今回が年内最後の更新です。今回はまるごと戦闘回です
突如としてエイルたち三人を妨害するように立ち塞がる男。
太刀の反った刃先を向けている以上敵対心を持っての行動なのは疑いようのない事実だ。
「お前は何者だ?ルーンガイストの兵の者か?」
「その問いには違うとだけ答えておこう。だが貴様たちがこれ以上ルーンガイストの兵士を傷付けられるのは私には都合が悪い」
「何?」
問うたブランネージュがその返答に真意を図りかねんと顔をしかめるが、ゼーレは付き合わず目付きを鋭くし告げた。
「この戦の勝敗は既に決している…もう追撃しないというのならこちらも素直に一切危害を加えず引き下がる。だがそうでない場合は、多少なりとも痛い目を見てもらうことになるが」
「それはつまり僕らと一戦交えることも辞さないとそういうことか」
「貴様たちの行動次第によってはな…だが私としては正直どちらでも構わん。戦いさえ終わればな」
ルーンガイストの属している者とは思えない言葉だ。
ゼーレなりの譲歩なのだろうが、そうはいかない事情がある。
この戦場で残った兵士たちを見逃したところがで彼らは、また別の戦場でシルディアを制圧せんと牙を向く。
それではシルディアを脅かす危険な種が育つのをみすみす眺めているようなものだ。
ただでさえ不利な状況に追いやられているのだから極力敵を減らそうと思い至るのは、エイルたちの立場からすれば妥当な決断だった。
「その言葉には従えない」
そもそも素性の不明な男の言葉を安易に信用に値するのは軽率な判断だ。
暗に命を奪うと明言する相手が武器を持ってすぐ前にいる以上、背中を向けて撤退したりしない。
それより何より他の仲間の安否確認ができていない現状で自分たちだけ、のうのうと帰れるわけがない。
「そうか、ならば仕方がない。そちらが容易に引けぬように私にも引けぬ理由がある…では申したように痛い目をみてもらおう」
話し合いは不可能と悟った両者は同時に己の得物を打ち合い、甲高い衝突音が周囲に轟く。
一合打ち合った後エイルは体を軸にし剣を一旦引き下げ、右側に捻った勢いで横凪ぎに振るう。
その刀身は垂直に待ち構えていたゼーレの太刀と交わり、どちらの刃も噛み切らんと必死に食らいついている。
今度はゼーレが動き出し、一瞬更なる力を練って相手を押し出しバランスを崩させそこに太刀の冴え渡る技が襲いかかった。
「零式刀技
「-ッ!」
瞬間的に腕力を高め突き放すと同時に、持ち手を逆手持ちに切り替え高速で繰り出される太刀。
その太刀筋は寸分の狂いもなく懐を捉えていた。
-まずい
態勢を乱され無防備となった腹部目掛けて振るわれたそれをエイルは辛うじて自由が効く左脚で柄本から蹴り落とす。
半ば強引ともとれる対処の仕方にゼーレは自身の剣が不発に終わったというのに、エイルに感嘆の意を込めた言葉を送る。
「ほう、今のをやり過ごすか…その即座の判断力から察するにそれなりに場数は踏んでいると見た」
そう吐き捨てたのも束の間、彼の足元より出でた数多の氷柱をゼーレは難しげな表情ひとつせずに飛び退いて回避してみせる。
不意討ちで詠唱された魔法を無傷で避けられ、ブランネージュは静かに憎々しげに舌打ちし逆に回避した当人は涼しい顔で氷柱に目を凝らす。
「氷魔法の使い手か。これ程までに魔力を集約した氷を数多く精製するとは…さぞや名の通った魔術使いとみたが」
「かわしといてよく言う…」
几帳面に一言返すゼーレにブランネージュは冷ややかに言い返す。
ゼーレの一欠片の迷いもないその暁の瞳は全ての獲物を刈り取らんとする戦神にさえ恐れおののくと錯覚させるまでに、強靭な闘志が潜んでいた。
だがブランネージュという魔法使いはそれでたじろぐような脆い精神力を持ち合わせていなかった。
「一つ言っておく。私は他人に気を遣われるのが嫌いでなそれが見知らぬ赤の他人となると……」
たちまち冷気がブランネージュの足元を侵食し、小さな草木などは瞬時の内に凍てつく。
