ISU ~Infinite Stratos Unite~ 作:北斗七星
「よっ、お早うさん。二人とも」
『お早う。今日も一日頑張っていこう』
「お早うさん、イチズ、エックス。つか、朝から爽やかすぎだろ、エックス……」
「……あぁ、お早う」
翌日の朝。一途は食堂で一夏と箒のコンビに遭遇し、そのまま一緒に朝食を食べることになった。まだどこかぎこちないものを感じるが、二人の様子を見る限り昨日の遺恨は残ってないようだ。
昨晩、一夏に失礼なことをされたと言って竹刀片手に持った箒が部屋に飛び込んできた時は流石の一途も肝を冷やした。(ちなみにエックスも同じ感想を抱いていた)その後、鼻息を荒くしていた箒をどうにか一途とエックスが説得し、一夏への矛を収めさせたのだ。
(しかし私には分からない。イチズ。何故、彼女は好いた相手である一夏にあんな何の躊躇もなく暴力を振るえるんだ? しかも竹刀って……殺傷能力高すぎだろう)
(このくらいの年の女の子はな、色々とあるんだよ。色々な)
思春期の女子とは摩訶不思議だな、とエックスは一人考え込んでいた。そうこうしている内に三人はそれぞれの朝食を持って空いてる席に座る。メニューは三人とも古き良き和食セットだった。
「んで、どうだよ一夏。IS学園に来て一日経ったわけだが、少しは慣れたか?」
「慣れる訳ないだろ。そういうお前はどうなんだよ?」
一夏の返しに一途は苦笑しながら肩を竦める。それが答えだった。こんな環境に一日で適応できる者がいたとすれば、その人はきっと宇宙空間ですら余裕で生きていけるだろう。
慣れない、という点で見れば一途と一夏にとってIS学園は宇宙空間と同じだった。何せ上下左右前後ろ、全てが女子。この状況に慣れるにはそれなりの時間が必要だろう。現に今も女子たちが遠巻きに視線を送って二人の精神を削っていた。
「まぁ、俺にはエックスがいるし、お前には箒がいる。頼れる相手がいるってのは心強いもんだ」
「確かに、相部屋の相手が箒で良かったよ。(他の女子と比べて)一緒にいて安心できるしな」
「そ、そうか……そうなのか」
一夏の発言に箒は最初は驚き気味に、最終的には嬉しそうに頷く。こういった女の子が嫌でも意識してしまう台詞をさらっと言えるのは流石と言えた。
(イチズ、彼に今の発言に対しての自覚はあるのか?)
(あったら本人の横であんなのほほんとした顔してられるわけないだろ……大変だなぁ、箒も)
内心で嘆息しながら一途は箒に同情するも、顔に出さずに朝食を続ける。そのまま三人は箸を動かしながらお互い離れ離れになっていた時のことを話していた。彼らの周りで相席のチャンスを窺っていた女子たちもその空気の中に押し入るほど面の皮が厚くなかったのか、食べ終わるまで三人は誰かに声をかけられることは無かった。
「ご馳走様でした、と。早く食器片付けて教室行こうぜ。遅刻したら千冬姉に何されるか分からないしな」
「それに関しちゃ同感だが、本人の前で言うなよ」
「それくらい分かってるって」
大丈夫大丈夫、と全く信用出来ない笑顔で一夏はトレーを持って返却口へと向かった。一夏の後を追うように箒が立とうとするが、それより早く一途が声をかけた。
「どうした、イチズ。早くしないと授業が始まるぞ」
「そりゃ分かってるけど、言わせてくれ。詳しい話は聞いてないから昨日何があったか知らないけどよ、暴力は駄目だろ」
自覚はあるのか、一途の諫めに箒はぐっと言葉を詰まらせる。
「し、仕方ないではないか。元はと言えば、あんなデリカシーのないことを言う一夏が」
『例えどんなに神経を逆撫でするようなことを言われようと、竹刀で殴るのはやり過ぎだ。下手をすれば死んでしまうぞ』
エックスの正論にぐぅの音も出なかった。その上、箒の一夏に対する態度はどこかつっけんどんなものだった。その事を指摘すると、ふいと箒はそっぽを向いてしまう。
「一夏が女の子に囲まれてムカムカするってのはまぁ仕方ねぇよ? でも、それを態度に出すのはまずいだろ。ただでさえ環境が激変してストレス溜まってるのに、同室のお前にそんな態度取られてたらあいつの気が休まらないって。そう遠くない内にぶっ倒れるぞ」
「分かってる。分かってはいるんだが、一夏があぁやって私以外の女と喋ってるのを見ると、どうしても心穏やかではいられないんだ」
箒が視線を送る先、一人になった一夏に女子たちが群がっていた。確かに想い人が自分以外の女に囲まれている光景を前に明鏡止水の心持ちでいろというのが無理な話だ。箒の言葉に納得してしまい、何も言えないでいる一途に代わってエックスが口を開く。
