シャイニング・ティアーズ 緑風の行く先   作:光陽03

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長らくお待たせして申し訳ありません!
楽しみに待って下さった方がいるかわかりませんが次回はもっと早めに投稿できるよう頑張ります


episode 8 子猫の舞い

戦力増強を計るべくヴァイスリッターが、シルディアに住むあらゆる種族の集落を巡ってから数日。

断じて手など抜いていないはずなのだがこれ程までに開いた口が塞がらないとばかりに、亀の一歩分すら進展はなかった。

 

 

「どいつもこいつも…一向に返事がないところを見ると新戦力は期待できそうにないな…」

 

 

憔悴しきった目で照明を仰ぎながらヴォルグが小さく呟く。

寝食共にすこぶる良好のはずだがその顔は窶れ、椅子の背もたれに体重を預けている姿は、いつもの気力は影も形もない。

誰がどう見ても情けないことこの上ない体たらくであるがその格好を目撃した者は一人として、口を尖らせて咎めることはしなかった。

 

 

「鳥人族にドワーフ族、終いにはシルディア国王からの兵の派遣に関する返答もない……どうやらとんだ無駄骨だったようだな」

 

「もしかしたら色々とお忙しくてお返事がまだなだけかもしれませんよ」

 

「だといいがな」

 

 

自嘲な色を含めた口調でブランネージュが溜め息をつくがリュウナが別の考察を述べる。

 

 

「ったくどうなってんだよこの街の奴らは…自分の住む街が無理やり武力で侵略されようとしてんだぞ、少しは危機感を持てよ」

 

「団長、そう荒々しいことを言わないでくださいよ」

 

「へっ、お前は楽観的でいいよな!羨ましくなるぜ」

 

 

愚痴を溢しつつ青筋を立てるヴォルグをピオスが嗜めるも、正直なところ彼にもヴォルグまでとは行かずとも同様の感想がある。

しかしピオスは協力を拒んだ他の種族たちを責めること はできなかった。

自分たちがルーンガイストに抵抗の意を示したように彼らには彼らの考えがあり、それを否定する義理も道理もピオスにはない。

それは当然ヴォルグも同様だ。

 

 

「完全に同意するわけではないが危機感に欠けるというのは言えているな。いくら城の警備兵だからといって奴らには自国を守る気概が感じられん」

 

 

ブランネージュの非難は国王バルボアもであろうが彼の城を警備する兵士たちに矛先が向いていた。

ヴォルグたちがドワーフ族の集落に赴いている間ピオスとブランネージュを筆頭とする者たちは、バルボアに兵力の派遣を求めた。

ルーンガイストからシルディアを守るためならば多少なりとも人材を寄越してくれると確信していたのだが、こともあろうに返事は後日文書で送ると絶句する答えが返ってきたのだ。

やむなくその文書を大人しく待って数日、未だにそれは送られておらず街中で目に入る警備の兵にもどことなく弛んだ姿勢が見受けられた。

片や自己決定したことであるが死線をさ迷う戦場に身を置いた者と、片や真に国民を守護する立場にありながら怠慢ともとれる姿勢をする者。

ここまで意識の差が明確になるとは彼らには兵士としての自分に誇りを抱いているのかと、小一時間正座で説教してやりたいぐらいだ。

ブランネージュは苛立ちを抑えつつこれからの方針を考える旨をピオスに伝えた。

 

 

「いつまでも来るかもわからない不確定な援軍を待っていてもしょうがない。今は早急に自分たちにやれることを見つけ実行に移るほうが重要だろう…」

 

「そうですね、現在まだ交渉していない種族は巨人族だけしか残っていません。巨人族の集落に小数で行き彼らと協力を取り付けるべきだと思います」

 

「なら、すぐいくぞ」

 

「慌てないで下さいラザラス。まだ何人か揃っていないんですから」

 

 

そういえばとラザラスだけでなくリュウナやブランネージュも三人ばかりの人影がないことに今更ながら気付き、その行方を気になった。

すると丁度正面の扉が開き外から汗だくになった三人が姿を現し口々に言葉を交わす。

 

 

「はあ~疲れた~朝からこんな動いてたら体がもたないわよ」

 

「その内嫌でも馴れる…辛いのは今だけだ」

 

「な、何で…僕らみたいになってないの」

 

 

