異様に体がでかいのでドワーフか何かだろうと思ってたら公式の設定資料集で普通の人間と判明しました…何食ったらあんなになるんだよ、と当時ツッコミまくりでした
「全滅だと…どういうことだ僕の納得のいくよう説明しろ」
ルーンベール城。その名で国民に親しまれて城であったルーンガイスト城の主となった皇帝ガラハッドは、四勇者の一人忠臣ケイロン将軍の報告を受けて眉を潜めた。
「はっ、生き延びた先遣隊の者によるとシルディアの手の者たちと思われる集団が夜分に先遣隊の野営地を奇襲。八割方の兵が死亡したと思われます」
「へえ、そんなにやられたの。おかしいな、シルディアにもうまともな兵士はいないんじゃなかったっけ、ねえ?ケイロン」
「お言葉ですがガラハッド様かの国は指導者がまともでないだけであって兵は…」
「誰が口答えしていいって言った?」
「…失恋しました…ご無礼をお許しください」
ガラハッドの地位の圧力にケイロンは所詮は自分は一兵士でしかないのだと知らしめられる。
そもそも彼はシルディアへの進行には乗り気でなく、むしろ自国で起こった一連の流れへの不平不満しかなかった。
(ガラハッド様は何をお考えなのだ?)
前王ガルディニアス十三世は長年玉座に座っていただけ民からの人望も厚く政治の手腕も、どの諸外国にも負けず劣らずの有能さをみせていた。
彼の子供の三兄妹も将来多方面で活躍するであろうと期待されていたのだ。
上の王子が武を極め国を外敵から守り、真ん中の王女が不可思議な魔力で国を保護し、下の王子が国を技術で発展させる。
そんな未来図を国民の誰もが願っていただろう。
その中の一人にはもちろんケイロン自身も含まれていた。
しかし突如としてガラハッドは変貌し、人が変わったような言動が目立ち始めていた。
父親のガルディニアス十三世並びに交流の深い貴族たちを地下牢に幽閉し強引に王位を継ぎ、由緒ある国名を変え、あまつさえ他国に侵略戦争を吹っ掛ける張本人となってしまった。
上の兄と姉に置いてかれぬよう無我夢中で背中を追いかけていた心優しい少年の面影は、玉座のガラハッドにはなく蔑む視線を送りつけてくるばかり。
「まあいいさ、僕もことが順風満帆に運ぶなんてできすぎだと思ってたしね。それにこれぐらい反発してくれないと、目的を達成した時の喜びがいまいち味気なくなってしまうからね」
ガラハッドの態度には私利私欲しか見受けられない。
死んでいった兵士に申し訳ないと悔やむ心情はあるのか、ケイロンはそう疑いの目を向けていた。
「ガラハッド様の目的とは一体どのような…」
「君が知る必要も権利もないよケイロン。君たち兵士たちはただ皇帝である僕の命令に黙って従っていればいいんだよ。わかったらさっさと次の派兵の準備を進めてくれないかな」
「…承知致しました」
有無をも言わせぬ口振りにケイロンは返す言葉を失い、一礼すると玉座の間を立ち去る。
ケンタウロス特有の4つの馬の足を無駄なく、運びながらケイロンはこの国の未来を憂いていた。
(今はまだよくともこのままではルーンガイスト、いやルーンベールはヴァレリア中の国々を敵に回し滅亡してしまう)
小国ながらもシルディアとて立派なヴァレリア大陸の一国家だ。
自分たちがしているのは紛れもない侵略行為でありヴァレリアの民の不安を煽っている。
この情勢が長引けばいずれ獣人の国ベスティア、魔法使いの国クラントール、エルフの国フォンティーナまでもが介入してくる可能性が濃厚。
他種族に干渉しないエルフの国はともかくベスティアを敵に回せば、反ってルーンベールが存続の危機に立たされる。
かのベスティアの獅子王ディオクレスと彼に仕える選ばれし12人の強者獣王十二将がシルディアに助太刀するとなれば、たまったものではない。
その中でもディオクレスと剣聖の称号を持つヴァレリア最強の剣の使い手ビャッコを同時に相手すれば、命がどれだけあっても足りない程だ。
