ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
それからの事は、よく覚えていない。
ただ無心になって挨拶をし、話し、キャンプを準備をした。そしてハリーが戻ってきて、皆で夕食を食べてーー気がついたら、クィディッチ競技場の席に座っていた。
「あぁ…頭が痛い」
「大丈夫? お姉ちゃん。具合悪いなら、テントに戻る?」
平然としたハリーは、アイルの顔を覗き込んできた。先ほどの一件なんてまるで夢だったかのような振る舞い。
いや、手首を掴まれている時点で夢ではない、か。
クィディッチ競技場の来賓席。
来賓席には、ウィーズリー一家を始めとした純血一族や、魔法省の高官等様々な人がいた。来賓席以外にも人は溢れ、酷い騒音が耳をつんざくように響いている。
先ほど、マルフォイ一家と目が合ったが、お互い挨拶一つせず顔を背けたままだった。ドラコもいたが、父親が一緒だったためルシフからの手紙は渡せない。あの手紙は、やはりホグワーツに行ってからの方が良いか。
「そっか、うるさいもんね此処。全人類滅ぼす?」
「いや、頭痛の原因は騒音じゃないと思うんだ私。だから良いよハリー、気にしないで」
「そう…」
クィディッチの試合が始まる。
騒音は先ほどよりも増したというのに、耳には何の音も入ってこない。何も感じられない。目の前で繰り広げられるクアッフルの争奪戦を、ただ呆然と見つめるだけ。
折角招待されたのに、勿体無い事をしているのは分かっている。だけれど、周り以上に興奮する事が出来ない。
結果、ブルガリアがスニッチを取ってアイルランドの勝利。
圧倒的な力量差であった。
*
「あぁ、凄かったなぁ試合」
「それにしても、何でクラムはスニッチを取ったんだろう?」
テントに戻っても続く討論。魔法界はどうもクィディッチ狂が多いようで、ハリーも混ざって語らい合っている。
そう、ブルガリアのビクトール・クラムは、自らスニッチを取り、自ら試合を終わらせた。折角決勝まで来たというのに、自分から負けたのだ。曰く、アイルランドに勝てないと直感的に感じ取ったから、自ら試合に幕を下ろしたという。少し理解が出来ない。
ーーいや、時には諦めも重要なのかもしれないな。
「ポッターさん、始終浮かない顔をしていたが、何かあったんですか?」
優しい表情のアーサーが聞いてくる。あぁ、相変わらず優しい人。
「大丈夫です。少し気分が悪いみたい。外の空気を吸ってきても良いかしら?」
「…僕も一緒に行くよ」
席を立ったアイルに合わせて、クィディッチ討論をしていたハリーも立ち上がる。
静止しても良かったが、また激情しかねない。黙って頷き、アイルはテントの外に出た。
夜になっても、未だに騒がしい魔法使い達。星空にはいくつもの火花が散り、あちらこちらで色とりどりの光が舞っている。
絶対、魔法使いだって隠すつもりない。魔法省の役人も、疲れ果てている。
「綺麗だね、お姉ちゃん」
「そうね…やっぱり、魔法は綺麗」
「違うよ。僕、お姉ちゃんの事を”綺麗だ”って言ったんだ。お姉ちゃんよりも綺麗なものなんで、存在しないよ」
「ありがとうハリー」
隣のハリーの頭を、アイルは優しく撫でる。すると、ハリーはムッとした表情を浮かべ、今度はアイルの頭を撫で返してきた。
「もう子供扱いしないで良いよ、お姉ちゃん」
「あら、お昼は手を離さないで、みたいな事、言ってたじゃない。大好きな弟だもの、少しはお姉ちゃんらしくさせて」
「…」
彼の目は、母の緑色に戻っている。あの赤い目は何だったのだろう、自分によく似た、あの赤い目…気のせいにしては、強く記憶にこびりついている。
適当な地面に座って、互いに頭を撫であう。変な気分だ、姉として、教師として、人の上に立って、人の頭を撫でるのが役割なのにーー
「今日の試合、凄かったわね」
「そうだね。特にビクトール・クラムが凄かった…」
ハリーはグリフィンドールのシーカーだ、世界で活躍するシーカーに目がいっていたのだろう。
ビクトール・クラム…ブルガリアにあるダームストラング専門学校の生徒だ。ハリーや他の生徒達は知らないが、今年はホグワーツで、「
その際に、きっとクラムにも会えるだろう。
「今年はホグワーツで大行事があるから…楽しみにしておいてね。あ、秘密だった」
「え、何かあるの? うわぁ…楽しみ」
どうやら今年は十七歳未満の生徒は試合に立候補出来ないらしい。
危険を伴う行事だから、仕方のない事なのだろう。
「ねぇハリー、お昼の事だけど…」
「あぁ、あれ? …冗談だよ。ずっとお姉ちゃんと一緒にいたいっていうのとか、セドリック・ディゴリーに嫉妬しちゃったっていうのとかは…本心だけど」
「ごめんなさい、私、ハリーの事、ちゃんと考えてなかった」
「良いんだよ、僕も行き過ぎた冗談を言ってしまった」
騒がしい夜。
アイルもハリーもその場で体育座りをしたまま、真っ暗な空を見上げている。星々は妖しく煌き、三日月は燃えるような色をしている。
こんな日も悪くない、と呟きかけたその時、
ダーン!
