ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
アイルは翌日、早速ハリーとエドワードの勧めの不動産会社に行ってみた。交通手段は勿論地下鉄。「姿現し」でも良いと思ったが、流石に体にかかる負担が大きすぎる。あれは、せめて十五歳になってからだ。
あまり長い間は滞在しないので、賃貸は避けたい。土地を購入するにしてもあまり高い場所も避けたい。それならばダーズリー家にいても良いかもしれないが、これ以上養ってもらうのも心苦しいし、これからのためにも家はあった方が良い。
ダンブルドアから聞いた、ハリーの強固な「護りの呪文」。血縁の家にいれば絶対に安全だが、その効力は十七歳までしか保たない。どうせなら一生継続させろと言いたいが、それも難しいようだ。
「格安物件ですか? …曰く付きの屋敷ならございますが。我々の業界では、『
不動産の女性はそう言った。
「曰く付き?」
「えぇ。ウチで扱ってる中で一番安くて。まぁあまり言いたくはないんですけどね…十年前くらいに、前の持ち主がーーお金持ちだったらしいんですけどーー血縁含め全員がその屋敷で亡くなったらしくて。それから不可解な現象が起こったり、おかしな生物が現れたりするって言われてるんです。まぁ家具もそのままですし、電気も水道も通るんですがね」
「安いなら買います」
魔法界の物価は、人間界の物価よりずっと安い。故にグリンゴッツの金庫の中にある金貨を、あまり消費したくないのだ。ハリーの自立資金やこれからの生活費、もし何かあった時の資金として貯めておきたい。
中がボロボロならば魔法で直せるし、ゴーストも問題ない。一先ず安い値段で済めば…。
「…勧めておいてなんですけど、本当によろしいのですか?」
「えぇ。これでも十分暮らせますし、大きくて損って事もありませんしね」
将来、ルシフと結婚した時に優雅に過ごすための計画の一環でもある。嫌な思い出しか存在しないマルフォイ家の屋敷には、絶対に住みたくない。
頭の中で新婚生活の妄想を張り巡らすアイルを尻目に、ハリーはその「曰く付き屋敷」とやらの写真を見つめていた。
黒色をした、禍々しくも美しい広大な屋敷。庭の草木は何故だか枯れず、今でもその緑を保ち続けているという。
「…お姉ちゃん、この屋敷買うの?」
「まぁ、そう思ってる。再来週に叔父様の妹のマージョリーさんが来るから、なるだけ早くでたいのよ…」
「あぁ、あの人か」
バーノンの妹であるマージョリー・ダーズリーは、アイルの事を酷く嫌っている。若さと美しさへの嫉妬であると時折バーノンは言っているが、甥であるダドリーに対してはとても甘い。兄と同じく金持ち故に、遊びに来る度に大量の小遣いをダドリーに与える。
おまけに犬をたくさん買っているため、毎度何匹か犬を連れてくる。犬は好きだが、マージョリーの犬はどうにも好きになれない。
「この屋敷、今すぐに買えますか?」
「多少の手続きは必要ですが、必要とあらばすぐに購入する事は可能です。荷物はどのくらいありますか?」
「今は居候状態なので、ほぼありません」
「なら、引越し業者に頼む必要もありませんね。それでは、契約書をお持ちいたします」
*
約一週間後。
本来ならば家の購入等は一ヶ月弱かかるだろうが、エドワードの知人であるこの不動産の女性は、アイルとハリーの事情を汲み取って、テキパキと仕事をこなしてくれた。
ダンブルドアや魔法省にも手紙を送り、何かあった時のための「警告呪文」と「守りの呪文」をダーズリー家にかけておいた。一応保護されている身なので、勝手に動くわけにもいかない。
ダンブルドアの承諾は簡単に得る事が出来たが、魔法省は少々許可を出すのを戸惑った。ただでさえ「愛された女の子」と「生き残った男の子」だ。加え、現在魔法界では少々混乱が起きている様子で…。
不動産屋は何度か屋敷を訪ね、ある程度中は見回った。あの女性の言ったような怪奇現象は起きなかったらしい。勿論決定だ。少々気味の悪い屋敷だが、魔法で改装して掃除をすれば何とかなるだろう。
そして今日、ようやく二人は新居に足を踏み入れる。
「お姉ちゃん! ついに二人暮らしだよ!!」
「そうだね。色々不自由するかもしれないけど…もう私、魔法を乱用するから。決めたから」
「良いなぁ、僕も魔法を使いたい」
大きな鉄の門を通れば、そこには緑豊かなアーチが広がっている。石レンガの道を歩いて行くと、徐々に徐々に黒い屋敷が姿を現す。太陽の光が葉の隙間から漏れ出して、点々と肌に浮かび上がった。
