僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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どうも皆様、萃夢想天でございます。
まずは初めに一言申しておかねばならないことが。


二か月以上もの間更新を滞らせてしまい、申し訳ありません‼


自分でもここまでほったらかしになるとは思っていなかったんです。
忙しさにかまけていたと言いますか、他の作品の投稿が遅れれば連動して
こちらも遅れてしまう固定観念に囚われてしまっていたと言いますか。

とにかく今後はこのようなことにはならぬよう細心の注意を払います故、
どうか皆様もこの作品を温かい目で見守ってやってくださいませ。


長らくお待たせいたしました。
それでは、どうぞ!





問33「僕と祭と召喚大会/その2」

 

 

 

 

 

 

「まずは一勝だな、明久」

 

「そうだね」

 

 

姫路さんと美波の追及から逃れるようにして出場した召喚大会第一回戦は、多少の波乱はあった

けれど何とか乗り切ることに成功。勝利を収めた僕らは、英雄の凱旋のように帰路についていた。

 

清涼祭の目玉ともいえるこの召喚大会は、学年別トーナメント方式をとっている。学年別と言えば

聞こえはいいかもしれないけれど、召喚獣を使う許可がまだない一年生からしたら嫉妬と羨望の

収束地点であり、本当の意味で注意しなければならないのは同学年の二年生と先輩方三年生だ。

二年生と三年生はトーナメントこそ別であれど、各学年リーグの優勝者は最後に勝負をする。

要するに二年優勝者と三年優勝者が最後の最後で戦ってシメになるということだ。つまり僕らは

学園長との契約を果たすために、上級生で一番頭のいい人とやりあわなきゃいけないってわけ。

 

召喚大会は校庭に造られた専用の特設ステージにて行われる。ただし、一般公開が始まるのは

戦いの佳境となる三回戦からで、一回戦と二回戦は早いうちに行われるため、観客はほとんど

いない。どのクラスも序盤は客足を引き込んでおきたいと考えるから、わざわざ最初に脱落する

相手を見に来るほど暇じゃないって雄二が言ってた。言われてみればその通りだ。

 

 

「それにしても雄二、あの召喚獣は何だったのさ」

 

「あ?」

 

「だから、あのクソ雑魚装備のチンピラ召喚獣は何だったんだよ」

 

 

両手を頭の後ろで組みながら、僕はふと先程の戦いの中で気になった事を雄二に尋ねてみる。

当の本人は僕の言葉に一瞬訝しむような視線を送ってきた後、言わんとしていることに気付いた

らしく、人を小馬鹿にするような薄ら笑いを張り付けた顔でこちらに向きなおって答えた。

 

 

「クソ雑魚とは失礼な奴だな。一回戦の数学の点数、お前見てなかったのか?」

 

「見てたよ! 雄二如きが179点なんて馬鹿げた点数取ってたのもばっちり見てたよ!」

 

「ならそれが答えだ、53点の木刀風情がガタガタぬかすんじゃねぇ」

 

「クソぉ‼ どうしてメリケンサックなんて雑魚装備があんなに強いんだ………‼」

 

「点数だ点数」

 

 

そう、雄二の召喚獣は改造された白の改造長ランにメリケンサック装備のチンピラだったのだ。

これには木刀に黒の改造長ランな僕の召喚獣もドン引きせざるを得なかった。相手の女子二人の

召喚獣は布の服と鉄の肩当とかサーベルとかのれっきとした武装だったのに、僕ら二人は何故か

地元ヤンキーの特攻服みたいになってた。何が基準か知らないけど、おかげで大恥かいたわ!

