シャイニング・ティアーズ 緑風の行く先   作:光陽03

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今回はタイトル通り巫女様の登場でございますよ。


episode 3 神なる竜に仕える巫女

王城での1件はたちまちピオスの知るところとなり彼らは勇者亭へと戻るとすぐさま質問責めにあった。

当然と言うべきか理由が理由だけに全員…特に発端となったエルウィンは盛大にピオスの説教をもらい、解放された時には身も心も憔悴仕切っていた。

そして後日

 

「残念だなもう行くのか」

 

「もう利子も含めて払い終えたましたから」

 

「俺には止める権利はないんだができればこのまま働いて欲しかったな」

 

「気持ちだけ受け取っておきます」

 

 

優秀な働き手が今日限りで去ってしまうのを嘆くように手を上げるヴォルグ。

そんな彼にエイルは手荷物を担ぎ上げながら感謝の思いを口にする。

 

 

「色々とお世話になりました。ヴォルグさん」

 

「おう、今度は客として来い。その時はちゃんと金を用意しておけよ、でないとまた働いてもらうからな」

 

「気を付けます」

 

 

半分程本音が込もっていそうな冗談にエイルは愛想笑いを浮かべてそう返すと出入口の取っ手へ手を伸ばそうとした瞬間、ヴォルグが思い出したように手を打ち付けた。

 

 

「そういえばあいつらには言っておいたのか?」

 

「…いいえ」

 

「短い間とはいっても一緒に仕事した仲だろ。別れの一言ぐらい残したらどうだ」

 

「……いいです。別れを惜しむ程の仲じゃありませんから」

 

「そ、そうか」

 

 

一見温厚さえ見える外見の少年の口からそんな冷めた言葉が飛び出すとは思わなかったのか、ヴォルグは1度驚き目を見張る。

しかしすぐに取り直すとエイルを送り出した。

 

 

「またな」

 

「はい」

 

たったそれだけのやり取りを残してエイルはしばらくは厄介になった宿を出ると、どこか名残惜しげに勇者亭の看板を見上げていたが沸き上がる感情を振り払うかのように頭を振るい、シルディア領外の街道を目指す

短期間でありながらも滞在していただけあってその歩に迷いはなく、シルディアを象徴する獅子のたてがみと呼ばれている三重の城壁の目前まで着いていた。

ここまでくれば後はカリナ街道を道なりに一直線に進めばルーンベール領内に辿り着く。

 

 

「行くか……ん」

 

「はあ、はあ」

 

 

人が走って来る。遠目からでは識別しづらいが行商人の格好ではない。

目を細めて見るとあちらとの距離も縮まりつつあるおかげでその姿が鮮明に捉えられていく。

白い法衣を着たいかにも清楚の言葉が似合いそうな黒髪の少女だ。

 

 

「すいません!お城はどちらですか?」

 

「君は?」

 

「神竜の巫女リュウナと申します」

 

「神竜の、ならエトワール神殿の巫女か」

 

「はい」

 

 

少女の名はリュウナ。エトワール神殿の巫女だ

そして彼女の持っている杖こそエトワール神殿に代々伝わるとされているカドゥケウスの杖と呼ばれる神具である。

 

 

「その巫女が城に何の目的で?」

 

「神殿が魔物たちに襲われているのです。どうにかわたくしはこの事態をシルディアへ知らせるためにここまで来たのですが…ラザラスがまだ」

 

「ラザラス?」

 

「わたくしの友人です。彼は魔物たちからわたくしを逃がしたために今も神殿で戦っているはずなのです」

 

 

リュウナの目的を聞いたエイルは深刻な状況に静かに息を飲み険しい顔をし、このタイミングでのエトワール神殿襲撃に作為的なものを感じていた。

エトワール神殿が襲撃を受けるなどこれまでにない異常事態、ましてやここ数日シルディア近辺で不可解なことが勃発している今、それらとの関連性を疑わないほうがおかしい。

ましてや神なる竜、神竜を祀っている神殿が今攻撃に晒されているとなれば

 

 

「そっちがどういう状況にいるのかはわかった。この道を立て札通りに進めば城に着ける」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

 

エイルに丁寧な礼をするとリュウナはそそくさ駆け足でシルディアの街中へと入っていき、それを見届けたエイルはエトワール神殿が佇んでいる牙竜山へと視線を移す。

リュウナの要求が飲まれ兵の徴収が成されたとしても、その兵隊が神殿に着くのは相当の時を要する。

それまでリュウナの友人であるらしいラザラスの身の安全は厳しいところだろう。

だがどうすればいいというのだ?今の自分にはルーンベールへ行かなければならない。寄り道をして時間を食っては取り返しが意味がない

そしてこうして考えている瞬間にも時は止まらず進んでいく、そんなに長い時間迷ってはいられない。

長考の末エイルはある決断に踏み切った。

声を荒げて髪をまさぐりながらもその双眸は、揺らぐことなく牙竜山の一点を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