その冷気はゼーレの微かに露出した肌にも浸透し鎧を着込んでいるにも関わらず、全身に肌寒さを覚えた。
そしてブランネージュの周囲には彼女を中心として咲き誇る花弁を連想させる数多の氷注が展開され、その冴え渡る先端部分はゼーレに向けられている。
「なおさら腹立たしい」
「む…」
文字通り氷結した雨がゼーレの体を飲み込む。
多くの結晶が地表に突き刺さりそのほとんどが中心部を穿つ形で存在していた。
無音で静まりかえる切迫した空気で、マオが口火を切り声を発する。
「やったの…?」
「……」
訊ねるマオにブランネージュとエイルは返答を返すことなくまじまじと、平地に出来た氷の調度品に視線を留まらせる。
彼らの反応を目にし不安な面持ちで氷の塊を注視する中、結晶にヒビが走ったかと思いきや途端に全てが弾け飛びその中央には太刀を水平に保ったまま無傷で佇むゼーレの姿があった。
「零式刀技
「嘘でしょ!?何で傷ひとつないの…!」
「面倒な…どうやら私たちは最悪の壁に挑んでしまったようだな」
ブランネージュの漏らした呟きにエイルもマオも反論の余地はなく、認めたくはないものの心底同意する。
たった数分しか経過していない戦闘の中でも、太刀使いの技量の高さはブランネージュたち三人の数段上を行っているのが分かった。
三人の中であわや胴体を断ち斬られるところまで追いやられたエイルが一番その事実を痛感し、ついぞ経験したことのない寒気を味わったのだ。
「とにかく攻撃をかわすことだけに専念しよう。まともにあの剣を食らったら余計勝ち目がなくなる。今頃団長たちが異変に気づいてこっちに来るはずだ、それまで耐えしのぐんだ」
「そうだね。それしかなさそう」
無理に倒そうとせず回避に集中する。
それが三人が選んだ最善の答えだった。
「策としてはそれは悪くない。最も援軍がここに駆け付けることができればの話だがな」
「!まさかダンチョーたちにもあんたの仲間が?」
「さあな、最も知っていたとしてわざわざそれを伝える義理も道理もない。無駄な話はここまでにしよう、お互いに時間が惜しいだろう」
余計なことを語る気はないと言葉を切ったゼーレは太刀を腰だめに構え、右足で湿った地を蹴る。
自身へ真っ向から飛来する氷刃の数々をその剣技で全弾打ち砕き、刀身に水分がへばりつき宙には水滴が散乱した。
「くどい!零式刀技
「な…!」
自慢の魔法を正攻法で正面から破られ、狼狽を隠せないブランネージュ。
だが思考はすぐ冷静さを取り戻し、次なる一射のため魔力を溜める。
その時間を稼ぐべくエイルはマオの爆薬と自身が放つ風の刃との一斉発射を試みる。
「マオ!」
「りょうかい!」
マオの球形状の小型爆弾が炸裂し、エイルが放つ魔力で構成された風刃が虚空を切り刻み、一挙に襲いかかる。
土煙と爆風が入り交じり尾を引く中、全員が爆煙へと目を張った。
「…零式刀技
威圧を伴う低音の声が響き、中枢から土煙が横に膨れ上がり新たな旋風が巻き起こる。
視界が晴れ、旋風を起こした張本人はマントの先端すら黒焦げもせず微動だにしていない。
新たに胸元目掛けて飛来する氷柱にゼーレは構わず、宙へ跳び逃れる。
エイルたち三人を己の間合いに捉えたゼーレがまず標的に選んだのはマオ。
頭を地上に向けたまま虚空で太刀を横凪ぎに振るいマオが盾代わりに構えたクナイを喰らうと、その衝撃に耐えられなかった彼女の華奢な体が地面を滑る。
「あう!」
「マオ!」
「他人を心配するゆとりはないぞ」
「しまっ-ぐっ!」
背後からの声にブランネージュは振り向き様に柄本の先で腹部を強打され、両膝を突いて蹲る。
そして邪魔だと言わんばかりにゼーレはブランネージュの片腕を掴み、飛ばしたマオの方角へ雑に投げた。
まさに反撃に打ってでようとしたマオは迫るブランネージュの体を予備のクナイを投げ捨て、咄嗟に受け止めるも彼女ごと後ろ向きに転倒してしまう。
「さて後は-」
「はあっ!」
横凪ぎの軌道を描く剣筋を横目で捉えたゼーレは眉一つ動かさず己の太刀の刀身で阻む。
