ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
「はっ…お姉ちゃんが、危機に瀕している気がする」
「ハリー? 急に何を言い出すんだい」
その頃、獅子寮の談話室では眼鏡の少年と赤毛の少年が、宿題に勤しんでいた。しかし魔法薬学の無駄に多く難しい宿題がまだ終わらない。ハーマイオニーがいれば、数十分が片付けられるというのに。にも関わらず、ハリーはパッと目覚めたかのように覚醒した。
ロンは、そんなハリーに若干引いている。
「僕の『お姉ちゃんレーダー』が、お姉ちゃんの危機を警告してるんだよ!」
「いやいやそんなの存在しないから。『お姉ちゃんレーダー』とかないから」
「僕とお姉ちゃんは、普通では考えられないような常識に捉われない絆で結ばれてるんだよ。だから分かる。今お姉ちゃんは、危険だ」
「君の頭の方が危険だよ!」
今にも暴れだしそうなハリーを、親友は慌てて押さえつけた。机に突っ伏しながらもハリーは杖を取り出す。
「お姉ちゃんを助けに行く!」
暗い空気に満ちた談話室は、ハリーに対する失笑と苦笑の表情に溢れた。パーシーは暴れる二人組に注意と落ちつく事を促すが、それは止まる様子はない。止める者もいない。今此処にアイル・ポッターがいれば、こんな暗い状態でも談話室は笑顔で満ちていただろう。
ハリーは親友達の拘束を解き、自らの部屋に飛び込んだ。トランクの中から丁重に保存された「透明マント」を取り出すと、そのまま被った。
「ちょ、ハリー! 行くなら僕達も一緒だよ。あ、捕まえた」
ロンは捕まえた透明の物体の布を引き剥がし、中に入る。ベッドでスヤスヤと眠りにつくルームメイト達にバレないよう、二人はソッと外に出た。
現在、夜中に談話室の外に出る事は禁じられている。しかし恐怖で眠れない者達も多い。早く寝たいのも山々だが、皆と一緒にいる方が安心出来る者達も多い。故に談話室には多くの生徒が集まっている。二人はそれに気づかれないよう、ソッと肖像画を抜けた。
目指すは、呪文学の教室ーーアイルの部屋だ。
しかし追い討ちをかけるかのように、珍しい校内アナウンスが流れる。
『教師陣は全員、職員室に大至急お集まりください』
それならば、職員室に行かなくてはーー二人は透明マントの中で、急いで駆け出す。ハリーは自分の『お姉ちゃんレーダー』が間違っている事を願いながら、切れる息も重くなる足も無視して走り続けた。透明マントなんて、とっくに外してしまった。
「また…襲われたのかな…?」
「分からない。でも、早くお姉ちゃんに会いたい…」
職員室にたどり着き、ハリー達はその少し開いた隙間を覗いた。心臓が張り裂けそうな程ドクドクと脈打ち、呼吸が途切れ途切れとなる。その血走った緑色の瞳は、隙間から自分の愛しい人の姿を探した。
しかし、どれだけ目を開けても、どれだけ探しても、姉の姿が見つからない。
「ま、まだポッター先生来てないんじゃないか? ほら、あの人天然だから階段でズッコケたのかもしれないし」
「そうか…お姉ちゃんこけたのか…だから僕の『お姉ちゃんレーダー』が反応してたのか…」
職員室の中から、ダンブルドアの声が漏れて聞こえてくる。
「とうとう起こった。遂に一人、怪物に連れ去られてしまった。『秘密の部屋』そのものの中に…」
「何ですって…?!」
ダンブルドアの言葉を、ハリーとロンは耳を澄まして聞いた。次の言葉を、聞きたくないにも関わらず、聞く事しか出来なかった。嫌な予感しかしない。
「『スリザリンの継承者』が、再び伝言を書き残したのじゃ」
ーー彼女の魂は永遠に継承者の物となり、「秘密の部屋」の寵姫となるであろう。
教師陣の蒼白な顔を見ていると、ロンでさえ心が重くなる。泣き出す者もいる。口を手で覆う者もいる。冷や汗を流す者もいる。
「そういえば、アイルが来ていない」
「あ、アイルは…」
マクゴナガルが俯く。まさかーー
スネイプは相変わらず感情を見せず平静を保っているようにも見えるが、その表情には焦りまでもが感じられる。いつも人を見下す態度をするスネイプの腰が抜けている。少し震えている。それは、長らく感じていなかった「恐怖」という感情。
最愛の人に似た者を失った悲しみ。恐怖。
「アイル・ポッター。彼女が、継承者の手により部屋に連れ去られました。あの子が連れ去られるなどーー継承者の力は強い。必ず、遅くとも明日には生徒を帰宅させなければなりません。ホグワーツはこれでお終いです」
厳格なマクゴナガルの瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。ダンブルドアは思いつめた様子ではあったが、校長らしく教師陣に指示を出す。
「…寮監は寮に戻り、何があったのかを知らせるのじゃ。しかし、アイル・ポッターの名を出してはならん。あくまでも、連れ去られた者がいたと言うだけ。そして、明日一番のホグワーツ特急で帰宅させるとも伝えてくれ。他の先生方はーーこんな真夜中にありえないじゃろうがーー生徒が寮外でうろついていないかの見回りを。わしは…アイルを探しに」
教師方は動き出すも、ハリーはドアの隙間を覗いたまま呆然と佇んでいる。危機感を覚えたロンは、慌ててハリーを揺すった。
「ハリー、どうするんだよ。アイル先生が連れ去られただなんて…」
