ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
小さな小さな体に、大きな大きな力が眠っている事はよくある。ハリーもそのようだった。まだ生まれてからそんなに経っていない赤ん坊なのに、最強の魔法使いを討ったというのだ。しかし、完璧ではなかった事がこの日、身に染みて分かった。本当は認めたくなかった。でも、分かってしまったから。現実逃避よりも、今はアイルとルシフの容態の方が心配だった。
三人はあの後、ハーマイオニーが呼んだダンブルドアが救出した。ハリーはただ気絶しただけで怪我はなかったが、問題はアイルとルシフだった。
アイルは「魔法の錬金術師」自らが作り出した中でも、かなり強力な域となる「永久の光」。これは、闇を浄化する魔法故に、取り憑いたヴォルデモートを取り払うのに最適なモノだった。しかし、リスクも伴う。人に対して使うと良ければ瀕死。悪ければ死に至る。そんな術を、魔力が高いアイルが自分に放ったのだ。死んではいないが、命の危険はある。
ルシフは、アイルの体でヴォルデモートがやったのだ。つまり、最強の魔法使いが高魔力の魔女の体を使っていたぶった。しかも、見た目は愛するアイルだ。ルシフにとって、これほど辛い事はなかっただろう。
ヴォルデモートには情の欠片などない。たとえ「死喰い人」上層部の人間の息子だったとしても、躊躇はしなかった。
ダンブルドアやマダム・ポンフリーの魔法で、二人共どうにか峠は越えた。それでも二人は、まだ目を覚まさない。しかし、ハリーは落ち込まなかった。「何処にも行かない」と約束してくれたからだ。
あの事件から一ヶ月が経った。相変わらず、二人は目を覚まさないが、ある日ルシフが消えた。アイル宛の手紙を残して。
親愛なるアイルへ
まずは最初に言っておく。俺がオマエを愛しているのは、紛れもない事実だ。これは、いかなる闇でも覆い隠す事の出来ない光だ。俺は、ホグワーツを去る。もう二度と会う事はないかもしれないが、俺の事はどうか忘れないでくれ。オマエと過ごした時間は、最高に楽しかった。最高の幸せだった。
ヴォルデモートは、いつか蘇る。その時はきっと、俺はオマエの敵になるだろう。しかし、俺がオマエを愛している事を決して忘れないでくれ。
こんな俺に、楽しい思い出をありがとう。
君の恋人、ルシフより
ハリーはこれを見た時、頭の中に選択肢として『破り捨てる』と出たが、此処はグッとこらえた。姉に対する愛する人の最後の手紙だ。もし破ったりしたら、悲しむに決まっている。
そして二ヶ月が経った。まだ目を覚まさない。好い加減目を覚まして欲しかった。ハリーは泣き出したかったが、小さく息を立てて安らかに眠っているアイルはいくら揺すっても起きないし、いくら声をかけても届かなかった。
しかし、誰もいない時に彼女は目覚めた。真っ赤な瞳を開けると、白い天井を見つめた。何だか長い長い夢を見ていたような気がする。でも目覚めた世界は残酷で、それでも美しかった。
ふと横の小さなテーブルを見ると、自分宛の手紙が置いてあった。自分宛なら良いだろうと思い、案外軽い手で手紙を開けた。
そして、中を読んで小さく笑った。涙は不思議と出なかった。
「あぁ…ルシフ、貴方はいなくなってしまったんだね」
自分の所為で傷ついてしまったのだ。自分の所為なのだ。だから、嫌われても言い訳は出来ないし、別れようと切り出されても仕方なかった。
「ごめんなさい、ルシフ。貴方の事は…忘れない」
でも彼は、少しも怒りはしなかった。ただ、「自分の事は忘れないでほしい。君の事を愛している」と。こんな目に遭ってまでまだ自分を愛してくれるルシフが、本当に愛おしかった。嬉しかった。恋をした事がなかった身で、こんなに胸が熱くなったのは初めてだった。
しかし、ルシフがいなくなったのは自分の所為だ。これは何をしても揺るがない事なのだ。
クリスマス前に、アイルは自分の中に異様な何かを感じ取った。そこで、心から信用できる相手であるルシフに頼んだのだ。彼の目の届く場所に、自分を監禁してほしいと。でないと、何かをやらかしそうでならないのだ。勿論彼は断ったが、あまりにアイルが真剣なので、仕方なく手を貸した。
