これは昔のお話である。私がまだ、舞鶴鎮守府にいたころのお話。
私は舞鶴で、生まれそこからどこの艦隊にも配属されず、舞鶴の一室で待機していた。私の姉妹、島風型は元々生産される予定だったのだが、予算がなく私一隻になってしまった。昔から、一隻になるのは、普通だと思っていた。だけど、周りを見るたびにその気持ちは変わっていった。
寂しい。
いつの日か私は部屋に引きこもるようになった。私なんていなくても、艦隊は成立する。私みたいな変な艦娘がいたら変だと思った。いなくなっても世界は回り続け、空気や生き物は動き続けた。
ある日手洗いから帰る時、誰かとぶつかった。それはしょっちゅうあったことだったので気にしなかった。が、気になることがあった。それは、相手が話しかけてきたのである。銀髪をツインテールにまとめ、茶色の制服を着用、肩から鞄のようなものをぶら下げている少女。彼女こそ天津風だった。陽炎型駆逐艦九番艦、天津風。彼女は私を抱き起すと、抱きついてこういった。
「あなた、もしかしてこの鎮守府出身…?」
「うん…まぁ…そう…」
「ならさ、案内してほしいんだけど…いい?」
これが天津風と私の出会いだった。この日を境に私たちはともに行動することが増えた。天津風は何処かの鎮守府から転属してきたばかりで、独特な作りのこと鎮守府になれていなかった。運が良かったと心から私は思った。
また別の日、天津風は実戦投入されることになった。その時私は演習で練度を上げて(?)いた。演習弾丸が頭に当たり痛かったが天津風の艦隊召集は天津風だけではなく私もとてもうれしかった。その話を聞き、私は天津風がいる部屋に向かった。勢いよくドアを開き、準備している天津風に飛びかかった。
「天津風!おめでとう―!舞鶴の代表に選ばれたんだよ!」天津風は一瞬驚いていたが、相手が私だと分かった瞬間に声を上げ喜んだ。
「ありがとう、島風。私、最初ここに来たとき姉妹艦が一隻もいなくて不安だった…だけど、あなたがいてくれた、あの時あってなかったら、おそらくがんばれてなかったわよ…!こちらこそありがとね?」
私は少し照れくさくなった。内心うれしかったが、少しさみしさもあった。天津風が出撃するとまた一人になる、そう思うと少し胸が痛くなった。天津風は、それを見透かすかのように発言する。
「まさか…寂しいとか思ってないわよね?」天津風はにやける。
「うん…もしこのまま帰ってこなかったり、帰ってきても忙しくて会えなかったりするかもしれないし…」その言葉を言うと、天津風は吹き出して笑った。こっちは本気でそう思っているのに。むぅ。ふてくされている私に、天津風はある一つの提案をした。
「なら、私とおそろいのものを作らない?そうすれば、私がいなくても寂しくないでしょう?」確かにそうかもしれない…私はうなづいたが、どんなものを作ればいいか分からない。制服を変えれば、おそらく怒られるし、兵装を変えろと言ったら、資材的に足りないし。もう、艦種とか変えたいけどできないし。と思ったら、彼女の一つの兵装に目が行った。彼女のカバンにくっついている、連装砲が顔に見えた。とりあえず、気になったので触ってみる。すると、その連装砲は叫び始めた。電子音声みたいに。天津風が止めに入る。天津風は連装砲を撫でながらなだめる。連装砲は動きを止めた。天津風は涙が出るぐらい笑った。
「連装砲くんに怒られた…!!島風…面白いわ…!」天津風はその場を転げまわる。
でも、こんなおそろいの連装砲がいたら…天津風がいなくても寂しくないんだろうな…思った。同じものがほしいと。天津風に頼んだ。「おそろいの連装砲を作ろう?」
数時間後、私たちは工廠にいた。そして、目の前には連装砲が三つ。それも前に持っていた連装砲と全く姿形が変わっていた。ロボット型の連装砲が三機。それぞれ大きさが違い、一番いい気なものは浮き輪をつけている。私たちは達成感にあふれていた。
「この連装砲を連装砲くんpart2と呼ぶ!」
「それダサいわよ!連装砲ちゃんにすればいいでしょ!」
「それオッケー!ふふ…」
私は連装砲ちゃんを抱く。天津風は少し笑う。
「これで、満足してくれる?」
「本物じゃないと嫌だけど、仕方ないなぁ…」
「それじゃ、これが失敗みたいじゃない…!」
「ははっ…!」
二人で夜な夜な笑いあった。その後怒られたのは言うまでもない。
天津風たちが出撃する日、私は寝坊してしまった。こういう日に限って寝坊するのはいつものことだ。が、今日は違う、今日は彼女…違うお姉ちゃんが出発する日だ。寝巻のまま港に向かう。ついたころには出発し始めていた。私は叫んだ。今まで出したことない声で。
