シャイニング・ティアーズ 緑風の行く先   作:光陽03

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お待たせしました!
今回は初のサブイベント回です




episode 11 類友

-俺が女を逃がす、それならお前に傷が付くことはあるまい

 

 

その時のあいつの表情は戸惑いと自分への怒りと情けなさ、信じていた者たちへの裏切りをしてしまった後悔心に心を追い詰めているように感じられた。

 

 

-だがお前の築き上げてきた地位は、名誉は、武勲は、全てを捨てるつもりか

 

-そんなのこれから国を背負っていく奴に比べたらささいなもんだ。いくらでも捨ててやるよ。はなから興味もねえしな…それに自分でも分かってるはずだ。この国の未来にはお前が必要だってことぐらいは

 

 

あいつの未来は国の未来と同価値であると言っても過言ではなかった。

国にはあいつが必要不可欠でまたあいつにも国が必要不可欠な存在であり、それに比べたら俺など国からすればそこらに転がる小石程度の、いくらでも代えが効くちっぽけな存在でしかない。

 

 

-よもやこれがお前と交わす最後の酒になろうとはな

 

-お互い味わって飲もうや。酔いで互いの存在を忘れるぐらいに

 

 

俺はあいつのためにそして国のために最善を尽くしたはずだった。国のためにつくす最後の忠義であると自らに言い聞かせながら、俺はある女と共に生まれ育った国を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

「太刀を使う銀と紺の髪をした二人の剣士っスか。…今のところそんな情報はウチの手元にはないっスね」

 

「そうか…追加でそれについても調べて欲しい」

 

 

中央広場に建ち並ぶ商店の片隅にある小さなカフェ。

その屋外に設けられた席にエイルは一人の少女と同席していた。

ピョコンと立ったウサギの耳と小柄な体格がチャームポイントの愛らしい見た目をした獣人。

彼女はティアリスと言いルーンガイストとの戦端が開かれる少し前にシルディアを訪れた流浪の旅人で、情報を売る商売いわゆる情報屋なるものを独自で行っている。

エイルがティアリスと知り合ったのはごく最近のことで、情報屋である彼女と定期的に接触している。

 

 

「了解っス、リストにちゃんと書き足しておくっスよ。勿論エイっちが探してる仮面の魔導師についても何かそれらしい情報を掴んだら逐一報告するから安心して欲しいっス」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「それと申し訳ないことに今回はあんまり目ぼしい情報はあげられないっスね。……あ、でも仮面で思い出したけどそういえば今ルーンガイストで奇妙な噂が流れてるらしいっスよ」

 

「…それ、教えてくれないか?」

 

「いやぁルーンガイストに住む知り合いから仕入れた話なんスけど…情報屋としての観点からして根拠がない上あんまりピンとこない情報で裏取ってるとこなんス。エイっちから報酬を貰っている以上こっちもちゃんと裏が取れた新鮮な情報を提供したいっスからね」

 

「その呼び方はともかく…どんな情報でも欲しいんだ。教えてくれ」

 

 

いつ頃からかティアリスに付けられた未だに馴れない呼び名で呼ばれることに、僅かばかりの抵抗を持ちながらもティアリスの話に耳を傾ける。

 

 

「アスクレイがルーンガイストに付いたって話はもう知ってるっスよね。そのアスクレイに関して妙な噂があるみたいス」

 

「四勇者、アスクレイの…?」

 

 

四勇者の内の一人にして知識において右に出る者はいないと知らしめられ、賢人アスクレイの二つ名まで与えられた。

エイルも所属するヴァイスリッターの団長ヴォルグと同じく十六前の大戦を生き延びた。

学問所で歴史の教科書に乗る程にその名を轟かせた英雄だ。

 

 

「そのウチの知り合いのまた知り合いの兵士から聞いた話によるとアスクレイは仮面を付けているらしいっス。十六年前には付けていなかった仮面を…」

 

「仮面を?」

 

「もっともその兵士は過去の大戦で負った酷い怪我を仮面で隠しているだけだろうって酒飲んで笑い飛ばしてたらしいみたいっス。だから信憑性はかなり薄いんスけど、一応裏取りはしとくつもりっス」

 

 