「抜け穴はあるんだけどね。成人魔法使いのすぐ側だったら魔法を使ってもバレない、っていう…。でも、ダメだからね」
「はーい」
アイルに頭を撫でられて満足したのか、ハリーは笑顔で頷いた。
目の前に漠然と佇む『
古ぼけた鍵を使い、アイルは大きな扉を開けた。黒…というより闇に近い。夜が来たら全て同化してしまいそうな色をしている。
「前住んでいた人は、一体どんな好みだったのかしら」
「相当な金持ちだったんだね」
すると高い天井からぶら下がるシャンデリアに光が灯り、その場全体を明るく灯した。
大理石の床から二階へと続く大階段が三方向へ続いており、レッドカーペットが敷かれている。少々蜘蛛の巣や埃が見られるが、まぁ問題ないな。ホグワーツのような「室内拡大呪文」がかけられているようで、外からの見た目では想像できないほどの広さだ。
「凄いなぁ…部屋はいくつあるの?」
「えーっと…五十八部屋。加えて、大広間、裏庭、客間、調理場、温泉諸々がついてるらしい。ついでに超常現象というオマケつき」
「悪い気配はしないと思うんだけどなぁ」
同感だ。魔法界の人間としてゴーストと接する機会は多かったが、この屋敷からは普通の空気しか感じられない。ゴーストが近くにいると大抵、寒気がしたり、気分が悪くなったりするものだが…。
「じゃあハリー、好きに冒険してきて良いよ。私は掃除を開始するから」
「で、でも…。…分かった。ありがとうお姉ちゃん!」
「行ってらっしゃい」
*
一通り蜘蛛の巣と埃を駆逐していくと、もうすっかり夜になってしまった。絶えない部屋々々を回るのも飽きた。さて、これが最後の部屋だ。
安易な掃除呪文で汚い物を次々と取り除いていく。家具は多少埃を被った所もあったが、壊れる様子もなく、電気製品も新品同様にピンピンしていた。これならしばらくは直さなくても良いだろう。
「あらハリー、テレビを見てるの?」
一日中魔法を使って完全にバテているアイルがリビングに行くと、ハリーが大型テレビでニュースを見ていた。
此処でアニメやらを観ないのはハリーらしい。今までダドリーにテレビを占領され、あまり自分の好きな番組を選りすぐりする機会がなかったため、いつも観れるニュースは好きなようだ。日刊預言者新聞も取り始めた事だし、明日見せてあげよう。
「うん。あ、そうだ、これ」
ハリーがテーブルの上に置いてある紅茶ポットを指差す。アイルが隣に座ると、ハリーは丁寧に紅茶を注いでくれた。
「ダージリンね。好きなのよ」
「知ってる。良い茶葉があったから、煎れてみたんだ」
「ありがとうハリー」
アイルは彼の頭を優しく撫で、紅茶をすする。美味しいよ、と言うとハリーは満面の笑みを見せてくれた。
ふとテレビに目を向ければ、ボサボサ頭でヒゲも伸び放題の不潔な男の写真が、画面に映し出されていた。テレビキャスターがニュースを読み上げる。
『先日、刑務所に殺人の罪で投獄されていたシリウス・ブラックが脱獄しました。脱獄囚は武器を所持しており、大変危険ですのでどうぞご注意ください。通報用ホットラインが特設されていますので、ブラックを見かけた方はすぐにご連絡を。次のニュースですーー』
画面が変わる。
「シリウス…ブラック…?!」
「…どうしたの、お姉ちゃん」
そのニュースを聞いて、アイルは大層驚いた顔をする。ハリーはすぐさま不穏そうな顔をするが、彼女は頭を横に振る。
「ごめんなさい、昔聞いた事のある名だったの。気のせいよ。…それにしても、マグルも大変ね」
「もしブラックが来たら、僕がお姉ちゃんを守るからね!」
「フフ…もしそんな事があったら、宜しくね」
「うん!」
まだまだハリーは幼い。ホグワーツに入学し、ある程度教養もついて大人の階段を上がっているつもりだろうが、まだ幼さが抜けていない。姉として、いずれは所帯を持って幸せな人生を送ってくれる事を、ただ望むばかり。
夕食を作る時間がなかったので、安易にレトルトのカレーを作って食べた。
ハリーは「レトルトでもお姉ちゃんの愛がこもってるから美味しい。そもそもイギリス料理自体不味いからお姉ちゃんの料理は神」と言ってくれた。本当に姉想い(…?)の優しい子だ。
食べ終わると、何だか少し動きたくなったアイルはハリーに言う。
「私ちょっと、そこら辺散歩してくる」
「えっ、こんな時間に一人歩きは危ないよ!」
「いや、敷地内を見て回るだけだから、大丈夫だよ。すぐ戻ってくるね。ハリーは、まだ終わっていない宿題をしていなさい。後で少しなら手伝ってあげるから」
「はーい…」
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