エルウィンとシオンがだらりと椅子にもたれかかる中エイルだけは平然と汗を手の甲で拭い、ゆったり腰を下ろす。

彼らの腕やふくらはぎは赤く腫れ上がっていたり、切り傷がいくつもあり激しい運動をしてきたのはありありと理解できた。

リュウナがシオンとエルウィンの元に寄り掌より、回復魔法の光を奔出しながら訊ねる。

 

 

「シオンさんたちは今までどちらにいらしたんですか?」

 

「最近狂暴な魔物が暴れているって街の人から聞いてさ、それで」

 

「実戦の特訓も兼ねて討伐に向かったというわけなんだが…」

 

「本当多過ぎよあの数は!」

 

 

シオンとエルウィンの疲れ具合から察するにかなりの大軍を相手にしたのだろう。

戦いに関しては技術的にも精神的にも素人同然であったシオンたちもちょっとずつでも前へ進もうと、できることを焦らずじっくりとこなしている。

そんな風に真摯に向き合う気持ちこそが城の兵士たちと彼らとを分かつ絶対の要素なのだろうと、ブランネージュは得心がいった。

 

 

「だが上達しているようじゃないか…私と初めて会った時より顔触れが変わった」

 

「そりゃあ、ね…あたしだってシルディアの皆のために頑張ろうって決めたんだからこれぐらいでへこたれていられないし」

 

 

言うようになったとブランネージュは口角を吊り上げほくそ笑む。

エルウィンの言葉が口だけでないのはもう認めているし、他の仲間たちの成長ぶりにも目を見張るものがある。

実質的な戦力比は度外視するとしてもこの意気込みだけならば城の兵士はおろか、ルーンガイストの部隊も顔負けだろう。

ブランネージュが彼女にしては珍しいしたり顔を密かにする一方で、シオンはリュウナに先程から気にかけていたことを問う。

 

 

「それより僕らが来る前に皆で何か話してたみたいだけど何の話なの?」

 

「これから巨人族さんの集落へ行くことになりまして集落へ行く人を決めようとしていたところだったのです」

 

「シオンとエイル、それにエルウィンが戻って来たのでこれでようやく全員揃いましたね。ではさっそく-」

 

「ひっさしぶりー!」

 

 

ピオスが仕切ろうとしたまさにその時、開放したままの扉から和気あいあいとした声が轟く。

聞き覚えのない愛らしい声質に吊られて視線を向けると、えんじ色の忍装束を身に羽織っている少女が勝手知ったる足取りでヴォルグの前に進む。

 

 

「ダンチョー久し振りだね。元気にしてた?」

 

「お前、マオ…マオじゃねえか!お前何でこんなところに…」

 

 

少女の名であろうかマオと、名前を牙を光らせた口から溢し、目を見開いたヴォルグは驚きからか大慌てで椅子を蹴り飛ばすように腰を上げる。

 

 

「団長の知り合いかな?」

 

「あたしに聞かれてもわからないわよ」

 

「見たところ凄く仲が良さそうですよ」

 

「団長、驚いてる」

 

「それはともかくあの女…」

 

「猫の獣人…しかしそれにしては人間に近いな…」

 

 

その光景に茶々を入れることなく見守っていたシオンたちが口々に率直な意見を述べる中、ブランネージュとエイルは少女の外見に着眼点を据えていた。

薄い赤色の肩のラインで統一された髪の天辺でぴくりと、揺れ動く子猫と同じ三角形の耳と果実を噛んだらきっちり歯形が残りそうな八重歯。

それらの外見状の特徴はまさしく猫系の獣人の血筋を受け継いだ者に表れるものなのだが、獣人にしてはあまりに人間に近づき過ぎている。

獣人よりも猫耳を被った人間の少女という表現が適していると言っても過言ではないぐらいに彼女には人間によく見られる特徴を多く持っていた。

その疑問に答えるようにピオスが会話に夢中になっている二人に気付かれぬよう、他の五人に耳打ちをし囁き声で語りかける。

 

 

「彼女は猫のビーストクォーターなんです」

 

「「「ビースト…クォーター?」」」

 

「成程それであの外見か」

 

 

知らぬ単語に首を傾げる者が多い中エイルは合点がいったと言いたげに納得し、ブランネージュに関しては憐れみのような感情を乗せた言葉を吐く。

そんな彼女の反応に何か引っかかりを覚えたシオンたちにピオスか告げた、

 

