今回のサブイベントは原作にある戦闘がありません。
その分次回の戦闘描写を頑張りたいと思います。
「アタシ最近誰かに見られてるような気がするの」
唐突にそう切り出したマオにその場に居合わせた誰もが頭上に疑問符を浮かべ、各々の行動を一時停止させて視線をそちらへ送る。
視線を一手に受けたマオは猫耳をぴょこぴょこ曲げながら彼らに説明するため言葉を紡いだ。
「ここ数日ぐらいアタシが街に出る度に誰かの視線を感じるの。それも一日に何度も」
「単なる勘違いじゃねえのか、それかあれだろ、鳥を何かと間違えたとかどうせそんなだろ」
「ちゃんと人の気配だったってば。どうして人の話を信じてくれないのよ」
「お前に付きまとう物好きがいるか普通」
皿洗いの片手間にマオの発言をそう一蹴するヴォルグ。
むすっと頬を風船のように膨らませたマオはあっさりヴォルグを切り捨て、他の面々に助けを求めた。
「いいよ、ダンチョーみたいなオジサンには最初から当てにしてないし」
「オジ…!?おいマオ、いつからそんな口を聞けるようになったんだ…ああ!」
「そういうわけだから誰か一緒に手伝ってくれると助かるんだけど」
余程マオの言葉が応えたのかヴォルグは皿を磨いていた手を止め、人食い狼のような目をぎろつかせ眉を吊り上げる。
彼を宥めつつピオスはヴォルグの威嚇を一切受け付けようとしないマオに問うた。
「具体的にどうするつもりですか?」
「今日一日アタシのボディーガードをお願いしたいの。誰かやってくれないかな?」
「あたしはいいわよ。本当なら放っておけないしそんなことをする奴がいるなら許せない」
「ありがとエルウィン。後は…」
マオは暫し待つがエルウィンが名乗りを挙げた以外は誰も立候補しなかった。
ヴォルグは未だに青筋を立てているしブランネージュなど関心すらないのか、地下室から持ち出した魔法の書物に熱中している。
「他の皆は?」
「シオンとラザラスは特訓でリュウナはその付き添いだって。エイルはだいぶ前に団長におつかいを頼まれて外出中」
「じゃあアタシたち二人だけでやるしかないか」
「大丈夫。見つけたら必ず捕まえて痛い目にあわせてあげるんだから」
「頼りにしてるよエルウィン」
やむ無く二人だけで行動を開始しようと息巻いていた時扉が開く音がし、その数瞬後に紙袋を抱えたエイルが姿を見せた。
「頼まれた買い物済ませて来ましたよ」
「おうありがとな。今ちと手が離せないから適当なところに置いといてくれ」
「ねえエイルくん今時間あるよね」
「まあ、用事はないけど」
「決まりね。じゃああたしたち三人で行きましょう、レッツゴー!」
「え?ちょっ」
困惑の色を濃く表立って顔に出すエイルを他所にエルウィンとマオはそれぞれ彼の腕を引っ張って、意気揚々と街へ歩き出す。
相手に有無をも言わせぬ速さ、考えて行動に移すまでのタイムラグの短さ。
即断即決という言葉があれほど相応しい光景はないだろうと、エルウィンとマオの無駄のない洗練された動きを評しつつヴォルグはエイルに深い同情を禁じ得なかった。
「なんやかんや、あいつも面倒事に巻き込まれる体質持ってるよな」
ヴォルグのぼやきにブランネージュはページを捲るついでに口元を崩した。
エイルとエルウィンを引き連れたマオがその足で赴いたのはシルディアの東側に位置する山猫通り。
獣人族の集落のような役目を担っている区域で犬や熊など多種多様な獣人が暮らしている。
「つまり付きまとっている何かの正体を探るのを手伝って欲しいと」
マオとエルウィンに誘拐に近い形で連れ出されたエイルは二人からいきさつを聞き、そう言葉を漏らした。
「ごめんね。手伝わせちゃって」
「いいよ。それより心当たりはあるのか?最近何か人にそういうことをされるようなことをしたとか」
同行のさせ方がいささか乱暴であったことにはあえて触れずエイルはマオに訊ねる。
「誰かと揉めたとかそういうのはないかな。人に恨まれるようなこともしてないもん」
「やっぱりストーカーじゃない。最近そういうことする人多いらしいし」
「その可能性は低いな、ただのストーカーならマオがとっくに自分で解決してると思う」
「色んなところで視線を感じたんだけど一番多かったのがここなんだ」
エイルの言葉にこくりと頷きながらマオは二人より一歩先を行く。
「何の手掛かりもないとなるとこれは一朝一夕で解決できそうにないな」