それを皮切りに剣と太刀の衝突は様々な軌道を刻んで、幾度となく繰り返されその度にけたたましい金属音が場に響く。
何度目かで、垂直に振るわれたエイルの剣と横一文字に差し出したゼーレの太刀が交じる。
二本の武具が十字の形を成し、二人の人間の意志を体言しているかのようにどちらも折れず相手を斬らんと微かに左右に揺れ動く。
このまま剣が動くことはないかと思われた次の時、ゼーレも驚くべき動きをエイルが見せた。
「何っ!?」
自ら剣を手放したのだ。それまで掛かっていた力が消失したために剣は空に舞うが、その頃にはエイルは身を捩り右の拳をゼーレの頬に炸裂させていた。
予測していなかっただけに防御が間に合わずまともにエイルのパンチを顔面に貰ったゼーレはよろめき、切った唇から出た血を右の親指にて拭う。
しかしこの数秒にも満たない間にエイルは次の行動に出ていた。
十メートル程離れた地点から跳躍し風の力を宿した右足がゼーレに接近する。
「-はああああああ!」
「ちぃ!零式刀技
強い魔力を伴い迫り来る風にゼーレも太刀を握り、向かえ撃つ。
「はあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
風を纏いし蹴りと研ぎ澄ました美しい剣技のぶつかり合い。
大地を揺るがす程の激しい力の衝突により二者の中間に発生した緑の光と喉が張り裂けんばかりの叫びが、戦いの凄まじさを物語っていた。
「「ああああああぁぁぁぁぁッ!!」」
-寄せ!それではお前が!
-しかしこれしか手はない…後は、任せたぞ!
声が聞こえる。一方は恐らく若い男、もう一方は声質から性別は判断できないが声色からして男とはそれなりに仲の良い関係性なのだろう。
それが誰の声なのか分からない。しかしどこか懐かしみを覚える、そんな声だ。不快な感じはしない。
-ふっ…くうう…うぁああ…!
何者かが泣いている。
先程の二人の者とはかけ離れた声質だ。
あどけなさと儚さと幼さが目立つ泣き声だ。
その声の主は知らない。
-またお前か。今日もやるとするか
-ああ、お手柔らかに頼む
誰かが他の人に声をかけている。
会話から察するに何かの日課なのだろうか。
声はどちらも聞き覚えがあるように思えるけどもやがかかったように記憶から引き出せない。
「-うわっ!」
「-ぐっ!」
強大な緑の奔流が飛び散り、エイルとゼーレ、両者共に背中を木の幹にぶつけ倒れ伏す。
左手で地を這い右手で頭を抑えるようにしながら、尚も敵に鋭い眼光を送りつけるエイルにブランネージュとマオが駆け寄り、彼を守らんと前に出る。
しかしゼーレも太刀を支えに立ち上がり頭痛にでも襲われたような手つきで左手を自らの頭部を置いて、目を張りエイルに恫喝した。
「くっ…今のは…?…貴様、何をした…!」
「何を…だと?」
ゼーレの言葉にブランネージュはその意味が理解できず声に戸惑いの色を浮かべた。
端から見た限り先のエイルの繰り出した攻撃は風の魔力を帯びた蹴りに過ぎない。
そこに何らかの細工が施されていたならば魔法の専門家のブランネージュが気付かないはずはないし、彼女を上回る魔法をエイルが会得し使ったのなら話は別だが仕掛けた本人にもゼーレと同じく驚愕が濃く出ているのは不自然だ。
「……」
だがそう推察するブランネージュを余所にゼーレは太刀を鞘に収め、踵を返す
「…助かったの?」
「そのようだな。認めたくはないが」
このまま戦いを続けていたら敗北は濃厚だった。
ゼーレの離脱は自分たちからすれば思わぬ助け船なのだが、ブランネージュには安堵を覚えるより先に気掛かりなことがあった。
「エイル、あの衝突の際何をした?」
「何もしてない。ただ…声が聞こえた」
「声?誰のだ?」
「分からない…聞き覚えのない声だった」
「何のことだかさっぱりだね」
マオはお手上げとばかりに両手を上げる。
魔法だの魔術だのそういった方面に疎い彼女に不可思議現象の話をされても、納得のいく解答が出せるはずもない。
「とにかく合流しよう。団長たちが心配だ」