四勇者の一人である自分でも彼らの前には歯が立たないと、痛感させられる程の実力を持っているのだから。
思考を巡らせケイロンが悩んでいると野太い声が彼の鼓膜を刺激する。
「おお、ケイロン!どうしたそのような張りつめた顔をしてからに!」
「ドレスデン将軍ですか…」
背後よりケイロンの肩を力強く叩いたのは、並みの家に勝るとも劣らぬ高い丈と岩をも砕く頑丈な体躯を誇るルーンベールの将軍ドレスデン。
ルーンベール随一の巨漢と謡われ数十年もの年月を兵として捧げている忠義に厚い武将である。
「そう暗い顔をするな!何だ悩みか?」
「…ないと言えば嘘になります…」
「ちょっと待ったそれなら場所を変えよう。わしの行き付けの店がある」
ドレスデンに誘われて訪れたのは街中の隅にある酒場。
ケンタウロスのケイロンはおろか巨漢のドレスデンでさえも体を縮めずとも入れる入り口を潜りぬける。
光源が蝋燭のみの薄暗い店内だが無人ではなく3人程の先客がおり顔が紅潮しており、でき上がっている様子である。
「このような酒場があったとは」
「いつもはもっと客が入ってるんだかな、だが今日に限ってはそのほうが都合がよかろう。ほれ何か頼むといい、心配するなわしの奢りじゃ」
「はい。ではお言葉に甘えて」
ケイロンはグラス一杯のぶどう酒をドレスデンも慣れた様子でジョッキ一杯の酒を店主に注文し、手元に運ばれるとそれぞれ口を付け味わう。
いい具合に体が火照り始めたところでドレスデンは本題に入る。
「さてケイロン、さっきの話だが何を悩んでおったのだ?お主らしくないぞ」
「…私は今回のシルディアへの出兵、どうしても納得できません。何故我々が侵略行為をしなければならないのですか?」
「その話か…そうは言うがなケイロン。わしらは所詮軍人だ、一兵士がどう思ったところでそう簡単には国の意向は変わらん…まあお主にはそんなことなどいちいち言わずともわかっているだろうが」
ケイロンが仕事に私情を挟むような人柄でないのはドレスデンもよく知っているし、ルーンベールへの底知れぬ愛国心も自分に負けてはいない。
それほどまでに国や民を愛しそんな自分を誇りに思っているからこそ、ルーンベールの現状に疑念を持ち嘆いているのだ。
「だが確かにガラハッド様は変わられた。きっかけに心当たりはないのか?」
「そういえば、アスクレイが来てからガラハッド様の様子が変わったような…」
「アスクレイ…とな、その者は確かお主とは一七年前共に戦った仲間ではなかったか?」
「ええ魔法と医学の知識に精通した優れた才覚に恵まれた人間です。彼の博学ぶりには私も舌を巻きその知恵で命を救われたこともありました。ですが、だからこそこんな大それた真似をするような者ではないと私は思うのです」
ケイロンは過去の戦友の面影を脳裏に呼び覚まし、今しがた頭をよぎった考えを捨て去る。
悪の魔神とヴァレリアの命運を賭けた大戦を最後まで戦い抜いた男が、大陸を混乱に陥れるような悪どいことを思い付くはずがない。
-きっと何かの間違いだ
「ガラハッド様が頑なにせめてシルディアが降伏してくれることが救いだと願っていましたが、つい先程先遣隊がシルディアの反撃にあったとの報告が…わかりません、あの国は僅かな戦力でこちらを敵にして勝てると思っているのでしょうか」
「愚かだと思うかシルディアのとった行動は」
「勝ち目のない無益な戦いに市民を巻き込むなどあってはなりません」
ケイロンの心底から発せられた言葉にドレスデンは酒場をカウンターの木造のテーブルに音を立てずに置くと、ケイロンの目を見据え訊ねる。
「例えばの話だケイロン。もしルーンベールがシルディアの立場だったとして民衆の安全が保証されていない敵国にお前は素直に従えるか」
「…それは」
ケイロンは答えに窮する。自分がそういう立場に立たされたとしたら先程の己の言葉通りの判断が即座にできるか確信が持てない。
いざそのような状況になった時自分の頭では理解していたとしても体、それより心のほうが黙っていられないだろう。
