シャイニング・ティアーズ 緑風の行く先   作:光陽03

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だいぶ遅めな更新となってしまって申し訳ございません!新生活に慣れるのにかなり時間がかかってしまい執筆が滞っておりました。
私の作品を待ってくださった方がいるかわかりませんが、お楽しみくだされば幸いです


episode 5 葛藤・迷い

ヴァレリア地方東部に位置する聖王国ルーンベール否、ルーンガイストによるシルディアへの宣戦布告はシルディア国民のみならず、ヴァレリア中を震撼させた。

シルディア領外の平原には既にルーンガイスト軍の先見隊が陣取っており、シルディア国外から国内への入国は厳しくなっている。

シオン・エイル・リュウナ・ラザラスらは完全に軍備が整う前にシルディア内に帰還できたため、軍に捕らえられる心配はなかった。

そして勇者亭に戻った彼らに突きつけられたのが

 

 

「シルディアに宣戦布告!?どういうことですかヴォルグさん!」

 

「はっ、そんなのこっちが聞きてえよ」

 

「あなた方が戻って来る少し前にルーンガイスト軍から国主様に宣戦布告を示す書簡が送られたそうです。『シルディアの戦力を全て放棄すること、領土と財産の全てをルーンベールに委託すること、それらの要求が満たされた時貴国をルーンガイストの属国とする。なおこれらの要求が飲まれなかった場合我が国はシルディアを悪質な敵性国家と見なし武力を持ってこれを実行するであろう。両国の関係の発展のために貴国の賢明な判断を期待する』…そう書かれていたそうですよ」

 

「…事実上の宣戦布告。侵略だな」

 

 

和平などと銘打っているが実際あちらは刃の矛先をこちらに向けている。

あからさまな宣戦布告以外の他になんと言えるのだろうか。

-はなっから選択肢を与える気すらない。

書簡を綴った書き手にヴォルグのように憤りを抱くどころか、通り越して呆れが先行していたピオスとエイル。

ずれた眼鏡を指先で整えるピオスの冷淡な顔に壁際に寄りかかっていたエイルが問いかけた。

 

 

「ルーンベール、いやルーンガイストからの書簡の送り主は誰だかわかりますか」

 

「そこまではさすがに私にもわかりかねますが旅人からの話によるとルーンベールは数日程前クーデターが勃発し、ルーンベール王城はクーデターを起こした張本人である第二王子が覇権を握っているそうです」

 

「じゃあその第二王子が軍隊をシルディアに送って来たってこと?」

 

「ええ、そう考えるのが妥当でしょう」

 

 

端から疑問を呈したエルウィンにピオスは包み隠さずそう告げ、その直後に一言付け足す。

 

 

「しかしあくまでもこれは私の憶測に過ぎません。事実が本当にそうか断言できませんし、その真相を明らかにする手立てもありません。ですが-」

 

「はっきりしてんのはこのシルディアがとてつもなくヤバい状況だってことだ」

 

 

かなりざっくり内容を噛み砕いた物言いだがそれでも、危機感は充分過ぎる程伝わってきた。

国と国同士の争い、それは何が何でも避けなればならないところ。

しかしそうするにはシルディアはルーンガイストの軍門に下らなければならない。

人命を優先するならば迷うことなくそちらを選ぶのが最良の判断と言えよう。

だがヴァレリア他の4国に比べて小国なシルディアであろうと国家としての面目、いや威厳というものがある。

そう易々と国主バルボアが何の抵抗なく受け入れるはずもないだろう。

それにあちらの要求を飲んだとして民を含んだ自国の安全が保証されるとも明示されていない。

 

 

「どの道まともな先が待ってないのは確かだな…ったく酒飲んでも紛れる気がしねえ」

 

「お酒と言えば、ここにいたお客さんたちはどこにいったんですか?」

 

「あ、ほんとだ。いつもならこの時間でもずっと飲んだくれてるのに」

 

 

ヴォルグが愚痴混じりに吐き捨てた言葉にシオンとエルウィンが反応し、思い出したようについ先日まで酒や料理を食していた者たちの姿を求めて瞳を動かす。

 

 

「あいつらは客じゃない。れっきとした傭兵だよ、でも傭兵共ならとっくに尻尾巻いて逃げ出したぜ。ルーンガイスト(向こう)にケイロンとアスクレイがいると知って恐れをなしてな」

 

「ケイロンと…アスクレイが!?本当ですかマスター!」

 

「知らなかったのか。さっきから町中で噂になってる、かの四勇者の内2人がルーンガイストに味方してるってよ」

 

