僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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どうも皆様、仮面ライダーゴーストの最新映画を見てきた直後から
執筆を開始した萃夢想天です。今作は意外に話の筋が通っててビックリです。

さて、今回からは原作二巻の「清涼祭編」へと移行します!
ここまで書くのにリアル一年以上とかマジでワロエナイ…………(白目
いくら三作品平行書きしてるからと言っても、流石に亀ペースですね。
これからは更新で躓かないようにしたいなぁと切に思っています。

余談ですが、実は前回の終わりにちらっと登場したカメレオンさんは、
本当ならあのまま龍騎ゾルダ両名と戦わせる予定だったんです。
物語の進行が鈍足過ぎたがゆえにそれを急遽キャンセルしたわけですが、
早く彼らライダーとの因果関係や戦闘もスッキリさせたいですよね(他人事


前書きで長々と語ってしまい、すみませんでした。


それでは、どうぞ!





問26「僕とみんなと清涼祭」

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、とある男女の会話。

 

 

誰も知らない、二人だけのお話。

 

 

「………雄二」

 

「なんだ?」

 

「………『如月ハイランド』って、知ってる?」

 

「ん、ああ。建設中のテーマパークだったか? もうじきプレオープンって話だよな」

 

「………とても怖いお化け屋敷があるらしい」

 

「元々は廃病院だったってアレか。すげぇ曰くつきみたいだぜ?」

 

「………日本一大きな観覧車とか」

 

「らしいな。聞いてる話だけでも、並のビルより高いらしい」

 

「………世界で三番目くらいに速いジェットコースターとか」

 

「速さだけじゃなく、距離もあるし、走行中に色んな方向に座席が動くって噂がある。

どれほどのモンなのかは分からんが、実物を見なくてもワクワクしてきそうだ」

 

「………他にも面白いものがたくさんある」

 

「そりゃスゲェ。行ったら間違いなく楽しいだろうな(コイツ、まさか……)」

 

「………それで、今度そこがオープンしたら」

 

「いい、分かった、皆まで言うな。お前の気持ちはよーく分かってる」

 

「……………」

 

「そこまで言うんだったら____________今度友達(ダチ)とでも行ってこいよ」

 

「………私の指圧指数、知りたい?」

 

「ぐああぁぁぁああッ! アイアンクローはよせこのバカッ‼」

 

「………私と雄二で、一緒に行く」

 

「オープン直後は混んでるだろ? だから俺はイヤだ(ガシッ)あああぁぁあ‼」

 

「………だったら、プレオープンならいい?」

 

「プ、プレオープンだと? でも確かそれってチケットが必要だったろ?」

 

「………うん」

 

「相当入手困難だって話だが?」

 

「………もし手に入ったら、一緒に行ってくれる?」

 

「あ? ああ、そうだな。もし手に入ったらな」

 

「………約束。もしも破ったら、イイ?」

 

「ダイジョブだっての。翔子、お前俺が約束を破るような奴に見えるか?」

 

「………破ったら、この婚姻届けに判を押してもらう」

 

「命に代えても約束を守ると誓う」

 

 

背の高い男の子と、見目麗しい女の子の、小さな約束のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜の花が散り、道の端どころか視界のどこにも淡い花の色が見られなくなったこの季節。

四月の新学期シーズンは幕を下ろし、新たに活動的になる五月の幕が既に上がっている。

そして今日は、五月の中旬である16日。のどかな春うららを見られるのもあとわずかだ。

 

そんな僕らの通う文月学園では、毎年この季節に『清涼祭』という全校を挙げての行事が

執り行われる事になっている。分かりやすい例を挙げれば、学園祭や文化祭に近いのかな。

五月末に行われるこの新学期最初の一大行事に備えて、もう行内では準備が始まっている。

出し物をお化け屋敷に決定したクラスは教室を改造し始め、焼きそばなどの縁日系の食品を

調理するための器具を借り出すクラスは後を絶たない。他にも、この学校にしかない特別な

【試験召喚システム】についての専門的な展示を行うブースなどの設営も、手がかかっていた。

各々の出し物を準備するために割り当てられたLHRの時間は、どのクラスも活気付いていて、

言うなればそれは、人間のやる気を引き出させる魔法という名の、雰囲気に満ち満ちていた。

 

