ISU ~Infinite Stratos Unite~ 作:北斗七星
その叫びにクラス全員の視線が声の主に集まる。机に両手をつけた体勢のまま、声の主セシリアは口を開いた。
「そのような選出、断じて認められません! このセシリア・オルコットに男がクラス代表なんて屈辱を一年間も味わえというのですか!?」
(イチズ、彼女は自分の言っていることの意味を理解しているのか?)
(理解してたら、そもそもあんな態度で俺たちに接してこないだろうよ。理解云々以前にあの女の人間性の問題だ)
アホくさ、と一途は頬杖を突きながらセシリアの言葉を右から左へと受け流す。彼女の極東の猿やらサーカスやらという台詞は非常に耳障りだったが、聞く価値なしと思っていれば半分以上を聞き流せた。
(問題は一夏か)
ちらっと自分の前の席に座っている親友を見やる。セシリアの余りな言い分にカチンときているという顔をしていた。
「そもそも、文化としても後進的な国で暮らさなければいけないこと自体、わたくしには苦痛で」
「イギリスはどうなんだよ? 少なくとも料理に関しては明らかに後進、というより世界でど底辺じゃないか」
このまま
「あ、あ、あなた、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先の俺の祖国を馬鹿にしてきたのはそっちだろ!」
顔を真っ赤にさせるセシリアに一夏が言い返す。つい、反射的に口を開いてしまったようだが、一度言葉にしてしまった以上引くことは出来ない。
「止めとけ、一夏」
尚、口論を続けようとする二人を、というか一夏を止めたのは一途だった。
「何で止めるんだよ、イチズ! あんな好き勝手に言われて腹立たないのかよ!?」
「腹が立たないって言えば嘘になるけどさ、そういうこと言ってるんじゃねぇよ。俺が言いたいのは態々、相手と同じレベルにまで堕ちるなってこと」
喧嘩は同レベルの者同士の間でしか起こらない、という実に的を得た言葉もある。一途の発言を受け、セシリアは矛先を一夏から一途に変えた。
「聞き捨てなりませんわ。わたくしとその男が同じレベルだと仰るんですの!?」
「いや、一夏以下だろ。少なくとも、そいつは性別やら役職やらで人を見下したりはしないからな」
はっきりと一途は断言する。
「お前は典型的な誇り高く生きることと傲慢であることを履き違えてる大馬鹿だ。俺のダチはそんな奴じゃないんでね」
怒りの余り言葉もないのか、セシリアは白磁の肌を真っ赤にさせながら一途を睨んでいる。自分もこうやって言い返している辺り、人のことをとやかく言う資格はないと一途は自覚するが、放たれた矢は止まらない。言いたいことを全て言うことにした。
「誇り高く生きてる人は自然とそれが言動から分かるんだよ」
一瞬だけ一途は視線を教壇に立つ千冬へと移したが、誰に気づかれるよりも早くセシリアへと戻す。
「お前の場合……はっ」
最後まで言う必要もないと、一途はただ鼻で笑った。それがトリガーになったようで、小刻みに震えていたセシリアは両手を机に叩き付ける。
「決闘ですわ!! 篠ノ之博士の愛弟子だか何だか知りませんが、わたくしを侮辱したことを地獄の底で後悔させて差し上げますわ!」
「いいぜ。そっちのほうが分かりやすい」
『おい、落ち着け一夏。何で受けたイチズ本人じゃなくて君が了承するんだ?』
エックスの至極当然な疑問に答えを返す者はいなかった。
「気にすんな、エックス。昔から俺たちはこんな感じだ」
小学生のころの喧嘩の時がそうだ。何故か一途がいちゃもんをつけられていた筈なのに、気が付けば一夏が割って入ってきて殴り合いの喧嘩になる。いつもそんな感じだった。
「で、ハンデはどうする?」
「あら、早速お願いかしら?」
懐かしい、と郷愁に耽る一途を置いて話は進んでいく。
「いや、俺たちがどれくらいつければいいのかと思って」
一夏のその言葉にクラスが爆笑に包まれた。
「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」