「四勇者…?」

 

 

ヴォルグとピオスによる会話の中に出てきた『四勇者』という単語に、シオンが訝しげに首を傾げる。

初耳であるかのような発音に彼以外の全員が一斉にシオンを見るが、事情を知らぬリュウナとラザラスを除いた面々は合点がいったと視線で示す。

事情を知る者たちを代表して珍しく困惑という感情を表にだした、ピオスが四勇者の説明をシオンに語る。

 

 

「…四勇者とはかつてこのヴァレリアの地に現れた邪神を討ち果たしたとされる4人の英雄たちのことです。聖騎士ケイロン、賢者アスクレイ、大魔導師ゼノヴィア、そしてもうひとり」

 

「神弓のクピード…でしょ?」

 

 

四勇者最後の1人の名を引き継ぐ形で答えたエルウィンにピオスは首で肯定の意を表現すると、解説を続行させる。

 

 

「ええ、世界を危機から救った彼ら4人を人々は敬意を込めて『四勇者』と呼ぶようになったのです。お分かり頂けましたか?」

 

「は、はい。でもそんな偉大な人がどうしてルーンガイストに味方する理由って…」

 

「さあな、知りたいなら本人にでも聞いてみたらどうだ?」

 

「その是非はともかくとして、ケイロンとアスクレイを味方に付けたルーンガイストを相手にするのはシルディアにとって厳しくなるでしょう。ましてや軍隊を持たないこの国では」

 

 

そもそもシルディアは恵まれた土地と多種族との交流に目をつけた、国主バルボアの商才で栄えた小さな商業国家。

人間の数倍程の身体能力を誇る獣人の大国ベスティアや、古来から魔法使いの血族によって発展した魔法を持つ島国クラントールと比べて、とてもではないが軍事力に乏しい。

せいぜい南方のエルフの国フォンティーナに勝る程度の武力だろう。

しかも長く戦に瀕していないためにバルボアは商業に熱中し、国を守護する役目を担う傭兵への扱いを疎かにしてしまい、働き手を失う傭兵が続出しその数は激減していた。

 

 

「少なくともバルボアは素直に応じるタマじゃないだろう。せっかく自分の手ででっかくした国だ、それ以上の見返りなく手放すはずはない」

 

「エトワール神殿も、奪われてしまったと聞きましたし」

 

 

リュウナが視線を落とし心痛な面持ちを露にする。

シオンたちが勇者亭に戻る道すがらルーンガイストの宣戦布告の一報と共に、シルディアの住民の間に噂として流れていた。

-エトワール神殿がルーンガイスト軍の一部隊に占拠されたと

さっきまで自分たちがいた場所が乗っ取られた、だがあそこは今や無人…もぬけの殻だ。

陣地としては最適だし占拠も楽々だったことだろう。

否定したい気持ちを事実が冷徹にも押し潰す。

それを理解しているのかはたまたそうでないのかは定かではないが、ラザラスは尖った下歯を噛みしめ憤る。

 

 

「ルーンガイスト、許さない、オレ、神殿取り戻す」

 

「よせ、気持ちはわからないでもないがたった2人でどうにかなる規模の相手じゃない。かといって国がどうこうする気配もなし…お手上げだなこりゃ」

 

「ちょっとそんな簡単に諦めていいの!?あたしは嫌よ」

 

 

無念さや悔しさを捨て去るヴォルグの態度にエルウィンは口を尖らせて咎めた。

 

 

「…ならどうする?戦うか?無駄だと、勝ち目のない戦いだとわかりきっていてもか」

 

「何もしないよりは然マシ。ここに来て日は浅いけどシルディアの人たちは皆いい人だって知ってる。こんな横暴見過ごせないわ」

 

 

おおよそ愛国心からくるものではない。

彼女たちエルフ族は生まれも育ちも南方の森の国フォンティーナである。

エルフ族は自国に誇りと思い入れを強く持っていると聞くが、エルウィンの場合はそういった感情が他国のはずのシルディアにも反映されているのだろう。

淀みのない澄みきった瞳でヴォルグを見るエルウィン。

その水晶色の瞳に宿った揺るぎない決断の光を悟ったヴォルグは緩やかに目を一旦閉じた後、他の面々にも同様の問いを投げる。

 

 

「お前らはどうだ?このまま黙って見ているかそれとも勝ち目のない戦いでも足掻いてみるか…」

 

 