「それが最善だろうな。あの剣士が去ったとはいえまだルーンガイストの兵が潜んでいる可能性は充分に考えられる」
そのほんの数分前、別の場所でルーンガイスト兵士を一人残らず蹴散らしたシオンたちの元にもゼーレとは違う剣士が現れた。
かなりの長身。褐色の肌に白銀の短髪、左は黄金、右は紅と左右異なる瞳をした碧眼の男。
彼-カイネルはゼーレ同様刀身が反った武器、太刀を腰元の鞘に収めルーンガイストを追撃せんとするシオンたちの進路を阻んでいる。
行く手を塞ぐカイネルにエルウィンが訊ねる。
「随分と好き勝手してくれたじゃないか」
「あんた誰よ?」
「ルーンガイストってんならお前も斬るぜ、違うってんならそこをどけ」
「ふん、礼儀を知らん男だ。それが人に物を頼む態度とはな」
忠告を鼻で一笑され、指輪の効力で性格が荒んでいるのもあってシオンはカイネルの反応に苛立ちを募らせる。
突然妨害するように立ちはだかった見ず知らずの男に、礼儀をとやかく言われる筋合いはない。
「うるせえ!それよりどうなんだ!ルーンガイストなのかそうでないのかはっきりしやがれ!」
「答える必要があるのか?どうしても知りたければ俺を負かせてみるがいいそうすればお前たちの問いにいくらでも答えてやろう。満足のいくまでな」
「上等じゃねえか。皆手出すんじゃねえぞ」
「シオン!」
それならば話は早いとシオンはヴォルグの制止を無視して大剣を身構えカイネルも呼応したかのように太刀を腰だめに構える。
どちらも何時でも来いと言わんばかりの体勢をとる。
「よろしいのでしょうか。シオンさん一人で」
「止めた方がいいわ、あいつたぶん結構な腕前よ」
「あの状態のあいつにあれ以上言っても聞かねえだろ、一人でやるってんだからやらせてやれ…万が一危なくなったら割って入りゃいいんだ」
「大丈夫だリュウナ、エルウィン、シオンを信じろ」
リュウナとエルウィンが不安に駆られる中ヴォルグはあくまで静観に徹すると公言し、ラザラスは二人を励ます言葉をかける。
風に乗って届いたそのやり取りに横槍を入れる者はいないと、確信したカイネルは意中で感謝しながら眼前の相手を見据えた。
「いくぞ!」
シオンに声が届くや否や太刀の切っ先が胸元を掠めた。
焦りを冷や汗で表しながもかわすと同時にシオンは大剣に雷を帯びさせ、強引な素振りで剣を振るう。
しかしカイネルは見るよりも数段早く直感でそれを避け、自身が得意とする間合いを取る。
そしてシオンの剣閃をやり過ごした転瞬の後にカイネルは爆発的に前に踏み出し、二度刃を標的へ斬りつける。
「零式刀技、月影牙!」
強烈な剣技が空気もろともにシオンの命を刈り取らんと迫り来る。
鋭敏に己の限界値まで底上げされた反射神経が本能的回避能力に働きかけ、大剣の腹で太刀の進行を抑えた。
だがカイネルが不敵な笑みを時シオンの面持ちに初めて焦躁が走った。
咄嗟に引き下がろうとするもその行動を先に実行に移したのはカイネルが数秒先、僅かに後ろへ跳び着地の間際右足の踵を浮かして再度シオンへと突っ込む。
「これが避けられるか?零式刀技、残月一閃!」
突進と同時に突きだされた太刀の先端部が陽光を反射し、輝きを放ちつつシオンの中心へ照準を捉えた。
腰を屈めたシオンの髪を何本か狩り、額から一筋の血が流れるのが彼の瞳に映る。
それが自身の血液であると知りながらもシオンは上空を太刀の刀身が通過したところを、狙い下方から大剣を右手で救い上げて。
「ここだぁ!」
「…くうっ!」
先手を取り優位に立ったはずのつもりがかわされシオンの逆襲に虚を突かれたカイネル。
今度はカイネルが焦りを露にし伸ばしきった右手に収められた太刀を手放し、左手でそれを掴み取りそのままの流れで下方へ打ち下ろす。
あわやカイネルの肉体を削ぎとるかどうか瀬戸際の位置で大剣は地面に切っ先を陥没させられ、その隙にシオンは間合いを切り離されてしまう。
(今のはヤバかったぜ、こいつ…こんだけの腕前で本当にルーンガイストじゃないのか…?)