 

それにしてもあの雄二が、まさか本当にAクラスに勝つために勉強頑張ってたなんて驚いたよ。

まぁ正確に言えばAクラスに勝つためというより、代表の霧島さんとの強制的な婚約を阻止する

ためとなんだけど、いい加減あの男も腹を括るべきだ。絶世の美少女な彼女に求婚されるとか、

それだけでもう息をする価値はないだろう。それを不幸と嘆くとは、いよいよもって度し難い。

 

そんなこんなで対戦相手の女の子二人組を正々堂々と(卑怯な手を使って)打ち破った僕らは、

次の二回戦が始まるまでの間、また教室の喫茶店に戻って手伝いをしようと考えていた。

すると教室へと向かっていた僕らの前に、何やら急いでいる様子の秀吉が息を切らせて現れる。

 

 

「明久に雄二よ、ここにおったか。急いで教室に戻ってくれんかの?」

 

「どしたの秀吉」

 

「………喫茶店に何かあったのか?」

 

「うむ。少々面倒な客が来ての済まぬが話は向かいながらで頼む」

 

肩を弾ませながらそう告げた秀吉を筆頭に、僕らは教室へ向かう足を急ぎ足に速度を上げた。

 

「で、何があったの?」

 

「察しはつくぞ秀吉、営業妨害だな?」

 

「え、営業妨害? 学園祭の出店程度で? そんなまさか」

 

「いや、雄二の言った通りなのじゃ」

 

駆け足気味の移動の最中、いったい何が起きたのかと尋ねた僕に雄二と秀吉が言葉を返す。

それにしても、まさか営業妨害なんてものが本当に出てくるなんて思いもよらなかったな。

普通の飲食店とかならまだしも、ここは学生が祭の中で出す程度のなんちゃって営業なのに、

それを邪魔しようなんてヤツがいるなんて信じられない。目的は売り上げの独占なのかな。

 

 

「やっぱりか。そんで、相手はどこのどいつだ?」

 

「うちの三年生じゃな。ネクタイの色で確認しておる」

 

「よりにもよって三年生が? バレたら受験厳しくなるって分からないのかな?」

 

「心配すんな明久。お前程度が気付くことに気付かんバカは流石にいねぇよ」

 

 

失礼な奴だ。

 

 

「でもまぁ、そういうことなら雄二の出番じゃない? 目には目を、チンピラにはって」

 

「人にものを頼む態度がそれか? まぁいい、喫茶店を成功させないとお前の大好きな

姫路が転校しちまうからな。他人の恋路にゃ興味ないが、クラス代表として協力してやる」

 

「…………別に、そんなんじゃないよ」

 

「………………そうか」

 

 

駆け足で廊下を進みながら、過去に不良の間で畏れられたこのあくどいチンピラをぶつけて

始末してもらおうと提案すると、雄二は突拍子もないことを言い出してきた。

確かに姫路さんは可愛いし良い匂いがするし優しいし、好きだと思っていた頃もあったけど、

今の僕にはそんなことを思っている余裕はない。それに、多くの人を殺そうとしている僕が、

あんなきれいな人と一緒に居ていいはずがないんだ。だからかつての思いは、振り切ってる。

 

僕の返事に言葉を失ったのか、はたまた完全に予想外だったからか、雄二も一言だけ呟いて

からは押し黙ってしまった。あー、やめやめ。こんな空気にするつもりじゃなかったのに。

 

 

「む、聞こえるかの」

「………ああ、聞こえてきた」

 

「うん、僕も聞こえた。あの連中だね?」

 

「んじゃちょっくら始末してくるか」

 

 

少しすると、僕らの教室が見えてきて、距離が縮まっていくのとともに室内からやけに響く

耳障りな声がこちらにも聞こえてくる。さて、後は腕っぷしの強い雄二に任せておけば問題

ないだろう。そうなると僕は手持ち無沙汰になるから、証拠隠ぺいの準備をするべきかな。

 

 

「スコップ用意して裏山で待ってようか?」

「荒縄と麻袋も用意しとけ」

 

「おっけー」

 

「会話が不穏当過ぎるのじゃが………」

 

 

秀吉が何かに怯えているようだけど気にしない。世の中大衆に悪と定められた奴が悪であり、

それを誅する者は例えどんな行いをしたとしても善となる。これこそが民主的社会なのだ。

 

首やら肩やらをゴキゴキと鳴らしながら室内へ入っていく雄二。僕らも後に続こう。

 

 

「ハッ! マジできったねぇ机だなぁ! こんなんで食い物扱っていいと思ってんのか⁉」

 

『うわ、確かに酷い………』

 

『きれいなクロスで誤魔化してただけ?』

 

『学園祭と言っても、食べ物を出すならそれなりには………』

 

 

扉を開けた途端に耳へ飛び込んでくる罵声の数々。なるほど、あいつが諸悪の根源か。

男の言いふらすかのような物言いに充てられて、一般のお客様もクロスをつまんで下にある

ミカン箱をのぞき込んでしまい、次第にざわつき始める。これは本当にまずいかもしれない。

すると雄二がいきなりこちらに向き直って、秀吉の耳元で何かを囁き出した。なになに?