そして周囲がごたごたとしている中で、我らがFクラスはと言うと。

 

 

「こい、吉井!」

 

「勝負といこうか、須川君!」

 

「場外ホームランを予告してやるぜ!」

 

「言ったな⁉ 外角ストレートでケリをつけてやる!」

 

 

他クラスが準備にいそしむ中、グランドで野球をして遊んでいた。

現在僕らが守備側で、須川君たちが攻撃側。点差は互いに一点も譲らぬ拮抗状態。

マウンドをシューズでならし、キャッチャーミットを構えている捕手の雄二の手を見る。

一応キャプテンである彼がサインなどの、チーム上での行動を一手に担っているのだから、

ピッチャーである僕への球種を選択するのも彼の役目だ。先程からソレを待っている。

 

『カーブ』

 

グローブでボールと口元を隠していると、雄二からの球種のサインが送られてきた。

下方向へのチョキ(ピースサイン)だから、球はカーブって事だな。よし分かった。

彼は先に球の種類を選び、次にコースをミットで促す。さてさて、内角かな、外角かな。

 

 

『バッターの頭に』

 

「それ反則だよ! むしろ危険球で退場だよ‼」

 

 

雄二のミットが待ち構えているのは、バッターの頭部の直線上。つまり、撃ち抜けと?

いやいや、流石にそれは無理だ。確かにそこに投げれば場外どころか打たれることは

絶対に無いだろうけど、それは何か違う気がする。すごく致命的なまでに、何かが違う。

未だにバッターの頭を狙えと伝えてくる雄二を無視して、得意のスライダーを選んだ僕は、

高校球児ばりの安定したフォームで重心を移動させ、右手を球ごと大きく振りかぶった。

 

 

「貴様ら! 学園祭の準備をサボって、何をしている‼」

 

「ヤバい、鉄人だ‼」

 

「逃げろ!」

 

「捕まったら殺される!」

 

 

途端に、校舎の方から怒髪天を突く勢いで、僕らの担任になっ(てしまっ)た鉄人こと

西村先生がグラウンドで野球をしている僕らめがけて、矢のように突っ走ってきた。

誰かが怯えながら殺されると言ったが、殺されるくらいならまだマシに思えてくるような

地獄の補習を受けさせられること間違いない。なにせ、Dクラスの壁をぶっ壊した代償として

一週間にわたって続けられた、補習フルコースを味わったこの僕が言うんだからね。

 

ってかヤバい! 鉄人の目標(ターゲット)が僕になってる! 逃げなきゃ!

 

 

「雄二です! Fクラス代表坂本 雄二が野球やろうぜって言い出しました!」

 

何故か脇目も振らずにこちらへ猛進してくる修羅に向けて、自分よりも先に断罪すべき者が

この場に居る事を必死に伝える。そうさ、準備が面倒くさいから野球でもやろうぜって、

そう言ったのは紛れもなくあの男だ。ここはクラス代表の名の通り、僕たち男子生徒39名の

代わりに罰を受け入れてくれることだろう。脚を動かしながら、僕は彼の方へ視線を向けた。

 

 

『フォークボール』

 

「フォーク?」

 

『鉄人の』

 

「鉄人の?」

 

『________股間に』

 

「違う! 球種やコースを求めてるんじゃない!」

 

『内角 低め 鉄人のバットに』

 

「言い方の問題でもないよ‼ しかもそれ、やったら怒られるの僕じゃないか‼」

 

 

すると野郎、事もあろうに僕へ鉄人に危険球を投げてこいと命令してきた。なんて奴だ。

よくもまぁ走りながらミットと指で的確にサインを送れるもんだ、余裕かましやがって!