「男の人が女よりも強かったのなんて昔のことだよ」
「いくら織斑くんたちがISを使えるからってそれは言い過ぎよ」
極端な話、この反応が今の世界の現状を表していた。既存の兵器全てを凌駕する戦闘能力を有したIS。そしてISを使える可能性を秘めている女性と二人の特例を除いて誰も使えない男性。女が男よりも強いという結論になるのは当然の帰結なのかもしれない。
「……違う」
女子たちの笑い声が今だに収まらない中、一途は誰に聞かせるでもなく静かに囁いた。あの人は、篠ノ之束は女を男よりも優位にするなんて下らない目的のためにISを創った訳ではない。そう、声を大にして叫びたかった。
『落ち着け、イチズ。今、ここで君が喚いても世界は変わらない』
「分かってる」
今は目の前の問題を片付けるのが先だ。
「織斑先生」
今まで黙っていた一途が手を上げる。クラスが静まり返る中、千冬は頷いて一途に発言の許可を出した。
「俺はどれくらいのハンデをつければいいでしょうか?」
その問いにクラス中が疑問の声を上げる。何を考えているんだ、と全員が一途を見ていた。再び笑いが起きそうになる。だが、実際には起こらなかった。
「ふむ。確かに量産機を使うならともかく、お前がエックスで戦うとなればある程度のハンデは必要だな」
千冬がこう言ったからだ。かつて、世界最強の名を手にした女傑がハンデが必要だと。それがどのようなことを意味するのか、この学園に通う者なら理解できるだろう。
「必要ありませんわ」
千冬が口を開くよりも早く、酷く冷淡な口調でセシリアが言った。怒りが一周回って冷静になったのか、その表情は無機質なものになっている。
「ハンデなど不要です。織斑先生もそのような戯言を真剣に受け止めないでいただきたいですわ」
「……と、本人が言ってる。ハンデは特に必要はないだろう」
「十星一途」
了解です、と頷いた一途の背にセシリアの声がかけられる。正直言えば無視を決め込みたいところだが、最低限の礼儀として一途は渋々セシリアに向き直った。
「何だよ?」
「あなた、篠ノ之博士の愛弟子とか言われて調子に乗りすぎですわ。ですので、わたくしが現実というものを教えて差し上げます。覆すことの出来ない実力差というものを」
「……そりゃご親切にどうも」
「これで話は終わりだ。勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、十星、オルコットの三名はそれぞれ準備を怠らないように。以上」
パン、と千冬は手を叩いて話を締め括り、本来の授業を始める。背中に刺々しい怒りの視線が突き刺さるのを感じながら一途はノートを開いた。
「一夏、大丈夫か?」
「……」
『見るからに大丈夫ではないな』
放課後。頭だけじゃなく、口や鼻、耳から煙を吹きだしながら一夏は完全にノックアウトしていた。ISに関わる膨大な知識を脳が処理しきれなかったようだ。
「うぅ、マジで意味分かんねぇ。何でこんな複雑なんだよ……」
「初日にそんな弱音を吐くなよ。授業だってこれからどんどん難しくなってくんだぞ?」
『完全なゼロからのスタートだ、致し方あるまい。辞書などあれば話も少しは変わってくるのだろうが、そんな気の利いたものは無いからな』
知識も無い上、自分を取り巻く環境も最悪ときている。自分と一途に好奇の視線を向けながらきゃいきゃい騒ぐ女子たちに一夏はただただ絶望した。
「勘弁してくれ。俺たちは上野○物園のパンダじゃないんだぞ……」
物珍しいという意味ではそんなに大差ないだろう。放課後は勿論、昼休みもこんな感じなのだから堪ったものではない。一定の距離を保って見てくる女子たちのお蔭で二人はろくに昼食も味わえないでいた。
『何というか、獲物が弱るのを待っているハンターといった感じだな』
隙を見せれば襲われそうだ、というエックスの冗談に二人は笑う気力もなかった。
「イチズ、エックス。二人が俺の最後の希望だ……」
「どこの魔法使いだ。まぁ、確かに同性の友人が二人でもいるだけマシだな」