『箒。君は彼女たちのように好奇心や興味本位で一夏を気にしている訳ではないだろう。君は一夏のことが好きだから、彼のことを気にしている。そうだろ?』
エックスの余りにストレートな言い方に箒は顔を赤くさせるが、否定することなく頷く。
『なら、その好意をしっかりと持ち続けるんだ。そうやって一夏を傍らで支え続ければ、その想いは自ずと彼に伝わる』
「そ、そうか、そうなのか? そうかもしれない。いや、きっとそうだな」
半ば自分に言い聞かせるように呟きながら箒は立ち上がる。エックスのアドバイスが功を奏したのか、決然とした表情を浮かべていた。しかし、その顔が続いたのも数秒だけ。すぐに暗澹たる表情になってしまった。
「確かにお前の言う通りかもしれない、エックス……だがな、相手はあの一夏なんだ……」
相手はあの一夏なんだ。彼の人となり知ってるだけに、この一言が有する一途と箒への説得力は絶大だった。
「まぁ、何だ。ただの幼馴染から気になる異性くらいにはランクアップ出来るだろ……多分」
絶対とはどうしても言い切れなかった。二人でため息を吐くと、いつの間にか食堂の入り口に立っていた千冬がパンパンと鋭く手を叩いていた。
「何時まで食べている、時間を無駄にするな! 遅刻してきた者にはグラウンドを十周させるぞ!」
そりゃ勘弁、と喋る事に口を動かしていた女子たちが急いで朝食を掻き込み始める。
「イチズ、箒。早く行こうぜ」
今行く、と一夏に返事をして二人はトレーを片付けるべく立ち上がった。
「少し、一夏への態度を改めてみる。その、ありがとう。イチズ、エックス」
気にすんな、と一途は軽く手を振った。幼馴染の二人には幸せになってもらいたい。それは紛れもなく一途の本心なのだから。
二時間目、ISの基礎知識の授業。一夏はどうにかこうにか真耶の授業についていけていた。それこれも全部、エックスのサポートあってのことだった。現在、本来の居場所である一途の手にエックスはなく、一夏の左手首に巻かれている。
「今、エックスのサポートが必要なのは俺じゃなくてお前だからな」
と一途は快くエックスを貸してくれた。エックスも可能な限り一夏に分かるように授業の解説をしてくれている。親友の友情とその相棒の温情に一夏は感涙を流して感謝した。
「という訳で、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアで保護しています。また、生体機能を補佐する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態に保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗、脳内エンドルフィンなどがあげられ」
「あの、先生。それって大丈夫なんですか? なんか、体の中をいじくられているみたいで怖いんですけど……」
女子の一人が不安げな顔を浮かべていた。それに対し、真耶は張り切って笑顔で答える。
「そんなに難しく考える必要はありませんよ。分かり易い例を挙げると、皆さんブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそしてますけど、それで人体に悪影響が出るということはありません。勿論、自分にあったサイズのものを使わないと……」
そこまで言って真耶は男子二人の存在を思い出す。何のこっちゃ分からない、と言いたげな顔の二人と目が合い、真耶は顔をぼっと赤くさせた。
「そ、そうですよね。織斑くんと十星くんは男の子ですし、この例えは分かりませんよね。あはは……」
((分かってたまるか))
二人の心が完全に一致した瞬間だった。その後、教室内が何とも言えない微妙な空気に包まれるが、千冬の咳払いで浮ついた空気は払拭され授業が続けられる。
「それともう一つ大切なのはISにも意識のようなものがあり、操縦者との対話、つまり一緒に過ごした時間で互いを理解するというか、操縦時間に比例してISは操縦者側を理解しようとします。互いを深く理解し合うことでより性能を引き出せるという訳です。皆さんもISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」
(ほう、中々良いことを仰るな、山田教諭は)
(そうなのか?)