「もちろんそんなことわかってるわ。今日がダメなら明日、明日がダメならまた次の日探せばいい…何日かかってもこの手で捕まえるまで諦めないわよ。覚悟してなさい」
(当人よりやる気出してないか)
情報収集を得意とするマオでも一切の手掛かりを手に入れられないとなると、彼女の身辺を彷徨いているらしい相手はただ者ではない。
これは骨が折れそうだとエイルが考える横でエルウィンが周囲を通りすがる人や怪しげな物陰に、目を凝らしていた。
そうして山猫通りの広場に差し掛かった時、マオの名を呼ぶ声が聞こえてくる。
「おやあんたマオじゃないか!久しぶりだねえ!」
「ロサンヌおばさん!」
「聞いたよあんた今じゃバルボア様のお庭番をしてるんだって?ちゃんとしっかり仕事してるのかい?」
「まあぼちぼちかな。ロサンヌおばさんこそ料理の腕は上達したの?」
「当たり前だよ。あんたと最後に会ってからどれだけ経ったと思ってるんだい」
「ほんとかなぁ~」
「嘘だと思うなら今度家に私の来な。得意料理のホワイトシチューをたんまりご馳走してあげるよ」
「ほんと?じゃあ楽しみにしとくよ」
先頭を歩くマオは偶然会ったロサンヌという白い毛皮に体を覆った犬の獣人と談笑を始めた。
親子程年の差があるであろう両者が親しげに話しているのを、エイルとエルウィンは物珍しそうに眺めている。
ロサンヌはマオから一度視線を外した時離れて位置からこちらを見ている二人に気付き、再びマオの赤い瞳に目を合わせる。
「あそこにいる人たちあんたの知り合いかい?」
「うんまあ、最近できた友だちなんだ」
「そうかい、よかったじゃないか。仲良くするんだよ」
「あ、マオねーちゃんじゃん!こないだあやとり教えてくれてありがとな!」
「マオねー今度一緒にお母さんのパン屋さんでパン食べよー」
「はいはい、困ったなあ…」
「ねえーマオねー!」
「わかったから落ち着いて。アタシの耳は二つしかないんだから一辺に話しかけられてもちゃんと相手してあげられないよ。一人一人順番に聞いてあげるから」
山猫通りの子どもたちに囲まれていささかあたふたした様子のマオ。
どことなく困惑した感じを見せつつもマオは子どもたちの身長に合わせるように膝を曲げ、一人一人話を聞いていく。
「マオ慕われてるんだね。」
「みたいだな。若干慣れていないようだけど」
「あの子、今じゃあんなだけど昔は色々あったからねぇ」
含みのある物言いをするロサンヌ。
それに隠された意味を薄々察するエイルとは真逆にエルウィンは答えをもらおうとロサンヌに訊ねた。
「マオに昔何かあったの?」
「あの子たちと同じくらいの時マオは友だちと言える人がいなかったの。それにこの街の人からも煙たがれてたのよビーストクォーターだからって」
「ビーストクォーター、人間と獣人のどっちの性質を持ちながらその両方とは異なる人種か…」
ビーストクォーター、と聞いてエルウィンは前にも似たような話になったことがあったのを思い出す。
それが人間と獣人の間に生まれた子を指すことも。
「そう、ビーストクォーターはどちらの仲間にもなれない、なってはいけない。ビーストクォーターと関わったら不幸が移る。あの子は周りからそう言われ続けてた」
「でもロサンヌさんはマオと仲良いんでしょ?さっきだって楽しそうだったし」
「私はあの子の母親と親友と言える間柄だったからね。だから小さい時からのあの子のこともよく知ってる。マオの母親は人間だったけど気の良い性格でね、よく料理が苦手だった私に教えてくれたよ…でも亡くなってしまったの。幼いマオを遺してね」
ロサンヌから語られたマオの過去にエルウィンは目を伏せて、子どもたちと戯れるマオを見やる。
太陽の日射しを受けて優雅に咲くひまわりのような明るい笑顔。
その横顔からはとてもロサンヌが言ったような悲惨な過去を経験したとは思えない。
太陽の日射しを受けて優雅に咲くひまわりのような明るい笑顔。
そんな表情をしている時のマオがエルウィンは好きだった。
「あたしはマオのこと友だちだと思ってる。今までもこれからもずっと」
「ありがとう。あなたみたいな人がマオの友だちになってくれて私も嬉しいわ」
まるで我がことのように喜びを露にするロサンヌ。
そこにエイルが気になっていた疑問をぶつける。
「マオの父親はいないんですか?」
