ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
朝はブラックコーヒー。バターを塗りたくったトースト。少し甘みが欲しかったら、マーマレードを塗るのもアリだ。
アイルは翌朝、教職員テーブルの一番端で「日刊預言者新聞」をめくり、朝食を食べていた。此処までリラックスしている先生は少ない。実は昨晩、先生方にこっぴどく叱られた。
アイルが新聞を捲っていると、
「全く…良いですか? あくまでも貴女はレディですからね。10年ぶりに会えたのは嬉しいですが、あの時のように学校のモノを壊すのはやめてください」
マクゴナガル先生に呆れたように言われた。アイルはホグワーツ在学中、よく学校内のモノを破壊していた。時には昨日のように大広間の扉を壊したり、時には魔法生物が吹っ飛んで窓に穴が開いたり、時には学校中の窓ガラスが割れる事もあった。全て彼女の魔法力が強すぎる故の事なのだが…
「わざとじゃないです」
「でも加減はしましょうね。大広間の扉、何処かに消えてしまいましたから」
「まぁまぁ先生。私が直しますから」
「貴女に任せたら、大変な事になります!」
「えー…スネイプ先生も良いと思いますよね?」
「え…我輩?」
急に話を振られた、何となくペリーに似ている先生第1位。
「我輩は…そうですな、あの新しい扉に彫られたホグワーツの紋章とマクゴナガル教授の似顔絵は…中々粋かと」
「あら〜、スネイプ先生分かるぅ」
「ミス・ポッター…それでも私の顔を彫るのはどうかと思います…」
「でもでも、案外気に入ってたり?」
「今度小さい板にお願いします」
「かしこまり〜」
アイルは小さく敬礼すると、日刊預言者新聞をたたんだ。大見出し記事には、「グリンゴッツ、強盗に破られる! 闇の魔法使いか魔女の仕業か」の文字が。
彼女が向かった先は、弟のいるグリフィンドールテーブルに行った。
「おはようさんみんな」
「「先生! あの扉最高だぜ!」」
「ありがとう双子くん。ねぇハリー、友達は出来たかな?」
「あぁうん。みんな優しい人ばっかりで、僕物凄く楽しかったよ!」
ハリーは笑顔で言う。今まで友達なんてものがいなかったハリーにとって、ロンもフレッドもジョージも他の人もーーとても大切な人たちだろう。アイルも嬉しかった。ずっとハリーの事を心配していたが、そろそろちょっと弟離れしても良いかなぁと思い始めた。
「そうか。良かったねハリー。ロン、これからこの子をよろしく頼むよ?」
「はい、ハリーはもう親友です!」
「ありがとうロン」
仲睦まじい。ーー此処に私が乱入する余地なんてないわね。
アイルは優しく微笑むと、大広間から立ち去った。
*
とりあえず、今日は初めての授業だ。教室は、生徒たちがたどり着きやすいように大広間を出て階段を上がった少し先に作ってもらった。その途中の道には、ご丁寧に「呪文学は、こっちだよん☆→」と書かれた蛍光色の看板がしつこいほど置いてあった。
教室は、至って質素なモノとした。生徒用のツクエとイス、そして本を大量に詰め込んだ棚と黒板と教壇。ただそれだけだ。
1時間目、初めての授業はグリフィンドール1年生のみんなだ。レイブンクローと混合授業で、中々楽しみ。弟贔屓だと言われないように、全員に厳しく接したいと彼女は思っている。
最後にとりあえずまとめとして、アイルは自分の部屋へ入って行った。
*
授業5分前になると、教室は生徒で埋まっていた。皆、アイルが出てくるのを楽しみにしている。しかし、ハリーは少しソワソワしていた。なんだか、姉が先生というのが恥ずかしいというか、顔を合わせ辛いというかーー
ハリーと同じ部屋になった、ディーン・トーマスとシェーマス・フィネガンは、特に楽しみだった。若干ブラコンだという事は聞いていたので、もしかすると近くに座ってルームメイトだから話す事が出来るかもしれないという、密かな期待があったのだ。
チャイムが鳴り響く。静けさに包まれたホグワーツの廊下は、鐘の音が木霊していた。
「やぁやぁやぁ、みなさん。おはようございます」
気がつくと、教壇にアイルが座っていた。ハリーは、よくアイルにマジックを見せてもらっていたが、よく考えるとあれは普通に”魔法”だったのかもしれない。
「昨晩も述べました通り、私はアイル・ポッター。『呪文学』教授です。ご存知かもしれませんが、前学期教鞭を取っていらっしゃったフィリットウィック教授は、『ギックリ腰があまりにも酷いので、隠居するね♪』という事で、私が代わりに。では、今年はこの教科、グリフィンドールとレイブンクローが合同で学習を行いますが、一応欠席確認だけ…名前を呼びますので、返事をしてください」
