ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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美しい...それは罪?

 

 

 

 〔来い! バジリスク!!〕

 〔主、呼ぶのが遅いぞ〕

 

 その言葉は、ハリーにのみはっきりと聞き取れた。バジリスクがどんな奴なのかは分からないが、危険な生物だという事は確かだ。

 ハリーは頭の中に考えを巡らせる。姉のために誰よりも頭を良くしようと本を読み漁った記憶ーーその中で、バジリスクという名が一つヒットする。

 長さ十五メートルにも及ぶ巨大な蛇の王。その一睨みは相手を即死させる効果を持つ。それにより、全ての謎が解けた気がした。

 

 猫は水、ジャスティンはほとんど首無しニック、ハーマイオニーは鏡を通してバジリスクの目を見たという事が。

 

 全ての黒幕、それこそがこの目の前の青年。一体何者なんだーー?!

 

「僕の名はトム・マールヴォロ・リドル。またの名を…()()()()()()()()だ」

「ヴォルデモート…?! お前は…何で?!」

「何で? …説明すると長いが、僕はヴォルデモート卿の記憶なんだよ。姉さんが僕を実体化してくれた。故意ではないけれどね」

「お姉ちゃんを…利用したのか?」

「利用? いや、僕は姉さんとの理想郷を作るために協力してもらっただけだよ」

「協力?!」

 

 口喧嘩がヒートアップし、ついにトムはバジリスクを呼び出した。ロンは逃げ腰になるもあの蛇の王に恐怖し、動く事すらままならない。

 絶対に目を見るな!とハリーは叫ぶ。しかし、杖だけでは絶対にどうにもならない。

 

「こっちには杖と、バジリスク」

「その杖…お姉ちゃんのじゃないか! どうしてお前が!」

「あぁ、今丁度持ち合わせていないから、借りたんだ。別に構わないだろう?」

「良いわけがない! 返せ!」

 

 ハリーは怒り狂っていた。ヴォルデモートと名乗る青年がアイルを自分の姉だと言い張り、杖までも手にしている。

 当人者のハリーもアイルの生い立ちを知っている。彼女が一時期ヴォルデモートに捕まっていた事も。しかしまだ謎がある事は確かだ。何故ヴォルデモートの姿形があんなに若いのかだとか、アイルが愛された理由とか。

 今目の前に、ヴォルデモート卿がいる。何か聞けるかもしれないと思いつつ、怒りも湧いていた。

「姉さんから大方の事は聞いている。君の事もね。だから思った。僕の永遠の敵である君を、消してしまおうとね」

「ッ…」

「大丈夫。君が死んでも、姉さんは僕が大事にするよ。もう二度と、人の目に触れさせる事なんてないけれどね」

「殺ス!」

「良い心意気だ」

 

 トム、もといヴォルデモート卿は愉快そうに高笑いする。

 

「さぁ、スリザリンの継承者と…『生き残った男の子』の、アイル・ポッターを賭けての勝負といこうじゃないか」

「お姉ちゃんは僕だけのお姉ちゃんだ。絶対に負けない」

「所詮は十二歳の子供。まぁ…精々頑張ってくれよ。すぐに死なれてもつまらない。()()()()()()()

 

 *

 

 一方、賭けの対象ともなっているアイル・ポッターはダンブルドアの不死鳥に捕まり、秘密の部屋から脱出していた。

 一体ダンブルドアは何処にいるのだろうか。フォークスに聞いても、小さく啼いて頷くだけだ。全く意味が分からない。蛇語は分かっても、不死鳥語はちょっと…。

 

「フォークス、リドルの居場所は分かる? いや、分かるわけないか」

 

 体力もほとんど回復してきた。剣くらいなら振れる。しかしながら、バジリスク相手にこれを扱えるかと聞かれれば苦笑しか返せない。魔法は得意だが、剣は専門外だ。

 魔法で作り上げた剣なら扱えるも、あれは自らの魔力の塊だからだ。しかもこの剣は「ゴブリン製」。一応魔法的物品だろうが、それとこれとは話が別だ。

 

「彼が生徒に手を出さないうちに…急がなきゃ」

 

 トム・リドルの簡単な殺し方。彼はまだ完璧な存在になっていない。あれ以上アイルが「秘密の部屋」にいたら、きっと完全なるヴォルデモート卿として復活していただろうが、今はまだ大丈夫だ。彼は自らを「記憶」と名乗った。アイルは日記帳から魂を注ぎ込んだ。きっと本体は、「日記帳」だ。あれさえ破壊出来れば、リドルは消え去る。