即座に後退しなければ鎧の損傷だけでは済まされなかったろうが、幸運にもシオンの瞬時の判断力が最悪の事態を避けた。
それだけに高い技量を持つ男がルーンガイストに属しているのかそうでないのか、その正体がますます気になってくる。
「俺が何者なのか気になる、そう言いたそうな顔だな」
まさに頭に浮かんだ疑問を見透かされシオンは立ち回り以外で初めて驚愕の色を見せる。
「先も言った通り勝ったら教えてやる。その程度では到底不可能な話だがな、もし出し惜しみしているのならば全力で来ることを推奨するが…どうだ?」
「フン、望むところだ。リクエストされちゃ答えねえわけにはいかないな。遠慮なくいかせてもらうぜ」
シオンの挑発混じりの返しを受けてカイネルは満足感に満ちたようにほくそ笑む。
どちらも一歩も引かぬ意思を示し、何度目かの接近の時が近づこうとした時、駆け出したカイネルの足元に弓矢が放たれる。
確実に当てる気は毛頭なかったのか、矢は彼の爪先から毛虫一匹分程度の間を空けて刺さっていた。
「む…」
「そこどきな!」
更にはシオンの頭を軽々跳び越えたヴォルグが鉤爪のクロー部分でカイネルの刀身をはねのけ、彼をシオンから突き放す。
横槍を入れたヴォルグの存在と、また刺さった矢を見てとったシオンには誰が射たかすぐ検討がつき、目線をそちらへ動かし苦情を言う。
「邪魔すんじゃねえ!団長!エルウィン!何の真似だ!」
「バカ言わないで、これ以上続けたらあなたが危ないでしょう!」
「俺がこいつに負けるって言いてえのか!」
「そう言うことだ。シオン、喧嘩の時間は終わりだ」
エルウィンとヴォルグに咎められシオンは憎々しげに歯噛みする。
彼らの言葉が理にかなっているのは彼とて理解できているが、納得はできない。
それに何より無断で割って入られただけに飽きたらず説教まで聞かされてはうんざりだ。
ヴォルグとエルウィンの介入を受けてカイネルは興ざめしたのか、太刀を鞘に仕舞い彼らに自ら背を向けた。
「この人数でまとめて来られてはさすがに分が悪い、シオン…といったか。勝負の決着は次に会う時までおあずけだ。今度は邪魔立てのない場で剣を交えることを楽しみにしている」
「待ちやがれ!まだ終わってねえ!」
「エルウィン、すぐ外せ」
走り去るカイネルに未だに勝負を仕掛けようとその背中を追おうとするシオンを見かねて、ヴォルグがエルウィンに指示を下す。
その意味を一拍遅れて把握したエルウィンは言われた通り指輪を外し、彼女の中に通っていた超常の力が消え行く。
当然片割れを身につけているシオンにも同様の現象が発生した。
それまで自身を満たしていた指輪の魔力とどす黒い感情が形を無くして崩れていくのを感じながら、落ち着きを取り戻す。
「少しは落ち着いたか?シオン」
「あ、はい…すみませんでした団長…」
「ともあれ作戦は成功したんだ…とっととマオたちを拾って」
「あ、いたいた。おーい!ダンチョー!!」
「っと、丁度いいタイミングだ…」
噂をすればなんとやら。
茂みを掻き分けてマオとエイルそれにブランネージュが駆け寄り、無事全員の安否が確認された。
「すまない。思わぬ邪魔者に手を煩わされて合流に手間取った」
「そちらもですか?」
「そちらもって、やっぱりそっちにもあの剣士の仲間が行ってたんだ」
「詳細な報告は後で聞く。今はここを離れるのが先決だ」
ブランネージュやリュウナ、マオが情報を交換しあう中ヴォルグがそう一言言う。
それに異を唱える者は一人もおらず皆勇者亭へと帰還の途につく。
彼らと肩を並べて歩く中、エイルは気がかりなことがあった。
(あの時に聞いたあの声は…一体)
太刀を扱う剣士と最後にぶつかり合ったあの瞬間、意識の奥底から聞こえてきたように思えた不思議な声。
どの声にも馴染みがない。しかしそれでいてどこか懐かしいように思えて、聞いていた時には敵意のような感情を感じることはなかった。
あまりに短い時間であったために内容はうっすらとしか覚えていないが、幻聴などではないと確信が持てる。
幻聴にしては声は強くはっきりと意識の深くに焼き付けられた気がしてならないから。
(何であんなのが聞こえたんだ…)
疑惑と不安を抱えエイルは足並みを乱さず皆と共に初めての戦いを乗り越えた実感を味わっていた