 

 

「至急用意してもらいたいものがある。頼めるか」

 

「ワシにできる範囲であれば構わんが、いったい何を用意するのじゃ?」

 

「…………と、…………だ。どうだ、いけそうか?」

 

「うむぅ、用意できんことはないが、あっても二つ程度じゃぞ?」

 

「充分だ。足りない分は後から調達してくる」

 

「ならばよかろう。すぐに戻る、ここは任せたのじゃ」

 

「ああ、任された」

 

 

周囲に聞こえないほどの声量で話しているせいで、何を用意させようとしているのかだけが

分からなかったけど、秀吉に頼むってことは多分演劇部の備品だよね。演劇用の小道具か

何かを持ってこさせる気なんだろうけど、二つ程度で言ってたし、本当にどうにかなるのかな。

今後のことに心配を隠せないでいると、雄二は僕にも声をかけてきた。

 

 

「明久、お前は野郎どもの面をよく覚えておけ」

 

「え? 顔を?」

 

「ああ、しっかり覚えておけよ。何なら身体的特徴だけでも構わん」

 

「よく分かんないけど、それくらいなら」

 

 

僕に与えられた仕事は、今も営業妨害を続けて声を張り上げている三年生の顔を覚えておけ

とのことだった。しかし、顔を覚えろってのはどういう事なんだろう。雄二が後で個人的に

お礼参りをするためにってことなのか分からないけど、やれっていわれたことはやらないと。

 

えっと、どっちも男で片方は割と小柄な体格。もう一人は180センチくらいの背の高さかも。

髪型は小さなモヒカンと丸坊主、か。覚えろも何も、一度見ただけで覚えられる外見だ。

 

 

「ったくよぉ、責任者出て来いよ! このクラスの代表はどゴブァ⁉」

 

「私が当店の代表、坂本 雄二です。何かご不満な点など御座いましたか?」

 

「不満も何もたった今連れが殴り飛ばされたんだが………」

 

 

顔や外見を僕が覚えている間に、雄二は営業妨害の相手に接触していたみたいだ。さながら

ホテルのウェイターのような恭しい態度を取っている。あれで話しかける前に坊主頭の男を

ぶん殴っていなければ、模範的な責任者となりえただろうに。でも個人的にはスッキリした。

 

幸いにも雄二の拳が振るわれなかったソフトモヒカンの男が驚いている。まぁ無理もないよね。

喫茶店に(行いが悪くても)いたらいきなり友人が殴り飛ばされて、当の加害者本人はしれっと

した顔で名乗り出てきたら僕でもビックリするだろう。さて、あの男はここからどうするのか。

 

「それは私が師事している『パンチから始まる交渉術』に対する冒涜でしょうか?」

 

とんだ交渉術があったもんだ。

 

 

「ふ、ふざけんな! 何が交渉術だバァッ⁉」

 

「続いて『キックでつなぐ交渉術』でございます。最後には『プロレス技で決める交渉術』で

お客様をお迎えする用意がございます、どうぞそのままの姿勢で一切の抵抗をせずお待ち下さい」

 

「分かった! 分かった、ならうちの夏川を交渉に出す! 俺は交渉の席には出ねぇからな!」

 

「ちょ、ちょっと待てや常村! お前俺を売る気か⁉」

 

何食わぬ顔で軽やかなステップを刻んで跳躍、涼しい顔のままにハイキックを浴びせた雄二に

対して流石の先輩も恐怖を感じたらしい。そりゃ店の責任者に突然襲い掛かられたら、誰だって

たまったもんじゃないだろう。けど今回ばかりは自分たちの行いと相手が悪かった、それだけだ。

 

