ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
アイルは翌朝、学校にて魔法省の役人に尋問を受けた。教師が生徒に危害を加えるなど言語道断。ダンブルドアは魔法省が首を突っ込む事にあまり良い顔はしなかったが、生徒のためにと許容したのだ。
今日は部屋から出るな、誰とも会うなと言い渡され、ハリーと過ごす事が出来なくなってしまった。これに眼鏡の少年は憤慨し、危うく役人に怪我をさせてしまう所だった。この弟の怒りっぷりは役人も腰を抜かすほどで、マクゴナガルの介入によってようやく自体は静まったとの事。
誰とも会えない、話せない休日。これほど退屈で憂鬱な事があるだろうか。もう既に授業の内容は決まっているし、呪文を作っても良いけどこれはこれで魔法省に警告されそうだ。なので暇潰しと言っては何だが、話してくれるのはトム・リドルのみ。
「『あぁトム、部屋に軟禁されて疲れた。湖の畔でゴロゴロしたい』」
『僕も姉さんと一緒にゴロゴロしたいな。それにしても、魔法省は酷いね。姉さんを部屋に丸一日閉じ込めるだなんて』
「『籠の鳥にでもなった気分よ。トムに実際に会って話がしたい』」
『実際に会えますよ、姉さんがそうしたいのなら』
ふと、羽ペンの動きが止まった。ーー私がそうしたいのなら会える、ですって?
トム曰く、これは所詮は”記憶”に過ぎない。ただの記憶にそんな力などあるのだろうか。ただの虚言の可能性もある。それでも、そんな魔法は見た事も聞いた事もない。一体どうすれば…。
「『へぇ、どうやるの?』」
『姉さんがこの日記帳に文字を書く度に、僕の力も強まっているんだ。それは、姉さんの魔力が物凄く高く濃厚である事が理由。だから、姉さんの魔力と魂が多く注がれた僕は、簡単に実体化する事が出来るんだ。まだ時間は短いけどね』
「魔力と魂を注ぎ込む」
その文章は、アイルにとっては闇の魔術他ならないもののように感じられた。それでも、今まで信用して多くの事を共有してきたトムが疑わしいとは、断言出来ない。
『姉さんはただ、杖を抜いて日記帳に魔力を注ぐだけで良いんだ。ほら、やってみて』
トムを信じたい。トムを疑いたくない。
アイルの頭の中は、それでいっぱいになってしまった。悩み、夢、希望、何でもかんでもを語り尽くした仲に、亀裂など簡単に入るものではなかった。かといって、それを受け入れて、何か起こったらどうしようという不安も残っていた。
しかし、アイルの体は操られるように杖を抜き、日記帳の羊皮紙に杖先が当たった。途端に日記帳が輝きを帯び始め、アイルは咄嗟に目を塞ぐ。
「何?! 眩しい…!!」
驚いて杖から手を離してしまった。しかしまだ光は止まない。
「あ、あれ…止んだのかしら」
目の奥を突くような刺激がなくなり、瞼の向こうが再び暗に包まれたような気がする。少し目を開けると、案の定、もう光は止んでいた。一体どういう魔法なのだろうかというワクワクを抑えつつ、アイルは落とした杖を探した。
しかし、机の上も下も、自分の杖は見当たらない。
「やぁ姉さん、良い杖だね」
突然、自分とは違う声が耳に入ってきた。まさか、本当にトムがーー
「そんなに吃驚しないでくれよ姉さん。お探し物はこれかな」
パッと振り返ると、そこにはスリザリンの制服を着た、背の高い凛々しい顔立ちの好青年が立っていた。手にはアイルの杖が握られている。彼は楽しむように笑うと、手の中で杖を弄び始めた。
「ッ…トム? トムなの?」
「あぁ、その通りだよ。姉さんに会えて嬉しい」
人を寄せ付けざるを得ないほどの美形の青年。まさか相手が此処までイケメンだったとは。アイルは苦笑しながら立ち上がり、彼と同じく笑みを浮かべた。
「私も嬉しい。弟が増えたわ」
「そう、だね…」
トムは一呼吸つくと、そのままアイルをギュッと抱きしめた。自分より結構背が高いので、アイルの顔はトムの胸の中に埋もれてしまう。抱きつかれたのが久しぶりというとの、驚きが入り混じって、アイルの顔は真っ赤になっていた。
「あッはは、姉さん…可愛いね」