「私は会ったことはないわ。アヤネ…マオの母親から聞いた話だとマオが生まれてすぐに亡くなったみたい。どこかの兵士だったらしいからたぶん戦で亡くなられたんじゃないかしら」
「そうですか」
エイルの質問に丁寧に答えたロサンヌは用事があるからと去って行った。
彼女がいなくなってエイルとエルウィンはマオの背中を見て各々の意見を述べ合う。
「あたしマオのこといつも明るくて陽気だなって思ってたけど、そんなことがあったなんて…何かあたしたちでしてあげられないかな。辛い過去を思い出さなくていいように」
「難しいな…そう簡単に払拭できるものじゃない。本人にとって忘れたい過去なら尚更、強くこべりついて離れない」
「それはわかってる。わかってるけど、あたしはマオの力になってあげたいの」
「どうして?」
「どうしてって、あたしにとってマオは仲間で友だちだから。友だちが悩んでたり困ってるならそれをどうにかしたいって思わない?」
エイルの言葉にエルウィンはそれが当たり前であるかのようにさらりと返す。
それが嘘偽りも飾り気のない言葉であるとエイルは十全にわかっていた。
自分の思ったまま、ありのままの自分でいられる彼女をエイルは羨ましさを感じながら、子どもたちとじゃれあうマオの後ろ姿を記憶に焼き付ける。
☆
ところ変わってルーンガイスト王城。
その正門前にて街を一望するドレスデンの元に慌ただしい様子でケイロンがやって来た。
「ドレスデン将軍!出兵なされるとは本当ですか!」
「おお、耳が早いなケイロン。その通りだ、シルディアに出向いた隊が壊滅状態に追い込まれたらしくてな、シルディア側がこれ以上付け上がらないよう出鼻を挫けとのことだ」
「隊が敗走したとの情報は私も知っています。しかしシルディアは小国、ドレスデン将軍程の方が出陣なさらずとも-」
「その驕りが隊を壊滅に追いやったのだ。シルディアも小国なれど立派な一国家、出兵した者を悪く言うつもりはないが彼らは侮っていたのだ。シルディアの戦力をな」
ドレスデンはシルディア派兵に参加した己の部下から報告を受けていた。
数少ない戦力で物量差を覆してみせ、戦場に出た者一人一人が瞳に確固たる意志を宿していたと。
「シルディアも必死だ。大事なものを守るためその手に刃を握る選択をした。ならばそれ相応の礼節を持って応えるねばならぬというものであろう。それがわからぬお主ではなかろうケイロン、お主もまた一人の武人であるのなら」
「…はい」
ドレスデンの言うようにケイロンもまた一人の武人だ。
故にドレスデンを尊敬しているし、彼の強い兵士としての矜持を理解していた。
先王ガルディニアス13世の王位継承時よりルーンベールに遣え数々の勲章を授かり、輝かしい戦績を挙げ将軍の地位にまで登り詰めた男。
彼に憧れ兵士に志願した者も多くいる程にその強さと人柄を評価された武人だ。
しかしだからこそケイロンは遺憾でならない。
そこまで国のために尽力してきた男が侵略戦争の片棒を担ぐことが。
まるで自ら兵士として積み上げたその輝かしい経歴に、泥を塗るような真似をすることをケイロンは望んでいない。
しかし同時に悟ってもいた。兵士ならば国から与えられた命はどんなに納得がいかなくとも飲み込まねばならないと。それが兵士の本分であるならば
「もう何も言いません。ですがこれだけは言わせてください…必ず任を果たし戻られると」
「無論だ。この身を国に捧げた時からそうしてきた。妻子を授かった今もそれは変わらぬ」
☆
「只今戻りました」
「ご苦労、報告を聞こう」
「シルディアはルーンガイストを撃退し陥落を免れました。しかし未だに戦力は乏しい状況…ルーンガイストに送り込んだ密偵の情報によりますとルーンガイストは次の進軍にドレスデン将軍を投入するとのこと。陥落も時間の問題かと思われます」
「ドレスデン将軍か、彼の者にはガルディニアス13世との会談の折り会ったことがある。忠義に厚く腕も立つ、敵に回したくないと思わされた優秀な兵士だ」
「それとあの件ですが…あの者の言うようにあの地の奥底にあるようです。ですがそこへの入り口が見当たらず内密での破壊は厳しいものかと思われます」
「わかった。もう下がってよいぞ」
「…もうひとつご報告がございます」
「なんだ?」
「今では多くの友人に恵まれているようです。奥方に似て笑顔が素敵でした」
「…そうか」
サブイベント回でもストーリーは進めます。
よろしければ感想を下さるとうれしいです。