それが愛着がある場所や大切な人々を守るためと引き換えに犠牲をなくすためなら尚更、その二者択一は選びがたい。
「無論お主の言葉も一つの見解としては正しい。しかし世の中というのはそうそう正しさだけで物事が動くとは限らんのだ…」
「どういう意味ですか?」
「一見間違っているように見えることが実は正しい…そんなことがたまにあるのだ」
ケイロンは眉を潜め納得のいかないという表情がありありと表に出ていた。
そんなケイロンの不安を看破してか、ドレスデンはスッと屈強な体躯に合わぬ静けさを保ち、ケイロンに肩に腕を回す。
「そう焦っていてもすぐに理解できるものでもない、お主はまだ若いこれからじっくり自分に合った探せばいい」
「そういう物なのでしょうか」
「そういうものだ。もっともお主はまだ若い、家庭を持てばわかるようになる…小さな存在がどれだけいとおしく心に大きな幸福をもたらすか、その存在のために自分の全てをかなぐり捨てる覚悟を持つのがどんなに難しいか」
「ドレスデン将軍はご結婚なされてるんでしたよね」
「ああ大戦の後にな、妻と子が二人いる。やんちゃな息子と妻に似て可愛いらしい娘の二人兄妹でな…そうだ、今度わしの家に来るといい妻の飛びっきり旨い飯をご馳走しよう、うん、それがいい」
がっはっはとドレスデンが声高らかに笑うとケイロンは彼を尊敬に値する人生の先輩であると、改めて己の心がそう告げているのを感じた。
先程まで泥沼にいたのが、今では底が透き通っている穏やかな波が流れる海にいるような心境がそれを裏付けている。
(ドレスデン将軍はやはりルーンベールになくてはならない人だ)
年甲斐もなく彼の子どもたちを羨ましく思う。
こんなにも偉大な父の大きな背中を見、追いかけ成長することができるのだから。自分に代わってもらいたいぐらいだとケイロンが妬いていると、ドレスデンはわざと咳をし、調子を整え切り出す。
「我々は兵士だケイロン。ルーンベールいや、ルーンガイストの未来がどんな行く先を辿るのかそれはわしにも想像がつかん。だがそれでも我々は国に従い、綱を握る君主が道を誤った時には身を持ってそれを修正しなければならない。兵士は命令を聞くだけの都合のいい駒や人形などに成り果ててはあかんのだ…常に己の信念を持っておかねばならん、それだけは覚えておけケイロン」
「深く身に刻んでおきます」
国王だろうが人間だろうが人間である限りは過ちを犯す。
片一方がそうなった時残る一方は全力でその過ちを正さなければならない。
それでなくては国というコミュニティーは自らの手により滅んでしまい、再興を誓う者が一人としていなくなってしまうからだ。
☆
勇者亭ではヴァイスリッターの面々を前にヴォルグとピオスが深刻そうに告げる。
「全員戦う身持ちができたのはありがたいことだが戦力差ってのは気持ちや覚悟で簡単に埋まるもんじゃねえ、いくら指輪があると言ってもこの先ずっと頼っていられる程敵さんも優しくねえ」
「そこで団長と私で考案したのですが国王様に兵の打診をお願いしようと思いますが皆様はどうでしょうか?」
「どうって…言われても」
「だからお前ら何か意見がないか聞いてるんだよ」
-そう言われてもなあ
ありありと困惑の色が表情に出ているシオンの歯切れの悪い受け答えを前に、ヴォルグがざっくり噛み砕いて説明する。
「戦力の増強をするに当たってお前ら全員の意見が欲しいんだよ。何でもいいからさっさとよこせ」
「偉そうな態度ねえ…」
「…はっきり言って成功する見込みはないぞ。リュウナの時のように断られるのは明らかだ」
エルウィンが頬杖をつく傍らでブランネージュが溜息混じりにヴォルグに告げ、更に自分の考えを話す。
「シルディアの国王バルボアの人となりは私も小耳に挟んでいるがあまり良い評判には出会ったことがない。エトワール神殿が危機に瀕している事態に兵の一人も派遣しなかったんだ。危機感に欠けているとしか思えんな」
