ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
月日というのは、思ったよりも早く過ぎ去るモノだ。楽しい時ほど早く過ぎ、つまらない時ほど遅く過ぎる。ハリーにとっても、アイルにとっても、この2ヶ月はとても楽しいモノだった。そして今日はハロウィーン。しかも休日という事で、ホグワーツの飾り付けはいつも以上に豪華になっていた。
カボチャランタンが立ち並び、学校は見た事のないゴーストも飛び交っていた。
アイルが散歩と称してホグワーツを歩いていると、誰かに声をかけられた。
「あれ? アイルなの?」
「こ、この声は…げ」
恐る恐る後ろを振り向くと、白い半透明の少年のゴーストがいた。ホグワーツのローブを着ていて、半透明でも分かるほど血だらけだった。見た感じはただの美少年だが、その目は狂気に満ちていた。
「アイルじゃないかあ、久しぶりだな。ふふ、相変わらず可愛いなぁ」
「何でゲーデが…いるの…」
「君がボクに100キロメートル圏内に入れない魔法をかけたけど、今日だけは特別って校長が解いてくれたんだ」
「あのヒゲ老人!!!」
このゴーストはゲーデ・ユダート。彼女が学生時代時のスリザリンの数少ない友人の一人だったが、ある日闇の魔法使いに殺され、悲しんでいた所ゴースト化して帰ってきたストーカーだ。別に生きていた時にストーキングされていたわけではないが、その時からずっとアイルの事が好きで、ゴーストになって行為がエスカレートしたようだった。いつでも何をしている時でも構わず絡んでくるので、自分で開発した「ゴースト避け呪文」でゲーデのみのゴーストを、自分の近くに入れないようにした。
「あとね〜、手だけ実体化もしてもらったんだぁ〜」
体の一部が、ひんやりとした感触に襲われた。
「っ! こんのセクハラゴースト!」
「セクハラだって? ボクの純粋なる愛を手で表現しただけだよ」
「だからって触るな来るなァ!! あの半月ジジイ覚悟しとけよ!」
淑女らしからぬ暴言を吐き、アイルはゲーデから今自分の持つポテンシャル全てを発揮して逃げ出した。あのストーカーは一応常識はあるが、無視していると着替えから風呂まで覗いてくる変態だ。逃げる以外どうしろというのだろうか。
しかし、ゴーストに敵うワケがない。スタミナも体力も無限大で、ただフラフラと猛スピードで真横にピッタリをくっついてくる。
「今までずっと情はかけてたけど、もう我慢できない! 今この場でアンタを地獄に送ってあげるわ!」
「え〜、ボクずっとアイルの側にいたいんだけどなぁ」
「成仏したいよね? したいよね!」
「いや、ちょーー」
アイルは生徒の大勢いる小庭までやってきて止まった。そこはホグワーツの別階の窓から観れるので、何事かといつも以上に人が集っていた。
随分立派な物見になってしまった中、アイルは杖を構えた。涼し気な柔らかい秋の風。紅葉のようなベールに包まれ、静寂が轟いた。
「いや、いやいやいやいや! ボクまだ逝きたくないから! 死んでるけど成仏はやだから!」
「私に近づけないようにしただけじゃ、やっぱ不安だ! 色々不安過ぎる!」
そして無言で魔法を放つ…とその前に、生徒達に守りの魔法をかけた。
「おやおや、相変わらず優しいなあボクのアイルは」
「私は誰のものでもない!」
杖から数多の線香が散り、花火のようにゲーデに向かって舞った。彼は余裕の表情を見せていたが、それも虚しく魔法が突撃し、彼は吹っ飛んだ。
「な、何で…ゴーストなのに!」
「私がアンタに対して何の攻撃も持っていないと?」
「っ…それなら、ボクだって!」
ゲーデはニヤリと笑うと、懐から杖を取り出した。何をするのかと思いきや、突然魔法を放ってきた。ありえない、ゴーストが魔法を使うなんてーー