その言葉はエルウィンとヴォルグの会話を耳にした全ての者に重大な重みを持ってのしかかる。

緊迫した空気が全員の心に重圧感として影響力を与え彼らに選択の重さを思い知らせていた。

そんな中意外にも誰よりも決断したのはリュウナであった。

 

 

「私はエルウィンさんと同じく戦う道を選びます。ルーンガイスト国の行為は巫女として、私個人としても許せません」

 

「リュウナ戦うなら、オレ戦う。ルーンガイスト、許さない」

 

「…これで3人か。シオンとエイル、お前らはどうする。エルウィンはああは言ったが」

 

 

リュウナに続いてラザラスが答え残りはエイルとシオンのみ。

何らかの原因で今までの記憶の全てを失った記憶喪失者と詳細不明の重傷を負ったどこから来たのかはっきりしない流れ者。

ヴォルグが言ったようにシルディアともエトワール神殿とも無関係の人間。

ましてやエルウィン程シルディアという街に愛着やこだわりもないはず。

しかし予想に反してエイルは戦う意を示した。

 

「戦う」

 

「何のためにだ?」

 

「やらなければならないこと、確かめたいことがある。それを果たすまではここにいさせてもらう」

「その確かめたいことってのは何なんだ?」

 

「…言えません。」

 

 

その一言で打ち切り壁にもたれかかるエイル。

-訳ありか

この一件に彼にも何かしらの背景があるのだとヴォルグは察する。

だからあえてそれに関して深くは追及せず、シオンの回答を待つ。

 

 

「僕も、戦います。記憶はないけどここに来てからの記憶ができた、ここは記憶のない僕にとって家みたいな場所だから、その場所が危険に晒されているなら僕も守りたい…」

 

 

シオンもまた自分なりの答えを出して皆の前で言う。

彼で最後、つまり5人の民間人が一国を相手に立ち向かう決意を固めたというわけだ。

 

 

「はっ、どいつもこいつも馬鹿ばっかだな」

 

「マスターもう少し穏便な言葉を選んでください」

 

「ピオスこれが馬鹿と言わずに何だって言うんだ?むしろこれ以外の言葉が当てはまんねえだろ。たった6人(・ ・ ・ ・ ・ )で大国とやり合おうってんだぜ?」

 

 

ピオスの嗜めにヴォルグが長く尖った下歯を剥き出しにし、自虐的な微笑みを見せた。

一方でヴォルグの言葉を聞いた者たちは、彼が口にしたあるフレーズに引っ掛かりを覚えていた。

戦いを宣言したのはエルウィンを筆頭にリュウナ・ラザラス・エイル・シオンの順で5人、ヴォルグの言う人数と一致しないのだ。

 

 

「6人?他に誰かいるんですか?ヴォルグさん」

 

「俺だよ。ガキだけにそんな無謀な真似させられるか。普通なら止める立場なんだろうが、俺も少しばかり頭にきてな。あいつらに好き勝手されんのは気に食わん」

 

「やれやれ…もう何を言っても手遅れなようですね」

 

 

ピオスは肩を落とし重たいどんよりした溜め息を外気に晒す。

反論していたさっきとはまったく真逆の態度のヴォルグに、最初からその気だったのではと呆れの意味を込めた視線を送りつける。

 

 

「こうなっては仕方ありません。私も微力ながら皆さんの力にならせてもらいます」

 

「いいのかピオスこんな無茶苦茶な話に乗って」

 

「無茶苦茶な事に付き合うのは慣れてますから。主にあなたのね……遊撃傭兵騎士団ヴァイスリッター団長」

 

「ヴァイスリッターって、あのヴァイスリッター!?」

 

 

茶化すように告げるヴォルグの軽口をいなすピオスの言葉にエルウィンが愕然と目を見開き、驚きで声を大にして叫ぶ。

その真向かい、エルウィンの反応に頭の中を疑問符が埋めつくしているシオンの後方のエイルも、雷に打たれたように呆然としていた。

 

 

「ヴァイス…リッター?」

 

「さっき話した17年前の戦いで四勇者と一緒に戦った傭兵団よ。四勇者より知られてないけどその活躍ぶりは知る人ぞ知る伝説的な強さだったって聞いたことがある」

 

「そんなに凄い人だったんだヴォルグさんって」

 

 

-そんな人が何故宿酒場のマスターをやってるんだろう

エルウィンよりヴァイスリッターの輝かしい経歴を聞かされたシオンは胸中に驚愕が去来し、また率直な疑問が生まれた。

彼より注がれる疑惑の眼差しをヴォルグは気にも留めず先程の内容を一部否定する。

 

 