というかそもそも、この場面でストレートじゃなく、変化球を用いる必要性があるのかな。

 

 

「全員大人しく教室に戻れ! 出し物の内容が決まってないのは、このクラスだけだぞ‼」

 

 

魂をも震え上がらせそうな恫喝(どうかつ)を背に浴びて、僕らは小汚い教室へ逃げ帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて諸君、そろそろ『清涼祭』の出し物を決めなくちゃならん訳なんだが、

とりあえず議事進行並びに実行委員を、誰かに任ずる。後はソイツに全権を委ねるから、

テキトーにやっといてくれ。クラス代表としての俺の活動は終わった、以上」

 

心の底からどうでもよさげな態度の雄二の言葉を、床に茣蓙(ござ)を敷いて座っている僕らも

同様の表情で受け取っていた。要するに僕らは、この学園祭行事に対してやる気が無いのだ。

四月に行った試験召喚戦争で、あと一歩のところまでAクラスを追い詰めていたというのに、

システムデスクと個人用冷暖房といった夢のような環境には届かず、羽ばたいた分だけ落下した。

かつては畳と卓袱台だったこのクラスも、今では床に茣蓙が敷かれ、机代わりにミカン箱がある。

まさかまさかのランクダウンに勢いを削がれた僕らには、何かを成すための気力は皆無だった。

 

 

「あの、吉井君。坂本君は、学園祭とかの催し物があまり好きじゃないんですか?」

 

 

気怠げなクラスの中で唯一と言っていい清涼剤の姫路さんが、ふいに小声で話しかけてきた。

揺れる桃色の髪が今日も綺麗だけど、こんなクラスの中だと宝の持ち腐れになりそうだなぁ。

なんて心配してるんじゃなくて、雄二が学園祭が好きかどうか、だったっけ?

 

 

「本人に聞いたわけじゃないからアレだけど、好きってことはないと思うよ。

興味があるんだったら、あの男はもっと率先して動いてるはずだからさ」

 

「そう、ですか………寂しいですね」

 

「え、なんで?」

 

 

あくまでも予想、ということを念頭に置いての推測を伝えると、姫路さんは顔を俯いて小さく

言葉を漏らした。寂しいって、どういうことなんだろうか。思わず聞き返してしまった僕の

声に反応して顔を上げた彼女は、慌てたように手を振りつつ、強引に話題を変えてきた。

 

 

「えと、それは……よ、吉井君はどうなんですか? 興味って、ありませんか?」

 

「ふぇ? 僕? う~ん、どうかな」

 

 

上目遣いで覗き込んでくる姫路さんから目を逸らしつつ、曖昧な答えを続ける。

 

 

「別にそこまで何かやりたいって気も無いしなぁ」

 

「わ、私は………吉井君と、一緒に思い出を作りたいです」

 

 

ポロリとこぼれだした意味深なセリフに、目を丸くして固まってしまう。

そうしてしばらくすると、姫路さんが急に口元に手を当てて咳をし始めた。

よく見てみると、顔もうっすらと赤みがさしているようだし、風邪かもしれない。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「は、はい。すみません……ここって少し、ホコリっぽくて」

 

「ああ、なるほど。ならしょうがないよ」

 

 

元の設備も酷かったけど、そこからさらにランクを落とされた今、この教室内にあるもので

清潔感を漂わせるものなど何もありはしない。勉強をするにしても、机と違って箱だから、

かなり姿勢も悪くなって疲れるだろうし、何より不衛生だ。少し走るだけでも息が上がるほど

身体の弱い彼女では、体調を崩してしまっても不思議はない。そうでなきゃおかしいくらいだ。

 

「早めになんとかしなきゃね」

 

 

せめて前ほどの、いや、それ以上に衛生的な環境と身体に負担をかけにくい設備が必要になる。

このまま彼女をここにいさせるのは、僕もやぶさかではない。友達だから一緒に居たいっていう、

ごく個人的な感情は無いわけじゃないけど、彼女の健康とどちらが大事かなんて目に見えてる。

 

 

「んじゃ島田、お前が学園祭実行委員でどうだ?」

 

「え、ウチが? そういうのは瑞希(みずき)が………あ、ゴメン坂本。ウチも瑞希も無理だった」

 

「あ? なんかあんのか?」

 

「うん。召喚大会にペアで参加するから」

 

「あー、なるほどな。そりゃ無理だ」

 

 

姫路さんの体の具合を気にしていると、学園祭についてを話し合っていた雄二たちの方で何か

動きがあったみたいだけど、姫路さんの名前も聞こえてきた。どういう事なんだろうか。

召喚大会、確か島田さ_________美波はそんな事を言っていたような気がするけど。

召喚大会というのは、世界的にも注目されている試験召喚システムを世間に公開する場として

清涼祭開催中に催されるメインイベントだ。僕自身が全く興味なかったから、忘れてたよ。

 

