上がった。
「来るぞ、使え!」
「え、でも、だってコレ」
「いいから早く!」
「は、ハイ!」
頭の中に響く音が敵の接近を伝えているのは理解しているため、迅速な対応をしなければ
ならないというのは僕にだって分かっているけど、それにしたって急すぎやしないか。
でも今は文句を言ってる場合じゃない。僕はこのガードベントのカードを、友香さんへの
お守り代わりとして渡しちゃってるから、防御するための盾を何一つ持っていない。
せっかくあの北岡さんがくれるって言うんだから、ここは甘んじて貸してもらおうかな。
左手のドラグバイザーに、いつもとは違う緑の意匠が入ったカードを装填する。
そしてすぐに機構を動かして、中に入れたソレの情報を読み取らせて召喚した。
【GUARD VENT】
「よし、来い!」
「………………」
違うカードは使えないんじゃないかと一瞬思ったけど、問題なく効果は発動している。
ショッピングモールの壁側にある窓を突き破って、装填したカードの絵柄とまるで同じ
外見をした巨大な盾が、一直線に僕の元へ来___________ずに素通りしていった。
「アレ?」
重厚そうな盾を受け止めるために両手を広げていた、僕の後ろで盾が使用者の手に収まる。
おかしいな。カードを使ったのは僕なのに、なんでゾルダの左手に盾が装着されてるの?
『クカカカッ‼』
「ぶわあぁぁああ‼」
『ガゴゴゴッ‼』
「ふんっ!」
片や盛大な衝突音を響かせ、片や激しい金属音を轟かせ、互いの行動の結果が現れる。
ギガゼールの槍によるすれ違いざまの一撃を、僕は背後から防御できずにぶちかまされ、
メガゼールの剣によるすれ違いざまの一撃は、ゾルダの強固な盾が使用者を守り抜いた。
おかしい。なにかがおかしい。
「な、なんで……」
「あったりまえだろうが」
幸い深刻な傷のある身体の前方部ではなく、後背部だったからまだ良かったものの、
これが正面からの堂々とした攻撃だったとしたら、龍騎の鎧はもう砕かれていただろう。
それにしても身体が痛む。前半分はもとからだけど、ここにきて背中側も痛んできた。
納得がいかない僕は、狭い通路で直立不動の姿勢のまま盾を構えるゾルダを問いただす。
「ちょっと、なんで今その盾、僕のとこに来なかったんですか⁉」
「だーかーら、なんで俺の盾がお前のとこに行かなきゃいけないわけよ」
「だ、だって、カード使ったの僕ですよ!」
「………分かった分かった、熱くなるなよ。じゃあ次、コレ使ってみな」
「こ、これは!」
痛む背中をさすりながらの言及には答えてもらえなかったけど、代わりにカードをもらった。
ここで【ストライクベント】だったら殴ってたかもしれない。でも、現実はそうではない。
彼が手渡してきたカードは、僕の持っていない【シュートベント】のカードだった。
このカードは、
今までゾルダとの数回に渡る戦闘で何度かその威力を見せつけられた。かなり強い。
しかも彼は、本来一種一枚しかないはずのこのシュートベントを、二枚も有している。
一枚ごとに武器が違うみたいだけど、今回のは両肩の上に巨大な砲塔を装着するタイプだ。
これなら僕でも使えるかも!
「よし、今度こそ!」
【SHOOT VENT】
「いよーし、来い!」
「……………………」
左手のドラグバイザーにカードを装填、機構を動かして情報を読み取り、効果を発動。
全てのプロセスが、問題なく作動していることを示す電子音声を聞き、裏切られたような
悲しさと怒りを感じていた僕も、少しだけテンションが上がってくる。
コレで僕も、念願の遠距離射撃が出来るようになるんだ!
ショッピングモールの壁側にある窓を突き破って、装填したカードの絵柄とまるで同じ
外見をした二門の巨大な砲塔が、一直線に僕の元へ来___________ずに素通りしていった。
「アレ?」
重たげな砲塔を受け止めるために両脚を踏ん張る、僕の後ろで砲塔が使用者の肩に装着される。
おかしいな。カードを使ったのは僕なのに、なんでゾルダの両肩に砲塔が装着されてるの?
『クカカカッ‼』
「あばああぁぁああッ‼」
「ふんッ‼」
『ゴガガァァァアアッ⁉』
片や盛大な衝突音を響かせ、片や激しい爆発音を轟かせ、互いの行動の結果が現れる。
っていうか、これってさっきとほとんど一緒じゃないか!