勇者亭にも同様の報せがもたらされ場にいる全員が驚愕を余儀なくされた。

その一報を彼らに伝えたのはリュウナだった。

エイルと別れた後彼の教え通りに城を探し求めていたのだが、土地勘に慣れていないためか迷い右往左往しているうちに勇者亭へと行き着いたらしい。

彼女からそれを聞いたヴォルグは即座に城への伝令係にアイラ…もといブランネージュを送り出し、ピオスもまた長距離を移動し疲労しているであろうリュウナを宿の一室で休ませていた。

しかしそのリュウナが目を離した隙に部屋から姿を消してしまい、再びシオンらは度肝を抜かれる。

 

 

「いなくなったって…一体どこに行ったんですか?」

 

「おそらくエトワール神殿でしょう。友人を助けるために向かったと考えたほうが自然です」

 

「そんな!だったら急いで連れ戻さないと。行くわよシオン」

 

「う、うん」

 

「まだそう遠くへは行っていないはずです。この付近を重点的に探しましょう」

 

 

そうピオスはエルウィンとシオンに手分けしてリュウナを探すようにと言って聞かせる。

発見したらすぐに勇者亭へと彼女と一緒に戻って来る、そう取り決めをした彼ら2人は路地をそれぞれ別の方角へと走り出す。

 

 

「待ってください巫女様!」

 

 

それから街道へとシオンがやはり神殿へと向かっていたリュウナを無事発見し呼び止める。

その声を聞きリュウナは一瞬歩みを止め振り返ると、怪訝そうな口調と顔色でシオンに問いかけた。

 

 

「あなたは!どうして…」

 

「駄目ですよ1人で神殿に行くなんて危険です!勇者亭に戻りましょう」

 

「ですが、ラザラスは今も戦っているのにわたくしだけ何もしないではいられません。わたくしのことはお気になさらず」

 

 

シオンの注意にきっぱり断りを入れたリュウナは、草花を蹴り華奢な足を神殿への道へと運ぶ。

二の句を告げるより前に自らの目の前からいなくなってしまったリュウナにシオンはどうするべきか戸惑いが止まらなかったものの、彼もまた意を決して後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

隆起が激しい山道を越えエトワール神殿の入り口に立ったリュウナとシオンが捉えた目にしたのは、銀光の一線で骸骨兵の胴を半ばから切り離す剣士だった。

 

 

「はああああっ!」

 

「あの方は先程の…」

 

「あれって…エイル!どうしてここに?もうどこかに行ったはずじゃ」

 

「ご存知なのですか?」

 

「一応顔見知りなんだけど…」

 

 

それはリュウナにとってはつい先程会ったばかりの、シオンにとっては最近何日か同じ宿で働いていてすっかり馴染みのある顔ぶれ。

その彼が骸骨兵(スケルトン)とオークの群れを片手剣による一振りの下に掃討していた。

如何なる理由でエトワール神殿にいるのかは不明だが、彼はエトワール神殿を襲撃したであろうモンスターの排除をしている。

つまりは自分たちと同じ目的、ならばすることは同じはずだ?

 

 

「と、とにかくモンスターをどうにかしないと」

 

 

そう口にはしてみたが頼みの綱の双竜の指輪。

その片割れはエルウィンが所持している。

記憶喪失となってから今まで戦闘は2回あった。

白ユリ採取の時の魔物と先日の泥棒たちを相手にした時だ。

そしてその時には常に自分とエルウィンの手に指輪にあり、その力による強力な加護のおかげでまともに戦えた。

しかし今は違う。指輪の魔力無しでどこまでやれるか

もしかすれば敗北してしまうかもしれない……いやそれならばまだマシなほうだ。

 

 

(指輪がない今の僕ができるのか……でも僕がやらなきゃ彼女を危険な目に遭わせてしまう……そうなるのは嫌だ!)

 

 

戦うのは怖い。だがそれよりもっと怖いのは自分の力無さで誰かを死なせてしまうことだ。

そのほうがよっぽど辛いし嫌だ。万が一の際は彼女だけでも逃がそう、そう心に決め大剣を持つ手が恐怖で震えているのも構わず骸の集団に飛び込もうとした時

 

 

「!これは」

 

「わたくしの手に指輪が!?」

 

 

リュウナの掌から光が溢れ、不審に感じた彼女が開いた手中にあったのは指輪。そう、エルウィンが持っているはずの双竜の指輪の片割れがシオンの思いに答えるかのように現れたのだ。

 

 

「指輪同士が引き合うのか?」

 

 

正式な持ち主であるシオンにもこの超自然の現象を片付けるにはそうとしか言い様がなく、詳しく追究している余裕もない。

その光景をシオンは疑わしく思いながらもひとまずリュウナに言い聞かせる

 

 

「巫女様それを指に嵌めてください!」

 

「これは何なのですか?」

 

「それは双竜の指輪と言って付けると戦う力が沸いてくるんです」

 

 