ブランネージュの意見は些か辛辣なような気もするがあながち的はずれではない。
商才こそあれど他は無関心を飛び越えた国の責任者としてあるまじき体たらく。
ブランネージュが文句を言いたくなるのも致し方ないと国民のヴォルグとピオスは肯定した。
「だが物は試しと言うでしょう?今の私たちは藁にもすがりたい程圧倒的戦力不足です。ダメ元でも確率があればこれをしない手はありません」
「他の種族の方々に手伝ってもらえないでしょうか?」
「他の種族ってーと」
「一理あるな。国の一大事だ。これまでの生活が揺るがされるとあれば彼らも姿勢を変えてくれるかもしれない」
エイルの発言も考慮しヴォルグは腕を組んで考え込む。
シルディアは多種族国家の異名で知られるが別段、種族同士が仲良しこよしというわけではない。
むしろ個を重んじる種族ばかりで友好的とは言えないようなのばかりだ。
しかし今回は彼らのその後に大きく関わる事案。となれば彼らも考えを改めてくれる可能性は大だ。
「試してみるか…ピオス、バルボアのほうはお前に任せた。俺はシオンとエイルの二人を使って他の奴らに頼んでみる」
「どの種族からいくんですか?」
「まずはドワーフ族からいこうと思っている。彼らの製造技術を物にできればかなりの戦力アップになるからな」
☆
カンカンと金具を打ち付ける音が一秒も絶えず集落全体に鼓動する。
紺の生地の服に小柄ながら逞しい体躯を隠したドワーフ族の長マウリは訪れた街からの客人の対応を渋々請け負い、彼らの要求を聞いていた。
「我々ドワーフ族を従わせようというのか」
「そうじゃない。協力してくれと言っているんだ、このままルーンガイストの驚異を見過ごせばあんたたちだって今のままの生活ができるとも限らない。最悪、種族全部が殺されるかもしれないんだ。俺たちもあんたたちも他の種族の奴らも」
「その時はその時じゃ。それが我々の定めということじゃろう」
「そんな簡単に諦めるんですか!?何もしようとせずに、それでいいんですかあなたたちは!」
「知った風な口を聞くな小僧」
シオンを黙らせる威力を秘めたマウリの言葉がヴォルグにも確固たる意地があると感じさせる、強さを持っていた。
だが来てそうそう屈して尻尾を巻いて帰る気はさらさらない。
「ルーンガイストはもうルーンベールであった頃の面影はない。奴らは本気でシルディアを乗っ取る気でいるんだぞ。現に奴らは兵を目前まで送りつけて来た」
「それと我々の安全が保証されないのとはちと話が違うであろう。我々は世の流れにただ従うのみ、種族が滅ぶというのならそれも構わん」
「今はそれでもいいのかもしれない…だがこの国がルーンガイストの手に渡った時同じような道を選べるとは思えない…今のルーンガイストにルーンベールの影を重ねないことだ」
横槍を入れたエイルにマウリは一瞥の視線を突き付けると、青筋を浮かべんかのようなドスの効いた低い怒声をヴォルグたちに浴びせる。
「黙れ、そんなに手が足りぬというのなら他を当たればよかろう。今後一切我々に顔を見せるな、我々にとってもそなたらにとっても時間の無駄だ」
「おい待ってくれ」
取り付く島もなく背を向けたマウリにヴォルグが言葉をかけようとした時、彼らの踏んでいる地べたが唸り上げたように震動する。
地震かと疑う程に激しく響く地響きに家の食器棚が豪快に倒れ落ち、耳をつんざく割れ音にシオンが溜まらず耳を塞ぐ。
その真横のエイルは対照的に絶えず揺れる地面に目を落とし、顔をしかめた。
「普通の揺れじゃない…何だ?」
「大変だ族長!」
「どうした!?」
「炭坑の方で爆発が起きて、そこから化け物が!」
「何だと!?」
作業服に身を包んだドワーフが告げた言葉にマウリは怒りを忘れ、家を飛び出して行く。
後に続くまいとヴォルグもシオンとエイルに促し、彼らより一足先にマウリを追う。
「俺たちも行くぞついて来い」
マウリの先導で炭坑に着いたヴォルグたちは瓦礫の上に立つモンスターの全容をしかと双眸に映す。