 問題はバジリスクだ。一番厄介なあの凶暴な蛇の王さえ倒されば、後は簡単かもしれない。

 

 途端、何処からか破壊音とウワー!という叫び声が聞こえてきた。フォークスはすぐさま向きを変え、音を聞こえた方向へ向かう。

 嫌な予感しか、しない。

 

「なぁハリー・ポッター。バジリスクは今、お前の目を凝視しているぞ。目を開けたらどうなるだろうな」

「クッ…」

 

 飛び交う線香とジリジリと前に進むバジリスクの姿。此処からトム・リドルの姿は見えないが、きっとバジリスクを従えて何処かにいるだろう。

 ハリー・ポッター…? まさか、もう襲われているのだろうか。

 

「ロン! 逃げるんだ!!」

「自己犠牲精神でもあるつもりかい? 姉さんを独占したいだけの癖に」

 

 いや、やっぱハリーとトムだ。しかもロンまでいるのか。これは危ない。

 杖があったら教師陣を呼ぶ事が出来るが、今は剣しか持ち合わせていない。この状況を打開するには、自らが動くしかない。

 

「フォークス、お願い」

 

 こっそりとその場に降ろしてもらうと、フォークスはバジリスクの方へとすっ飛んで行く。すぐさま鉤爪で目を潰せば、バジリスクの苦痛の叫びが耳に響いてくる。蛇語の分かるアイルにとって、その声は聞くにも耐えぬ叫びだ。

 

「ダンブルドアの不死鳥か。クソッ、何処にいる。…まぁ良い。ハリー・ポッター、姉さんの魂は実に濃く美しくてね、取り込んだ事により、以前よりも力を発揮できそうだ」

「気色悪い!」

 

 怯んだバジリスクに、ハリーの呪文が炸裂する。しかし、流石危険度マックスで知られる魔法生物。十二歳の小柄な少年程度にどうこう出来る問題ではない。

 バジリスクはアイルの存在にはまだ気がついていない。トムもハリーも同様。これはーー卑怯だけれどーー騙し討ちが出来るかもしれない。

 

 〔バジリスク! 目がないのなら耳で探せ!〕

 〔バジリスク! そいつの言う事なんて聞くな!〕

 

 ハリーも負けじと蛇語で言う。バジリスクは少し迷った様子を見せるも、トムに従い始めた。

 

 〔ええいやかましい!! 私の主はサラザール・スリザリンただ一人だ!〕

 

 どうやら、言葉で説得する事は難しいご様子で。

 力に訴えるのは好きじゃない。でも、この手に握られている剣しか、この場を乗り切る方法はない。無駄に命を散らすのは嫌いだが、もう仕方がない。

 

 問題は、如何にバジリスクを殺すか。音さえ立てなければ、バジリスクがアイルの存在に気がつく事はない。蛇の癖に動きが素早いので、絶対に存在を知られてはならない。

 剣を持つ手に力が入る。痺れも取れた。後は、闇雲に敵を討つだけだ。

 ガチャン、という硬い石が破壊されるような音が耳に飛び込んでくる。バジリスクが直接的な先手を打った。

 蛇の尾がスルスルと角に消えていき、ハリーとロンの叫び声も聞こえた。そうだ、この戦場は私一人ではないのだ。生徒を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 

「仕方がない!」

 

 アイルはすぐさま走り出し、スルスルと流れていくバジリスクの尾を一メートルほど切り離す。緑色の鱗から鮮血が溢れ出した。気色が悪い。

 

「姉…さん…?」

 

 トムの唖然とした声が聞こえるも、アイルは無視を突き通した。バジリスクの、目を潰されたと同じような悲鳴が響き渡る。

 

 〔痛い! 痛い痛い痛い!!〕

 

 ごめんなさい、すぐに終わらせてあげるから。

 しかしバジリスクは殺す間も与えてくれない。全身を無意識に大きく動かし、壁、床、天井ーーあらゆる物を破壊し始めた。

 

「姉さん…何で此処にいるんだい? 何で、バジリスクを傷つけるんだい?」

 

 トムはその場に突っ立ったまま、小さな声でアイルに語りかける。破壊を続けるバジリスクなどには目もくれず、アイルは静かに言った。

 