「昔の話だ。それに噂や昔話なんてのは大抵尾ひれがつくもんだ。実際大した活躍も力強い仲間もなかったし、それにその四勇者だって本当は…」

 

 

そこでヴォルグは目を見張り押し黙ったかと思えば、腕を組み直し彼の瞳はやや下方を向いている。

言いかけた先に触れてはいけない、口にしてはいけない何かに気付き慌てて途中で飲み込んだ。

そのヴォルグの様子からエイルはそういった印象を得た。

 

 

「とりあえずまずこれからの行動について話しましょう。ルーンガイスト軍はカリナ街道とエトワール神殿、この2つを陣地として使用しています」

 

 

卓上に広げたシルディア周辺の地図を見つめるピオス。

 

 

「今のところは戦力も装備も不十分な先遣隊のみですが、やがてルーンガイスト本国から万全の戦力を持つ本隊が合流するのも時間の問題…そこでこの先遣隊にこちらから奇襲を仕掛けます」

 

「見てもないのにどうして不十分だってわかるの?」

 

「シルディアの守備がまともに機能していないからです。元より軍隊を持たず戦に向かない国であることはあちらも重々存じている…こちらから抵抗されないとほぼわかりきっているようなものですから、少ない人員と装備で派兵されたはず」

 

「だから本隊との合流で戦力が強化される前に油断している奴らの足元を掬おうって算段か」

 

 

ピオスの狙いを見抜いたヴォルグは掌に拳を打合せ、狼の獣人らしい獰猛な微笑を露にする。

そういうことです、と相槌を打つピオスは更に自らの策を伝えていく。

 

 

「しかしそれでも不利であることには変わりありません。そこで陽動と奇襲を遂行するメンバーを振り分けます」

 

 

仮にも一国の軍隊。

前大戦を経験した猛者がいるとはいえそれ以外の戦力は民間人の寄せ集め。

エトワール神殿の巫女とその守り人など特殊な肩書きも戦場では無意味、民間人と何ら変わらない。

 

 

「この作戦のメインは奇襲にあります。陽動はいわば敵を引き寄せる囮になりますから奇襲を行うのは少人数…少数精鋭が望ましい」

 

 

誰かが息を飲む音が聞こえた。

ただでさえ少ない人数を振り分け奇襲と陽動を行う。

十中八九リスクが高く相当の危険を孕む策であるのは想像に難くない。

しかしあからさまに戦力が劣っている以上はそんな呑気なことを言っている場合でないのも事実。

それだけの豪胆さがなければこの先勝つことはおろか生き残れるかすら危ういまで戦力に乏しいのだ。

 

 

「数が多ければ多い程陽動の効果は期待できるもそんでもって戦力バランスもどっちか片方に偏り過ぎても駄目だ。せっかく片方が上手くいったってのにもう片方が失敗したら意味がねえ…」

 

 

ヴォルグがメンバーを振り分けるべく、数少ない面々を見渡しながら無言の熟考を始めた。

まず奇襲に不向きな回復役のリュウナは真っ先に除外とし、その彼女と付き合いの長さから連携を取りやすく彼女を補佐するに適任なラザラスも除いたほうがいい。

この時点で残りわずか4人。

剣や槍の届かぬ遠距離からの射撃ができるエルフの弓使いエルウィン、装備した者に絶対的な力をもたらす双竜の指輪の持ち主シオン、どのくらい実力があるのかどんな戦い方をするのか一切不明のエイル、そして自分。

やはり致命的なのは戦力の少なさ。

自惚れではないが大きな戦いを生き残った自分は一度に対応できる数は限られるが、物量があろうとある程度戦える自信はある。

だが他は違う。戦闘経験も浅く誰がどんな能力を持っているのかも正確に把握していない有り様。

作戦立案はピオスに任せるとしても、作戦開始までに最低限やれることはしておくにしても、それでも不安要素は拭えない。

下手に即断できず頭を悩ませるヴォルグを余所に室内を低めながらも透き通る女の声が響く。

 

 

「-その判断ちょっと待ってもらおうか」

 

 

唐突に乱入した声の持ち主に一同は一斉にそちらへ首を体ごと動かす。

いつからいたのか灯りが届かない薄暗い隅の円卓に大人びた少女が膝を組み合わせて座っていた。

青紫のローブに知性と美貌を余すとこなく持っているかのような外見からして、ただならぬ雰囲気に満ちていた。

 

 

「あなた誰?いきなりこっちの話に入ってきてなんのつもりよ?」

 