五メートルはあろう身丈に岩のみで構成された体を持ち、赤く一つ目の光点が頭部にあたる岩の隙間から覗いている。
それが動く度に炭坑の岩が粉々に砕かれ雨となり地面に埋もれていた。
「あいつはゴーレム!何だってこんなところに出没しやがる…ゴーレムは魔法でなければ存在すらできないんだぞ」
ゴーレムは命を持たない生命体と謡われており自然に発生するようなモンスターではない。魔法や魔術などの神秘的な力で人為的に創造するしかその存在は世に生まれいずることは有り得ないのだ。
それが意味するのはつまり
「ルーンガイストがこちらの動向を見抜き差し向けた…そう考えるのが妥当だろう」
「冗談だろ…シルディアにいやがるのか、奴らの密偵が…!俺たちを見張ってやがるのか…!」
エイルの推察にヴォルグは歯軋りをし、毛皮が一層逆立っているのがシオンには見て取れた。
確かにこのタイミングでゴーレムがドワーフ族の炭坑に現れるなど偶然にしては出来すぎている。
ルーンガイストの放った密偵がこちらの動きを察知し、妨害のために先手を打った。
その可能性が最もあり得る話だ。
「とにかく今はこいつを片付けるぞ。シオン指輪を寄越せ」
「はい!」
言われた通りにシオンは指輪の片割れを投げ渡し、掌に収めたヴォルグはすぐさま指輪を嵌める。
指輪はラザラスの時と同じようにヴォルグの指元の大きさに合わせ、するりと彼の指に収まる。
清らかな力が身体の奥底で胎動し膨れ上がるのをシオンは感知したと同時に、鞘から大剣を引き抜き片手で柄本を握り締める。
「初めて指輪の力に触れたが、他の奴らが言ってたように大した指輪だな…こんな感覚今までに味わったことがない」
「行きましょう、二人とも!」
指輪の感想を口から漏らすヴォルグと既に万全の体勢に入っていたエイルに、シオンは物静かな口調で発破をかけ足を踏み出す。
ゴーレムは赤目の視界に人影が入り込んだのに気付き、鋼をも砕く豪腕を振りかざす。
三人はそれぞれ別方向に飛び散りゴーレムの腕は岩盤に深くめり込み、月面のクレーターに似た大穴をぶち開ける。
「あれを食らったらひとたまりもねえ…お前ら絶対に当たるんじゃねえぞ!」
「サンダーブレード!」
岩を台に飛び上がったシオンの雷の刃が豪腕を根本から断つべく肩を食らうが元の材質が頑固なだけあって、ヒビも作らせない。
大剣を通して腕に痺れが走ったシオンは追撃に転じず、一旦その場から離脱し反撃を逃れる。
エイルが範囲外から剣を振るい、刀身に宿した風の魔力を胸部目掛けて飛ばす。
半月状の風の刃は立派にゴーレムの岩肌に命中しぼろぼろと礫が零れ落ちる。だが効き目は薄い。
「単純な威力不足…いや当たり所が悪かったのか…?」
「頭を狙え!ゴーレムのコアがそこにある!そいつを砕けばただの石の山になる!」
「頭、ですか?」
「こいつとは前にも戦ったことがある、コアは普通の武器でも破壊できる!それに狙いを定めろ!」
炭坑に設置された鉄骨の上を伝って跳ね回り、ゴーレムを撹乱するヴォルグが助言を授ける。
それを受けたシオンがサンダーの魔法による雷をゴーレムの天辺に撃ち落とすが、やはりと言うべきかこれまでの攻撃同様ゴーレムの動作を停止停止させることすらかなわない。
「弱点がわかってもあそこまでどうやって行けば…」
魔法が無意味なら残るは武器による近接戦闘しかない。
それを実行に移そうにも、生半可な攻撃ではコアを破壊するどころか届くこともできない。
しかも最大のネックなのはコアが位置する頭部の高さまでたどり着けないのだ。
シオンがゴーレムの挙動によって、降り注ぐ石礫を身を屈めてやり過ごしつつ毒づいた。
「私たちがどう頑張っても…これは」
「シオン、手を貸してくれないか…やれるかもしれない」
「本当ですか?一体どうやって」
「風の魔法で君をゴーレムより上の高度まで引き上げる。そこまで行ったら後は任せた」
エイルの提案にシオンは乗った。