ちなみに、僕が島田さんのことを美波と呼ぶようになったのは、つい最近のことだ。

Aクラスに勝てなかった悔しさと、そもそも戦力として戦えなかった悔しさの発散という名目で

近くに新しくできたカフェに連れられて行き、そこで互いを名前で呼び合おうと命じられた。

"言われた"でも"頼まれた"でもなく、命じられたで正しい。うん、アレは完全に命令だった。

とにかくそういうわけで、僕は彼女のことをこれから美波と、下の名前で呼ぶのだけれど、

何故か彼女の方は僕の下の名前である「明久」ではなく、「アキ」と呼ぶようになったのだ。

 

その名前は海外へ行った姉さんとのトラウマを掘り起こされそうだから、止めてほしいが。

 

 

「島田に姫路、話を戻してもいいか?」

 

 

と、ここで雄二が発した声によって、僕も数週間前の出来事から帰ってくることができた。

記憶を遡っている間に、どうやら美波と姫路さんの二人の話がヒートアップしていたらしく、

しきりに「お父さんを見返す」だの「バカの集まり」だのって単語が、こちらに漏れてくる。

多分だけど、姫路さんのお父さん辺りから、このFクラスがド底辺集団であることを笑われて、

それに怒った彼女がFクラスで出来た友達の美波と、トーナメント制の召喚大会を勝ち残る事で

僕らへの悪口を止めさせようって魂胆なんだろう。いや、実際バカの集まりだから否定なんて

出来るはずがないんだけどさ。まあ、やる気のところに水を差す方がよっぽど酷いだろうし。

 

そうしていると、何やら話の雲行きが怪しくなってきた。

 

 

「つまり島田は、自分一人で実行委員をやるのが不満なわけだな?」

 

「なんかウチがワガママ言ってるみたいに聞こえるけど、大体合ってるわ」

 

「なら、副実行委員を選出しよう。二人一緒になら文句は無いだろ?」

 

「………そうね。その副実行委員次第では、やってあげてもいいかな」

 

 

上手い具合に話を持っていく雄二と、また上手い具合に話に乗せられていく美波。

しかもさっきから、雄二が僕の方をチラチラと見てくるんだけど。まさか人身御供にする気か!

でも、サポートが一人ついたくらいで、美波が引き受けてくれるとは僕には思えない。

それでもここで一言釘を刺しておいた方が良いと思って、口を開きかけた瞬間に声が上がった。

 

 

「ワシは、明久が適任じゃと思うがの」

 

「秀吉?」

 

 

なんと、僕に一票を投じたのは爺言葉を遣う美少女の秀吉だった。でもそれは御免被りたい。

 

 

「秀吉、僕もできればそういう面倒事は、パスしたいんだよね」

 

「それは誰も同じじゃろうて。ならば適任者を推して、導いてもらわねばなるまい」

 

「むぅ………」

 

 

何やら言いくるめられてる感がすごいけど、美少女の頼み(?)とあっては断れないね。

けど、大丈夫だろう。あくまでコレは副実行委員の候補の選出で、確定ってわけじゃないし、

ここからさらに候補者が選び出されたうえで、それを現実行委員の美波が決定するんだから。

そう考えると気が楽になった。こういう時は、どっしり構えて大人の風格を見せつけようか。

 

 

「………こんくらいでいいだろ。島田、今までの候補者の中から二人ほど絞れ」

 

「了解。そうねー、誰にしよっかなー」

 

 

しばらくして候補者の名が出尽くしたところで、お待ちかねの厳選タイムが開始される。

ここまででクラスの半分近い男子の名前が挙げられてるし、よほどのことが無い限りは僕が

選出されるような事故は起こるまい。安心した面持ちで、ボロボロの黒板に書かれた名を見る。

 

 

『候補1________吉井』

 

 

げ、初っ端から僕の名前が出ちゃった。

 

 

『候補2________明久』

 

 

あ、二つ目のとこにも僕の名前が出た。

 

 

「さて、この二人のどちらがいいか選んでくれ」

 

「ねえ雄二、なんかおかしくない?」

 