「お姉ちゃんー!!もし、帰ってこなかったら、そこまで行って五連装酸素魚雷をぶつけるから!安全に帰ってきて!連装砲ちゃんと待ってるから!!」私のセリフを言いきった後に、私は艤装なしで海に転落した。天津風の艦隊はもう消えていた。ウインチで引き揚げられながら私は届いてるといいなと思った。
数日たって、天津風たちが帰ってこない。私は待ち続けた。ただ、待った。連装砲ちゃんと一緒に部屋にこもり、食事もとる気になれなかった。
さらに数日後、私は決意した。次は私が海域に出て、お姉ちゃんの代わりに出撃する番だと思った。そのためには練度が必要。ひたすら演習した。胸を張って交代できるように。ただ演習した。連装砲ちゃん達が心配の目線を送っているが、あまり気にせず魚雷を打ちまくった。
二日後、艦隊が帰投した。作戦は成功してた、が被害が大きく、全員が損傷していた。天津風も中破していて、服はボロボロだった。天津風が、鎮守府に入ったところを狙い、私の部屋に引き摺り込んだ。そして、天津風に抱きついた。
「おかえり…さみしかったよぉ…」
「心配かけたわね、ただいま。」天津風は私の頭を撫でる。私は強く抱きしめた。
「い、痛いよ…これ以上強くしたら吹き流しが取れちゃう…」
驚き、私は離れた。そして、その場にひれ伏し泣いた。ただ、泣くことしか出来なかった。天津風は部屋を後にして行った。
それから、何日か経ったある日。呉鎮守府との合同演習が、行われた。呉、と聞けばやはり神通率いる第二水雷戦隊を思い浮かべる。歓迎はしたいけれども訓練が厳しくなると思えばあまり歓迎したく無かった。天津風はノリノリだったことを私は見ていない。決して。
呉鎮守府との合同演習は、思ったとおり過酷だった。魚雷の撃ち方も全然違う。正直…少し焦った。焦りのせいか、海上で足をくじいてしまった。まずい!煙幕を張るが、煙幕の中から砲台を突きつけてくる影があった。私は何も出来ず呆然としていた。その影は笑うと話してきた。
「私は霞。第二水雷戦隊に所属している、駆逐艦。と言うか、あんたなにやってんの?」
霞はにやける。だが、イライラした私も負けていなかった。
「何?自慢でもしに来たの?」
「いんや、目の前のお船さんを始末しに来ただけだけど?」
完全に勝ち誇った顔をしてきた。私は殴りたくなったが、とりあえず、足を使うことが出来ないので彼女に降伏した。
「あんた、戦艦の砲撃喰らわなくて良かったわね…!」
霞のにやけが更に増す。怪我の代わりに屈辱はもらったけど。その後、ドッグに1時間もいる羽目になってしまった。その時影でニヤついていた天津風と、霞は後で轟沈判定取ってやろうと思った。
数日の間、呉鎮守府の艦娘は舞鶴に止まって行くことになった。その際、私の部屋には霞が入ってきた。すごく嫌なのだが、上層部の提案なので諦めるしか無かった。部屋を片付けているとノックされ、天津風と思い開けにいけばしかめっ面の霞が立っていた。その後霞がにやけてきたから、とりあえず締め出したが、提督に言いつけると脅されたので部屋に入れた。どうにか、部屋のいたるところをかまって欲しくはないのだが。心配でたまらなかった。
食事をして風呂に入りすぐ寝ようと思ったが、部屋の中に敵はいた。霞は探照灯をつけ、何か勉学に励んでいる。眩しくてねれなかった。
「あの、すみません。ここさ、私の部屋だからさ作業は他の部屋で…」
「ここで寝泊まりしろって上層部の命令だから仕方ないじゃない。しかも、あんたみたいに下手しないためのことしてるったら!」
ほぉ。なら、ここはその内容に迫ろう。
「じゃあ、ルームメイトなら何してるか教えてくれてもいいよね?」
「はぁ?なんであんたに教える必要があんのよ、いちいちむかつくったら!」
「ねぇ、たらちゃん。」
「その呼び方なに!?私の名前は霞!男の子じゃないわ!」
「だって、タラタラ言ってんだもん、たらちゃんでいいじゃん!決定ね!」
「はぁ!?ったく…なんでこんなのと明日からグループ組まないといけないのか先が見えて来ないわ。」
ほほぅ、いいことを聞いた。
「グループって何?」
「あ!い、いや別に…訓練を共にするとかそんなんじゃないから!」
霞は真っ赤になって反論した。恐らくそのまんま正解である。だが、少しがっかりした。たらちゃんと艦隊組むなんて明日はどうなるのやら。ベッドに飛び込み寝息を立てた。