今この状況を打開する策や術があるのなら迷っている暇はない。
ドワーフの集落をたかが石ころが集まっただけの命のない物質に滅茶苦茶にされてやるつもりは毛頭ないのだ。
「わかりました。ではさっそく、お願いします」
シオンの快諾と共にエイルは魔力を結集し発動分を貯蓄していく。
彼らの様子に何かあると踏んだヴォルグが時間稼ぎのため敵の気を引きかつ炭坑への被害を極力減らすべく、ゴーレムの足下を彷徨き回る。
「おらこっちだ石人形!でかいのは図体だけか!」
「よし、準備ができた。やるぞシオン」
-これで充分だ
魔力が粗方集まった瞬間エイルは魔法を唱え、シオンは足下より微量の風が吹き上がりつつあるのをざわつく肌で感じた。
シオンが地を離れると真下から突風が彼の体躯を花びらのように、ゴーレムをも越えた高度まで数秒とかからずに運ぶ。
彼はヴォルグやエイルたちから見上げると天に漂う黒点と化す。
「はああああっっ!」
雄叫びを力に変えてシオンは高高度から大剣の刺突をゴーレムの頭上に突き刺す。
重力の加護も相まってゴーレムの岩壁を紙屑のように貫き通し内部の赤い球体、コアを極太の刀身が丸ごと押し潰していく。
活動するための供給源を絶たれたゴーレムは腕をだらりと降ろしその身体中に亀裂が走り、一気に崩落を起こす。
「ふう…無事かあんたたち」
ヴォルグが肩を撫で下ろし避難していた炭坑の作業員のドワーフに気遣いの声をかける。
安堵の色を表に出す者が多い中族長マウリは拒絶を含んだ言葉を呟く。
「誰も助けて貰おうなどと頼んでおらんわ。余計なことをしおって我々に恩を売ったつもりか」
「へいへい、どうやらご無事のようで何よりだ」
「…どうして、あなたたちはそんなに頑固なんですか?」
「おい、シオン」
シオンがある強さを込めて言うとヴォルグがそれより先の言葉が吐かれるのを防ごうとするが、寒気に乾いた幼い口は止まらない。
「何じゃと…」
「そうでしょう?本当はあなたたちもわかってるはずです。今のままじゃいけないと、死ぬのが怖いと、それがわかっているのに何故自分たちの心に正直にならないんですか?」
「正直になったからといって目の前の脅威がどうにかなるはずもない…我々はそう悟っているのだ。我々は死など恐れん。甘んじてそれを受け入れる」
「嘘です…どうして隠す必要があるんですか?そんなに世の流れが大事なんですか?あなたたちだってその流れの一部じゃないですか!」
普段の気弱な言動はどこへやらシオンは毅然とした声色でマウリに意見を突き通す。
異常なまでに人が変わったようなシオンの性格にヴォルグもあんぐりと口を閉ざすのを忘れ、その面持ちのまま傍観しているエイルへ目線を向ける。
視線に気付いたエイルが自身の右手の中指の付け根を片方の指で指し示したのを見て、ヴォルグははっと両目を見開いた。
-双竜の指輪だ。
ヴォルグがゴーレムを沈黙させてから身に付けたままにしていたために、シオンの性格が今も凛としたものを保っているのだ。
ひとまず下手にドワーフたちを刺激させてはならないとヴォルグは指輪を引っこ抜く。
不意に脱力感に見舞われたシオンは何が起こったのか状況を把握できていない様子で辺りに首を回す。
そしてマウリの皺を寄せた険しい顔を捉え自分が言った言葉を思い出し、狼狽する。
「す、すみません!失礼なことを言ってしまって!」
「う…うむ…」
唐突なシオンの変化に目を丸くする飲み込めてマウリ。
そんな彼に指輪をシオンに返却しつつもヴォルグが告げる。
「今日はこれで帰らせてもらう…また今度もう一度来るつもりだ」
「お主らの望むような答えが得られるとは限らんぞ」
「それならそれでいいさ…帰るぞお前ら」
三人は僅かばかりの後ろ髪を引かれる思いを胸に押し込み、ドワーフたちに背を向けシルディアの街への帰路についた。
ヴォルグさんがゴーレムと戦ったのは小説『シャイニング・ティアーズtoウィンド』から持ってきた設定です、ちょっと勝手に変えてるところもありますが…