ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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悪いのはこいつだ

 

 

 

「最悪な日ね」

 

 今近くにいる吸魂鬼は一体。守護霊は複数出す事が出来ない。しかし教師としても逃げる訳にもいかない。きっと彼等はシリウスを探しにこの汽車に乗り込んできたはずだ。此処は説得しなくては。

 

「この汽車の中に、シリウス・ブラックはいないわ。さっさと失せなさい、私短気だから」

 

 それでも、吸魂鬼はジリジリとにじり寄ってくる。滑るように廊下を進み、周囲の温度を氷点下にまで下げる。

 吸魂鬼は「魂の抜け殻」だ。つまり、あの姿はただの木偶。木偶を動かす動力源はーー人の負の感情だ。吸魂鬼は人の恐ろしい記憶を呼び起こし、負の感情を連鎖的に発生させる事が出来る。それが彼等の存在の源。ならばその木偶に溜め込んだ負の感情を、吸い取ってしまえば良い。

 

 アイルはお札を取り出し、吸魂鬼に突きつける。此処は外国の魔法技術を信用するしかない。お札には悪いものを浄化し、負の感情を拭い去る力がある。こいつをあれに貼り付ければ、きっと…。

 覚悟を決めて、アイルは吸魂鬼に向かって走り出す。カメ◯メ波の要領でお札を吸魂鬼の腹辺りに引っ付けた。一気に体を寒気が襲うが、吸魂鬼と呪文を撃って戦うよりかはマシだ。

 お札に原動力を奪われ、木偶は音もなく崩れていく。最後に床に戻ったのは、砂でも灰でもない、黒い物質。一応使えるかもしれないと回収すると、電力が復旧した。生徒達の安堵の声に混ざり、近くのコンパーメントから歓声も聞こえてくる。

 

 その後車掌に確認を取り、突然汽車がコントロールを失った事を聞くと、アイルは自分のコンパーメントに戻った。

 

「あぁ…初日から吸魂鬼が乗り込んでくるなんて…」

「アイル! あぁ、久しぶりだな」

 

 コンパーメントに入ると、顔に落書きと悪戯を引っ付けたリーマスの姿が目に入る。気がついていないのか、わざと放置しているのか。

 

「リーマス、起きたのね」

「お陰様で。君の守護霊がやってきてね、こちらにやってきた吸魂鬼を追い払ってくれたよ」

「流石先生! あんな魔法見た事ないです!」

 

 ハーマイオニーが尊敬の眼差しをアイルに向ける。彼女はリーマスの隣に座りながら、手持ちのチョコレートを齧った。

 

「『守護霊の呪文(パトローナスチャーム)』。吸魂鬼を追い払う唯一の魔法よ。守護霊を呼び出し、自らの身を守る」

「人によって守護霊は違うんだ。アイルは獅子か」

「えぇ。昔と何ら変わってなかった」

 

 アイルとリーマスは顔を見合わせ、ニッコリと笑う。対して男子勢はリーマスの顔を見ながら笑いをこらえている。流石に落書きをやりすぎたなとは思ったが、まだ教えないでおこう。報復だ。このくらい我慢してもらわなければ。

 

「それにしても、君が元気そうで良かった。ダンブルドアから話を聞いていたが、綺麗になったな」

「ありがとうリーマス」

「ハリーとは初めて会ったが…ジェームズに似てきたな。瓜二つだ」

「そうね。もう十三だもの」

 

 ロンと笑い合うハリーの顔は、父親であるジェームズ・ポッターの面影がクッキリと残っている。もっと違う時代に生まれて、家族四人で平和に暮らしたかったと何度思った事か。ヴォルデモートに追われて身を隠す宛ら、平和な世界を願った。

 大人になって実現された夢の世界。生まれた時から暗黒時代で生きてきたんだ。ダーズリー家に舞い込んだ時の静けさといったら、逆に喪失感まで感じる程だった。

 

