外道共は鬼ヶ島に到着した。
到着と同時に解放されたキジは「もうお嫁にいけないぃぃぃーーっ!」と鳴きながら飛び去っていった。
それを見たサルは「あのキジ、メスだったんじゃないかな」と思ったが、すぐ思考の外に捨て去る。
鳥の性別など、どうでもいい。
二人は鬼が島を探索した。
話に聞いていたのと違い、島には一軒の民家がポツンと佇んでいるだけだった。とても凶悪な鬼が
民家以外にめぼしい物が見当たらなかったため、二人は高台にある民家を目指して歩き始める。
と、斜面を登っているホモ太郎の足元に矢が突き刺さった。
ホモ太郎が顔を上げると、視界の先には大層美しい少女が弓を構えてこちらを睨んでいる姿が映る。
少女の髪は燃えるように赤く、明らかに日の本の出身で無い事が伺えた。
「また来たか。帰れ、外道共め。私達はお前らの下にかしずいたりはしない!」
美しい少女の登場にサルは心臓をビッグバーンさせ鼻血を吹いて倒れたが、ホモ太郎にとって少女の美しさなどどうでもいい事だった。
なぜなら彼はホモだからだ。
「チッ、メス豚か……こちらこそ願い下げだ。お前のような奴はいらん」
「……代官の手先ではないのか? どちらにしろ、いきなり押しかけてきて何だその口ぶりは。無駄に屈辱的だ」
「屈辱? そんなものを感じる必要は無い。メス豚は地を這いまわり天上の存在をただ眺めていればいい」
「……おい待て、なぜ服を脱ぐ」
「お前に天上の存在というものを理解させてやろう。見よ、これがホモとガチムチマッチョが合わさった存在。いわば、神……!」
服を脱いだホモ太郎はフンドシ一丁になった。ムキムキマッチョなボディが白日の下に晒される。
少女は、頭の血管がビキリと悲鳴を上げるのを聞いた気がした。こんなにイライラするのは久しぶりの経験だ。
「おや、お前の髪の色とお揃いだな」
ホモ太郎がケツを振ってフンドシを揺らす。
ホモ太郎の履いているフンドシは、燃えるように真っ赤だった。赤フンだった。
少女の怒りはマッハの勢いで天元突破した。怒髪天を突く所ではない。頭の血管がぶち切れる。
「死ね、死んでしまえ!」
少女が矢を放つが、その矢はホモ太郎の肉体を貫く事はできなかった。
弓矢は効かないと悟った弓子(勝手に命名した)は、異国の武器に持ち変える。
スリング。ゴムの弾力を利用して石つぶてを飛ばす武器だ。
だがそれも全くホモ太郎の肉体を傷つけるには至らない。
ホモの持つ強靭な男性ホルモンが造る肉体は、矢や石ごときで貫けるものではない。貫けるとしたら、それは同じホモが持つイチモツだけだろう。
「ホモ太郎さん、気持ち悪い行動を取らないでください。心が汚れます」
衝撃からなんとか蘇生したサルが倒れたままツッコミを入れる。
美少女に耐性のないサルではあったが、目の前にプリプリでムキムキなケツをフリフリされてしまってはさすがに萎え萎えだ。
心臓の鼓動が逆ベクトルの意味で停止する恐れがある。
「気持ち悪い? そんなはずが無かろう。この俺の肉体は美しい」
コォォォォと息を吐きながらポーズを取り筋肉をピクピク痙攣させるホモ太郎。
だがそれに反論する声があった。変態を撃退するのを諦めた少女だ。
「そ、そんなもの。私のお父様の方が……」
「お父上がいらっしゃるのですね?」
「ひゃあああああっっ!?」
弓子の目の前に突如としてワープしたホモ太郎は、弓子の両手をがっちりと握る。
突然目の前に究極の変態が現れた事で受けた弓子の心の傷は測り知る事ができない。
マッチョな男性が居ると知ったホモ太郎は、弓子を小脇に抱えて高台の上にある住居に向かう。
その足取りは軽やかだった。
後方からそれを見ていたサルは、なんだか無性にイラッとした。
◇◇◇
ホモ太郎達が家の中に入ると、そこに居たのは一人の老人だった。
老人は
おそらく、もう自力で起き上がることも出来ないのではないだろうか。
「……病か。これでは創生合体する事はできんな」
ホモ太郎は心底残念そうに息を吐いた。
ホモ太郎の腕から解放された弓子は、老人の元まで駆け寄りその手を握る。
明らかに、様子がおかしかった。
「弓子(仮名)……儂はもう駄目だ」
「何を言うの! 今は病気で弱っているだけ。養生すれば、きっと……っ!」
「いや、自分の体の事は自分が一番良く知っている。儂はもう長くない」
そう言って老人は視線を宙に彷徨わせる。
その目は、今を生きる人間のものではなかった。過去に囚われ、過去を思い返している目だ。