一人きりではとても耐えきれないだろう。完全な余談だが、エックスの性別は男性ということになっていた。
「あ、織斑くんに十星くん。良かった、まだ教室にいたんですね」
呼び声に二人が振り返ると、副担任の山田真耶が書類を片手に立っていた。童顔と巨乳がアンバランスな印象を与える女性だ。
「二人の寮の部屋が決まりました」
そう言って真耶は二人にキーを差し出す。一つは部屋番号が書かれたプレートのついたもの、もう一つには物置部屋と書かれていた。
ここ、IS学園は全寮制であり、全ての生徒が寮で生活を送ることが義務付けられている。将来有望なIS操縦者を保護するというのが主な目的のようだ。それは当然、男子二人にも当てはまる。もっとも二人の場合、保護と同時に監視の意味もあるのだろうが。
「俺の部屋って決まってなかったんじゃないですか? 前に聞いた話だと一週間は自宅から通うってことになってたと思うんですけど。イチズはどうなんだ?」
「俺は最初から寮に住むってことで話は決まってたぜ……ま、色々とあるんだろ」
その背景には日本政府の特命があったりするのだが、特に語るべきことでもないので割愛する。二人に用意された部屋は二つ。一つは相部屋、もう一つは物置を急遽一人部屋に改築した部屋だ。
「そういう訳で、二人にはどちらの部屋にするか決めて欲しいんですけど」
顔を見合わせる一の字コンビ。女子との相部屋か、元物置の一人部屋か。どちらを選ぶかなんて決まっている。
「一夏、恨みっこなしだぞ」
「分かってる」
両者、気合いの入った顔で対面する。え、え? と雰囲気の変わった二人に戸惑う真耶を他所に睨み合うこと数秒、、
「「最初はグー、じゃんけんポイ!」」
それぞれ出される手。一夏はチョキ、対する一途はグーだった。
「イエス!!」
そのままグーを突き上げてガッツポーズを作る一途。それとは対照的に一夏は無言で床に両手両膝をついて絶望していた。
「えっと、じゃあ十星くんが一人部屋で、織斑くんが相部屋でいいですか?」
はい、と実に清々しい笑顔で一途はカギを受け取る。一夏は不満の表情を浮かべていたが、やっぱり部屋を変えてくれなんて見苦しいことは言わなかった。
「ところで山田先生、部屋は分かりましたけど、荷物は一度家に帰ってからじゃないと準備出来ないですし、今日はもう帰ってもいいですか? それとイチズ、悪いんだけど荷物を運ぶの手伝って」
「その必要はないぞ、織斑。既にお前の荷物は運んである。十星、お前もな」
降臨する鬼教師、もとい千冬。威圧感を滲み出す姉の登場に一夏は盛大に顔を引き攣らせながら、一途は普通に礼を言った。
「まぁ、生活必需品だけだがな。着替えと携帯の充電器があれば十分だろう」
何とも質素だ。
「じゃあ、二人とも。時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時の間に寮の一年生用食堂で取ってください。各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学園ごとに使える時間帯は違いますけど……えっと、今のところ織斑くんと十星くんは使えません」
「え、なんでもが」
「分かりました」
何でですか、と問おうとする一夏の口を塞ぎながら一途は答えた。
「もがが、何すんだよイチズ」
「よく考えろ、一夏。今の今まで寮には女子しかいなかったんだぞ。そこにポッと出の男子二人が現れてだ、俺たち大浴場使うから君ら我慢してね、なんて女子が納得出来る訳ないだろ」
特に今時の女は男のために我慢するなんて絶対に納得しないだろう。詰まる所、二人は学園側が大浴場を使える時間帯を指定してくれない限り、大浴場を利用できないということだ。
「そういうことだ。可能な限り、早く使えるようにする。だから、今はシャワーだけで我慢しろ」
『そのことなのだが、一つ聞いていいだろうか織斑教諭』
「何だ?」
『先ほど、山田教諭が各部屋にシャワーがあると言っていたが、これからイチズの住む部屋は元物置なのだろう。シャワーなどあるのか?』
「あぁ、それ俺も聞きたいです」