いきなり殴り飛ばされた挙句に友人に売られて慌てているのは、坊主頭の夏川というらしい。

そして頬を蹴り抜かれて友人を売ったのはソフトモヒカンの常村、か。こんがらがりそうだな。

 

「それで常夏コンビとやら、まだ交渉の余地はあるのか?」

 

 

すると慇懃な態度を取っていた雄二の仮面がはがれた。にしても常夏か、悔しいが巧い命名だ。

 

 

「い、いや、こっちのその意思はない。ここらで退散させてもらう!」

 

 

モヒカンの常村先輩が、雄二の『まだまだやれるぞ』という剣呑なオーラを感じ取ったようで、

相方の人に目配せをして撤退を選択する。賢明な判断だけど、やはり相手が悪かったようだね。

 

 

「そうか、そんなら」

 

先輩方の勇気ある撤退宣言に大きく頷いた雄二は、背を見せた先輩にゆっくりと近付いていき、

常村先輩の後に続いて教室を去ろうとする丸坊主の夏川先輩に向けて、最後の交渉を開始する。

 

 

「おい! 俺は何もしてないだろ! 放せこの、あ、あああああ‼」

 

「これにて交渉は、決裂、だぁっ‼」

 

先輩の右膝裏から手を差し込み、同時に左腕を腰から股間にかけて差し入れて斜めにつなげた

腕で動きを封じ、勢いを殺さぬままに左斜め後ろへと倒れこんでバックドロップを叩き込んだ。

流石は雄二、普通に腰を掴んだだけだと抵抗されたり逃げられる可能性があるから、右腕で相手の

膝裏を刈り取るようにして持ち上げることで、バランスを崩して且つ脱出を困難にさせたわけか。

相変わらずの喧嘩殺法に畏れいる。できればこの交渉術は門外不出であってほしいもんだ。

 

「て、てめぇら覚えてろよ!」

 

 

白目をむいたまま痙攣する相方を抱えて、常村先輩は逃げるように教室から飛び出していった。

これでこれ以上悪評が広まることはないだろう。当面の問題は解決ってことでいいのかな。

 

他のお客様の反応を見ると、やはり一様に顔をしかめているのがうかがえた。汚い段ボール箱で

誤魔化していたことは事実だから、何とかして問題の火消しをしないといけない。どうしよう。

困惑する僕をよそに、佇まいを整えた雄二が「当店をご利用くださったお客様方」と再び慇懃な

態度の仮面を取り付けて前置きの口上を述べ、真摯な対応をしているように見せながら謝罪した。

 

 

「大変失礼致しました。手違いによりテーブルの導入が遅れてしまい、暫定的に段ボールを使って

到着までの時間を乗り切ろうという打開策を打ったのですが、結果として皆様に不快な思いを

させてしまいましたことを、深くお詫びいたします。すぐに清潔なテーブルが届けられますので、

どうかご安心ください。また、サービスとしてどれでも一品は無料とさせていただきます」

 

お客様一人一人と目を合わせるようにして流れるように謝句を口にして、深々と頭を下げる雄二。

そこに一切の誤魔化しや虚偽が見受けられない様子から、席を立ってお店を出ようとしていた人も

思いとどまって座り直してくれている。この男、こういった方面にも頼りになるから恐ろしい。

 

雄二の謝罪から十秒ほど経過した時、秀吉が他の男子数人と一緒になって立派なテーブルを運び

込んでくるのが見えた。なるほど、雄二が秀吉に注文していたのはコレのことだったのか。

こうして目の前にピカピカのテーブルを持ち出されれば、風評被害が拡大することも無くなると

考えてのことだろう。そこんところもキチンとしている雄二は、やっぱり「神童」なんだなぁ。

 

 

「あれ? テーブル入れ替えてるの?」

 

「あ、美波。それに姫路さんもおかえり」

 

 

テーブルの搬入が無事に終わり、どうなることかと思われた騒動も一段落ついたところで、

僕らと同じく一回戦に臨んでいた美波と姫路さんのペアが帰ってきた。表情と態度から察するに、

勝利を収めたのだろう。というか、姫路さんがペアに居る時点で勝ちはあっても負けはないか。

 