授業を中断させない程度の声で一夏はエックスと会話する。
(あぁ。私とイチズがいい例だ)
(ん? それってどういう)
意味と聞く前に授業終了のチャイムが鳴った。
「あっ、次の授業では空中でのISの基本制動をやりますからね」
そう言って、真耶は千冬と一緒に次の授業の準備をするため教室から出ていった。エックスに聞きそびれて何とも言えない顔をしている一夏に一途が歩み寄っていく。
「どうだ、一夏。授業にはついていけそうか?」
『あくまで私の見立てだが、問題はないと思うぞ。一夏は飲み込みがかなり早いからな』
「二人のお蔭でどうにかやってけそうだ。ところでイチズ、聞きたいことが」
「ねぇ、織斑くんに十星くーん」
「質問しつもーん」
「今日のお昼暇? 放課後暇? 夜は暇?」
何とも間の悪い女子たちの質問。二人への様子見は昨日で終わったようだ。あっちからこっちから質問を飛ばされて喧しいことこの上ない。
「あの、そんなに一度に喋られても」
「俺たちは聖徳太子じゃないんだ。質問するなら一人ずつ頼む」
じゃあ、私からと一人の女子が手を上げる。
「千冬お姉様って家じゃどんな感じなの!?」
「え? 以外と」
妙に目を血走らせた女子の迫力に押されて思わず答えようとした一夏の脇腹を一途が小突いた。何だよ、と目線だけで訊ねると、一途は親指で後ろを指し示した。途端、背後から感じられる圧倒的なプレッシャーに一夏は全身に鳥肌を立てる。
「休み時間は終わりだ。散れ」
そこには案の定、千冬の姿があった。二人の周りに群がっていた女子たちが蜘蛛の子を散らすように席に戻る中、千冬は一途に声をかける。
「あぁ、織斑。お前のISだが、準備に時間がかかる」
「はい?」
「予備機がない。学園で専用機を用意するから少し待っていろ」
「専用機って……」
よく分からずに首を傾げる一夏を正反対に女子たちが騒めき出す。
「専用機? 一年のこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出るってことで……」
「いいなぁ。私も早く専用機欲しい……」
意味が分からずにきょとんとしている一夏を見かね、千冬は教科書を開くよう指示する。
「六ページだ。音読しろ」
「は、はい。えっと……」
その内容を要約するとこんな感じだ。
・ISは世界に467機しか存在しない。
・コアは束にしか作れず、そして束はコアを作っていない。
・コアは一定数、国家、企業、組織、機関に割り振られている。
・コアの取引、ダメ、絶対。
・専用機は国家、企業に所属している人にしか与えられない。
ということになる。一夏の場合、状況が余りにも特殊すぎるため、データ収集という名目で専用機が与えられることになった。
「そっか……ん、ちょっと待ってくれ、ちふ」
バシン!