「僕…そんなに父さんに似てるの?」

「えぇ。丸メガネから笑窪の位置までソックリ」

「僕は何方かと言うとお姉ちゃんに似たいんだけど」

「私の顔立ちは母似だから。父から受け継いだのは黒髪と性格だけだから」

 

 そうだね、とリーマスが笑いながら頷く。アイルの性格面は、何方かと言うと父親のジェームズに似ている。楽観的で、皆が楽しめる事が好き。彼の良い面だけ受け継いだのは喜ばしい事だ。勿論アイルにも学生時代、皆の人気を集める魅力はあった。しかし、両親から貰った魔法の才能と知力、秀麗過ぎる顔立ちのおかげで、誰も友達になんてなってくれなかった思い出がある。あの時ばかりは両親を恨んだ。

 対して弟のハリーは、魔法の才能はあれど「生き残った男の子」というブランドと平均以上には整った顔立ちをしている。友人の出来る彼が羨ましい。今でもアイルは、自分と近しい者としか親しくなれない。教師になったのは良い選択だったかもしれない。

 

「リーマス、やっぱり『闇の魔術に対する防衛術』を教えるの?」

「勿論。良ければ、ゲストとして君にも来てもらいたい。きっと盛り上がると思うよ」

「良いわね。楽しみだわ」

 

 *

 

「あの、ミス・ポッター…貴女、ご自分が何をしたか分かっておられるのですか?」

「分かってますけど、弁償とかはしませんからね」

「弁償出来るものじゃないです」

 

 ホグワーツにつくと、口元をヒクヒクさせているアズカバン担当の魔法省の役人がアイルを連行した。どうやら汽車に吸魂鬼が乗り込んできたのは魔法省の命令だったらしく、それを指揮していたのもこの役人だ。

 苦笑を浮かべるマクゴナガル先生に手招きされたと思えば、近くの空き教室に入れられた。どうやら、吸魂鬼を入れたが守護霊で追い払われ、片方が消えてしまった事の詳細を聞きたいらしい。悪い事をしたという自覚はあるが、予告もなしに乗り込んでくる方も悪い。

 

「それにしてもミス、どうやって吸魂鬼を消し去ったのですか?」

「消したっていうか…これです」

 

 アイルは懐からお札を取り出し、役人に見せる。日本の魔法だと説明すると、悲しそうな顔でため息をつかれた。

 

「この中に、吸魂鬼が…」

「こんなのなくても消せますよ。…魔法省にお伝えください。今後、私や生徒達に吸魂鬼が危害を加えようものなら、全て消し去りますと。まぁ近づかなければそんな事しませんから、ご安心を」

「分かりました…ただ、敵意のない吸魂鬼は消さないでくださいね。本当にお願いします。こっちも仕事なんで」

「それは申し訳ないと思っています。すみません」

 

 それから呆れつつも感心している役人の説教を受け、大広間に戻った。

 どうやら生徒達の間にはアイルが吸魂鬼を撃退した、消した、という話が広まりつつあるようで、大広間はその話題で満ちている。まぁアイル先生なら出来るかと、何故だか納得されている。吸魂鬼入りのお札は…後で燃やしておこう。どうせ出す気なんてないし。

 

「アイル、吸魂鬼を消したとは、一体どういう事かね?」

「いやぁ、不本意ですよ。自己防衛本能ですよ。条件反射ですよ。襲われたからお札で返り討ちにしただけですよ」

「そんな返り討ちの方法聞いた事ないぞ」

「私だって無駄に目立ちたいわけじゃないんですけどね。反省はしてますけど、悪いのはこいつです」

 

 そう言うとアイルは、吸魂鬼を封印したお札をヒラヒラと揺らす。スネイプは苦笑を浮かべながらも、お札を興味深く見つめていた。

 

「不思議なものだ、吸魂鬼さえも封じる魔法とは」

「そうですよねー…どうですか? スネイプ先生も私と一緒に、『吸魂鬼封印大作戦★』でもやりませんか? 吸魂鬼界をお札で無双するんです」

「丁重にお断りさせていただこう」

 