「ねぇアキ、ウチの話聞いてる?」

 

「き、聞いてるってば。テーブルのことだよね」

 

「そうよ、アレ入れ替えちゃってもいいの? 木下が持ってきてたってことは、アレ演劇部の

大道具とかそういうのでしょ。いくら演劇部って言っても、そんなにいっぱいあるの?」

 

なんて考えてたら美波に話を戻されたけど、確かに彼女の指摘はもっともだ。

雄二がアレを秀吉に頼んでいた時も、「二つ程度しかない」って言ってたのも聞いてたし、

流石に一個だけ変えた所で根本的な解決にならないよね。でも、雄二がその程度のことを考えて

いないわけがないと思う。まさか今から自分たちで木材を日曜大工して作るとか、はないか。

 

「ふぅ、こんなとこか」

 

「お疲れ雄二」

 

「何があったか知らないけど、お疲れ坂本」

 

「坂本君、お疲れ様です」

 

「おう、島田に姫路か。お前らもその様子だと勝ったみたいだな」

 

 

慣れない敬語を使いまくったせいで、やや疲れてるように見える雄二を一応労っておく。

美波と姫路さんもそれに続いて労いの言葉をかけると、それに反応した雄二が二人の勝利を

言葉を交わすことなく察する。こういうのって観察力なのかな、それとも洞察力?

 

「それより坂本、なんかあったみたいだけど大丈夫なんでしょうね?」

 

「………このまま何も妨害がなければ、問題はないだろ」

 

(まるでこの後も妨害があるみたいな言い方だな…………)

 

「あ、あの、テーブルの数は足りるんでしょうか?」

 

「おう、それなんだが。おい明久、厨房の連中と少しシフト変えてもらってこい」

 

「え?」

 

 

みんなでいろいろと話し込んでいる中で、雄二がいきなり僕のシフトに口を出してきた。

僕が次に厨房に入るのはお昼前から午後の二時前までで、今が午前十時直前だから、

約一時間近くの空き時間になるんだけど、それがいったいどうしたのか気になって尋ねてみる。

 

「急にどうしたのさ」

 

「二回戦が午前十一時開始、つまりは小一時間ってところだな。あまり悠長なことしてる暇は

なさそうだ。うし、ちゃっちゃと行くぞ明久。目標は一時間以内に四つの回収だ、いいな」

 

「どういうこと?」

 

 

何やらぶつぶつと呟きながら教室を出ようとする雄二の後を追いかけながら、問を重ねた。

すると雄二はふと足を止めてこちらを振り返り、口の端を釣り上げて悪質な笑みを浮かべる。

 

 

「決まってんだろ、テーブル調達だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二に連れられるままにとある場所についてから数秒後、僕らは校内を全速力で逃走していた。

 

「吉井君に坂本君! 今日という今日は許しませんよ!」

 

「走れ明久! 捕まったら生活指導室送りは免れん‼」

 

「鉄人の根城⁉ 冗談じゃない、死んでたまるか‼」

 

 

何故逃げているのか、だって? 別にやましいことをしたから逃げてるわけじゃないんだ。

 

 

「せっかくパクったテーブルだ! ヘマして落とすんじゃねぇぞ!」

 

「分かってらい!」

 

 

ただ、学園の応接室からテーブルを強奪(はいしゃく)してきただけで、全然やましくなんかないやい。

 

「ど、どうして、テーブルを背負って、そんなに、速く、走れるの、かな…………」

 

まさか応接室から脱出したところでバッタリ出くわすなんて、しかも日頃運動不足で脅威には

ならない長谷川先生ならまだしも、体を動かすのが趣味の布施先生まで追ってくるとは!

 

現役男子高校生の脚力とスタミナを舐めるなと言いたいけれど、テーブル調達一件目にして

現行犯が捕捉されるのは不幸でしかない。今後の活動に支障が出るのは間違いないけど、

とにかく今はせっかく(無断で)お借りしてきたこのテーブルを回収班のもとへ届けねば!