 

「ビーストクォーターは人間と獣人の親の間に生まれた子供です。人間と獣人の要素を合わせ持つが故に私達人間にほぼ近い姿でありながらも獣人特有の高い身体能力を秘めています…ですが」

 

「そのために人種差別の的にもなりやすい」

 

「差別ってどうして…」

 

「人間と獣人のどちらでもないからだ。そのためにビーストクォーターは昔から双方から忌み嫌われるのが世の風潮だ」

 

 

-そんなの不当だ。

生まれや自分に流れる血筋など当人にはどうしようもない。

変えたくとも手の出しようがなかったろうに。マオもそのような過去を過ごしてきたのだろうかと、シオンはそう胸に抱きつつヴォルグと親しげに会話するマオを見つめる。

 

 

「で?何しに来たんだよ?」

 

「しばらく会ってない育ての親に会いに来たって理由じゃダメ?」

 

「はっ、お前がそんな殊勝なタマかよ」

 

「ぶ~、少しぐらい真に受けてくれたっていいじゃない…」

 

 

凄惨な過去を送ったようには思えない明るくふざけた言動のマオはヴォルグにあしらわれ、やむなく懐から一枚の封がされた紙を手渡す。

封の印はシルディアの国印が刻まれおり、国王からの正式な書文であるのはすぐに察せられた。

 

 

「こいつは、バルボアからか」

 

「そ、ダンチョーたちにこれを渡すのにアタシが選ばれたの。アタシ今城のお庭番やってるしダンチョーと顔見知りだからこの役は適任だって」

 

「お庭番?お前がか…しっかりやってんのか?お前は昔からヘマしがちだからな」

 

「ちょっとそんな昔の話いいでしょ?それよりなんて書いてるの?」

 

 

マオに急かされたヴォルグが封を切り中身の紙に目を通す。

高価な羊皮紙に綴られた字を読むにつれてヴォルグの顔が険しくなり、最後の数行をまでには額に立派な青筋が立っていた。

 

 

「くそったれ、あの髭面め!」

 

「落ち着いてください団長。書面に何が書いてあったんですか?」

 

「何も何の…見てみればわかるぜ、どうやらこの国一番のお偉いさんは頭ん中が本気でお花畑になってるようだぜ」

 

「『此度のヴァイスリッターへの兵の派遣に関してコルレオニス城の警備及び民の安全を常に保証する必要がある。資金もまた同様に現状では財政の混乱を招くため多額の援助は厳しいものと思われる。そのためヴァイスリッターは現状の戦力のままシルディアの防衛を要請する…くれぐれもルーンガイストの進軍を許してはならん健闘を祈る』…これは、確かに穏やかじゃありませんね」

ヴォルグに続いてピオスもこれには呆れて腸が煮えくり返るのも気力の無駄とばかりに、深い嘆息を一度だけ吐く。

そしてまたこれからの身の振り方を慎重に考え各人と話し合わなければならないと、心構えをより強くする。

国を守るのは当然として敵と刃を交えるヴォルグたちのリスクを可能な限り減らさなければならず、作戦立案者としての責任は重圧を伴う。

戦況が膠着状態になったとしても物量差で劣るこちらが圧倒的に不利なのも重々理解していた。

いくら全ての魔術を凌駕する双竜の指輪の魔力とそれを扱うシオンがいたところで、あくまで身を投じるのは生身の人間なのだ。

激しい動きをすれば疲れも蓄積されるし、戦争の血生臭い現実は慈悲なく関わる全ての人間を精神的に抉ってくる。

そんな環境に傷付いた彼らが居続けてしまってはいずれ壊れてしまうかもしれない。そうならないようにするためにも彼らを思いやる気持ちを無くさない、それが戦う力を持たない自分にできるせめてもの役割だ。

ピオスがそう心に宣言するすぐ真横でマオがふと呟いた。

 

 

「じゃあアタシが手伝ってあげよっか、猫の手も借りたいでしょ?今は」

 

「いらん!猫や犬の手足を借りるような羽目になってもお前からは何も借りん。さっさと帰ってバルボアに言え、ありがたいお言葉をどうも、お前に言われずともやることはやってやる。玉座にふんぞり返って指をくわえて見てろってな」

 