急に何の説明もしていないのに理解してくれるかは正直賭けに近かった。

だが案の定リュウナはシオンが嘘をついているとは疑わずに、その言葉を信じて言われた通り指輪を嵌めた。

やはりエルウィンがした時と同じく体を不可思議な活力が駆け巡り、シオンは急激に力が満ちてくる満足感を得る。

リュウナもまたシオンと同じ物量、同質の力に黒い瞳が丸くなり戸惑っていた。

 

 

「わたくしの中に力が涌き出てくる」

 

「どうだ?一暴れしたい気分になってきただろ」

 

「…あなた先程とまったく違いますね…全身から強い破壊衝動が溢れています」

 

「そうか?てか今、そんなのはどうだっていいだろ。さっさと片付けようぜ」

 

 

指輪の影響で攻撃的な面が目立つシオンをリュウナか悲しさを混ざった言葉でそう評するも、てんで気にも止めず軽々と大剣を肩に担ぐ。

そしてふとあることを思い出しリュウナへ首だけを振り向かせこう口にする。

 

 

「そういやまだ名前言ってなかったな、シオンだ」

 

「リュウナです。神竜の巫女のリュウナ」

 

「そうか、んじゃいくぜリュウナ!」

 

そう清々しいまでに歓喜で満たしたままにシオンは石床を力強く蹴り、重力と武器自体の重量も相まって破壊力が増大した大剣を振り下ろし、彼の接近を許したオークが殺気に振り返った時にはその刀身が矮小な体躯に無情なまでに綺麗に吸い込まれた。

そして死骸と成り果てたそれから己の得物を引き抜く勢いを利用し、真横に並び立ったスケルトンをあっさり切り飛ばす。

 

 

「シオン?それに君も…」

 

「まさかお前がここにいるなんてな、なんだってまたこんなところにこんな奴らと戦ってんだ?もうとっくにどっか行ったって聞いたぜ?」

 

「少し予定が狂ってね……そっちは、見たところ目的は同じか」

 

 

エイルも指輪の影響を受けているシオンと彼の傍らにて掌より放つ眩い光球でスケルトンを消滅させたリュウナの存在を認め、斧を振るうオークが自分の間合いに入って間もなくそれを切り分ける。

そしてそれらの群れを束ねていると思われるオークを力任せに蹴りつけ、石床に醜悪な形相の顔を叩き落とすと彼らに合流し背中合わせの状態になる。

 

「シオンさんそれとエイルさんとおっしゃいましたか。どうかお2人の力を貸していただけないでしょうか?」

 

「今更何言ってんだよ。もうこうしてやってんじゃねえか…それに畏まって言う必要もねえよ」

 

「オークは僕らでもどうにかなるけど面倒なアンデッドに関してはこっちは専門外だ。こっちも君の力を貸してもらうから気にしなくていい」

 

「ありがとうございます!」

 

シオンとエイルにそう言われリュウナは自分の勝手で巻き込んでしまったと抱いていた罪悪感が和らぎ、口調こそ異なるものの初対面である己を労ってくれた優しさに自然と微笑みが溢れる。

そして2振りの剣を持つ剣士2人と聖なる神秘の力を宿した巫女は、共に魔物たちへとそれぞれの攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い、まだか。まだ船は出ないのか!」

 

ヴァレリアの地より海を挟んだ遠い遠い港町。

その船着き場にて落ち着きがなそうに髪を掻く男と対称的に物静かに緩やかに流れる波を眺める男がいた。

どちらも現地住民ではないようで、先程から1歩も動かずにただ同じ場所にいるだけだ。

 

 

「仕方ないだろう。我々が着く少し前に出航してしまったのだから、こればかりは運がなかったとしか言い様がない」

 

「運がなかったか…だがこれから起ころうとしている。いや、もう既に起こっているであろうことはそんな簡単な一言では片付かんぞ。わかっているな?」

 

「ああ無論だ……しかしあの男が語った内容は事実なのか?私にはにわかには信じがたいが」

 

 

海面から目線を切らした男が疑わしそうに疑問を投げ掛けるが、もう1人の男はそれを即座に否定した。

 

「偽りではなかろう。あの男はヴァレリアにおいて伝説に残る偉業を成し遂げた者たちの内の1人で、同様の活躍をした忠義に厚い男を俺は昔からよく知っている…認めたくはないが奴が俺たちに言ったことはおそらく全て事実だ」

 

「……だとすれば確かに大きな問題だな。ヴァレリアにとってもこのエンディアス全体にとっても」

 

 

そこで言葉を途切らせた男はしばしの間をおいて一息つくと、口調に重みを持たせ更にこう続けた。

 

 

「そんなことは私にはたいして興味はない。だがお前が望むのであれば私は自ら進んでこの力を捧げよう。お前がこの負の流れになりつつある世界を止めたいと言うのなら、私も微力ながらそのために喜んでお前のもうひとつの剣となろう」

 

 

「…その心遣いに感謝する。ならば頼む!恥ずかしながら俺の力だけでは止められない。お前の力…いや、お前が必要だ。俺と共に祖国をそして世界を守るための道を歩んでくれ!友よ!」

 

 

今この時こそ、ヴァレリアより離れた異国の地で2人の男たちが誓いを立てた瞬間であった。

 

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