 

 

「いいか明久、一旦コイツを喫茶店内に持ち込んじまえばコッチのモンだ!

一般の客が使用中のテーブル回収するなんざ、いくら教師だろうとできはしないからなぁ‼」

この極悪人め。おかげで片棒を担がされた僕の評価まで落ちちゃうじゃないか。

 

 

「こうなったら、長谷川先生! 西村先生に連絡を!」

 

「わ、分かり、まし、た」

 

 

息を切らせながらも追いかけてきている長谷川先生に、布施先生が恐ろしい指示を飛ばしている。

西村って、まさか鉄人か⁉ 冗談じゃない! 普段でも命がけなのに、テーブルを運んでいる状態で

あんなのとエンカウントしたら、間違いなく一方的に1ターンキルされちゃうじゃないか!

 

こちらは荷に細心の注意を払いつつも、追手の二人から逃げなければならない。しかもそこへ

敵の通信の妨害までしなければならないとなると、やることが多すぎる。どうしたらいい!

 

 

「___________おや、これは長谷川先生に布施先生。どうかされましたか?」

 

「えっ⁉」

 

現状をどうにかして打破しなければと必死に思考を巡らせていたところへ、やけに聞き覚えの

ある声が耳に響いてくる。声の主を足を動かしながら探すと、そこにやはりあの人がいた。

 

 

「か、香川先生! 協力してください、またあの二人です!」

 

「また………? ああ、あの二人でしたら心配いりません。アレは私がやらせたことです」

 

「「なに⁉」」

 

 

僕らと布施先生との間に立ちはだかるようにして現れたのは、あの香川という眼鏡の男だった。

教職員じゃないのに先生と呼ばれているのは、きっとここのシステムの関係者だからだろう。

そんなことを考えていると、何やら理解できない一言が彼の口から飛び出てきた。

 

思わず僕と雄二も足を止めて振り向いてしまったけど、香川さんは僕らの方を向いて小さく

微笑んでから先生の方へ視線を向けて、今の発言についての補足を語り始める。

 

 

「いえ、実は彼らのクラスに先程悪質な迷惑行為を働く者がいたと報告を受けまして。

聞くところによると、彼らのクラスで扱っているテーブルがテーブルではなく、段ボール箱に

小綺麗なクロスを代用品だったのが気に食わなかったらしいと。そこで私から吉井君たちに

助言をしたのです。『応接室に見栄えの良いテーブルがあるから、借りてきなさい』とね」

 

「そ、その話は本当なのですか、吉井君に坂本君」

 

「え、えと、あの」

 

「…………まぁ、その通りです」

 

「ほら、彼らもそう言っているではありませんか。何も問題はありませんのでご安心を。

それに先生方、今日は一般の方々もいらっしゃる日ですので、あまり本校のイメージを損ねる

行動などは控えるべきかと思いますが、どうでしょうか」

 

「「………………」」

 

 

どこまでも一貫して冷静で知的な雰囲気を醸し出す香川さんは、そう言い終わってから眼鏡を

指で押し上げて二人の先生を追い返してしまった。すごい手腕だと言わざるを得ない。

しかも今の話はどこも矛盾してないし、正当性の筋がしっかりと通っているのだから二人の

先生も何も言い返せなくなっていた。やっぱりこの人、話術というか頭の良さが尋常じゃない。

あの時、夕暮れのミラーワールドで話を聞かなくて本当に良かったと今さらになって安心する。

二人の先生の背中が見えなくなる頃、こちらに改めて向き直る香川さんが口を開いた。

 

 

「さぁ、速くお行きなさい。それと、君たちのお店の繁盛と大会の優勝を楽しみにしています」

 

 

それを告げたっきり、香川さんも踵を返してもと来た道を戻っていく。何を企んでいるんだ?