 あら残念、と小さく笑うアイルはお酒の入ったゴブレットに手をつけた。

 

「シリウス・ブラックには、気をつける事だ」

「先生もそんな事を言うんですか? シリウスは大丈夫ですよ」

 

 アイルは、スネイプと両親やシリウスとのいざこざをある程度知っている。昔ジェームズとシリウスが面白おかしく話してくれたのだ。あまり笑える話ではなかったけれど。

 

「あの男は犯罪者だ。君も、昔のあの痛ましい事件の事は覚えているだろう」

「覚えているからこそ、シリウスを信じるんです。彼はヴォルデモートの腹心なんかじゃないし、両親を裏切るなんて絶対にありえない。今きっと、シリウスは一人ぼっちなんです。アズカバンから脱獄して、イギリスの何処かで一人彷徨ってるんです。彼の親友の忘れ形見である私が、彼を信じないでどうするんですか」

「真実は時に、ほろ苦い味をするものだ」

 

 少し意味深な言葉だけを残して、スネイプは再び食事に手をつけ始めた。

 両親があんなにも信用して、愛して、自分にも仲良くしてくれたシリウスを、アイルはどうにかして信じたかった。あんな素敵な人柄のシリウスが、マグル何十人を巻き込んでピーターまで殺すなんて絶対にありえない。まぁ、幼い頃悪戯された恨みはあるけれど。

 かと言ってシリウスがそんな事をしていないという証拠もないし、実際にピーターも指しか残っていない。

 

「私は、甘い幻想の方が好みです」

 

 目を背けたくない現実が、甘く優しいものだったら、今までどれ程救われた事か。

 魔法ではどうにもならない真実は、時に嘘で塗り固められた冷たい壁にすりかえられる。何が真実なのかが分からぬのならば、私は自らの信じるものを真実としてしまおう。

 

「君に現実逃避は似合わん」

 

 例えそれが、逃げられない何かだとしても。

 

 *

 

 ハグリットが「魔法生物飼育学」の教授になった。

 噂なのか事実なのかはよく知らないが、聞いた話によるとどうやら本当らしい。自分の好きな分野を生徒に教えられるなんて、きっとハグリットは小躍りしながら準備を進めている事だろう。まぁ、その生物が安全かどうかはさておいて。

 

 ある日、アイルはハグリットの初授業を見ようと生徒の流れに乗って外に出ていた。

 

「お姉ちゃんもハグリットの授業を見るの?」

「えぇそうよ、ハグリットが『是非お前さんも来てくれ』って手紙をくれたから。親友の頼みよ、聞いてあげないわけにはいかないわ」

 

 そう、唯一の親友の頼み。

 彼がどんな授業をするのか、アイルは楽しみで仕方がない。ハグリットは今まで、学生時代のアイルにたくさんの魔法生物の事を教えてくれたが、それは相手がアイルだからこそ成り立つもの。普通の生徒では到底ついていけないようなものばかりだ。

 危険なものを愛でる趣向のハグリットは、一体どのような授業を行うのだろうか。

 

 というか、授業を行う以前に何だこの凶暴な教科書は。

 

「うわッ、これ、『怪物的な怪物の本』じゃない。何でこんなのを教科書にするのよ…」

 

 ハリーに見せられた教科書を見て、アイルは歩きながらそう呟いた。生きた教科書を使う先生なんて少ない。私でも使わないわよ、と彼女は苦笑を浮かべているが、反面ハグリットらしくて良いと思うという考えもあった。変人仲間になりつつある。

 ハグリットの授業は、「禁じられた森」の端の方で行われるらしい。放牧の出来るような状態で整地されたそこには、既に生徒達やハグリットが集まっていた。

 

 こちらの存在に気がついたハグリットは、アイルに手を振ってきた。こちらも笑顔でふり返す。

 とりあえず一緒にやってきた三人組とは別れ、アイルは急ぎ足でハグリットに駆け寄った。

 

「久しいわねハグリット!」

「おう、久しぶりだなアイル。お前さんが授業にきてくれて良かった。流石に初めての授業が一人だと、俺も緊張するんでな」

 

