「あいつがかよ…」
部屋にベートの呟きが浸透する。告げられた人物、その人物に、一同は虚をつかれた。
「……それでどうするんだい?」
「どうもこうもないわ。喧嘩を売られた訳やからな、買うに決まってるわ。唯、ウチらが全員で相手するわけにもいかんからなぁ…。この中の誰かに任すわ」
ファミリアとしての体裁がある。都市最強ファミリアであるロキ・ファミリアが、極貧ファミリアであるヘスティア・ファミリアに全員で戦うのは、もはや苛めだ。
しかし、喧嘩を売られ何もしない訳にはいかない。
故にロキは、一対一の決闘を行う気でいた。
相手は全員で掛かってこい、と言っていたが、恩恵を貰ってない者に全員で挑む必要などない。
それでもこの中の誰かに任す事にしたのは、ロキの保険によるものだった。
下位の団員に相手を任すのも、大判狂わせがあるかも知れない。それだけは避けたかったからだ。
それでも、この中の誰かに相手をさせても、苛めと叩かれるかもしれないが、喧嘩を売ってきたのは向こうだ。それをどうこう言う権利などないだろう。
「俺がやる。雑魚の分際で意気がりやがって」
真っ先に返答したのはベートだった。
というより、他のメンバーも分かっていた。この場の中で、その役をやるのに相応しいのが誰かと。
彼は、身の程を弁えない雑魚が嫌いだ。他のメンバーを押し退け、ロキの前へと歩み出そうとした時。
「ーーー私がやる」
そのベートより早く、アイズがロキの前へと歩み出た。
「アイズ!?」
誰もが驚いた。ロキでさえ、まさかの人物の返答に目を見開く。
「ごめん、譲って」
横入りをしたことに謝罪し、後ろにいるベートに振り返る。謝られた本人も、思ってもいない事態に、声を返せない。
こんな結果の分かりきった戦いに、アイズが参加しようなど、誰が思うだろう。
だが、アイズの胸中は違う。あの酒場の時にアイズは一度見逃されている。
その事がどうしても悔しかったのだ。
しかし今は違う。ランクアップを果たし、今やLv.6となった。そして前回のような油断もない。
「……分かってると思うけどアイズたん、これは決闘や、下手な真似は駄目やで」
「分かってる」
主神であるロキの見定める瞳に対して、アイズはその瞳を見つめ返す。
そして、はぁ、とため息を吐いてから、静かに頷いた。
ーーー『
ーーーーーー
翌日のギルドは賑わっていた。否、都市全体が異様な熱気を醸し出していた。
それは、ギルドに貼り出された一枚の紙によるものだった。
【『ロキ・ファミリア』と『ヘスティア・ファミリア』による戦争遊戯。
対戦内容は『一対一の決闘』
『ロキ・ファミリア』からはアイズ・ヴァレンシュタイン。
『ヘスティア・ファミリア』は期日中に対戦者の名を提示するべし】
それはロキが朝一でギルドへと提出した紙だった。
本来であれば、相手側の神であるヘスティアとの合意で決めるのだが、これ以上の譲歩は出来ない。
元より仕掛けてきたのは向こうだ。今さらヘスティアの合意などあってないようなものだ。
それに、仕掛けてきた本人は何人でも構わないと言っていたのだ。それを譲歩してこちらは一人にしたのだ。
ただし、参戦させる眷族のLvまでは、向こうに合わせる気はないが。
戦争遊戯ーーー
……しかし今回のこれは決闘ではなく、苛めとしか捉えられなかった。
『ロキがやらかしたァー!!』
『すっげーイジメ』
『逆に見てみたい』
その紙は、初めはギルド内でしか貼られていなかったが、娯楽好きの神々により、既に都市全体へとばら蒔かれていた。
「僕はまだ許可していない!!」
何とかしようと、街を出歩いていたヘスティアは、舞う紙の一枚を掴み取り、それに目を通した。そして都市全域に響くほどの声を上げ、ギルドへと走っていった。
そして…。
「ほぅ…」
その人物もまた、違う場所においてその紙を手にしていた。
「くっくっ…」
手にした紙に目を通してーーー笑った。
「そうか、ここまで我をコケにするか」
片手で顔を覆い、空へと哄笑する。
……何人でこようと問題は無かったが、よもや一人とはな。
「どこまでもふざけた奴だと思ってはいたがな」
そして手にもつ紙を、グシャと握り潰した。
「良いだろうロキ。貴様の眼前で、この雑種を見るも無惨な姿に変えてやろう」
ーーー『英雄王』ギルガメッシュ、参戦。