「アタシが伝えるの~メンドーだな~」

 

「いいな!わかったな!」

 

 

は~い、といささか間の抜けたような声色で承諾するマオ。

非常時でなければそのいい加減な返事は何だとでも声を大にして叫びたいが、いつまでもマオに時間を割いてはいられずヴォルグは育て親としての顔を一変させ戦士の面持ちへ戻る。

 

 

「国の兵力が借りられないと明確になったからには他の種族の奴らに賭けるしかない。巨人族の集落には俺とシオンとエイルが行く、残りはピオスの指示に従って動いてくれ。頼んだぞ!」

 

 

ヴォルグがてきぱき指示を飛ばしシオンとエイルを伴って勇者亭の扉を強引に押そうとした瞬間、マオが彼を呼び止めた。

 

 

「ねえダンチョー、アタシも一緒に行っていい?」

 

「はぁ?お前には関係ないだろ」

 

「いいじゃんそれくらい。ダンチョーたちが頑張ってるってことをお庭番のアタシが城に広めたら、入団してくれる兵士の人が現れるかもよ」

 

「好きにしろ、ただし邪魔だけはするなよ絶対にだ」

 

 

主に後半を強調した物言いながらもヴォルグはマオの同行を認めた。

 

 

 

 

 

 

 

巨人族は万年雪に覆われた山間部に集落を作っている。

標高数百メートルにも及ぶ高度に位置しているため気候も低く道なりもかなり複雑であり、片道を行くだけでも莫大な労力を費やす。

常に極寒の吹雪が進路に立ち塞がる悪路であるがそれでもヴォルグたちは行かなくてはならなかった。

 

 

「協力ねえ…」

 

 

巨人族の代表ズンダは気乗りしないと言いたげに訪れたシオンたちを見やる。

これまでの傾向から薄々予測できた返答ではあるが自分たちにとって都合が悪いため、ヴォルグは引き下がることなく説得に入った。

 

 

「頼むシルディアの危機なんだ。ルーンガイストを退けるには俺たちだけじゃ力不足だ…情けないのはわかってる、だがそうでもやらなければならないんだ」

 

「そう言われても…」

 

「直接戦いに参加しなくてもいい。街が襲われた時のための住人の避難誘導だったりしてくれるだけで構わないんだ」

 

 

ヴォルグの懸命な訴えにズンダは歯切れの悪い受け答えで返す。

彼が戸惑っているのはヴォルグも重々理解しているし、それを咎める気はことさらない。

むしろそんなことをしたらわざわざこうして足を運んだのに逆効果になってしまう。

 

 

「僕からもお願いします。少しだけでも考えてもらえませんか?」

 

 

シオンにも言われ逞しい巨躯に不釣り合いにも悩むズンダ。

事が事だけに無下に扱うこともできないためズンダはうーんと唸り声を上げた時、山頂付近より地響きと合わさり轟音がうねりを上げた。

 

 

「なんだ地震か!?」

 

「うわーん!」

 

 

もう少し揺れが強ければ危うく足を滑らせて土の見えぬ地上に急転直下するところだったヴォルグとズンダの元に巨人族の子どもが泣き崩れながら駆け寄る。

 

 

「どうした!?」

 

「父ちゃんが…父ちゃん…」

 

「お父さんがどうしたの!」

 

「上で魔物がいきなり出て来ておいらを助けるために一人で残ってるんだ…父ちゃんを助けてよ!」

 

「しかし…おいらたちに魔物は…」

 

 

ズンダは口ごもる。

彼らは怪力と頑丈な体が自慢な種族に生まれ育ったが魔物と対峙した経験は皆無に等しい。

素手だろうが何かしらの武器を持っていようが返り討ちにあい無駄死にするのが目に見えていた。

残酷だが彼の父を見捨てるしかない、そう割り切りを見せようとするより数刻早く、マオが涙を流す巨人族の子をあやす。

 

「大丈夫心配しないで、あなたのパパはアタシたちが助けてあげる」

 

「ほんと…?」

 

「うんだからもう泣かないで」

 

「おいマオ、お前また勝手に決めるな。後さりげなく俺らまで加えてるんじゃねえ」

 

「でも助けには行くんでしょ?」

 

「ふん、当たり前だ」

 

 