大浴場が使えないのはまだいい。だが、流石にシャワーまで我慢しろというのは許容できない。というか、人として越えてはならないラインを越えてしまう。
「基本的には個室が用意されるまで教員用のシャワーを使ってもらう。多少、移動に不便するだろうが、我慢しろ」
最悪、それが面倒なら一夏の部屋に行ってシャワーを借りればいいだろう。勿論、同居人の許可を取らなければならないだろうが。
「では、私たちはこれから会議があるのでこれで。二人とも、道草食っちゃ駄目ですからね」
最後に教師らしいことを言い残し、真耶は千冬と一緒に教室から出ていった。その後姿を見送りながら一夏は呟く。
「校舎から寮まで五十メートルくらいしかないのにどう道草を食えと?」
「ま、アリーナとかIS整備室に開発室、それに部活動とか色々あんだろ」
いずれは歩いて回ってどこがどこにあるのか把握する必要があるのだろうが、それは後日に後回しにする。とにかく今、二人は周りの女子の視線から逃れたかった。
「行くか、一夏」
「おう。後で遊びに行くから部屋の場所教えてくれよ」
遊びに行く、という言葉に女子の一部が騒めき出す。二人は無言で、だが速足に教室から出ていった。
「ここか」
部屋を確認し、鍵を開けて中に入る。元物置ということもあり、一途の頭の中では多少ゴミゴミとした部屋を予想していたのだが、それはいい方向に裏切られることになる。
『ほぉ、中々綺麗だな。とても元物置とは思えない』
だな、と相槌を打ちながら一途はドアを閉めた。部屋の中にはシングルベットや勉強机など、学生生活に必要な家具が最低限揃えられていた。室内は掃除が行き届いており、とてもこの前まで物置だったのが信じられないくらいだった。
「広さも十分、ってか、一人だと広すぎるくらいだな」
鞄を勉強机の上に置き、一途はベットに腰を下ろす。ふわふわとした感触が心地よかった。
「色々疲れたな……主にオルコットのせいで」
左手首の腕時計を外し、ベット脇にあるサイドテーブルに倒れないように置く。そのままベットに仰向けに倒れ、大きく息を吐き出した。
『イチズ。セシリア・オルコットとの試合だがどうする?』
「どうもこうもねぇよ。国家代表ならともかく、候補生程度、お前と俺なら何の問題もないだろ」
一途とエックスに問題はない。問題があるとすれば、
『一夏か』
「あぁ。授業に必要な知識もそうだけど、ISの動かし方もちゃんと教えてやらないと……一週間でどこまでやってやれるか」
頭の中で一夏育成計画(一週間ver)を練っていた一途の表情がふと翳る。頭の中では二時間目の授業に千冬が言った言葉がリピートされていた。
『ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに使えば必ず深刻な事故に繋がる』
「やっぱ、IS=兵器ってのが世界の共通認識なんだな……」
頭の中では仕方のないことだと分かっている。ISはそれだけ、今までの価値を覆す戦闘力を秘めていた。だが、それはISのほんの一部でしかない。ISは一途の心から敬愛する彼女が宇宙を求めて創ったものだ。断じて、ただの兵器などではない。
『焦りは禁物だ、イチズ。世界は今、ISの一面を見ているに過ぎない。いずれ、その本質を理解する時が必ず来る。その時のための君と私だ』
ISはまだ幼い、黎明期を迎えたばかりだ。例え今は兵器として使われているとしても、そう遠くない未来に本来の役割を取り戻すはずだ。そしてその時こそ、一途とエックスの出番だ。
そうだな、と頷き一途は上体を起こし、左手の拳を右の掌に軽く打ち付けた。
「今は目の前のことを一つずつやっていこう。エックス、一夏の訓練や勉強なんだが、どうすればいいと思う?」
『そうだな。まず、何よりも先にISに触れてもらうのが先だろう。知識や訓練といった話はそれから……』
人と腕時計が会話をする非常にシュールな光景。その光景に
戦闘シーンは次の次くらいに書けるといいなぁ……非ログインユーザーでも感想書けますのでお気軽にどうぞ……作者のハートを壊さない程度にお願いします。