毎日行くルシフの部屋に、鎖で繋いだ。その間も二人の感情は変わらず、寧ろもっとお互いを知る事が出来た。ハリーが心配している事は知っていたので、安心させるために元々準備していたプレゼントを贈った。
「私も愛してるよ…ルシフ」
ベッドの上で、アイルは切実に微笑む。大好きな人の大切な手紙。一生大切にしよう。
そして彼女は自分の左手首を見た。黒い宝石のブレスレット。ルシフの魔力が煌めいている。何だか、離れていてもずっと一緒のような気がした。このブレスレットは、肌身離さず身に着けておこう。愛の証として。
すると、医務室のドアの先から、水差しを持ったマダム・ポンフリーの姿が現れた。彼女はアイルが目覚めているのを見るや否や、歓喜の叫び声を上げた。いつも静かに!と怒鳴っているマダム自身が、嬉しさのあまり大声を上げてしまったのだ。
「アイル!」
「先生…」
マダムは顔を高揚させて、水差しの中身が溢れているのも気にせず走ってきた。あまりに嬉しそうなので、アイルは思わず苦笑いをしてしまった。
「あぁ嬉しいわ! また貴女の綺麗な瞳が見れて! すぐにポッターと…ダンブルドア先生を呼びましょう! それから魔法大臣やらハグリットから長官やらマクゴナガル教授やら執行部の人やらスネイプ教授やら神秘部の人間まで! お見舞いに来てくれた人みんな呼びましょう!!」
「お、落ち着きましょう先生…」
「そ、そうね…コホン…とりあえず、お水を飲みましょう」
いつもの落ち着きをどうにか取り戻したマダム・ポンフリーは、水差しの中の水をコップに注ごうとしたが、生憎水差しは空になっていた。
しばらくすると、マダム・ポンフリーが呼んできてくれたのか、息を切らしたハリーが飛び込んできた。久しぶりの姉の笑顔、久しぶりの姉の瞳、久しぶりの姉の声。その全てが全て嬉しくて、愛おしくて、ハリーは泣きそうになった。
「お姉ちゃあぁん…」
「ハリー、よく頑張ったね。ありがとう…」
アイルは泣きじゃくるハリーを強く抱きしめ、額に小さくキスをした。稲妻型の傷跡が痛々しく目に入るが、アイルは何も感じなかった。今はハリーに会えた事が一番嬉しかったのだ。
*
アイルが目覚めた事は、ホグワーツ中で話題になった。何故か、面識のないはずの魔法省の人達もお見舞いに来てくれた。この時、アイルは初めて魔法大臣と会ったわけだが、お互い第一印象はとても良いものだった。
「コーネリウス・ファッジです、ミス・ポッター」
「アイル・ポッターです。お会いできて光栄です大臣。こんな不束者のために、わざわざホグワーツまで足をお運びなさって…」
「いえいえ。美しいレディのためならば、私は何処へだって行きますぞ」
「あらお上手ですのね」
赤い瞳の彼女は、入院服だったわけだが、その美しさは健在であった。着飾り、化粧をし、笑顔を作ればたちまち世界中の男が虜になるだろう。
「お世辞などでは。ヴィーラさえも超越するミス・ポッターさんは、私の憧れのような存在ですよ。まぁともかくして、お体の具合はどうですかな?」
「えぇ。お陰様で上々。皆さんのお菓子は私の体重の天敵となりましたが」
「おや、では次は菓子ではなく本を持って来ましょう」
「お忙しいのですから、大臣も無理はなさらないでくださいね」
みんなから「ハニーデュークスお菓子店」の甘い甘〜い食べ物をたくさん貰ってしまったので、今度大広間にばら撒こうと思う。全部食べても良いのだが、それだとアイルの体重がヤバイ事になってしまう。いくらいつもスッピンだとしても、体重だけは気にする。だって女だからね。
すぐに、一年が終わりを迎えようとしていた。
広い広い大広間では、たくさんのロウソクとお菓子が飛び交い、ダンブルドアはスナック菓子をジッと見つめながら話していた。
「一年の時が過ぎた。今年も様々な事があったのぅ…さて、夏休みが明けるとまた新学期じゃ! さーて、わっしょいこらしょいどっこらしょいのすけ!」
『WAAAーー!!』
相変わらず、ホグワーツは危険で楽しくて平和だ。一見して矛盾しているようだが、アイルの中ではホグワーツはそんな場所だった。この美しき学び舎は、これからもたくさんの人間を育てていくのだろう。
「ホグワーツに、栄光あれ」
やっと一巻が終わった!
次は「秘密の部屋」ですね。あ〜嬉しや嬉しや☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