急に飛んできた事には驚いたが、アイルは表情一つ変えずに半身で避けた。おかげですぐに魔法が発動でき、再びゲーデに魔法を放つ。ゲーデはそれを守る。
この繰り返しが何十秒か続いていたが、ついにアイルは急にしゃがみ込み、大きくジャンプをした。するとどうだろうか。ホウキもないのに空中に飛び立ったのだ。
「『闇の魔術』…」
誰かがつぶやいた。当たり前だが、違う。これは闇の魔術なんかじゃない。ーーあいつらと一緒にしないでほしい。
「嗚呼アイル。素晴らしいよ」
「…ゲーデ、私はアンタが嫌いよ。『ゼロ・アブソレム! 絶対零度!』」
アイルが両手を広げ、呪文を唱えると、彼女の周りには幾多の氷の矢が現れた。その氷は、何よりも美しく何よりも輝いていた。彼女の目は、いつも以上に赤く煌めいている。
アイルは杖をゲーデに向ける。
「『オパグノ! 襲え!』」
氷矢はアイルの詠唱に従い、回転しながら勢いよくゲーデに突き刺さる。あまりの刹那ーー誰もが瞬間移動でもしたのではないかと思った。ゲーデは最後に優しく笑い、つぶやいた。
「ハハッ…嬉しいよ」
彼の体から放たれる光が乱反射して、静かに見守る生徒達の目に入った。
皆、一度は考えた事はあるだろう。死んだら、何処に行くのかと。今から彼は、その場所へ行くのだ。誰も分からない、未知の世界へ。
*
「嗚呼ハリー、君のお姉さんって凄いんだな」
「え、そうかな…?」
ハロウィーンの夜の大広間、そこではアイルとゲーデの話で持ちきりだった。先生方もその事は知っていたがーーというか見ていたがーー別に何も言わなかった。
グリフィンドールのテーブルでは、ハリーとロン、フレッド&ジョージが仲良く喋っていた。
「そうだぜ? 良いか? お前の麗しいお姉さまは、ホグワーツきっての秀才であり、対峙したらダンブルドアでさえ打ち負かすのではないかというほどの存在だ。それにあの魔法、見ただろ?」
「すげえ綺麗な魔法だったぜ?」
「お姉ちゃん…凄い人なのかなぁ」
「当たり前だよ。ゴーストを成仏させるなんて…人が成せる技じゃない」
赤毛トリオは口を揃えて言う。しかしハリーは、他にも気になる事があった。
「ハーマイオニー…来てないね」
「良いだろあんな奴」
「でも、悪口は良くないよロン。謝らないと」
「まあ、今度見かけたらそうするよ。パーバティの話だと、3回の女子トイレでお嘆きだそうですよ」
ロンは皮肉っぽく言い、カボチャジュースを口に含んだ。
「そうなのか…」
ハリーがつぶやくと、突然大広間の扉が勢い良く開き、神経質な紫ターバンを頭に巻いたクィレルが息絶え絶えに入ってきて叫んだ。
「トロールが! 地下室に!! トロールがあああぁあ…ぁぁ…!!」
と叫び死亡。
したワケでもなく、気絶して倒れてしまった。何というメンタルの低さ。生徒達はクィレルの言葉を聞くと、パニックを起こして騒ぎ始めた。
「嗚呼、騒ぎは大嫌いよ。少し静かにしなさいな」
アイルの声は魔力があった。普通に発したハズなのに、拡大もしていないハズなのに。その声は大広間全体に響き渡った。凜とした艶やかな声色は、静かな迫力があり、生徒達は声が出なくなった。彼女は美しくも、恐ろしかった。何処か「闇」のような「光」のような、でも何処か「黒」に満ちていた。
「み、ミス・ポッター…っ、監督生は今すぐに生徒達を連れて寮に戻りなさい!」
生徒がゾロゾロと大広間から出て行くと、ダンブルドアはつぶやいた。
「じゃ◯りこ食べたい…」
「校長、後でチョコが大量にかかったポテトチップスを差し上げますので、今はトロールの所へ行きましょう」
先生方は立ち上がると、スタスタと大広間へ出て行った。床に倒れたクィレル先生は、ガン無視だ。というか、踏んで行った人もいたーースネイプだーー。アイルはしゃがみ、クィレルに声をかけた。
「クィレル先生、クィレル先生」
「…」
「そう、か。気絶してるのか。神経質だなぁ。『エネルベート 活きよ』」