「ご、ごめんなさいね、吃驚しちゃって。…ん? どうして目が赤くなってるの?」
先ほどまでは、トムの瞳の色は黒だった。でも今は何故か、赤が混ざっている。
「姉さんとお揃いだ。黒い髪、赤い瞳」
「本当に姉弟みたいね」
「本当の、姉弟になりたいな」
トムは笑顔でアイルの頭を撫でる。ハリーも将来こんな風になるのかなと少し心配になっていると、トムはアイルを無理矢理椅子に座らせた。
「どうしたの? トム」
「姉さん、姉さんの弟は僕だけだ。分かるかい? ハリーなんて弟はいない」
「…トム、そんな事を言わないで。ハリーは私の大切な弟よ。勿論トムも」
「…そうか。残念だ」
彼の瞳は、先ほどとは比べ物にならないほど赤くなっていた。アイルのそれと比べても大差ないような、美しい赤だ。しかしそれは何か黒い感情によって支配されている。
トムがアイルに手を翳すと、美貌の教師は一瞬にして意識を奪われた。フワッとした感触に押され、アイルはトムにもたれ掛かる。
「ハリー・ポッターなんて必要ないんだ、姉さん。姉さんには僕さえいれば十分だ」
*
その日から、記憶の続かない事が度々アイルの頭を襲った。気がつけば知らない場所にいて、何かをしている。そんな事が一日に最低一回は起こるのだ。
それからも、グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローのマグル生まれの生徒達が次々と石化していった。いずれも雨だったり水が溜まっていたり鏡を持っていたりとそれぞれだったが、原因はやはり突き止める事が出来なかった。
現犠牲者、十一人。
途中、ハリーが継承者をドラコ・マルフォイだと思い込んで「ポリジュース薬」で探ろうとしたりだとか、そのせいでハーマイオニーが猫になってしまったとかーーある程度の事件は起こったが、問題はこの日記だった。
破ろうとしても破れない。壊そうとしても壊れない。あれからもトムは、まるで実体化なんてなかったかのようにアイルに接してきたが、彼女はそういうわけにもいかなかった。あれが夢だという可能性も否定は出来なかったが、闇の物品である事はもう確証となりつつあった。
無責任に捨ててしまえば、誰かがこの日記帳の闇に囚われてしまうかもしれない。
あれから夢には、必ずと言って良いほどトムの姿が現れる。優しく、笑顔で話をしてくれるが、それには深い深い闇が見えるような気がした。
ダンブルドアにこの日記を渡さなければーーそう思った矢先、新たな事件が起こった。
それは、クィディッチの試合が始まる少し前。ハリーとロンの親友でマグル生まれの、ハーマイオニー・グレンジャーが石となっている所が発見されたのだ。
その時刻前後の記憶が、アイルには残っていなかった。故に結論付けた。自分がスリザリンの継承者となり、生徒達を襲っていたという事をーー
おまけにその容疑で、ハグリットまでもが魔法省に連行されてしまった。私のせいだ。私の、せいだ。
「早く、ダンブルドアの元へ向かわないと…」
日記帳を引っ掴み、真夜中なのも気にせずにアイルは校長室へと走った。このままにしておくわけにはいかない。これ以上被害者が出ないうちに、この日記帳をダンブルドアに届けなくてはならないのだ。
「ダメだね姉さん。悪い子だ」
髪を引っ張られる感覚がして、アイルはよろめいて尻餅をついた。この声は、トム・リドルだ。
目の前にニュッと綺麗な顔が覗いてくる。あれからもう実体化はなかったし、日記も開かなかったのに。
「ダンブルドアに僕を突き出すだって? 冗談はよしてくれよ。僕の事を、弟だと思ってるって言ってくれたじゃないか」
「もう貴方は弟でも何でもないわよ、トム」
「間違ってるのは姉さんの方さ。僕がこんなにも姉さんの事を想ってるのに…姉さんはハリー・ポッターの方が好きなんだね」
「そうね。今はそう」
アイルは杖を抜き、身構えてトムに向ける。しかし彼はただ高笑いをするだけだった。
「悪い子には…お仕置きをしなくちゃいけないね、姉さん?」
この頃忙しくて全然かけない...末長くお待ちくださいまし。