『どうする? どっちがいいと思うよ?』

 

『どっちもバカみてぇな名前だけど』

 

『そうだなぁ………共通点は人間のクズ、ってところだけか』

 

 

真面目に悩んでるフリしてとんでもない連中だ。

 

 

「ほらほらアキってば。もう決まったんだから悪あがきしないの」

 

「この選出方法に甚だ遺憾を申し示したい………」

 

「おし、決まりだな。後は任せたぞ………ふあぁ~あ」

 

 

美波になだめられつつ、うなだれて壇上へと上がる僕。

そんな僕と入れ替わりに席に戻っていく雄二。あの野郎、いつか痛い目見せてやるからな。

 

でも確かに、決まっちゃったものは仕方ない。いくら民主制の暴力に物を言わせた方法でも。

 

進行役を美波、板書役を僕という風に役目を割り振って、話し合いを開始する。

短くなったチョークをボロボロの黒板に奔らせるのにも一苦労だよ、まったく酷い設備だ。

最初に出し物を何にするかという議題が挙げられた直後、音も無く一人が挙手をした。

アレは……友人の一人であるムッツリーニこと、土屋康太だ。さて、君の案を聞かせてくれ。

 

 

「……………写真館」

 

「……なんか土屋の言う写真館って、ヤバそうな感じがするのよね」

 

「………(フルフル)」

 

 

美波が思いっきり嫌そうな顔になりながら、一応案として出されたために仮認定する。

確かに女子である美波からすれば、普段の彼の行動から鑑みても忌避したくなるだろう。

けど、男子である我々からすると宝の山と成りうる。いや、覗き部屋とでも言おうか。

 

進行役が難色を示しても一応案なので、ムッツリーニの提案を板書する。ええと、こうか。

 

 

【候補1________写真館『秘密の覗き部屋』】

 

 

うん、我ながら読みやすく書けたぞ。こんな劣悪な備品でここまでやれれば勲章物だ。

 

 

「次は……ハイ、横溝」

 

「メイド喫茶________と言いたいが、流石にこの案は使い古されていると思うから、

ここは奇をてらった発想で、斬新にウエディング喫茶を提案します!」

 

「ウエディング喫茶? それってどんなの?」

 

「中身は普通の喫茶店だが、ウェイトレスの服をウエディング仕様にするんだ」

 

 

性欲の化身の次に案を提示したのは、横溝君。どうやら奇抜な案で出るようだけど。

彼が言いたいのは要するに、喫茶店をウエディング的なものにしてみようってことかな。

店の雰囲気が他のとはだいぶ変わってくるだろうから、結構面白いかもしれない。

 

 

『確かに斬新だ』

 

『憧れのドレス目当てに女子が来そうだな!』

 

『でも、それはそれでやりづらくないか?』

 

『調達も難しいと思う。普通の服とは違うだろ?』

 

『それに、男は寄らなそうだぜ。「結婚は人生の墓場」って言うくらいだし』

 

 

横溝君の一風変わったアイデアに、やる気のなかったクラスが真っ二つに割れる。

肯定派と否定派が徐々に討論に花を咲かせ始めたけど、このままだと暴力沙汰になるかも。

 

「はいはい! とりあえず案として出しておくから、賛否は後で決めて!」

 

「じゃあ、書いとくね」

 

段々と膨れ上がった険悪な雰囲気を感じ取ったのか、誰よりも早く美波がそれを諫めて、

僕に候補として仮認定させろと目で訴えかけてきた。流石美波、やっぱり行動力が違う。

 

あっと、そうだった。横溝君の案は、大体こんな感じか。

 

 

【候補2_________ウエディング喫茶『人生の墓場』】

 

 

今度は字が崩れちゃった。書きにくいなぁ、このチョーク。コレ位は充実させておいてよ。

 

「他にはなんかある? ハイ、須川」

 

「俺は中華喫茶を所望する」

 

 

斬新な横溝君の次に挙手したのは、意外にも須川君だった。

彼は普段とはまるで別人のような真面目くさった顔で、中華喫茶という案を提示してきた。

でも、言い方がおかしくない? 提示する、じゃなくて、所望するって。

 

わずかな違いに気付いたものの、立ち上がった須川君の反応に驚いて、考えを中止する。

 