アイルは何処からか取り出した名簿を片手に、生徒達の名前を順に呼んでいった。名前を呼ばれた生徒の中では、あまりの嬉しさに気絶してしまう人もいた。あのヒキガエルのネビルと、栗毛ハーマイオニーもいた。二人共嬉しそうに席についている。
「あらネビル、ヒキガエルは見つかったかしら?」
「は、はい! 先生」
「良かったわね」
アイルは優しく微笑みかける。すると、周りの生徒が悔しそうにうつむいた。
「先生、今日はどんな魔法を教えてもらえるのですか!」
ハーマイオニー・グレンジャーはどうやら、知識に飢えているようで、自分から積極的に質問をしてくる生徒だった。アイルはそういう子が好きだ。自分から知ろうする事ほど、素晴らしいモノはない。
「今日は…一番初歩的。でも使い方を変えるとかなり便利な魔法。そう…『浮遊呪文』」
皆、アイルの事は知っていた。マグル出身の子でさえ、彼女の噂は聞いた事があるくらいだ。本で読むか、親から聞くか、魔法使いの子供はこの2つの方法でハリーとアイルについて知っていた。魔法使い達は、子供が物事を理解出来る歳になると、『暗黒時代』の事を話して聞かせる。今では、何だか義務のようなモノにもなってきている。闇の魔法使いがどれほど酷いモノだったのか…それをわかってもらうためだ。そして、同じ道を歩ませないためーー
その際、ハリーとアイルの名前も上がる。ハリーは、ヴォルデモートを倒した張本人。アイルは、ヴォルデモートが唯一愛した人間だと。
女の子はハリーを調べる。男の子はアイルを調べる。両者を調べる子供もいる。しかし、結局は皆アイルの事を調べるのだ。ハリーについての記述は様々な本に多くあるが、どれも似通ったモノばかり。「例のあの人」を倒した子供…と、それだけしか書かれていないのだ。
アイルの場合、学歴や言動、性格から容姿まで全てを調べる事が出来た。しかし、本人は過去を嫌っているので、自分の口からは詳しくまで中々話そうとしない。せいぜい、「ヴォルデモートに監禁された」とだけ。それは、大好きな弟でも例外ではなかった。
「『ウィンガーディアム・レビオーサ』」
アイルは、近くの誰も座っていないイスに向かって魔法をかけた。誰も目を離さなかった。途端、イスはふわふわと浮かび上がり、空中を移動した。下手すると破壊しかねないので、アイルは力加減を考えなくてはならなかった。
「これは、手の動きが若干難しいから、最初のうちは使えなくて大丈夫よ。しかし呪文が長いから噛み易いのよね…だから、この呪文は授業の3つ使って使えるようになってもらうわ。あぁ、難しかったら私に言ってね」
そして、授業が始まった。
「まずは手の動きから。そうね…簡単に言うと、ピューンヒョイ…かな。滑らかに手を下に下ろし、勢いよく振り上げる。私が合格って言った生徒は、呪文も合わせて言ってみて。じゃあ、私に合わせてせーっの」
『ピューンヒョイ』
「うん、中々良いよ。ハーマイオニー、ディーン、ファル、カイト、貴方達は呪文も入れて良いわよ。タイミングを揃えるためにね」
*
結局、この日魔法を使えたのはハーマイオニーだけだった。近くの羽根を自在に浮かばせていたので、アイルはグリフィンドールに10点を上げた。これなら贔屓とは言わないだろう。
一先ずこの日は大した事が起こらずに終わった。いや、一度あったか。
あれは最後の授業だった。3年生のグリフィンドールとスリザリンの合同だった。
「皆さんこんにちは…ん、こんばんはかな。アイル・ポッターだ。眠いかもしれないけど、最後の授業だから気張っていこう!」
「「わ〜! せっんせ〜!」」
「え、君たち3年生だったの?!」
いつものノリで挨拶したが、赤毛がいた。というか、ウィーズリー家をよく見かけるのはなぜだろうか。見分けのつかない双子であるフレッドとジョージだが、アイルは一目で分かった。
「さぁ先生! フレッドちゃんはどっちでしょうか〜! 俺だ!」「俺だ!」
「うん、私から見て右だね。授業始めようか」
ノリが良い生徒はどの寮にもいるようで、中々教えていて楽しかった。
授業が終わった。フレッドとジョージは案外魔法が上手く、あのもふピンを作り出す事も彼らも簡単に出来るのかもしれない…と思ったほどだった。
「先生! 俺らと一緒に大広間行きませんか!」
「あぁ、私は少し用があるからいけないよ。ごめんね」
「そうッスかそうッスか」
アイルは彼らが全員出たのを確認すると、小さくため息をつくのだった。