おかしい。コレは絶対におかしい。
「な、なんでそのキャノン砲が、僕のとこに来ないの………?」
「やっといてなんだけど、おたくが気の毒になってきたわ」
「北岡さん………それ使ったの、僕なのに」
「そもそもさ、その使ったカードの持ち主は誰よ」
「き、北岡さん?」
「それがもう答えだっての。なんで分からないかねぇ」
「だったらなんで教えてくれないんですか‼」
この文字通りの非常時にこの男、僕を利用して騙した挙句、オモチャにしたな⁉
いくら広く寛大な心を持つ僕であっても、ここまでされたら黙ってられない。
悪逆非道な策で僕を苦しめたゾルダに訳を尋ねてみるけど、案の定無言が返ってくる。
「_________あっ」
ただ、僕の仮面を通した狭い視界が、ソレを捉えた。
「………………」
彼の、ゾルダの右腕が、痛ましい傷痕を残しているのを。
(本当にこの人は………他人に弱みを見せない。強がり過ぎなんだよ)
おそらく僕の胸部の傷と同じように、悲鳴を上げてもおかしくないほどの激痛に
苛まれていることだろう。それでもゾルダは、決して戦うことから逃げ出さない。
今の彼は利き腕である右腕を封じられているのも同然、無論自分でカードを読み込んで
使うことすらままならない状態のはずだ。それでも彼は、戦うことを選んだ。
つまらないプライドにこだわって、その身を顧みることなく傷つけていく。
けど彼にとってそのつまらないプライドこそ、最も大切なものなんだと思う。
左手一本で見るからに重そうな盾を構えつつ、どこから来るかも予測できない二体の
強襲に警戒し続けているゾルダを見て、僕も覚悟を決めた。
「ったく、いちいちおたくもつっかかってくるねぇ。分かった分かった、次だ」
「………アドベント」
「んん? なんだ、今度はゴネないのか?」
「まぁね。僕は北岡さんと違って、大人だから」
「ハァ? 何寝ぼけたこと言ってんの、おたく頭ダイジョウブか?」
余計なお世話だ、と言ってやりたいのをぐっとこらえて、受け取ったカードを見る。
そこに描かれているのは、彼の契約モンスターである【マグナギガ】の雄姿。
契約のカードにして、モンスターの召喚を兼ねる【アドベント】のカードだ。
まず他人に渡すようなものじゃないってのに、不器用な人だね、ホント。
それまでに繰り返した行程をもう一度だけ反復し、同じように効果を発動させる。
【ADVENT】
「それじゃもう一枚」
「は?」
【STRIKE VENT】
ゾルダの契約モンスター召喚を終えた直後に、僕もバックルからカードを取り出して、
左手のドラグバイザーへ装填。同じ行程によってその効果を同時に発動させた。
僕らの目の前の床が突如、石を投じられた水面のような波紋の広がりを見せて、
その下からさながら眠りについていた脅威が呼び覚まされたように、何かが浮き出てくる。
音もなく足元から眼前にそびえたったのは、つい先ほど僕が呼び出したモンスターだった。
全体的なグリーンの体色のほかに、関節部や胸部などに強靭な筋を思わせる鋼色が顔をのぞかせ、
さらに四肢の末端部や両側頭部から上に湾曲して伸びる、闘牛のような角は金色に輝いている。
僕のドラグレッダーやナイトのダークウィングとは、明らかに違う無機質にして無頼な出で立ち。
そして何より、無言で立ち尽くすその姿は、ただ黙々と命令を待つロボットのようでもあった。
これこそ、ゾルダの契約モンスターである【マグナギガ】の本体だ。
大の大人であるゾルダを完全に覆い隠すほどの巨体が、二体のモンスターの前に立ちはだかり、
吠えることも叫ぶことも、鳴くことも動くこともないその風貌から、無言の威圧を放っている。
そんなマグナギガの後ろに隠れた僕は、ついでに召喚した龍騎唯一の遠距離攻撃武器である
ドラグクローを右手に装着し、左手のドラグバイザーの鼻っ柱とぶつけて音を鳴らす。
「それじゃ北岡さん、コレ借りますね」
「ハァ? オイちょっと待て、それは俺のだろ!」
「北岡さんは盾があるからいいじゃないですか」
「お前だって持ってただろ、ガードベント!」
「諸事情により、現在電波の届かないところにいます」
「なんだそりゃ⁉ とにかくそこをどけ、俺が狙われるだろうが!」