と、何処からか何かが崩れるような、大きな音が響いてきた。
「何事?!」
次第にあちらこちらから爆発音のようなものが聞こえ、徐々に悲鳴が近づいてくる。
テントの中の魔法使い達は、何かあったのだろうかと、寝巻きのまま飛び出してきた。ウィーズリー家も例外ではない。
「ポッターさん、一体何が?!」
「分かりません、ですが、すぐに皆を避難をさせてください!」
たくさんの魔法使い達が、我先にと森の方へと逃げていく。周辺から火の手が上がり、この場に留まっていれば危険が増す。恐らく、何か事件がーー
ロンやハーマイオニー等、子供達を先に避難させ、アイルやアーサーは救助に向かう事にした。ハリーは逃げる事を嫌がったが、双子に引っ張られ、無理矢理森の方へ。
四方八方から響く悲鳴。
交差する閃光。
聞こえてきたのは、「死喰い人」という言葉。
ーーまさか、ヴォルデモートが?
そう思うだけで吐き気がした。
ありえない、一体いつ復活したというんだ。それに、こんな人の多い場所で騒ぎを起こすだなんて…。もっと警戒すべきだった。
「ポッターさん、どうやら『死喰い人』達が暴れているようだ…頼むから、一人で突っ込むような真似はしないでくださいね…」
「分かってますよ、ミスター・ウィーズリー。流石にそこまで馬鹿な事はしません」
一人で死喰い人の中に突撃したって構わない。だが、そのせいで周辺に被害が出ても困る。
腹の奥底からこみ上げてくる怒りをグッと堪え、アイルは火の中に飛び込んだ。
まだ奥の方には、人が残っている。
全員が森に避難出来たわけではない。騒ぎが起きてから、まだ十分も経っていないのだ。それに、この場所にいるのは何も、魔法使いだけというわけではない。キャンプ場の管理をしているマグルだって当然いる。
「誰か! 誰か助けて!!」
「やだ、お母さぁん!」
女性と、子供の声がした。
アーサーと別れ、急いでその場所に駆けつけると、マグルの女性が、死喰い人に宙に浮かばせられている。その拍子に寝巻きのスカートが捲れ、下着が見え隠れしている。地面に座り込んで泣き叫ぶ子供には目もくれず、死喰い人達は下品な笑いを飛ばす。生憎、死喰い人達の顔は仮面のせいで見えない。
「この下衆が! 『ステューピーファイ 失神せよ』! 『ウィンガーディアムレヴィオーサ 浮遊せよ』」
アイルは、周辺にいた死喰い人を数名まとめて吹き飛ばした。
浮いていた女性は、魔法が切れた事でその場に墜落しそうになったが、アイルの浮遊呪文により、ゆっくりと、静かに地面に降り立った。
女性は泣きじゃくる自分の子供を抱きしめ、アイルに目を向けた。
「助けてくださって、ありがとうございます!」
「いえ。…此処は危険です。避難場所までご案内します。立てますか?」
「は、はい…」
怯えながらも立ち上がるマグルの母親。
女性は本当に強い。見知らぬ不可解な術により辱められていたというのに、子供のためならば立ち上がれるのだ。
「怖い思いをさせてしまい、申し訳ありません」
子供を抱きかかえる母親に、アイルは小さな声でそう言った。
アイルのせいではない、が、自分の仲間がしでかした事なのだ。この親子にとって死喰い人は、どれほど恐ろしかった事だろう。それは、自分が負わされた感情と、違いはない。
その後、アイルはマグルの親子を、魔法省の役人に預けた。熱りが覚めれば、記憶を書き換えてもらえるはずだ。
安心した所で、アイルは再び、現場へと駆け出した。死喰い人を、奴らを追い払わなければーー
*
一方、森の中では。
「フレッド、ジョージ、離してくれ! 僕、お姉ちゃんの所に行かなきゃ!」
「ダメだハリー、危険すぎる」
「そうだ、死喰い人がいるんだぞ?」
「それでも、それでも行かなくちゃ!」
暴れるハリーを、必死で押さえつける赤毛の姿。
アーサーは今、魔法省の役人として事態を収束しようと奮闘している。そのため、今この場所には子供達しかいない。アイルも危険な中、救助に向かっている。
そんな状態で、ハリーが暴れないはずがない。大好きな姉が、自ら危険な場所に足を踏み入れたのだ。助けにいかない以外の選択肢は見つからない。
「ハリー、落ち着いて。先生はダンブルドアと並ぶ実力の持ち主なのよ? 死喰い人なんかにやられるわけないじゃない」
「でも、でも、あいつらがいるって事は、ヴォルデモートも!」
「ハリー、その名を言うな! …それでも、必ず『例のあの人』がいるってわけじゃないだろ」
「そうよ。あ、ちょっとーー」