「継承者許さない継承者許さない継承者許さない継承者許さない継承者許さない継承者許さない継承者許さない…!!」
「とりあえず場所を変えよう。そうだ、先生の部屋に行こう。何か調べているかもしれない」
「お姉ちゃん…お姉ちゃんの部屋…」
ロンの言葉に感化されたハリーは死んだ魚のような目をしたまま、突然走り出した。目指すは、愛しの姉の部屋。そこに一体何があるのかなどは理解していないが、何もしないよりかは、幾分マシであろう。
*
秘密の部屋は、「嘆きのマートル」の住み着く女子トイレが入り口となっている。昔、魔法界では珍しくマグル方式の
冷たい地面の奥深くには、その恐ろしきスリザリンの集大成が存在していた。
巨大な蛇の石像達は餓えを我慢出来ないかのように口を開け、訪問者をジッと見つめ続ける。訪問者など、ここ五十年いなかった。しかし今宵、新たな部屋の主が姿を現したのだ。
部屋の真ん中には、豪奢なベッドが用意されていた。天蓋が付き、薄い緑色の布で覆われる王族専用の寝具にも感じられる。部屋の真ん中には何処からか差し込んだ光が集まり、幻想的な雰囲気が醸し出されていた。
そしてその美しさを際立たせていたのは、寝具で眠る黒髪の姫の姿だった。姫の傍には、ホグワーツの制服を着たこれはまた整った顔立ちをした美青年。愛おしげに姫の髪を撫で、彼女に見惚れた様子でため息をつく。
「姉さん…何て美しいんだ…あぁもう、これを永遠のものに出来たら良いのに。僕だけのものに出来たら良いのに。…そうか、もう姉さんは僕だけのものか」
その美青年は、実体化したトム・リドルそのものだ。彼は恍惚した表情のまま、杖を取り出して姫の頭を優しく叩いた。
姫は眠りから徐々に目を覚まし薄ら目を開けるも、自らの状況を全く理解していない。しかし目の前の美青年の姿を確認すると、安心ではなく、恐怖と怒りが沸き起こった。
「あ、貴方…!!」
「やぁ姉さん、少し手荒な真似をしてしまってごめんね。痛くなかったかい?」
「何これ…何で体が動かないのよ…」
「あぁ、顔以外は『凍結呪文』をかけておいたから。姉さんの事だから、杖が無くても魔法使えるだろう?」
「流石にそれは難しいわ…さぁ、早く放しなさいリドル」
アイルの願いは、トムの心に届かない。彼は小さく頷くと、再び愛撫し始めた。
「リドルだなんて、酷い。姉さんにだけは”トム”って呼んでほしいのに」
「最悪。もう姉さんだなんて呼ばないで。貴方なんて弟じゃない。私の本当の弟は、ハリーただ一人よ。この猫被り男」
「猫被り? 僕は自分を偽ってなんていない。姉さんの前ならば、本当の僕になれる」
「
アイルの反抗的な態度を腹を立てたのか、トムは顔を歪めて杖を突きつけてきた。こんな事は慣れているのでアイルは動じないが、やはり今まで信用してきた相手に裏切られ、杖を抜かれるというのは辛いものだ。
トムは低い冷たい声で言う。
「ハァ? 姉さんは僕に従えばそれで良いんだよ。僕だけを見て、僕だけを想って、僕だけを感じればそれで良いんだよ。何が『弟じゃない』だ。僕がこんなにも姉さんの事を愛しているのに、何故分かってくれないんだ。…あぁそうか。全部ハリー・ポッターのせいか。あいつがいるから、姉さんは僕の事を見れないんだね。あんな身勝手な奴がいるから、姉さんは安心して僕を愛せないんだね。分かったよ姉さん。邪魔者は、排除しないとね」
冷たい声、冷たい瞳、それなのに口元は吊り上っている。悪魔のような邪悪な笑みは、アイルの心を一気に暗闇へと突き落とした。ハリーが、危ない。
「止めて! ハリーに危害を加えるのだけは止めて!」
まだハリーは幼い少年だ。自らを守る術を持たない未熟な子供だ。それなのに、スリザリンの継承者と怪物に両ばさみにされれば一溜まりもない。それだけは絶対に防がなくてはならない。
「お願いトム! 何でもいう事をきくから、ハリーを傷つけないで!」
「…あいつが羨ましいよ。姉さんの心を、こんなにも動かす事が出来るだなんて。これはもう、消すしかないね。安心して姉さん。姉さんは一生僕と暮らすんだ。もう少し魂を分けてくれれば、僕は再びこの世に再建出来る。二人だけの幸せな世界を作るんだ」
「再建…? …一体、貴方は何者なの?」
トムは再び冷たく笑うと、杖で空に文字を書き始めた。
「Tom Marvolo Riddle」
彼の名だ。トムが再び杖を一振りすると、文字が代わる代わるに場所を入れ替える。
「I am Lord Voldemort」
「まさか…貴方が、ヴォルデモート?!」
「如何にも。姉さん、未来の僕が姉さんを愛したと聞いた時、運命的なものを感じた。そう、僕と姉さんは、どんな状況でも愛し愛されるという宿命にあるんだ。だから、自分の現実を受け入れる事だね。未来の僕のためにも、今の僕のためにも…ハリー・ポッターは必ず殺す」
石像の前でトムの発した言葉は、紛れもなくパーセルタング。
〔スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ〕
巨大な蛇と共に遠ざかっていく背中が、今までの何よりも恐ろしく思えた。
更新が遅くなり申し訳ありません。
勉強、行事と忙しい毎日が続き、中々パソコンに手をつける機会がなくて...。