「俺が所望する中華喫茶は、本格的なウーロン茶と飲茶(ヤムチャ)を出す店だ。間違ってもチャイナドレスの

ようなイロモノ的な格好をさせて、お客を釣って稼ごうだなんて考えてない。微塵もだ。

そもそも、『食の起源は中国にあり』という言葉があることからも分かるように、こと

『食べる』という文化に対しては中華ほどに奥の深いジャンルは無いと、確信を持って言える。

近年では、ヨーロピアン文化による中華料理の淘汰が見受けられるが、本来食とは________」

 

 

なんだ? よく分からないけど、目立たないはずの須川君が珍しく熱弁を振るっている。

何やら譲れないこだわりでもあるのか、すごい気迫を感じるけど、何を言ってるのか不明だ。

 

「じゃ、じゃあアキ、須川の意見もまとめて書いて」

「え、ああ、うん」

 

 

若干引いてるっぽい美波の言葉を受けて、いよいよ困惑しか浮かんでこない。

内容が全く頭に入ってこなかったから、正直何を書けばいいのか分からずにいる。

 

と、とりあえず、頭の中に残っている単語を組み合わせて、と。

 

 

【候補3________中華喫茶『ヨーロピアン』】

 

須川君の顔が「違う、そうじゃない」とでも言いたげに歪んだ、ような気がした。

 

「どうだお前ら、学園祭の出し物は決まったのか?」

「あ、鉄人」

 

「西村先生と呼べ」

 

ちょうど三つめの候補を書き終えたところで、建付けの悪い扉の向こう側から偉丈夫が、

もといスーツを着込んだ筋骨隆々の大男が姿を現す。さっき僕らを追い掛け回した先生だ。

 

「今のところは、黒板に書いてあるこの三つです」

 

「どれどれ?」

 

 

進行役の美波の言葉を聞いた鉄人が、黒板に目を向けて______そのまま硬直した。

 

 

「…………補習の時間を倍にした方がいいかもしれんな」

 

え? 何をどう見たらそうなるの? 完璧じゃないか、どこに問題があるんだ⁉

 

『先生、違うんです! それは吉井のバカが勝手に!』

 

『そ、そうッす! 俺らは普通に案を言い合ってただけなのに!』

 

『俺は………俺は、ただ中華の良さを語っただけなのに、なのに……』

 

『俺らがバカなんじゃありません! そこのバカが悪いんです!』

 

 

鉄人の呟きに衝撃を受けていると、急に男子生徒の面々がこぞって僕を祀り上げてきた。

なんだろう、聞いてる限りだと僕一人に責任を押し付けて、逃れようとしてるような。

 

 

「馬鹿者どもが、みっともない言い訳をするな‼」

 

 

騒ぎ立てる男子一同を、文字通り一言だけで黙らせる鉄人の一喝が教室にこだまする。

でも、流石は腐っても_______いや、腐ることがない鋼鉄製でも教師は教師。

クラスメイトを売ってその場逃れをしようとする魂胆を見破って、ソレを注意するなんて

意外だったな。普段は暴虐の限りを尽くす人だけど、ほんのちょっぴり見直したよ。

 

 

「俺はな、バカの吉井を選んだ事自体が、頭の悪い証拠だと言ってるんだ‼」

 

 

先生じゃなくて同級生だったらシバいてたぞ。

 

 

「まったく、お前達は………少しくらい真面目にやったらどうなんだ?

出し物の売り上げでクラスの設備をまともなものに変えようとか、そういう思考に

至らないほどに、お前たちはバカだったのか? どうなんだ、んん?」

 

 

溜息混じりで、そして煽るような鉄人の言葉で、クラスのみんなが輝きを取り戻した。

 

設備に不満を持つ者という意味では、このクラスは並外れた団結を結ぶことが出来る。

そりゃそうだろう。元々はこの劣悪な設備に我慢が出来なくて、僕らは戦争を始めたんだ。

前よりもさらに酷くなったこの状況を、甘んじて受け入れられるほど"できた"人間が、

こんなゴミ溜めにいるわけがない。あ、勿論女子の三名(秀吉込)を除いて、だけどね。

 

 

「み、皆さん! 一緒に頑張りましょう!」

 