「……一つ質問していいでしょうか、織斑先生」
「許可する」
「俺のことは分かりましたけど、イチズはどうなるんです? あいつも俺みたいに専用機が用意されるんですか?」
そのことは皆も気になっているらしく、視線が一途へと集まる。一夏の問いに対して千冬は何でもないことのように答えた。
「十星は既に専用機を持っている。
エックスへと集まる視線。束の間の沈黙、
「「「「「えぇ~っ!!!???」」」」」
そして静寂を破る驚きの叫び声。
「十星は織斑以上の例外だ。エックスは458体目のISだからな」
「458体目!? で、でも、教科書には457だけって」
「そんなもの、
そんな言い分通るのか、と聞かれれば通っちゃったんだから仕方ない、としか言いようがない。束の関係者から専用機を取り上げるなんて無謀をやる勇気を持った国はなかった。ちなみにIS学園入学の際、ほとんどの国や企業が絶賛全世界指名手配中である束の居場所を一途から聞き出そうとしたが、
「俺があの人を売る訳ないだろ」
と一蹴されていた。力尽くで聞き出す、という選択肢は束を敵に回すという結果がある以上、誰も最初から選ばなかった。
「そういう訳だ。十星に関してはそういうものだと思っておけ。あれが関わってる以上、考えるだけ無駄だ」
その後、苗字が同じということで箒が束の妹だということが分かってしまった。そうなれば好奇心旺盛な女子たちが話を聞こうと集まってくる。
「あの人は関係ない!」
と、箒は自分の周りに群がってきた女子たちに怒声を浴びせていた。
「……いきなり大声を出して済まない。でも、私はあの人じゃない。だから、教えられることは何もないんだ」
それだけ言って、箒は窓の外に顔を向けて言外に話す気はないと語った。押し黙った箒に一途は静かに息を吐く。
「……溝はそう簡単に埋まらないか」
次の授業の休み時間、ちょっかいをかけてきたセシリアを振り切り、一夏は一途と箒を連れて人気のない場所までやって来た。
「二人に頼みがあるんだ」
『セシリア・オルコットとの試合のことだな?』
エックスの言葉に頷く一夏。
「俺はISのことを全く知らない。だから、今のままだとあいつと勝負にならない。だから、俺にISの動かし方とか、色々教えてくれ」
頼む! と一夏は顔の前で両手を合わせながら二人に頭を下げた。
「別に俺は構わないぜ。元々、そっちの方も教える気だったしな。箒、お前はどうする?」
一途の視線を受け、箒は無言で腕組みする。暫し、沈黙を貫いていたが、ゆっくりと口を開いた。
「下らない挑発に乗った貴様の自業自得だ……と言いたいところだが、あの女の言い方は確かに腹が立つものだった。いいだろう、手伝ってやる」
「イチズ、箒……ありがとう!」
一夏は両手で二人の手をそれぞれ握り、感謝の意を伝える。顔を真っ赤にする箒とは対照的に一途はおいおい、と言いたげだった。
『では、今日の放課後から特訓開始だな。場所はどうする?』
「一夏、まずは剣道場に来い。腕が鈍ってないか確かめてやる」
「え? いや、俺が教えて欲しいのはISの動かしか」
行っとけ一夏、と一途も箒の案を推す。
「ISの動かし方って言っても、結局動かすのは人だ。生身の時の動きがISの機動に直結すると言っても過言じゃない。だから、今の内に自分がどれだけ動けるかをチェックしておいたほうがいい」
そっか、と納得する一夏。何で私じゃなくて一途の言葉に納得するんだ、と言いたげな目で箒が一夏を睨んでいたが、本人に気づく様子はない。
「俺とエックスは少し情報を集めてくる。剣道場には遅れて行くから、先に始めててくれ」
こうして、一夏強化計画が動き出そうとしていた。
「剣道場って確かこの先だよな?」
『あぁ、地図を見た限りこっちのはずだ』
放課後、目的の情報を集め終えた一途は剣道場へと向かっていた。ちゃんと地図を見たので、特に迷うこともなく剣道場へとたどり着く。予想通りと言うべきか、そこにはギャラリーの山が出来ていた。
「人気者だな、あいつも」
『君もだろ?』
道中、クラス学年問わず女子に話しかけられ、若干疲れていた一途は何も言わずにギャラリーを掻き分けて剣道場に入っていった。
「悪い、遅くなった……って、何やってんだお前ら?」
試合をしているかと思えば、防具を外した箒が床に座り込んでいる一夏に滅茶苦茶怒っているという光景に思わず一途は眉を顰めた。