「だから、それがいいんじゃないですか」
「なに………?」
鋼鉄の武人の雰囲気を醸し出すマグナギガに隠れ、あの二体からすれば僕は狙いづらいだろう。
となれば、必然的に攻撃目標となる相手は限られてくる。そう、このゾルダただ一人だ。
けど僕は何も、彼を見捨てるつもりでこんな事をしたんじゃない。むしろその逆と言える。
このまま状況を長引かせても、僕らの鎧に時間制限がある以上、結局は不利になるだけだ。
なら多少強引な手を使ってでも、限界時間ギリギリのここらで、勝負を決めなきゃならない。
そして今、僕らにはそれを成せるだけの、火力がある。
「なーるほど、そういう腹か」
「分かってくれました?」
「ああ、このスーパー弁護士の俺を、顎で使おうってんだろ?」
「なんでそう捻くれた捉え方しかできないんですか⁉」
「俺の勝手だろう………ほら、合わせろよ」
「まったく、しょうがないなぁ!」
互いに互いの仮面を見つめ、その奥にある素顔に浮かぶ笑みを確認し、再び前を見据える。
上の階で様子をうかがっている二体は、まだ近くにいると頭に奔る残響が教えてくれるし、
向こうからしてもここまでして成果無しで終わる気はないだろう。勝って僕らを食いたいはずだ。
静まり返るショッピングモールだったが、それはすぐに喧噪の渦に飲み込まれることとなった。
「右腕の礼だ__________ふんッ‼」
自分が囮になると了承したゾルダは、ここから見える上の階の全てに砲弾の雨を浴びせ始め、
射出された巨大な爆発物がモール内の何かに触れる度、赤と橙の破壊的な光が瞬きだす。
それを始めて数秒後、自分たちの隠れていた場所が爆破された二体のモンスターたちは、
噴き上がる爆炎を利用してさらなる跳躍で砲弾を回避し、そのままこちらへ落下してきた。
そして彼ら二体は、爆発を引き起こした張本人であるゾルダを狙い、武器を振り上げる。
けどそれは、こちらの作戦どおりなわけで!
「はぁぁぁ…………今だぁぁぁああぁぁッ‼」
「せりゃぁ‼」
『ゴガッ、ガゴゴガアアアァァアアァァッ‼』
いくら異常な跳躍力があっても、いくら凄まじい俊敏性があっても、そこは空中。
飛び上がるために必要な足場も、自慢の俊足を生かせる足場も、何一つありはしない。
ならばそこへ誘い込み、逃げられない場所へ落ちたヤツらに、一撃を与えればいいだけだ。
ショッピングモール全体に響き渡るほどの轟音と、それを掻き消すほどの醜い断末魔が上がる。
直後に建物全体を揺さぶるほどの衝撃が大気に伝わり、建造物中の窓という窓が砕け散った。
あまりの震動に二人してよろけてしまったけど、何とか無事にヤツらを倒すことができたし、
特にライダーとしての活動に支障をきたすケガもない。北岡さんは少し不安だけど、彼なら
持ち前の財力とコネでいい医者にかかって何とかするだろう。流石にそこら辺は大人だし。
とにかく今は、早くこのミラーワールドから出ることが先決だ。もうさほど時間はない。
無言のまま同じ結論に至った僕らは、未だに爆炎を上げる場所を一瞥もくれず振り返り、
痛みしか感覚の残っていない身体を、まさしくひきずるようにして立ち去っていった。
だから、僕らは気付くことができなかった。
『………クカカ、クカカカカカッ‼』
あの時、間一髪爆撃を逃れたギガゼールが、息を潜めていたことに。
「…………チッ、まあいい。残りモンだが我慢するか」
【CLEAR VENT】
そして、かつて聞いたことのある電子音声を響かせる、ライダーがいたことに。
いかがだったでしょうか?
今回は随分と長くなりましたねぇ………いやホント、マジで長く感じます。
なのに実際中身はそれほど進展してないのではないかと(絶句
今回は龍騎本編のとある回のオマージュ、もといリスペクト回でしたね。
私はこの回ともう一つ、龍騎・ナイト・ゾルダが共闘し始めた頃の回が
本当に大好きでして。書かずにはいられませんでした。
(特に、「小学生かお前は!」のあの流れが大好きです)
さて、長くなりましたが今回はここまで。
それでは、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに。
ご意見ご感想、並びに批評などもありがたく頂戴いたします!