双子の手が緩んだ隙に、ハリーは走り出した。向かう先は、火の手の上がるキャンプ場。
死喰い人なんかどうでも良い。アイルさえ無事ならば、アイルさえ怪我をしていなければ、それで良い。
足手纏いにはならないはずだ。だって、今まであんなに魔法の練習をしてきたんだから。学年でも、ハーマイオニーと競うくらいの学力や魔法の才能はあるんだから。
「ハリー! 待って! そっちは危険だよ!」
追いかけてくる友人達。だが、そんなものに気を取られている暇はない。早く、早くアイルに追いつかなくてはーー
気がつけばハリーは、火の通り過ぎた後の、キャンプ場に残骸に辿りついていた。
炎のせいで燃え、灰と化したテント。地面も空も真っ黒だ。人の姿は見えない。「救助に行く」と言っていたから、恐らくアイルは此処にはいないだろう。
別の場所に移動しようと、向きを変えたその途端、
「『モース・モードル 闇の印よ』!」
背後数十メートル先から、男の声がした。慌てて近くの岩陰に隠れ、その男の様子をジッと見つめる。
男はマスクはしていなかったが、遠いため顔が見えない。杖を空に構えている。空を見てみると、そこには何とも不気味な骸骨が浮かび上がっていた。骸骨の口から出た蛇が、自分を睨みつけているような気がした。
偶然な事に、ハリーはこの印に見覚えがある。「闇の印」、本で読んだ事があったのだ。そう、あれは、紛れもないヴォルデモートの印。
『こっちに人がいるぞ!』
『死喰い人かもしれん、急げ!』
向こう側から声が聞こえてくる。
ハリーが余所見をしている内に、男は跡形もなく姿をくらましてしまった。きっと「姿くらまし」だろう。
もう良いだろうと立ち上がると、ハリーは誰かに肩を掴まれた。
「あぁ、やっと見つけたわハリー」
「皆、心配してたんだぜ」
ロンとハーマイオニーだ。二人とも息を切らし、少し怒ったような表情をしている。
「さぁ、行くわよ。此処は危険なんだから」
ハーマイオニーがハリーの手首を掴んだ途端、
「「「『ステューピーファイ 失神せよ』」」」
何本もの赤い呪文の閃光が、彼等のいた場所に突っ込んだきた。咄嗟にしゃがみ込んで難は逃れたが、もし直撃していれば失神どころではあるまい。
「止めろ、止めなさい! この子達は子供だ」
いつの間にか、数名の魔法省の役人に囲まれていた。
その中に、見覚えのある顔がある。セドリックの父、エイモス・ディゴリーだ。切羽詰まった表情のまま、三人に杖を向けている。
「何をした、貴様等!」
「は? 何をって…」
「あの印を見ただろう?! 誰がやった!」
「止めてエイモス、まだ子供なのよ」
「だが、あの印は! 『例のあの人』のものだ!」
やっぱり…ハリーは心の中でそう呟く。
ヴォルデモートの印。姉を傷つけた外道の印。あぁ、早く消えないものか。憎たらしい。
すると、向こう側からアイルが走ってきた。恐怖で満ちた、酷く青い顔をしている。「闇の印」が、彼女の心の傷を抉ったのだ。それでも駆け寄ってくるアイルの心象は、死喰い人を許せない気持ちに染まっているのだろう。
「何があったんですか? 『闇の印』が…ハリー!」
駆けつけたアイルは血相を変え、ハリーを抱きしめた。
「何で、何でこんな所にいるの!」
「お姉ちゃんが心配だったから…」
「私が、心配されるほど弱いとでも? あのね、私ならダンブルドアでも木っ端微塵に出来るんだからね? 死喰い人くらいで怪我するわけないじゃない」
「ごめん…」
「…良いの。無事で良かった。三人とも」
アイルはそう言うと、黒い雲の真ん中で、妖しい緑色の光を漂わせる「闇の印」を睨みつけた。一体誰があの印を浮かべたのだろう。
まさか、ヴォルデモートがーー
考えるだけで寒気がする。だが、今は子供達の無事に感謝し、森の避難場所へ送り届けてしまおう。
ファンタビ見てきました。
いや、あれはヤバイ。マジでヤバイ。ニュート・スキャマンダーがカッコ良すぎるし、声優さんも良い。これはハリポタ好きなら見なきゃ損ですね。
五部作になる予定らしいので、今後に期待。小説版が出てくれれば、二次でも書きやすいんですけどね...。
私、pixivでもこの作品を投稿してるんですけど、読み返す度に自分のご都合設定の多さが伺えます。何だよ、何でドラゴン人にしちゃってんだよ、とか、突然くっつきやがったなリア充め、とかとか。
これから過去の文章にメスを入れていく予定です。設定なんかは大幅改訂しないので、その点は大丈夫です。