次の日、霞の言っていた通り確かにグループ訓練があった。心底心配だった、恐らく霞もだが。このグループ訓練は用意された的を正確に射抜く訓練。ただし、使っていいのは砲弾と魚雷だけ。私はさっきから、絶望しか頭に流れ込んで来なかった。恐らくミスって霞と呉鎮守府に笑われる。最悪だ。
やがて番が来て霞と訓練海域に出た。でも、私は昨日考えた。霞と私は似た者同士。その思考を使えば、と。二人で定位置についた。
ブザーがなると同時に魚雷を発射した。が、それは彼女も同じだった。私と逆方向に魚雷を飛ばす。その後も私と霞の動きは方向は違ったが、同じだった。砲撃も航行も同じ。それに腹を立てお互いを狙い合い砲撃したのも同じだった。
「「あのさ!どこ狙ってんの!?」」
台詞まで被る。以心伝心とはこれのことか。(恐らく違う)
演習が終わり私と霞は1位を取った。その場では喜ばなかったが、部屋に帰って数秒後二人で抱き合って喜んだ。オールナイトだったので、呼び出されやっぱり怒られた。だが、それも一つの思い出となった。
この出来事がきっかけで霞との行動が増えた。初めて友達が出来た気がした。ただ、楽しかった。霞とも話す時間が増え時にぶつかり時に笑い合う。だが、その日々に終わりが近づいて来た。
呉が帰る日が来た。目を覚ましたら部屋では霞が出発の準備をしていた。思い切っていってみる。
「今日までありがと。たまにはこっちに遊びに来てもいいよ?部屋貸してあげる。」
作業しながら霞は言う。
「なんなら、あんたが呉に来なさいよ。私は行く暇がないわ。」
「迷うから来たくないだけでしょ、たらちゃん。」
「最後にその名前を呼ぶな!ったく…あんた一度も名前を呼んでくれなかった…」
霞が拗ねてしまった。うーむ…とりあえず抱きしめ、声を掛けた。
「また、会えるといいね霞。」
「それはこっちのセリフ、島風。」
二人で抱き合った。ドアの隙間から天津風がみてる気がした。
やがて、霞たちは呉に帰った。舞鶴は静かになった。これで良かったのかもしれないが何かさみしかった。帰った日は何もせずに寝た。
次の日、天津風はまた艦隊招集された。ついでに私も予備艦隊で招集された。できたら、天津風と出撃したかった…けれど、その補助につけたのだからそれだけで嬉しかった。一つ気がかりなことがあった。最近天津風と鎮守府で会っていないのだ。作戦が終わればまた会えるだろうと思った。作戦に備え布団に入った。
作戦当日、私は霞に向けて手紙を書いた。
「霰へ
呉鎮守府の合同練習楽しかった。そのせいあってか、私は艦隊に招集されたよ。もう、引きこもり生活が終わっちゃった(笑)
これを記念に作戦が終わったら外出届でももらって呉に遊びに行くよ。それまで落ちんないでよ?じゃあね。霰
島風」
これを呉宛に速達で送った。霞のことだろう、今日中には返事が返ってくるはずだ。出撃直前に天津風が来た。そしてすぐ抱いてきた。天津風は話した。
「島風、私と約束して?私はこの出撃が終わったら少し旅に出るわ。そんな顔しないで?私は沈まないんだからさ。」
「分かった…いつに帰ってくるの?」
「一週間ぐらいかな…」
それなら、私が呉から帰るぐらいには会える。分かった、と私は頷き分かれた。私は天津風の声がいつもと違った気がした。少し嫌な予感がした。
第一艦隊の出撃後、予備艦隊も出撃した。とはいえ予備艦隊なので海上で待機と言うことになる。
だが、出撃して、数分で打電が入る。第一艦隊からの打電、補助艦隊の摩耶が読み上げる。
「我ガ艦隊、天津風ノ行方ヲ見失ッタ。作戦遂行ノタメ、作戦ヲ続行スル。補助艦隊ハ安全確保ノ為帰投セヨ」
島風に悪寒が走る。お姉ちゃん!叫んだ。あの時と同じ。だが今回は泣いていた。自分のためじゃなく人のために泣いていた。行かないで!やめて!摩耶に曳航され、鎮守府に帰投した。
鎮守府に帰って私は何をしたのか何も覚えていない。寝たのだろうか、泣いたのだろうか、叫んだのだろうか?何にも覚えていない。
翌日になり、私宛に手紙が届いていた。呉からだ。霞から手紙で少し落ち着こうと思った。しかし、私の心をさらに裂く結果になるとは思っていなかった。
「島風
呉鎮守府には霰は在籍していません。
呉鎮守府」
これ以上生きている価値がなくなったと思った。私の心の支えはすべて消えてしまった。もう、何も、何も残っていない。
私は、最後の可能性をかけて、旅に出ることにした。近代化改修はすべて終わらせた。天津風は旅に出た。なら、その旅先で見つかるかもしれない。行き先を聞けばよかった。そんなこともできないなんて私は屑だ、スクラップ扱いだと思った。
この日から三日後、私は羅針盤を頼りに旅に出た。どうか、明日は見つかりますように。