 そりゃあ初めての授業は体も強張るだろう。実際アイルも笑顔がガチガチだったし、少し戸惑ったりという経験もあった。既に教師をしている人間が側にいた方が安心だろう。

 生徒達は「怪物的な怪物の本」に戸惑っている様子ではあったが、我が校の森番を務める大男がどのような授業をするのか多少ながら興味関心を抱いていた。だが皮肉な事にグリフィンドールとスリザリンの合同授業だ。何も起こらなければ良いのだが。

 

「思ったんだけど、グリフィンドールとスリザリンって何かと合同授業をするわよね」

「そりゃあ、仲が悪いからだろうな」

「余計悪化させるだけだっていうのにね」

 

 ヤケにスリザリンとの合同授業が多いグリフィンドール。お互い忌み嫌っているのに、「仲良くしてほしい」という理由で同じにされるのは嫌だろう。アイルだって嫌だ。

 

「そういえばアイル、吸魂鬼を消滅させたって聞いたが…」

「あぁ、あれね。皆の反応が面白かったわ」

 

 吸魂鬼を消滅させた事は反省しているが、一匹程度消えた所で何ら損する事もないだろう。故に聞かれればその件について話はしているが、話が終わりに近づく度に皆の顔色が悪くなっていくのを見るのが面白い。性格悪い云々じゃない、皆がオーバーな反応をするだけだ。

 

「そろそろ授業が始まるな。アイルは、とりあえず近くにおってくれ」

「分かった。何かあればサポートするから、安心して」

「何かあるなんぞ、ありえんがな。楽しみにしとれ」

 

 どうやらハグリットは、自分の授業に相当な自信を持っているらしい。これは期待出来そうだ。流石に危険な生物が出てきたらアイルは「悪・即・斬」精神で叩き切るつもりだ。貴重な魔法生物よりも、生徒の身の安全の方が優先順位が高い。

 しばらくすると、授業が始まった。アイルは、自分はいないものと考えて欲しかったが、そうもいかない様子。チラチラとこちらの様子を伺う生徒をチラホラ見かける。すると、ハグリットが話しかけてきた。

 

「アイル、俺はちょいとあいつ等を連れてくるから、生徒達を見といてくれや」

「良いわよ」

 

 ハグリットが急足で森の中に消えていくと、アイルは微笑を浮かべて生徒達に問いかける。

 

「どんな魔法生物が来ると思う?」

「危険な生物、じゃないですよね…?」

 

 ハグリットが少々危険な生物を好む事を知っている生徒が、心配そうな顔でこちらを見てくる。もしもの時は私が守るから、と笑うアイル。しかし、心配な拭いきれないようだ。

 いくらアイル・ポッター言えども、五つ星クラスの魔法生物が出てこられたら対処しようがないと思っているのかもしれない。しかし心配はいらない。アイルならば、ドラゴン数十頭とやりあっても余裕で勝つ。

 

「私なら、まだ皆の学年には早いけど『一角獣(ユニコーン)』とかを出すわね。可愛いのよ、『一角獣(ユニコーン)』の赤ちゃん」

「こういう授業って、基本的に『禁じられた森』にいる生物を学ぶんですか?」

 

 スリザリンの男子生徒の質問が飛んできた。

 

「そうね…私は専門が違うからよく分からないけど、基本的にはこの森に住む生き物のはずよ。身近だしね。珍しいものを紹介したかったら、外から取り寄せるわよ」

 

 まぁハグリットの事だから、きっと森の中にいる生物を多く扱うでしょうけどね…と付け加えると、少し生徒達がざわめく。

 森の危険な生物だって…?! というかハグリットが連れてくるような生物が森に?!

 ハグリットは危険な生物しか連れてこないという印象が随分とあるようだが、あながち間違いでもないので否定できない。

 

「おーいアイル! 皆! 見てくれ!」

 

 すると、嬉しそうなハグリットの声が聞こえてきた。

 

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