マオの確信めいた問いに、ヴォルグは鼻を鳴らしながら鉤爪を拳に嵌め込み万全の戦闘準備に入る。

それを見てとったシオンとエイルの両名も鞘より自らの刃を抜き放ち、目配せをした。

 

 

「指輪なしでも大剣を扱えるようにはなったな」

 

「あ、そうだ…指輪…えっと、じゃあ団長これを」

 

「ちょっと待って!それアタシにやらせて!それスッゴい力が沸き上がるんでしょ?お願い」

 

 

ヴォルグに投げ渡しかけたシオンにマオが声を上げ要求する。

どうしようかと悩み明け暮れた視線をエイルとヴォルグに送るも二人揃って、そんなの自分で決めろとばかりの表情を顔に浮かべていた。

 

 

「それじゃあ…はい」

 

「ありがとーシオンくん!…へー、これが噂の指輪か」

 

「もたもたするな時間がないんだぞ!とっとと指輪を嵌めろ!」

 

「はーい」

 

 

シオンから直接手渡された双竜の指輪の縁をまじまじと観察するマオ。

そんな彼女にヴォルグからの叱責が飛びマオはぶーと不機嫌そうに唇を尖らせるも、言われた通りに指輪を中指の付け根に通す。

シオンの体内を河川の水流のように澄んだ力が巡り、彼の中に眠る別の彼を呼び起こす。

 

 

「皆さん準備はいいですね?行きましょう」

 

「今回も落ち着いてる方の性格か」

 

 

ヴォルグはお目にかかったことはないがシオンは他にもうひとつ粗暴な人格を秘めていると、エルウィンたちから聞いた。

その人格はエルウィンやリュウナが双竜の指輪を嵌めた際に発現したとも報告が届いている。

このことからヴォルグの脳内であるひとつの推論が挙げられた。

シオンの人格は指輪の片割れを身につける相手よって二つの内のどちらかに別れるのではないかと。

 

(今こんなこと考えてる場合じゃねえな)

 

 

ヴォルグは自らにそう言い聞かせると、一足先に先立ったマオたちの背中を追う。

山頂に向かう道のりは長いのは覚悟の上であったがやはりと言うべきか、たたでさえ悪路な道の先を阻む魔物たちがいた。

雲に似た体の生命体、悪魔の成りをした怪物インプ、どちらも地の影響を受けぬ空を制限なく自由自在に飛び回るモンスターだ。

しかしそのアドバンテージがあってもシオンたちの敵ではなかった。

シオンの雷魔法がインプの翼を穿ち、マオの投擲したクナイがインプの脳天に突き刺さる。

実体がなく物理的攻撃が通じないにはエイルが魔力を込め振るった剣から、衝撃波のような半月状をした風の刃が発生。

文字通り一刀両断するという切れ味の鋭さを見せつけ行く手を遮る障害を片っ端から潰していくなど、各自息の合った連携で魔物の群れを押し返していく。

 

 

(マオの奴しばらく見ない内にこんな腕を上げてたのか)

 

 

ヴォルグは静かに己の眼前を進むマオに心から賛美を送る。

即興で事前の打ち合わせもなしにも関わらず、自分たちに合わせてくるとは想像だにしなかった。

戦いにまつわることであるのが残念でならないが、本当に強く育ってくれたことを誇りに思わせる頼もしい戦いぶりだ。

だが小生意気な娘においそれと活躍の席を譲る気はまだまだない。

 

 

「うおらっ!」

 

 

俊敏な身軽さで接近し、鉤爪をインプの臓物に引っ掛けそのまま構わず垂直に軌跡を走らせる。

爪にこべりついた血を拭うことも足を止めることもなくヴォルグは間合いに入った次の獲物を薙ぎ倒す。

彼らの健闘により山道を埋め尽くすように蠢いていた魔物のがあっという間に消え、残りは山頂にいる連中だけとなった。

 

 

「ゴールに着いたぞ」

 

「見てあそこ巨人族の人が囲まれてる。急がないと」

 

 

エイルとシオンに取りこぼしを任せて一足先に山頂に着いたヴォルグとマオは、1人の巨人族がインプの群れに狙われているのを目にした。

頑丈さが売りの腕や太腿には槍でつつかれたような切り口が見受けられ、逃れようにもただ1つの出口付近には3匹のインプが監視役として立ち塞がっている。

捕らえた餌をじわじわといたぶる様は、醜悪に歪んだ悪魔の外見に相応な陰湿さを如実に現している。

 