 

結局香川さんのお墨付きを得た僕らはその後も行動を続け、時間内に見事ノルマを達成。

テーブルを空き教室に置いて秀吉率いる回収班に連絡を取り、彼らにテーブルを運んでもらい、

店内で段ボールを撤去して入れ替える。こうすることで風評被害はもう起こらないだろう。

こそこそする必要がなくなったおかげか、思っていたよりも早く調達を終えてしまった僕らは、

回収班たちと一緒にテーブルを運んで店の様子を一度見てから二回戦に向かう事にした。

四つのテーブルを無事に運んで入れ替え作業も終えた僕らを、現場でホールを担当しながら

回収班に指示を出していた秀吉が明るい笑顔で迎えてくれた。これだけで疲れが癒えそうだ。

 

 

「明久に雄二よ、二人ともよくぞやってくれたのじゃ。大変じゃったろう」

 

「いや、それがさぁ「秀吉、聞きたいことがある」って何だよ雄二」

 

 

慈愛の女神のようにこちらを気遣ってくれる秀吉にわけを話そうとした僕の言葉を遮って、

雄二が歩み寄りながら何かを尋ねようとしていた。何だ、柄にもなく真面目な顔して。

 

 

「む、なんじゃ?」

「…………白衣を着た眼鏡の男がこの店に来たか? 髪型がオールバックの」

 

「また珍妙な問じゃのう。もしや、その男が先の妨害の黒幕かの?」

 

「いや、そういうわけじゃないが、ちょっと引っかかってな」

 

 

何やら険しい顔つきの雄二は、秀吉にある人物と一致する特徴を並べて問いかけている。

なんでここで香川さんのことを聞くんだろうか。引っかかるって、いったい何のことだろう。

僕がそれを不思議に思って雄二に尋ねようとすると、秀吉が少し早く答えを口にした。

 

 

「ふむ、眼鏡ならともかく白衣となると見覚えがないの。ワシもずっとホールに居たわけでは

ないから、確実な証言とも言い切れぬ。済まぬな、次からは客の人相も覚えておくとしよう」

「そうか、助かる」

 

「お互い様じゃ」

 

 

そう言って秀吉と別れた雄二は、「そろそろ二回戦が始まる」とだけ呟いてステージへ向かおうと

教室から出て歩き始める。慌てて後をついていく僕は、やはり聞かずにはいられなかった。

 

「ねぇ雄二、香川さんがどうかしたの?」

 

「ん、ああ。まぁそうだな、他の奴らの手前だから黙ってたが、お前ならちょうどいい」

 

「え、なに、どういうこと?」

 

「…………明久、あの香川ってオッサンが言ってたこと覚えてるよな?」

 

 

雄二が秀吉にした質問の意図、それがどうしても気になった僕は直接聞くことにしたのだが、

何故か逆に尋ね返されることになってしまった。えっと、香川さんが言ってたことって言えば。

 

 

「僕らにテーブル強奪を指示したってやつ?」

 

「それは先生を騙すための虚言だ、間違いねぇ。俺が聞いてるのはその後だ」

 

「後……………確か、僕らの店の妨害をしている奴がいるって報告を受けたとかなんとか?」

 

 

確かあの時、香川さんがそんなことを言ってた気がする。テーブルに問題があるから営業妨害が

起こって、それならテーブルを変えれば問題ないって、まとめるとそんな感じだったよね。

僕の言葉に小さく首肯した雄二は、そのまま右手の人差し指を立てながら話を続ける。

 

 

「そう、そこともう一つ」

 

「もう一つ?」

 

「それは、あのオッサンが代用品の中身を知ってたことだ」

 

「どういうこと?」

 

 

またしても増えた疑問に声を上げてしまった僕に、雄二は顔を険しくしたまま語り始めた。

 

 

「まず、俺らの店が妨害を受けたって報告の件だが、俺はコイツもデマだと思ってる。

理由はこうだ。まずあの時、常夏コンビが妨害をやり出した直後に秀吉が俺らに報告しに来た。

俺らに情報が伝わって現場に戻るまでがおよそ二分ってところだな。そんな短い時間で他の

誰かが営業妨害を訴えに行ける時間はなかっただろうし、もしやったとしても正規の教職員でも

なんでもないあの人に報告するのはおかしな話だ。今の話で分からなかったところはあるか?」

「いや、大丈夫」

 

 

なるほど、確かに雄二の言っていることは正しい。僕らのクラスの誰かが先生に助けを求めたに

営業妨害を漏らしたとしても、一年以上学校に居るんだから職員と非職員の見分けはつくはずだ。

心の中で納得していると、僕の理解が浸透した頃合いを見て雄二が話の続きを切り出す。

 

「なら続けるぞ。そんで、仮にもしあのオッサンに話が伝わっていたとしてもおかしな事になる。

学園祭で問題が発生したんなら、すぐにでも鎮火させようとするのが当たり前の思考だよな?