「ブランネージュ、ついこないだ団員に入ったばかりの魔法使いだ」

 

「でもさっき団員は僕らだけだって」

 

「あいつはちょっと特殊でな。団員って呼んでいいのか…いやそれはとにかくブランネージュ、何か言いたいことでもあるのか?」

 

 

勝手知ったるといった様子の見知らぬ彼女にエルウィンとシオンはそれぞれ団長であるヴォルグに疑問を口にする。

 

 

「昨日まで野良モンスターの掃除しかこなかったであろう者たちが本当に頼りになるのか、当てにしていいのか不安でな」

 

 

唐突に自らの名も名乗らず、割って入ってくるなり挑発めいた言葉を浴びせられていい気はしない。

しかしブランネージュは構わず続ける。

 

 

「それに信用できない」

 

「何がよ」

 

「二度も言わせるな。腕前もそうだが戦う動機が一番の不安要素だ。元いた場所を守りたい神竜の巫女と従者はまだわかるが、余所者のエルフであるお前。そしてお前以上にそこの記憶喪失だという男が特に信用できん」

 

「そんな僕だってシルディアを守りたい気持ちはある!君だってそうでしょ!?」

 

「お前と一緒にするな」

 

 

取りつく島もない冷ややかな態度にシオンはたじろぎながらもブランネージュに思いを吐くが、ばっさりと言い捨てられてしまう。

そして切り捨てた本人は更にシオンに淡々と告げた。

 

 

「先ほどお前はここを守りたいと…ここを自分にとっての家だと言っていたな。なら聞くがお前の本当の家が、家族がルーンガイスト(あちら)にあるとしたらそれでも守れるというのか?」

 

「…どういう…こと?…」

 

「呆れたものだな、まさかその可能性を視野に入れての決断ではなかったのか?お前の素性を知る者はここにいない。だがあちらにはお前の家族や友人、お前を知る者がいるかもしれない。その者を前にして戦えるか?迷わず刃を取りその者と戦うだけの覚悟はお前にあるのか?」

 

 

端から見れば畳み掛けるようなブランネージュの言葉にシオンの黒き瞳は明確な揺らぎを示した。

これには反発していたエルウィンも不安になりながらシオンの背中に視線を注いでいる。

あり得ない話ではない。

それだけにシオンにはブランネージュの指摘が他の誰にも計り知れない重荷となって、押し潰そうとしている。

返す言葉を失ったシオンにブランネージュは吐き捨てるように一言を残す。

 

 

「今度はだんまりか…今の私の言葉を返せないようであれば即刻ここから立ち去れ」

 

「ちょっといくら何でも言い過ぎよ!」

 

「よせエルウィン、ブランネージュは間違ってねえ。どんな小さな迷いでも相手に突け込まれれば大きな痛手になる。それが戦場なんだ……言い方は悪いがあいつなりの気遣いなんだよ」

 

 

シオンの心を追いつめるブランネージュに耐えかねたエルウィンに自身の見解を伝えるヴォルグ。

どこかで彼の意見が正しいと認めているからか、エルウィンはそれ以上は何も言わなかった。

 

 

「ならどうでしょう。今回の作戦でシオンと組んでみては」

 

 

何故、どういう過程を踏んだらそういう結論に行き着くのか、ありありとそう読み取れる表情をするブランネージュ。

しかし肝心のピオスは何のその。ブランネージュの心情を把握しているのかそうでないのかよくわからない、ポーカーフェイスで己の意図を話す。

 

 

「丁度奇襲の二人を決めかねていたところですし戦術としても前衛と後衛に綺麗に別れていてバランスがよい。それになりよりお互い、言葉だけでは伝えられないこともたくさんあるでしょう?」

 

「……いいだろう、直接私が見極めてやる。敵を前にした時お前のそのへっぴり腰がどう変わるか」

 

 

ピオスの案をブランネージュは十秒足らずの熟考の後、承諾し今回共に戦うことになった。

思いがけず決まった陽動と奇襲の割り振りではあるが戦力的バランスを踏まえても、これが今最も適した配置だとヴォルグは納得する。

偶然を装ってやったのだとしたらまさに食えない男であろう。

 

 

「話はまとまったな…よし、今から数時間後にルーンガイスト先行部隊に奇襲を敢行する!各自戦闘準備に入れ!」

 

 

長き時の流れで廃れた遊撃傭兵騎士団ヴァイスリッターの名を背負いし、わずか8人の無謀な戦いが幕を開ける。

 




今回は戦闘はありませんでしたが次回は8割りが戦いで構成されていると思います
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