 

「つくづく悪魔のお得意な汚いやり方だな。マオ、俺が道をこじ開ける。お前は-」

 

「それまでダンチョーのサポートと道ができたらあの巨人族さんの誘導でしょ?任されましたー」

 

「わかってんなら問題なしだ。そんじゃ行くぜ」

 

 

分け目も振らずヴォルグは一直線に突っ切り進路上のインプのみに狙いを絞り、凪ぎ払う。

狩りの妨害に苛立った何匹かは怒り狂った阿鼻叫喚の叫びを上げてヴォルグに飛翔するも、翼にクナイを投げ差し込まれる。

次いで投擲された火種がクナイの尻に巻き付かれた微量の火薬に引火し、小規模の爆発が巻き起こり焼死体が雪上に舞い落ちた。

ヴォルグとマオ、2者の波長を合わせた連携により作られた脱出可能な一本道を切り開き、巨人族にまとわりつくインプを八つ裂きにスライスした。

 

 

 

「大丈夫?動ける?」

 

「そんくらいなら大丈夫だよ。あんたたちはどこの誰なんだい?」

 

「悪いがまだ敵が残ってるんでね。細かい話は後にさせてくれないか」

 

「団長!」

 

「救出は完了した。残るはこいつらを叩き潰すだけだ」

 

 

当面の目的である巨人族の身柄を確保さえしてしまえば後は楽勝と言って差し支えない。

目的を果たしたことによりお構い無しに気を使わず戦えるし、ヴォルグたちが取りこぼした魔物を殲滅させたシオンとエイルも難なく合流してくれた。

いくら束になってかかってきたところでインプごときが勝てる見込みは限りなく零に等しい状況である。

 

 

 

ヴォルグの見立て通り巨人族の救出からたった3分にも満たない時間で、山頂に群がる魔物の征伐を終える。

山頂までの道のりで雪に慣れたために早いペースで集落に戻ることができ、その間に巨人族の怪我を簡単な応急措置程度で済ましておいた。

と言ってもこの場にいる全員リュウナのような傷口を瞬時に塞ぐ回復魔法を会得していないために、傷口に包帯巻き付けることしかできなかったがそれでも菌の進入を遮る布としては充分意味がある。

 

 

「おとうさ~ん!」

 

「心配かけてすまなかったな…」

 

 

 

集落に戻ると山頂にて保護した巨人族の親にマオに助けを求めた子どもが勢いよく抱きつく。

傷だらけながらも生きている父の胸元で鳴き声を上げる子どもにその場に居合わせた者の、それぞれの心に温かさを去来させた。

鳴き声が落ち着く頃合いを見計らってマオは巨人族の子どもの目線に合わせて屈み、ふわふわとした毛皮に覆われた頭を撫でる。

 

 

「よかったねお父さんが無事で」

 

「うん…ありがとうお姉ちゃんたち」

 

 

その光景を尻目にヴォルグの眼前に巨人族の長が手を伸ばした。

差し伸ばされた手を怪訝な目付きで見つめながらヴォルグは訊ねる。

 

 

「この手は何だ?」

 

「うちの集落のもんが世話になっただよ。お詫びと言っていいのかわかんないけどおらたちにおめえさんたちの手伝いをさせてほしいだよ」

 

「本当か?」

 

「族長の名にかけて嘘はつかないだよ。おらたちだって戦ってる連中がいるのに何もできないでくすぶってるのは嫌だからな」

 

 

その言葉にヴォルグとシオンは歓喜の表情を浮かべる。

これまで種族の集落に足を運んでは幾度となく固くなに断れて来て最後の最後で、協力を約束してくれた初めての種族が現れたのだからその反応は必然だろう。

 

 

「ありがとな助かる。巨人族の力が必要になったその時は頼らせてもらうぜ」

 

「任せときなよ。おらたちの力でルーンガイストの連中を追っ払ってやるだよ」

 

「ああ期待してる。よーしお前ら帰るぞ!」

 

 

巨人族の族長と固い握手を交わしたヴォルグはシオンたちに告げ、彼らを伴って山道を下っていく。

雪に素足を沈めているにも関わらず、彼の横顔には嬉しさがにじみ出ていた。

 

 

 

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