それなら報告に来た生徒と一緒に現場へ向かうべきだろ。だが、俺たちが秀吉と戻ったあの時、

オッサンは現場に居なかった。つまり、報告があったって部分はデマである可能性が高いんだ」

 

「た、確かに」

 

「んで極めつけはオッサンが代用品の中身を知ってたってところだ。ここは本当に謎なんだが、

さっきの報告の件がデマじゃなかった場合、実際に誰かが報告をしに行ったと仮定するぞ?

そいつはオッサンに営業妨害があったと報告する。だが、店の不利になるようなことまでも

公然と暴露する必要があると思えるか? 『汚ぇ段ボールをテーブルにしてお客が暴れた』なんて

少なくとも売り上げのことを第一に考えてるFクラスの馬鹿どもには絶対にできないことだ」

 

 

淡々と事実を紐解いていく雄二。僕は彼の話に耳を傾けながらも、何か恐ろしいものが背筋を

這いずっていくような感覚に襲われていた。そんな僕の様子に気付かず、雄二は話を再開する。

 

 

「で、問題はここからだ。さっきのは報告の件がデマじゃなく実際にあった場合の話だが、

もしも俺の仮設通りに報告がデマだった場合。この場合、本格的に奴を警戒せにゃならん」

 

「ど、どういうことなの?」

 

「報告が仮設通りにデマだったら、そもオッサンは俺らの店で営業妨害があったことなんて

知りもしないはずだろ? そんな奴がどうやって、汚ぇ段ボールの事を知る(・・・・・・・・・・・)ことが出来たんだ(・・・・・・・・)?」

 

「_____________‼」

 

「クロスの下が段ボールになってることは、風評被害につながるからと全員に口止めさせて

あるし、無論準備も一般客が入ってくる前に仕上げてあった。あのオッサンがこの事実を知る

方法が、どうにも見えてこないんだよ。一番低い可能性も、秀吉の証言で完全に0になった」

 

「そ、その可能性って?」

 

「店に客として入ることだが、召喚大会の一回戦が始まる頃には客足はまばらだったし、

一回戦が終わる頃になってあの常夏コンビが来た。となれば俺らがテーブル調達にあちこちを

駆け回ってた時になるんだろうが、秀吉の証言通りだ。クソ、何者だあのオッサンは………」

 

 

忌々しげに髪の毛を掻き毟りながら悪態を吐く雄二に、僕は声をかけることができなかった。

香川さんが何者なのかを知っているから、ではない。底の見えない不気味さから、でもない。

僕はこの時、別の理由で声をかけられなかった。正確に言えば、彼を気遣う余裕がなかった。

 

香川さんの行動、言動、それらすべてを当てはめて考えると見えてくる答え。

『神童』と謳われた雄二ですら分からない、僕だけが知ることの出来る答え。

 

 

香川 英行、彼は僕と僕に関するすべてを何らかの方法で監視しているのだ。

 

 

それを知ってしまったからこそ、僕は雄二に声をかけることができなかった。

 

 








いかがだったでしょうかッッ‼


大・増・量‼ な今回は、実に一万二千字を超える久々の過重執筆‼
筆が乗るとはこのことでしょうか、文字がスラスラとン気持ちイイ~~ッ!

失礼しました。やっぱり原作があるとなぞりやすくて助かります。
まぁ龍騎とクロスさせている以上、どこかで大きく改変するんですがね。


さて、これを書くのも久々ですが次回の更新は早めにします。
あ、でも私の都合上、やはり次の更新はどうしても八月に突入して
しまいますことを先に報告いたします。本当に申し訳ございません。


それでは、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに!


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