ティアリスはそれを伝えると注文したばかりの果実搾りジュースをストローで吸う。

両手で抑えたりストロー越しに息を吹きかけブクブク泡を立てて遊ぶ様は彼女の身丈が平均的な獣人と比較して小さい分、それと合間って無邪気な子どもにしか見えない。

 

 

「あれ?あそこにいるのエイっちのところの団長さんじゃないっスか?」

 

(だからその呼び方…)

 

 

訂正する気を微塵も見せないティアリスに悲観しつつ、エイルは彼女の双眸が見つめる先を目で追って行く。

すると確かに厨房でよく見慣れた背格好の狼の獣人がいる。

 

 

「本当だ…」

 

「何か買ってるっスね。あそこは確か-」

 

「花屋だ」

 

 

花屋の女店主とかなり慣れ親しんだ様子で白い花束を買いどこかへ行くヴォルグ。

その後ろ姿は酒場のマスターとしてでも傭兵団の団長でもなく、エイルとティアリスはもの珍しげに眺めていた。

 

 

「花買ってどこ行くんスかね」

 

「あの方向、勇者亭に戻るんじゃないな」

 

「ウチの記憶が正しければあっち方面にあるのは確か霊園っスよ」

 

「霊園か…」

 

 

訪れたことはないが城の付近に設けられた墓地があるという話は、噂話程度には聞いていた。

この間のルーンガイストとの戦闘は郊外で行ったため作戦の犠牲者の墓参りという線は薄いだろう。

 

 

「気になるって顔してるっスよ、エイっち」

 

「うん?…ああ、いや」

 

 

情報屋を生業にしてるだけあって人の心の機微を捉えるのに長けているためかティアリスは、エイルの表情を一目見ただけでそう断言する。

言い当てられたエイルは内心初めて垣間見た彼女の意外な技術に舌を巻く。

 

 

「気にならない、そう言ったら嘘になるけど」

 

「だったら呑気にこんなところに座ってちゃダメっス。今日の営業は終わりっスから」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

「ほら早く行かないと見失っちゃうっスよ。まためぼしい情報が手に入ったら必ず知らせるっスから」

 

 

 

 

 

ヴォルグな花を買ったその足を止めたのはシルディアの霊園。

とても広いとは言えないが、並ぶ墓碑同士の間隔はまだ充分に余裕があるほうだ。

生い茂る鮮やかな色合いの草花を踏み締めたヴォルグは、数多ある墓碑の中の一つに止まり花を添える。

 

 

「久しぶりだな。悪い、ここんとここうして会いに来る時間がなくてな。あいつは元気に育ってるぜ…心なしか顔つきが段々お前に近づいてきた。物怖じしねえ頑固なところは父親譲りだろうがな。たまに手に負えなくて仕方ねえよ」

 

 

花を手向けた虚しさと懐かしみを同居させた双眸と声色で、ヴォルグは墓碑に語りかける。

 

「ああ心配すんな……あいつの父親は俺だ。ちゃんと幸せにしてやる、だからお前は安心して見守っててやってくれ…」

 

 

そこで言葉を切り、暫し佇んでいるとそよ風が吹く。

だがどんなに強い風力の風を持ってしても、心に染み付いた罪悪感と僅かな後悔の念を拭き取ってくれなどしない。

いや言い替えるならばできないと言った方が適切だろう。

彼女が死んでからずっとそれらを抱えたまま今日まで生きてきた。

故に罪悪感と後悔と、隠してきた秘密を墓に持っていくとそう誓ったのだ。

 

 

「また来る…次はいつになるか分からないけど必ずまた来る」

 

 

そう言い残して踵を返すと霊園の入り口にこちらを見守るように佇むエイルを発見し、ヴォルグは目を丸くする。

 

 

「お前…」

 

 

ヴォルグとエイルは霊園を出て勇者亭へと歩みを進めていた。

その道すがらヴォルグは彼に霊園にいた理由を語り出した。

 

 

「さっきのな…昔の知り合いのだ。もう十年以上前に別れた女のな」

 

「大事な人、だったんでしょうね」

 

「ああ…自分に正直で真っ直ぐ芯が通ったぶれない心を持った強い女だ。それでいて他人をいたわる慈悲深さも兼ね備えた優しいやつだった」

 

 