「イチズか。この軟弱者が弱くなりすぎていてな。驚いたことに中学校三年間ずっと帰宅部だったそうだ」
「帰宅部? あぁ、バイトして家計の足しにしてたのか」
何? と驚きの表情を作る箒を尻目に一途は一夏を助け起こした。
「ま、弱くなってるなら今から強くなればいいだけの話だ。アリーナと練習機の使用許可を貰ってきた。今日は無理だが、明日からはそっちで練習しよう」
「待ってくれ、イチズ。今の一夏はIS以前の問題で」
「だからってISに全く触れないってのも駄目だろ。剣道だけじゃ飛ぶ感覚を覚えられないからな」
それはそうだが、と箒は不満げだった。
『心配するな、箒。君にもちゃんと活躍したもらうつもりだ。一夏、明日から君が使う練習機『
「分かった、ありがとう。ところでイチズ。情報集めてくるって言ってたけど、何の情報集めてたんだ?」
「セシリア・オルコットとその専用機のデータ。それとお前の専用機についてちょっとな」
「分かったのか?」
千冬と真耶に聞いてみたところ、簡単な情報ならとセシリアの専用機について教えてくれた。ついでに一夏の専用機のことも聞いてみたのだが……。
「で、どんな感じのISだった?」
ワクワクしながら訊ねる一夏。その子供のような雰囲気に一途は答え辛そうに頭を掻いていた。
「コンセプトとしてはだな……高速で動く近距離特化型というか……というか近距離戦しか出来ない」
だって武器、刀一本だけだから。
「「……マジで?」」
信じられないと顔に浮かべる二人に一途は頷くことしか出来なかった。あの機体、どっからどう考えても素人に与える代物ではない。余りにも性能がピーキー過ぎる。正直言って、一途は一夏にこの専用機を用意した者にどういうつもりなのか胸倉を掴んで問い質したかった。
『ちなみにセシリア・オルコットの専用機、
「……勝てるのか、それ?」
「やるしかないだろ……」
絶望的としか表現のしようのない空気の中、特訓は始まった。
早いもので既に一週間が経過し、決闘の当日と相成った。この一週間、やれるだけの特訓はやったと三人は自負していた。後は自分と仲間を信じて力を出し切るだけ。問題などなかった……ある一点を除いて。
「来ないな」
「来ないな」
「あぁ、来てないな」
『何度確認しても来てないな』
「「「『一夏(俺)の専用機』」」」
そう、試合直前になってもまだ一夏の専用機が届いてないのだ。第三アリーナ・Aピット。何度見ても、一夏の専用機は影も形も無かった。
「こりゃ俺とオルコットの試合が最初かな」
「そうなるな」
と、現れたのは千冬と真耶の担任二人組だった。今回の試合、一途、一夏、セシリアの総当たり戦ということになっている。既にセシリアは準備を終えているらしく、ステージで試合開始を待っていた。
「これ以上、時間を無駄にするわけにもいかない。織斑の専用機もお前とオルコットとの試合中に届くだろう」
「だといいんですが……じゃ、行くか、エックス」
『あぁ』
立ち上がる一途。その左手首に巻かれた腕時計が淡い光を放つ。
「イチズ」
ピット・ゲートへと歩いていく一途を千冬が呼び止めた。振り返る一途に千冬は授業中では絶対に見せないような悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「あの小娘、少々鼻が伸びすぎている。適当にへし折ってやれ」
「……教師がそんなこと言っていいんですか?」
「何、どん底から這い上がる生徒を見守り、助けるのも教師の仕事だ」
さいでっか、と肩を竦め、一途は一夏と箒に手を一振りして歩いていく。緊張もない、絶望もない。開いていくゲートを前に一途は立ち止まり、大きく息を吐いた。
「エックス、ユナイトだ」
『あぁ、行くぞ!』
握り締めた左の拳を右の掌に強く打ち付ける。目も眩むほどの光がピット・ゲート内を照らした。
「エックスーーーッ!!!」
力強い叫びと共に左拳を天に向けて突き上げる。
突然の出来事にステージが静まり返る中、それはゆっくりと立ち上がった。全身を覆う、赤、銀、灰色のカラーリングのメタリックな装甲。胸元で光る金色に縁取られたX字状のコア。シュッとした外観は見る者にスタイリッシュという感想を抱かせた。
エックス。それがそのISの名だ。
エックスのイメージですが、感想でもありましたようにULTRAMAN(漫画)のスーツをエックスにしたものを連想してください。