 

膨れ上がっていく野郎どもの感情を代弁するかの如く、姫路さんが声をあげた。

しかし、どうしたんだろうか。設備に不満がある、とまではいかないだろうけど、

彼女がこんなにも率先して動くなんて、らしくない感じがする。何故だろうか。

姫路さんの鶴の一声によって目覚めたFクラス一同は、俄然張り切りを見せ始めたことで、

肝心の出し物決めも手早く済ませてしまい、結果的に僕らは中華喫茶に決定した。

 

「よし、ならここは発案者の俺が厨房担当を引き受ける!」

 

 

すると、それまで何がショックだったのか、ずっと呟きを漏らしていただけの須川君が

いきなり立ち上がって自身の役回りを公言する。何だろう、彼に一体何があったんだろうか。

 

「…………(スクッ)」

 

 

全員が須川君を見つめていると、意外にもムッツリーニがここで立ち上がった。

この場面で自己の存在をアピールするってことは、自分も調理担当になるって意思表明かな。

 

 

「ムッツリーニ、料理なんてできたっけ?」

 

「………紳士の嗜み」

 

 

無言で立った彼への確認を込めた質問に、果たして真偽が不明な解答を示される。

中華料理が紳士の嗜みだなんて聞いたことがない。いや、もしかしたらチャイナドレスが

見たいがために中華料理屋に通いだして、その恩恵というか、影響で身に付いたのかも。

まあムッツリーニは手先が器用だし、興味のあることへの知識欲は異常だから問題はない。

 

「一人ずつ聞くのは面倒だし、班になって分かれたほうが手っ取り早くて良さそうね。

厨房班は須川と土屋のところに、接客(ホール)班はアキのところに集まって!」

 

え、僕ホール決定なの? 厨房の方が良かったのに………ま、いっか。

 

 

「じゃあ私は、厨房班にいきますね」

 

 

みんなが美波の指示通りに動き始める中で、僕と近くにいた数人は爆弾発言を聞いてしまった。

 

姫路さんが厨房に立つ? それってかなりヤバいんじゃないの? いや、絶対にヤバい。

僕とムッツリーニ、秀吉、あとはここにいない雄二を合わせた四人は彼女の料理を知っている。

見た目はごく普通で、ともすれば並以上の出来栄えに見えるソレらの中身は、まるで別次元の

バイオ兵器であることを僕らだけが知っている。いや、大量殺戮兵器と言い換えてもいい。

なまじ見た目が普通な分、相手に警戒心を起こさせない。その時点でソイツの死は確定する。

彼女の手料理を疑いなく食した者は、人種、年齢、性別を問わず現世とのお別れが待っている。

予測不能回避不可能。仮に銃器に例えれば、極小サイズで命中率百パーセントの大型巡行ミサイル

とでも表現すればいいだろうか。的確に、正確に、相手を体内から爆散させる恐ろしき死の一撃。

 

運が良ければ即死、運が悪ければこの世のものとは思えぬ苦痛を味わってから死ぬ事になる。

 

「ダメだ姫路さん! 君は厨房(せんじょう)じゃなくて、ホールにいてもらわないと!」

 

クラスでの出し物で、中華喫茶と銘打った店で化学兵器を扱うなんて、冗談じゃない。

否、売り出したものが致死率9割越えの悪魔の産物だと知られたら、冗談じゃ済まされない。

 

『明久、グッジョブじゃ!』

 

『………勲章物だ』

 

 

彼女の恐ろしさを知る二人からのアイコンタクト。必死の形相が手に取るように伝わる。

 

その後は美波との一悶着があったものの、無事に殺戮兵器を世に出すことを防ぎ切った僕らは、

人並み程度の設備と環境を手に入れるという新たな悲願を胸に、一路邁進することとなった。

 

 









いかがだったでしょうか?

今回はバカテスパートですね。ギャグ回とかホントいつぶりだろう……。
私は基本的に原作を重視するので、バカテスの方は書きやすくていいです。
もちろんそのまま書き起こすだけじゃなく、私のアレンジを加えさせて
いただいていますが。面白ければ「面白かった」と言って頂ければ幸いです。


それではまた、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに!


ご意見ご感想、並びに批評も随時受け付けております!

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