「私が貴方の敵だからよ、トム。私は貴方の、姉じゃない」

「…嘘だ」

「嘘じゃない」

 

 まるで幼子に話しかけるかのような言葉。バジリスクも、ホグワーツもハリーも存在しないような、静かな世界で二人きり。

 

「何で私を姉だなんて思ってしまうの? 私はただの教師で、ハリーの姉で、貴方とは…今の所、何の縁もなかった人間だというのに」

「…姉さんが悪いんだ」

「え?」

「そんな美しい顔で笑みを浮かべられたら…そんな綺麗な声で話しかけられたら…そんな澄んだ心で相談なんでされたら…全部、自分の物にしたくなるだろ?」

「…」

 

 何も言えない。喉の奥から言葉が出かけた。

 人の心とは何故こうも容易い。簡単に揺らぎ、壊れてしまう。簡単に歪み、狂ってしまう。

 

「姉さんはさ、生きている事自体が罪なんだよ。分かるかい? 人を惑わせて、弄んで…僕は姉さんの事が大好きだ。でもそれと同じくらい、姉さんが怖いよ」

 

「一度知ってしまった感情なんだ。もう二度と離したくない」

 

「今まで出会ってきたものと全てが違う。必ず自分のものにしたい。ならないんだったら…殺す」

 

「ねぇ姉さん…先生なら教えてくれないかい? …この感情は、一体何だ?」

 

 薄ら涙を流しながら、トムはアイルに言葉を投げつける。一つ一つが鋭くて、的確で、痛くて。バジリスクの所為で壁が崩壊し始めたのも、気にかからなかった。

 

「…貴方は、何所か普通と違う。未来も過去も、現在も。私の顔なんて関係ないわ。人と違っても…その感情は『愛』と呼ぶ。時には『独占欲』とも呼ぶ」

「『愛』か、ダンブルドアのお気に入りの言葉だ」

「そうね。『愛』は不滅だもの。でも、私は貴方を許せない」

 

 いくら同調しようとも、可愛い教え子達やニックを傷つけた事は絶対に許さない(「ロックハート? 知らない子ですね」)。ハリーを殺そうとした罪は重い。美しさよりも、ずっと。

 

 途端、天井が落ちてきた。バジリスクの破壊行動の所為で、アイルとハリー達は分断されてしまう。アイル側にはバジリスク。ハリー側にはトム。別々に争うしかなさそうだ。

 

 〔殺してやる! 殺す! 殺すうううぅうう!!〕

 

 バジリスクは死に物狂いで闇雲に攻撃してくる。咄嗟に避けるが、やはり素早い。瓦礫が山のように積み重なっても先生方やダンブルドアはやってこない。一体、何をしているというのだろうか。しかし音を立て続ければ、誰かが必ず気づいてくれる。なるべく人を巻き込みたくはないが、加勢はないよりもあった方が良い。

 

「バジリスク…あまり暴れないで欲しいけど…」

 

 そういうわけにもいかない。フォークスは何処かへ去って行ってしまったし、廊下には人っ子一人いない。ただでさえ、すぐそこに動く階段があるというのに、こんな狭い甲冑だらけの通路でどう戦えば良い。

 逃げ道は片方潰された。完全に一方通行だ。音を立てなければ逃げられるかもしれないが、逃げ道は一つしかない。しかも相手は超スピードだ。走ったりでもすればすぐにバレて食われる。

 

「自分のものにならないのなら…殺す? …トムのそれは、愛なんかじゃないわ。ねぇバジリスク、貴女もそう思わない?」

 

 って、人の言葉じゃ意味も分からないだろうけど。

 

「愛って不思議なのよバジリスク。人を狂わせる事が出来る。スリザリンの霊廟か何かなんて知らないけど、全部全部、ただの怨念じゃない!」

 

 マグル生まれを殺すなんて、馬鹿げた事を。魔法を学ぶ権利は、人と同じように平等だというのに。純血主義なんてエゴ、今この場で壊してやる。

 全身を奮い立たせ、蛇の王の御前にて深呼吸をする。嫌な空気。すぐにでも魔法で打ち砕いてやりたいくらい。

 

「さぁ、来なさい!!」

 




やっとテストがオワタ。
終わったではなく、オワタ。
Finishではなく、The end。
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