アイルは杖でクィレルに魔法をかける。すると彼は、ゆっくりと目を開け、ボーっとした顔でアイルを見た。
「アイル…ポッター…?」
「そうです。ったく、『闇の魔術に対する防衛術』の教授でしょう? 確か、貴方はトロール退治が得意なのでしたね。それなら、早くいかないと。…っ!」
クィレルの体に触れた途端、身体中が激痛に襲われた。目眩がする。心なしか、クィレルの口がつり上がったように見えた。心臓が締め付けられる感覚がする。苦しい、息が出来ない。
「っああ、ぁぅ…!! く、あぁぁあっ」
「…」
苦しむ私の姿を、クィレル教授はムックリと立ち上がり、見下ろした。嗚呼、この苦しみは何と表現すれば良いのか。息苦しさならまだしも、身体中が捥がれたような、内臓が潰されているようなーーそんな痛みに襲われ、「磔の呪い」よりもアイルを苦しみの淵に立たせた。視界が眩み、クィレルに悶えながら助けを求める。
「きょ…ぁ…じゅ…っぁあ!」
「…アイル・ポッター、ご主人様のおっしゃる通り、貴様の悶え苦しむ姿は美しい」
「っぁあ…な…を……」
「『何を』だって? アイル・ポッター、貴様を我が帝王に献上する。復活はまだ時間はかかるが、貴様がいればご主人様の復活はより早くなる事だろう」
「っ…おまえ…は…ぁあっ」
苦しい、息ができない、涙がとめどなく溢れ出てくる。ーーこんな苦しい思いをするんなら、逸そ一思いに殺してほしい!
「クィリナス・クィレルがただの神経質な魔法使いだと思ったか? 否、だ」
クィレルはターバンを取る。嗚呼、その無慈悲な目はアイルを恐怖に陥れた。こんな事ってーー
クィレルの髪のない頭がうっすらと見えた。そして、クィレルが振り向くと、彼ではない声が響く。
『嗚呼、アイル・ポッター。僕を事を覚えているか?』
「っ…ヴォルデモート…ぁ!」
『その通りだ。嗚咽した少女よ、何と美しい…』
「しん…だ…はず…ああっ」
『僕は死んでなどいない。死を制しているのだ。肉体を失った事により、今こうやってクィレルに取り憑いている』
視界がぼやけて見えないが、クィレルの頭部にもう一つの顔が見えた。
『僕は今、体を欲している。しかし、このひ弱な男の体では、到底活動をする事ができない。嗚呼アイル、僕のアイル。僕はお前の体が欲しい』
「っ! アン、タなんかに…私の体は渡さないわ!」
逃げ出そうと体を起こそうとするも、力が入らず、床に倒れこんでしまう。近くのテーブルのイスに体重をかけ、起き上がろうとするが、足が動かない。
『苦しいだろうアイル。僕がその痛みを鎮めてやろう。さぁ、身を委ねろ。なに、時がくれば体は返し、再び愛でてやる。安心しろ』
「っ…あぁっ!」
身体中に何とも言えない激痛が走る。全てを大きな鉄の針で貫かれ、四肢を切り離されたようなーー先ほどとは比べものにならない痛みが体を襲った。今、アイルは気づいた。これは魔法だという事に。
「磔の呪い」ではない、もっと強力な「拷問呪文」だった。それに対抗し、杖で魔法を解こうとするもそれも叶わず。痛みの方が勝ってしまう。
「ポッター、ご主人様に従え。抵抗するのは止めろ」
「私は…アンタ達なんか…っ、屈しない!」
呪いに抵抗する事は諦めた。しかし、勝つ事は諦めていない。アイルは地べたに這いつくばりながら叫ぶ。
「『ナイプノウ・ブロウラ! 変形:剣!』」
杖が姿を変え、白い宝石の埋め込まれた剣に変形した。最後の力を振り絞り、彼女は剣をクィレルの向かってふるった。彼は咄嗟に守りを張ったが、それはアイルの魔法には通用しなかった。剣はクィレルの左膝から脳天にかけて、一直線に切り裂いた。鮮血が飛び、途端に痛みは消え失せた。
しかし、体は動かない。
二つに切り裂かれたクィレルの体から、黒いモクモクとした煙のようなモノが湧き上がった。あれが何なのかと分かるまでもなく、アイルは意識を失った。