ホモ太郎も何度か目にした事がある。死を迎える前の、最後の姿。
サルも何か声を掛けようとしたが、なんか知らんけど突如として湧き出てきたシリアスっぽい雰囲気に呑まれて口をつぐんだ。
「お前は強くなった。自分の居場所を探せるくらいには……」
「嫌だ。私を一人にしないでよ!」
「聞け!」
老人は、必死に声を絞り出す。
これから話す内容が老人の最後の言葉になると察した弓子は、息を呑んで続く言葉を待った。
「人は、一人では生きていけない。だから、自分の居場所が必要だ……お前はもう、一人前と言って良い。自分の生きるべき場所を自分で探し、作り出さなければならない。お前には、その力がある」
「無理だよ……私を受け入れてくれたのは、お父様だけだった」
弓子はお爺さんの体にすがりつく。
お爺さんの体に、涙の雫が零れ落ちた。
「……お前の後ろにいる二人は、お前の事を排斥しようとしているようには見えないが?」
「この二人は、その……っていうか誰なのあなた達?」
後半の言葉は息を潜め、老人に聞こえないように尋ねる弓子。
その言葉にホモ太郎は堂々と答える。
「ホモ太郎だ、俺は存在意義のないメス豚を無駄に排斥する趣味はないから安心しろ。あとこいつはサル」
「もうサル呼ばわりされるのはいいですけど……お父さん、安心してください! この娘は、僕が必ず幸せにしてみせます!」
テロリスト一歩手前の無職は、分をわきまえず調子に乗った発言をかました。
重苦しい雰囲気に狼狽して黙っていたが、声を出した事で調子が出てきたサルは次々と口先八丁でたらめな事を喋り続けた。
だがこの場ではそれは正解だったのかもしれない。その言葉を聞いた老人は、表情を綻ばせて喜んだのだから。
「そら、儂のようにお前を排斥しない人間もいる。作れるさ、自分の居場所を。お前は強い」
「強くなんかないよ、私は……」
だが、老人は少女の言葉を受け取らなかった。
受け取る事ができないのだ。老人の命の灯火は、今にも消え去ろうとしている。
突き放してでも、発破を掛けなければならない。
「未来は、希望は望まなければ手に入れる事などできやしない。立ち上がれ。前を向け。希望を胸に抱き、それに向かって進むのだ。そうすれば、いつかきっとたどり着けるさ。目覚めぬ悪夢など無いのだから――最後に、私を安心させておくれ」
そう言われた弓子は、涙を拭って必死に笑顔を作る。
涙は次々と溢れ出てくるが、表情だけはなんとか取り繕う事ができた。
「……うん。頑張る」
「……ああ、頑張れ。儂もこれでようやく、安心して逝ける」
弓子の言葉を聞いた老人は目を瞑った。
きっと、再び目を開けることはないだろう。
◇◇◇
翌日。
お爺さんの遺体を埋葬した後、ホモサルコンビは弓子から話を聞いた。
あたり一帯を支配する代官が、自分に従わない者達を勝手に鬼呼ばわりして討伐させる。
これが、鬼の噂の真実であったらしい。
今回標的になったのは、かつてこの地で名を馳せた武士であるお爺さん。
元から危うい立場であったが、民からの支持もありこれまでは代官の標的になることは無かった。
しかし、難破した船の生き残り……異国の少女を引き取った事で大義名分を得た代官は、とうとうお爺さんを鬼として討伐するようお触れを出したのだ。
鎖国は、幕府の政策である。
それに逆らう者は、すなわち幕府に逆らうという事。
弓子は、お爺さんの好意に甘えた事を後悔していた。
今ほどの強さがあの時あれば。あるいは情勢をもっと把握していれば、お爺さんを巻き込むことは無かった。
弓子を守るために孤島に住居を移し、昼夜問わず来襲する者達を撃退したお爺さんは次第に弱っていった。
元々が高齢だったのだ。無理を続けられる体ではなかった。
途中からは弓子も戦いに参加した。
元からの素養もあり、お爺さんの手ほどきを受けた弓子はあっという間にこの地での戦の作法を身につけ、そこいらの武士には負けないほどの力を手にした。
襲撃者を説得しようとした事もある。
だが、誰一人として弓子の言葉に耳を傾ける者はいない。
連中が揃って口にするのは「正義の元に鬼を退治してくれよう」だった。
まったく、いったい何が正義だというのか。
世界を旅する船に乗っていたのだ、風習が変われば考え方も変わる事を弓子は理解していた。
異物を排除する事を正義と呼ぶ事も、確かにあるのだろう。
