ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
ダーズリー夫妻が、玄関の前にアイルとハリーがいるのを見つけてから、約10年の月日が経った。プリベッド通りは、全くと言って良いほど変わった様子はない。ただ移り変わったのは、長くも短い年月のみ。
ただ、ダーズリー家には変化があった。
息子を溺愛していたペチュニア、バーノン・ダーズリーは、アイルの優しさの人柄に触れて、ハリーやアイルも自らの子供同然に扱っていた。
しかし、ハリーは息子とは思われても、扱いが良いというワケではない。アイルは部屋をもらえたが、ハリーは物置で寝泊まりをしていた。
アイルは自分と同じ部屋で過ごさないかと言ったが、優しいハリーはそれを断った。
ダーズリー夫妻の息子はダドリー・ダーズリーというのだが、彼はアイルの事が大好きだった。
彼女に褒められたいがために勉強を必死に頑張り、ゲームも極めて、ボクシングも始めた。勿論アイルは「すごい! 流石ダドリーね!」と褒めてはくれるが、ハリーに対する溺愛っぷりは変わらない。
ダドリーはその嫉妬から故に、ハリーをアイルに隠れて虐めるようになった。しかし、ハリーはアイルに心配をかけたくないがために、アイルには虐められているとは言わない。
ダーズリー家の暖炉の上には、五人の家族の仲睦まじい写真がたくさん飾られていた。
「アイル、良ければ新聞を取ってきてくれないかしら?」
「はい、叔母さん」
アイルは現在26歳。
サラサラとしたなめらかな髪に、引き込まれるような赤目。その顔立ちは、どこか母親のリリー・ポッターを思い出させた。
彼女は叔母さんにも叔父さんにも可愛がられている。容姿端麗才色兼備なアイルは、バーノンの経営するドリル会社「グラニングズ社」で働いているのだ。
そして、アイルが家にいない今、ダーズリー家でハリー・ポッターが目を覚ました。
「さあ起きなさい! 早く起きるんだよ!」
物置で寝ていたハリーは、突然甲高い声で目を覚ました。叔母さんが、部屋の戸を叩いていた。
ハリーはため息をついて起き上がった。
物凄く良い夢を見ていたのに。そう、空飛ぶオートバイが出てきた…
「早く支度をおし。目玉焼きの具合を見ておくれ。今アイルは新聞を取りに行っているんだ。あと、今日はダドリーのお誕生日なんだから…何も起こさないようにね」
「はい、叔母さん」
ハリーは唸るように言うと、着替えを始めた。今日は、アイルにプレゼントしてもらった服を着よう。
彼はアイルによって、丁寧に畳まれている靴下の一つを取って履いた。
服を着ると、彼はキッチンへ向かった。
リビングとキッチンの繋がった大きな居間は、ダドリーの誕生日プレゼントで溢れかえっていた。相変わらず多い。
ダドリーの誕生日プレゼントは、ゲーム機器やスポーツ用品が多かった。ハリーの誇りで、唯一心の許せる相手である姉に褒められたいがためにダドリーがスポーツをしている事を、ハリーはよく知っていた。
ハリーが格別に可愛がられているからか、よくハリーはダドリーのボクシングの練習のサンドバックにされていた。
物置に住んでいるせいか、あまり食べないせいか、かなり小柄だった。
だが、極端に痩せているワケではなく、細っそり系男子という感じだった。漆黒の髪に、綺麗な緑色の目をして、丸いメガネをかけていた。
よくメガネはダドリーの顔面パンチで壊れてしまうのだが、アイルに見せてみると、「任せてね。ちょっと待ってて」と言って、ハリーがその場から立ち去るとすぐに治してしまうのだ。
ハリーが唯一自分の顔で好きだったのは(アイルは全部好きだと言ってくれる)、稲妻型の傷跡だ。物心ついた時からずっとあるこの傷は、ずっと不思議だった。
ハリーがペチュニア叔母さんに、
「どうして傷があるの?」
と聞いた時、叔母さんは
「お前の両親が自動車事故で死んだ時の傷だよ」
と答えた。しかし、アイルはこう答えた。
「良いハリー。貴方は特別な存在よ。この傷は、その証なの。叔母さんは自動車事故でお父さんとお母さんが死んだって言ってるけど…本当は違うの」
「じゃあ、どうして死んだの?」
「何時か分かる時が来る。それまで、待ってるのよハリー」
アイルの言葉で、ハリーは何時も勇気づけられていた。
ハリーがキッチンで目玉焼きの様子を見ていると、バーノンが入ってきた。
「相変わらずボサボサな髪だな。クシを貸そうか?」
バーノンは皮肉っぽく大声で笑った。
叔父さんは、よくハリーに髪を切れと言ってきてアイルが綺麗に切りそろえているのだが、その伸びるスピードは尋常じゃない。
ハリーが卵焼きを皿に移していると、ダドリーとアイルがキッチンに入ってきた。
ダドリーは、ガッチリ引き締まった体にフサフサのブロンドの髪を持った好青年だった。アイルに手伝ってもらってテーブルに朝食を並べると、みんな席についた。
「ダドリー、お誕生日おめでとう。私からのプレゼントよ」
「っ! ありがとうアイル」
アイルは、ダドリーに小さな真っ白な箱を渡した。ダドリーは笑顔で受け取った。
ハリーはあまり関心を持たなかった。
ダドリーは嬉々として箱を開けた。中には、金色の時計。
「あは…あんまり良いモノじゃなくてごめんね」
「いや、俺嬉しいよ! ありがとうアイル!」
「どういたしまして」
ハリーは黙々と朝食を食べていた。
ダーズリー家は、まともでない事が大嫌いだ。
魔法やら神秘やら、そんなモノは一切信じない人間で、正直ハリーは今までそういった問題をたくさん起こしてきた。
しかし、その全てじゃ丸く収まる。不思議でならなかった。
何故かアイルがその事を知ると、何事もなかったかのように終わるのだ。
*
今日は、ダドリーの誕生日なので動物園に来ていた。
昼食も取り、たくさん遊んで、最後に一向は爬虫類館に来ていた。ダドリーは、自分に似た巨大なヘビを見たがっていた。
しかし、ヘビはあまりそういう気分ではないらしく、とぐろを巻いて眠っていた。
「つまんないな」
ハリーは、ヘビに自分と何か似たものを感じた。
突然、ヘビは鎌首をもたげ、ハリーをジッと見つめ、ウインクをした。ヘビは、ハリーに向かって話し始めた。
「いつもこうなんだよ」
「分かる。物凄い憂鬱だよね」
隣でヘビを見ていたアイルは、驚いて目を見開いた。アイルはしばらく呆然として、何が起こったのかを理解できなかった。
気がついた時には、ハリーが床に倒れ、ヘビの入っていたケースのガラスが消えていたのだ。
「まさかーー」
アイルが通路の方を見た時にはもう遅かった。ヘビはスルスルと外へ行ってしまった。
アイルは慌ててハリーの所に寄った。
「ああハリー。怪我はない?」
「う、ん…でも、ガラスが…」
「分かったわ。ちょっと待ってて」
何事かと集まってきた群衆の目をかいくぐって、アイルはコッソリとダドリーに「忘却魔法」をかけた。
これで、さっきあった事は覚えていないハズだ。
そして、再びバレないようにガラスを魔法で元通りに。こんなの、いつもの仕事だ。
そしてハリーは、何があったのかを全くもって理解できていなかった。