会話が弾みヴォルグは昔の記憶を鮮明に思い出す。

大事な存在だった。彼女は名の知れた踊り子で、彼女の舞いは華麗で他の踊り子たちとは別格の光を、太陽のような輝きを放っていた。

その踊りにヴォルグと彼の親友は魅了され、親友が柄にもなく惚けた顔をしていてそれを尻目に振るえる腹を抱えていたのを覚えている。

だが記憶に残っているのは楽しい思い出ばかりではない。

 

 

「けど死んだ。先に逝っちまいやがった…一人先に」

 

「ヴォルグさん…」

 

 

雲一つない青白く光る空に瞬く太陽を見上げるヴォルグを見てエイルはそう呟く。

彼の前にいるのは勇猛果敢に敵に立ち向かう傭兵集団の団長でも、儲からないしがない酒場を切り盛りするマスターでもない。

親しい者を失い途方もない悲しみを経験した一人の狼獣人だ。

 

 

「多くの命を奪った俺よりあいつの方が何倍も生きる価値があったんだ。世の中ってのは不条理だよな、良いやつが死んじまって、迷惑なやつがこうしてしぶとく生き延びてるんだからな」

 

「そんな言い方…ヴォルグさんが誰かを傷つけたのは大切な人を守るためにしたもののはず」

 

「大切なものを守るため…か」

 

 

それまで天を見つめていたヴォルグはエイルの言葉に視線を落として俯く。

 

 

「そのつもりだった。あの時の俺は自分をかなぐり捨ててでも守りたいと思った。友のためになら自分の何をも犠牲にして構わないと…そう思っていた。けどな、俺は十年経った今でも、いやそれだけの時が過ぎたからこそ昔の自分がした行為が正しかったのか疑問に思う」

 

 

今にもまどろみの中に消え入りそうな声で呟くヴォルグ。

詩人的にさえ思える彼の言葉に秘められた感情にはエイルもどこか納得できる節があった。

しかし彼はそれを直接相手に伝えるような真似はせず、ただただ聞き手に徹している。

 

 

「馬鹿な話だろ?だらしない大人だと笑ってもいい。俺はたった一人の女の死を何年もだらだらと引きずってる奴だと」

 

 

そう自虐めいた面持ちと言葉を示すヴォルグ。

彼が語ったことやその思いにはごまかしは一切ない。

 

 

「ありがとな。こんな話に付き合ってくれて、お前に話したからか少し気が紛れた」

 

「どうして僕に話してくれたんですか?」

 

「成り行き、ってのは建前だな。上手く言えないが前々からお前からは俺と近い匂いがしたからだろう。お前も何かしらの深い事情があるんだろ」

 

 

他の人間だったら絶対に話さなかっただろう。

時折垣間見せる姿がどことなく自分と同じ匂いのするエイルだからこそ、打ち明けたのかもしれない。

そして自分が過去のしがらみに囚われているが故に、他人の抱えている問題にも目が行き届きやすくなるものなのだ。

 

 

「…」

 

 

ヴォルグの言葉にエイルは苦い顔をして視線を反らし、俯く。

普段心の機微を見せないだけにその反応はヴォルグにとって真新しいものだった。どうやら当たりだったようだ。

 

 

「…そうか…お前の気が向いたらでいい。だらしない大人の愚痴を聞いてもらった礼だ。その時はいくらでも付き合ってやるよ」

 

 

ヴォルグはそれだけ言うと彼に背を預けて一足先に歩を運んだ。

本人が進んで話したがらないことを無理に聞くような不粋な真似はしない。

仮に話を打ち明けられたとしてもエイルの悩みを払拭できるはずもない。

それは本人が自分自身で答えを出し、解決しなければならない問題だ。

しかしエイルが答えを出すための手助けならばいくらでも力になれる。

伊達に長生きしてはいない。子どもが困っている時に力になってやれるのが大人の権限なのだから。

そのためにもまずだらしない大人を卒業する必要がある。

 

 

(俺もあいつも納得できる答えを見つけるまでもう少し時間がかかりそうだな)

 




次回と恐らくその次もサブイベント回になります。

この話を書いている間ずっとこころはタマゴ聞いてました。地の文ほとんどヴォルグさん中心だったからだな…二十回は聞いたぞ
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