たとえその異物が力も敵意も持たぬ者だったとしても。
民衆が望むのは、平穏だ。今日と変わらぬ明日が訪れる事を祈る。
今日と違う明日をもたらすかもしれないものが現れたのなら、それを排除する事で平穏を手に入れることができる。
異国の者がいないこの国で異国の者が受け入れられない事自体には、納得がいく。
だが、そんな事は関係ない。
お爺さんは、弓子の恩人だった。その恩人を殺すよう命じた代官は、許す事ができない。
「それで、どうするというのだ? お前は次に何を成す?」
「代官を討つ」
「……ほう」
ホモ太郎の問いに迷い無く応える弓子。
その答えを聞いたホモ太郎は感心の声を上げた。
墓標の前で手を組み祈りを捧げる弓子はメス豚だが、ホモ太郎は少しだけ美しいと思った。
祈りを終えた弓子が目を開ける。その瞳には、強い意志の光が射している。
「お前はメス豚だが、見所のあるメス豚だ」
ホモ太郎も手を合わせ、墓に向かって言葉を紡ぐ。
お爺さんに向けて。弓子に向けて。
「死にゆく漢の生き様、しかと見届けた……弓子、お前は誇っていい。お前の父は素晴らしい漢だった。願わくば全盛期に出会い、股間の剣を交えてみたいと思うほどの者だった。その漢を死に追いやった不届き者は万死に値する。ゆえに」
手のひらをパンとケツに打ちつけ(まだフンドシ一丁のままだった)、ホモ太郎は心底楽しそうにニヤリと笑った。
ホモ太郎は欲望に素直な男だ。復讐だろうがなんだろうが、やりたい事ができれば貪欲にそれを追い求めてしまう。
「この俺も協力しよう。悪、即、突。代官の屋敷に殴り込みを掛ける」
「僕も協力しますよ! いやぁー、腕が鳴るなぁ。倒幕の第一歩ですね!」
そんな二人を見て、弓子は微笑む。
陰気さを感じさせない陽気な声を聞いて、少しだけ心に射した影が晴れたような気がした。
「報酬は用意できない。それでもいいの?」
「構わん。報酬は悪代官の体で支払ってもらう」
「僕も構いませんよ。報酬はあなたの心……げふんげふん」
と、その時。
遠くから「おーい」と呼びかける声が聞こえた。
三人が高台の下を見下ろすと、そこにはかつての幕府の犬、犬侍がこちら目掛けて走ってくるのが見えた。
毒を持って毒を制すと言えばいいのか。筋肉ババア特製ホウ酸団子により体中の水分を失った犬侍だが、それは体中に溜まっていた毒素を放出する事に繋がったのだ。
体中の水分を放出した犬侍の服の裾は嘔吐物で汚れ、袴のケツ部分は変色している。
素直に、汚いと思えた。
「体調が回復したぞ! 拙者もお前達の旅に同行させてくれ!」
「嫌ですよ、風呂入って着替えて出直してきてください。あとなんで僕達がいる場所がわかったんですか?」
サルが汚物を見るような目で犬侍を見下げ果てる。いや、まさに汚物そのものであった。
だが犬侍はそれに構わず、脅威の速度で駆けつけてきてホモ太郎、サルの二人と強引に肩を組む。
「まぁそうケツの穴の小さい事を言うな、拙者とお前らの仲ではないか。細かい事を気にしていたらハゲるぞ」
「ははははハゲねーし! 僕と髪の毛はずっと一緒、いわばズッ友だから!」
「俺のケツの穴が小さい……? ナニを言う。俺のケツの穴は世界を包み込む穴だ」
「いや何言ってんですか、嫌なこと言わないでください」
お馬鹿な会話を繰り広げるホモ太郎達。
そんな中、弓子は一歩身を引いて鼻を摘まんだ。
「……なにこの人。言っちゃ悪いけど、なんか駄目人間臭がする……というか、単純に臭い」
「こいつは犬侍。かつては幕府の犬だったが、今は我らと共に倒幕を志す同士となった者だ」
「えっ?」
倒幕と聞いて、犬侍が変な声を上げる。
ホモ太郎もサルも、倒幕の事を犬侍に話していない事に全く気づいていなかった。
犬侍はいつの間にか、勝手に倒幕を志す同士にされてしまった。
だがまぁいいかと開き直る。犬侍も、幕府に対して思うところが無いわけではないのだ。
子供達からレアカードを巻き上げろと上司から命じられた時など、酸素欠乏症にでも掛かったのかこのハゲと思ったものだ。
犬侍は気を取り直し、再び会話を続ける。
「はっはっは。しかし、ホモ太郎殿の婆様が作った団子は効いたのう。アレを食った者は、この世の地獄を体験する事となる!」
「いや、周りの人間も阿鼻叫喚の地獄絵図に否応無く巻き込まれますけどね。転がりまわりながらゲロとウンコのジェットストリームアタック仕掛けるとか悪夢以外の何物でもありませんから」
「じぇっとすとりーむあたっくか、なんだか格好いい響きの言葉だのう。拙者の必殺技にするか」
「社会的な死を迎えるという意味では確かに必殺技ですけど、周りを巻き込んで自爆するのはやめて下さいね」
新たな仲間を迎えた一行は、悪代官の住む屋敷に向かって移動を開始した。
狙うは、悪代官の首。それと、ケツの穴。
◇◇◇悪代官Side◇◇◇
町の中心部。そこには大きな屋敷が建っていた。
周囲は見る者に威圧感を与える無骨な塀に覆われ、内外問わず常に多くの兵が巡回を行っている。
難攻不落の要塞。それがこの町を支配する代官の住み家だった。
その屋敷の奥深く。
密談をするために設けられた部屋で、代官とその部下である忍者が会話を繰り広げている。
部屋の中には人名が記載された書類に、この町の地図。そして大判小判がみっしり敷き詰められた千両箱。
書類に記された人名には、殆どにバツ印が付けられていた。これが何を意味するのか。たとえ事情を知らない者であろうとこの光景を見れば、おおよその予想が付くであろう。
「ふ、ふふふ、ふふ。儂の意向に逆らう輩はあらかた排除した。そして、不老長寿――生体兵器としての力も手に入れた。これでこの地方は儂の思うがままだ!」
「おめでとうございます、代官様」
「お主は本当によく働いてくれた。褒美をやらねばならんの」
「いいえ、私は影。褒美を望める立場にはありません……しかし頂けると言うのであれば、その箱の中身を少しばかり」
「ああ構わんぞ。持っていけるものなら持って行くがいい。そらっ!」
「!?」
代官は懐から取り出した張り子を投げつける。
しかし、さすがは忍びといった所か。完全な不意打ちだったにも関わらず、忍者はその場を飛びのいて張り子を回避する。
「何をなさる!? 私は代官様のため、ずっと働き続けてきたのに!」
「知りすぎたお前はもはや邪魔者でしかないのだよ。儂が安寧を得るため、お主には消えてもらう」
「……代官様、この場には私と貴方しかおりません。この意味がお分かりですか?」
忍者は隠し持った忍刀を構え、姿勢を低くする。
殺されるぐらいならば、主殺しをもいとわぬ。命を掛けるは里のためのみ。この男を殺し、金品を奪い、新たな主を見つければよい。
そう思う忍者だったが、代官の薄ら笑いを目にしてゾワリと全身の毛が逆立つ。
まるで、鬼神を前にしているかのような錯覚。
「意味、か。わからんのぉ、教えてくれるか? 教えられるものならな……ク、ククク。笑いを堪え切れんわい。お主、それで避けたつもりか?」
「なん……だと? 一体何を言って……ぐあぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!!」
忍者のアナルに衝撃が走る。
視線をケツ穴に向けると、そこには避けたはずの張り子が突き刺さっていた。
「ば、ばかな……一体何が起こって……」
「冥土の土産に、儂の二つ名を教えてやろう。生体兵器としての力の得た儂の名は……」
まるで自分の力を誇示するかのように代官は両の手を広げ、嗤いを零す。
そして、自分の二つ名を口にした。この世の生きとし生ける者すべてを絶望に叩き落す、無敵の戦士の名を。
「ケツ穴の殺戮者――ファック・ザ・アナル。それが将軍様より授かった、儂の新たな名よ」
再び代官が張り子を投げる。
張り子はあらぬ方向に向かって飛んでいくが、突如としてその軌道を変え、加速しながら忍者のケツに突き刺さった。
一本目の張り子が押し込められ、忍者の口から「ひぎぃ!」という悲鳴が漏れる。
地面に倒れ伏してピクピク痙攣する忍者を前に、代官は自慢げに自らの力の秘密を語った。
「儂の武器、アナルファッカーは因果の鎖を断ち切り必ず相手のアナルに突き刺さる――運命からは決して逃れる事ができん」
「ばかな……こんな、ありえん! お前は運命をも操るというのか!」
「ああそうだ。自分の無力を嘆きながら逝くといい。そらっ」
倒れた忍者の傍まで寄った代官は、忍者のケツに突き刺さったアナルファッカーを蹴り込みトドメを差す。
忍者は二度と動かなくなった。
「クク……もはや恐れるものなど何もない。この儂は、無敵の力を手にしたのだ。ワーハハハハハ!」
厳重に防音された部屋の中で、代官の笑い声がこだました。
過去作とのネタ被りを恐れない。
というか、そもそもホモ太郎を投稿するつもりなんかこれっぽっちもなかったのです。